魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

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どうもです

また、時間を見つけては書いていたら完成しましたので投稿させていただきます

それではお楽しみください

2020/04/07:修正しました。


真夏の霜焼け、真冬の熱中症

 新入部員勧誘週間も終わり、第一高校の学生たちは学生の本分に勤しんでいた。

 授業が一通り終わった放課後、達也は帰りの支度をしていた。

 

「達也、今日も委員会か?」

 

 達也と同じように帰りの支度をしていたレオが尋ねる。

 

「いや、今日は非番。ようやくゆっくりできそうだ」

 

「大活躍だったもんなぁ」

 

 笑いを堪えるレオに対し、達也は溜息をついた。

 

「少しもうれしくないな」

 

「今じゃ、有名人だぜ。魔法を使わず、並み居るレギュラーを連覇した謎の一年生、ってな」

 

「『謎の』って何だよ」

 

「一説によると、達也君は魔法否定派に送り込まれた刺客らしいよ」

 

 既に帰り支度を済ませたエリカが話に交ざってきた。

 

「『あいつ』みたいに変な噂が流れてほしくないな……」

 

 エリカの話を聞いて、達也はある人物を思い浮かべる。

 

「あいつって、誰のことだ?」

 

「バカね、決まってるでしょ」

 

 達也の言葉を理解したエリカは首を傾げるレオの反応に呆れていた。

 

「ああ、なるほど、『あいつ』のことか」

 

 達也以上に有名で話題性に富んだ人物がいることを思い出したレオは納得した顔をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

「へっくしゅんっ!」

 

「どうした、風邪でも引いたか?」

 

 突然くしゃみをする禅十郎に摩利は驚いた。

 

「まさか。俺は生まれて一度も風邪なんざ引いたことありませんよ」

 

「どうしたらそんな体になるんだ」

 

 自信満々に言う禅十郎に呆れる摩利。

 

「さぁ? 肉体のスペックが違うんじゃないんですか?」

 

「馬鹿は風邪をひかないと言うが」

 

「それ、俺には当てはまらないですねぇ」

 

「……」

 

「何ですか、その反応は?」

 

 どの口が言うんだ、と摩利の顔が語っており、禅十郎は怪訝な顔をする。

 

「いや、何でもない」

 

「それより、さっさと呼び出した用件を教えてもらえませんか? 俺も暇じゃないんで」

 

「残念ながら呼んだ本人が来ないんじゃ、どうしようもない」

 

「それはそうなんですけどねぇ」

 

 因みに、禅十郎と摩利は現在、風紀委員会本部で自分達を呼び出した真由美を待っていた。

 二人とも今日は非番で本来ならここにはいないのであるが、真由美からの呼び出しの為にここに来ているのである。

 

「二人とも、遅くなってごめんなさい」

 

 それから数分後、ようやく真由美がやってきた。

 生徒会の仕事が区切りの良い所で終わらなかった為に遅れたそうである。

 さっそく本題に入る前に、真由美は二人にある資料を端末で転送した。

 内容は新入部員勧誘週間の初日にあった剣術部と剣道部の諍いにおける部活連からの報告書である。

 禅十郎もこの事件については知っていたが、特に気にしていなかった。剣道部が関わっているとはいえ、喧嘩を吹っかけてきたのは剣術部の方だったからである。

 しかし、報告書に目を通していると禅十郎はあることに気付く。

 

「剣道部の壬生先輩の剣技が変質していたから喧嘩を売った……?」

 

 それはこの諍いを引き起こした剣術部の二年、桐原武明の口述である。

 

「禅君ならそこに気付くと思ったわ」

 

 摩利も禅十郎と同じ所に興味を示していた。

 

「剣道部の壬生先輩って、もしかして、中学時代に『剣道小町』って呼ばれてた壬生紗耶香先輩のことですか?」

 

 剣道部については篝家が一通り調べているが、確認の為に一応聞いてみた。

 

「その壬生だ。剣道の腕なら私では相手にならないほどの実力者だな」

 

「へぇ」

 

 これには素直に驚いた。第一高校では対人戦闘に右に出る者はいないと言われるほどの実力者である摩利が絶賛するのだ。驚かない方が無理な話である。

 話が若干脱線するが、真由美がその件について詳しく話した。

 

「なるほど、剣道の使い手が人斬りの技、実戦用の技を使っていたことが気になると」

 

「そう。でも私じゃよく分からないから二人に相談したかったの」

 

「真由美の言う通りだな。これに関しては、武術をやっていない者には分からん」

 

 禅十郎も同じ考えだ。餅は餅屋にという判断は間違っていない。

 

「で、剣道部の誰かが壬生先輩の剣技を汚染した可能性があるか調べろってことですか?」

 

「そこまでする必要はないけど」

 

「一度は壬生先輩の剣技を見るために剣道部に行く必要があると思いますけどね。それに『例の件』とも無関係ではないかもしれませんし」

 

 禅十郎の言葉に真由美と摩利はギョッとした。彼が自分からブランシュに関することを語り出したのであるから、そう反応するのは当然であった。

 

「禅君、どういうことなの?」

 

 一端落ち着いて真由美は尋ねる。

 禅十郎が頷くと真由美は遮音障壁を展開し、上に会話が聞こえないように配慮してくれた。

 

「これは俺の予想になりますが、それでも良いですか?」

 

「構わない。続けてくれ」

 

 摩利は続きを話すよう促した。

 

「ブランシュは主に本校の二科生に手を伸ばして、学校を侵食していると考えています。魔法師の卵とはいえ、所詮は高校生です。今まで努力してきても報われなければ、精神的に未熟な者はその現実に耐えられずに挫折していきます。特に魔法師を目指すのであれば、そう言う傾向が強いです。そして心が弱っている者、つまり二科生がブランシュにとって格好の餌になりやすい」

 

 真由美達は黙って話を聞いていた。ここまでの彼の言葉を遮るような点はなく、可能性としてみればかなり有り得る話であった。

 

「活動するなら多くの手駒が必要になります。効率的に増やすなら、二科生が多く参加している非魔法競技系の部活動を選んでくるでしょう。何せ、この学校は入学した時点で優劣が明確に表されていますからね。劣等感に苛まれる学生の心に漬け込むのは奴らにとっては造作もないことです」

 

 一通りの話を終えると、真由美は深刻な顔をしていた。

 

「だから、剣道部に行こうと思ったのね」

 

 禅十郎の話で壬生の剣道の技が変質したこととブランシュが関連しているとすれば証拠はないが辻褄は合う。

 当然、気になることもある。剣道としての才がある彼女が何が原因でブランシュに関わろうとしているのかということだが、これに関しては憶測で語るわけはない。

 

「そう言う事です」

 

 はっきりという禅十郎に真由美は苦悶の顔を浮かべた。

 第一高校の生徒がブランシュに加担している可能性があるのは生徒会長である彼女にとって辛いことだった。

 少しの間、沈黙が続いた。

 真由美も摩利も考え事をしているのであろう。

 このままブランシュの侵食が水面下で着々と進行しているのであれば、学校のトップとして無視出来ない状況であるのは間違いない。

 

「まぁ、そういう訳なんで、二科生が多くいる部活には少しばかり注意を払っておいた方が良いでしょうね」

 

 突然の重い空気をぶち壊す禅十郎の軽い口調に真由美はキョトンとしていた。

 

「禅君?」

 

「ま、生徒会長が当校の生徒を疑いたくないって気持ちは分からなくもないですよ。でも、俺の姉ちゃんが言ったじゃないですか、『有り得ないことなんて、有り得ない』って。可能性を自分から閉ざしてちゃ、見えてくる筈のものが見えてこない。それで後手を踏んだら、洒落になりませんよ」

 

「それは……そうだけど」

 

 禅十郎の言いたいことは分かる。分かるのだが、それ以上に真由美は今一番言いたいことがあった。

 

「それより禅君、前から思ってたんだけど、口調が突然変わるのをどうにかしてくれない? こっちも付いて行くのが大変なのよ」

 

「無理です」

 

 即答する禅十郎に摩利は溜息をついた。

 

「少しは察してくださいよ。俺だけの問題じゃないんで」

 

 俺だけの問題じゃないという言葉に一言物申したかった摩利は口をつぐんだ。

 篝家の裏の顔を知っており、禅十郎の立場を無視するわけにはいかないのだ。

 

「でも良かったの? 結構色々話したと思うけど」

 

 だが、真由美は困惑していた。ブランシュについての情報を話すことは禁止されているはずだというのに結構色々なことを喋っているのだ。

 言っていることとやっていることが噛み合っていないことに真由美は首を傾げた。

 

「問題ないっすよ。だって今のは『篝家が調べた情報』じゃなくて、『俺の考え』ですから」

 

 禅十郎はあっけらかんと言い切った。

 

「は……」

 

「え……」

 

 二人は「何だ、その屁理屈は」という顔をしていた。

 

「いや、本当に大変だったんですよ? 先輩達が知ってる情報をピックアップして、そこから至る推測をひたすら考え抜いて、今まで調べ上げた情報と照らし合わせて、何回も確認したんですから。いやぁ、大変だった」

 

 やり切ったという顔をする禅十郎に真由美達は完全に呆れていた。

 しかし、こういう所が禅十郎らしい。何せ、彼は規則やルールに抵触しない限り、どんなことでもやってしまうのである。そう、どんなことでもだ。これまでもルールの裏を掻いて普通の人が思いつきもしなかったことをやってきたのだ。その行動を何度もやり続けてきたために、禅十郎は周りから問題児と言われ続けているのだ。

 せめてもの救いと言えば、問題行動を起こした結果が殆どまともな形で終わると言うことぐらいだ。

 

「まったく、君のそう言うぶっ飛んだ考え方は千景さんと同じだな」

 

「それは心外っすね。姉ちゃんの方が酷いと思うんすけど」

 

 数々の武勇伝を作り上げた千景より自分の方がずっとマシだと禅十郎は本気で思っていた。

 

「こっちからしてみれば、二人を比較すること自体難しい話だな」

 

「その通りね」

 

 だが二人を良く知っている二人からすれば大差がない。

 

「さいですか……」

 

 実際、千景は考え方だけがぶっ飛んでおり、行動力が無い分まだ許容範囲内であった。

 しかし禅十郎の場合は考え方に加えて行動力もぶっ飛んでいるため、問題児要素としては禅十郎の方が何枚も上手なのである。

 そのことを二人はあえて口にしないことにした。

 結局、禅十郎の考えを裏付ける証拠がないため、今後は注意を払うと言うことになった、

 克人の方には後で真由美から一声かけておくそうだ。

 大方の話を終え、禅十郎は風紀委員会本部を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の昼休み、禅十郎は生徒会室で昼食をとっていた。

 今回はただの気まぐれであり、偶には達也と話をしたかったからだ。妹の深雪が生徒会で昼食を食べるなら達也が絶対にいると予測し、確認を取って生徒会室に赴いた。

 昼食をとり始めて少し経つと、摩利がさり気無く達也に話しかけた。

 

「達也君、昨日、二年の壬生をカフェで言葉責めにしたと言うのは本当かい?」

 

 話を聞いて、禅十郎は喉を詰まらせるところだった。

 昨日壬生の話をしており、こんなに早く摩利の口から出るとは思わなかったからだ。

 勿論、摩利も意識して言った訳では無いのだろう。今の摩利の顔には、噂話を確認したいと言う、野次馬丸出しの笑みを浮かべていたから間違いない。

 

「先輩も年頃の淑女なんですから、『言葉責め』などという、はしたない言葉は使わない方が良いと思いますが」

 

「ハハハ、ありがとう。あたしのことを淑女扱いしてくれるのは、達也君くらいのものだよ」

 

「そうなんですか?自分の恋人をレディとして扱わないなんて、先輩の彼氏はあまり紳士的な方ではないようですね」

 

「そんなことは無い! シュウは……」

 

 完全に達也の口車に載せられた摩利は、はっとして口をつぐんだ。

 少しばかり沈黙が続いていたが、わずか二人、必死に笑いを堪えていた。誰であるかは言わなくても分かるだろう。

 

「何故、何も言わない?」

 

「何かコメントした方が良いですか?」

 

「ク……クククっ……」

 

 誰かが堪えきれなくなったのか、笑い声を洩らし、摩利はあることに気付いた。

 達也が自分に彼氏がいるのを知っていることだ。今まで自分からそんな話はした筈もないし、『彼女』が話す可能性も低い。

 とすれば、考えられる可能性はただ一つ。

 

「まさか……」

 

摩利は禅十郎を見た。

 

「クク…さて、何のことですか…ね、ハハハ…」

 

 当の本人も一切隠す気が全く無かった。

 摩利は「後で覚えてろよ」と目で訴えるが、禅十郎は笑みを浮かべたまま、顔を背けてお茶を飲んでいた。

 軽く咳払いをして、摩利は話を戻した。

 

「それで、剣道部の壬生を言葉責めにしたと言うのは本当かい?」

 

 結局、その話を有耶無耶にする気はないようで、達也は仕方なく話すことにした。

 

「そんな事実はありませんよ」

 

「そうかい?壬生が顔を真っ赤にして恥じらっているところを目撃した者がいるんだが」

 

 そんな会話をしていると、禅十郎はある異変に気付いた。

 

(寒っ!?)

 

 突然、悪寒が走ったのである。それは気の所為ではなかった。

 物理的に、かつ局所的に、生徒会室の室温が低下しているのである。

 

「お兄様、一体何をされていらっしゃったのかしら?」

 

 すると机の上に置かれていた弁当やお茶が急速に凍っていった。

 

「ま、魔法……?」

 

 怯えながら中条は呟いた。

 

「あ、俺の弁当がっ!?」

 

 その影響は禅十郎の弁当にも影響しており、折角魔法で温めたジューシーな肉料理が瞬間冷凍された。

 

「深雪さんって事象干渉力がよっぽど高いのね」

 

 真由美の言う通り、室温の低下は深雪によるものであった。

 部屋にあった弁当や飲み物が見事に凍っていた。

 

「落ち着け、深雪。ちゃんと説明する」

 

「申し訳ありません……」

 

 達也に注意されて深雪は落ち着きを取り戻し、恥ずかしそうにしていた。

 それにより室温の低下が止まった。

 

「夏場は冷房要らずね」

 

「真夏に霜焼けというのも間抜けですが」

 

 真由美のジョークをさらりと受け流す達也。

 

「ま、真冬に熱中症にかかったバカはいるけどな」

 

 すると摩利が笑みを浮かべてある人物を見た。

 その人物を除き、ここにいた全員がその人物に目が移った。

 

「……何だよ」

 

 不貞腐れたように言ったのは、やはり禅十郎だった。

 

「お前は何をしてるんだ」

 

 達也は呆れ顔になっていた。

 

「中学の頃に九州の道場のサウナで色々あったんだよ」

 

「ああ、あの話ね。千景さんが冬になると良く話してたわね。確か……」

 

「その話すんのマジでやめてください」

 

 真由美が話をするのを禅十郎は全力で止めた。

 

「うーん、どうしようかなぁ」

 

 真由美が悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「いや、本当に止めてください。年末年始にその話が持ち上がって嫌なんですよ。好きでああなったわけじゃねぇってのにあいつら揃いも揃って……今年も口にしたら腹パンかましてやる」

 

 禅十郎にしては珍しく本気で懇願しており、一体何があったのだろうかと誰もが気になった。

 

「もう、しょうがないわね。じゃあ、内緒にしてあ・げ・る」

 

 真由美の笑みには貸し一つと書かれており、禅十郎は渋々納得した。

 だが、後日、別の人物が達也達に喋ってしまうのであるが、それはまた別の話だ。

 結局、この話は打ち切られ、達也は話を戻し、先日カフェで壬生と話した内容を話し始めた。

 この時、禅十郎は弱り果てた心を奮い立たせ、気持ちを切り替えようと努力した。

 昨日のこともあり、達也の話は禅十郎にとって無視できないことだからだ。

 禅十郎は顔には出さないよう注意深く達也の話を聞くのであった。




いかかでしたか

今回は『真夏に霜焼け』をネタに使いたかったので、その話を書いてみました

何で真冬に熱中症になったかは、今後の話で明らかにしていきます

それでは、今回はこれにて

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