忙しくなるって言っておいてまた更新してます
いや、本当に忙しいんですよ?
でも、疲れると気晴らししたくなって、つい時間を見つけては書いて、見つけては書いてを繰り返したら、話が出来上がって…(アホだ)
本当に大丈夫かな…
と、兎に角、お楽しみください
2020/04/07:修正しました。
新入部員勧誘週間が始まって二日目。第一高校では二つの話題で持ちきりであり、授業の休み時間にはほとんどの生徒がその話題を口にしている。
「昨日の第二小体育館のやつ知ってるか?」
「ああ、例の二科生か」
「それ知ってるぜ。その二科生が剣術部の先輩達相手に大立ち回りしたってやつだろ」
「確かその人、総代の司波さんの兄貴だって」
「はぁ? 何の冗談だよ。二科生が風紀委員とかありえねぇだろ」
一つは先日、第二小体育館で起こった剣術部と剣道部の諍いでのことだ。
始まりは魔法競技系、非魔法競技系のクラブのただの言い合いだった。両社が対立することは珍しくないことであり、それで終わればよかったのだが、剣術部二年の一科生の男子生徒が剣道部二年の二科生の女子生徒に向けて『高周波ブレード』を使用したことが事の発端だった。
因みに魔法社会では魔法を併用した剣技を『剣術』、併用していない剣技を『剣道』と定義している。
『高周波ブレード』は振動系・近接戦闘用魔法であり、殺傷性の高く、魔法の使用制限が緩くなっても使用は禁止されている魔法であった。
女子生徒に男子生徒の『高周波ブレード』が振り下ろされるその瞬間、そこにいた多くの生徒が驚愕した。どういう理屈か分からないが、ある風紀委員が『高周波ブレード』を打ち消し、わずか一瞬で男子生徒を組み伏せたのである。
ただの風紀委員であれば、そこまで驚くことは無い。殺傷性の高い魔法を使用したために取り押さえられたのであれば、誰もが納得するだろう。だが、この時は違った。何故なら、男子生徒を取り押さえたのは二科生である達也だったからだ。
そこにいた見物人達は二科生が風紀委員をやっていることにざわついた。
達也は周囲の半のに気にすることなく、男子生徒
魔法の違反使用を取り締まるのが風紀委員の主な仕事であるために、部活同士の諍いについては優先順位は低い。その為、達也の判断は間違ってない。
だが一年生、それも二科生である達也が二年の一科生を取り締まった。それによる反感は、ここにいた剣術部の冷静さを欠かせる要因となった。
周りから批難されても達也は懇切丁寧に説明した。だというのに、感情的に逆上した剣術部の部員達が達也に襲い掛かった。
達也は反撃するどころか、剣術部の大雑把な動きで放つパンチを紙一重で躱し、いなし、いとも容易く剣術部をあしらった。この時、ここにいた全員が知る筈もないが、八雲の弟子達と総掛かりをやっている達也にとって、高校生である剣術部をあしらうことなど造作もないことだ。
結局、後から来た他の風紀委員によって騒動は収まり、当時現場にいた生徒たちによってその話題は一気に広がっていったのである。
その話題に対しての反応は明確に分かれていた。二科生の一年生が一科生をいとも簡単にあしらった話に興味を示す者もいれば、腹を立てる者もいた。
確かに達也の技量には驚かされるが、注目するべきことは他にもある。それは逆上した剣術部が魔法を発動しようとして発動に失敗していたことだ。
その現象を知る者はあまり多くない。しかし知識のあるものであれば、その現象を聞いてこう感想を抱くだろう。まるで魔法発動を阻害する『キャスト・ジャミング』のようであったと。
結果的に誰も魔法を使うことはなく剣術部は逮捕された生徒以外誰も咎められることは無かった。
そして、もう一つの話題はと言うと。
「ねぇ、彼でしょ。噂の……」
「そうそう、去年の卒業生二人を相手にして、あっさり逮捕したんだって」
「相手はバイアスロン部のエースだったんだろ? スケートボードに乗った二人を相手に自己加速術式で追いかけるってバカじゃねぇか」
「と言うより、一緒に追っかけてた風紀委員長と並んで走ってる時点でおかしいって」
1-Aの教室では達也と同じくらいその話題で持ちきりであった。勿論、他のクラスでも同じように彼の噂で持ちきりだった。
「禅、早速学校中で有名になってるね」
「好きでなったわけじゃねぇよ。てか、拉致されたそっちにも原因があると思いますが、そこんところはどうなんでしょうかねぇ? 雫ちゃんよぉ……」
「えっと、昨日は本当にご迷惑をお掛けしました」
「いやいや、別に光井さんを責めてるわけじゃないって。俺が言いたいのは、雫ちゃんがいたくせに、なにあっさりと拉致られてるんだって話だよ」
分かり切っていると思うが、話題の中心人物は禅十郎である。
昨日の萬谷達との追いかけっこが一気に学校中に広まり、昼にはそれに関する放送すると電子掲示板に堂々と書かれていたことに禅十郎は開いた口が塞がらなかった。
当然、クラスメイトから散々ネタにされており、今も雫にネタにされている。
「雫ちゃんさぁ、拉致されるときの対策は教えただろうが。何で使わないんだよ」
既に精神的にやられている禅十郎はいつもの二割ほど覇気がなく、机に突っ伏していた。
ちゃっかり雫を名前で呼ぶようになっているのであるが、雫はもう何もツッコまないことにした。
「学校で拉致されるなんて普通思わない。それにほのかは知らないから、私だけしか助からない」
「そりゃそうだけどな。でも、そしたら何の為に俺が護身術教えたんだよ」
「習いたいなんて言ってないし、禅が勝手に教えただけ」
「嘘だぁ。だって、ガキの頃にお前が……」
「む……」
禅十郎が言いかけたが、雫がじっと彼を睨んだ。どうやらあまりあの話はされたくないらしい。
「あー、はいはい分かった分かった。そう不機嫌になるなっての」
「別に不機嫌になってない」
会って間もない人には分からないだろうが、昔から慣れている禅十郎は雫の表情はよく分かっていた。
どう見ても不機嫌じゃねぇかと禅十郎は思ったが、態々それを口にすることはしなかった。
「そうかよ。ま、昨日ので分かっただろ。あそこまで酷く勧誘されるんだ。少しは身の回りの危険ぐらい察知しておけるようになっとけよ。そう何度も拉致されちゃ、助ける方も大変だっつうの」
「そんなに攫われたりしないよ」
「じゃあ、また攫われたら、今度からお前の渾名は『姫ちゃん』な」
「どうして『姫ちゃん』なんですか?」
笑みを浮かべる禅十郎にほのかは首を傾げる。
「決まってんだろ。物語のお姫様は大抵攫われるもんだからだよ」
クククと大笑いするのを堪えている禅十郎に雫は更に不機嫌になり禅十郎の脛を蹴るのであった。
因みにダメージは雫だけに入り、悶絶することになる。
放課後、禅十郎は風紀委員会本部に向かっていた。
途中まで道は一緒であるため、深雪も一緒である。
「それにしても、昨日は達也が大活躍だったらしいな。十人以上の剣術部を簡単にあしらうとは流石だぜ」
その話題を振ると、深雪は心底嬉しそうな顔をしていた。
「ええ。でもお兄様のお力を以ってすれば、あのくらい当然ですもの」
「ほう、随分と自信がある言い方じゃん。達也が怪我するとは思わなかったのか?」
「ええ、お兄様に勝てる者などいるはずが無いですから」
全く躊躇の無く断言する深雪に禅十郎は軽快に笑った。
「ハハハッ、随分と信頼されてるな。こりゃあ、今度の手合わせが楽しみだ。だが、司波さんには悪いが次の勝負は勝たせてもらう」
達也が八雲の下に修行に行く時間は知っているため、深雪の話を聞いて、禅十郎は明日にでも顔を出そうかと思い込んでいた。
「望むところです。お兄様が絶対に勝ちますから」
達也がいない間に勝手に話が進んでいくのであるが、それをツッコむ者は存在しなかった。
「それにしても随分と仲がよろしいことで。本当に兄妹かって疑っちまうよ。正直、両想いの恋人の方がお似合いだな」
「両想い……恋人……」
(えっ、マジでそんな反応すんの!?)
深雪がほんのり顔を赤らめて、恥ずかしそうな、しかしそれ以上に嬉しそうな顔をしていることに禅十郎は愕然とした。
確かに仲の良い兄弟姉妹は見たことがあるが、ここまで行く家族は見たことが無かった。
(本当にブラコンだなぁ。あー、俺の妹もこれくらい素直ならいいんだけど……。うん、無理だな!)
禅十郎にも妹がいるが、残念ながら深雪とは態度が正反対も悪態をつくほど嫌われている。恐らく年頃の反抗期だろうが、何故両親ではなく兄に対して反抗的なのか分からないのが現状である。
そんなことを思っていると、禅十郎は先程から周りからの視線が気になり始めていた。視線は禅十郎に向けられており、敵意や嫉妬などの負の感情が込められていた。
「くそっ、会長の七草先輩や渡辺先輩ともあんなに親しく話してんのに、司波さんとまで……」
「マジ許せねぇ。誰か手ぇ出したら闇討ちする、つか沈めるわ」
「ああ、七草先輩だけじゃ飽き足らず司波さんまでもが問題児に汚されてく」
(ちょっと待て、最後の言葉は聞きずてならぇぞ!)
サラッと酷いことを言われたことにツッコもうとしたが、ふと禅十郎はある言葉に気を取られてしまう。
「おいさっきの続きだけどよ……」
「分かってる。手筈通りな」
「二科生風情が風紀委員なんて認められるかよ」
(なんだありゃ?)
随分と物騒な話をしている学生が見え、この場から立ち去っていった。
話の内容から標的は達也のようだが、禅十郎の言葉が頭から離れずにブラコンを拗らせまくって妄想している深雪は残念ながら聞こえていなかった。
(ま、俺から忠告しておけば良いか)
深雪と別れた後、後で達也に忠告しておこうかと思ったが、残念ながら達也は既に見回りに行ってしまっていた。
放課後、雫とほのかは昇降口の近くで立ち往生していた。
「雫、どうやって帰ろう」
「どこを通っても無事に帰れる気がしない」
部活を決めた雫達はさっさと帰りたいのであるが、昇降口で立ち往生しているのには訳があった。部活の勧誘を目的とした集団が昇降口の前を占拠しているのである。
初日に有力な新入生を確保できなかった部活はさらにやる気を出しており、気迫は昨日より上回っていた。
あの中を通れば、確実に大変なことになるのは昨日で嫌というほど理解させられていた雫とほのかはどうしようかと悩んだ。
「どうしようか」
「二人とも今帰り?」
そんなことを考えていると、ふと雫達は後ろから声を掛けられた。
「ひっ!」
「あ、エイミィ」
声を掛けられたほのかは驚き、雫は普通に返した。
二人の後ろに現れたのは、肩より下まで伸びた赤毛の少女だ。
エイミィと呼ばれた少女の名は明智英美、フルネームはアメリア=英美=明智=ゴールディである。イギリスの現代魔法の名門、ゴールディ家の娘だ。日英のクォーターであるため、髪の色は赤いのが特徴的で、皆からは愛称でエイミィと呼ばれている。彼女とは昨日のある件で親しくなっていた。
雫達は現在の状況を説明する。
「なるほどねぇ。これは苦労しそうだわ」
雫達の説明と外の様子を見て納得した英美はあることを提案する。
「雫もほのかも隠密系の術式は持ってる?」
「オンミツ系……?」
「陰陽道系と密教系のことかな?」
「つまり、古式魔法?」
二人の反応に英美は笑った。
「やだなぁ、隠密は隠密だよ。公儀隠密の『隠密』。
「ああ、古式魔法の『忍術』のこと?」
ほのかの言葉に英美はムスッとした顔をする。どうやら忍術に関してかなり熱が入っているようである。
「忍術だけじゃないんだけどなぁ。ま、兎に角、意識を逸らしたり、姿を隠したりする術式のことだよ」
「私は無理だけど、姿を隠すのはほのかが得意。でも、勝手に魔法を使うのは校則違反」
「今更だよ。今なら魔法が飛び交ってるんだし、魔法を使って喧嘩をするわけじゃないんだから、勧誘を避けるために使うぐらい大目に見てもらえるって」
「なるほど一理ある」
英美の提案は理に適っていると雫は思い、三人でこっそりと帰宅することにした。
三人は別の扉から外に出て、木が多く植えられている所を積極的に選んで校門まで向かう。
「これだけで結構気づかれないものなんだね」
「映っているのが背中と植木だから」
「なるほどー。あっちから見ると植木の奥で作業している人がいるように見えるわけか」
このルートを通ったのには訳があった。
ほのかが使っている魔法は、光を操作して鏡と同じ現象を引き起こすものだ。周りが植木で溢れている為に彼女達のいる場所を見ても先輩達は違和感を感じていなかった。
これに隠れれば三人は気付かれることなく、帰れることが出来ると確信していた。
「頑張れ、もう少しで校門だから」
「うう、緊張するなぁ」
失敗して昨日の二の舞を喰らってしまうと考えると緊張してしまう。
「魔法の不正使用者発見。速やかに確保しまーす」
「ご、ごめんなさい!」
突然、声を掛けられて咄嗟に謝るほのか。
しかも、気付いていないが、その所為でほのかは魔法を解除してしまった。
突如現れた第三者を探し始める雫と英美はそのことに気付けなかった。
探し始めて数秒後、雫は近くの木陰に隠れている声の主をじっと見つめた。
「禅、脳震盪になる覚悟はある?」
「そう怒るなよ、ちょっと揶揄いたくなっただけだっつうの」
ご立腹の雫の様子を見兼ねて声の主は三人の前に姿を現した。
言わずもがな、禅十郎である。
「いやぁ、随分と面白そうなことしてるなって思ってよ。つい声掛けちまった」
ニヤリと笑みを浮かべる禅十郎に雫は呆れた。
「少しは空気を呼んで欲しい。大体、勧誘には気をつけろって自分で注意しておいたくせに、言った本人が注意した相手を危険に晒すなんて酷い」
「そりゃ悪かったな。でもこうも言ったぜ。身の危険を察知できるようにしておかなきゃ、また拉致されちまうぞってさ」
「風紀委員が危険を作るなんて普通は思わない」
ムスッとする雫に、禅十郎は笑った。
「ハハハッ、そりゃそうだ! ……あっ、そう言えば良いのか。折角上手くいってたのに勿体ない」
禅十郎の一言にいち早く理解したのは英美だった。
「やばい! ほのか、魔法切れてるよっ!?」
「えっ、うそっ!?」
ようやくそのことに気付いたが、もう遅い。魔法が切れて、突然現れた新入生に近くにいた上級生は次々と気付いていった。
「ねぇ、あの子達って確か……」
「入試成績上位者だよな……」
雫とほのかだけでなく、英美も成績上位者であり、ここにいる部活のどこもが喉から手が出るほどの有力な新入生が揃っている。
「やばいね、コレは」
「ど、どうしよう」
流石にまずいと冷や汗を流す英美と慌てるほのか。
「禅、何とかして」
「えっ? やだ。頑張って切り抜け。集中力切らした方が悪い」
「酷くない!?」
あっさり突き放す禅十郎に英美は愕然とした。
「あははははー」
「棒読みで笑わないでください!」
そんな会話をしていると、勧誘しようとしていた一人があることに気が付く。
「おい、あれって風紀委員だよな。確か、昼の放送で出てた」
「篝禅十郎……」
「マジかよ。あの人の弟とか最悪じゃねぇか」
どういう訳か、上級生は誰一人として雫達に勧誘してこなかった。
実は禅十郎達は知らないのであるが、今朝から上級生の中だけで新たな噂が立っていた。禅十郎の前で不正を働けば絶対に逮捕されると言うことだ。
風紀委員なのであるから、そんなことは当たり前だと思うだろうが、これは少し意味が違う。
今まで不正を働いても逃げ切った者ががおり、実際に上級生の風紀委員も何度か現場に居合わせたのであるが、逃げられたことがいくつかあった。その為、新入部員勧誘週間の間は違反をしても捕まることは無いだろうと思う生徒がいつもより多くなるのである。
だが、今日の昼の放送で禅十郎が萬谷達を捕まえたことを知った上級生は驚愕した。萬谷達を追いかける禅十郎の速さと捕まえるときに見せた禅十郎の動き。加えて何が何でも犯人を捕まえようとする禅十郎の仕事に対する熱意と執念。
それを感じ取れた上級生は揃って戦慄した。
禅十郎の前で不正を働くことは摩利と同じくらい危険だと、多くの者が確信したのである。
それに加え先々代の生徒会長である千景の弟である。このことが上級生、特に現在の三年生は禅十郎が目的遂行の為に何をしでかすか分からない為警戒しているのである。
様々な要因によって、先程から禅十郎の近くにいる雫達に気安く声を掛けられないのである。
(どういう訳か知らないけど、皆が禅に警戒してる?)
雫はこれはチャンスだと思い、安全に帰るために大胆なことを計画した。。
「禅、一緒に来て」
「えっ、やだ」
「良いから来る!」
「し、雫っ!?」
「わおっ、雫ったら大胆!」
雫は突然、禅十郎と腕を組んで校門まで歩きだしたのだ。
禅十郎は状況が分からないまま、雫に言われるまま引っ張られていく。
すると、どういう訳か、上級生は雫を追わずにその場に立ち尽くしていた。
それを見ていた英美は雫の目論見に気付いた。
「あー、なるほどねぇ。じゃ、校門までエスコートしてもらおっか。行こう、ほのか」
英美は雫の狙いを理解し、そのまま二人の後を追って行く。
「えっ、ちょっと待ってよー」
さっさと行ってしまう三人に、ほのかは慌てて後を追う。
そして雫の狙い通り、勧誘を目論んでいた上級生は誰一人として禅十郎を連れた雫達を追うことはしなかった。
これによって、また一つ禅十郎に関する噂が出来上がるのであるが、そんなことを彼が知る筈もなかった。
いかがでしたか
一応、これで原作第二巻に突入です
いやぁ長かった
新入部員勧誘週間の話は次で終わりだと思います
さてさて、禅十郎がどう動くのか楽しみにしてください
それでは、今回はこれにて