魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

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はいどうも

なんだかんだで、時間を見つけては書いてます

でも、そろそろ忙しくなるのは間違いないので、今月の投稿はこれで最後になると思います(多分…)

あと、今更ですがUAが2万を超えました

読んでいただいて本当にうれしいです!

今後とも頑張っていきます!

では、お楽しみください

2020/04/07:修正しました。


新入部員勧誘週間 その2

 放送部が撮影していることにも気付かず、禅十郎達は高速の追いかけっこを続けていた。

 自己加速術式で加速している禅十郎は自動車と遜色ない速さで疾走しており、スケートボードに乗っている萬谷、風祭、摩利も移動魔法を駆使してほぼ同じ速さで校内を走っていた。

 雫とほのかを抱えている風祭と萬谷は若干遅くなっており、互いの差はみるみる狭まってきていた。

 

「それにしてもあの一年、タフだな」

 

 萬谷の言う通り、自己加速術式による全力疾走で速度が落ちることなく走り続けている禅十郎は驚愕に値することだった。自己加速術式を使っているとはいえ、使っているのは生身であり、短距離走の感覚で長距離走をしているのとほぼ同義なのだ。

 

「禅は体力に自信がありますから。まだ余裕だと思いますよ」

 

 雫の言葉にOG二人は揃って苦笑を浮かべる。

 

「それは困ったわね。うーん、これで止められるとは思わないけど……」

 

 すると風祭は自身が得意とする気体流動制御術式により、自分達と禅十郎達の間に下降気流を発生させる。

 これを見ていた雫は風祭が行ったことの意味を理解して、彼女の技量に驚かされた。

 

(すごいっ!)

 

 風祭が作り出した下降気流は後方にいる禅十郎や摩利にとっては向かい風となる。一方、風祭と萬谷には追い風となるのだ。

 一つの魔法で複数の効果を作用させる技量に雫が驚くのも当然と言える。

 風祭の目論見通り、二組の互いの距離が大きくなった。

 魔法の威力と発動のタイミングを間違えれば、確実に失敗する方法をやってのける彼女の技量はさすがと言わざるを得なかった。

 

「同じ手が何度も通用するか!」

 

 だが、摩利も負けてはいない。風祭の手の内を知っていた彼女は即座に向かい風を魔法で相殺してみせた。

 雫は自身の状況を忘れて、目の前で見せらせる上級生の魔法の打ち合いに夢中になっていた。

 

(これが上級生の実力……!)

 

「舐めるなぁぁぁ!」

 

 そんな雫の感動をぶち壊す声が響く。言わずもがな禅十郎である。

 

「おいおい、マジか」

 

 禅十郎の行動を目の当たりにして、萬谷は驚いていた。

 それは風祭も同じ気持ちでそれを見ていた。正直に言えば、摩利のやり方が妥当だというのに、彼はその当たり前を無視して風祭の障害を突破しようとしていた。

 では禅十郎は何をしたのか。

 摩利のように魔法によって風を相殺したわけではない。まして対抗魔法によって魔法を無効化したわけでもない。

 禅十郎が取った行動は実にシンプルだ。

 向かってくる風に真っ正面から突っ込んだのである。

 普通に考えれば、愚行だとほとんどの人が言うだろう。

 だが、風祭と萬谷は禅十郎が風にぶつかる直前の動きをしっかりと目に焼き付けていた。

 風にぶつかる直前、跳躍により空高く飛び上がったのである。

 衝突する直前、禅十郎はこう考えていた。

 

(……跳ぶか)

 

 気体流動制御術式が発生しているのはそれほど高い場所からではない。自然現象の様に空から発生していたら話は別だが、これは人為的なものである為に、何処から下降気流が発生しているのか分かるのだ。

 それ故に気体流動制御術式が発生し始めている場所を見極め、禅十郎は魔法の影響がない所まで飛び上がったのである。

 

「……嘘だろ?」

 

「そんな攻略あり?」

 

「やっぱり非常識」

 

「ひえぇぇぇ……」

 

 萬谷は目を丸くし、風祭は開いた口が塞がらず、雫は彼の非常識に呆れ、ほのかは状況が分からずに目を回していた。

 だが、OG二人が驚いていられるのもそれほど長くはなかった。

 跳躍で飛んでいる時間は僅かであり、風の抵抗を一切受けなかった禅十郎は容易に風祭の妨害を突破してみせた。その後、柔道の前回り受け身をしつつ着地し、そのまま立ち上がった勢いに乗り禅十郎は再度自己加速術式を発動する。

 

「逃がすかぁ!」

 

 それに気付いた二人は大慌てで禅十郎から逃げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 部活連本部では真由美と服部が万が一のことが起こった時のために待機していた。二人以外にも部活連会頭の克人もいた。

 

「今年の勧誘も賑やかね」

 

 窓から新入生を勧誘している様子を眺めていた真由美は微笑む。

 

「あまり騒ぎを大きくされて欲しくはないがな」

 

 自分が動くほどの大事が起こっていないため、克人は椅子に座っていた。

 服部は真由美とは別の窓から外を眺めていた。

 

「ですが、九校戦や大会の為に勧誘に力を入れるのは仕方のない……」

 

「待ーちーやーがーれぇぇぇ!」

 

 のでは?、と服部が言いきる前に、外から聞き覚えのある声が響いてきた。

 それを耳にし、声のする方の窓から眺めた真由美は苦笑を浮かべた。

 

「あらあら、さっそく大騒ぎね」

 

 彼女の目には全速力で逃げる萬谷と風祭、そして二人を追う禅十郎の姿が映っていた。

 

「まったくだな」

 

 椅子から立ち上がり外の様子を眺めていた克人がそう言った。

 

「そういえば、さっき私がいない間に過剰な勧誘があったって聞いてたけど、もしかして報告してきたのって禅君?」

 

「はい、そうです」

 

 真由美の質問に服部が頷いて肯定した。誰が連絡したのかまで報告しなかったのは意図的なのかどうかまでは服部のみぞ知ることであった。

 

「アレは去年の卒業生か……」

 

「萬谷先輩と風祭先輩ね。大方バイアスロン部に成績上位者を入れようとして禅君に追われてるってところかしら」

 

 彼女達の名前は何だったかと克人が考え込んでいると、真由美が二人の名とその目的を口にして、ああ、そんな先輩がいたなと克人は思い出した。

 

「先代の風紀委員長も手を焼いていた問題児だったな」

 

「つまり『新生問題児』対『先代問題児』の勝負ってわけね。ね、面白いカードだと思わない?」

 

 真由美が愉快そうに笑みを受けべるのを見て、服部は溜息をついた。そんなことで面白がらないでほしい。

 

「確かに、どちらが勝つか見物だな」

 

「会頭まで……」

 

 克人がそう言うとは思わず、服部は愕然とした。このような騒動は毎年恒例なのだが、トップが揃って面白がるというのもいかがなものか。

 というのは建前であり、本音はあの新入生に何を期待しているのだろうかという疑問である。先々代の生徒会長の弟だからと言って、そこまで期待させるほどの何かがあるのか、服部には分からなかった。

 

「ねぇ、はんぞーくんはどっちが勝つと思う?」

 

 真由美が楽しそうに質問してくるため、彼は話に乗ることにした。

 

「相手は卒業生、それも実力は折り紙付きです。いくら魔法を併用した体術を得意とする篝でも、二人を捕らえるのは難しいかと。ですが、渡辺先輩もいるのなら、その心配はないと思いますが」

 

 服部がそう言うと、真由美が怪訝な顔をしていたことに気付いた。

 

「会長、どうかしましたか?」

 

 自分の言っていることに何かおかしなところがあったのかと服部は首を傾げる。

 

「はんぞーくん、摩利ならいないわよ」

 

「はい……?」

 

 真由美の言っていることに服部は一瞬理解ができなかった

 

「だから、摩利なら一緒に追ってないわよ」

 

 聞き返してきた服部に真由美はもう一度言うと服部は慌てて、真由美達がいる窓から外を眺めた

 

「なっ!?」

 

 そこから見た光景を見て、服部は愕然とした。

 

「待てや、ごらぁぁぁっ!」

 

「本当にしつこいぞ、一年坊っ!」

 

「もうほっといてよー」

 

「じゃあ、さっさとお縄につけや!!」

 

 服部の目には予想とかけ離れた光景が映っていた。

 先程まで服部は卒業生にいいように遊ばれている禅十郎の姿を想像していた。

 だが、現実は全く違った。

 服部の目には、雫とほのかを抱えていない萬谷と風祭が、禅十郎から死に物狂いで逃げ回っている様子が映っていたのである。

 

「……」

 

 服部は思わず自分の頬を抓った。痛みを感じたので、これは現実であることは間違いなかった。

 

「かけっこで禅君の相手にするのは、先輩達でも厳しそうね」

 

 目の前の光景に唖然とする服部に真由美は笑った。

 

「伊達に本家で鍛えられたわけではないということか。この先どうなるか見物だな」

 

「本当よねー」

 

 そんな話をしていると、達也から第二小体育館で騒動があったことの報告を受けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、なぜ禅十郎が一人で追跡しているかと言うと話は少し前に遡る。

 流石に摩利と禅十郎から完全に逃げ切るのは難しいと判断した二人は、さっさと本来の目的を果たすことに決めた。

 再び摩利と禅十郎から距離を取ることに成功した二人はすぐに曲がり角を曲がる。

 その先には二人と同じようにスケートボードを持った女子生徒達が集まっていた。

 彼女達の目的はバイアスロン部に雫とほのかを引き渡し、有力な新入生の勧誘を手助けすることであった。

 

「萬谷先輩!? それに風祭先輩まで! どうしてここに!?」

 

 何も知らないバイアスロン部の全員は卒業生の突然の来訪に驚いた。

 

「スマンが話は後でな。ま、コイツらを頼む」

 

「新入生よ、可愛がってあげて」

 

 萬谷と風祭が先ほどまで抱えていた雫とほのかをひょいっと投げる。

 バイアスロン部の現部長である五十嵐亜実が、投げられた二人に怪我をさせないよう即座に魔法を発動して二人を受け止めた。

 

「先輩、一体何が……」

 

「悪いが亜実、話はまた今度だ。今、ちょっと…」

 

「待ぁぁぁてぇぇぇぇぇぇ!」

 

 萬谷が言いきる前に、禅十郎が鬼の形相で曲がり角を曲がってこちらに突進する勢いで走ってきた。

 

「やばいっ! 逃げるぞ!」

 

「じゃあ、またね、亜実」

 

「えっ、あ、はい。また…」

 

 大慌てでその場を後にする萬谷と風祭に亜実は茫然としていた。

 突然の卒業生の来訪、いきなり投げられた新入生二人、加えて物凄い形相で追いかけてくる禅十郎に亜実の頭の回転が追いつかなかったのだから仕方がない。

 

「逃がすかぁぁぁぁ!」

 

 二人が急いでその場を去った後、高速で二人を追いかける禅十郎の姿をバイアスロン部は茫然と眺めることしか出来なかった。

 そのすぐ後に、スケートボードに乗った摩利がやってきた。

 今度は何事かと思っていたが、事情を聞かれて亜実は何となく状況を理解した。

 大方、萬谷と風祭が新入生を拉致して、それを摩利が追いかけてきたと言うところだろうと予測した。

 彼女の予想は概ね当たりであり、摩利からの事情聴取はあっさりと終わり、彼女はその場から立ち去ろうとする際、亜実は疑問を抱いた。

 摩利が向かおうとしている方向は萬谷と風祭、それと禅十郎が向かった方向と全く違うのである。

 

「あの……先輩の行方は聞かないんですか?」

 

 亜実の質問に摩利は問題ないという顔をしていた。

 

「ああ、それなら問題ない。私の役目はそこの新入生を解放することだけだからな」

 

 雫とほのかを一瞥する摩利に亜実は困惑していた。風紀委員長である摩利が犯人の追跡を断念するとは思えなかったからだ。

 すると摩利は亜実の考えを見抜いたかのように続きを話し始めた。

 

「萬谷と風祭のことなら心配ない。どうせ、あのバカが確保するだろうしな」

 

 バカとは誰のことだろうかと思ったが、直ぐに先ほど二人を追いかけていた男子生徒のことだと分かった。

 風紀委員の腕章をしていたが彼の顔に見覚えが無かった。恐らく彼は一年生なのだと亜実は予想した。

 

「でも、二人はバイアスロン部の元エースですから、いくら風紀委員でも一年生では……」

 

 無理ではないかと疑問に感じていると、摩利は首を横に振っていた。

 

「魔法で身体能力を底上げしたあいつに追いかけっこで勝てる奴はそうそういないさ。私でも勝てる見込みがあるとは思えん」

 

 それを聞いた亜実は目を丸くした。学内トップクラスの近接戦闘に特化した摩利が勝てないと言い切ったのだ。

 先程の一年生は一体何者だろうかと疑問を抱くが、摩利もそこまで暇ではない為、さっさとこの場を後にした。

 結局、摩利の言っていることが事実か分からなかった亜実であったが、萬谷と風祭が連れてきた新入生が入試成績上位者である雫とほのかであることに気付き、即座に二人を勧誘することに頭を切り替えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在、禅十郎の追跡はまだ続いている。

 萬谷と風祭を追いながら、禅十郎は今後の作戦を立てていた。二人は気付いていないが、ここまでの行動は禅十郎の作戦通りなのである。

 実は摩利が二人の追跡に参戦したとき、禅十郎は摩利と作戦を練っていた。

 それは如何にして雫とほのかを解放するかということである。

 その気になれば自分だけで二人の動きを止める方法はいくつかあった。しかし、どれも雫とほのかが怪我をする可能性があり、まともに手が出せなかったのである。

 だが、いつまでも萬谷達に構っていられるほど風紀委員は暇ではない。かといってこのまま二人を逃がす気にもなれない。

 そして最終的に摩利と話し合って決めたのが、萬谷達が自分から二人を解放するよう促すという方法であった。

 彼女達の目的はバイアスロン部に有力な新入生を入部させることなのは分かり切っている。ならば、萬谷達をバイアスロン部に接触させれば勝手に雫達は解放され、二人は目的を果たしたことになる。

 二人が萬谷達の手から離れれば、後はこっちのもの。

 

「さて、そろそろ終わらせますか」

 

 時は満ちたとニヤリと笑みを浮かべる禅十郎。

 雫達が解放された今、確保するために手加減する必要はなくなった。

 先程のように、()()()()()追いつくか追いつかないかギリギリの速度を保つ必要はない。

 その為、禅十郎は今の速度よりもさらに加速した。加速した禅十郎は一瞬にして萬谷達を追い越す。

 

「はっ……」

 

「えっ……」

 

 二人は突然のことに間の抜けた声を上げた。

 突然、禅十郎が目の前に現れたのだからそう反応するのは当然と言えるだろう。

 だが二人は去年の卒業生であり、その腕前は折り紙付きだ。目の前に禅十郎が現れた瞬間、即座に方向転換しようとした。

 しかし、それは完全に失敗に終わる。

 何故なら方向転換する前に二人の脚はスケートボードから離れていたからだ。

 加えて先ほどまで目の前にいた禅十郎はいつの間にか姿が消えている。

 二人は自分の身に何が起こったのか理解できず、頭が混乱していた。

 混乱していた中で彼女達が理解したのは自分達の体が宙に浮いている感覚がある、ただそれだけだった。

 そして、宙に浮いた二人は一気に落ちることなく、ゆっくりと落下していった。

 地面に座るような形でゆっくりと着地した二人はこれが魔法によるものだと理解する。

 

「よっしゃ犯人確保!」

 

 その一言で二人は自分達の後ろに禅十郎が立っていることに気が付いた。

 禅十郎は仕事をやり切ったと満足した顔をしている。

 

「さて御二人さん、部活連本部まで御同行願いましょうか?」

 

 満面の笑みを浮かべる禅十郎の目は二人に逃げるなよと忠告していた。

 スケートボードも無く、生身の動きで禅十郎から逃げ切れないと判断した萬谷と風祭は両手を挙げて降参することにした。その後、二人は渋々部活連本部に連行されるのであった。

 二人を移送中、禅十郎は遠くに飛んでいたドローンに気付くことはなかった。

 そして、次の日、一年生の禅十郎が卒業生の萬谷達を捕まえた話は学校中に広まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり禅君が勝っちゃったわね」

 

 窓の外から先ほどまでの様子を見ていた真由美が言った。

 服部は先程の第二小体育館での騒動が大事であったため、そちらの応援に向かっている。

 

「魔法を併用した動きならあいつは渡辺以上だからな。俺もあそこまでは動けん」

 

 克人も禅十郎が萬谷と風祭を確保することを予想していたため、そこまで驚いてはいなかった。

 

「それはそうだけど……。でも禅君ったらああいう魔法の使い方は止めてって言ったのに。失敗したら怪我じゃすまないんだから」

 

 真由美は禅十郎がどのようにして萬谷達を確保したのか分かっていた。

 禅十郎が二人の前から一瞬にして高速移動したのは、単純な移動魔法で行った。

 まずは自己加速術式にて彼女達以上の速度を出して走り、一気に二人を追い抜く。

 その直後、彼は自分の速度を変えた。方向を逆にし、更に速さを三倍にして彼は彼女達の前から消えたように移動してみせた。そして、彼女達を通り過ぎる瞬間、二人の服を掴んで一緒に後ろに下がり、スケートボードから離れるようにして捕まえたのだ。

 言う事は単純だが、実際はかなり危険な行為で彼はそれを行った。

 危険でないのは、それは彼が自己加速術式のみを使った場合である。

 ただの自己加速術式であれば、速度や進行方向を変えても影響はない。ただし通常の三倍にするには彼の処理速度が足りない。そもそも限界速度に近い状態で三倍にすることは不可能だ。

 ならばどうやって限界の三倍の速度を出すか。

 イメージするならば、野球でバットで剛速球を打つことに近い。そして、その剛速球が禅十郎である。

 つまり禅十郎は自身が限界速度に達した瞬間、移動魔法でベクトルを反転し、三倍にする魔法を使って自分を強制的に移動させたのである。

 自己加速術式は魔法式の特性上、速く動いても身体にダメージはない。だが、彼の急速な方向転換ではそれが適応されない。つまり慣性力が尋常ではない。

 そして、禅十郎はそれを承知の上で使用した。傍から見れば狂気の沙汰である。

 正直、真由美は禅十郎に使って欲しくないと思っている。

 彼は魔法を道具と割り切っているが、使い方があまりにもリスキーなのだ。

 

「承知の上だろう。それをやってのける技量を持っているのなら使用するのに躊躇うことはない。あいつはそういう男だ」

 

「それは分かってはいるけどね……。見てる側からすれば心臓に悪すぎるわ」

 

「ふむ……。一理あるな」

 

 真由美も禅十郎の性格はよく理解しているつもりだ。それを知った上で彼を風紀委員に任命したのであるから、これ以上禅十郎のやり方に文句を言うのは筋違いだ。

 それでも真由美は禅十郎に何かを小言を口にしたくなってしまう。そう言う姿を見せると真由美は禅十郎に対し過保護であると言われても文句は言えなかった。

 

「七草、まさかとは思うが篝と交際しているのか?」

 

 克人が口にしたのは最近流れている噂によるものではなく、真由美の態度を見てそう思っただけである。

 そもそも克人は噂話にさほど興味があるわけではないため、真由美と禅十郎の間で囁かれている噂話を知らないのだ。

 

「へっ……?」

 

 克人の質問に真由美は少し遅れて間の抜けた声をあげた。

 

「随分と彼の身を案じているのでな。七草らしくないと思ったから尋ねただけなのだが?」

 

 克人の天然は真由美にとって爆弾発言であった。

 そして真由美はみるみると顔を赤くしていく。

 

「ち、違うわよ!? 別に禅君とはそういう仲じゃなくて……。何というか……えーっと、そう、弟! 弟みたいな感じだから! だから別に付き合ってるから心配してるわけじゃなくて、ただ姉として心配してる。そう、そんな感じなの!」

 

 あまりにも分かりやすく慌てており、加えて顔を赤くしているため誤解を生みやすいのであるが、残念ながらここにはそれをダシに揶揄うメンバーがいなかった。

 

「そうか。確かに二人は幼少期からの付き合いだったな」

 

 克人は真由美の反応に怪訝な顔をするが、真由美が違うと言っているのであるならばそうなのだろうと納得する。

 しかし、幼少の頃からの付き合いだとしても第三者からすれば二人の関係は割と親密に見えてしまうのだが、真由美はそのことに未だに気付いていなかった。

 

「そ、そうなのよ。禅君ったら昔から手の掛かる子だったから」

 

 真由美はここに摩利や市原がいなくて良かったと心底思うのであるが、それも束の間。

 

「ちわーす、新入生拉致したOGを捕らえてきましたー!」

 

 萬谷と風祭を連行してきた禅十郎がやって来てしまい、真由美は取り乱していることがバレないよう平静を保つことに全力を注ぐのであった。




いかがでしたか?

勧誘週間の話はまだ続きます

優等生ネタも使うので、原作よりこの話は長くなる予定です

次回はあの子を出すかも…

では、今回はこれにて

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