「不味い……!」
呟かれた提督の一言には、大きな悲しみが宿っている。
状況はほぼ絶望的。高速で戦闘が続く状況ではまともな指示は全て遅く、口を挟む余裕など無い。
かといって何もしないという選択は無い訳であり、彼の頭は只管に解決策を求めて回転を続けていた。しかしそれも、最早戦闘をする者が諦めてしまっては何の意味も無い。
彼の誇る第一艦隊は、旗艦である金剛こそが大黒柱だ。
指示こそ加賀が的確であるものの、それでも全体的な雰囲気を維持するのには金剛の力が必要になる。特に駆逐艦は精神が子供であるし、不安を覚えてしまえば途端に動きが鈍くなってしまうのだ。
安定性が無いとは言えるが、しかしテンションが高ければ通常以上の力を発揮出来る。
故にこそ予想が付かない存在が艦娘であり、現状の戦争の中では彼女達以上に強力な存在は非常に少ない。
だがその駆逐艦も、金剛の有様を見ればもう戦えまい。
主砲は無茶苦茶に投げ飛ばされた所為で殆どが折れた。衝撃で内部の妖精も大多数が死亡しただろう。
艤装の装甲板も剥がれている箇所が目立つ。駆逐や軽巡の主砲でも中々に壊れなかった彼女の装備が、吹雪の蹴り一つであっさりと崩壊していた。
身体の各所はもう折れているだろう。内臓系にも多分にダメージが入っているに違いない。
最早大破を超えた状態だ。並の艦娘であれば気絶をしてもおかしくはないが、恐らく金剛はもう痛覚が死んでいる。そうでなければ今頃は激痛にのたうち回っているだろう。
即座の撤退が必要だ。
しかし、撤退を指示しようにも金剛の目前には吹雪の主砲が居る。何時でも引き金が押せる状況ではとてもではないが逃げろなどと言える筈も無い。
かといって他に救助を頼もうとしても、他は他で吹雪の艦隊が足を止めていた。
救助も不可となれば、最早どうあっても金剛が沈むのは避けられない。最初から想定されていたとはいえ、その事実に彼は拳を机に叩き付けた。
解っていたとしても認められる道理など何処にも無い。死ぬなと叫びたくなる程口を噛み締め、握り締めた白の手袋からは不快な音が部屋に響き渡る。
生き残ってほしい。どうか死ぬ事を受け入れないでほしい。
そう言ったとしても、金剛は諦めた顔をするだけ。それでは駄目だ、まったく良い筈が無い。
ならばどうする。どうやれば彼女が生き残ろうと感じてくれるのか。
「これで終わりですかねぇ……残念です」
隣で座る青葉は、酷くつまらなそうに画面を見ていた。
明かる気な彼女の姿はそこには無く、あるのは外れの記事を書かされているような顔だけ。そこには同族が死ぬ事を悲しむ顔も、味方が同族を殺す事に悲しむ顔も皆無だ。
真実、隣の青葉もその精神性は他とは違う事が解る。
戦争であれば彼女のような人間性を持つ者も出るかもしれないが、それでも今現在においては場違いな台詞だ。
当然提督からは睨まれるが、姫とも対峙した事もある青葉にそんなものは通じない。
無視し、彼女はポップコーンに手を突っ込んだ。
「何か手は無いのか……」
「確率は零に近いです。正直私の信用度もそこまで高くはないものですし……やはりここは金剛さんが自力で立ち上がってもらう他にありません」
吹雪は言った、測ってやると。
ならば目的の達成条件は吹雪に認められることだ。再起し、奮起し、己の意思を確固たるものとして立ち上がらなければ目標への一歩すら刻めないだろう。
最後の最後。本当の一線。それを超えない限り、彼女にはまだ可能性が残っている。
答えに辿り着けるか否かはその時解るだろう。そしてその時になって漸く、彼女は産声を上げるのだ。
青葉は静かに、彼を見やる。焦るその顔は大規模作戦時の彼を想像させ、思わず声援を送りたくなってしまう。
まったくの別人。そうであると知りながらも、根幹も含めて目の前の男もまた彼と同一なのだ。
辿り着いた先が変わっただけ。世界が違っていただけ。
だから、青葉は胸の奥深くに存在する本音を誰にも零さない。例えそれが、彼女の指揮官たる彼であったとしてもだ。
願わくば、もう一度立ちあがってほしい。吹雪の期待に応えてやってほしい。
吹雪の中には最早彼しか映っていない。一見周囲を気にしているように見えて、その実彼の為だけにしか彼女は考えられないのだ。
全てが元に戻るには、外の協力も必ずいる。その為には目前の男の存在が必要だった。
二人の存在が話している間、映像は吹雪と金剛が言葉を重ねる様を映している。
それを見ているだけの自分に、青葉は何と己は卑怯なのだろうと内心で罵った。
※reverse※
寒い。芯から凍るような錯覚を覚える。
倒れた身体には海水の青が襲い掛かり、生命の熱を奪おうと徐々に徐々にと身体を侵食していた。
それら全てが彼女の身体を覆い尽した時、金剛という女の人生は幕を下ろすのだろう。
それを恐ろしいと思う反面、致し方無しだとも彼女は感じている。
相手は戦ってきた中でも最強の一。百戦百敗が確定されているような存在なのだ。苦労に苦労を重ね、幸運に幸運を重ねたとしてもまだ勝ちには手が届かない。
反射による運動によって暫くの間は生存出来たが、そんなのは子供の浅知恵が如き代物。
純粋な技能により破壊されれば、後に残るはスペック差によるぶつかり合いだけだ。それでは勝てない。
だからこそのこの醜態。
無様だと自分を罵るも、そこから先には進めなかった。自分では諦めた訳ではないと思いつつも、身体の方が先に悲鳴を上げて生存を第一にしたのだ。
無理をすれば潰れる。艤装の状況が危険域である以上妖精達が無理をさせないようにするのは当然だろう。
吹雪に撃たれる可能性よりも、自壊によって死ぬ可能性の方が妖精達にとっては怖いのである。
「……無様だな」
吹雪の罵倒に、正しくその通りだと金剛は首を縦に振る。
艤装の起動が停止し、身体も襤褸切れが如し。そんな姿を無様と言われても致し方ない。
遠くでは加賀達の必死の声が聞こえる。
此方を救助しようとする姿も見える。
その悉くがただ立っているだけの吹雪の艦隊に止められ、逆に傷を負う状態になっていた。
これでは彼女達も金剛の後を追うだろう。事前に轟沈の可能性が示唆されていたとはいえ、自分から轟沈するような真似など認めるべきではない。
「敗北……デス」
「そうだな、お前の負けだ。そしてあの艦隊は全員轟沈する」
「……ッ!」
「何を驚いた顔をしている。当然だろう、これは殺し合いなのだから」
言って、吹雪は主砲を降ろした。
金剛の艤装が息をしていないことなど生まれたばかりの艦娘であっても看破は容易。最早戦う力が残されていないのであれば、放置をしても問題にはならない。
万が一の可能性ではあるが、敷波が怪我をしないとも限らないのだ。初の鎮守府での負傷がこんな下らない戦闘によるものだとなれば、彼の顔に泥を塗る結末となる。
情けない情報など微塵も書きたくない吹雪としては、それは断じて阻止すべき案件だ。
故に他を潰す。金剛の内部に居る妖精達が生存を第一とした以上
「そこで見ていろ。自分達がどのような決断を下したのかを。そして提督よ、私達に関わりを持とうと考えた事を後悔しながら見ると良い。次に此方に手を出すのであれば、私はお前の鎮守府を潰す」
彼女が目線で定めた相手は筑摩と電。
足止めをされただけであるので消費したのは弾薬と体力だけだ。加賀の艦載機は潮によって容赦無く落とされ、白露や陽炎に至っては魚雷によって中破にまでは追い込まれている。
一番可能性が高いのは二名。そして二名だけであれば、特に問題にはなりえない。
それを見て、金剛は目を見開いた。
確かにこの戦いは演習ではない、誰かが死ぬことを想定された殺し合いだ。故に一番衝突していた自分が先に死ぬだろうと確信していたが、ここにきてその予測が変わってしまった。
金剛は一番最後に殺される。戦力が無いから、唯一提督から特性のカメラを渡されたから。
他の子達には通常の通信装置だけしか乗せていない。だからこそ提督が後悔するように金剛を態と生かした。
――ナンダ ソレハ。
声にならず、されど心の底からの感情が湧き上がる。諦めという暗い炎を飲み込む、青い炎が燃え上った。
ルール通り、規定通り、約束通り。成程確かにその通り。道理に沿った、何ら間違いを犯していない行為だ。
しかし、吹雪は間違えている。最初に倒すべきはこの金剛であって、他の誰でもないのだ。
見せつける殺人など良いものではない。人間性に反しているし、常識的に考えてしてはならない。
他人を見下すからこその行動だ。相手は格下だと、何をしても反逆をしないと感じているからこその、残虐極まりない所業に他ならない。
それを黙って見ているだけで良いのか。徒に海に身体を侵食させても構わないというのか。
答えは否。断じて否。
仲間を殺されそうになって激怒しない艦娘はいないと信じている。
己は、ただ見ているだけの愚か者ではないと信じている。
意識は己の艤装に。強制的に起動させようとするのを妖精達が抑えるが、そんなことなど知るかとばかりに全ての状態を稼働にまでもっていく。
主砲の残りはあと一門。撃てたとしても艤装の状態から鑑みて一発のみ。それ以上は確実に自壊する。
機銃は全て崩壊。
装甲も役立たず。
ならば重石となる物全ての廃棄を命令。三式弾の弾を全て捨て、徹甲弾の弾も一発だけを残して放棄。
使えなくなった機銃も主砲も捨て去り、後に残るは僅かな装甲に無事な主砲一門のみ。
それだけ減れば身体も大分楽になる。少なくとも、このまま全力稼働を行えば立ち上がるのも可能だ。
しかし、このまま立ち上がって素直に撃っても当たらない。
ならば卑怯と思われようとも、このまま撃った方がマシだ。当たらないとは思わないで、当たると確信して引き金を押そう。
静かに、可能な限り音を立てないように砲塔を動かす。
筑摩達の元へと向かおうとする彼女は振り返る気配を見せず、絶好の的だ。
勝負は一時の瞬間こそが鍵とされる。その瞬間毎に全霊を捧げられるのならば――――勝つのは自分だ。
「――Fire」
言葉と同時に主砲が発射された。
超至近距離での戦艦クラスの主砲。余波だけでも海面が抉れる姿が見え、吹雪の胴体へと必殺の一撃が叩き込まれる。
「……」
だが、彼方も彼方。
後ろを振り向いていたとはいえ、背後に意識を向けていない訳ではない。
即座に足を横に動かし主砲の一撃を回避した。が、如何なる奇跡が発生したのか砲撃は当たらずとも掠りはしたのだ。それは頬に小さく切れただけであるものの、それでも立派な傷である。
つまり、戦艦でも確かなダメージが刻めることが図らずも証明された。
主砲の衝撃を利用し一気に立ち上がる。身体はふらつき、意識をどれだけ集中させようとも装備の殆どを捨て去った彼女の姿は頼りない。
吹雪はその姿を見て、再度彼女と向き合った。
眼光を鋭くさせる金剛には暗い輝きなど無く、あのたった一瞬の言葉がどれだけ彼女を怒らせる要因になったのかを容易に想像させる。
我を忘れたという程でもない。それはさながら、怒りを抱きながらも冷静に対処しようと考える戦士のそれだ。
戦艦としてなのか。彼女の矜持が故なのか。いや、これはそういったものではない。
彼女の気持ちが解る。解ってしまう。共感を覚え、どうして立ち上がったのかを否が応にも理解させた。
このまま潰されるだろうとは考えていない顔。
無謀が過ぎるその思考は、こんな極致だからこそ必要となる。嗚呼、そうだとも。
これこそ戦艦だ。これこそ金剛だ。
危険になればなる程に普段の明るさとは正反対の必死さを見せる誇りある一番艦。優雅な勝利など求めず、泥臭い勝利であろうとも勝ち取ろうとする様は、吹雪にとって何よりも嬉しいものだ。
まだまだ立ってくれるか、此方を打倒しようと思ってくれるのか。
そうならば、まだそう考えてくれるのならば。
相手は満身創痍だ。倒そうと思えば簡単に倒せる。此方が移動しながら主砲を撃てば、それだけで勝敗は決するだろう。
本来ならばそうするべきだ。安全安心の指針を取り、そのように動いた方が負けの率は低い。
「フブキ……」
だが、彼女の目が語っている。
その怒りの中でも確かな確信を込めた眼差しを送っていた。
お前がそれをするというのならば、つまり此方に臆したということになるぞと。殺し合いには勝てても、精神的には自分に負けたと感じる結末に終わるぞと。
それは認めてはならぬ領域だ。彼の初期艦である以上、他者に舐められて終わりになどさせはしない。
轟沈を狙う。もしかしての可能性すら捨てさせる程に、彼女の轟沈を狙うのだ。
無言で、かつ迅速な動作で吹雪は進む。本来の砲雷撃戦ではない、純粋な殴り合いを選択した結果両者の距離は一気に近付き、損傷度合いの差をより強調させる。
金剛の目に、吹雪の姿は見えない。
相手は確実に此方の見えない域の速度で移動と攻撃を行うのだ。最初と同様に、目で対応するだなんて芸当は吹雪クラスの熟練者でなければ到底出来はしない。
金剛達にはそれが無く、故にこそ本能任せの反射で全て対応していた。
通常であれば、同じ流れが出来上がる筈だ。そうなるのが
吹雪の出現箇所は己の普段よりも少し上の位置。放たれた蹴りは金剛の顔面を狙ったものであり、当たれば確実に彼女の首は歪な方向へと曲がるだろう。
「――は」
その未来は必定。必ず訪れるものである。
現状を脱する程の何かが無ければ、金剛はこの状況をどうにも出来ない。
負けるだろう、敗北するだろう。そんな未来が、されど金剛の目には微塵も見えていなかった。
ただ栄光が欲しい、例えそれが今は高望みであろうとも、それでも負け続けては意味など無いのだから。
化け物と戦うには、自分も化け物にならねばならない。しかし金剛にはその自力とも言うべきものが無く、またどれだけ底上げしようとも化け物である吹雪の打倒は不可能だ。
練度の差ではない。思いの強さが桁違いなのである。
吹雪の深度と金剛の深度では、圧倒的に金剛の方が浅い。
ならば、勝てる筈など無いのだ。その一点だけは曇らせることなど出来ない。
――――だが、敷波の目にはその条理を覆すような光景が広がっていた。
「嘘……防いだっての?」
蹴りの位置は顔のある場所からほぼ真横。
触れるか触れないかの僅かな差であり、遠目で見れば直撃していると思うだろう。
しかし実際には、吹雪の蹴りは金剛の手によって
誓って言わせてもらうが、吹雪は一切の手は抜いていない。
出せる速力は限界まであるし、放った攻撃には力が迸っていたのは確か。防御されようとも打ち砕くとばかりに出されたのは明確である。
にも関わらず、それは発生しなかった。
何が原因か。実は敢えて吹雪が手を抜いた?それとも力を受け流すような技巧ある技を金剛が使った?
「……ハ」
吹雪の目には、その異常の正体が鮮明に見えていた。
成程これならば起きてもおかしくはないと納得し、しかし同時に何たる馬鹿者だとも感じている。
茶色の瞳は湖面よりもなお濃き青。腕に走る赤い縦の亀裂。
破損した箇所を覆うように現れた黒い粘性の物体は傷の修復を行っているようであり、その部分一つを見ても生物的な動きを見せている。
正しく怪物。超常に届き、しかし別の物体へと移行とする様は破滅へと走っているようでもある。
艦娘の果て。辿り着く死体の行く末。壊れても壊れても、未練を抱えてしまったからこそ出現してしまう怪物の姿。
彼女の愛は、恐らく誰よりも深い。あの地獄のような海軍の中で共に駆け抜けたからこそなのか、それとも彼女の性格故か。目前で破滅への道を転がり落ちる彼女は、そうなってでもあの提督を守ろうとしていた。
辿り着いてしまえばもう戻れない。あの提督とも会えなくなり、そのまま海軍の標的にされるだろう。
なりたくないと思っても、始まってしまえばもう無理だ。
そして彼女は今、戻ろうとは考えていなかった。自分の中の変化を自覚し、それを飲み込んだ上で突き進む。
片道燃料上等。吹雪に勝って認めさせる為ならば、あの提督の役に立つ為ならば。
「――勝ツ」
進行が早まる。
握り潰さんばかりに足を掴む彼女はそのまま吹雪を片手一本で投げ飛ばす。回転をしながら飛んでいく彼女には今現在上下の間隔というものが皆無であり、空中に浮いているのであれば予測射撃も容易。
粘性の物体達によって傷の修復が行われ、身体は主砲を撃てる程度にまでは回復した。
しかし弾は捨てたのだ。このままでは撃てない。
ならば殴るのみ。修復された主機をスペックを超えて動かし、彼女は既存の高速戦艦を超える速度で接近した。
それは瞬間移動という程早くはないものの、それでも普通の艦娘であれば目視するのが困難になる程。
愚かなまでに自分を捧げる彼女だから出せる、自爆覚悟の強化だ。
よってその力は通常を超え、頂点を狙えるようになる。残りの己の人生を棒に振ってまで得たからこそ、寧ろそこまで届かない訳が無かった。
通信装置からは先程からずっと連絡が入っている。壊れかけてしまっているのでノイズの強いモノとなってしまっているが、それでも僅かに混じる提督の声には必死さがあった。
愛されている。そう思うことが出来れば、今の彼女にとっては十分だ。
情けない負けは許さない。あの人が見ているのだから、最後に勝って笑ってみせる。
その時が金剛型戦艦一番艦の最後であるのは、無論承知の上だった。
「深海に染まってでも勝ちの目を拾うか。……上等だ」
決死の覚悟程生き物が輝く瞬間はない。
彼女が自分の人生を全て消費してまで吹雪に全霊をぶつけようとするのならば、此方もまた全霊をぶつけるのが筋というものだろう。
相手は深海に落ちかけた戦艦。その強さは一艦娘を超えるところにある。
もしかすれば、彼女の心意気次第で吹雪達の世界の深海と並べる可能性もあった。故に、研ぎ澄ます。
負けられないのは此方も一緒だ。あの人が見ているのであれば、尚更に無様な姿は晒せない。
肉体の破損を許容し、艤装の破損を許容し、生命に危機が及ぶのを許容する。
大規模作戦の最終海域。そこに存在していた歴代の戦艦クラスの姫達と目前の金剛を重ね、吹雪は不敵に笑う。
これより始まるは地獄。ただの艦娘では巻き込まれただけで死を意味する、真の決闘。
戦わなければ生き残れない。生き残りたいなら戦うしかない。
殺害こそが唯一の脱出方法に他ならず、ならばこそ最後まで立っていられるのも一人だけ。
誰もが手を止めたまま、二人の行方を見守る。優勢なのは依然吹雪とはいえ、それでも逆転の芽が生まれたのだから油断は出来ない。
――――狂え、狂え、どこまでも。
狂い続けて華となれ。戦場であるからこそ、その華は他の何よりも輝き続けるだろう。
一直線に滑り、彼女達は突き出した拳をぶつける。それこそが、この地獄の開始だった。