燃えている場所が、そこにはあった。
火災は瞬く間に広がり、煙はそれ以上に広がり、建物内で活動出来る人間はそこには存在しない。
逃げようとして逃げ切れなかった炭がある。煙を吸い過ぎて倒れた肉がある。
無数の躯が道の途中途中で発見され、この火災の進行スピードが如何に速かったのかを切実に表していた。
生き残っている者などもう居ない。例え居たとしても数秒後には同じ状態にへと姿を変え、もう二度と元には戻らないだろう。
此処は海軍施設の一つ。
多数の艦娘を擁していた単冠湾泊地。今ではもうその機能は皆無であり、無事な人間もまたいない。
けれども、同時にこの火災現場では一つの異常があった。
死体の形状が解らないものがある。そもそもにして炭だけになってしまった者もいる。そういった諸々の要因を排除すれば、残っている死体の全てが男性のもの。
女性の身体は一つとして存在せず、そして同時に妖精のように小さい死体もまた存在しない。
工廠と呼ばれる施設群には艤装の姿も無かった。それだけでこの事態を引き起こした者の正体が知れるもので、実際泊地の外の海を見れば燃やした者がそこで立っている。
無数に並ぶ娘の姿。艤装を装着し、瞳に憎悪を宿し、手に持つ武器には弾が装填され、まだまだ足りないとばかりに撃ち込む姿も確認出来る。
その度に爆発炎上が続き、最早泊地という存在そのものが認識出来ない程に破壊されていた。
暫くの時間が過ぎ、燃える音以外の音が止む。
武器を降ろした彼女達の目にはもう泊地の姿は見えず、それはある意味彼女達には解放に見えただろう。
此処から先ではきっと地獄のような日々が待っている。この泊地を潰したのもそうだが、他から来ていた艦娘にも重症を負わせてしまったのだ。
お尋ね者になるのは避けられず、ならばもう何処か知らない島で暮らすしかない。
暮らすにしても様々な困難がある。敵の警戒もしなければならず、食糧問題も解決しなければならない。
いくら相応の練度があっても彼女達は未だ強者の部類に入らない。
精々中堅といった程度であり、故にこそ不意の攻撃に完璧に対応出来る保証などどこにもなかった。
――――否。
違うのだ。そうではない。
彼女達はこうした破壊活動など行いはしない。酷使されようとも残っていたのは野良として生きれる自信が無かったからであり、故にこそ本来の彼女達であれば絶対にこのような事態など引き起こさなかった。
狂っている。諸々の情報全てが、そう矛盾を示しているのだ。
どうして彼女達は破壊を決めた。どうして彼女達は野良になる事を決めた。どうして彼女達は、そのような思考に至ったのか。
その答えは、至極あっさりと解決した。
水上を滑る一つの音。軽快な動作で彼女達の前に出た人物は両手を広げて笑顔を作り、彼女達の中で僅かに残っていた愛国心を潰す言葉を投げ掛ける。
「これで、全て終わりデス。何もかも」
改造されたかの如き巫女装束。
主砲は彼女達が見てきたどの物よりも強力であり、彼女本人の姿も僅かに異なっている。
しかし彼女自身の顔の作りや髪型が変わっている訳ではない。何よりも彼女の口調がそのままなのだから、目の前の人物が誰であるのかなど解って当然だ。
金剛型一番艦・金剛。
改二へと変わっている彼女の存在は他のどの艦娘よりも強大無比として彼女達の目に映り、多大なまでの畏怖を覚えさせる。それが如何に無意味であろうとも、それでも彼女達は礼儀を込めて頭を下げた。
「有難う、ございます。これで私達は自由です」
頭を下げた彼女――衣笠は他の艦娘達の代表としてひたすらに頭を下げ続けた。
それを見ていた金剛は小さく息を吐く。別段、感謝をしてもらう必要などないのにと心の隅で呟きながら。
彼女の行為は言わば得点稼ぎだ。彼に対する、明確なまでの意思表示である。
苦しんでいる艦娘を助ければ彼は喜ぶ。幸せになっている子達を見れば頬を緩ませ、ケッコンを想像してやはり頬を緩ませ、兎に角艦娘達が喜ぶ姿を見せれば彼は笑ってくれる。
ならばこそ、その中でも特に彼の心を掴み続ければ、何時かはケッコンに至れるのではないだろうか。
そう、あの江風のように。彼女から提督を奪い、自分の伴侶とする。
金剛の目的はそれであり、目前の彼女達はその為に煽動されて犯罪者へとなった。
勿論の事だが、衣笠達はこれでももう海軍から沈められても文句を言えない。正当性はどちらにもあり、どちらにも無いのだから、後は潰し合うしかないのだ。
このままであれば衣笠側が負ける。それは必然で、どんな馬鹿でも簡単に考え付くこと。
ならばそれに関するケアもしなければならない。
同じ犯罪者として、金剛には衣笠達が自立するまでの面倒を見る責任が発生してしまった。
「取り敢えずはこのままテイトクの元に行くネ。Story's from it」
「解りました。道中の護衛はお任せを」
今は人手が兎に角欲しい。最後の青葉の情報からも流れてきていたが、やはり彼の方は艦娘がそれほど集まっていないようだ。
勿論護衛に支障が出る程ではないが、それでも戦力が少ないのは問題である。
早急に解決する為にも、手頃な駒は用意しておいた方が良い。仮に捨てる必要があったとしても、適当な理由を付けて処分も視野に入れる事が可能だ。
つまるところは特に問題無し。彼ならば問題無く受け入れてくれるだろう。
金剛達が到着する頃には鎮守府も機能を開始しているだろうから、衣食住の心配もそれほどではない。
強いて言うとすれば、暫くは食糧問題の為に三食魚介類になるだけか。それならば、問題の一つとしなくとも何とかなるだろう。
「それじゃあ行くネ。くれぐれもテイトクに失礼の無いヨウニ」
手を一回叩き、場の空気を入れ替える。
全員が着の身着のままであるが、飲まず食わずで走ったとしても一日も掛からない距離に彼の鎮守府は存在しているのだから彼女達には何の準備も必要ではない。
寧ろ必要なのは彼の前に立つ事によって睨むであろう金剛の同僚達の視線に耐える胆力。
金剛自身は表だってソレを出している訳ではないものの、それでも滲み出る圧は通常の彼女であれば考えられない程重苦しく冷たい。
死人の肌を触るよりも彼女の身体から発する圧は冷たいのだ。
そんなものが常時発露されているのだから、衣笠達も決して油断は出来ないと整列を崩せない。
その姿に金剛は再度小さく息を吐き、GOと拳を小さく突き出して主機を稼働させた。
妖精達の統率にも乱れは無く、主砲の用意をする小さな存在一人をとっても微塵も揺らぎがないの流石だろう。
帽子を振りながら愛想を振り撒く者も居るが、そういった個体は直ぐに同僚に頭を叩かれて何処かにへと引き摺られていく。
しかしその姿は、衣笠をして実に自然な姿として映った。
※reverse※
単冠湾泊地壊滅。
その情報は日本国内に瞬く間に広がり、野良艦娘達の間でも一躍大きな話題となる。
主犯格はかの泊地に在籍していた重巡であり、他に在籍していた全ての艦娘を率いての一斉反乱。突発的な行動によるものか生存者は存在せず、反乱を行った艦娘達も既に姿を消している。
見つかったのは大破寸前の艦娘のみ。その艦娘達は他の鎮守府からの出向組で、この泊地が再度戦力を充実させるまでの警備活動を主任務としていた。
その艦娘からの報告によって此度の破壊が反乱によるものだと判明したのだが、それ以上は未だ不明。
行き先も無い大規模部隊など早々に判明するだろうと思われたが、偵察機による活動も空しく彼女達の姿はまるで発見出来なかった。
既に大規模作戦が終了して四日が経過している。
艦娘達の怪我も万全と言わないまでも回復し、相応に元の任務にも戻り始めている頃だ。
当然このような事態が起きた以上他の鎮守府の状況も確認せねばならず、現在全ての鎮守府に向けて一斉に査察団が向かっていた。
その殆どを構成する人物達が非艦娘派である。
当然その査察も厳しいものとなり、特に重巡以上の艦娘達に対する意識調査は比べものにならない程に厳しい。
一部の場所では暴行もあったのだというのだから、中々に極まっているとすら言えるだろう。
そういった事態が起きているからこそ、西方の鎮守府のトップを張っている彼も溜息を吐いていた。
幌筵には少しの間しか滞在する事は出来ず、一応の話し合いまでしか終わらせられなかったのは彼にとって悔しさを感じるところだ。
内容が内容だけに他の艦娘達には聞かせられず、現状彼の胸の内を理解しているのは第一艦隊旗艦の金剛とその泊地のトップである提督だけ。
ある程度は互いに同じ結論を弾き出せたとはいえ、それでもまだまだ詰めが終わっていないのだ。そんな状況で大本営が余計な活動を行い始めたのだから、正しく今の彼には邪魔にしか見えなかっただろう。
「あー、何ともはや……」
執務室の椅子に座り、天井を何とは無しに見つめる。
急ぎの書類は無い。大規模作戦終了直後であるが為か新たにやってくる仕事も無く、現在は常の哨戒に攻めて来る敵の迎撃だけに留まっている。
それら全ては彼の保有する第二部隊と第三部隊が行い、恙なくその全てを達成していた。
本来であれば第三と第四はかの泊地で警備や撃滅を行っていた筈である。しかし、善意によるものか他に協力者が出現したが為に後に彼が向かわせた部隊は第四のみ。
そしてその第四が活動する日も意外に少なく、数日前から此方に戻れる程かの泊地の戦力は一時的に充実していた。それが今回彼にとって功を奏した結果になった訳だが、しかし実際変な虫に動き回られるのは面倒だ。
そう思った直後に、扉を叩く音がした。
姿勢を正し、声を出して入室を促せば、入って来たのは第四部隊のメンバーだ。
第四の仕事は主に遠征。この鎮守府を円滑に運営する為に必要な仕事であり、同時に遠征をしながら練度の低い者達の向上も図っていた。
その為か並ぶ四人の内の二人は新人だ。
今や一つの鎮守府を獲得した江風からの贈りモノ。最初は怯えていたものだが、今では時折笑顔を見せてくれるようになった駆逐艦達。
確りとした敬礼をしながらでの挨拶は、もう此処の一メンバーとして立派だった。
「朝潮、ただいま帰還致しました」
「ごくろう。成果はどうだい?」
「無事に成功です。大発動艇のお陰で通常よりも多く資源を確保出来ました。報告書は此方になります」
駆逐艦らしくない酷く真面目な態度、と言うべきなのだろうか。
彼女は他のネームシップ達に比べて真面目さに重点を置いている。これが白露であれば一番だ一番だと騒ぎ、吹雪であれば快活に笑って報告するだろう。
その点彼女は真剣な表情で、かつ解り易く短い言葉に纏めてくれている。
此方の手間を省く為に報告書の内容も詳細で文句の付けようもない。人によっては堅苦しいとすら感じるだろうが、彼女のそういった気風は仕事という現場においては重要だ。
報告書を見つつ、横目で朝潮の隣に立つ菊月を見る。
最初の内は彼女もまた大分震えていたものだが、睦月達姉妹のお陰か最近では柔らかい雰囲気を纏っている事が多い。無論提督である彼の前では部下としての態度を崩さないし、サボりがちな子が少なからず存在する中において彼女は確り公私を別けている。
それはそれで寂しいものだと内心思いながら、受け取った報告書を秘書艦である電に渡した。
無言で書類整理をしていた彼女は彼の紙を受け取り、遠征と書かれたファイルにそれを入れている。
既に数十冊にもなった遠征ファイル。あまりにも膨大な数のソレは整理するだけでも一苦労で、普段から列を整えていなければとてもではないが投げ出したくなる量だ。
積まれている各種書類も決して少なくはなく、普段よりは仕事は少ないとしても彼本人が書くべき類の物は相変わらず机に鎮座していた。
「……朝潮達もそろそろ馴染んできたみたいだね。どうだい、最近は」
「は……、至って平穏そのものです。過酷な労働も覚悟していたのですが、規則的に道理が通る現状は大変好ましく思っております」
「そうか、そいつは良かった。これで
「そッ、そうですね……。そうだと思います、はい」
唯一彼女の欠点があるとすれば、それはやはり江風という存在そのものだ。
朝潮は彼女を恐れている。自分で選んだ道なのだと、そう言われた朝潮の中には何時か未来で対峙するかもしれないあの黒い姿がずっと脳裏に浮かぶ上がっているのだ。
その度に身体は震えていて、どうしようもない程に身体に力が入らない。
勝てるビジョンが無いのである。例えこのまま練度を上げ続けたとして、それでもまだ勝てる見込みは皆無だった。本当にあの怪物を倒すというのであれば、更に強くならなければならない。
練度の限界点。九十九を超えた、その先へ。
しかし朝潮にはそれ以上に練度を上げる方法を知らない。そもそも、九十以上になった艦娘という存在自体を彼女自身は目にした事がないのである。
四十ならまだ解る。五十でも同様。六十から不安になり、七十で数は極小に。八十台に至ってはそこまで行けたこと自体が奇跡の内に入ってしまう。
故にこそ、彼女には九十九という数字が一体どれほどの強さに直結するのか解らなかった。
自身の十倍か?百倍か?一千倍か?――それとも、もっと強いのか?
解らない。解らないからこそ、不確定要素を嫌う朝潮の頭脳は江風に勝てるビジョンを想像出来ない。
「……すまないな。お前に彼女の話題は避けるべきだったか」
先程までとは一転して動揺が混ざり始めた彼女に、素直に彼は謝罪する。
如何なる事を言われたのかを彼はまだ知らない。無理矢理言わせることもせず、それにどうせ話したところで直ぐに解決するものではないだろうと敢えて何も聞かなかったのだ。
しかし、現状は急速に変化を始めている。
金剛の報告が騙されたものでないとするなら、もう間もなく彼女は大規模な集団を手にするのだ。
そこに在籍する者達の大多数が既存の枠を超えた怪物集団。姫を相手に容易く突破する連中を引き連れるのだから、正しくこの世界最強の集団になるだろう。
今の海軍ではもう止められない。今までのツケがやってきて、恐らくこのままならば彼女達に潰される。
直ぐに訪れるかどうかまでは解らないにせよ、何もしなければ彼女達の時代が来るのだ。
故に、もう江風の話題を避ける事は出来ない。それをしたところで、他の提督達が話してしまうだろうから。
「だが、事態が急変した。もう以前のようにはいかない。我々は早急に動かなければならないんだ」
「と、言いますと」
「泊地の一つが潰された。首謀者はその泊地に在籍している重巡達だと思われるが……それにしては位置が怪しい」
単冠湾泊地の位置は北方側だ。
そして北海道寄りの無人島に江風達は集まっている。更に言うのであれば、単冠湾との間には因縁もあった。
これだけで断定する事は出来ない。出来ないが、しかし何か関係していると見るのは一度でも彼女と関わりを持っていれば想像出来てしまう。
あの期間に彼女達がはたして他所を襲える時間があるのかとも思うが、事前に泊地に在籍する者達を誘導するくらいは可能だ。接触出来て、しかも現在の彼女達の境遇を聞けば、海軍嫌いの艦娘は何かしらの行動を起こす。
今回の江風の一件と泊地壊滅の一件が別件であるとはとてもではないが彼は思えなかった。
それこそ、裏で彼女が手を引いているとすら考慮しているのである。
もしもそうであるならば、結局あの伝言内容は嘘ということも受け取れるだろう。
相手の油断を誘うのが目的で、あの言葉でなくとも良かった。少しでも相手が時間的に余裕があると認識してくれれば、彼女達の活動内容にも少しの余裕が生まれる。
つまるところ、全部想定の範囲内。
釈迦の掌で踊るが如く、彼もまた彼女の掌で踊っていたとしたら、これ以上無い程の悪夢に違いない。
そうでない事を祈りたいのが彼の本音であるものの、艦娘と海軍の確執は根強い以上否定は不可能。何時一斉に人間を見限るかも不明な現在において、ある意味この行動は野良艦娘達が活動を活性化させる一要因になりかねなかった。
「早く真偽を確かめなければならない。出来ることなら……そう」
――――彼女が本格的に爆発する。その前に。
机に並ぶ破壊された泊地の写真が載った資料に視線を移し、彼は静かに呟いた。
※reverse※
海軍は変わった。
男が戦場に出る機会は無くなり、人でない者が戦場に出現し、海上に立つのは機械の塊ではなく肉の塊。
女だけとなったその場所は昔の戦争を想起させず、されど嘗てを思い出させる艤装が否応無く彼女達が軍艦からの生まれ変わりであることを告げている。
戦争の規模は縮小し、港の大きさも変化した。各種支出の割合も変わっていき、これが新世界の戦争である事を軍人は理解したのである。
納得しなければ軍にはいられない。女を戦場に出したくないなどという言葉は既に時代遅れであり、実際に口にしたとすれば同僚から白い目で見られる事は確定だ。
今や戦争は女が戦うものとなった。最新の教科書にもそう書かれ、過去の戦いの記録は徐々に塗り潰され始めている。
残っている詳細な前大戦の内容は最早軍学校という限定された場にしかなく、それが如何に悲しい事であるのかなど一般の人間は誰も理解しない。
彼等が犠牲になったからこそ、この時代がやってきたというのに。
生きているだけで最高だと、誰かは言った。
その男は一人の提督であり、階級は大佐である。年齢は比較的高めであるが、それでも将官クラスからすると十分に若い部類に入るくらいの男だ。
軍服を着ているのが当たり前。外出する姿を艦娘達は一度として見る事は無く、あったとしてもそれは本営に向かう時くらいなもの。
書類仕事も編成もきっちりとこなしているが、彼が他の部屋に居る所を艦娘達は誰一人として見なかった。
工廠にも、食堂にも、ましてや自室にも――――彼がそこに居る所を見た事が無いのである。
手元にはタバコが一つ。
窓を開けて普段の書類整理をする姿はいっそ機械的で、その姿が日常的である事は秘書艦が何も言わない段階で解るというもの。
紫煙は静かに消えていく。
響くのは万年筆を走らせる音に、時折飛び交う秘書艦と提督の事務的な言葉のみ。
それ以外は常に無言であり、艦娘達は裏で彼の事を機械提督と呼んで不気味がっていた。
「飛鷹。警戒体勢を常に厳としておけ」
「かしこまりました」
提督の言葉に飛鷹は理由を聞かない。それは信用も信頼もしているのではなく、実績によるものだ。
彼が資料を眺め、告げた言葉は大体が正しくなる。如何なる予想を立てているのか、偶然とは思えられない程の数々の言葉は飛鷹達艦娘を確かに助けていた。
それが今回も起きたとするなら、直ぐに厳戒態勢にせねばならないだろう。
彼がこう言うならば、恐らくは最悪の事態に繋がる出来事が必ず起きる。その時に不気味がって聞かなかったでは解体は免れないし、自身達がただ情けないだけだ。
失礼しますと静かに席を立ち、彼女は執務室の外に出て艦娘達の住まう寮に向かう。
それを見ていた彼は再度タバコを吸い、手元の資料に目を落とした。
「次は
小さな呟きには合わない多量の熱を帯びた言葉の羅列。
機械と呼ばれた男に不似合いなその熱量は、ただ一枚の写真にだけ注がれていた。
資料の内容は他の提督が持っていない、言わば独自で調べて手にしたもの。解像度は荒く、そこに写った者の正体をモザイクでしか判別出来ない。
しかしそれでも彼にとっては十分だった。そこに写っている者は他の提督が見れば決して解らずとも、彼だけは
「お前を必ず助けるぞ……霞」
静かな部屋の中で、男の言葉は静かに溶けていった。
墳式任務の為に翔鶴を改二にしなきゃいけないのに調べを怠って葛城を改にしてしまった……。しょうがないから正月に翔鶴を改二にしよう。