後は伊26やあきつ、プリンツといった子達を掘るだけ!頑張って完走目指します!!
晴れた朝の空を眺め、江風は一人考える。
緊急の仕事は無い。
頼まれた仕事も普段のもの以外は無く、それさえ成長していった子達のお陰で無くなろうとしている。
未だに新人の域を出ない子達には付き添いをしているものの、それでも今現在においてある程度の練度を持っているグループは付き添いが無くても無事に任務を完遂するようになっていき、このままいけば輸送任務の類は全て彼女達が行うようになるだろう。
そうなれば彼女の役目は出撃のみ。そちらの方が重要であるが、確実に今現在の子達との絡みは薄くなる。
逆に濃くなるのは古鷹や利根だ。
最近は噂を聞きつけた別海域の子達が来るようになり、受け入れ体制に綻びが目立つようになってきている。
一度に数人程度であればまだ許容範囲内だが、一度に数十人ともなれば別のマニュアルを用意せねばなるまい。
他の子達に手伝ってもらうのは勿論のこと、それ以外にも教官の数を増やすかという話も既に出ている。
候補としては那珂、木曾だ。
川内達には些か信用出来ない部分が大きく、故に後は了承次第で彼女達も出撃する頻度が落ちていくのは決まっていた。
この北方の派閥も次第に巨大になっていく。
何時かは無人島に居る事も不可能になり、別の拠点を探すことにもなるだろう。一種の本部と支部のような括りになるのは明白であり、であれば誰かしらを代表にしなければならないのは必定。
江風はそれを一番最初にやってきた神通にでも任せようとしているが、トップたる響は江風をその座に付かせようとしていた。
響からすれば彼女は依存したくなる程に強く、本人は理解していないものの野良艦娘を集めるという手段にかなり強く貢献している。
仲間内からも彼女の評価は上々。一部の者達からは直接の指導を願う声もあり、されど江風のスペックが突然変異であると解っている響は優しくその声を却下していた。
彼女達があの強さに焦がれるのも理解出来る話だ。あれだけあれば生きる手段など幾らでも見付けられるし、協力体制を取るにしても優位な立場を築き易い。
強さとは可能性を広げるものだ。であればこそ、それを利用しないという事を響は考えない。
最早江風は仲間である。相応の強さを持つ者が他の者達と同格の仕事をしているなど有り得る筈も無く、その力に合わせた責任者へとなるのは自然な事。
地盤固めは大切だ。特に理で動く者は、存外この島には少ないのだから。
勿論江風も響も理だけの存在ではない。比較的その傾向が強いだけで、互いに仲間思いであるのは確かだ。
そういった確信があるからこそ任せたいと、響は内心で考えている。
「あー、やる事が無い」
そんな事など露知らず、砂浜に倒れ込む江風の口からは退屈という成分を多分に含めた声が出た。
新人教育は古鷹達の仕事である為、不必要な接触を起こして変にしてはならない。
輸送任務も今回は彼女の出る幕は無く、何よりも他のメンバー達にやんわりと不要と言われてしまった。
残るは島での手伝いくらいなものだが、曙の所には既に休暇を終えた複数人の子達が活動していた。
シッシッと曙に手で追い出されたのを思い出す。あれでは今日一日島で出来る手伝いはほぼ無いだろう。
とくれば、本当に江風には出来る事は少ない。
精々がリミッターの調整くらいなものだが、ソレは常の動作によって訓練されている。
重点は必要なのだろう。されど、早急に動いて直ぐに変化する訳ではない事を知っている為にゆっくりと進める事にしていた。
そうなるとどうしても時間が余る。何かをしていないととてもではないがこの無人島の一日の時間は長く、そしてそれを無駄に過ごす事に罪悪感を覚えてしまう。
こうしていて良い訳がない。具体的にどうすれば良いのかは解らずとも、怠惰に過ごす事など目前の幻影が許す筈が無いだろう。
「何かやる事は無いかな、江風」
『休息も大事だぜ。何時も何時も働いてばかりじゃ精神が参るだけだ。酒でもあれば酔うのも一興だけど、こういう場所に無いのは解っているからねぇ』
「さらっと酒の話題を出すなよ、絵面が酷いぞ」
しかし返答は、休息を是とするもの。
幻影自身も江風の日頃の活動はやり過ぎだと感じているのかもしれない。もしくは、単に今現在の作業の殆どが江風のすべき事ではないと否定しているのか。
どちらかは不明であれど、幻影が江風の身を案じているのは確かだ。それは江風自身も理解しているからこそ、軽口を叩くだけで別に何も悪感情を抱く事は無い。
暇であるのは平和な証だ。それが短い時間であれ、過ごせる内は素晴らしい事なのだろう。
そう認識し、実感し、されども退屈という病魔は身体を侵食するのを避けられない。故に娯楽を求めるのは必然で、理解はしつつも口から出るのは致し方無いものだろう。
そんな彼女の傍で足音が一つ。
近付く影に江風は身体を起こして振り向き、歩いて来る人物に対して彼も立ち上がって迎えた。
白い帽子に白の制服に身を包み、泰然とした様子で歩く彼女は響だ。
艤装の無い彼女は非常に華奢な印象が強く、同じ駆逐艦でここまでの変化があるものだと思わざるをえない。
そんな彼女は江風の隣に座り込み、暫く海を眺めた。
何か用があるのかどうかはともかく、こうして響が此処に来ているという事は仕事に一段落がついたという訳だ。休憩時間がどれほどであるのかは不明であれど、そこまで多くはあるまい。
「随分、暇なようだね」
「まったくだ。正直こうして暇になっちゃ退屈で仕方ない。何か仕事があるなら手伝うぜ?」
「残念ながら大丈夫だよ。此処も随分増えたお陰で元から少ない仕事を皆で奪い合うような感じだ。今回は作戦終了の報酬として休息をあげたけど、今度からは定期的にやるのも良いかもしれないね」
「ま、それで皆が喜ぶなら良いンじゃないか」
此処は鎮守府ではない。それ故に優先的に海域の開放を狙う必要は無く、もっと言ってしまえばノルマも無い以上必要最低限深海棲艦を討伐すればそれで良い。
戦果よりも命というよりも、戦果を幾ら稼いでも何か明確な報酬が出る訳ではないので命が最優先になるのだ。
そうなれば実質的な仕事の数も減っていくのは当然であり、新たな仲間を求めるのであればやはり海域の安定化は図った方が良い。
しかし今はまだ本格的な安定化には乗り出せない。質が高いとは言えない現状、こうして暇な艦娘が出て来るのも当然と言えた。
さて、そうして前置きの会話は終了した事で響は次の話題にシフトさせる。
流れるように話題を動かすのは会話という中においては常であるが、時にはいきなり百八十度も内容を変えてしまう者も居る。響もまた、プライベートな時間においてはそういった傾向があった。
「まぁね。……さて、そろそろ本題を話すとしようか。君も聞きたそうだしね」
「……厄介な情報でない事を祈るよ」
「残念ながら悪い報せだ。――――
和やかな雰囲気が、途端に絶対零度の空気にへと変貌した。
両者の顔は真剣そのもの。いや、響に至っては殺意を滲ませている。
深海棲艦の姫。ポテンシャルは艦娘数人分にも及び、大よそ艦娘単体で挑む相手でないのは確かだ。
種類は多岐に渡るが、どれも共通しているのは知恵がある事。そして強靭であるのも共通点として挙がる。
駆逐艦であってもそれは同じだ。侮れば倍返しが生温い程の痛手を受ける事になり、その結果として撃沈する可能性も多分に含めてしまうことだろう。
そんな姫級が発見された。
つまり、大規模作戦クラスの深海棲艦の艦隊が動いている事に他ならない。
響の説明は実に細かく、明らかに他からもらっているのは確かだ。江風の頭の中では以前の赤城との会話がそれかと当たりを付けていたが、実際それは正解だった。
北海道近くの島に集積地棲姫が出現。及び、その島には戦艦棲姫の姿が確認されている。
現在は他の鎮守府が集積地の資源を破壊し姫も狙っているが、拮抗状態のままとなっているらしい。詳しい情報までは入手出来ず、故に相手の具体的な編成も不明なままだ。
戦艦棲姫の存在が最も問題である。純粋な火力勝負となった場合、あの姫に太刀打ち出来る艦は少ない。
真の意味での高練度が存在しない日本の鎮守府では、直撃を受けた後には必ずの撤退が行われていた。
場所が場所だ。
此処まで影響が及ぶかどうかは不明であるものの、東西南北全ての派閥の中では響達が最も戦場からは近い。
姫がそのまま死んでくれればそれで良し。海軍が弱体化するまで放置するのもそれはそれで有りだ。
資源を蓄えられるのは響達にとってもあまり嬉しい訳ではないから、どちらに転んだとしてもやはり一度はそちらに向かう必要が出て来るだろう。
「撃破する可能性も踏まえ、可能な限り最大戦力でもって向かいたいのが本音だ。けど、もうすぐ海軍が件の対象に向けて大規模作戦を展開する。接近すれば、最悪撃ってくるよ」
「俺なら大丈夫な自信がある。だが、他のメンバーが問題だな」
北方側の鎮守府は大規模作戦には参加しないだろう。
あれだけ叩かれたのだ。元に戻すには時間が掛かるのは明白であり、故にこそ他の鎮守府群が参加するのは目に見えている。
響が想定している鎮守府は、やはり横須賀や呉といった有名所か。
どの艦娘達も練度は高く、そして数自体も多い。捨て艦戦法をするにせよ多少の被害は気にしない筈だ。
それに高練度の中には初期の頃から戦い続けている古強者達も居る。有名な艦娘を上げるとするなら、長門や大和のような戦艦や加賀のような空母だろう。
そんな大物が出張る可能性が極めて高い作戦だ。姫と戦う事自体が危険であるというのに、他の艦娘からも撃たれるのだから流石に危険が過ぎる。
そちらに向かわせるにして、最初は潜伏だろう。隠れて機を狙うのが一番良く、故にそれを納得してくれる者達で構成する必要もあるのだ。
「君を出すのは確定として、古鷹と利根には了承済みだ」
「となると、残るは三人か……」
候補に挙がるのはやはり最初期のメンバーだ。
しかし木曾は駄目だろう。流石に改装が完全な形で完了していない彼女を出すのは難しく、それを知っているのは江風だけだ。しかし練度が上昇する事によって異常が起きるというのは響達も知っているので、変化の起きていない木曾では足手纏いになりかねない。
それでも他と比べれば十分に高いのだ。これは純粋に変化前と変化後の差が大きいからこその問題である。
その差が大きければ大きい程に把握に時間が必要となる。完熟訓練というものだが、それがなければ予想外の失敗を犯す事になりかねない。
であれば、他の候補としては川内や皐月といった保護者組や曙のようなどれだけ練度が上昇しても変化の起きない者に限られる。
しかしそこに待ったを掛けるのは響だ。
「私達だけで攻略が上手くいく筈は無いだろうから、その点については鳳翔の所にも頼んである。もしかすれば赤城達の力を借りれる可能性も高い。向こうは姫を何人も潰しているからね、専門家が居た方が幾分安心感もあるよ」
「そいつは良い。空母や戦艦の力が加わるのだったら有り難い事この上無いな」
響の話は赤城から齎されたもの。
当然彼女達も姫の存在に警戒感を募らせているらしく、大艦隊になる前に叩きたいというのが西方派閥の総意だ。
その為に再度彼女達が此方に来るそうだが、総数は随分多くなる事が予想されている。
鳳翔が来る可能性が極めて高いのだ。攻略や護衛を含めれば、やはりそれなりの数にはなるだろう。
そしてこれは響には伝わっていないが、今現在において鳳翔は南と東にも協力を求めている。
姫は艦娘達にとって一番厄介な敵。放置するなど絶対に出来ないのだから、他の者達も動くに違いない。
さてそうなると、編成についてはよく考えなければバランスの悪いものとなるだろう。
鳳翔の部隊が何名になるのかは不明であれ、必ず戦艦や空母が前に出る。
護衛として駆逐艦を混ぜるのは必然であり、そうなると必要な装備群も膨大だ。
改に到達した者達が何故か持ってくる新たな装備を掻き集めたとしても、やはり現状全ては揃わない。
再度の結集になるが、今度は本格的な戦いだ。
こちら側が未だ弱い部類のメンバーばかりである以上、どうしても急ぐ必要が出てきてしまった。
「練度上げの時間を増やしてもらうよう利根達に頼むとして、輸送の回数も上げなきゃな」
「実戦を積ませる必要もあるね。此処の最強戦力が殆ど居なくなるから、あの子達で全部やらなければならない」
「こりゃ大仕事だ。今から曙の顔から煙が出るのが想像出来るぜ」
「高速修復材の消費も激しくなりそうだ」
双方溜息を一つ。
休日の平和から一転、地獄を走り回るような忙しさがこれからやってくる。全員の休暇はもうじき終わるから大丈夫だろうが、それでも押し寄せる負担の波に耐えられるのかと江風は胸中に幾ばくかの不安を抱くのだった。
ウォースパイトの声優さんって誰なんだろうか、激しく気になる。