江風になった男、現在逃走中   作:クリ@提督

24 / 49
 仕事が忙しすぎて更新が遅れてしまった。誠に申し訳ありません。
 PS.なんで夏グラに江風ないんやッ!あってもええやろ!!


望まぬ再会

 恐らくは、なんて低い可能性みたいに言っても俺の確信めいた予感は外れてはくれなかった。

 何処までも何処までもソレは付いて来て、挙句の果てには管轄外にまで首を伸ばしてくる始末。

 そこまでして俺が欲しいか。

 いや、そこまでして俺の嫁である江風が欲しくて堪らないのか。

 噴き出す怒りは過去最高で、握る武器から耳を不快にさせる金属音が鳴り響く。

 妖精が必死になって止めろと手を振っているのが視界に入り、物に当たるのは情けないかと息を吐いた。

 背後から二名ばかりの怯えた気配に、どうやら随分長い間怒りに身を任せていたのだなと悟る。隣ではようやく帰ってきたかとばかりに江風が呆れていた。

 現状は個人的には芳しいものではない。大和達の話は鎮守府に漏れていて、しかも今回の部隊には俺に縁のある者達ばかりが揃ってしまっている。

 単純な撤退では駄目だ。既に別の島へと逃げている彼女達とは別に手段を講じる必要があり、その役目は恐らく俺が担当すべきだと頬を叩いた。

 見える先には水飛沫と那珂達の部隊が居る。

 既に中破まで追い込まれているのか那珂の服装は中々に際どく、それだけ目前の相手の錬度の高さが伺えた。

 純粋に戦艦であれば那珂を潰す程の火力は出せる。

 後は命中精度次第だが、制空権を加賀に奪われている以上は弾着観測も十分に視野に入れておくべきだ。

 撃ち抜かれた後では遅い。

 であるからこそ、本当にそうなってしまう前にと朝潮や菊月に合わせて進んでいた。

 道中の深海棲艦も今は無視だ。砲撃の音が五月蝿いが、鼓膜を破壊される程ではないと回避に専念している。

 どうしても邪魔になれば、弾を使うまでもなく自身の四肢でもって粉砕するだけだ。脳味噌筋肉な方法であるものの、節約の為にはこうした方が手っ取り早い。

 

「木曾!戦況はどうなっているッ」

 

「――――江風か!?」

 

 一番近くに居た木曾に声を掛ければ、驚いた顔と声で此方に意識を向けた。

 その際に半ば無意識の領域で砲を構えようとしていたので、どうやら大分神経が尖っているのだろう。

 無理もないと結論を下し、現状の確認を促す。

 俺達が行くまでの間にどれだけの被害が出たのか、もう一つは相手に如何程のダメージを負わせてしまったのか。

 その二つに絞ってしまえば、会話なんて一分も掛からない。

 第一は、ほぼ全員が中破判定状態。那珂だけは大破に近い中破であり、それは随伴艦を庇った結果らしい。

 第二は、未だ健在であるということだけ。しかしそれだけで、如何に相手が強いのかも推し量れる。

 とにかく今は逃がす場面だ。知り合いの線が非常に濃厚であるあの部隊で俺が声を掛ければ止まってくれる筈。

 もしも止まってくれなければ、申し訳ないが実力行使だ。

 人質の一人でも確保すれば嫌でも停止するだろう。

 

「全員下がらせろ。俺が前に出る」

 

「…………すまん」

 

 木曾の絞り出した声に肩を叩いて返し、先ずは戦況の停止とばかりに現在行える最高速で艦隊が保有する艦載機を狙う。空母系は艦載機が無くなれば無くなる程にただの的へと近付き、そうならない為にと必死に回避行動を起こすもの。

 であるならば、不味いと手を引いてくれる可能性も無きにしも非ずだ。

 装備は連装砲。普通に考えて狙うべき相手は違うし、乗っている妖精達にも悪いが、落とさせてもらう。

 響く音は連続性を持ち、空中を飛ぶ一体にそのまま直撃。

 実際に目で見ているだけの動作だ。これといって特殊な真似をしている訳でも無いし、勿論薬物的なもので発生しているものでもない。

 ただ、どうしても遅かった。

 妖精達の判断が俺の身体に合わせて格段に早まり、同様に装填速度も上がっている。

 砲身には危険な戦場であるにも関わらず妖精が乗っていて、赤白の旗で撃つべきタイミング教えてくれていた。

 正しく彼女達が砲撃手。そう言わんばかりの仕事の見事さに、我を忘れて感嘆の息を吐く。

 二機が落ち、三機が掠った影響で海に落ち、されど頭上を飛ぶ群れは減ったようには見えない。

 だが確実に減っている。ならばそのまま、相手が下がらせるまで引き金を押すだけだ。

 何の事も無い。やるべきことは変わらず、さりとて守るべき対象が増えただけの話。

 以前であればもう少し程度深刻にも考えたが、こうまで妖精達が見事な仕事をしてくれるとなれば一々深刻そうな顔をしている方が甚だ失礼だ。

 それにこの身体は江風のもの。俺の精神性によって身体能力に悪影響を及ぼすのであれば、戦闘時においては絶対の自信を持って戦うべきだ。

 己が未熟であるだけ。身体の方は既に完成している。故に負ける筈が無い。

 自己暗示のように自分に言い聞かせ、腕は微塵も揺るぎを見せずに艦載機を撃ち落とす。

 その間にも木曾が話してくれたのか、撤退している部隊は遠くの海に確認出来るだけ。そちらの方にも艦載機が向かっているが、その辺は残っている子達が落としてくれるだろう。

 朝潮や菊月も生き残る為に砲を放っている。命中率はまだそれほどではないが、何時かは己と同等の域にまで到達してくれると信じている。

 

「よぉ」

 

 ――――故に、今はもうこれでお終いだ。

 落とすべき艦載機を粗方落とし、撤退する者は無視を決め込む。尚も機銃を向ける機体は居たが、恐らくは加賀からの命令によって何もせぬまま下がって行った。

 それらを視界に入れ、されど本当に見るべき場所は海上だ。

 二本の足で実に堂々と己の姿を誇示している様は似合っていて、先頭を進む彼女の顔は真剣の二文字のみ。

 真一文字に結んだ唇にはどうしようもない程に油断は存在せず、俺を視認してからはその目に一種の闘志を浮かばせて睨んでいた。

 金剛型戦艦一番艦。それは俺にとって非常にに馴染みのある存在であり、だからこそ強さも解っている。

 そしてその言葉は、他のメンバーにも当て嵌まっていた。

 

「Hey 江風!久し振りデスネー!!」

 

「はぁ?俺はお前とは初対面だよ」

 

「オレなんて言葉を使うのはアナタくらいデース。……姿が変わった程度で見抜けないとでも思ってイマシタカ?」

 

 舌打ちなどしない。これは当初から予定されていた事であり、向こうも俺が最初から隠すつもりが無い事くらいは考えている筈だ。

 故に馬鹿な会話をする必要など無いのだが、さりとて長話をしなければ時間というものは稼げない。

 面白い話の一つでもあれば良いのだが、と考えてしまえば金剛は突然笑い出す。それが決して馬鹿にしたような色を見せていないのは流石に解るも、どうして笑っているのかが理解出来ない。

 

「何だ、そんなに俺と会えて嬉しかったか?」

 

「Of course!やっとテイトクの目的の子に会えたのですから、喜ばない筈が無いでショウ」

 

 まだやっていたのか、と溜息を零す。

 そのやりとりに背後の二人が疑問符を覚えたような視線を向けるが、あまり返す気力はない。

 幻影の方もかなり機嫌がよろしくない様子だ。提督が欲する理由なんてこの世界基準に当て嵌めれば随分決まっているのだから、それもまた当然と言えるが。

 さてはて、ではどうしてという見当外れな言葉を口に出す。

 どうして西から北に来れたのか。島に居る仲間達の話が本当であれば、通常は此処には来れない筈なのだ。

 それこそ金で解決するだとか、或いは二つの鎮守府が合同で解決しなければならない問題が発生しない限りは有り得ないものだろう。

 まさかこんな場所で演習をする訳でもないだろうに。

 そういった疑問を吐露すれば、ああと彼女は抑揚に頷いた。同時、吐き出される息は非常に重い。

 次いで出てきた言葉は、最早愚痴に近いものだ。正直聞いていたくない類のものばかりであり、幾分か機密かと思えるような部分も暴露している。

 それを止めない辺り、彼女達も随分参っているらしい。あの元気印な白露が沈黙を保っているという時点で普通であれば目を剥くべきところだ。

 現状、彼女達の提督は資源を備蓄しながら江風を探しているらしい。加賀からの報告によって北に逃げたのは解っていた為、丁度発生していた大和姉妹脱走をネタに北の提督と接触したとか。

 どのような取引をなされていたのかは秘書艦の電しか知らないそうだが、顔面を蒼白にしていた時点で何かしら不味い取引をしていただろうとは予測を立てられるらしい。

 そうして準備し、こうして出撃と相成った訳だ。

 

「私達はオマケだヨ。今は北の子達が追い掛けてるんじゃないカナ」

 

 つまるところ、この時間稼ぎに意味は無い。

 電探や艦載機があれば俺達以上に索敵を行える筈で、そうなれば補足されるのも時間の問題。

 とすれば俺も早々に別れるべきだ。……尤も、今此処で背中を見せれば大破状態にまで追い込む気だろうが。

 此方の戦力をそのままの情報だけで鑑みれば、明らかな劣勢だ。このまま戦ったとしても負けは確定されていて、当たり前の話であるが鹵獲されるだろうことは確実である。

 捕まえる理由が情報を聞き出すではなく嫁にするというのだから結構アレだが、それでも一度捕まってしまえば今後の生活に支障が発生する。

 特に鎮守府所属の者達とは何かしらの溝は出来てしまうかもしれない。俺には彼女達の道理が理解出来ないし、彼女達も俺の道理は理解出来ないのだから。

 そうなれば流石に提督側も何かアクションを起こすだろう。それが監禁だとかになってしまえば、俺の生活は正しく奴の掌の中になる。

 ならばこそ、俺はこの戦いでは負けられない。攻撃を加えようとするのならば、最速で一人潰す。

 だがその前に、一つ話をしなければならないのも確かだった。

 

「そうか――ところで、お前達はドロップ艦が欲しいかい?」

 

「ウン?……まぁ、欲しいかと聞かれれば欲しいネ。もしかして後ろの二人?」

 

「そうそう、俺は生憎そっちに行く気が無いからその子達で妥協してくれ。戦力は多いに越した事は無いだろ」

 

 背後の二人を前に押し出せば、緊張した顔で前に立つ。

 敬礼までの動作は綺麗なもので、だが金剛が苦笑しているという事は表情はお察しに違いない。明らかな格上相手に怯えるなというのは無理があるし、誰もその点については指摘しなかった。

 これで西方陣営の戦力は増える。それがどう傾くかは解らないが、後は彼女が首を縦に振れば勝負開始だ。

 そして案の定、彼女は首を縦に振ったと同時に砲身を前に出した。

 狙いは俺であり、されど全砲ではない時点で本気ではない。他の皆も構えず、ただ戦闘の意思を見せるのは金剛だけだ。

 故に、これ自体が戦闘開始の合図である訳ではない。話は個人的にはこれで御終いなのだが、やはり彼女としてはもう少し話したい事があるのだろう。

 

「江風、アナタもウチに来てくだサイ。勝手な事は解っていますが、そうでなければあの人は戻ってこナイ」

 

「元からぶっ壊れてただろ。何せ初対面から嫁宣言するような奴だぞ。艦娘を死なないようにしているのだけはお前達を見たから解っているが、それで付いて行こうとは思わンさ」

 

 金剛としては早くあの提督を、いや鎮守府を元の状態に戻したいのだろう。

 俺がそこに行ければ全てが解決する。何せ俺という赤の他人を生贄に捧げるだけで終わるのだから、金剛からすれば一番手軽であるのは間違いない。

 だがそれでは江風という個体は誰一人として納得しない。寧ろ何だその理由はと憤慨するだけだ。

 俺もそれは一緒で、隣に浮かぶ彼女も無言でいながら背筋を冷やす威圧感を放っている。もしも彼女達が俺の隣に居る彼女を見れたのならば、まず撤退を視野に入れたに違いない。

 ともあれ、俺達の話はどこまでいっても平行線だ。

 どちらも妥協しないのならば敵対は何時かするだろう。その時に、俺と彼女達は殺し合いの関係になるのか。

 その可能性を考え、個人的には無いなと断定する。

 彼女もそれの筈だ。俺を捕まえるのが彼女の目的であって、俺を殺すのが目的ではないのだから。

 

 ――さて、細々とした言葉の羅列を述べるのはもう良いだろう。

 

 話すべき事は話した。勧誘はしても無駄であると解っていたから、敢えてしなかったのは正解だ。

 互いの機関が唸りを上げる。それに合わせて両陣の艤装も目的を達成する為に動き出し、俺の艤装の内部に居る妖精達も膨れ上がる闘志に牙を見せて笑い始めた。

 弾はある。身体の調子も問題なく、頭の方も冷静そのもの。

 何よりも守る必要が無くなれば、枷が何も無いと言って構わない。そんな環境であればある程、俺達にとっては非常に好都合になるものだ。

 

『撤退させるなら四人ってところか?大破にしちまった方が良いと思うぜ』

 

 江風の言葉を受け、狙うのならば誰にするかと算段を決める。

 駆逐は候補に入れるべきだ。状況によって相手が変わるとはいえ、帰還が困難になるようにはしたくない。

 ある種の手加減とも言えるだろうが、しかして今の彼女達の練度は最低でも五十を超える。油断すれば一発貰う危険性が高い以上は、やはり常套手段を用いていくのが安定だ。

 恐ろしいのはやはり金剛と加賀。あの冷静な目でどれだけ展開の予想を立てているのかは想像出来ず、かといって他を疎かにする事も出来ない。

 容赦は無用。出せる手札は全部出し切り、何もさせずに勝利する。

 最短コースを進むのだ。そして朝潮達を任せ、そのまま大和姉妹達の元へと進む。

 砲身を構えるような真似をしない俺の姿に金剛が少しの困惑を目に浮かべている。それを視認して――――内面でスタートと自分で告げた。

 爆発音が響き、自分が処理出来る限界でもって身体を跳ねさせ、たった一瞬で相手の懐に飛び込む。

 最初に狙うのは駆逐艦。何もせぬままに呆然と立ち尽くす陽炎に対し、俺がしたのは一発の射撃のみだ。

 

「……先ずは陽炎、お前だ」

 

 突き付けられた瞬間に、動きが止まる。

 その刹那の中で陽炎が此方を見たのを確かに感じて、防御をされる前に脇腹を撃ち抜いた。

 肉が消失したのが見え、同時に彼女の方にも確実に激痛が走った事だろう。口元に血が出たのを確認して、戦闘続行を更に困難にさせる為に脇腹目掛けて蹴りを放った。

 飛んでいく彼女の身体は三度バウンドし、叩きつけられるように海面に浮かぶ。

 今の蹴りでも何本か骨を折った。それでも戦おうと思えば戦えるだろう。

 恐ろしい話であるが、これでもまだ回復すれば元通りになるのだ。障害者にならない身体というのは、案外兵士としては最高なのかもしれない。

 尤も、確実に恐怖は刻み込んだ。苦痛に呻きながら顔を上げた彼女の目には意味不明な事態の困惑と、それを成した俺への恐怖で支配されている。

 別段何て事は無いだろうと更に砲を向ければ、直近の白露の艤装が襲い掛かっていたのでそのまま下がった。

 陽炎を救助する為に白露は陽炎の元へと向かい、他の面子は汗を垂らして構える。それだけで今の彼女達の胸の内が理解出来てしまい、意思とは別に口角が吊り上がったのを感じた。

 

「返り討ちだ。以前と同じだと思うなよ」

 

 僅かに残る焦燥を他所に、俺の足は想像以上の軽快さでもって移動を開始する。

 次の狙いは――――




・江風さん初期の金剛遭遇率は異常な程に高い(絶望)
・比叡も比叡で中々に内に籠ってる闇は深いのですぜ。表に出てきたらもしかすると現在の江風(幻影)を超えてくるかもしれない。

 以上、感想返しでした!!
 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。