江風になった男、現在逃走中   作:クリ@提督

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 一発で某MMD作品を見抜かれてしまったでござる。ぐぬぬ
 あんな作品を自分でも作れたらと考え、自分の想像しているイメージ映像を思い、そしていつも湧いてくるのは無理かなってやつでさぁ


希望への導

 有り得ないなんて事は有り得ない。

 それは誰かが放った言葉であり、中々どうして残酷なまでの現実という世界を端的に表していた。

 良い未来もあれば、当然悪い未来もある。今現在は良い流れに乗っていたとしても何時かはその流れも悪い方に向くのは必然で、それが嫌だからこそ準備に抜かりを起こしてはならない。

 徹頭徹尾最後まで。油断無く万事に備え、尚未来は何処かから闇を運んでくる。

 今回の彼女達の出現は、俺からすれば朗報に近い。高練度艦であるからだけでなく、尋常ではない強さを手にしている彼女達は正に一騎当千の兵だ。

 身体が江風本人のモノであれば二人の力を合わせてなんてのも出来たに違いない。それに、こうしてオリジンが複数出現しているという事は今後も俺の知っている子達と出会う可能性も高い訳だ。

 見極めはかなり楽であるというのは今回の接触でよく解った。単純な力量の差によって噂になり易く、そして通常の彼女達とは明らかに性格が違う事で浮いた存在となりやすい。

 そこから接触を図り、そして彼女達を手元に置けるようにすれば少数精鋭なんていう未来も夢ではなくなるだろう。

 具体的な戦力拡大が行えれば問題は維持費だけで、そちらの点に関しても彼女達を三人程度で纏めてしまえば容易に海域の開放や新たな資源地帯を見つける事も出来る。

 俺が最後に用意した装備を持ってこれないのは非常に残念であるが、その分比叡の強さはお墨付きだ。この世界でも彼女は屈指の強さを見せつけてくれる筈――――何せ、ケッコンカッコカリを除けば最大練度なのだから。

 他にも最大練度にまで到達している子やそれに近い程の練度に到達している子も居る。全部が全部この世界に来るとは思わないが、大部分は同じ異常存在に目を付けて接近をしてくるだろう。

 さてそうなると、問題も起きるものだ。

 強さが災いになると言いたくはないが、過ぎた力を持つと意外に欲望というものは表に出やすい。

 オリジンは単体でも今居る面子を全員潰せる。それが味方で、かつ此方にある程度の信用を置いている以上、ならば本格的に鎮守府を潰そうと目論む者が出てきたとしても違和感は無い。

 寧ろそれ目的で接触をしてくるだろう連中が多い筈だ。本気を出さなければ不味い展開は今後多々起きるであろうが、そうすると確実に他の派閥から話がやってくる。

 揺さぶられるとは思わないが、響の頭にはやはりまだ最初の考えがあると見て良い筈だ。人がそう簡単に己の深層を変えられないように、艦娘とて深層から湧き出る渇望を無視出来る訳が無いのだから。

 

 故に、俺がすべきなのは確固たる意志力なのだろう。

 響達の主張に負けず、周囲からの誘惑にも負けず、我を貫く己を確立させる。そんなのは響からしたら邪魔かもしれないが、俺の大事な仲間達をたかが鎮守府を潰す程度で浪費させる訳にはいかない。

 彼女達と少しの会話をしているだけで解った。未だこの世界に来ていない子も含め、皆が俺という存在に全部を預けようとしている。

 それは作戦指揮だとか、物理的な体重だとか、そんなものではない。

 信頼や愛情、何処までも何処までも底に引き摺り込んで離さない魔性の沼。一度捕まれば離してもらえず、だからこそ飲み込める者が生き残れる。

 俺は彼女達の愛を嬉しく思っていた。些か独占欲が高いとは思うが、昔の孤独感が強かった頃に比べれば愛のある生活というものは嬉しいものである。

 それを皆が離してたまるかとばかりに抱いている。ならば、此方も離してやる訳にはいかない。

 俺も大概独占欲が強いものだと思い、小さく噴き出した。

 

「……どうした?」

 

「いや、ごめン。なンでもないさ」

 

 レーションを食べる木曾に謝り、俺も不味いレーションを口に運ぶ。

 箱には具体的な味の表記は無く、生き抜くのに必要な成分表が書いてあるだけだ。それさえも栄養学に詳しくない自分には解らない事だらけで、実質このレーションは腹を満たす為だけの存在に成り下がっていた。

 赤城達もこの食事にだけは不満があるようで、静けさを絵に描いたような祥鳳ですら眉を顰めている。

 初見の相手に食わせてはならないナンバーワンだろうと断定しつつ、現状の確認の為に頭は回転を始めた。

 場所は砂浜。

 時刻はおよそ二十一時であり、周りは完全に闇に閉ざされている。

 そこに集まって何をしているのかと聞かれれば、まぁ赤城達の目的である大和達との接触だ。

 あまり大多数のメンバーを連れていけないが為に接触するメンバーは六人だけであり、それ以外の所謂協力者というスタンスを取っている俺達は彼女達の邪魔をするであろう深海棲艦の殲滅が仕事だ。

 響はこんな所でも恩を売ろうと考えているのか、明らかにこの島にある中でも強力な武器を持ってきている。

 赤城達の部隊を除けば、その部隊数は四。全員を投入しては島の防衛に差し障りが起きるので、トップである響や古鷹は島に残る。

 逆に言えば、それ以外の古参組と俺と木曾の出撃は確定だ。

 第一部隊の旗艦は利根。第二部隊の旗艦は那珂。第三部隊には川内が居て、第四は何故か俺である。

 皐月は利根の部隊に入り、曙は川内。木曾は那珂に入り、俺はある程度実戦経験を積んだ面子だけだ。これはきっとパワーバランスを考慮した結果なのだろうが、周りに気軽い関係の者が居ないというのは少し心細い。

 常に五人は傍に居るので、幻影との会話も不可能だ。

 その事実に少し幻影は頬を膨らませていたが、我慢してもらうとしよう。

 

 場所は此処からおよそ一時間程の距離にある小さな無人島。

 隠れられる程度の森はもあり、目印として中央に近付くにつれて山のように高くなっている。登山には向かない程度の山であるが、平が多いこの島々の中では目印として活用しやすい。

 故に迷う事も無い。俺達も皆下調べとして何度か出撃の際に確認しているし、辿り着かないという事は無いだろう。大和側にも鳳翔のスパイ経由で情報は伝えられているのだろうし、解らなくなれば偵察機の一つでも飛ばしてくれる筈だ。

 さて、と確認すべき事柄は終了した。

 座っていた足を動かし、尻に付いた砂を叩いて払う。尻の柔らかさに未だ尚微妙な気分になるも、もう男の方の感触だって希薄だ。無理に思い出す必要も無いが、かといって男としての自分が喪失していく感覚は慣れない。

 されど、根本までは消されない。

 如何に男としての感触を忘れようとも、俺は男だ。そして、男としての矜持も依然ある。

 それは前に出て一番戦果を挙げるのではなく、無事な艦娘を一人でも生み出すこと。自身の望みはまた別であるが、それだけに飲み込まれるような凡愚であり続けるつもりは無かった。

 

「皆さん食べ終わりましたか?……それでは、出撃を開始します」

 

 赤城の声に合わせ、皆が立ち上がる。 

 浜辺に居るので一斉に海へと飛び出し、己の艤装を始動。いきなり全力を出すと全員を追い抜いてしまうので抑え、各々のメンバーで固まってから先頭を進んだ。

 背後のメンバーは殆ど駆逐艦だ。訓練を多く積み、また輸送任務などである程度の経験は済ませてある。かといって本当の意味での実戦を経験している訳ではなく、殺す事に主眼を置いた作戦はこれが初めてだ。

 そういう意味での不安はある。生き残れるのかについても気にする割合が多く、だからこその俺という存在なのだろう。

 そう思うとこの編成を決定させた響を恨めしく感じるが、同時に納得も出来てしまうものだ。

 被弾率零。傷も殆ど無い状態で皆を帰還させた実績を作ってしまえば、彼女がそう判断するのも当然である。

 苦労するのは俺だけではないとはいえ、やはり寄せられたのは否めない。

 これは帰った後に良い飯を期待してくとしよう。古鷹が島に残っている以上は確率は非常に高い。

 

「各員に通達。今回の我々の目的は先に説明した通り接触組の邪魔をする深海棲艦の殲滅だ。夜戦であるので私達の方が遥かに有利に戦えるが、戦艦や重巡を目撃した場合は複数人で対処しろ。困った事態になれば俺が助ける。経験が浅い中での重要な仕事だが、抜かるなよ」

 

「隊長、質問よろしいですか」

 

「何だ、霞」

 

 俺が言える範囲はここまで。故に後は質問を捌くだけなのだが、声を掛けた相手は厳しさのある霞だ。

 どんな質問が飛び出してくるか不明なので喉が渇く。背筋に異様な寒さが起きるが、それで身体を震わせて失望されたくはない。

 強く聞き返せば、はっと言う軍隊口調の声が放たれた。

 

「今回の私共の仕事は防衛です。ですが、相手は以前から交流があったとはいえ鎮守府組。……信用、出来るのですか」

 

「――――」

 

 霞の言わんとしている事は解る。

 俺達が説明した限りにおいても現在の海軍の状態に眉を顰める者が居た。その酷さに嘘だと考える者も居たが、そんな者達には遠目でかち合いそうになった鎮守府組の姿も見せたものだ。

 殆ど偶然。当然狙ったものではなく、故にこそ出会った衝撃は計り知れない。 

 ボロボロの衣服に、何時壊れるとも解らない艤装。頬は痩せこけ、艤装に乗っている妖精達も身体をぐったりとさせていた。

 まともな食事を食べていない。本当に資源だけを与えられ、無理矢理出撃されている姿だ。

 野良艦娘よりも酷い状態で、それでも鎮守府所属組だと解ったのは連携を確り組んでいるからだろう。普通の野良艦娘にそれは出来ないし、出来たとしても非常に穴のあるものとなる。

 現実を叩き込むように教え、結果として霞は今の状況こそが最も天国であると認識している筈だ。

 だからこそ今回の接触について、眉を潜めている。

 本当に接触させても良いのか。出会った直後に砲撃を仕掛けてこないか。――犠牲者は、生まれるのではないか。

 有り得てしまうからこそ、慎重にならざるをえない。 

 よく解るとも。その駆逐艦らしさの無い冷静そのものな思考に、思わず称賛を送りたくなる。

 しかしあそこにはもう一人のオリジンが居るのだ。赤城達を信用せずとも、少なくとも比叡は信用出来る。

 

「気持ちは解るとも。だが、その点に関してあの赤城が手を抜いているとは思えないな。何かしらの確信を持っているような雰囲気があった。――――悪いな、俺はまだ響達みたいに情報を全部聞ける立場じゃないンだ」

 

「謝罪は不要です。それに、私は貴方を信用していますので」

 

「嬉しい限りだよ。よしッ、各員装備は何時でも撃てるようにしておけよ」

 

 霞の嬉しい言葉に頬を緩めつつ、己も装備を確かめる。

 全員に最も強力な装備は付けられない。ドロップなどによって大量に増加した妖精達が装備を作ってくれているとはいえ、それでも駆逐艦の主兵装は12.7cm連装砲だ。俺のような改装を済ませた奴はまた別の装備になっているが、それが最も優秀な装備かと言われると首を傾げざるをえない。

 されど、現在の環境ではこの装備で満足する他にない。

 響の持つような奴は明石が居なければ不可能。いや、この世界ならば妖精によって作れるかもしれないが。

 されど根本である高射装置が無いのが痛い。それさえあれば量産も一気に進むだろうが、それを持ってこれるのは現状吹雪の改二のようにかなり遠い。

 次点で高角砲か。あれは対空砲にも主砲にも使えるというのだから、何だかよく解らない。

 自分の手の中にある主砲を眺め、内側に居る妖精に尋ねる。

 現在の自分の速度では間違いなく連装砲の方が遅い。砲撃よりも早いなど悪夢でしかないだろうが、だからこそ武器の限界も気にしなければならない。無茶をした場合、今度こそこの武器は壊れる可能性があるのだ。

 内に居る作業着を着ている妖精達は暫し悩み、そして口頭での説明が出来ないのを悟って他の子が持っていた小型のスケッチブックを奪い取り言葉を書き込む。

 

 ――――第二次改装に伴い全体的なスペックアップを実行。結果、使用者は江風改二に限定されるものの使用に問題無し。他の駆逐艦同様の使い方が行えます。

 

 その答えに、口元が弧を描いたのが解った。

 実に素晴らしい。正しくパーフェクト。これぞ匠の仕事振りと絶賛し、照れる妖精達の姿を視界に収めて、他の調子も確かめる。

 結果として完全に使える者は俺だけに限られてしまうが、問題は起こらないという事になった。

 これならば無茶も出来る。態々接近して殴る必要性も減り、通常の戦闘行為を出来るようになったのだ。

 後は速度に配慮すれば連携も行えるので、全力で殴るのは基本危険な状態に陥った場合のみ。彼女達のフォローを第一としつつ、その上で敵を通さない。

 中々に厄介だと言えるが、さりとて任せられた以上はやってみせようじゃないか。

 他の派閥との仲を深める第一歩。それに俺という異分子を伝える第一歩にもなるのだから、阿呆な真似は許されない。

 目標は、担当海域の全深海棲艦の殲滅かな。まぁ、今回に限ればそれも無理そうだが。

 海上を滑り、別れる前に木曾と拳を軽くぶつけ合って健闘を祈り合う。無事に帰還出来るようにと軽く願いもして、緊張気味な部隊の面子に苦笑。

 

《チェック、各部隊長は聞こえていますか》

 

 唐突に聞こえた赤城の言葉に、耳に付いた通信機に手を添えて答える。

 他の部隊からの声も聞こえたので、この通信機を遮断する何かが存在しない限りは繋がったままとなるだろう。

 常に回線を開きっぱなしには出来ないので直ぐに赤城が切り、俺も自分の砲を腕に持つ。

 相変わらず鉄製の筈のそれは軽く、やはりというべきか手に馴染む。もうかなりの回数を使用しているので馴染んで当然かもしれないが、それよりも前からずっとこの状態だ。

 それはきっと江風本人のお陰なのだろう。失敗が無いというのは非常に有り難い話であり、であるからこそ失敗するあらゆる責任は俺にある。

 忘れるな、俺の失敗は即ち江風の失敗になるということを。

 大事な大事な彼女に汚名を着せたくないのならば、完璧に物事を成してみせろ。そうしてこそ、俺という存在は彼女達を率いる資格を有せるのだと信じている。

 どれだけ肯定されても消えないのだ、この感覚が。脳裏に常に蔓延る不安と場違いな認識が俺を揺さぶり、艦娘という存在の差別にどれだけ怒りを抱こうとも、そうする事が相応しくないように思えてしまう。

 

――――だから勝つのだ。勝って勝って勝って勝って、生き残らせ続ける。

 

 それだけを願い、俺は目前に出現する深海棲艦達に主砲を向けるのだった。




 現在江風は68。残り7と思うと非常に近く、それだけに改二になったらどうしようかと少し考えてます。まぁ、次の目標はケッコンカッコカリですかね!?
 後は朝潮改二達成!残りの丁にすれば全て完了だ!!

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