作者の勝手イメージ
変態(or変人)は家事スキルが何故か妙に高い
ちなみに作者ゴンの家はアニメ旧作の方が好みなのでそちら基準ですね。
それからモーくんとその周りの人たちの中で一番アレな奴はぶっちぎりでモーくんです。
突然だが、朝食という物をどのように取られているだろうか?
俺としては朝御飯は軽く食べれる物が望ましいと思っている。それこそパン一枚や、バナナ一本で個人的には良い。とは言え、ミトさんやゴンはきっちりと取るタイプなので俺もそれに沿っている。郷に入れば郷に従えという奴だ。
しかし、今日はそんな二人がお婆さんも伴って、シズクが懸賞で当てた4泊5日の温泉旅行に行っているのでいない。酒場はミトさんと俺で回していたようなものだったのが、2.5人と1匹の従業員が増えた兼ね合いで余裕もかなり出来た。なので、たまには水入らずで行ってくるといいという計らいである。
まあ、未成年のみで酒場を回しているのは普通ならばかなり問題であるが、ここは都市部から遠く離れた離島なので気にする住民など誰もいない。
ちなみに余談ではあるが、マコはある意味カエデ以上にくじら島の島民に受け入れられている。というのも元々マコは俺の部屋の窓から届く木にずっと住んでいたのであり、ということは酒場からも見えるような場所にいたのである。そんなわけで酒場に通う島民からは昔から酒場のマスコット的な存在として可愛がられていたのだ。
そんなマコが、実は大きくなったら人型の魔獣になる生き物でした等というミトさんに話した設定を押し通して今は酒場で働いている。その上、元々マコは非常に頭が良いのか、こうなってから良くなったのかは不明だが、なんと酒場に通う島民の顔と名前をほとんど覚えていたのだ。そんな娘に接客されたら俺だって感慨無量である。
閑話休題。
となるとやはり自分にあった習慣が適応されるものである。元々、お婆さんと同じぐらい早起きの生活習慣なので、俺・マコ・カエデ・にゅう・シズクの中だと断トツに俺が起きるのが早いのだ。
「ん……?」
そんなわけで寝ぼけ眼を擦りながら何か軽く食べれる物はないかとキッチンに向っていると、ふと居間のテーブルに見慣れない物が置いてあることに気が付いた。
それは煎餅受けにところ狭しと並ぶクッキーであった。家の煎餅は全て俺が趣味で焼いている物なのでこれは明らかに家にあった物ではない。
「んー?」
煎餅受けのクッキーの前で首を捻っていると、煎餅受けに貼り紙が貼られている事に気が付く。何かと思いとりあえず読み上げるとそこにはこう書かれていた。
"GIのクッキーを作ってみたわ 食べても良いわよ byハクア"
「………………」
怪し過ぎる。真っ先に思ったのはやはりそれである。
状況と文面だけ考えて感情を抜きにすれば、白蟻の女王様が突然お菓子作りに目覚めたという、かのルイス・キャロルが作った薬でもやってトリップしている最中のような内容の不思議の国のアリスにでも出てきそうな状態なだけであるが、白蟻の女王様の名前がハクアならば話は別であろう。十中八九何かの念能力が絡んでいるに違いない。というかGIのクッキーとはブランド名か何かだろうか?
俺は一枚クッキーをつまみ上げた。
当たり前のようにクッキーを薄くオーラが包んでいるのは置いておこう。匂いは花の蜜のような仄かに甘く優しい香りがする。形も大きさも全て均一で、まるで工場から出て来たばかりのような出来だ。
「…………ほー」
一般家庭のお菓子としては既に何も言う事のない出来である。寧ろ昼ドラでも見ながらボリボリ食べるには少々上品過ぎるぐらいだ。
「……まあ、別に死ぬわけでもないか」
基本的にハクアは身内には優しいという事を思い出し、やっても精々悪戯程度の事だろうと結論付けてから摘まんだクッキーを口に入れた。
◆◇◆◇◆◇
「ん……」
(すー……すー……)
「にゅうはまだ寝ているか」
カエデは珍しくにゅうよりも先に起床していた。
基本的にはにゅうが先に起きているが、彼女らも人間と同じように完璧に決まった行動を取れるという訳ではない。故にこのような事も稀に良くあるのである。
「ふふ、おはよう」
カエデはベッドから体を起こすと少しだけ丸みを帯びてきた自身の下腹部を撫でながらそう呟いた。その顔はいつもの人を射殺さんばかり表情やどこか冷ややかな表情から打って変わり、溢れんばかりの喜びが漏れ出しているような優しさと慈悲により自然と笑顔が浮かんでいた。
もし、幻影旅団のメンバーに見られていたら即座に吹き出し、暫くネタにされるであろう光景である。
気が済むまでそうした後、カエデはベッドから立ち上がり、一階のリビングへと向かった。
「~♪」
その間、カエデから誰にも聞こえぬように小さくしかしハッキリとした音調で鼻唄が紡がれた。
それ程に今の状況が彼女にとって好ましいのだろう。ここ最近の彼女は外面的にはいつもと変わらないように見えるが、こういった端々で嬉しさが隠せない様子である。
「ん…?」
リビングの前までカエデが来るとリビングの中にあるひとつの気配に気が付き、そちらに意識を向ける。
旅行に言っている家主の方々は元より、シズクとマコは朝に大変弱いためその線も薄く、基本的に昼の少し前くらいからしか来ないハクアでも無いだろう。
とするとリビングにいるのが誰か見当がつき、カエデの表情がやや緩んだ。そのまま、ドアノブを回し、部屋にいる人物に声を掛ける。
「モ…」
直後、カエデは言葉を区切り、扉の開閉をそこで止めると即座にオーラを絶にして息を潜めた。
(なに……?)
更にさっきまでのカエデとは打って変わり、いつもの仏頂面と困惑が入り雑じったような何とも言えない表情に変わる。
(なんだアイツは……?)
それというのも単純な話。リビングに居たのはモーガスではなく、カエデの知らない女性だったのである。
これ以上無い程由々しき事態にカエデは殺意よりも困惑が上回り、息を潜めるに至る。
(あ、アレはいつぞやのメイド服じゃないか!?)
しかも女は少し前にモーガスがカエデに着て貰う為に作り、色々あった結果として結局、カエデが着無かったメイド服を着ていた。
女は鏡の前に立ち、メイド服の細かな調整を行いながら興味深そうに鏡を覗き込んでいる。故にメイド服の女はカエデに気がついていないのであろう。
(い、いったい私はどうすれば……)
カエデは珍しく怒りなどではなく焦りによる悲壮な表情を浮かべた。
あのメイド服をモーガスが異様な程丹精込めて作製していた事を知っていたため、元よりかなりマイナス思考で悲観的なカエデの脳裏に浮かんだのはモーガスに自身が捨てられ、腹の子と共に路頭に迷うビジョンであった。
(い、いやだ……この子だっているのに…)
自分がモーガスに捨てられるのでは無いかと顔を青くしながらカエデは自身の肩と下腹を抱き締めて身を震わせた。
少し前のカエデならば感情のままにリビングの女を抹殺した後、怒りの矛先をモーガスに向けて彼を探しに行っていた事だろう。しかし、それは人間ではなくディクロニウスという魔獣であり、流星街の住人であるカエデが、"捨てられるモノ"しか無かったからに他ならない。
捨てられるモノとは破棄或いは死によって絶たれる関係性の事。数奇な運命の下に産まれ、異常な環境で育った彼女には極論言ってしまえば殺せるモノしか無かった。溺愛するモーガスですら彼女は本当にどうすることも出来なくなれば彼を殺して自身の命を絶つという選択をしただろう。それは自身の幸福のみで物事を考えていたとも言える。
しかし、彼女が子を産む場合、彼女は無意識の内に子の幸福を考えるようになっていた。
にゅうという人格はカエデからは掛け離れているが、念能力とは0から1を生み出すモノではなく、1から昇華させていく力である。故ににゅうはカエデから紛れもなく発生したモノのため、本質的にはカエデはにゅうに近い女性だったといえるだろう。そのためカエデがそういった考えを持つことに別段不思議はない。
今のカエデならば子を挟んで隣にはモーガスが居て欲しいと切に願っているのだ。故に彼女はモーガスを殺して自らも命を絶つという選択を取る事は未来永劫ないであろう。
まあ、難しいことを抜きにして要約すると、カエデは少し大人になったのである。
(にゅう! にゅぅぅぅ! 起きろ! 起きてくれ!)
(Zzz……)
カエデがにゅうのように叫んでにゅうを呼ぶが、こういう時に限って幸せそうに眠っており全く起きる様子がない。こういう時に肩を揺すって起こせない事が人格だけの存在故の欠点である。
「くるりんっ」
すると何故か女は声に出しながらその場で一回転をする。その際にフリルとスカートの異なる色合いと質感の布の間に挟まった半透明の念で編まれた生地が見え、それらが重なりながら摩れ合うことで優しく柔らかな色彩を放つという無駄に洗練された無駄の無い無駄な技術が見てとれた。
カエデはモーガスの謎の拘りと妄念の塊のようなメイド服の出来に顔を引き吊らせつつも、女に対しての激しい嫉妬と怒りの感情を向けたが当の女性は余ほどにそのメイド服にご執心らしく気が付く様子もない。
すると女は片手でピースサインを作るとそれを横から片目に当ててポーズを取った。
「きらっ☆」
イラッ…
カエデの中の何かがキレそうになったが頑張って耐えた。最近、早とちりでモーガスに何度も迷惑を掛けたのを彼女なりに反省しての行動である。
「ほほーう……中々イケてるじゃないか…」
女はそんなカエデの視線を背中に受けながら、何故か椅子を持ってくると足を乗せて防波堤にある船を繋留するためのボラードに足をかけている船乗りのような体勢を取ると、勢い良く腕を振るってポーズを取った。
「よくってよ!」
ぶちっ…
カエデの中で早くも何かがキレた。流星街で生まれ育った齢13歳のディクロニウスの女王にしてはよく我慢できた方であろう。
堪忍袋も限界に達したカエデはベクターを伸ばし__
「姉さん横通るよー」
「ちょ……ま、待てシズ…」
その直前、いつの間にか起きてリビングに来ていたシズクが、明らかに御冠な様子のカエデを素通りし、カエデが覗いていたドアを開け放った。
「ん?」
無論、そんなことをすればリビングにいる女はコチラに振り向く。
その姿は光の加減により薄藤色にも薄紅色にも見える赤み掛かった銀髪をして、カエデとほぼ同じような体型と外見年齢に見える女性であった。
贔屓目に見てもかなりの美人であり、嫉妬心等様々な感情からカエデが奥歯を噛み締めていると、シズクは女の目の前に立ち、言葉を吐いた。
「おはよう、"兄さん"」
「おはよう、シズク。おはよう、カエデ」
(兄さん…?)
当たり前のように挨拶したシズクと、挨拶をカエデにまで返してきた女を見てカエデの思考が止まる。
「朝食は軽く作っておいたから好きに食べると良いぞ」
「はーい」
シズクは席につくと机の中央に置かれたフライパンから自分の分のカニカマの入った卵焼きとソーセージを取り分けるとすぐに頬張った。
「兄さん甘い」
「兄さんは卵焼きは甘い方が好きなの」
(兄……? え…? えっ…?)
当たり前のように会話をしながら、シズクのコップにお茶を注ぐ女を見てカエデは混乱して立ったまま停止していた。
暫く談笑している二人をカエデが無心で眺めているとシズクか何かに気がついたのか、フォークを唇に当てながら首を傾げる。
「あれ? 兄さん」
シズクは小さく唸ってからフォークを女に突き付けてから呟く。
「髪伸びた?」
「…………俺が言うのもなんだが、もっと他に突っ込むところあるんじゃないか…?」
「性転換する念能力ぐらい開発していても兄さんなら何も不思議じゃないと思うけど違うの?」
「シズクが俺を何だと思ってるかよくわ_」
「女の子になってメイド服着てる変態」
「………………」
いつもの調子で放たれた鋭い一撃により、女はピシリと固まったまま表情が凍り付く。よく見れば若干ひくひくと顔をひきつらせており、ぐうの音出ないといった様子である。
ここまで来ると流石にカエデも女の正体に気が付いた。
「なな……なん……なんでこんなことになっているんだぁぁぁ!!?」
女__モーガス・ラウランその人はそれを待っていたと言わんばかりの表情で、カエデの叫びに頷いていた。
「いや、俺だって被害者…ひぎぃ」
無論、カエデのベクターがモーガスを襲ったのは言うまでもない。
◆◇◆◇◆◇
「ほへー、それでそのクッキーを食べたらそうなってしまったんですね」
「そうなっちゃったんだよ」
カエデにベクターでぶん殴られた後、にゅうも起きたので彼女たち全員に俺に起こった出来事の一部始終を説明した。まあ、クッキー食ったら何故か女になったというただそれだけの事なのだがな。
その間、にゅうは興味深そうに指でテーブルに乗っているクッキーをつついている。
「待て……おかしいだろ…」
にゅうからカエデに切り替わり、眉間に手を当てながら呆れた様子で言葉を吐いた。
「どうしてそれでメイド服を着ているんだ…」
「そりゃな」
何せ転んでもただでは起きないのが俺のポリシー。というか変わった直後は多少焦りもしたが、それより折角作ったのに誰も着てくれないメイド服の事を思い出したのだ。
「…………メイド服…」
そう考えたらもう既に行動していた。何せ何をしても怒られないし、誰も傷付かない中々綺麗な女性が、こんなところにいるのである。
そして、部屋に戻って体の寸法を計り、それに合わせてメイド服を調整して着たところで君たちに朝食を作ろうと思い、作ってからリビングの鏡の前で姿を見ていた次第である。
まあ、いい加減ハクアを問い詰めたいところであるが、昨日家に来たので今日は来ない可能性の方が高いだろう。
「なら私、ハクアさんに聞いておこうか? 後で会うし」
「うーん、まあ面倒なら別に言わんでいいぞ。折角遊びに行くんだしな」
「そう? ならそうする」
「それより練り羊羮食うか? 昨日作ってみたんだが」
「わーい、食べる」
「待て待て待て……」
シズクに羊羮を出そうと立ち上がると何故かカエデから待てがかかったので着席する。シズクと共に不思議といった顔をしてカエデを眺めた。
「どうしてそんなに堂々とした上で自分に関心が薄いんだ…」
「えと…その……恥ずかしかったりしなかったんですか? 女性の体で…」
カエデとにゅうが入れ替わり質問してくる。それを聞いて俺は思わず鼻で笑いたくなる衝動を抑えて、精一杯の笑顔を作ってから言葉を吐いた。
「そんなもん幼少時代に流星街の何処かに捨てて来ちまったな」
「やっぱり兄さん頭おかしいよ」
いやん、おねにいさん傷ついちゃう。
「まあ、とりあえずそのハクア印のクッキーは食べない方がいい。何が起きるかわかったもんじゃない。それよりも……ひとつ思いついたのだ」
「そ、それはいったい…?」
俺は真剣な表情を作るとそれにつられてにゅうも真剣そうな表情になる。
「この私の名前は"カタリナ・ラウラン"とか可愛いんじゃないかしら ?」
「……………ねぇカエデちゃん…? もしかしたら私たちさ…」
「ああ……男の趣味が悪いのかもしれないな……」
何故かカエデとにゅうは遠い目をしながらリビングから快晴の青空を眺めていた。あ、そらきれい。
「ま、それはそれとしてだ」
俺の作ろうとしている念能力はメイドが大きく関わる念能力である。
まあ、誰もメイド服を来てくれなかったので一定のラインから一向に念能力の開発が進まなかったわけであるが、今俺はそれ以上の経験をしていると言えよう。
そう、俺自身がメイドになることだ!
「私のベクターがお前の首を刎ねる前に正気のお前に戻って欲しい」
「おれは しょうきに もどった!」
このままでは首をダイナミックされてしまいそうなのでいい加減真面目に話そう。見姿が既に真面目ではないが、そこは許して欲しい。というか俺のせいではない。俺のせいではない。
こんなモーくんがパパになります(集中線)
TS投稿したのって作者5~6年ぶりぐらいですね。また、TS小説書きてぇなぁ…(投稿小説の山を見ながら)
か、カタリナさんはほら……主人公交代バグでいつも犠牲になられますからこれぐらいはね…?
さ、作者が血迷ってこんな話になったのは全部いつか使いたいと思っていたグリードアイランドのホルモンクッキーって奴が悪いんだ! お、俺は悪くねぇっ! 俺は悪くねぇっ!!