&1話UA5000突破記念。
という事で連日更新だオルァアアンッ!!!
※尚今回はひじょーに薄味回となっておりますorz
「ごちそうさまーっ!」
「はいはい、お粗末様」
午後7時半、夕食を食べ終えた先輩と藤村先生と私の三人、藤村先生は合掌して御馳走様を宣言すると早々に座布団を枕にして寝転んでしまった。
それに呆れながら食器の片付けを始める先輩、藤村先生の分の食器を私と先輩で片付けるのは最早日課だ。
「んふふー、今日のご飯も美味しかったわねー。ねー士郎ー、明日のご飯は何にする予定なのー?」
「食べて即食の話かよ…」
「藤村先生って食事以外に何か悩み事ってあるんですか?」
「ちょっと!?何気に辛辣じゃないその物言い!ぅぅ、ここんとこ桜ちゃんがキツキツでお姉ちゃんは悲しいです」
コロンコロンと寝返りを打ちながら縮こまる藤村先生を見て先輩はやっぱり呆れ気味に溜め息を吐いた、私も自然と苦笑が漏れる。
何時だって自然体でその場の空気を暖めてくれる藤村先生に、私は何度励まされてきただろう。
先輩同様、心を救い上げてくれる先生に私は頭が上がらない。
そんな人に、私達はこれから辛い提案をしなければならないんだ。
「藤ねえ、ちょっと大切な話があるんだけど、いいか?」
「ん?何々どうしたの?」
食器を洗い終えた私と先輩は机を挟んで藤村先生の向かい側に並んで座り込んだ。
私達の表情で本当に真剣な話し合いだと察したのでしょう、藤村先生はテレビの電源を落とすと体を起こして私達に向かい合う。
その口元は此方を安心させる様に微笑みを携えていた。
「それで?改まってどうしたの?」
「あー、っとだな…要するにその、なんだ…」
「?」
チラリと先輩に目線を寄越して話を促す、やはり此処は先輩が話さなければ。
内容が内容だけに、先輩は言い辛そうに歯切れの悪い呻きを溢し続ける。
先輩、頑張って。
「悪いんだけど藤ねえ、明日から暫く家には来ないで欲しい」
「え」
家に来るな。
先輩からそう頼まれた藤村先生は小さく声を漏らしたのみで、意外な程反応は大人しかった。
これが先輩と話し合って出した結論でした。
今後聖杯戦争を続けていくに当たって絶対に避けねばならないのは一般の方を巻き込む事です。
神秘の秘匿は勿論、無駄な犠牲を出さない様に動くのは人として当然の事。
ですが元々魔術師の家系である
そんな人が
先輩は何も知らない人々を犠牲にしない為にマスターになったというのに、一番大切な人を巻き込んでしまってはそれこそ本末転倒だ。
故にこその処置、藤村先生には本当に申し訳無いけれど、暫くこの家に近付かれる訳にはいかない。
「二週間くらいになるかな…桜と二人でちょっとやらなきゃいけない事が出来てさ。だから学校も暫く休む事になると思う。夕飯だけ来て貰うとかそういうのも勘弁して欲しい感じなんだが…ほんと急でごめん」
そう言って頭を下げる先輩に対して藤村先生はふむ、と呟くと腕を組んで私と先輩を交互に見やり、暫くして口を開いた。
「桜ちゃんと二人でって言ったけど、内容も私には言えない感じ?」
「…すまん」
「学校も休むって言ったよね、私は兎も角桜ちゃんの私生活や将来にも影響が出るかもしれないでしょそれ。士郎に限って無いとは思うけど、桜ちゃんを無理矢理付き合わせてる訳じゃないよね?」
藤村先生が先輩に疑いを向ける、そんな場面を見る羽目になるなんて想像すらした事なかった。
今すぐ否定の言葉を紡ぎたいけど、私が言ってもきっと先生は心の底から納得出来ない、やっぱり此処は先輩に任せるしかない。
「それはない。これはちゃんと桜と話し合って決めた事だ」
先輩は真っ直ぐ藤村先生の顔を見据えてはっきりと言い切った。
今度は変に
「急にこんな事言われて信用出来ないのは当たり前だと思う。だが藤ねえ、桜は俺にとっても大切な家族だ。そんな娘を悲しませる様な事、俺は絶対にしない。桜の事は俺が責任もって守るから、どうか信じてくれないか」
そして久々のボディブローだった。
机を挟んで大人と向かい合うというこの構図、先輩の真剣な顔付きと熱い言葉、何というか、まるで、恋人の両親に挨拶に来たかの様なシチュエーション───。
あ゛あ゛あ゛っ!!!
心の中で思いっきり奇声を挙げる、いけないいけない、図らずも舞い上がってしまっていた、
「ん、分かった」
そうこう考えている内に藤村先生は腕組みを解いてそう此方に笑いかけてくれました。
「なんかよく分かんないけど二人がちゃんと話し合って決めた事なら、うん、良いよ良いよ!大人が変に首突っ込まない方がいい事もあるしねー世の中」
うんうんと頷きながら喋り倒す先生。
普通の大人なら、あんな抽象的な説明で納得して貰える事等決してない。
それでも受け入れてくれた藤村先生は、決して駄目な大人なんかじゃありません、只理屈より心を優先して視る人なんです。
上手い事話が進んでくれた様でホッと一安心です、先輩の表情にも安堵が浮かんでいる。
「それじゃあ、いいんだな藤ねえ」
「うん、暫く家に来なければいいんだよね?寂しいけど他ならぬ大事な弟と妹の頼みだからねー、お姉ちゃんは何も言わず黙って涙を飲むのであった!」
藤村先生はそう力強く語尾を締め括ると同時に立ち上がって部屋の出口へ向かって行った。
ですが襖に手をかけると同時に立ち止まり、何やら神妙な顔で此方に振り返った。
私と先輩は揃って首を傾げる。
「経緯は分からないけど三年かけて遂に実ったチャンスだものね…取り敢えず教師としてこれだけは言っておくわ。
避妊はちゃんとしなさいよ」
先生はそう言い残して今度こそ出ていってしまいました。
「─────はあぁっ!?なぐ、何言ってくれてんだあのバカ虎!?」
数秒後、硬直から抜け出した先輩はそう叫んだ。
顔を紅くしながら立ち上がった先輩は此方の様子を伺う様に眼を動かしたが、私は思わず顔を背けてしまった。
駄目だ、とてもじゃないけど今は先輩の顔を見れない、間違いなく私も顔が紅くなってしまっている、ひょっとしたら耳まで紅潮が回っているかもしれない。
先輩は立ったまま明後日の方向を向いている、お互いに声をかける事も行動を起こす事も出来ない状態に陥ってしまいました。
なんという事でしょう、珍しく物分かりが良いと思ったら最後の最後に恐ろしい爆弾を投下していきやがりましたよあの獣。
お互いに黙ったままそろそろ1分が経とうという頃合い、静寂を破ったのは私でも先輩でもなく
「何時までそうしているつもりなのですか二人共」
「うおっ!?ら、ライダーか、脅かすなよ」
霊体化を解いて私達の目の前、丁度藤村先生が座っていた辺りに現れたライダーに先輩はやたら大袈裟なリアクションを取った。
「脅かすも何も私達が近くに居たのは最初から分かっていたでしょうに」
「う~ん、やっぱりマスターにはもうちょっと、何事にも動じない精神力を身に付けて貰わなければなりませんね。そんなんじゃこの先の戦争持ちませんよ。体の前に心がダウンしてしまいます」
ライダーに続いて現れたキャスターさんにもそう突っ込まれ、先輩はばつが悪そうに再び押し黙ってしまった。
何と無くこの二人は先輩に対して色々と辛辣というか厳しい気がする。
周りに異性しか居ないという事も手伝って先輩はさぞかし居心地が悪いだろう、本当に心が先に潰れてしまわない様にせめて私だけは先輩に優しくしてあげなくては。
そう思い立った私は…まだ若干恥ずかしいですが先輩の方に向き直って声をかけた。
「ふ、二人共、そんなにキツく言う事ないでしょ?戦争に向けて準備してきた私と巻き込まれた先輩じゃ色々と勝手が違うんだから。少しずつ心を構えてくれればいいですよ先輩」
「甘い、甘いですよ桜。聖杯戦争の期間は精々が半月程、もたもたしていてはあっという間に最終局面を迎えてしまいます。参加を決意した以上は早々に備えを終えて貰わなければ。まぁこの坊やが最後まで生き残れればの話になりますが」
「坊やって呼ぶな!そっちこそ余裕かまし過ぎてあっさりやられたりするなよ。サーヴァントのあんたがやられたら一番危ないのはマスターの桜なんだからな」
「言われるまでもありません。坊やこそまともな実力も知識も持ち合わせていない、そんな有り様でよく桜を守る等と啖呵を切れたものです。いざという時は精々肉壁にでもなってください」
「うるさい!それこそ言われるまでもなく望む所だ!っていうか坊やって呼ぶなって言ってるだろ!」
何とか宥めようとしたが、売り言葉に買い言葉、あれよあれよという間に口喧嘩が始まってしまった。
先輩もライダーも感情的になりやすい所があるとは云え、まさかここまで相性が悪いとは。
どうやってこの場を治めたものか、上手い言葉が出てこず座ったままオロオロと二人を交互に見る事しか出来ない私、一縷の望みを懸けてキャスターさんにヘルプの視線を投げ掛けるが、キャスターさんもお手上げと云わんばかりに苦笑されるだけでした。
「そもそも何でライダーは俺の事を坊やって呼ぶんだよ。普通に名前で呼んでくれればいいだろ」
「ぇ」
そんな口喧嘩の最中に先輩から飛び出た言葉は、私の意識に矢鱈と鋭く染み込んで来た。
「え…いや、それは…」
「何だよ、何か理由があるのか?」
私の小さな小さな呟きを五感が優れているライダーは聞き逃さなかったようで。
私の先輩に対する好意を知っているが故にライダーは返答に困ってしまったみたいだ。
私は慌てて念話と身振り手振りでライダーにゴーサインを出した。
『ライダー、気にしないで。呼び方くらい変に戸惑う事ないよ』
『ですが、あの…』
『ううん、本当に気にする事じゃないから。私にとって先輩は先輩なんだもん』
そう。
何時かは下の名前で呼べる様になりたいという気持ちは勿論ある。
でも今はこの呼び方が良いんです。
私が先輩を先輩と呼ぶのは只単純に歳上の人だからという訳じゃない、心の底から尊敬しているが故のもの、今はこの距離が愛おしいんです。
「…分かりました。それでは、シロウと」
「…微妙にイントネーションがおかしいが…まぁ別にいいか、好きに呼んでくれ」
私の気持ちを汲んでくれたライダーが先輩の名前を呼ぶ。
先輩もそれに応じて、何だかんだで口喧嘩も終わった様です、良かった。
「そうだ、キャスターも。何時までも他人行儀にマスターなんて呼ばなくていいんだぞ。これからお互いに命を預けて戦っていくんだからさ」
今度はキャスターさんに先輩の矛先が向いた。
それにキャスターさんは相も変わらぬ微笑みで以て応じる。
「いえ、折角の申し出ですが、私は今のままの呼び方が良いです」
───意外な返答でした。
先輩もライダーも心做しか驚いている様に見える。
キャスターさんなら嬉々として名前呼びに切り替えるかと思ったのに。
「私にとってマスターはマスターですから。他人行儀とか、そういうのじゃないんです。ただ、
そう言ったキャスターさんの真意を私は半分も理解出来なかった、きっと先輩も同じだろうけど、真摯にその言葉を受け止めて頷かれました。
「分かった。キャスターがそうしたいならそうしてくれ」
「ありがとうございますマスター。そしてごめんなさい、我が儘言ってしまって」
「いいって、別に大した事じゃないんだから」
「ふふ…ではそろそろ大した話をしましょうか、時間も頃合いでしょう」
そう言ってキャスターさんは居間の壁に掛けられた時計を一瞥した。
先輩とライダーもそれに
確かに頃合いだ、私も皆を誘導する為に動かなきゃ、立ち上がると同時にパチンと手を鳴らして注意を集める。
「皆さん、それは姉さんの所に向かいながら話しましょう。遠坂の屋敷まではそこそこ距離がありますし、普通に歩いて行けば十分話し込めると思います。時間を無駄にしない為にも、ね?」
異論は挙がりませんでした。
∵∵∵
という事で現在、
とは云ってもサーヴァントの二人は揃って半霊体化しているので対外的には私と先輩の二人にしか見えていない筈です。
キャスターさんの服装はまだギリギリ普段着で誤魔化せなくもないんじゃないだろうかというラインですが、ライダーのそれは何とも際どい…というか明らかに丈が足りていないパツパツのボディコン的なもの、しかも顔の約半分を覆い隠す異様な目隠しというおまけ付き、そんな格好で未だポツリポツリと人通りのある町中を歩かせる訳にはいかないので、現実への干渉力を多少残した半霊体化で敵サーヴァントの襲撃等に警戒しながら付いてきて貰っています。
これじゃあ就寝時先輩に用意して貰った寝間着のまま出掛けた方が万倍マシで───あぁ、そうすると対照効果的なあれで余計に眼帯が目立ってしまいますね。
ライダーの魔眼は自力でON/OFFが出来ないタイプなので、常に外界に対するその効果を封じ続ける眼帯は基本的に日常行動下で外す事は出来ない。
う~む、やはりライダーの魔眼には何等かの対策をする必要があるかな。
基本聖杯戦争は人目を避けて行うので見た目なんてものは然程重要視する必要はないのですが、やはりこうした非戦闘時の融通の利き辛さは地味に困る。
それにライダー本人も、昼に先輩と話していた時眼帯の事を気にしている様子でしたし…。
よしっ!時間が出来たら魔眼殺しの礼装か道具を作成しましょうそうしましょう!
決心を胸に私は一人呼吸を荒げた。
「それで、遠坂の家に着くまでに何を話すんだ?」
そんなこんなで思考を自己完結させた私に隣を歩く先輩が話し掛けてきた。
出掛ける前に確りと着込んだ黒のジャンバーとは対照的な白い吐息を虚空に溶かしている。
冬木市がその名称とは裏腹に暖かい気候の土地とは云え、真冬の二月だ、寒いものは寒い。
若干先輩に身を寄せながら私は話し始める。
先輩の吐息と私の吐息が混ざり合いながら消えていく様が目に付いた。
「そうですね…今の先輩と話し合いたい事は、取り敢えず大きく分けて二つですかね。まぁ片方は姉さんと同盟の話を付けてからの方が効率が良いんで保留ですが」
「と言うと?」
「お互いに何が出来るのか、能力、知識、貯蓄と云った手札の開示。それと先輩にサーヴァントの知識を身に付けて貰います」
指を折って一つ一つの要素を確認しながら口を動かす。
先輩は納得した様に、嗚呼と呟いた。
「そっか、そうだよな、お互いが何を出来るのか理解してないと折角同盟を組んでもいざという時最適な行動が取れないもんな」
「そういう事です。姉さんも交えて話したいのがこっちですね」
「それともう一つの方…ああ、よくよく考えれば俺サーヴァントの概要は教えて貰ったけど、中身っていうか…能力とかその辺の肝心な事は全然知らないな」
「はい、一遍に全部説明すると混乱しちゃうと思ったんで昨夜は省いた部分です。とは云え先輩は一度、生でサーヴァント同士の戦いを見てるので、実感が伴ってる分、理解も納得もしやすいと思います」
そう言うと先輩は昨夜の事を思い出したのか、少し俯いて自身の内面に向かった様だ。
私も朧気に思い浮かべる、正しく神話の再現と呼べる過去の英雄達の激闘……若干締まらなかった部分も有る様な無い様な──
『桜さん、何か失礼な事考えてませんか?』
「いいぃいぃぃい、いえっ、何も!」
私の思考を見透かしたキャスターさんの静かな指摘に全身が
チラリと斜め後ろを見ると召喚時から変わらない柔らかスマイルを浮かべたキャスターさんがうっすらと見える。
ですがその目は、ジト目というか糸目というか、普段よりも細められ、若干の剣呑さとからかいを含んだものになっていました。
頬が引き攣る、一体全体どういう洞察力をしているのでしょうか。
いや…昨夜の戦闘の話→押し黙った二人→内容を思い出している→何と無く失笑の雰囲気と表情…ちゃん観察すれば内心の嘲りを見抜くのは難しくないかもしれない。
キャスターさんの前では言葉を選ぶのは勿論の事、表情にも気を付けなければいけないというのか…同盟相手にここまで精神的に追い詰められるなんてこの先思いやられる。
「ど、どうした桜!?敵襲か!?」
「違います!大丈夫です!私は何も悪い事してないです!」
「お、おう?そうか、なら良い、ぞ…?」
「は、はい…それじゃあですね…」
いきなり叫んだ私に驚いて先輩が周囲を見渡したので慌てて否定しておく。
さっさと軌道を修正しようとサーヴァントについての説明を始めた。
「では先ず復習といきましょう。サーヴァントが過去の英雄って事は説明しましたよね」
「ああ、過去の人物が信仰で祭り上げられて精霊の域にまで昇華された英霊、だったよな?」
「その通りです。人の領域を越えた人…神秘の薄れた現代の人間じゃあ逆立ちしたって敵わない存在です。ですから本来、現代の魔術師が使い魔として使役するなんて到底不可能なんですけど…さて、それでは何故
「ええっと、確かその辺の土台になるシステムは全部聖杯が担ってくれてるから、だったよな?」
よかった、ちゃんと頭に入れておいてくれた。
私は満足して先輩に笑いかける。
「はいそうです。一魔術師に過ぎない私達が英霊を従えられるのは殆どが聖杯のお陰…ですが英霊とは本来、世界の抑止力によって召喚、使役されるものです。幾ら最高位の聖遺物に匹敵する代物でも、サーヴァントを生前の全盛期と同等の規格で再現するのは無理なんですよ。なので召喚に際してサーヴァント達にはある
「縛り?」
「はい、ここで問題です先輩。サーヴァントが召喚される際に
「えー、えっと…んん~~?」
口元に手を当てて考え込む先輩。
まだ実家までの距離に余裕はあるけど、のんびりし過ぎてはそれも無くなってしまうかもしれない、ヒントを小出しにしていこう。
「ふふ、ヒント欲しいですか?」
「む、いや、もうちょっと待ってくれ…あ~、う~…!あれだ、単純に保有してる
「残念!魔力の量はサーヴァント本人の能力に左右されるものです」
「くそっ、外したか」
普段はあまり見れない負けず嫌いを発動させた先輩の推測を情け容赦無く切って捨てる。
悔しげに悪態を吐く先輩の様子が子供っぽくて可愛い、反面、真剣にものを考えている横顔が凛々しくて格好良くも感じる。
はいはい自重自重。
「それではヒント1、昨夜戦った相手の名前は何でしたっけ?」
「昨日の?確かヘラクレスって言ってたよな。どれだけ神話や逸話に疎い奴でも絶対知ってるレベルの大怪物だ」
「そうです…まだ分かりません?」
「ええっ、今のヒントなのか?」
ふむ、ちょっと遠回し過ぎたかな、ではもう少し踏み込んで。
「じゃあ続けてヒント2、その大怪物ヘラクレスの事を、マスターの、イリヤスフィールは何と呼んでいましたか」
「?それは………ん?待てよ…アーチャー、ライダー、キャスター、セイバー……ジョブかっ!」
「あはは、呼称はちょっと違いますけど…はい、ほぼ正解です」
降って湧いた閃きに顔を輝かせる先輩。
思い至ったそれは名称こそ違えど本質は正解に違いない。
「召喚された七騎のサーヴァントはそれぞれ『クラス』を与えられるんです。
「なるほど…」
「英霊の能力の規格をそっくりそのまま完璧に再現する事は出来ないので、その英霊の一側面だけを切り取って
「あーっと…つまり剣と槍を得手にする英霊が居るとして、セイバーで呼ばれたら剣だけ、ランサーで呼ばれたら槍だけしか使えなくなるみたいな感じか?」
「飲み込みが良いですね先輩、大体そういう認識で合ってますよ」
「いや、桜の教え方が上手いんだよ。一方的に喋り倒されてたら全然頭に入って来なかったと思うぞ」
「そうですか?」
確かにそういう風にならない様に気を配っていましたが、先輩の理解が早いのも確かだ。
相も変わらず謙虚な先輩らしい言葉を即座に正してあげたくなるが今の本題はそこではない、さらっと流して説明を続ける。
「まあそれは置いておきましょう。ここからが本番ですからね」
「げ、マジか。メモ帳でも持ってくれば良かったか」
「別にいいんじゃないですか、忘れちゃったらまた何時でも何回でも聞いてください」
「いや駄目だろ。戦争を勝ち抜く為の知識なのに戦闘中とか肝心な時に忘れちまってたら今この会話が丸々無意味になるぞ」
「だったら尚更暗記しなくちゃ駄目ですよ。まさか先輩、戦闘中にカンペ見る暇があるとでも?」
「………ごもっともですね」
一本取られたと言いたげな表情で納得してくれた先輩。
姉さんに対してはあまり勝率が高くないけれど、先輩相手なら五分です。
「サーヴァントの性能は複数の要素で細かく定められているんです。大まかに分けると三つ…『ステータス』、『スキル』、『宝具』ですね」
「ステータスとスキルは何と無く想像付くが、ほうぐ?」
「順に説明しますと、ステータスとは文字通りサーヴァントの基礎能力を示したものです。筋力や敏捷といった性能をA~Eのランクで値として表しています。スキルはそのサーヴァントが持つ固有の能力、技能、加護とか…そのサーヴァントだけが持ってる特技って感じですかね。こちらもステータス同様ランク付けされています」
「…なんかゲームのキャラクターみたいだな」
「実際そういう風に覚えた方がしっくりきますよ」
先輩の所感に苦笑しながら同意する。
御三家の方々は悉く中二病患者だったのかもしれない。
「それで先輩が気にしてた宝具ですが、簡単に言っちゃうとサーヴァントの必殺技です。昨日キャスターさんがヘラクレスさんに対して使った杯みたいな」
「あれか…あんなとんでもないものをサーヴァント全員が持ってるのか?」
「どうでしょうか…スキルと同じく宝具もサーヴァントによって様々なものが存在していますからね、ランク付けも前者の二つ同様に付けられています。ミサイルみたいに強力な破壊兵器染みたものもあれば、それを防いでしまう防御用のものもあるでしょうね」
「…分かっちゃいたけどやっぱりとんでもないんだなサーヴァントって」
「そうですよ。何度でも言いますが、縦え相手が現代の武術の達人や魔術師だろうと軽く一蹴してしまう理不尽の塊みたいな存在がサーヴァントです。ですから先輩?サーヴァント相手に時間稼ぎの囮とか身代わりの肉壁になろうなんて考えちゃ駄目ですよ。先輩じゃ…いえ、私でも1分どころか10秒持ちません。文字通り無駄死にです」
改めて先輩が無茶をしない様に釘を刺しておく。
お人好しで熱くなりやすい先輩の事だ、勝手な捨て身特攻で死なれては堪らない。
元より先輩と同盟を組んでいるのは先輩に生き残って欲しいからなのだ、思い上がった考えかもしれないけど護りやすい様に行動を制限させて貰う。
「む…でもそれじゃ俺に出来る事なんて何も無いじゃないか」
これだけ念押ししてもやっぱり先輩は不満気だ、家の使い魔達とは違った方向で扱い辛い人です。
でもそこは『支配』の魔術特性を研鑽してきた
「私だって同じですよ。サーヴァント相手に出来る事なんて皆無です。でも相手がマスターならやれる事は無限にあります」
「おいっ、桜」
怒った様に、咎める様に檄を飛ばす先輩。
分かってますってば。
「分かってます、殺しませんよ。殺さずに相手を無力化するのは得意ですから私」
「そ、そうか…」
「マスターを相手にする以外にも、後方から魔術で支援したり、敵サーヴァントの弱点を探ったり、令呪のタイミングを図ったり。直接自分で動く以外にも出来る事は様々です。サーヴァントを現界させる楔、マスターである自身の身を第一に護る事、それ自体がパートナーへの最大の支援になるとも言えます。一人で戦ってる訳じゃないんですから、身の程を
そう言って最後に笑顔を携える。
まるでそれが正しいんだと無条件に信じさせる様な、如何にもそれを実践する自分が誇らしいとでも言いたげに。
「……そう、だな」
一言、それだけしか先輩は口にしませんでした。
失敗…ではなさそうですが、不発っぽい、いまいち反応が悪かった。
眉間に皺を寄せた先輩の表情からもそれがよく分かる。
これ以上は暖簾に腕押しと判断、話題を元に戻してしまおう。
「後はそうですね…サーヴァントの真名についてでしょうか」
「クラス名じゃない、その英霊本人の名前か」
「はい、これが結構重要な要素でして…例えば先輩、ヘラクレスさんの生前の死因ってご存知ですか?」
「ああ、確か下着にヒュドラの毒を塗られたんだよな」
「そうです。英霊というのは信仰によって座に記録されている、人々の想念によって形作られるものです。つまり今先輩が仰った様に『ヘラクレスはヒュドラの毒で死んだ』という事を大勢の人に知られている、そういうものだと認識されている以上ヘラクレスさんは
「なるほど…現代に伝わっている逸話や伝承の内容がそのままサーヴァントになるのか」
「はい、ですから敵サーヴァントの真名を暴けば弱点や能力を逸話からほぼ確実に推測出来るんです。逆に自分のサーヴァントの真名を暴かれてしまったら
まぁ真名を暴けた処でどうしようもない程に圧倒的、若しくは特殊、限定的な条件の能力を持ったサーヴァントも居るのですが。
具体的にはヘラクレスさんとかヘラクレスさんとかヘラクレスさんとか。
それでも用心する事は出来る、確実な対応法を確立させるまでせめて迎撃出来るだけの準備をしなくては。
これから行うのはそれ等をより磐石にする為の交渉、実の姉が相手だからと言って楽観視してはいけない、絶対に此方が有益な存在だと姉さんに思って貰わなくては。
「さて、サーヴァントに関しては大方こんな処でしょうか。令呪については昨日説明しましたし…」
「色々な要素があるんだな、こりゃ確かに何の情報も掴まないまま闇雲に突っ込んだら墓穴どころじゃないな」
「ええ、ええ、そうですとも。だから先輩、くれぐれも…」
「分かった分かった!分かったってば!そんな何回も念押しするな。ったく、少しは先輩を信用しろよ」
「信用してますとも、先輩のその度を超えた優しさもといお人好しさは」
盛大に皮肉を返してやると先輩は不機嫌を通り越して辟易とした表情になる。
いけない、ちょっとしつこ過ぎたかも。
「なんか…キャスターとライダーが移ったんじゃないのか桜。日に日に態度がキツくなっていく気がするんだが」
「残念ながら先輩、これが
「う~む、可愛かった後輩が変わってしまった事に嘆くべきか、飾らない素の顔を見せてくれた事に喜ぶべきか」
うわぁ、いけない。
高々可愛いという一言だけであからさまに胸が高鳴ってしまう。
今まで先輩に見せてこなかった
変えるつもりも毛頭無いのですが。
動揺を悟られない様に努めて冷静にしながら口を開く。
「そんな深刻に捉えないでくださいよ…別に今までの態度が嘘って訳じゃないんですから、って朝も同じ様な事言い合いましたよね?しつこいのはお互い様なんじゃないですか?」
「あ~、はは、そうかもな。いや、でも待て。桜と俺じゃ意図的とそうじゃないという違いがある。おあいことは言えないんじゃないか」
「それはそれで天然の方が質悪い気がしますけど…じゃあしつこくない先輩は教えられた事を忘れちゃっても聞き直したりしないんですね?」
「ぬぐ、さ、さっき教えられた事くらいならなんとか…」
「ステータスのA~Eにはそれぞれ内部数値が決められていて、それとは別に一定条件下で発動する+や-の補正を持ってるサーヴァントも居るんですよ。ですから単純にアルファベット順で能力の優劣は付けられません。あとスキルにもクラス別スキルや固有スキルと大別されるものがありまして、これにもステータス同様+-等の補正が付くものがあります。宝具にも対人、対軍等の種別がありましてこれによって用途や規模が違ってきます。他にも属性や知名度補正とか色々とサーヴァントの性質、性能を左右する要素が───」
「ごめん、すまん、申し訳無かった…!だから頼む、今夜はここまでで勘弁してくれ…!」
「も~~、しょうがないですね~~」
先輩の降伏宣言に私はこれでもかと云わんばかりの上機嫌で返した。
なんか目的がズレてしまっている気がするが今はどうでもいい事ですよ。
やっぱりカンペ作ろう…、と呟いている先輩の隣を鼻唄を歌いながら歩く───
「
『───っ!!!サクラっ!!』
『マスター!危ない!』
「───
───出来た反応は身を強張らせる事だけでした。
突如巻き起こった極光の発露に、私はどこまでも無力でした。
前半ブロッサム「私だけでも先輩に優しくしてあげないと…!」
後半ブロッサム「先輩を弄るのたーのしー!」
なんか桜ちゃんの性格がBBちゃんに寄ってきたな……おかしい、1話の桜ちゃんは純粋無垢な献身的後輩で決して先輩をからかって遊ぶ様な小悪魔系じゃなかったのに……まぁ可愛いけりゃいいな(思考放棄)
というか読者の9割が原作ファンだろうFateSSで今回の様な設定説明回は必要なのだろうか。でもあれやねん、こう、何気無い会話の中でイチャつく士桜をくどいレベルで描写したいねん…!
こんな展開がクソ遅い小説ですが、どうか今後も愛読よろしくお願い致します。
改めてもう一度。間桐桜さん、お誕生日おめでとうございます。