再び異世界から問題児がくるそうですよ?   作:白白明け

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読者の皆様の暇つぶしになれば幸いです。


かつての強敵(とも)と再会するそうですよ?

 

“六本傷”のカフェテラスでガルドと別れた後の夕暮れ時、噴水広場で私たちは黒ウサギと十六夜の二人と合流した。

そしてそこで久遠と耀とジン、そして私が“フォレス・ガロ”に『ギフトゲーム』を挑んだことを知った黒ウサギは案の定、ウサ耳を逆立てて驚愕する。

 

「な、なんであの短時間で“フォレス・ガロ”のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!」「しかもゲームは明日!?」「準備している時間もお金もありませんよ!?」「どういうつもりなんですか!!」

 

「「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」」

 

「黙らっしゃい!」

 

スパパパーンと四人仲良くハリセンで叩かれた。

おかしいな。久遠と耀の話ではこう謝罪をすれば大概許されるとの話だったのだが、黒ウサギはいまだ怒天髪だ。ウサ耳の毛も逆立っている。

 

黒ウサギの言いたいことはわかる。

ジンから話を聞き、現在の“ノーネーム”の状況を理解していない私ではない。

そんなコミュニティが二一〇五三八〇外門付近を支配するコミュニティに『ギフトゲーム』を、しかも相手のテリトリー内で戦う『ギフトゲーム』を挑んだとなれば文句の1つもいいたくはなるだろう。

それも私たちのチップがガルドの断罪のみという、得るもののないゲームとなればなおさらに。

しかし、

 

「すまないと謝罪をすることに否はない。だが、譲れぬものがあった。それは理解してほしい、黒ウサギ」

 

「山田さんの言う通りよ。あんな外道が私の行動範囲内に居るなんて、見逃せるわけがないじゃない」

 

「右に同じ」

 

「僕もガルドのやったことを見逃すことは出来ません」

 

「それは、その、わかりますけれど・・・」

 

私達の気に押され黒ウサギは言いよどむ、そして渋々ながら

 

「うぅ、わかりました。まあ、“フォレス・ガロ”程度なら十六夜さん一人でもなんとかなるでしょうし」

 

と言ったが、十六夜は

 

「は?俺はやんねーぞ」

 

そして久遠も

 

「当然よ。貴方に手なんか出させないわ」

 

「ええっ!どうしてですか!私達はコミュニティなんですよ。協力し合わないでどうするのですか!」

 

「わかってないな、黒ウサギ。いいか。この喧嘩はコイツらが“売った”。そしてヤツら“買った”。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ。それにな、」

 

十六夜は私の方を見て、軽薄そうに笑う。

 

「ヤハハ。心配ならいらねーよ」

 

それを見た黒ウサギは諦めたようにウサ耳を倒した。

 

「・・・うぅ、十六夜さんがそういうなら、もう好きにしてください」

 

私は黒ウサギを尊敬している。

それはかつて私を敗北に追いやったということもあるが、それ以外にも天真爛漫な性格、献身的な態度、問題児ともいえる彼らに対する度量、そして切り替えの早さもまた尊敬に値する。

 

「それでは行きましょうか。明日『ギフトゲーム』を行うというのなら“サウザンドアイズ”に皆さんのギフトの鑑定をお願いしなければなりません。幸いこの近くに支店がありますので行きましょう」

 

「黒ウサギ。僕もついて行った方がいいかな」

 

「あ、いえ。ジン坊ちゃんは先にお帰りください。水樹の苗が手に入りましたし、今日は久しぶりに大浴場一杯に水をはりましょう。子供たちに掃除をしておくよう、お伝えください」

 

そう言うと黒ウサギは水樹の苗を大事そうに抱えた。

コミュニティの抱えていた水問題が解決したのがよほど嬉しいらしい。

 

水を産む水樹の苗。

箱庭の世界でも貴重なそれを十六夜は蛇神を倒し手に入れた。

箱庭の世界に来て初日に神格を持つものに挑み勝利する。

並大抵のことではない。

やはり、私の眼に狂いはなかった。

今日一日で耀と久遠の可能性の一端を見てきたが十六夜の持つ可能性の大きさは別格だ。

彼は無謬の恒星だ。

その輝きがあれば“ノーネーム”の未来は明るく照らされることだろう。

そんな期待とは裏腹にでる欲望を抑え込めない私ではない。

ああ、しかし、これもまた私の本心だということに否はない。

いずれ彼の影にもなってみたいものである。

 

「見て飛鳥、真央が悪い顔している」

 

「あら本当ね。近づいちゃ駄目よ、春日部さん。友達なんて言っても男はみんな狼なのだから」

 

「そうなの?」

 

「そうよ。十六夜君を見ればわかるでしょう。可愛い顔してアレと同じ生き物なのよ、彼」

 

なぜだかとても不当な評価を受けた気がした。

 

「どういう意味だコラ」

 

「みなさーん。そろそろ行きますよー」

 

黒ウサギの船頭の元、私たちは“サウザンドアイズ”の支店へと向かった。

 

 

―――――✠―――――

 

 

「桜の木、ではないわよね。真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

 

「いや、まだ夏になったばかりだぞ。気合の入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

 

「・・・?今は秋だったと思う」

 

日が暮れて街灯ランプと月の光が照らす並木道を歩く中、自分たちの居た世界の時間軸がずれていることに気が付いた十六夜たちが、黒ウサギから立体交差並列世界論について説明を受けているのを聞き流しながら私は歩く。

そして深く説明が行われる前に“サウザンドアイズ”の店へと到着した。

 

蒼い生地に向かい合う二人の女神像が描かれた旗。

間違いない。私が魔王であったころ、散々見たその旗が目の前に掲げられていた。

 

日が暮れて看板を下げる割烹着の女性店員に、黒ウサギは滑り込みでストップをかけようとして

 

「まっ」

 

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

ああ、この感じもまた懐かしい。

“サウザンドアイズ“に仕える彼女たち女性店員は総じてみな頭が固い。

押し入る客の拒み方に隙がない。

 

「閉店時間の五分前に客を締め出すなんて御客様を舐めすぎでございますよ!」

 

「それは失礼しました。確かに箱庭の貴族であるウサギのお客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を頂きますので。コミュニティの名前をよろしいでしょうか」

 

「俺達は“ノーネーム”ってコミュニティなんだが」

 

「ほほう。それはどこの“ノーネーム”様でしょう。旗を確認させてもらってもよろしいでしょうか」

 

謀略と背徳の魔王と呼ばれていた私に対してなお、その態度を改めなかった彼女たちに尊敬を覚えなかった私ではない。

揺るがぬ信念を持つものを私は好いている。

 

「ぐっ・・・うぅ・・いや、その・・私達に旗は・・」

 

しかしこれでは埒があかない。

そう思い踏み出そうとしたところで、私はとんでもないものを目撃することとなる。

夢であるなら冷めてくれ。

 

「いぃぃぃぃやほおぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」

 

奇声を上げ黒ウサギに飛びかかる、かつての友の姿があった。

 

 

―――――✠―――――

 

 

箱庭の東西南北の下層上層全てに精通する超巨大商業コミュニティ“サウザンドアイズ”。

二対の女神を旗印とするそのコミュニティは名の通り、特殊な“眼”のギフトを持つ者たちの群体コミュニティで、この箱庭の世界で魔王のほかに対立してはならない者たちの1つにも数えられる。

箱庭の世界に対し大きな影響力をもつコミュニティの1つ。

 

その組織の幹部の一人に、白夜叉という名のものがいる。

元・白き夜の魔王。

その名を忘れてしまうほど愚かな私ではない。

憧れるべき太陽の恩恵を持ちながら私の支配する影の領域、夜に手を出してきた愚か者の名だ。

“星霊”という惑星以上の星に存在する主精霊でありながら、そんな真似をした欲深なものに鉄槌を下さずにいられるほど、私は温厚ではなかった。

 

私は白夜叉という星霊に太陽の主権を賭け三三三年挑み、白夜叉は太陽の沈まぬ地を求めて私と三三三年争い、合計六六六年間、私達は戦い続けた。

 

その結果は引き分けだったと言っていい。

私は月が太陽の影となる刻を作り出し、白夜叉は太陽の沈まぬ地を実現した。

 

白夜叉。彼女は私のよきライバルであり、強敵と書いて友と読む間柄。

で、あったはず。

そんな彼女がいま、仇敵である黒ウサギに抱き(もしくはフライングボディアタック)つき、その豊満な胸に顔を埋めているという現実を否定する私ではない。

 

おかしいな。

私の知る彼女はもう少し節度がある凛とした女性だったはずなのだが。

 

「・・・・おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

隣で交わされる十六夜と店員の会話も耳に入らないほど私は呆けてしまった。

恥じ入る気持ちもあるが、しかしそれ以上に目の前の光景が信じられない。

 

「し、白夜叉様!?どうして貴方がこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予兆がしておったからに決まっておるだろうに!フフ。フホホフホホ!やはりウサギは触り心地が違うのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 

目の前の白夜叉に太陽を背負い白夜という奇跡の功績をなした面影はなく、どこからみても見た目の年相応な少女でしかない。

尊大にフハハと笑っていた彼女は私の幻でしかなかったのだろうか。

現実の彼女は黒ウサギに頭を掴まれ投げ飛ばされ、くるくると縦回転する。

眩暈がした。

今日は本当に色々なことがあったが、今日最大の衝撃だった。

この驚きと比べてしまえば、十六夜たち超越者の赤子、時代の新生児たちとの出会いも薄らいでしまう。

 

はっきり言おう。人生最大の衝撃であったと。

 

そして私は、飛んできたところを十六夜に足で受け止められた白夜叉と

 

「ゴバァ!お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

「ほう、十五夜足すことの一夜とはなかなかに良い名だ。しかし、いくらなんでも私を足蹴にするとは・・なに・・ごと・・か・・」

 

目が合った。

二度目の箱庭の世界で初めての強敵(とも)との再会。

特殊な目を持つコミュニティ“サウザンドアイズ”の幹部。

たとえ姿形が変わっていようと一目見て私が私であると見抜けない白夜叉ではなかった。

 

「・・・」(ジー)

 

「・・・」

 

「・・・」(ゴシゴシ)

 

「・・・」

 

「・・・」(ジー)

 

「・・・久しぶり」

 

「・・・」(ダラダラ)

 

 




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