再び異世界から問題児がくるそうですよ?   作:白白明け

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皆さんの暇つぶしになれば幸いです。


真実を知ってしまうそうですよ?

 

黒ウサギから説明されたこの世界のルールの多くを私は語らない。

私にとっては二度目となるこの世界。今更すべてを復習する必要もない。

主催者(ホスト)の開催する『ギフトゲーム』に参加をし、勝利すればさまざまな恩恵を得られる。

敗北した場合は、金品を賭けたなら金品を、土地を賭けたなら土地を、利権を賭けたなら利権を、名誉を賭けたなら名誉を、人間を賭けたなら人間を、そしてギフトを賭けたならその才能を。

敗者となったものは掛け金と同価値かそれ以上のものを失ってしまう。

 

それだけ知っていれば何の問題もない。

 

故に湖での会話の中で私の記録に最も残ったものは逆廻が黒ウサギに尋ねた――

 

「この世界は・・・・・・・面白いか?」

 

――その一言だったことは語るまでもない。

 

そして、そんな言葉を言った少年が今、黒ウサギの船頭の元で街へと向かう道すがらどこかへ行こうとしているのを無理にとどめる私ではない。

 

「行くのか。逆廻」

 

「ん?なんだ、気づかれたか。ああ、ちょっと世界を果てまで行ってくる」

 

「そうか、気を付けろよ」

 

「止めなくていいのかよ」

 

「止めるなというのだろう」

 

「当然」

 

「黒ウサギにはいうなとも」

 

「もちろんだ」

 

そういう逆廻の顔は、先ほどまでの軽薄そうな笑顔とは違う。

まるで子供がショーウインドウ越しにおもちゃを眺めているときのような、純粋さ溢れるそれだった。

まるでデジャヴだと私は笑う。

そう、私もこの世界に初めて来たときはその可能性の大きさに心が躍った。

私以上の可能性に満ちた世界。高まるなという方が酷だ。

そして、この箱庭は私の想像以上に私を満たしてくれた。

 

故に駆けろ。この時代の新生児。超越者の赤子よ。

この世界は君のような者のためにある。

 

「行ってくるといい。逆廻。そして世界の果てを見てくるといい。それすらも、この世界では君を喜ばせる可能性の一部にすぎない」

 

「・・・お前、どうにも変な奴だと思っていたが、何を知っている」

 

「解く前に答えを言うほど興の冷めることはない。そうだろう?」

 

私の言葉に逆廻はキョトンとすると、すぐに心底楽しそうに笑い言った。

ちがいない、と。

 

「だが、お前は面白そうな奴だな。“真央”。帰ったら色々と聞かせてもらうぜ」

 

そういうと逆廻。いや、“十六夜”は亜音速に達するのではという速さで駆けていく。

あれほどの速さで、黒ウサギの耳に捕まらずに移動できるとは本当に十六夜は人間なのだろうか。

そんな疑問を考えている内に、私は天幕に覆われた町の前へと到着をしていた。

 

 

その後、十六夜が世界を果てに向かったという事実を知り、髪まで赤くし怒りのオーラを全身から噴出する黒ウサギが後を追い駆けていったことは言うまでもない。

 

箱庭の創設者の眷属。箱庭の貴族たるウサギの能力(ちから)があれば十六夜に追いつくのも時間の問題だろう。

世界の果てにたどり着く前に捕まらなければいいがと、私は新たにできた人間族の友にエールを送った。

 

 

―――――✠―――――

 

 

十六夜を追い黒ウサギが消えた後、残った私と久遠、春日部の案内を申し出てきたのは黒ウサギの所属するコミュニティのリーダーを名乗るジン=ラッセルという齢11歳の小さな矮小なる者。

いや、まがりなりにも彼らのコミュニティを継いだというのならその言い方は些か無礼か。

ジン=ラッセルという、11歳の少年だった。

 

「貴方がリーダーなの。随分と若いわね。私は久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」

 

「春日部耀」

 

ジンが礼儀正しく自己紹介をした後、久遠と春日部はそれに倣って一礼する。

 

「私の名は山田真央。それにしても、世代交代ということか?」

 

「え?ええ。まあ、そんなところです。では、こちらへ。皆さんもお疲れでしょうし箱庭の中へまいりましょう」

 

「そうね。まずは軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 

久遠はジンの手を取ると、胸を躍らせるような笑顔で箱庭の外門をくぐっていく。

私と春日部はその後へと続き、天幕の中へと足を踏み入れた。

 

ああ、と洩れる哀愁まじりの感嘆を私は留めることはしなかった。

懐かしき私の箱庭。

都市を覆う天幕は中に入ってしまえば視界には映らなくなり太陽と大地が現れる。

前の世界ではありえないそんな現象と、箱庭の街並みを歩く人間族以外の種族の住人達。

前の世界では髪の色さえほぼ一色だったというのに、この世界では色どころか姿形すら個性に溢れている。

視界に映る楽しいその光景と前の世界では味わえなかった澄み切った空気の味が私に帰ってきたのだという実感を与えてくれる。

なんと心地が良いものか。気を抜けば涙が零れそうになる。

 

「山田。随分、嬉しそうだね」

 

「嬉しいのではなく楽しいのさ、春日部。この可能性に満ちた世界に、今、私は居る」

 

本当に帰ってこられたのだ。

 

「確かに。面白そうなところではあるね。ここでなら、私にも友達ができるかもしれない」

 

「友か。ああ、それはいいものだ」

 

そして、心配などいらないだろう。

今現在、彼らがまだ箱庭に居るかどうかを知るすべはないが、無より出でて影として生まれる怪物である私にもこの箱庭には多くの友がいた。

私にできた友が春日部にできないなんていうことはない。

 

「この箱庭は見ての通り、多くの可能性を内包する世界だろう。友という可能性もまた、探せばどこにでもあるさ。いや、そうだな。春日部さえよければ、私が君の友に立候補をしたい」

 

「・・・山田が私の友達に?」

 

「ああ、私は君に興味がある。春日部耀という可能性に興味を抱かずにはいられない。君がなにを見て笑い。なにを見て泣くのか。友として隣で見させてはくれないだろうか」

 

私がしゃべり終わるまでの間、春日部はじっと私の瞳を見つめ。

最後になぜか私の下半身を凝視すると、こくりとちいさくうなずいた。

 

「うん。“真央”は私の知る男の子とちょっと違うから大丈夫かも?」

 

「そうか。なら、これからよろしく。“耀”」

 

今日はいい日だ。箱庭への帰還を果たし、友が2人も増えた。

謀略と背徳を司る。背後から刺す魔王と呼ばれた私も、今日という日を与えてくれた修羅神仏の類には感謝の祈りを送ろう。

ありがとう。

 

「真央。行こう。あそこのテラスで話をするみたい。呼ばれている」

 

私と耀は何時の間にか“六本傷”の旗を掲げるカフェテリアのテーブルに腰掛けていた久遠に急かされその店へと入っていった。

 

 

―――――✠―――――

 

 

「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」

 

「えーと、紅茶を二つと緑茶を一つ。あと軽食をコレとコレと、山田さん。貴方はどうする?」

 

「私はコーヒーを」

 

『それとネコマンマを!』

 

「はいはーい!ティーセット4つにネコマンマですね」

 

・・・・ん?と首を傾げる久遠とジン。

はて、店員のオーダーになにか不備があっただろうか。

久遠とジンが紅茶。耀が緑茶で私はコーヒー。

そしてネコマンマはおそらく、耀が抱える猫が頼んだもので間違いない。

ネコマンマを頼むのは決まって猫だから。

私の推測に間違いはないはずだ。

 

と、そんなことを考えていた私が間違っていたと反省することに否はない。

 

「三毛猫の言葉、分かるの?」

 

そうか、箱庭を知らない者から見ればそれはありえない推測だった。

 

「そりゃ解りますよー私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、此処はちょっぴりサービスさせてもらいますよー」

 

『ねーちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾やな。今度機会があったら甘噛みしに行くわ』

 

「・・・・真央。箱庭ってすごいね。私以外にも三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」

 

「来てよかったな」

 

耀は小さくだが、嬉しそうに頷いた。

 

「ちょ、ちょっと待って。貴方もしかして猫と会話ができるの?」

 

そして、私はさっそく春日部耀という少女の可能性の一端を知ることとなる。

 

「うん。三毛猫だけじゃなく、生きているなら誰とでも話は出来る」

 

それはすてきねと、久遠。

耀は照れたようで困ったように頭を掻いた。

 

「久遠さんは」

 

「飛鳥でいいわ。よろしくね春日部さん」

 

「う、うん。飛鳥はどんな力を持ってるの?」

 

新たな友情が生まれそうな空気にほほえましい気持ちになっていた私は、その時少しだけ驚いた。

私は久遠という少女のことはよくは知らない。まだ出会って数時間の間柄だ。

しかし、耀の質問を受けた彼女が浮かべた表情は、何故だかとても似つかわしくないもののように感じた。

 

「私?私の力は・・・酷いものよ。だって」

 

そして私の抱いた違和感の答えが語られる前に、私は我を忘れかけることとなる。

 

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

「っっ、僕らのコミュニティは“ノーネーム”です。“フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー」

 

私達の会話に突然割り込んできた2mを超える巨体をピチピチのタキシードで包んだ男が誰でどんな名かなど、聞こえなかった。

私の耳に入ってきたものは、一言だけ。

ジン=ラッセルの言った一言だけ。

 

「“ノーネーム”だと?」

 





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