再び異世界から問題児がくるそうですよ?   作:白白明け

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ペルセウス座だそうですよ?

 

ジン=ラッセルによるまさかのローレライの打破。山田真央による予想通りのアルゴールの打倒。そして今この瞬間も戦い続けている春日部耀と久遠飛鳥。

ギフトゲーム『ラーリッサの競技会』も佳境を迎えようとしているこの時、勝敗を決める最も重要な場所、白亜の宮殿の最奥で逆廻十六夜は笑っていた。いつも通りにヤハハと軽薄に笑っていた。

 

「よお、ルイオス。久しぶりだな」

 

「ああ、十六夜君じゃないか。久しぶりだね。その後、調子はどうだい?」

 

「悪くねぇよ。まだ腹に風穴が空いてやがるが、その程度だぜ。けーしょー、けーしょー」

 

「そう、うん。それはなによりだね。いや、僕としても少し気に病んでいたんだよ。ギフトゲームの最中とはいえ、その傷は僕が部下を御しきれていなかったからのモノだしね。本当にごめんね、痛かったろう?」

 

「ヤハハ、気にすんなって」

 

片手を軽く上げながらのあいさつから始まったその会話はとてもこれからギフトゲームのルールに基づき戦う両者が交わすものではなく審判役の黒ウサギは目を白黒させながら二人を見ていた。十六夜は笑い。ルイオスも笑っていた。ヤハハとアハハ。二人の笑い声が白亜の宮殿に木霊する。

黒ウサギはその光景に若干引きつつも疑問を口にした。

 

「お二方共、一体どうされたのですか?その、大変申し上げにくいのですが、黒ウサギが思うにとてもこれから戦おうという態度ではありません」

 

十六夜もルイオスもわかっている筈だろうと黒ウサギは目で訴える。現在行われているギフトゲームに置いて最も重要な戦いは言うまでもなくこの二人の戦い。この戦いが勝敗を分け、そしてその勝敗が今後の“ノーネーム”と“ペルセウス”。両コミュニティの明暗を分ける。

“ペルセウス”が勝利をもって望むものは逆廻十六夜という“人材”。それを奪われればもはや“ノーネーム”に再建の望みはなくなるだろう。いくら山田真央という実力不明(隠し玉)があろうと逆廻十六夜という正体不明(切り札)が相手に奪われればもはや“ノーネーム”は“ペルセウス”には勝てないと黒ウサギは感じていた。

逆に“ノーネーム”が勝利した場合に望むものは“ペルセウス”の旗印と名。それを奪われれば“ペルセウス”は“ペルセウス”足る為に“ノーネーム”に挑み続けなければならなくなる。一度敗北した相手にしかも次は自分たちが挑戦者側として相手の定めたルールの下で戦わなければならない。それがどれだけの危険性を孕んでいるのか理解できないルイオスではなかった。ただでさえ彼は前のギフトゲーム『アンドロメダを救え』での“ペルセウス”の勝利はローレライという切り札を使えたことも含めた運の要素が強かったと思っているのだから、なおさらに。

 

互いが互いに王手をかけかけられている。そんな状況なのでありますよと黒ウサギは唾を呑みこみ審判として白亜の宮殿の最奥に立っていた筈だった。だというのに気軽に笑いあう青年が二人。正直、黒ウサギには理解が出来ていなかった。

逆廻十六夜とルイオス=ペルセウス。二人はどうして笑うのか。

 

「僕は逆に黒ウサギさんは緊張し過ぎだと思うなあ。忘れたわけじゃないだろう?このゲーム、『ラーリッサの競技会』は元来スポーツマンシップに則って行われるべきものだ。握手から始まって握手で終わるのが望ましい。そこに笑顔は無粋じゃないよ」

 

「そうだぜ、黒ウサギ。それにこれから楽しい楽しいゲームが始まるんだ。勇んで笑っちまう男心が解らないようじゃモテないぜ」

 

「黒ウサギの好みは帝釈天様のような心穏やかな御方です。そんな戦闘狂のような殿方からモテなくてもかまいません」

 

「ヤハハ、そりゃ駄目だ。今すぐ好みを変えろ」

 

「な、黒ウサギの好みを十六夜さんにとやかく言われる筋合いはありません」

 

「なんなら俺が変えてやってもいいんだぜ?身体に教え込んでやろうか?」

 

「んな!?」

 

ウサ耳まで真っ赤にしながら怒る黒ウサギとそれをからかう十六夜。そんな二人のやり取りを見ていたルイオスは堪えきれずに吹き出した。

 

「く、はは、前々から思っていたんだけど君達芸人コミュニティとしてもやっていけるんじゃないかな。ああ、勘違いしないでくれよ。これは別に君たちを侮辱している訳じゃないから。………ただ、そうあってくれればよかったなっていう、僕の勝手な願望だよ」

 

芸人コミュニティであってくれたならよかった。その言葉の意味が解らないと黒ウサギは首を傾げた。

 

「ルイオスさん、それはどういう」

 

「なに、そうであってくれればこうして戦わなくてもすんだんじゃないかって言う、ただそれだけの話さ。まだ短い間とはいえ“ペルセウス”に所属して“ペルセウス”みた黒ウサギさんならわかるだろう?本心を言うなら僕は“ノーネーム”戦いたくなんてない」

 

「おいおい、そりゃどういう意味だ。優男。“昔の仲間”なんて御チビからすりゃ咽から手が出るほど欲しい餌を引っ提げて挑んできておきながら戦いたくないなんてどういう冗談だ?」

 

「いえ、いえいえ、いえなのですよ、十六夜さん。ルイオスさんは冗談なんて言っておりません」

 

十六夜の追及を庇うように黒ウサギは前に出た。短い間とはいえ“ペルセウス”に所属しその内情を見てしまった黒ウサギとしてはルイオスを庇わないわけにはいかなかった。それは月の兎としての彼女の本心だった。

 

「ルイオスさんは真実、戦いを望んではいません。レティシア様を交渉のカードにしたことも“ノーネーム”の怨敵ともいえるローレライを味方としたことも悪気があった訳ではなく、ただ………」

 

「もう、その辺でいいよ」

 

そんな黒ウサギを片手で制しながらルイオスは前に出た。

 

「力が必要だけれどそれは無暗矢鱈に戦いたいって訳じゃない。けれど、僕がレティシア=ドラクレアという“駒”を求めたこと。黒ウサギという“箔”を欲したこと。そしてなにより君達“ノーネーム”に喧嘩を売ったこと。全ては等しく事実だ。そうだろう、十六夜君」

 

十六夜の目の前に立ち、そして不敵に笑ってみせた。

対する十六夜はいつも通りの軽薄な笑みを浮かべて言う。

 

「ヤハハ、ああ、そうだ。やっぱお前、面白い奴だ。嫌いじゃないぜ、お前みたいなイエスオアノーで話せる奴。理由なんて蛇足だぜ」

 

このゲーム開始時、頭脳派を自称した十六夜は無論、張られた伏線も崇高な頭脳戦も嫌いという訳じゃない。けれど、こと殴り合いに関して言うのならわかりやすさが一番だった。そしてそれはルイオスも同じ。

 

「僕は君に喧嘩を売った」

 

「そして、俺が買った」

 

「ヤハハ」と笑い。「アハハ」と笑う。

 

「返してもらうぜ。黒ウサギの美脚は俺のモノだ」

 

「いいや、今は僕のだ」

 

“ノーネーム”に彗星の如く現れ魔王すらも魅せた稀代の問題児と魔王の部下によって改心させられた“ペルセウス”随一の優等生との戦いはスポーツマンシップに則った握手と共に始まった。

 

 

 

 

―――――✠―――――

 

 

 

 

「………戦い、始まったみたい」

 

白亜の宮殿の西門に居た耀は門のずっと向こう側、最奥から聞こえてきた破壊音と二つの笑い声を聞きながらそうポツリと呟いた。独り言にしても小さすぎるその呟きをしかし、耀の前で無様に跪き、肩で息をする男は聞き逃せずにいた。

 

「ルイオス様とあの小僧が戦っているのか?」

 

「うん。あなたのリーダーとあなたがその火矢で撃った十六夜君が戦っているよ」

 

男は手に持った弦が切れ折られた弓矢であったものを見ながら、半ば呆れる様に笑った。

 

「なんて奴だ。あれだけの傷を受けながらこんな短時間で回復するとは、化け物か。いや、それを言うなら………」

 

男は耀を見上げる。彼は耀の幼さを残す容貌を見ても舐めてなんていなかった。全身全霊全力を持ってこのギフトゲームに挑んでいた。しかし、男は目の前の少女に負けた。始めこそルイオスから借り受けた死者の国の王がもつ兜。史上最高の暗殺ギフトとも言われる『ハデスの兜』の力を持って耀を翻弄していた男だが、その攻勢も長くは続かなかった。

使用者の気配を絶つギフト。神仏を暗殺する為に造られたこの恩恵は使用者の姿はもちもん熱量・臭気・物音でさえ完全にシャットアウトする。視覚の弱い蛇などが持つ熱量探索(ピット)器官でさえ捕えることが出来ない“ペルセウス”の保有する神格武具が一つ。

しかし、この不可視のギフトには致命的な弱点があった。このギフトは透明になるものであって透過するギフトではなかった。

 

「人には聞こえぬ音波(こえ)を出し人には聞こえぬ音波(おと)を聞き、ソナーのように周りを探知し『ハデスの兜』を破ったお前もまた化け物か」

 

「………それは女の子に対してあまりに失礼だと思う」

 

無表情のまま拳を掲げる耀。小さなその拳で脅かされた所で可愛いだけだと誰もが言うだろう。しかし、その幼い容貌から繰り出される信じられないほどの馬鹿力を知っている男は比喩ではなく命の危機を感じた。

 

「ほ、褒め言葉だ。ルイオス様の言うようにお前たちは強かった。まさか、ギフトを真正面から破られて敗北しようとは」

 

「………まあ、あなたを殴ってリタイアさせたら私たちの負けだから、今回だけは許してあげる」

 

そう言って耀は再び白亜の宮殿の最奥に意識を向ける。彼女の持つギフト『生命の目録(ゲノム・ツリー)』の恩恵により人間離れしたその聴力(みみ)を通じて聞こえてくる戦闘音。それによってこのギフトゲームがもうすぐ終わることを悟る。

 

「………もう直に終わる」

 

「………小娘。今もルイオス様は小僧と戦っているか?」

 

「うん。けど、もう初めの頃みたいな勢いはないよ」

 

「そうか」

 

「………ねえ、どうして立つの?」

 

勝敗は決まっていた。『ハデスの兜』は剥ぎ取られ火矢のギフトは砕かれて身体には無数の傷が刻まれている。“ペルセウス”の男にもう戦う力が無いことは明白だった。だというのに男は立ち上がる。耀は首を傾げた。

 

「これ以上戦っても傷が増えるだけ」

 

「それでもルイオス様がまだ戦っている以上、剣を置く訳にはいかないのだ」

 

「………どうして?」

 

どうしてあなたは戦うの?そんな耀の素朴な疑問に男は自笑しながら構えを取った。

 

「嬉しかったからさ。女、金、道楽にしか興味がなかったルイオス様が“ペルセウス”の為に立ち上がってくれたことが。貴様達の本拠であの言葉を聞いた時、私は、我等全員心が躍った」

 

―――僕の“ペルセウス”はもっと上の階層に行ける。

 

「この胸の高鳴り、所詮はよそ者のローレライや制約により“ペルセウス”に居るだけの吸血鬼にはわからないだろうが」

 

「………けっこう、カッコいいね。あなたたち」

 

「フン、惚れても相手になどしてやれんぞ。小娘が、胸と背を成長させてから出直して来い」

 

「………流石にカチンときた」

 

白亜の宮殿の最奥で輝く黄金の翼がコミュニティの為、敗北覚悟で駆けるのと同じ瞬間、負け戦と知りながらも走る男の姿があった。“ペルセウス”№2。ルイオスの側近であったこの男は先のゲームに置いても今回のゲームに置いても、きっと誰よりも勝利を欲した男だった。

 

 

そして、ゲームは終わる。

 

 

 

 

―――――✠―――――

 

 

 

 

白亜の宮殿全体にゲームを告げる宣告が黒ウサギの声で告げられた。南門に居た飛鳥はそれを聞き誇るように胸を張る。

 

「どうやら私達の勝ちの様ね、吸血鬼さん」

 

「そのようだ。まさか本当に時間一杯まで逃げ切るとは思わなかった」

 

対して肩を落とした吸血鬼レティシアに油断は無かった。手加減なんてしてもいない。勿論、彼女にも元々のコミュニティ、“ノーネーム”に戻りたいと思う気持ちはあり、それはとても強いものだったけれど人買いのコミュニティから助け出してくれた“ペルセウス”にも恩義はあった。だから彼女は箱庭の騎士として一流のプレイヤーとしていま持つ恩恵(ギフト)を精一杯使って真剣にゲームに挑んでいた。

 

「それでも、私の手は君には届かなかった」

 

レティシアは飛鳥を中心にドーム状に流れる、越えられなかった水の壁を見ながら心の底から飛鳥を称賛した。

 

「私たちは流れる水を渡ることができない。だから、流れる水を越える時、通常は翼を用いて飛ぶわけだが………ふふ、よもや流水で空さえも覆うとは」

 

飛鳥は戦いが始まるとともに『威光』を発動しレティシアを従わせようと試みたが失敗に終わった。しかし、彼女は“フォレス・ガロ”とのゲームの時とは違い微塵の衝撃も受けることなく笑みさえも浮かべながら次の手を打った。

それは十六夜が水神より得たギフト『水樹』を用いた激流の城壁の形成。

その圧倒的な水量の壁は分厚くレティシアの放った光の粒子によって象られた長槍の一擲をも受け止めてみせた。

 

「流石だ。黒ウサギ達が“ノーネーム”の再建を掲げたと知った時、なんと愚かなと憤りもしたが、君達のような人材を得たのなら納得できる。もしかしたら、かの魔王達にすら届くかもしれない」

 

「ありがとう。けれど、あまり買いかぶらないで欲しいわ。“まだ”私は弱いもの。ギフトでギフトを支配するっていうこの戦い方も黒ウサギの助言によるもの。悔しいけれど、まだまだよ」

 

「いや、そう言えることこそが心強い。今後ともよろしく頼みたい」

 

「あら、それはこちらの台詞よ。メイドさん」

 

「メイドさん?それはどういう意味だ?」

 

「まあ、その辺の話は十六夜君や耀、真央さん、みんなが揃ってからするわ。それにしても、意外と早く決着が付いたわね」

 

飛鳥は白亜の宮殿の最奥を見つめながら言う。派手に爆音や轟音が響いていたのは短い間だけ、戦いが始まったと思われる最初の戦闘音が聞こえた後、すぐに音は小さくなりここからでは聞こえないモノになっていた。

 

「仕方がないだろう。それにそれはルイオスもわかっていたことの筈。前のゲームで十六夜というあの青年は自身を含めた四人を相手取り戦ってみせた。正面からでは勝てない。だからこそ、彼は搦め手でこのギフトゲームに挑んだ」

 

レティシアは白亜の宮殿の最奥で敗れた青年に思いを馳せる。どんな打算があったにせよルイオスは人買いのコミュニティから彼女を救った。レティシアはそれに大きな恩義を感じていた。

 

「ルイオスは決して弱い男ではない。強大な敵に立ち向かうための戦略を練る器量もあった。『ラーリッサの競技会』において勝敗を決するのは最奥での戦いだが東西南北それぞれの門での挑戦者が倒れてもその挑戦権を失う。だからルイオスはジョーカーとなる青年を自身に引き付け門での決着を望んだ。ただ、計算違いは力を持つ者があの青年以外にもいたということだ」

 

人買いのコミュニティから“ペルセウス”へ渡る過程の中で幾つかの恩恵(ギフト)を失ったレティシアや”ペルセウス“№2だけでなく、ローレライやアルゴールの魔王さえ”ノーネーム”を倒しきれなかった。それがルイオスの誤算であり敗因。

 

レティシアは受けた恩義を忘れないよう。けれども思いを新たに一歩踏み出すために黒ウサギが先ほど歓喜と共に言った言葉をもう一度言う。

 

「ギフトゲーム『ラーリッサの競技会』勝者“ノーネーム”」

 

ゲームは終わる。大切な事だから二度言った。

 

 

 

 

 

―――――✠―――――

 

 

 

 

 

 

“ペルセウス”との決闘から三日後の夜。私達は“ノーネーム”の本拠、水樹の貯水池付近にてささやかな戦勝パーティーを開いていた。そして、そのパーティーは十六夜達三人のこんな言葉と共に始まった。

 

「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん」」」

 

「え?」

 

「え?」

 

「………え?」

 

「え?じゃないわよ。前回とは違って今回のゲームで私たちはちゃんと活躍したもの。その分の報酬をもらう権利が私達には有る筈よ」

 

「し、しかしですね」

 

「黒ウサギは黙ってなさい。ジン君はともかく貴女に何か言う権利は無いでしょう。元“ペルセウス”の黒ウサギさん」

 

「………そうだよ。ジンは頑張ってたけど、黒ウサギは審判してただけし。“ペルセウス”のメンバーとして」

 

「う、うぅぅ。じ、ジン坊ちゃん~」

 

「え、えぇ~と」

 

「あんまり御チビを困らせるなよ、黒ウサギ。所有権は俺達で等分、2:2:2:2:2でもう話は付いた。ヤハハ、良かったな御チビ。金髪ロリのメイドを好き放題出来るなんて男の夢だろ。しかもそれが前は頭が上がらなかった女ならなおさら………燃えるだろう?」

 

「何を言っちゃてんでございますかこの人は!!」

 

ジンが混乱して何も言えないのを良いことに肩を抱き邪な笑みを浮かべる十六夜に流石の黒ウサギも堪忍袋の緒が切れたのかハリセンを取出し突っ込みを入れる。しかし、多勢に無勢。黒ウサギただ一人では稀代の問題児三人を突っ込み切れずに私に助けを求めてきた。

 

「真央さんも何か言ってください!まさか貴女様までレティシア様を所有しようなどと申されませんよね!」

 

射殺さんばかりの黒ウサギの眼光に残念ながら若干怯えぬ私ではなかった。まあ、確かに魔王として“ノーネーム”に挑んだ私がレティシア=ドラクレアを欲しいなどといえばそれは最早冗談に聞こえない。

 

「あ、ああ、勿論だ、黒ウサギ。そんな身の丈に合わぬことを望む私ではない。十六夜達には悪いが私は所有権を放棄させてもらうよ」

 

「ほら!お聞きになりましたか!御三方!皆様と同じく活躍された真央さんがこう言う以上、御三方が所有権を主張するのは些か強欲にすぎると黒ウサギは愚考しますが、まさか清廉なる御三方はそこまでがめつくはあられませんよね?」

 

私から半ば強引に言質を取った黒ウサギは三人を、特に飛鳥の方を見ながらまさかまさかと驚きの表情をわざとらしく浮かべる。誇り高い飛鳥としては私が要らないといった物を自分は欲しいなんていうことが若干浅ましいと思えるようで言い淀む。

そんな飛鳥を助けたのは耀だった。

 

「………それは違う。別に真央は遠慮して所有権がいらないっていったわけじゃない」

 

耀は何故だか私とまだ混乱に落ちるジンを見つめ、顔を赤らめ呟いた。

 

「………真央はしっかり別の報酬をもらってる」

 

「なあっ!?」

 

「ヤハハ、そうだぜ、お嬢様。昨日の夜、真央がジンの部屋に招かれたのを知ってるだろ。つまり、そういうことだ。だから、俺達が遠慮することなんてねえ」

 

「ええ、そういえばそうだったわね」

 

「ななあっ!?」

 

クスクスとわざとらしく笑う三人と何故か奇声を上げる黒ウサギ。

はて?果たして何故私がジンの部屋に招かれたから三人は遠慮しなくていいのか、その意味が私にはよくわからなかった。それに昨日、“ノーネーム”の今後について話したいとジンの部屋に招かれたのは私だけではなく十六夜達も同じの筈。その言い方ではまるで私一人が夜遅くにジンの部屋に言ったようではないか―――と、私の思考はそこで止まる。

 

「なあああああ!!ついに!ついに手を出されやがりましたかこの変態ペドフィリアは!?」

 

気が付けば私は黒ウサギに首根っこを掴まれていた。

 

「な、なにをする!黒ウサギ!」

 

「なにをするは此方の台詞です!貴女こそジン坊ちゃんになにをしてくれやがりましたか!?」

 

箱庭の貴族たるその力を遠慮なく発揮しながら黒ウサギは私の体をブンブンと前後に揺らす。何故か混乱の極みに有るらしい黒ウサギを正気に戻すのには多くの時間がかかり、そしてその間にレティシアと交渉し「君たちが家政婦をするというなら、喜んでやろうじゃないか」という言質をとった三人を流石に私は恨んでもいいのではないだろうかと思った。

ジロリと若干、本気の影を落とした目で三人を見れば三人は

 

「ヤハハ」

 

「ふふふ」

 

「………ぷぷ」

 

まったく、十六夜。飛鳥。耀。君たちは本当にどうしようもなく私を魅せてくれる。

いずれ私の中に巣食うブロッケン山の怪物の性(さが)が抑えられなくなっても知らんぞと顔を逸らし私は空を見上げた。

そして爛々と輝く“ペルセウス座”を見つけ私は笑みを浮かべた。

 




はい。これにて原作一巻分、とりあえずの完結です。
ここまで来るのに約二年。・・・・誠に申し訳ありませんでした<(_ _)>
紆余曲折ありましたが、ここまで来れたのは皆様の感想・叱咤激励があったからです。
本当にありがとうございました。

もちろん、これにて「真央たちの戦いはこれからだ!」などと良いキーボードをたたく指を止めるつもりはございません。また亀のような遅さ、あるいは熊のように冬眠しながらでの二次創作になると思いますが「再び異世界から問題児がくるそうですよ?」を続けたいと思います。原作第二巻以降にも魅力的なキャラが次々登場しますし、頑張ります!

最後に一言。私の駄文が皆様の暇つぶしになれば幸いです<(_ _)>(ペコリ)

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