再び異世界から問題児がくるそうですよ?   作:白白明け

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読者の方の暇つぶしになれば幸いです。


かつての友が登場するそうですよ?

ギリシャ神話の英雄ペルセウス。

かの男は紛れもない英雄であることは前の世界では誰もが知っていた。

父親に殺されかけ、育ての親の兄に謀殺されかけた彼はそれでもあらゆる困難、窮地を跳ね除けた。

そして怪物殺しの英雄の名を得るに至り、アンドロメダを妻として迎えた。

彼は英雄だ。

そのことに異を唱える私ではない。

しかし、知っているだろうか。

彼の伝説のスパイスとして語られている彼女の真実を。

 

完全武装で生まれた戦女神アテナにより強暴な呪いを受けたあの美少女の真実を。

 

「それを私に語りどうしろと言う。私にはどうしようもないぞ。山田とやら」

 

私の方を向くこともせず、金髪赤眼の美少女、レティシアはそう言った。

その態度は冷たいが、彼女の心まで冷たいということはない。

むしろ、私は好感を覚えた。流石は箱庭の騎士。

その制約と殉教には素直に感心する。

たとえ気の進まない『ギフトゲーム』だとしても一流のギフトプレイヤーとして、しめるとことはしめている。

 

「その態度には好感を覚える。しかし、その余裕が果たしていつまで続くか。見物だ」

 

私がそう言うと、レティシアはようやく振り向いて

 

「言っておくが、山田」

 

悲しげに眉をひそめた。

 

「両手両足を磔(はりつけ)にされた姿でそう、恰好のいいことを言っても痛々しいだけだ。正直、見るに堪えない」

 

「・・・それがわかっていない私ではない」

 

なぜ、私が両手両足を磔にされレティシアという門番に監視されながらコミュニティ“ペルセウス”の用意した『ギフトゲーム』の舞台、宮殿の最深部で捕らわれの身となっているのか、その理由を知るためには時間を少しだけ遡(さかのぼ)る必要があった。

 

 

 

―――――✠―――――

 

 

 

――ギフトゲーム名『アンドロメダを救え』

  ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜 

           久遠 飛鳥

           春日部 耀

           山田 真央

           ジン=ラッセル

  ・クリア条件 捕らわれている味方の救出。

  ・クリア方法 舞台『宮殿』の最深部に味方側プレイヤーの1人を安置。

         敵側プレイヤーの妨害をかいくぐり捕らわれたプレイヤーを敵側プレイヤー           が“黒ウサギ”を奪取する前に救出する。

  ・敗北条件  味方側プレイヤーを助け出す前に黒ウサギを奪われる。

 

    宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の元“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

                    “ペルセウス”印――――――

 

“ペルセウス”から出された『ギフトゲーム』の内容はいわゆる救出ゲームと呼ばれる類の典型的なゲームだった。

これは今回のように互いのコミュニティの『人材』を賭け行われる『ギフトゲーム』で採用されることの多い『ギフトゲーム』であり、ルールもわかりやすいものだ。

互いのコミュニティから賭ける『人材』を敵コミュニティに一度預け、奪還するまでの時間を競う『ギフトゲーム』。

敵より早く味方を救い出すことの出来たコミュニティは仲間を取り戻し、預けられている『人材』をそのまま貰い受けることができるという単純でありながら策略を弄することの出来る可能性に富んだこの『ギフトゲーム』は古来より箱庭で行われている。

むろん、あらゆる可能性がそうであるようにこのギフトゲームにも多少の問題点はある。

それは信頼関係。戦う相手が信用するに値するかどうか。

一時とはいえ、いまだ自陣の仲間である『人材』を預けるのだから、それは必要不可欠なものとなる。

ルイオスが言っていた“確証”とは、おそらくはこのことだったのだろう。

 

「囚われの姫を救い出す。どこの国にもある伝承を元にした『ギフトゲーム』ってことね。なかなかに楽しめそうじゃない」

 

救出ゲームについての説明を受けた飛鳥は楽しそうに笑った。

いや、飛鳥だけではない。十六夜や耀もまた、心躍るといった表情だった。

 

「分かりやすくて、このゲーム、私好きだな。友達を助けに行けばいいんだよね」

 

「単純明快にして温故知新。やるじゃねぇか、あの優男。嫌いじゃねぇぜ、こういう古風なゲームは。ルールも完全にイーブンに見える。そうだろ、ジン」

 

「はい。正直、僕は驚いています。元来、下層のコミュニティに上層のコミュニティが『ギフトゲーム』を仕掛ける際には恐喝紛いの不平等さを持ったゲームか、いわゆる挑戦の要素を加えたゲームを選ぶことが多いのですが、まさかここまで“対等”なゲームを仕掛けてくるなんて」

 

 

―――対等でいよう。人間らしく人道的に、話し合おう―――

 

―――何と何を取引するか話し合おう―――

 

 

ルイオスの言葉を、纏っていた雰囲気を思い出したのだろうジンは小さく震えたが、それでも気丈にその小さな拳を固く握り言った。

 

「“ペルセウス”のメンバーではなく黒ウサギが捕虜を務めるという多少のルール変更があるにしろ、これは対等な『ギフトゲーム』です。僕はこの『ギフトゲーム』を受けたいと思います。皆さん、いいですか」

 

「かまわないわ」と飛鳥は笑い。

「無問題」と耀は笑わなかった。

 

「黒ウサギの美脚を失わずに美少女吸血鬼を手に入れる。最良だろ」と十六夜は戦う前から勝利を信じ。

「君の決めたことに異を唱える私ではない」と私はジンを信じた。

 

1人、黒ウサギだけは心配そうにジンを見ていた。

 

「ジン坊ちゃん。本当に、いいのですか。もし、負けてしまえば“ノーネーム”は黒ウサギを失いレティシア様さえ手に入らなくなってしまうのですよ。“取引”にさえ応じればレティシア様だけでも―――」

 

「黒ウサギ。それは昨日散々話し合ったことだよ。僕は確かにレティシアを取り戻したい、でも黒ウサギを失いたくなんてない。これが我儘だと言うなら僕は我儘な子供でいい」

 

ジンは言いよどむことなくそう言い切った。

そのジンの顔を見て、黒ウサギは目を見開いていた。

 

そうだ。目に焼き付けろ。

それが、私が愛した輝きだ。恋い焦がれずにいられない、ジンだけが持つ可能性。

黒ウサギ。君は確かにジンを守り、助けながら今までを過ごしてきた。

そのことに異を唱える私ではない。

しかし、そろそろ、ジンは1人立ちしてもいいころだろう。

 

それがわからない君ではあるまい。

 

「―――わかりました。ジン坊ちゃん。戦いましょう。勝ちましょう。そして取り戻しましょう。黒ウサギ達の大切なレティシア様を」

 

「もちろんだよ。黒ウサギ」

 

黒ウサギの手が伸びるのは、もうジンの頭の上ではない。

伸びてきたその手をジンは力強く握った。

 

ここまでが、“ノーネーム”と“ペルセウス”がどんな『ギフトゲーム』で戦うことになったかというお話。

そして、これからは私が見ることの出来なかった彼らの戦いの物語。

 

 

 

―――――✠―――――

 

 

 

『ギフトゲーム』“アンドロメダを救え”の開始を告げる銅鑼が宮殿に響き渡る。

参加ギフトプレイヤーは両コミュニティ共に4名。

救出ゲームにおいてこの四名をどう配置するかがこの『ギフトゲーム』を攻略するためのカギとなることを飛鳥たちはジンから事前に聞いていた。

防御と攻撃。

盾と剣。

すなわち姫を救いに行く騎士と捕虜を守る門番。

4人と言う人員をどう割くかが重要だ。

 

定石でいうのなら攻撃側に2人と防御側に2人のイーブンが通例だが、コミュニティ“ノーネーム”はあえてその策を取ることはしなかった。

相手は“ノーネーム”とは比べ物にならない巨大コミュニティ“ペルセウス”。

回復系ギフトの保有数を考えれば、長期戦になるほどに不利なのは目に見えていた。

だからこそ、“ノーネーム”取るべき戦略は決まっている。

 

最初から絶頂(クラマックス)。

 

十六夜1人、黒ウサギを守るために残し、ジンと飛鳥と耀の3人は真央を救い出すために宮殿を駆け抜けていた。

 

「それにしても見事な調度品ね」

 

足を止めることをせずどこまでも続く廊下を駆け抜けながら飛鳥はそう呟いた。

廊下に飾られた名画、宮殿の華美な装飾は戦時下における日本を支配していた財閥の令嬢から見ても見事なものばかりだった。

 

「こんな状況でなければ色々と愛でて回りたいものなのだけれど―――」

 

「飛鳥。寄り道はダメだよ」

 

「―――ええ、わかっているわ。この宮殿の調度品には心躍るけれど、この先にはそれ以上のものがまっているものね」

 

飛鳥は待ちきれないとばかりに声を弾ませ、耀もまた微笑した。

 

「うん。楽しみ」

 

「お二人とも、油断だけはしないでください。彼女がどれほど強力な力を持っているのかは僕がよく知っています。お二人の力を合わせたとしてはたして勝てるかどうか」

 

彼女。飛鳥と耀がその出会いを今か今かと待つ相手でありジンができることならすれ違いになってくれないかと思う相手である彼女の名は、レティシア=ドラクレアという。

箱庭の騎士たる純血の吸血鬼にしてジンの元仲間。

このギフトゲームで賭けられた『人材』の1人であり、白夜叉、山田真央と同じ元魔王である。

 

なぜ“ペルセウス”が完成されたゲームである救出ゲームのルールを多少捻じ曲げてきたのか、それはレティシアをこのゲームに参加させるためだとジンと十六夜は考えていた。

 

ジンは既知感を感じずにはいられない。

 

―――仲間を救うために救うべき仲間と戦う。

 

かつての戦いを思い出す。

 

いや、とジンは首を振った。

終わった。もう終わったことだ。あの悪夢のような1ヶ月は遥かな昔。

自分たちはあの影の王に打ち勝った。

 

「ジン君。そんなに怖い顔しなくても大丈夫よ。油断なんてしていない。私達の力を知っているジン君が勝てるかどうかわからないなんて言う相手を舐めるほどに私も春日部さんも馬鹿じゃないわ。だから、一つだけ訂正なさい」

 

「訂正、ですか?」

 

戸惑うジンに飛鳥は悪戯っぽく笑いながら

 

「ええ、私たちは“勝つのよ”」

 

 

 

 

「―――美しい」

 

魔歌が謳われた。

 

 

 

 

「っっ、“止まりなさい!!!”」

 

叫びと共に飛鳥の持つギフト“威光”が発動する。

その発動によりジンと耀の足が無理やりに止められる。

二人は難を逃れた。

しかし、一人。“威光”の効かない相手。

持ち主である飛鳥だけは1人、止まることは出来ずに突っ込んだ。

 

「飛鳥っ」

 

「飛鳥さん!」

 

ザブンっという音と共に舞う水飛沫。

 

「っっ」

 

飛鳥の全身を刺すような冷たさが包む。

この宮殿がいったいどういう造りになっているかはわからない。

 

飛鳥が水面に上がると、目に映るものは荘厳な宮殿に見合う美麗なる大広間。

 

廊下を駆け抜け扉を開けたその先、大広間は水によって水没していた。

扉を開けた入口の床から階段三段分下にある大広間の床はため池のようにその水を逃すことはなかった。

 

「潮の香り・・・海水」

 

耀は鼻を鳴らしながらそう言って、螺旋階段の続く先を睨みつけた。

 

「気を付けて、誰かいる」

 

「・・・淑女をいきなり濡れ鼠にするなんて、いったい誰かしらね」

 

そう言う飛鳥の笑顔は怖い。

それを見たジンは怖がりながらもあわてた様子で両腕を振り回し

 

「飛鳥さん!早く海水から上がってください!」

 

警戒する三人をよそに、彼女は静かに螺旋階段を下ってくる。

 

「信頼。信用。信愛。その形は美しい。そう、わたくしは思うのですわ。しかもそれがまだ出会って間もない間で育まれたものだというのなら、本当に素晴らしいですわ。むろん、そんな関係はそこの“ジン君”が子供だからこそ育めたものなのでしょうけれど」

 

ゆっくりと、一段一段階段を下る女。徐々にその姿が見えてくる。

 

「あ、ああっ、あああ!」

 

その姿を見てジンは震えた。歯を鳴らし、拳は血が滲むほどに握られる。

飛鳥や耀はそのジンの様子を見てギョッとする。

ジンが震えるのも無理はない。

彼女たち二人が知らないことだが、目の前の女はジンの心に大きく刻まれた存在だった。

 

「ようこそ。コミュニティ“ノーネーム”の皆さん。ここまでこんなに早くたどり着かれるなんて、随分と急いでいただけたよう。お疲れでしょう。不肖わたくしが存分に歓迎させていただきますわ」

 

胸元の大きく開いた青いパーティードレス。足を隠すために長くつくられた生地は無残にも切り裂かれ、白い太ももが覗くばかりか歩くたびに黒いレースの下着がちらちらと顔を覗かせていた。

むせ返るような色香を放つ女の最大の特徴は、長年に渡り海に沈んでいたとしても色褪せることがないような、輝く、金色の、どこまでも光るその金髪だろう。

ドレスに合わせたのだろうか。

その髪型はかつてジンが見た時とは違っていて、金色の髪飾りを使い、うなじの見える見事なポニーテール。

 

花のような笑顔。ただし、食虫花のような笑顔で美女は笑った。

 

「わたくしの名はローラ。訳あって今はルイウス君に協力をしている者ですわ」

 

その名を聞いてジンはようやく思い知る。

終わっていなかったということを。いまだ、続き続けていたということを。

影は消えた。闇はない。だが、いまだに絶望はそこにある。悪夢は覚めることはない。

そして、そして、ついに目の前に現れた。

復讐すべき相手を前にジンの震えはさらに増す。

その震えは恐怖ではない。

 

「ようやく、ようやく、見つけました。僕はずっと、ずっとこの時を待っていたんだ。ローラ。いいえ、“ローレライ”!!!」

 

それこそは“ノーネーム”の前身を滅ぼした原因である二人の魔王の内、1人に仕えた女。

鋼鉄の処女(アイアンメイデン)。

不実な恋人に純潔を捧げ身を投げた愛情深き海の乙女。

 

神経(くすし)き魔歌(まがうた)謡う亡霊“ローレライ”。

 

 

 




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