再び異世界から問題児がくるそうですよ?   作:白白明け

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かつて敗れた魔王だそうですよ?

 

「自らのギフトが万物を模倣する『完全無欠の現身(パーフェクト・コピー)』だと語りながらも黒ウサギの姿を真似ることが出来ない点。そして何より今この窮地において最も生き残る可能性を秘めた姿、箱庭の騎士たる純血の吸血鬼への変身をしないという事実!」

 

既に敵は満身創痍。コミュニティのほぼ全員が致命傷といかないまでも重傷を負っているこの状況で、声を張り上げ核心を突く黒ウサギの対し私は決してああ、と感嘆の声を漏らすことだけはしなかった。

そうだ。そんな真似だけはしてはならない。

なぜなら私は、

 

「そうです。あなたはならないのではありません!なれないのです!本物の純血の吸血鬼、レティシア様が目の前にいる限り、あなたは純血の吸血鬼にはなれません!以上の点が語るあなたの正体は――」

 

そうだ。それでいい。敵が既に満身創痍だというのなら私の身は既に七転八倒。

空を駆ける巨体。そこから流れる黒い血が確定された敗北を語っている。

ならば、この私に勝ってみるがいい。

気高くも矮小なる者たちよ。

自らの可能性を封じた者どもよ。

私の殺害などではない。正攻法。

まっとうなやり方でこのギフトゲームに勝利しろ。

 

「ブロッケン山の怪物!それがあなたの正体です!背後から刺す魔王!」

 

黒ウサギがそう言った瞬間に聞こえてきた声。

 

≪ギフトゲーム『魔王の正体を見抜け』の挑戦者側の勝利条件が満たされました。

 第十三ルールに基づき魔王側の敗北となります。             ≫

 

直接脳内に響くような声が私の敗北を告げていた。

よくやった。矮小なる者たちよ。可能性を封じ込めたる者どもよ。

よくぞ謀略と背徳を司る。背後から刺す魔王たるこの私に打ち勝った。

敗北が決定した以上、素直な祝福を送ることに否などない。

 

敗北が決定し。純血の龍を形作っていた私の身体が解れていく。

鋼のような鱗は剥げ。影を服従させる羽は折れる。

地獄の業火を貪る牙もまた消えていく。

そして現れるのは私の本当の姿。

いや、この姿すら私のものではない。借物に過ぎない。

私は無そのもの。有がありようやく影として生まれしもの。

敗れ朽ちたというのなら再び闇に帰るのみよ。

この結末にも、もちろん否などない。

私は敗れ、負けたのだ。

 

ああ、だがいまだ何とか形を保つ口が消える前にどうか一言、言わせてほしい。

 

「お前たちの、コミュニティの名、聞いて、いなかったな。聞かせてくれ」

 

勝利に沸いていた彼らが、私のその言葉を聞き一様に口を閉ざす。

恐らくは対戦相手の名も知らなかった私の無知を笑っているのだろう。

そして、少しして黒ウサギが代表で答える。

 

「私たちの名は――――。」

 

そうか。――――。

その名、確かに胸に刻み込もう。

この私を倒した勇ある者たちのその名を。

そして、心よりの称賛を。

 

「――――。みごと」

 

 

―――――✠―――――

 

 

目が覚めると私は人間族の赤ん坊になっていた。

 

「ばぶ(ふむ)。ばぶばぶう(次は人間族か)」

 

驚くべき点はない。私は箱庭でのゲームに敗れ無に帰ったのだ。

無に帰り終わったのなら次は有として始まるだけなのだ。

次なる生を存分に謳歌するとしよう。

この身体の元々の持ち主には悪いが、君が生きる筈だった人生を代わりに生きさせてもらおう。

いくら次がある私でも死ぬのは怖いのだ。

消えてはやれない。同じ存在が二つあることを許すほどこの世界は寛容ではない。

 

私を見下ろす。この身体の元々の持ち主の両親であろう2人に後ろめたさを感じないと言えば嘘になるが、私は死にたくない。

 

「ばぶ、ぶ、ばぶば。(なあ、僕、君は死ね。)ばぶぶぅ(私は生きる。)」

 

「まあ、見てあなた。この子、何か言っているわ」

 

「はは、きっと僕たちのことをパパママって呼んでいるのさ」

 

すまない。矮小なる者よ。君たちの子は今頃、無の中、円環の理の内か餓鬼の腹の中だろう。

そんな事実に欠片も申し訳なさを感じない私ではない。

せめて君たちが生きている間は君たちの子を演じ生きよう。

なに、演じ真似ることに関して私は右に出るものはいないと自負するものだ。

胤を蒔き。腹を痛めて産んだ子が人間ではなかったと知ることもなく死んで行けよう。

それだけは約束しよう。

 

「ばぶばぶばぶう(謀略と背徳を司る)ばぶばぶうばぶ(背後から刺す魔王)。ぶぶばばぶぶう(ブロッケン山の怪物)。」

 

二重に出歩くもの。ドッペルゲンガーの名に賭けて。

 

 

―――――✠―――――

 

 

それから18年間。私は人間族の子として生きてきた。

母と呼ぶ矮小なる者の腕に抱かれ育ち。

 

「まーくんはどうしてそう恥ずかしそうな顔をするのかなー。可愛いなーもー」

 

小学校と呼ばれる教育機関に預けられ語学や数学、社会学などを学び修めて。

 

「山田くんはまた100点花丸ですね。良い子良い子ですよ」

 

人間族の友人を作り。

 

「まおっ!サッカーの人数足りないんだよ。今日、遊ぼうぜっ!」

 

中学校と呼ばれる教育機関に入る際は父と呼ぶ矮小なる者の助言により私立へと入学した。

 

「まーくんは僕や母さんに似ず頭が良いからね。その才能を伸ばした方がいいよ。なに、お金のことは心配しなくていい。僕が何とかする」

 

そこで幼馴染と呼ばれる矮小なる者に好意を伝えられたりされながら育ち。

 

「普通、気づくよ。私が真央のことずっと。頭良いくせにそういうとこだけ人間じゃないみたいに鈍いんだから」

 

そんな彼女と同じ高校へと進み。そして、今日。

私が人間族の子を装いながら生きて18年目のこの日、高校の卒業式の日。

 

母と父。そう呼んでいた矮小なる者二人が死んだ。

 

飛行機事故だった。

海外で働いていた二人は今日行われる私の高校の卒業式に出席するために帰国をしようとし、乗った飛行機が事故により大西洋に墜落したらしい。

乗員乗客全員が行方不明。テレビに流れた行方不明者の欄にはあの二人の名前。

生存は絶望的だろう。

 

意外と短かったなと思う。もう少しだけ人間を演じ、彼らの子を演じ生きなければならないと思っていた。

しかし、これでもう私が山田真央(やまだまお)という人間を演じる必要はない。

そう思うと少しだけ肩の荷が下りた気がした。

 

母と父。そう呼んでいた矮小なる者の死に何も思わないでもない。

しかし、彼らからしたらどうであったとしても、私から見れば彼らはどうしようもなく他人なのだ。

肉親などではない。

私は人間族ですらないのだから。

それでも私が彼らの子を演じ続けられたのはこの身体の元の持ち主の命を奪ったという責任感。

 

「だが、これで責務は終えた。ここからは私の人生を歩ませてもらおう」

 

すまない。そしてありがとう。

 

私が人間族として生きる支えとなってくれた三人に謝罪と感謝を述べて、懐から一通の手紙を取り出す。

この手紙を受け取ったのは随分前。

しかし、両親と呼んだ二人が生きている間は開く訳にはいかなかった手紙。

この手紙を私は知っている。

山田真央(やまだまお)という人間族を形作る前の私も、この手紙を開きあの世界へと言ったのだから。

知らないはずがなかった。

 

無より出でて影と共に生まれる私を受け入れ、祝福してくれるあの世界。

矮小なる者たちと可能性を封じる者どもを数多く内包するあの世界。

ああ、そういえば。――――。この私を破りし彼らはまだ、あの世界で元気にやっているだろうか。

 

そんなことを考えながら、私は手紙の封を開けた。

 

『 悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

   その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、

    己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

     我らの“箱庭”に来たれたし。         』

 

そして、新しい世界への扉が開いた。

 

 

 




アニメを見て、異世界とか万物を賭けたゲームとか主人公が最初から最強クラスとか、
そんな設定がとても好みでアニメの終了を機会に原作を買ってしまった。
そうすると二次創作をしてみたくなるのも仕方なく、、、書いてしまったので投稿します。
暇つぶしにでもなれば幸いです。



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