俺の青春がスポコンになるなんて間違っている。 作:nowson
ー奉仕部部室ー
総武高の生徒会選挙も無事に終わり、奉仕部の3人は部室の掃除と生徒会室への引っ越しの準備をしていた。
「こうやってみると、うちの部室なんもねぇな」
捻挫した脚はすっかり良くなったのか、やる気のなさそうな態度とは違い動き良く物を運んでいる八幡。
「ええ、荷物といえばティーセットとパソコン、それと……」
美しい流し目をしながら八幡の方を向く雪乃。
「おい、何で、そこでこっち見てんだよ?」
「あら?何か思う事でもあるのかしら荷物谷君」
「おまえ、それ答え言ってるようなものだからな。てか、どうした由比ヶ浜」
先ほどから会話もせず立ち止まり、物思いにふけっている結衣に八幡が言葉をかける。
「うん、何か今までの事思い出しちゃって……色々なことがあったよね」
「まあ、そうだな」
「ええ、そうね」
1学期から数か月しかたっていないものの、それまでにあった日常や出来事が思い出としてよみがえる。
色々な事があった。楽しい事、嬉しい事、悲しい事、そして奉仕部の部室に流れる少しの寂しさに3人はしばし無言になり各々、思い出にしたっていた。
そんな時だった。
「どうだ!準備は進んでいるかね?」
いきなりガラっと開く扉、現れたのは顧問の平塚静(独身)
「準備ってほどの物ないですよ、ここ(またノックしなかったなこの人)」
以前ノックしたのは何だったのか、もはや諦め模様の八幡は突っ込む様子もなく言う。
「そうかね、これで私も奉仕部の顧問も終了というわけか」
そう言いながら片付けられた部室をながめ言う。寂しそうで、だけど嬉しそう、そんな顔をする静。
「平塚先生、少しよろしいでしょうか」
雪乃が声をかける。
「何だね?」
「勝負の件はどうなりました?」
「「勝敗?」」
何の事?な態度と言葉の結衣と静。
「……あれか。誰が一番、人に奉仕できるかってやつか」
「え?」
何それ聞いてない的な反応の結衣。
「誰かと協力してもいい、勝ったらなんでも言うことを聞いてもらえるって勝負」
八幡が補足する。
「そ、そうだな……(ナチュラルに忘れてた……けど、どうする?勝負の途中なら、なあなあにしてお茶を濁せるが今は……)」
奉仕部も終了するため濁しにくい、さあどうする平塚静
「雪ノ下、君はどう思う?」
とりあえず自分の答えを先送りしつつ、あえて雪乃に問う。
「……まことに遺憾ではありますが、この男の勝ちです」
「ゆ、ゆきのん!?」
雪乃がまさか自分から負けを認めるなんて、ビックリした結衣が驚きの声を上げる。
「そうか。では比企谷、君は」
「ひ、ヒッキー!まさかゆきのんにいやらしいことをしようとしてないよね
!?」
それだけは未然に防がねばならない、雪乃の為?いや自分の為にも!結衣は八幡に詰め寄る。
「お前、俺をなんだと思ってんだよ……って言っても今は何も思いつかねぇな」
突然言われても思いつくわけがない、普通の反応の八幡。
「とりあえず片付け進めようぜ、まだやる事あるだろ」
何をしてもらうかはこれから考えればいい、そう考えた八幡は、そう言うと残り少ない作業に戻った。
―生徒会室―
「あっ!皆さんお疲れ様で~す」
奉仕部の数少ない備品を手に生徒会室に現れた3人に、なんやかんやで生徒会の副会長にいろはが声をかける。
「みんなお疲れ」
顔をだしていたのかOBの城廻も声をかける。
「そういえば先輩」
「なんだ?」
いろはが先輩とだけ言うのは一人だけ
「バレー部の方はいいんですか?」
「……俺はバレー部じゃねぇぞ」
少し間が開いて八幡が答える。
「え~勿体ない」
あんだけプレーできるなら、やらない手は無い。サッカー部のマネージャーとして運動部に携わりプレーをみてきた彼女にとって畑違いではあるものの、そう思うのも無理はない。
「「……」」
そのやり取に、思うところがあるのか雪乃と結衣が何やら考え込む。
「ふむふむ」
そんな状況をみて城廻は何やら感じ取っていた。
―次の日の昼休み―
昼休みのチャイムの音、普段は重い腰だがこの時は違う、八幡は昼食を準備すると軽やかに席を立とうとする、そんな時だった。
「お~す」
「よっ!」
飯山と稲村が声をかけ八幡に近づいてくる。
「おう、またn―――」
「―――よし飯食おう」
七沢が後ろから現れ八幡を捕まえると近くの席を借りて座る
「語らいながら飯だ飯!」
「おう栄養とってアナボリック万歳だ」
稲村と飯山も席にすわる。
(……何で?)
そう思いつつも席に座る八幡。なんだかんだで付き合いが良い気がする。
「ところで飯山」
「ん?どうした比企谷」
「お前ラブレターの件どうなったんだ」
「な、何を急に!」
青い顔をして慌てだす飯山。
「ああ、こいつ放課後逝ったら、案の定相手男でさ」
「断ったけど、せめてお友達でもとせがまれて、紆余曲折バレー部のマネージャーになったんだよね」
「そ、そうなのか」
何故そんなカオスになってんだ?八幡は苦笑いを浮かべ、そう答えるしかなかった。
「本当なんでこんなことになったんだ……」
「まあ男子でもマネいるのは助かるよね」
ボール運びとかの効率が段違い、七沢が笑顔で言う。
「彼女持ちのバレー馬鹿は黙れ!」
「お前に俺たちの気持ちが分かるか!」
(ここで発言したら俺にも、とばっちりが来そうだから黙ってよ)
何せ周り美少女だらけの八幡が言ったら嫌味になりかねない。
「そういえばさぁ」
「ん?」
それぞれが飯を口に運んでいる時に七沢が口を開き飯山が反応する。
「今思ったんだけど、うちのクラス球技大会、バレー最強じゃね?」
「は?」
急に何を言ってるんだ、飯山がポカン顔。
「だってさ、その種目の部活の生徒は1クラス1人までだけど、うちのクラスは俺と比企谷の二人が出れる。つまり二人でレフトエース&ツーセッター状態にして対角組んでどっちかトス上げれば、どちらかが良いトスでガチにスパイク打てる!」
「お、お前……」
「球技大会でそれやったらガチのサーブ打ちまくるからな」
「じょ、冗談だよ冗談!」
「「……」」
絶対冗談じゃない、二人は七沢をジト目で見た。
「まあいいか。そういや脚の状態どうだ?」
ため息をつきながら飯山が八幡に声をかける。
「ああ、もう大丈夫だとは思う」
「なら良かった!」
「我がバレー部は」
「いつでも君を待っているぜ!」
3人が息の合ったコンビネーションで八幡にアピール。
「……いいから飯食おうぜ」
そんな3人を流すように八幡は昼食を口に運んだ。
―生徒会室―
「ねえ、ゆきのん」
「何?」
「ヒッキー……無理してないよね?」
「無理というより悩んでいるんじゃないかしら」
「それって……生徒会かバレー部かで悩んでるって事?」
そう、彼はバレーボールに明らかに未練がある。それを二人は感じていた。
「そうかもしれないわ」
「もしかしてヒッキー、こっちの方辞めちゃうのかな」
「どっちを選ぶのも彼の自由よ」
目を閉じ少し俯く。
「……ゆきのん」
結衣が寂しそうに呟く。
『本音を言え雪ノ下、お前は生徒会長になりたいのか?』
(あの言葉そっくりそのまま返したいところだけど……もしかして比企谷君は)
『いや、ちょっと確認したくてな』
『確認?』
『ああ、お前が奉仕部で活動するのが好きなのか、皆で一緒にいるのが好きなのか』
思い出される以前のやり取り。
(やっぱり彼は……なら私のすることは)
「ねえ由比ヶ浜さん、お願いがあるのだけど」
雪乃は目を開き顔を上げると携帯を取り出した。
(なにやってんだろうな俺)
「ん?誰だ?」
突如鳴る携帯、見知らぬアドレスからのメール。
“明日、生徒会室に来る時バレーボールシューズを持ってきなさい 雪乃”
「雪ノ下……何のつもりだ、あいつ」
―次の日の放課後―
「うす」
言われた通り八幡がシューズバック持参で現れる。
「あっ先輩ようやく来た」
「遅いよヒッキー」
「それより何なんだよ雪ノ下、バレーシューズ持ってこいって」
「ええ簡単で単純な事よ……。比企谷君あなたバレー部に行きなさい」
「……は?何言ってんだよ」
突然の事に頭が追い付かない八幡。
「あなた生徒会とバレー部で悩んでるんでしょ?普段は一人の庶務がいないくらいで生徒会の仕事が回らないなんて事はない。貴方がいなくても何も問題ないわ」
「えっ?」
「ちょっと、ゆきのん!」
まさかの突き放すような発言に戸惑いをみせる、いろはと結衣だが。
「“普段は”か」
納得したかのように八幡は口をひらく。
「ええ“普段は”よ」
雪乃も目を閉じ少し微笑みながら言葉を返す。
「ああそういう事でしたか」
「ど、どういうこと?」
いろはもそれに納得するが結衣だけは、まだ理解が追い付かないようだ。
「つまり、普段はバレー部行ってて良いけど生徒会忙しい時は来てくださいねって事ですよね」
言い方素直じゃなくて紛らわしいから気づきにくいけど、と続く言葉を飲み込むいろは
「そういう事よ、とはいえ何時忙しいか否かまでは分からないわ、だから……」
少し恥ずかしそうな顔をしながら言葉に詰まる雪乃。
「毎日、行く前に顔出してって事?」
結衣でも察するレベルの恥じらい方だった模様
「そ、そういう事よ。それで貴方はどうするの?」
恥ずかしがる顔を何とか元に戻し八幡に向く。
「その……」
バレーが出来る、これからも関係が続く、嬉しさや安堵、気恥ずかしさが押し寄せ俯く。何とも言えない顔になりそうなのを抑え笑顔だけが純粋に残り
「行ってくる」
3人に、向かって顔を上げ伝える。
「「「っ!?」」」
「「「行ってらしゃい!」」」
初めて向けられた純粋な笑顔にドキリとしながらも、こちらも笑顔になり八幡を見送った。
―3年の教室―
放課後ということだが、受験生ということもありバレー部のOB達がみんなで勉強していた・
「なあ、あいつバレー部入ってくれるかな」
OB1が口を開く。
「あいつってセッターの」
OB2が思い出したように答える。
「そう、比企谷だっけか?あいつ」
「どうだろうな、良くわかんねぇけど入部の意思があったらとっくに入ってそうな気もするし、訳ありかもしれないし」
ややネガティブに言うOB3。
「まあ、その辺は大丈夫だろ」
その言葉に対し自身満々で答える清川。
「どういうこと?」
恩名が清川に疑問をぶつける。
「俺は数か月離れただけでバレーしたくて飢えてる」
そう言いながら、何故か履いてるバレーボールシューズのつま先で床をトントンやる清川。
「けど、あいつは3年間飢えていた……いや、飢えに気づかない状態からバレーの味を思い出したんだ。一度飢えを知ってしまったら最後、満たされるまでバレーを求める。けど、満たされるまで何年かかるか分からない、次から次えと楽しいがやってきて更に飢えるだろう。そんな訳だからアイツは必ず来るさ」
「だとしてもお前は飢えすぎだけどな」
勉強中までバレーボールシューズを履くやつは居ない、恩名がため息をつきながら突っ込んだ。
―体育館―
バレー部男子の使っているコートでは以前に増して活気に満ちていた。というのも練習試合の激戦を見た生徒の中にバレーに興味を持った生徒数人がいて入部したのだ。
2年の3人が新入部員に基礎練習を教え、その間1年の温水と長谷がスパイク練習をしていた。
「肘の幅そのままやってみろ、少し窮屈だと思うけどボールをコントロールする筋肉、特に前腕の筋肉は肘開いてるより、その方が動かしやすくなるから慣れるとオーバーの質が変わってくるぞ」
「ありがとうございます」
雑なプレーとは裏腹に教え方は理論的で丁寧に教える飯山。
「アンダーは、サッと入りながら手をこう持って、グッってやって自分の腕で面作って腕だけじゃなく体も使ってこうポーンって」
「は、はあ」
「七沢、お前は少し擬音を何とかしろ、ああアンダーの構えはそれでいいから、そのままやってみて、それから手直しあるようなら教えるから」
「はい、やってみます」
相変わらず感覚派な教え方の七沢に稲村が突っ込みをいれつつフォローする。
「セミのトスもう少し離す?」
「いや今ので良いけど、もう少し高くお願い」
「おう……て、あれ?」
セッター前の時間差の練習をしている温水と長谷だったが温水が何かに気付く。
「ん?どうしたの……あ!」
「「比企谷先輩!」」
そこに現れた八幡の姿に駆け寄る二人。
それを見て気付いた2年の3人も近づく。
「よ、よう」
「その恰好もしかして!」
「ついにバレー部に来る決心がついたか!?」
嬉しそうにテンション高めに言う温水と飯山。
「おお、ほらよ」
「……」
八幡はキャプテンの七沢に入部届と書かれた1枚の紙を渡すが七沢はボケっとしている。
「何だよ、もう部員増えたから来んなって言うのか」
その態度に皮肉を言う八幡。
「なわけないだろ」
「ひねくれてるだけだろ、後にデレる」
八幡の事が分かってきた稲村と飯山が笑顔で補足。
(来た、本当に来てくれた!)
七沢は何度も入部届を見て、現実であることを受け入れると笑顔になり八幡へ更に近づき
「ようこそ!バレー部へ!!」
練習試合のように拳を突き出す。
「おう」
八幡もそれに合わせ突き返す。
瞬間に拍手が鳴る。
その音は八幡のバレー部入部と、また一緒にプレーできる喜びの音として八幡を迎えた。
―総武高生徒指導室―
八幡がバレー部員になった頃生徒指導室にはバレー部顧問の荻野と静が何やら話し合いをしていた。
「では平塚先生、急ではありますが彼らの事をお願いします」
「ええ、若輩者ではありますが、精いっぱい頑張ります。」
荻野はその言葉を聞くと一礼をし生徒指導室を後にする。
「やっはろー静ちゃん」
荻野と入れ違う形で陽乃が入室してくる。
「今回の件どうせお前の差し金だろう」
静はやや恨めしそうに陽乃を見る。
「え?なんの事」
「とぼけるな、春高予選の件だ。まさか練習試合の前から手を打ってるとは知らなかったぞ」
明らかにとぼけた様子の陽乃に静が口を開く。
「ああ、それね!サプライズだよ、ビックリした?」
「なにがサプライズだ。バレー部の顧問を受ける事は了承したが、こんな事になってるとは思わなかったぞ、まさか比企谷を勝手にバレー部員にして春高予選のメンバーとして提出しているとはな」
そう、バレー部の顧問にならないかという話は聞いていたもののそれ以外は全くの初耳だったのだ。
「でも、そうしないとバレー部は春高予選出れなかったでしょ?参加用紙の提出間に合わなかったんだし」
「どんな手を使ったか問いただしたい所だが、どうせ教えないのだろな」
「まあね」
諦めまじりの静の声に笑みを浮かべながら陽乃が笑いながら言う。
「ねえ静ちゃん」
「何だ?」
「これから楽しみだね」
「……まあ楽しみではある」
複雑そうな表情を浮かべ静は返事をした。
申し訳ありません展開がかなり急になりました。
また、時系列的に春高予選の参加申し込みが間に合わなそうだったので陽乃さんにひと肌脱いでいただきました。
久しぶりに文章を書きますが中々進まないタイピングと頭に浮かぶ文章のジレンマでスポーツとはまた違った疲れがありますね。