試作 艦娘たちの憂鬱   作:かのえ

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9 龍驤の憂鬱

 軽空母「龍驤」という艦娘は前世においてはなにかとネタにされることが多かったように記憶している。しかしながら龍驤という『正規空母』は鳳翔に並び空母の元となった船なのであり、二隻が空母開発の元になったんだとか。

 全ての艦娘に言えることだけど、陽気で似非関西弁な彼女は実は本当はすごい娘さんなのだ。

 

 俺ははじめて見るというわけでもないけれども改めて感じる艦娘の不思議の一端に触れ、興味津々にじいっとその龍驤さんを見つめている。古鷹の電気の走る片目とか龍田の宙に浮く天使の輪っかみたいなのだとか、まあそれもとても不思議なものなのだけれども龍驤さんが艦載機を放つための式神とか……うん、ほんとよく分からない。そしてもっと不思議なのは同時期に着任した空母な千歳のカラクリっぽい艦載機と式神が互換性あるということだ。まるで意味が分からんぞ!

 よく知られている千歳は水上機母艦である。ごくたまーに、けれども全艦娘の中では比較的高い確率で変異種が建造されることも知られる。史実で改装されたことから由来するらしいのだが、例のごとくうちの千歳は千歳航改二、最終形態です。言い忘れてたけど龍驤さんも改二。

 

 時雨以降に建造した艦が連続して改二で出てきているので偉い人とか同僚の視線がヤバい。侍娘神通さんの姉でありくノ一というか忍者な川内改二。彼女が建造されて数日というのに持ってきた情報によると、俺を建造専用提督とするみたいな話が上がっているらしい。おい夜戦忍者、機密情報でしょそれどうやった? 聞くとニシシと笑ってごまかされた。

 かわいいからってごまかされないぞ!

 

「あのさぁ、なんなのさっきからキミぃ。ウチのことが気になるんか?」

「気になるよそりゃ。式神がどうして千歳のカラクリな艦載機と互換性あるとか」

「……そういうものなんやで、きっと。なあ?」

「なあ、じゃないが」

 

 あまりにも注視しすぎたせいか気付かれてしまう。そりゃそうか、俺も待機中の時雨夕立コンビからじいっと見つめられたことが幾度と無くあるが気になって仕方がない。そんな散歩を待つ犬みたいな表情で見なくても……て、犬かこの子ら。

 

 勅令、と書かれた炎のようなものを出しピシっと海の上に立つ龍驤さんは艦載機を放っている。ようやく着任した空母でありこれで戦術の幅が大きく広がる。赤城もそのうち我が艦隊にやってくることは決まっていたが、やはり空母は多ければ多いだけ良い。

 

「はじめて運用する空母ですもの。それに見られて龍驤さんもまんざらでは無いでしょう?」

「ゆーてもな、嬉しいけど限度っちゅうもんがあるんや。恥ずかしゅうてもう……な?」

「ごめんごめん」

 

 堤防に腰掛けている俺の膝に何故か頭を乗せる千歳。ふつう男女逆じゃないのかな、まあ良いんだけど。彼女と一緒に龍驤さんが顔を真赤にしているのを見る。

 

「てか千歳、なんで自然に司令官に膝枕してもらっとるんや!」

「おおナイスツッコミだ龍驤さん」

「ウチとかわって!」

「なんでやねん」

 

 突っ込んだと思ったらボケてきた。似非関西人のくせにやるな龍驤さんは。

 それはそうと艦娘はスキンシップが大好き過ぎて提督ほんと困っちゃいます。先日、自室の布団に入ろうとしたら川内がそこにいて「夜戦、しよ?」とか言い出した時には色々とヤバかった……てこれスキンシップのレベルを遥かに越えているわ! もし止めに来た神通さんがいなければやらかしていたに違いない。「その、提督……? 別に私は夜戦が嫌いというわけではないです」と言われたので、遠回しにお礼に夜戦に連れて行けと言っていたのでしょう。川内ほどではないけど神通さんも夜戦好きなのでは? おなじ川内型の那珂ちゃんはアイドルだから早めに寝ようとするけどね。うん健康健康。

 

 顔を下に向ける。千歳の綺麗な銀の髪がキラキラと陽にあたり輝く。長い髪は地面に触れないよう俺の膝に乗せられているが、なんともまあ無防備なこと。すらりとした鼻や見るからにすべすべしていそうなお肌に触れてみたいのを我慢する。

 電と鳥海にまかせての非番、ぶらぶらと海沿いを歩いていたら龍驤さんを発見。彼女が式神艦載機を放っているのを見学していたら散歩をしていたらしい千歳が隣に最初座って、そしてしばらくしてこうなった。うん、何故だ。

 

「制空権を確保できるようになれば、偵察機を積める艦で弾着観測射撃が可能になるな」

「そうですね。私達の艦隊が出撃を許されている海域ならば手持ちの艦載機でも苦労しないでしょうが、もしそれ以降に行くならば開発が必要です」

「それにもしもの事があるしな。敵さんはこちらの事情を待ってくれない、条約で縛ることも出来ない、宣戦布告なんて存在しない。備えはいくらあっても足りないよ」

 

 戦績によってより強い敵のいる海域に出撃することが許される。これは無謀な出撃により艦娘の無駄な消費を避けることが目的にある。身の程知らずな艦隊が全滅なんて目が当てられない。

 千歳の言うとおり、俺が現在出られるのは北方のモーレイ海まで。制空権争いはギリなレベルではあるが、艦娘たちの力でゴリ押しすることにより空母無しでここまでの許可をもぎ取った。出撃海域が広くなるということはそれだけ認められて予算やらが割り振ってもらえるということ。なるだけ進みたいのは当然といえば当然。

 

「司令官のおかげ様でゼロもある程度増えたし烈風も開発できた。さっすが大妖精提督やね!」

「その2つ名みたいなの広めるのヤメテ!」

「え~、分かりやすいからええやん」

 

 ぶーぶーと龍驤さんが文句垂れる。まあいいじゃないの。

 

「ウチの司令官だし? 提督なら知らぬものはいないような二つ名みたいなのあってもええやないか」

「せやけど工藤」

「誰が工藤や! ……ま、ええわ。お偉いさんが大事に仕舞いっぱなしな烈風改とか欲しいから頑張って戦果上げていこうな?」

「龍驤さん待ってそれ初耳」

「ああ提督。それは川内さんが持ってきた」

「おい川内、おい」

 

 千歳の投下した爆弾に頭を抱える。あいつバレたらどうすんだよマジでさ!

 

「烈風改欲しいならウチらにまかせてや! キミのために戦果上げるで!」

「提督はゆっくりお酒でも飲んで待っていればいいですよ。ふふふっ」

 

 なんともまあ頼もしい空母だ。

 

 

 

 

 龍驤は提督と二人、走る電車に隣り合わせで乗っていた。行き先は大本営、赤城を迎えに行くのだ。

 

「やっぱり空母がいるいないでは出来る作戦が段違いだ。軽巡以上の砲撃の正確さが増して消費も減った」

「その分ボーキサイトがへってるけどな。まあしゃあないけど必要経費っちゅうもんやな」

「だね」

 

 彼がくるくるとペンを回しながらここ最近の資源についての報告書をまとめている。敵空母からの強力な艦載機をどうにか出来る優秀な戦闘機の配備が遅れてしまっている――が、まだ当分は大丈夫なはずだと龍驤は考える。想定されるあんの憎き空母棲姫と出会わなければ大体の敵であれば勝算はある。そう、あいつらが出てくればいくら艦載機の熟練度が上がっていてもそのうち限界がくるのは目に見えている。

 自画自賛になるが空母『龍驤』という艦は本当に最初期の正規空母であり、軽空母の利点を示した艦だと彼女は自負している。そのため常に練度を高めるための厳しい訓練は続けているし、艦載機の妖精さんをビシバシと優秀なパイロットにするため鍛えている。全てはただ一人のために。

 

「戦艦は現在比叡だけ……艦載機の配備と戦艦の配備、どちらを優先するか迷うところではあるな」

 

 先日、ようやく比叡がこの鎮守府に戻ってきた。聞けば彼女は教官をやっていたらしい。比叡らしいといえば比叡らしいか。長い経験に金剛型らしい落ち着いた丁寧な立ち居振る舞い、マナーに教養などこれまた淑女とはこうあるべきという姿を示してくる。常時は活発でボーイッシュなスポーツ系なのだけれど。

 

「ウチはどっちでもいいと思うで。赤城がやってくるし艦載機の質は量で補える、戦艦じゃなくても鳥海とかいるし火力面でも不安はないやろ」

 

 彼のやることに付き従う。それが艦の使命だと思うし、本能で、そして心からやりたいことだから。もしボロボロの状態でも彼が命じれば進撃しよう、それは彼がやってほしいと自分に思っていることなのだから反対するなど無い。

 この艦隊以外に所属する艦娘が国を守る、と口にする。確かに国を守るのは艦娘の原点たる軍艦たちに込められた願いではあるが、そうは言ってもこの龍驤という艦娘の元になった『龍驤』を造った国はここではない。この記憶は前の世界の『龍驤』という空母が経験したことでこの世界『龍驤』ではないのだから。ようやく艦に込められた願いから離れて自分がやりたいことに専念できる。

 

「ウチはキミの空母や。キミの命令に絶対に従う、どんなことがあっても」

 

 敵深部での戦い、体がボロボロになってもニヤリと笑みを浮かべて艦載機を放てたのはこの痛みが苦痛が全て司令官のためになっているという幸福感に包まれていたからだ。耐えて、耐えて、耐えて! そして掴みとった勝利

 

(――ああ、思い出すだけでも達してしまいそうや)

 

 ゾクリと龍驤は体を震わせた。そんな彼女に気がつかない提督は背もたれに体を預け、瞳を閉じる。

 

「まあそこらへんはおいおい。まずは赤城を出迎えることからはじめよう」

「そうやね。それじゃいってみよう!」




RJちゃんみたいな子に病んで欲しい
個人的病んだら危ない艦娘ランキング上位ですね(ニッコリ

nicom@n@さん誤字報告ありがとうございました。

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