型月産ワカメは転生者である(仮題)   作:ヒレ酒

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このSSは厄落としのために投稿されたものです。
酒呑ちゃんが来ますようにと祈って書き上げました。

で、なんで桜ちゃん礼装が両方とも限凸するんですかね。



ちなみに今回のテーマは「卒業」です。


第六話

 ネオフユキ・スゴイタカイビル。もとい冬木ハイアットホテル。

 わかり易く言うのであれば、切嗣(ケリィ)に爆破されたアレ。

 

 再建されたホテルの最上層にあるレストラン。

 そこで慎二と桜は、優雅なディナータイムを楽しんでいた。

 ちなみに完全個室のVIPルーム。金にモノを言わせた結果である。

 

「卒業おめでとう、桜」

「ありがとうございます、兄さん」

 

 乾杯。グラスが涼やかな音を立てる。

 勿論だがノンアルコールだ。未成年の飲酒はダメ、ゼッタイ。

 

 豪勢な料理に舌鼓を打つ。

 学生には分不相応であるが、間桐の資産を考えれば相応の選択だ。

 間桐の資金力は冬木一。冬木長者番付にもそう書いてある。

 

 ドレスコードに合わせて、桜には新しくドレスを仕立てた。

 桃色でやや露出の多いデザイン。胸部装甲の成長著しい桜には良く似合っている。

 お兄ちゃん的には眼福。お胸の谷間がグッドだ。中に納められたい。

 

 見目麗しい少女に美味い料理。会話も弾むというもの。

 一番の話題は、やはり桜の卒業式。

 保護者として参列した慎二は、それはもう目立っていた。悪い意味で。

 持ち込んだのは、ある種の物々しささえ感じる撮影機材一式。

 

 卒業生代表として桜が壇上に上がるや否や、巻き起こったのはフラッシュの嵐。

 全て慎二が持ち込んだ機材によるものである。業者でもあそこまではやらない。

 

 恥ずかしいやら何やらで赤面した桜ちゃんも実にグッド。

 さらにフラッシュが追加されるという負の連鎖が始まったり、始まらなかったり。

 

「流石にアレはちょっと……」

「卒業なんてイベント、人生で数えるくらいしかないんだ。盛大にいかなきゃね」

 

 卒業。その言葉を慎二が口にすると、ふと桜が眉根を寄せた。

 なんとも複雑そうな表情である。めでたい日には似合わない。

 

「でも……なんだか申し訳ないです」

「ん? 何がだい?」

「進路のことですよ。私だけ進学するなんて……」

「いいんだよ。どうせ僕は初めから乗り気じゃなかった」

 

 慎二は原作とは違い、進学を止めて家で家業に専念している。

 成績を考えれば引く手数多のはずが、どうしてこうなったのか。

 決定打はやはり、あの間桐式過剰防衛論(おべんきょう)だろう。

 

 あの後、優等生という慎二の仮面は剥がされてしまった。

 今では悪の親玉扱いである。ラスボスルートは勘弁しろください。

 ちなみに本性を知る連中は当然の措置だと納得していた。本気で解せない。

 

「兄さんなら、どこへだって行けたはずなのに」

 

 生まれた軋轢は主人公との間だけではなかったようで。

 なるべく原作通りに事を進めるつもりだったが、そうもいかなくなってしまった。

 世界はいつだって、超人には生き辛いものなのである。

 

「桜が気にすることじゃあないよ」

 

 とはいえだ。慎二としては、それを痛くも痒くも思っていない。

 どのみちいつかは、間桐の家長として仕事に専念せねばならなかった。

 学業の片手間では限界があったし、丁度いい機会だったと思う。

 

 臓硯を殺した時から色々と背負う覚悟はしていた。この程度がなんだというのか。

 それに金を転がす、というのは中々に面白い。慎二の性に合っているのだろう。

 

 ちなみに慎二が手始めに行ったのは、遠坂が持つ土地の買収だ。

 言峰の杜撰な差配よって人手に渡るはずだった土地を、裏で密かに回収。

 数年に渡る地道な工作によって、間桐家の資産は今では当初の倍近くにまでなった。

 左団扇とは正にこのこと。正直、黒い笑いが止まらない。

 

 魔術師としてはともかく、資産家としては今が間桐の絶頂期。

 時臣(トッキー)が死ねば間桐が儲かる。古事記にも書いてある。

 

「兄さんが納得してるなら、これ以上は言いませんけど……」

「納得どころか大満足だよ。だから気にしない、気にしない」

 

 盛者必衰とはこのことだろう。

 遠坂の繁栄と衰退を掌の上でコロコロする。

 主要な霊地が全て手に入った瞬間なんて、もう絶頂しそうな勢いだった。

 あれだ。コンプガチャをコンプした瞬間に近いものがある。

 

 冬木のセカンドオーナー? 何それ美味しいんですか。

 主だった霊地は既に慎二が全て抑えてある。このホテルの土地だって間桐のものだ。

 今では間桐家が冬木の影なる支配者。そう言っても差支えがない。

 甘美なデザートに舌鼓を打ちつつ、邪悪な笑みを浮かべる慎二。

 

「――うん?」

 

 その時だった。ふと異変を感じる。何だろう。

 身体の動きが鈍い。呼吸が荒い。そして――なんだろう、妙に火照る。

 

「……ねぇ桜、この部屋、少し熱くないか?」

「いえ、すこし涼しいくらいだと思いますけど」

「おかしいな」

 

 謎の組織に改造されて以来、慎二は病気一つしたことがない。

 脳が肉体の異常を感知した瞬間に、ルーンによる自動修復が行われるからだ。

 それにも関わらずこの異常。

 慎二の肉体に、ナニかよくないことが起こっているのは間違いない。

 

「ごめん桜。少し体調が……あれ……?」

 

 ゆっくりと斜めに傾いていく世界。

 いや違う。傾いているのは自分の体だ。

 慎二は音を立てて、レストランの床に倒れ伏す。

 

 これは駄目だ。

 きゅーきゅーしゃ。きゅーきゅーしゃぷりーず。

 目だけで桜に訴えたが、しかし彼女が浮かべたのは妖艶な笑み。

 

「……本当に兄さんは凄いですね」

「しゃ……(しゃくら)?」

 

 本当におかしい。

 ついに呂律すら満足に回らなくなっている。

 

「あれだけ飲んで、食べて……まだ意識があるなんて」

「にゃにを言ってりゅ……?」

「お薬ですよ、お、く、す、り」

 

 そう言って桜が取り出したのは、どこか淫靡な香りの漂う小瓶。

 中身まではわからなかったが、なんかヤバいのは本能でわかった。

 

 というか、さっきから桜の目が尋常じゃない。

 これは妹が兄に向ける目じゃない。これはそう、捕食者が獲物に向ける目だ。

 

「ぅ……ぁう……」

「フフ……兄さん、どこへ行こうとしてるんです?」

 

 這って逃げようとする慎二の先へ回り込むように、桜が仁王立ちする。

 ドレスの隙間からは、ほっそりとしながらも肉付きの良い太腿が見えた。

 まるで瑞々しい果実のようなそれに、いますぐにでも――いますぐにでも、なんだ。

 何を考えている。相手は妹だぞ。

 僅かに残った理性が、侵攻する甘い毒の最後の防波堤だった。

 

「我慢しなくていいんですよ、兄さん。ホラ楽になりましょうよ」

 

 桜は僅かに残った小瓶の中身を呷ると、その細い指で慎二の顎を持ち上げた。

 そして――唇が重ね合わされた。

 

「あむ――んふっ……これで全部です」

 

 口腔から喉。そして臓腑まで、熱い液体が染み渡っていく。

 いや、液体だけではない。一緒に流れ込んでいるコレは――魔術。

 すぐさま対魔力スキルが発動、しない? え、休業中?

 

「な、なんれ……」

「あはっ……無駄ですよ。兄さんの体のことは、隅々まで調べましたから」

 

 波濤仮面の対魔力スキルは万能だったはず。

 そこに欠点なんて――

 

「消化器系だけは対魔力が働かないんですよ、兄さんの身体って」

 

 あったわ欠点。仕事しろ対魔力。

 ガバガバじゃないか、この身体。

 あのカルトならぬ、変態ケルト集団め。

 どうしてこんなわかり易いセキュリティホールを塞がなかった。

 

「そこを塞ぐと、食物から魔力を摂取できなくなるからでは?」

 

 なるほど。

 というかなんでこっちの思考が読めるんだ。

 

「兄さんのことなら、なんだってわかりますよ?」

 

 そうですか。

 ところで桜さん。慈悲はないんですか。

 

「ありません。それじゃあイキましょうか、兄さん」

 

 動け、動け、動け、動け!

 なんか違うシンジ君混じってるけど、暴走でも良いから動いてよ!

 アカンねん、このままやと色々アカンねん。

 

「大丈夫です、優しくシてあげますから」

 

 もう声も満足に出せない。

 今の慎二に出せそうなのは、白い青春だけである。

 

「最上階のスイートを予約しておきました。たっぷり楽しみましょう?」

 

 ああ、逃げられない。

 動かない体。ドロドロに溶かされていく理性(ココロ)

 そして目の前に居るのは愛おしくて大切な――。

 なんというか。もぅマジ無理だった。

 

 

 

 

 

 

 で、翌日。

 冬木ハイアット。スイートルームにて。

 

昨晩(きのう)はとっても素敵でしたよ兄さん」

「僕の宝物(DT)が失われた!」

「別にいいじゃないですか。男の人ですし、何も減りませんし」

「減るんだよ、心の何かが、減るんだよぅ……!」

 

 女々しく涙を流す慎二。

 対する桜はあっけらかんとしたもので、むしろ艶々と満足気な表情である。

 

「既成事実って……素敵な言葉だと思いませんか?」

「思わないよ! 思いたくないよ!」

「私のことを滅茶苦茶にしておいて……飽きたら捨てるおつもりですか?」

「やめてくれぇ……僕が悪い男みたいな言い方はやめてくれぇ!」

「うふふ、最後のほうはノリノリでしたもんね?」

「そ、それは、だね……そのぅ……」

 

 キスマークの残る肢体を純白のシーツで隠し、桜が淫靡に微笑む。

 言い訳が通用しなくなって、もにょもにょする慎二。男のくせして実に女々しい。

 

「くっ……ここまで、完璧な敗北は、初めて……だッ……!」

「また一つ、兄さんの初めてを貰っちゃいました……」

 

 そうだね、また貰われちゃったね。

 わかったから敏感なとこをツンツンするのやめろください。

 また御立派様が反応しちゃう。しちゃうかららめぇ!

 

「ホントに可愛いですね、兄さんは」

「か、可愛いとか言われたって嬉しくないんだからねっ」

 

 チラチラと横目で煽情的な姿をした桜を見やる。

 実にイイ表情をしていらっしゃる。こんなに嬉しそうな姿は初めて見た。

 だったらコレはコレでアリかと思う辺り、兄馬鹿もとい、桜馬鹿の極みだ。

 

「で、桜。いつから狙ってた……?」

「それはもう、兄さんに助けられたあの日から」

「……魔術を習い始めた理由は?」

「蔵書で霊薬とやらの存在を知りまして」

 

 良かれと思って取った行動の全てが裏目に出ている。

 なんだ。本当にどうしてこうなった。

 全ては桜の掌の上での出来事だった。そういうことなのか。

 桜を助けた日――いや、改造手術を受けたあの日から。

 今この瞬間という未来は確定していたとでもいうのか。

 

「兄さん。ありがとうございました」

「……なにがだよ」

「おかげ様で人生最高の一晩でしたよ……うふふ」

 

 計画が成就し、晴々とした笑顔の桜ちゃん。

 なんかもう色々な意味で勝てる気がしない。

 

「あ、兄さん。言うの忘れてました」

「……なんだよ」

「ご卒業おめでとうございます」

 

 チュッと音を立てて、唇が軽く触れあった。

 慎二は耳まで真っ赤にすると、そのまま全力で枕に顔を埋める。

 暫くの間は、桜の顔を直視できそうになかった。

 

 

 

 




ヤっちまったZE☆

くぅ~疲(ry

既にゴールした感ある。
二人はこのまま幸せな(ry
もうこれでいいんじゃなかろうか(実はバラ撒いてあるフラグから目を逸らしつつ


このまま本編開始します。
ストックはここまでなんで、やっぱり少し開きそうです。

追記、ついでに微ネタバレ?
ご指摘多いので書きますが、ゲイ♂ボルクの表記揺れにはちゃんと理由付けしてあるんやで。
もう暫くしたら頑張って書くので待っててくらさい。



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