型月産ワカメは転生者である(仮題)   作:ヒレ酒

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連休は良い文明。

そんなわけで時間が出来たからサクッと投稿。
思ったより早かった。

これで本当に最後です。
約一年間、お付き合いくださりありがとうございました。

タグにギャグか尻♂Assを入れようか本気で検討中。





蛇足的なオマケ編
第二十一話


 聖杯戦争からはや数か月の時が経った。

 戦争さえなければ冬木は平和な街だ。

 慎二は今日も自室にて無難に仕事をこなしていた。

 

「次の書類ですが――」

 

 豪奢な執務机の上で手を組む慎二。

 その脇にはスーツを着込んだアサシンが。

 暗殺者なんて過去のこと、今では立派な敏腕秘書だ。

 タイトなスカートから伸びる脚が艶めかしい。

 

 アサシンのなにがイイって、セクハラしても過剰反応しない所だ。

 ほどほどの羞恥に満ち溢れた反応を返してくれる。

 どこぞの連中みたいにベッドへ強制連行されたりしない。

 

 知っているだろうか。

 老若男女関係なく、捕食者の瞳というものは例外なく恐ろしいのだ。

 なんなんだアイツら、クレイジー過ぎる。

 

「あの、マスター」

「なんだい?」

「触れて頂けるのは嬉しいのですが、お仕事がまだ」

「おっと、そうだったね」

 

 アサシンとのスキンシップを中断し、机へと向き直る。

 間桐家の稼ぎは慎二一人の肩にかかっている。

 一家四人を支える大黒柱である。手を抜くことはできない。

 

「……ところでライダーの奴はどこ行った?」

「近頃の趣味であるサイクリング中かと思われます」

 

 結局ライダーとアサシンは現世に残ることになった。

 慎二のケルト式魔力炉があれば現界用の魔力は賄える。

 

「アイツも本格的な穀潰しになってきたな……」

「ライダーは、その……言い辛いのですが」

「言わなくてもわかってる、お茶汲みさえ満足にできないもんなアイツ」

 

 慎二は一般人に毛が生えた程度の力しか出せなくなった。

 魔力の殆どを大食い達に喰われているせいだ。

 とはいえ魔力なんて日常使いするわけでもあるまいし、特に問題はない。

 

「仕方がない、せめて僕達だけでも真面目にお仕事しようか」

 

 ちなみに桜は現役で魔術師をやっている。

 どさくさに紛れて魔力負担の殆どを慎二に押し付けたからだ。

 あいつ本当に良い根性をしてやがる。

 知ってるんだからな、未だにパスを通してこっちから魔力を搾り取ってること。

 

「協会から問い合わせがきています」

「遠坂に回せ」

「魔術の特許申請の報告は」

「遠坂に回せ」

「波濤仮面グッズの売り上げについて」

「遠坂に――いやそれは僕が見よう」

 

 なるほど、波濤仮面饅頭の売れ行きが好調なのか。

 アサシンから受け取った書類を素早く読み込み判子を押す。

 表立った仕事は慎二が、裏の魔術関係は全て遠坂へ。

 

「あの、マスター」

「なんだいアサシン」

「遠坂様の仕事量がとんでもないことになっていますが」

 

 ふと慎二が視線を向けると、遠坂用の書類が山になっていた。

 これを崩すには“また”暫く徹夜をしなければならないだろう。

 

「問題ない、遠坂に回せ」

 

 魔術関係は全て遠坂の仕事だ。

 今やこのためだけに遠坂家は存続していると言ってもいい。

 それに仕事に対しては、ちゃんと給料だって渡している。

 結構な額だ、一等地に家が建つ。

 

 ちなみに宝石類に使ってしまって給料が一瞬で溶けるまでが一連の流れだ。

 その宝石を売っているのは間桐系列の店であるから、自給自足の関係といえる。

 マッチポンプ? 知らんなぁ。

 宝石魔術なんて金のかかる代物に手を出した遠坂の先祖が悪い。

 

 ちなみに現在、遠坂はYAMAごもりの最中である。

 第二魔法が使いたいとか夢みたいなことをぬかしていたので、放り込んでやった。

 そろそろTSUBAMEの気配くらいは感じ取れるようになっただろうか。

 INOSHISHIに轢き殺されてなければいいが。

 

 YAMAで修行すれば第二魔法の片鱗くらいは掴めるだろう。

 実際、慎二はそうだった。

 TSUBAMEとの出会いが慎二を新たな世界へと導いたのだ。

 

 なおその魔境から帰った後は書類地獄が待っている。

 遠坂家を背負う凛ちゃんの明日はどっちだ。

 ちなみにどう転んだところで仕事の量が減ることはないから安心して欲しい。

 

 そんな感じで凛ちゃんの未来に思いをはせていると。

 執務室の扉が吹き飛んだのかと見紛う勢いで開け放たれた。

 

「シンジ!」

「なんだいライダー、騒々しい」

 

 やめてよね、ライダーの馬鹿力のせいでまた扉を修理しなきゃいけないだろ。

 ちょっとした非難を込めて睨むが、ライダーはそれどころではないようだった。

 どうやらかなり錯乱しているご様子だ。

 

「私になにをしたんですか!」

「ハァ?」

「私になにをしたか、と聞いているんですシンジ!」

 

 凄まじい剣幕で机の前までやって来たライダー。

 そして手に持っていた布らしきモノを慎二に突きつけた。

 

「これを見てください! それでわかりますから!」

「……なんだこれ?」

 

 手渡されたのは黒いフリフリのついた――ブラだった。

 まだほんのりと温かい。脱ぎたてのようだ。

 わかんない、ライダーの考えてること、わかんないよ。

 

「下着を手渡しとか、まさか昼間から(さか)って――」

「――いやそうではなくてですね!」

 

 違うのだ、と首を横に振るライダー。

 しかし慎二のピンク色の頭脳ではそれ以外の回答は思いつかない。

 あれか、エロか。エロなのか。

 

「サイズが合わないんです!」

「買いなおせばいいだろ、小遣いは多めにやったろうに」

 

 この期に及んで成長とは。

 ライダーの乳は最終的にどうなってしまうのか。

 

「違いますよ、おかしいんです!」

「うん? おかしなこと言ったかな?」

 

 なんだろう、話が根本的に噛みあってない。

 意見を求めるべくアサシンへ視線を向ける。

 するとアサシンも顎に手をやって考え込んでいるようだった。

 

「確かに……おかしいですね」

「でしょう!?」

「待て待て、なにがおかしいんだよ。僕にもわかるように説明してくれ」

 

 ふぅ、と大きく深呼吸をしたライダーが語り始めた。

 

「いいですかシンジ、サーヴァントとは変化しない代物なんです」

「ふむ?」

「身長は変わりませんし、体重だってそうです」

「む?」

「そんな私のその……サイズが変わったんですよ?」

「なるほど……なるほど?」

 

 確かにそれは異常事態と言える、のだろうか。

 とりあえず慎二がアサシンに尋ねる。

 

「ちなみにアサシンのほうに変化は?」

「いえ、私は身長も体重も特に変化していないはずです」

「するとライダーだけ、ということになるのか」

 

 おもむろに立ち上がり、ライダーの隣に立ってみる。

 相変わらずの身長だ。

 最近はかなり追いついてきたが、それでもまだ少しライダーのほうが高い。

 高いはずなのだが――おかしい、目線が同じ位置にある。

 

「ライダー、オマエ……縮んだ?」

「……えっ?」

 

 慎二はなんちゃってとはいえ、武闘家である。

 あの佐々木小次郎と殴り合える程度の腕には達人である。

 日頃から肉体の寸法にはかなり気を尖らせているつもりだ。

 だからこそわかる、ライダーは間違いなく縮んでいる。

 

「そういや胸の件も“どっちの方向”に変化があったのか聞いてなかったね?」

「あ、あのう……その……」

 

 ライダーはとても言い辛そうに。

 そして蚊の鳴くような小さな声で答えた。

 

「……縮みました」

「ちなみにどれくらい?」

「少なくともワンサイズは」

 

 どうなっているんだ、コレは。

 サーヴァントシステムになにかバグでもあるんじゃないだろうな。

 そもそもシステム自体が、長期運用を前提に作られていない。

 もし根幹を揺るがすような不具合だと、慎二では対処のしようがない。

 

「その、シンジ?」

「なんだいライダー」

「実は私にそういう隠しスキルがあるとか、そういうのじゃないんですよね?」

「僕の知る限り、メドゥーサという英霊にそんな能力はないはずだ」

 

 霊基でも解析すれば原因は掴めるかもしれない。

 しかし力を失った慎二は九割方一般人みたいなものだ。

 残りの一割は魔力と薬物への耐性。

 つまり実質一般人と言っていい。

 サーヴァントの解析なんて高度なことはもうできない。

 

 ライダーの危機だというのに、なにもできないのか。

 慎二が無力感にグッと拳を握り締めたその時だった。

 

「話は聞かせてもらいました!」

「この声は――桜! どこだ、どこに居る!」

「ここですっ、とうっ!」

 

 ガコン、と天井の一部が外れると、そこから桜が飛び降りて来た。

 親方、空からゲドインが。

 スカートを翻しながら優雅にターン、完璧に決まった。十点をやろう。

 

「……なにやってるんだい、桜」

「屋敷に張ってある魔術のメンテナンスをしていたら、声が聞こえたもので」

 

 外門や外壁は知っていたが、天井裏にまで仕掛けがあったとは。

 桜の手によって間桐邸は魔境邸の域に達しつつある。

 そのうち変形して巨大ロボットにでもなるのではなかろうか。

 完全変形、間桐ロボ。

 いいな、波濤仮面の新展開でロボ路線も攻めてみるか。

 

 桜は小さく咳払いすると、ズビっと慎二に人差し指を突き付けた。

 慎二の気分はまるで刑事ドラマの犯人役である。

 

「それでライダーの件ですが――ズバリ、兄さんのせいです」

「なるほど、シンジのせいですか」

 

 おいライダー、そのヤッパリお前のせいか、みたいな視線をやめろ。

 完全に犯人扱いじゃないか。

 胸に手を当てて聞いてみたがサッパリ心当たりはない。

 今回も冤罪だ――と思っていたらそうは問屋が卸さなかったようで。

 

「具体的には兄さんの起源のせいですね」

「僕の、起源?」

「ええ、強固にパスを繋いだせいか、ライダーにも影響が及んだようです」

 

 桜が非常に勿体ぶった言い回しで続ける。

 なんだ、探偵役のつもりなのか。

 

「そう、全ての元凶にして害悪――その起源の名は!」

「おうはやくしろよ」

 

 全部マルっとわかってるならさっさと真相言っちゃいなよYOU。

 ベストを尽くそうぜ、ベストを。

 

「せっかちですねぇ、兄さんは」

「ズバッと言え、ズバッと」

「ではズバッと言いますが――反転です!」

 

 反転というとアレか、裏返るやつか。

 なるほど、また意味のわからん起源だ。

 

「今回の一件はライダーの怪力スキルの副作用、それが反転した結果です」

「副作用というと、あの怪物(ゴルゴーン)がどうたらのアレか」

 

 ふぅむと慎二は記憶の扉を開くべく顎に手をやった。

 怪力スキルを使えば使うほど、ライダーは怪物(ゴルゴーン)へと変容していく。

 脳の隅っこのそのまた端に、僅かだが記憶が残っているような気がする。

 

「反転したライダーはスキルを使うたびに偶像(アイドル)へと変容していくわけです」

「なるほど素晴らしい、それは素晴らしいですよサクラ!」

 

 ライダーが歓喜している。

 なんだ、少女に戻れるのがそんなに嬉しいのか。

 

「小さくて可憐な体は私の憧れですよシンジ!」

 

 少女だった頃のライダー。アイドルなライダー。

 普段の堕落っぷりを見せつけられているせいか、慎二としては全く夢のない話だ。

 

「しっかし怪力スキルねぇ……」

 

 どうしてライダーはそんな代物を使ったんだろう。

 聖杯戦争時ならともかく、今の冬木は平和そのものだ。

 

「日常生活で怪力スキルを使う場面なんてあったか?」

 

 銀色スーツの不審人物が街を歩いていたり。

 ヒョウ柄の着ぐるみを着たヤのつく方々が闊歩していたり。

 冬木市は色々と問題はあるものの平和そのものなのだ。

 英霊の怪力が必要になる場面なんてあるはずがない。

 

「えっとその、自転車で山を登ったり、スプリントしたり……便利なんですよ?」

 

 便利です、じゃないんだよ。

 なに考えてんだコイツ。

 たかだか便利だから、なんて軽い理由であんなスキルを使いやがったのか。

 まさかとは思うが――

 

「なにも考えてなかったんじゃないだろうな?」

 

 平気だったからよかったものを、一歩間違えればゴルゴーンなんだぞ。

 冬木市産ゴルゴーンとか誰得なのか一文で説明してみろ。やれるもんならな。

 おい、どうして目を逸らすんだ、こっちを見ろ。

 

「オマエという奴は……」

「わ、私だってちゃんと考えてますよ? た、多分……」

 

 自分すら納得させられてないじゃないか、いい加減にしろ。

 返せよ。今や失われてしまった純情を返せ。

 眼鏡かけてて読書が好き。

 これはもしや知的美人なのではと仄かに期待していた頃の純情を返せ。

 蓋を開けたらこれだよ、美人は美人でも残念系だよくそったれ。

 

「ちなみに、ですが」

「……なんだよ桜。嫌な予感しかしないから手短にな」

「では手短に――影響度だけなら私のほうが上だったりします」

 

 桜が豊満な胸を自慢げに張った。

 しかしまるで自慢できることではない。

 やはり聞きたくない類の情報だった。いっそ墓まで持っていって欲しかった。

 つまりアレだろ、あの“惨状”は全部そのせいだってんだろ。

 

「くそう、テメェらよってたかって僕のせいだなんて!」

 

 慎二は責任問題になると途端に弱くなる質だ。

 全て桜がやったことです、私は全く関与していません。

 そんな玉虫色の回答こそが慎二の心に平穏をもたらすのだ。

 

「僕の救いはアサシンだけか!?」

 

 なんの影響も受けていないアサシンだけが慎二の希望だ。

 しかし桜はその希望を粉々に粉砕する。

 

「目に見えた変化がないだけで、アサシンも影響は受けていると思いますよ」

「えっと……私もですか?」

「そうですね、ちょっと確認してみましょうか。ではアサシン、これを」

 

 桜が取り出したのは一輪の花だった。

 昔からの習慣で桜が育てているものだろう。

 今も庭の花壇は桜の城である。

 摘んでから時間が経っているのか、少し元気がない。

 

「持ってみてください」

「えっと……でも、私は……」

「大丈夫ですから、ほら」

 

 躊躇するアサシンに、桜が花を押し付けた。

 花はアサシンの手の中におさまる。

 しかし、なにも、おこらない。

 アサシンが首を傾げた。

 

「……え?」

 

 桜はふふん、と得意気だ。

 

「反転とはこういうことですよ、兄さん」

「いやどういうことなのかサッパリなんだけど」

 

 桜は仕方がないなぁ慎二君は、と言わんばかりに溜息を吐いた。

 

「兄さんは忘れているかもしれませんが、アサシンは猛毒を持っているんですよ?」

「そういやそんな設定も……あれ? でもあの花は?」

 

 毒にやられるどころか、むしろ元気を取り戻しているように見える。

 

「今ならなんと、こんなこともできるのです!」

「ひゃあっ――さ、桜様……あッ……いけません、マスターの前で!」

「ふーむ、兄さん好みの小ぶりながら絶妙にフィットする美乳ですね」

 

 桜が、アサシンの胸を、鷲掴みで、揉みしだいている。

 羨ましいぞ桜、変わってほしいぞ桜。

 桜は一通り楽しむと満足したのか、そっと身を放した。

 

「なんだよ桜、オマエそっちもイケる口だったのか?」

「ライダーとだいぶ鍛えましたからね、最近は両刀ですよ?」

 

 冗談のつもりだったのに、当の桜はそう言い放つ。

 実は私、両利きなんです。

 そんな告白程度の気軽さで顔面ストレートを放ってきやがった。

 

「されはさておいて」

「さておいていい問題なのかコレは」

 

 結構深刻に性癖を拗らせている気がするのだが。

 どうしたものかと本気で頭を痛める慎二をよそに、桜が説明を続ける。

 

「毒は転じて薬となるものですからね、反転すればそういうことです」

「なるほど……そういうことだったのか、なるほどな」

 

 知ってる知ってる、アレだろ。

 フェレンゲルシュターデン現象のことだろ。

 この間、偶然にも街で見かけたよ。

 

「……わかってないでしょう、兄さん」

「ソンナコトナイヨ」

 

 すまない、怒涛の新設定ラッシュに脳がついていかない。

 慎二の割と一般人な思考回路では、現実を受け止めきれない。

 あれだろ、とりあえず毒は無害になったってことでいいんだろ。

 お兄ちゃん疲れたよ。脳が拒否反応起こしてきてるんだ。

 

「兄さんもイイ具合に脳が蕩けてきていますね」

「ハハハ、褒めたって棘くらいしか出せないゾ」

「まったく、これっぽっちも褒めてないんですけど気付いてます?」

「気付いても気にしたくはないんだよォ!」

 

 慎二は叫ぶと深く溜息を吐いた。

 最近どうにも疲れやすくなっているような気がする。

 肉体的には超健康だが、精神的にアレだ。

 ダメだ、あまりよくない傾向だ。

 

「アサシン、今日中に片付けなきゃいけない仕事は残ってるかい?」

「えっと……はい、大丈夫です」

「そうか、なら僕は早めに休ませてもらうよ」

 

 例え残っていても遠坂に鷹便で送り付けてやるから問題ないのだが。

 遠坂に向ける慈悲はない、ぺんぺん草すら生えなくなるまで毟る所存だ。

 

「そういうわけで、解散だ解散」

 

 慎二はそう言ってさっさと部屋を出て行ってしまった。

 その背中は妙に煤けていた。

 

 

 

 慎二が去った後の執務室にて。

 間桐ガールズの正妻こと桜が疑問を口にした。

 

「……妙だわ」

「ええ、おかしいです」

 

 間桐ガールズの愛人ことライダーがその言葉に同意する。

 最近どうにも妙だ、慎二の様子がおかしい。

 

「最近の兄さんはこう、切れ味が足りないというか」

「ええ、昔ならばもっと鋭く辛辣なツッコミを入れていたはずです」

 

 そして口では言えないようなオシオキを受けることになる。

 慎二はそういう方向に性癖を拗らせている人間だ。

 

「多分だけど、刺激が足りないのよ」

「刺激、ですか」

「平穏を求めるくせに、危険地帯でしか本領を発揮できない人だもの」

 

 ビビればビビるほどに強くなる、それが間桐慎二という男。

 要するに追い詰められないと動けないタイプなのだ。

 尻を精神的にも物理的にも張り倒さなければいけない類の人間だ。

 

 けれど慎二が追い詰められる環境なんて、そうはない。

 それこそ世界レベルの危機でもない限り慎二はあの調子だろう。

 

「でしたらその、提案があるのですが――」

 

 間桐ガールズV3ことアサシンが小さく手を挙げた。

 それは正に悪魔のような提案だった、少なくとも慎二にとっては。

 

「なるほど、それなら兄さんも元気になるはず……!」

「流石ですねアサシン!」

 

 慎二は知らなかった。

 純粋な善意こそが、一番えげつない結果を引き起こすのだ。

 

 

 

 

 

 

 自室のソファで慎二は一人、グラスを傾けていた。

 琥珀色の液体が揺れ、カラン、と涼やかな氷の音が鳴る。

 勿論だが酒ではない、ただの炭酸飲料である。

 未成年の飲酒、ダメ絶対。

 耐性のせいで酒なんて水同然でもダメなものはダメ。

 酔う方法がないわけでもないのだが、そんな気分でもない。

 

「燃え尽きてるよなぁ、僕」

 

 慎二は丸くなった――弱くなった、と言い換えてもいい。

 英雄王に歯向かってみせた強靭な意思は見る影すらもなくなっている。

 

 聖杯戦争が終わって気が抜けた、というのは否定しない。

 筋肉と同じで、脳も使ってやらないと回転が悪くなる。

 そういう意味では間違いなく慎二は衰えている。

 

 けれど“それでいい”のだと慎二は思う。

 この世界線では聖杯戦争のような危機は暫く起こらないだろう。

 例え起きたとしても、その時は別の“主人公”が解決してくれる。

 

「僕の出番はもう終わり、かな」

 

 少しだけセンチメンタル、おセンチな気分というやつだ。

 聖杯戦争の後処理も終わった。

 物語の舞台から退場するには頃合いだろう。

 自分は好きにやった。勝手もした。もう満足だ。

 

 しかし運命は慎二を逃がさない。

 センチメンタルな思考をぶった切ったのは案の定というべきか、奴だった。

 ファファファ、と部屋中に響く怪しげな笑い声。

 

「まだ終わってなどいませんよ!」

「だ、誰だ!?」

 

 部屋の天井がガコン、と音を立てて外れる。

 なんだろう、このパターンさっき見た気がする。

 

「間桐ガールズ一号!」

「間桐ガールズ二号!」

「ま、間桐がーるず、ぶいすりー!」

 

 凄くえっちぃ恰好をした三人だった。

 桜はナース、ライダーはバニー、そしてアサシンが控え目な猫耳。

 とりあえずアサシン、恥ずかしいなら無理に参加しなくていいんだぞ。

 

「なにやってんの」

「兄さんの有様を見ていられないので、ここらで一発ガツンと」

「なにをガツンとさせるつもりなんだよ!?」

 

 慎二は嫌な気配を感じ取り、ソファからジリジリと後退をする。

 ライダーが妖しく唇を舐め上げ、妖艶に身をくねらせた。

 

「ナニって……ナニに決まってるじゃないですかシンジ」

「最近の兄さんには刺激が足りないようなので趣向を変えて、ね?」

「なんの刺激を与えるつもりだオマエらァ!」

 

 ふふふ、と妖艶な笑みを浮かべながら桜とライダーが迫ってくる。

 いったい誰がこんな頭のおかしい所業を。

 どうせ桜かライダーのどっちかだろう、と思っていたら予想外の所からジャブが。

 

「あの、私です」

「嘘だろアサシン……!?」

「ごめんなさい……マスターに元気になって欲しくて……」

 

 アサシンが始末に負えないのは、どうみても百パーセント善意だということ。

 他の二人には明らかな欲望が見えるのに、アサシンにはそれが全くない。

 

 薬どころか劇物みたいなもんを放り込んできやがって。

 ショック療法って言っても限度ってもんがあるだろうに。

 くそう、肉体的にではなく精神的に萎えているこんなときに限ってこれだ。

 

「そんな兄さんの心を昂らせる、間桐ガールズファースト!」

「間桐ガールズゼータ!」

「ま、間桐がーるず、だぶるぜーた!」

「なんとなくわかるけど、さっきと名前変わってるぞ」

 

 慎二もわかってはいるのだ。

 どうして彼女達がこんなことをしたのか。

 それが一重に慎二を励ますためなのだ、ということはわかっている。

 

「くっ……真意がわかるだけに拒み切れない!」

「いいんですよ兄さん、拒んだりしなくても」

「私が優しく溶かしてあげます」

「微力ながら私も力添えを……」

 

 腑抜けた慎二に発破をかけようとした結果がコレなのだ。

 八割ほど彼女達の欲望が混じっているような気がするが、気のせいだろう。

 とにかく、彼女達は慎二を励まそうとしてくれているわけだ。

 

「……仕方がないなぁ」

 

 慎二だって男の子だ。

 愛する家族の前でくらい、恰好のいい自分で居たい。

 だから燃やせ、欲望を燃やしてエネルギーにしろ。

 今の所沸き立つ欲望なんて性欲しかないが、選り好んでいる場合じゃない。

 

「わかったよ――もうひと踏ん張り、頑張ってみることにするよ」

 

 幸いなことに(原作)はまだ残っている。

 それを金の成る木へと育ててみるのも、また一興だろう。

 

「……じゃあ、皆で楽しい悪だくみの算段でもしようか」

 

 だからオマエら、もう迫ってこなくていいんだよ。

 慎二君、復活した。もう大丈夫だからさ。

 

 おい待て桜、服に手をかけるな。

 ライダー、鎖で縛ろうとするな。

 アサシン、オマエも見ていないで止めてくれ。

 

「やめろ、やめっ――あっ……」

 

 型月産ワカメこと、間桐慎二は改造人間である。

 慎二は最愛の家族のために、今日も性なる欲望達と戦うのだ。

 

 

 

 

 




下ネタ挟まないと書けない体になってしまった(末期

きっかけがFGOだったし、FGO編のプロローグだけオマケで頑張ろうかなと構想してるけど(多分書かない



今後ですが。
とりあえず今晩辺りにでも忍者SSを投稿しようかなと。

爆死エンジン後継機になるので、ガチャ関係の題名になる予定。
あと実は設けてた一行四十文字縛りも解放する予定。
PCで読むってことを考えて縛ってたけど苦痛でしかなかった。
やっと文章の幅が広がるぜ(広がる幅があるとは言ってない

あと次作は例の如く(仮題)になってると思うのでよかったらどうぞ。

序盤は昔投稿してたやつの焼き増しになるけど(仕方ないね



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