型月産ワカメは転生者である(仮題)   作:ヒレ酒

10 / 21
誰か待っててくれましたか(震え

今回は後でゆっくり加筆修正する可能性高いです(そう言ってやった試しがない

後書きに本作の更新速度についての説明があるので、よかったら読んでやってください。


※2016/11/16追記
間違って別の作品投稿しちまった。
皆、すまねぇ、オラの力が足りないばかりに……詫び更新するから許してクレメンス。


第十話

 間桐邸の裏庭に、金属同士が激突するような鈍い音が響く。

 波濤の鎧を展開し、朱槍を構えた慎二。

 対するは、まるで生きているが如く鎖を手繰るライダー。

 

 魔力と火花の飛び散る、神話の時代が如く激しい撃ち合い。

 しかし勝負の決着は一瞬だった。

 愚直なまでに正直な槍を振るう慎二に対し、変幻自在の三次元軌道を見せるライダー。

 どちらが上手かなど、言うまでもない。

 

 突き出された朱槍をライダーが跳躍によって躱す。

 そして慎二の体を飛び越えると同時に、鎖を朱槍に絡ませた。

 

「しまっ――」

 

 慎二が声を上げるも、もう遅い。

 絡めとられた朱槍は慎二の手を離れ天高く舞い、そして地に刺さる。

 ライダーがフッと得意気な笑みを浮かべた。

 

「また私の勝ちですね、シンジ」

 

 紆余曲折あったものの無事に修復された肉体。

 その調子を確かめるために試合を始めたのだが、結果はこの通り。

 通算五戦。そのうち慎二の白星はゼロである。

 

 勿論だが心臓部である駆動炉も、切断された腕も絶好調。

 それでもこの結果な辺り、流石は英霊と言ったところか。

 

 僅かに乱れた息を整えるライダー。

 運動の後だからか、ほんのり染まったうなじ辺りが実に色っぽい。

 うむ、良い。実にグッドである。

 慎二がそんな下半身に忠実な視線を向けていると、ライダーがふと問いかけた。

 

「そういえば……前々から思っていたのですが、シンジ」

「なんだい?」

「どうしてシンジはわざわざ慣れない槍を使うのですか?」

 

 慎二は(バイザー)の顎部分を指先で撫で上げると、ふぅむと唸った。

 ライダーの疑問は尤もであった。慎二は、槍を使うよりも素手のほうが数段強い。

 それは昨日のランサー戦を見ても明らかだ。

 槍を捨てて拳で殴ればいい。そんな脳筋理論を地で行くのが慎二なのである。

 

「拳法だけならば、英霊にも引けをとらないでしょうに」

 

 だからこそライダーは不思議でならないのだろう。

 なぜ慎二がわざわざ、不得手な得物を好んで使うのか。

 訝しげな視線を向けるライダーに、慎二が逡巡した末に答えた。

 

「まぁ、一言で表すなら――」

 

 “間桐慎二”という自我がこの世界に発生してから、毎日欠かさず行ってきたことがある。

 そう、それは――感謝の正拳突きだ。

 一日一万回。雨の日も雪の日も、うだるような猛暑の日も、慎二はそれを愚直に繰り返してきた。

 

 最初はネタのつもりだった。

 けれどもコレが、中々馬鹿に出来ない結果を生んだ。

 

 不思議なことに、実に不思議なのだが、この世界では武術に“補正”がかかる。

 具体的には中国拳法。もっと絞り込むと八極拳辺りに。

 なぜだか理由はわからない。けれども確かに“それ”はある。

 

 まるでゲームの仕様のようだった。

 毎日、毎日。ただ愚直に拳を振るえば振るうほど。

 まるで神に愛されたが如く、その分野だけが異常に上達していく。

 

 そしてその異様な性能上昇が、慎二の悪癖に火をつけた。

 伸びるとわかっているステータスがある。

 慎二はそういったものを目にすると、伸ばさずにはいられない性質だった。

 

 そんなこんなで十年とちょっと。

 慎二は毎日のように拳を振り続けてきたのである。

 もし英霊として換算するならば、それなりのスキルとなっているだろう。

 

 で、そんな慎二がわざわざ槍に拘る理由。

 そんなものは一つしかない。

 

「――こっちのほうがカッコイイからに決まってるだろ?」

「……はい?」

 

 最初に槍を使い始めたのは、実用的な問題からだ。

 誘拐当初、子供の体であのケルト集団を全滅させるにはそれなりの武器が必要だった。

 そこで急遽その身から因子を繕い、顕在させたのがあの朱槍(ゲイ・ボルク)

 波濤の獣をベースにされていたからか、相性も良かったのだろう。

 まるでどこぞの贋作英霊様が投影するかの如く、ポンと捻り出せてしまった。

 

 問答無用で敵の心臓を破壊してくれる朱槍は、非力な子供にとって使い勝手が良かった。

 あの臓硯の本体すら的確に突いてみせたのだから、その性能には驚嘆する他ない。

 

 けれど、いつからだろうか。

 槍の切っ先よりも、拳の一突きのほうが鋭くなったのは。

 いつからだろうか。

 槍を使うよりも手刀を使ったほうが綺麗に岩を裂けるようになったのは。

 

 相手を殺すなら、わざわざ真名を開放して心臓を貫くよりブン殴ったほうが手っ取り早い。

 そんな慎二が槍を主武装として使う理由は――特にない。

 カッコイイ。ただそれだけの理由で慎二は槍を振るってきた。

 ゲイ・ボルクなんだぜ? 男子垂涎のゲイ・ボルクだぜ?

 だから後はわかるだろう、と問いかければ、ふむとライダーが頷いた。

 

「なるほど……これがあの伝説の病ですか。サクラの言っていた意味がわかりました」

 

 なんだろう。桜というワードだけで嫌な予感しかしない。

 そんな慎二をよそに、ライダーが得意気な面をして言ってのける。

 

「これが思春期の男子の誰もが患うという、チュウニ病というやつですね」

「――ぐはッ!?」

 

 胸に死棘を押し込まれたような、そんな鈍痛が走った。

 違う、違うんだ。そういうのじゃないんだ

 わかるだろう? これは夢だ、夢なんだ。

 誰もがあの朱槍の真名を叫ぶはずだ。思春期ならば通った道のはずだ。

 

 それが何を間違ったか現実に存在し、しかも手元にあるとなれば。

 やることは一つだろう? 特に意味がなくとも使ってみる。そうだろう?

 

 縋るようにライダーを見つめる。

 けれども現実は非情で――ライダーは黙って首を横に振った。

 激しい胸の痛みと精神ショックに、慎二はバタリと突っ伏した。

 

「……そこまでショックを受けるような話なのですか? その、チュウニ病というのは」

「わかるまい……曲りなりも男女の関係がある相手に厨二病認定された男の気持ちなどわかるまい」

 

 ライダーには、厨二心がわからない。

 くそう、英霊とかいう厨二の塊みたいな存在の癖しやがって。

 おいおいと慟哭さえ漏らし始めた慎二。

 ライダーが若干引き気味になっていると、そんな彼らを呼ぶ声があった。

 

「あ、兄さん! ライダー! こんな所に居たのね」

 

 声の主は、制服に身を包んだ桜であった。

 そうか、もう彼女が帰って来るような時間になっていたのか。

 見れば日も大分傾いている。

 

「おかえり桜――仕事のほうは上手くいったかい?」

「はい。言われた通り、衛宮先輩に弓道場の掃除を押し付けてきましたけど……」

 

 コレになにか意味があるんですか、なんて桜が首を傾げる。

 衛宮士郎が今日、弓道場の掃除をする。つまりは居残りだ。

 意味ならある。大いにある。最重要と言っても良い。

 

「いいかい桜。僕はね、一つ確信していることがあるんだ」

「確信、ですか?」

「ああ、この世の真理と言っても良い」

 

 間桐の血を引く唯一の存在である慎二ではなく、桜がマスターに選ばれたこと。

 その桜が、性質が変化しているにも関わらずライダー(メドゥーサ)を召喚したこと。

 そして昨夜確認した新情報。

 遠坂凛が、アーチャー(エミヤ)を召喚したこと。

 これらの事実から導き出される、一つの推論がある。

 

「運命は、収束する」

 

 世界は確定された未来に向かって突き進む。

 どの運命(ルート)に導かれるのかはわからない。

 けれどもその場を整える基礎(共通ルート)までは、間違いなく慎二の知る通りになる。

 

「今夜、ランサーが衛宮を殺しに行く。これは確定された未来だ」

 

 そして主人公(衛宮士郎)の物語が始まる。

 けれどそれはどうでも良い。

 大切なのは、ランサーを誘導できるという一点。

 

「狙うのはランサーが衛宮邸を出た瞬間だ」

 

 ランサーへのリベンジマッチ。

 慎二が望んでいるのは、それだった。

 

 前回の反省をするならば、見通しが甘かった。その一言に尽きる。

 今まで慎二は、聖杯戦争という事柄をあまり深刻に考えていなかった。

 

 間桐家一同の聖杯戦争における最重要課題は、桜とライダーの生存だ。

 桜は問題ないとして、ライダーのほうも自分と桜の魔力供給があれば充分に存続可能。

 つまり現時点で目標の殆どは完遂されていると言っても過言ではない。

 そうなってくると、聖杯戦争本来の目的である聖杯を無理して取りに行く必要もない。

 だから他の英霊にちょっかいを出す必要もない。

 

 けれど、それもランサーが襲撃してくるまでの話。

 簡単に言えば、慎二は傍観者で居ることをやめた。

 自重はもうしない。思いっきり物語を引っ搔き回してやる。

 慎二だけが持つ原作知識(アドバンテージ)。その全てを以って、この聖杯戦争を蹂躙する。

 

 大切なもの(処女)を失ったあの日、慎二は固く誓った。

 漢の処女の恨みは何より深い。ランサーにはそれを思い知らせねばならない。

 慎二が持つ知識の全てを以って、何もさせぬまま封殺してやる。そう、心に決めた。

 

「ファッキュー、ランサー。僕の処女の仇だ。思いっきりハメ殺してやるよ」

「……ファックされてハメられたのは兄さんのほうですけどね」

「そこはツッコまないで欲しかったかな桜ァ!?」

「兄さんにツッコむ、というのも中々に新鮮で楽しかったですよ。またやりましょうね?」

「二度とやらないよ! いいか、フリじゃないぞ! ないからな!?」

 

 凄く楽しそうな桜と、期待に満ちたライダーの瞳が怖かった。

 

 

 

 




元々このSSは、文章書いたら厄が落ちて☆5が出るのでは、という言わばゲン担ぎのもとに書き始められました。
ぐぐぷれカードが一枚溶けるごとに(酒呑事件の際はその三倍の額)更新する自分ルールです。

で、何を申し上げたいのかと言えば、このSSには致命的な欠陥がありまして。
結局――私が爆死をしないと、永遠に進まないのです。

流石にこの説明もせず更新しないのもアレだと思いまして、例外として書いてみました。
更新が進まない間は、あの野郎、目当ての限定引いてやがるな、と生温かく見て頂ければ幸いです。

こんな感じの稚作でございますが、皆さんの応援とても嬉しく思っています。
なるべく更新……すると爆死するので、ほどほどに更新して頑張っていきたいと思います。
これからもよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。