リアス・グレモリーは、状況が理解できず混乱していた。
なにせ、駒王町の管理者として、自治区を守るためにはぐれ悪魔を討伐しに来たら、
そこでには杭留められて絶命した討伐対象と、血まみれの修道女がいたのだから。
その上、可愛い可愛い下僕で眷属であるアーシアとゼノヴィアが、
その血まみれ修道女と知り合いと言うではないか。
目の前では、しきりに二人の両手を握って、上下にブンブンと動かす修道女がいる。
あまりに激しく動かすせいか、アーシアはガックンガックンと振り回されている。
「ああ、アーシア!やっと!やっと会えることが出来ました!
お姉ちゃん心配だったんですよ!?ああ、そういえば髪が少し伸びましたね。
背の方も以前よりも少し高くなった気がします。好き嫌いはどうですか?
嫌いなものは少しは減らせました?身体はしっかり動かしてますか?
年頃の女の子は色々と大変ですからね。お肌の方もしっかりとケアしないといけませんね。
ああ、なんて素敵な日なんでしょう!ようやくアーシアに会えるなんて!」
「あ、アーリィお姉さま、す、少し落ち着いてください!」
「そしてゼノヴィアさん!あなたも日本に来ていたのですね!
ああ、私、心配していたのですよ!
緊急の指令と言って別れた後、何も連絡がありませんでしたから!
私、心配で心配で、毎晩貴女の無事を主に祈っていたんですから!
ですが、私から見ると無事なようで安心です!あ、もしかしてまだ任務の途中ですか!?
良ければ私もお手伝いさせてもよろしいですか!?」
「あははは、アーリィ、君は少し落ち着いてくれ」
「お二人とも何を言っているんですか!こうして私の大切な人に、一緒に巡りあえたんです。
これを落ち着けるわけないじゃないですか!ああ、主よ!私はあなたに感謝します!」
「「「「「っ」」」」」
「?」
あまりの喜びに、修道女が祈りを捧げたことで、リアスを含む眷属全員に頭痛が走る。
だが、アーリィはそれに首を傾げるも、別段気にした様子はない。
悪魔であるリアスたちにとっては、聖歌や祈り、聖書でさえ、身体に不調をきたすものなのだ。
「えっと、アーリィ・・・さん?嬉しいのは解りますが、場所を変えませんか?
ここで騒いでしまうと、人が来そうですので」
「あ、すみません!私ったら感動のあまり舞い上がってしまいまして」
「いえ、お気になさらないでください。朱乃、後を任せるわ」
「解りましたわ、リアス」
リアスは、朱乃に事後処理の方を任せ、
他の眷属とおかしな修道女を、転移魔方陣で拠点であるオカルト研究部に移動した。
修道女をソファに座るよう促し、改めて礼を言う。
一誠たちは、リアスのソファの方に立った。
「私はこの駒王町の管理者であるリアスで、この子たちは私の優秀な部下です。
アーリィさん・・・で良いですよね?
はぐれ悪魔を退治し、民間人を救ってくれたことに感謝します。
貴女のおかげで、死傷者が出なかったのですから」
「いえ、私がもう少し早ければ、あの子の両親が傷を負うことなんて・・・」
「お気持ちは解ります。私たちが遅かったばかりに・・・。
ですが、貴女が退治してくれたおかげで、あの人たちは助かったんです。
それに、彼らは今日のことを覚えてはいません。すべてが夢だった、ということです」
「そう・・・ですね」
リアスの言葉に、アーリィは顔を曇らせる。
「ところでアーリィさん。貴女とアーシア、ゼノヴィアとの御関係は?」
リアスは場の空気を変えるため、自身が知りたかった話題を切り出す。
事と次第によっては、目の前の彼女への対応も変わるからだ。
「はい!私とアーシアは姉妹のような関係で、ゼノヴィアさんとは戦友です。
アーシアが赤ちゃんだった頃から、ずっと一緒だったんですよ?
ゼノヴィアさんは、いつも怪我ばかりして、同僚からお守なんて言われまして」
「も、もう!アーリィ姉さま!皆さんの前で恥ずかしいです・・・」
「あ、アーリィ!それは昔の話じゃないか!」
「あらあら、やっぱり二人とも変わってないわね。私は嬉しいですよ」
「あ、あの?ちょっと・・・?」
目の前の修道女に良いようにされてる、アーシアとゼノヴィアを見ると、
このアーリィという修道女は、本当に不思議な人と感じる。
そしてこの女性は、アーシアとゼノヴィアにとって大切な人だとも思えた。
だったら二人の主として、リアスは彼女を少し信用しようと思った。
「ところで」
すると、今度はアーリィから会話を切りだしてきた。
彼女の顔はヴェールでよく解らないものの、真剣な雰囲気を醸しだしている。
「貴女たちはどういった方々ですか?先ほど、管理者と仰っていましたが。
それに、なぜアーシアとゼノヴィアさんがここに?」
「私たちはこの駒王町を、はぐれ悪魔や危険な存在から護るため、
人知れず活動をしている、いわば自警団です。
私も含めて学生ばかりですけど、みんな強いんですよ?
みんな、彼女に自己紹介を」
リアスがそういうと、一誠たちはアーリィに自己紹介をした。
ちょうどその時、事後処理を終わらせた朱乃も帰還し、全員の紹介を終えた。
自己紹介が終わると、アーリィは目を丸くして驚いた。
「まぁ、みなさん随分と強そうな力ですね!それに赤龍帝ですか!?
話には聞きましたが、なにか・・・こう・・・底知れない力を感じます!」
「いやーそれほどでもないですよ!俺なんて、皆からしたらまだまだですから」
「でも一誠のおかげで、私もみんなも助かっているんだから、自分を卑下しないの」
「ぶ、部長がそう言うんなら・・・あはははははは!」
「一誠先輩、顔がにやけてます」
「一誠君らしいね」
「あらあら」
「イ、イッセー先輩、顔が酷いことになってますぅぅ」
一誠によって、場の雰囲気は一気に明るい流れになる。
そしてリアスは、アーシアとゼノヴィアの事情を話した。
「アーシアは、この駒王町に派遣されてきたわ。
そして、アーシアの力を狙った堕天使たちから、私たちが保護したの。
一誠のおかげでね」
「それは本当にありがとうございます!
一誠さん、アーシアを守っていただき、本当に感謝しますわ」
アーリィの言葉に、一誠は頬をかきつつ少し口ごもる。
「あの時は、アーシアを助けようと必死だったんで。でも、結局はアーシアを・・・」
「そんなことはないです!一誠さんのおかげで、私は今ここにいますから」
アーシアが一誠を励ます姿に、アーリィは、寂しげながら微笑んだ。
「ゼノヴィアは、任務が終わった後、彼女から私たちに協力したいと申し出てね。
今は立派な私たちの一員です」
「そう言われると、照れるな・・・」
リアスの言葉に、ゼノヴィアは顔を赤らめながらそっぽを向く。
そうした和やかな雰囲気の中、リアスはアーリィに尋ねた。
「それで、どうしてアーリィさんはアーシアを探しに来たのですか?
どうやら、なにか事情があるようですが」
「そうですね。昔、アーシアと約束をしまして、アーシアを迎えに来たんです」
その瞬間、部屋の空気が凍った。
先ほどまでの和やかさが一瞬で霧散し、眷属に緊張が走り、アーリィに警戒心を抱く。
朱乃はニコニコしつつもその目は笑っておらず、
木場はいつでも剣を抜けるように右手をそっと移動させ、
小猫はいつでも彼女に飛びかかれる位置に移動する。
ギャスパーは、その雰囲気に若干涙目になる。
当のアーシアは顔を曇らせ、ゼノヴィアは首を傾げた。
「迎えにきた・・・ですって?」
リアスの眉が少し上がる。
「はい、私はアーシアと約束したんです。
おそらく、あなた方はアーシアの事情を知っているでしょう。
私はアーシアにかけられた汚名を払拭するため、そしてアーシアを守るために、
私はずっと彼女を探していました」
「アーリィ姉さま・・・」
アーリィのヴェール越しから伝わる真剣な眼差しに、
リアスは少したじろぎ、アーシアは一瞬目を伏せる。
だが、それに異議を唱える存在がいた。
「ふざけるな!」
兵藤一誠は、アーリィの自分勝手な発言に許せるはずもなく、大声で叫んだ。
その目は、アーリィを不倶戴天の敵の如く、射殺すほどの力がこもっていた。