カオス世界はカオスが強い。
筋肉大好きの両親と、アレな妹とアレな恋人のバカップルに加え、
しばかれ大好きな女悪魔ローゼリアと、
筋肉バカの男悪魔オルスクートが家にいることに、
アーリィの精神は徐々にシバかれていった。
特にローゼリアの方は、シバいてしまえばご褒美であり、無視をするにもご褒美になる。
もはや無敵じゃないですかー!とアーリィが叫んだことは数知れず。
オルスクートの方も、筋肉の秘訣を探ろうと、事あるごとに裸を見に来ること数知れず。
彼の方は邪な感情など一切なく、ただ筋肉の秘密を知りたいだけなのだが。
そうしたことに対する報復を、ローゼリアが物欲しそうに見ていたのは、
もはや日課になりつつあるのである。
というより、彼女の町がもはやカオスと化していた。
隣の老夫婦に対しては、
おばあさんのスコーンを気に入った女悪魔が、老夫婦の養子になったり、
友人のクランには種族違いの妹が出来た。
クランを見つめるその妹の眼が、飢えた猛禽類のように見えたのは気のせいである。
ミーシャに関しては、翼を生やした恋人が出来たらしい。
ミーシャよ、あなたはそれでいいのですか?
結果、彼女の町は、人間と悪魔が住まう町となったのだ。
本当にどうしてこうなった!!
だがしかし、悪魔という存在を許さない存在がいた。
そう、教会である。
教会は悪魔に対して、病的なまでに憎んでいる。もはや憎悪と言ってもいい。
そうした教会にとってみれば、人間と悪魔が住まう町など、唾棄すべきものだ。
結果、教会は悪魔諸共、その町を消し去ることを決めたのは、至極当然である。
悪魔殲滅と街の浄化を命令され、悪魔殲滅者たちは、すぐさまその町に向かった。
先頭を率いるは、まだ幼い子供であった。
「スコーンを粗末にする奴は誰であろうと死ね!」
「お兄ちゃんを奪いに来たのね!お兄ちゃんは渡さないんだから!」
「ミーシャぁぁぁぁぁぁ!俺は君と添い遂げるぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「こんな痛みなんて、お姉さまの方がもっと痛かったですわぁ!」
「この鍛え上げられた筋肉に、そんななまくらが通じると思ったか!」
「ちょっと!私の坊やが寝られないじゃない!安眠妨害はんたーい!」
飛ぶ、なんか黒い服を着た人たちが空を飛んでいく。
人って空を飛べるものなんだなー、と目の前の光景に私は呆けていた。
「見てクリス!皆が町を守ってくれているわ!」
「そうだねミーシャ!でも君を守るのは僕だよ!」
「ああ、やっぱり素敵よクリス!」
「おい黙れバカップル。この状況を理解しろ」
隣のバカップルは、目の前の状況に対して、独自の空間を作っていた。
お願いです、お姉ちゃんの胃が死にます。
ことの始まりは数時間前、私の町に突如修道服を着た方々が現れた。
そこには、青い髪の少女もいた。
どうやら彼女たちは教会から派遣された悪魔殲滅者たちであり、
この町を悪魔を信仰する邪教の町として、浄化しに来たらしい。
正直、邪教なんて生易しいものじゃないと気付いてください、と思ったのは秘密です。
まぁ話を省くが、先頭の少女が我慢の足りない子だったらしく、
目の前のを通りかかった子悪魔を斬りつけようとしたのだ。
いかんせん、偶々通りかかっていた私は、
その子を守る為に、斬りかかろうとしたその少女にミサイルキックをかましたのだ。
結果、こんなことになったのである。
はい、私が原因なんですね!いい加減にしてよ!
私がなにしたって「そこのお前!さっきはよくもやってくれたな!」
私が頭を抱えていると、不意に声をかけられた。
後を見ると、先ほど私がミサイルキックをかました少女だった。
違うところと言えば、
正直変態じゃないですか?と思うようなピッチリスーツを纏い、
その両手には不似合いな大剣を持っていたことだ。
「あのーなんですか?」
私の言葉に、少女の眼が更に険しくなる。
やめて、私の心はガラス製です。そんな視線には耐えられません。
「悪魔教祖め!先ほどは油断したが、もう不意はつかれないぞ。覚悟しろ」
そういって彼女は、私に向かって走ってきた。
教祖?教祖って何ですか?おい、お前。いい加減しろよこんちくしょうがぁぁ!
カオスにカオスを重ね、さらにストレスによるカオスの境界線を突破したことで、
私の精神はプッツンした。
「子供が!(ペチン!)、そんな危ないものを!(ベチン!)、
振り回すものじゃ!(ビチン!)、ありません!(バチン!)」
「あ・・・う・・・あん・・・うん・・・く・・・」
私は彼女を折檻していた。やってること?想像にお任せします。
かれこれ数分か、数時間か不明だが、やっている内に、
彼女の顔がなんかヤバいことになってきた、ローゼリア的な意味で。
だが私は止めない、止めさせない。だって止めたら反撃来ると思うし!
そうしたことを考えても、私は必死に折檻した。
気が付けば、町の混乱も終わっていた。
町の広場には、黒焦げの修道服の方々が、山のように積み上げられていた。
私は考えるのを止めた。
「さあアーリィ姉さま、こんな町にいては穢れてしまいます。一緒に教会に行きましょう!」
「アーリィ様は私のご主人様です。教会などに連れていかせはしませんわ!」
痛い痛い痛い痛い痛い・・・!
今私は、二人の少女に両手を引っ張られている。
一方は黒いピッチリスーツを纏い、もう一方はドレスを纏っている。
ええ、なんか変なことになりましたよ!
なんというか、ローゼリア2号が誕生しちゃたんだよ!
ええ、止むに止まれず、ようやく折檻を止めたら、
青髪の子、もう乙女の尊厳がズタズタになるレベルの表情だったんだよね。
それで、開口一言「ああ///」って息を吐いたんだよね。
その時、私は気付いた。アカンと。
結果、こうなりました。
教会に連れて行きたいと言い張る少女と、それを拒絶する悪魔。
どっちも馬鹿力なのか、私の腕が千切れそうです。
「痛い!痛いから離して!腕ヤバいから!」
「す、すまない!」
「ああ、申し訳ありませんわ!」
私の叫びに二人とも手を離すが、なぜか二人とも何かを求めるような顔をする。
ああ、この二人はもう駄目だ。私は天を仰いだ。
そして私は、
「いい加減してくださいよー!私がなにしたんですかー!」
そう言ってその場から逃げだした。