ハイスクールD×D 和平ってなんですか?   作:SINSOU

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御都合の理不尽

静寂を宿し、訪れるもの全てに安らぎを与える教会は、

力によって蹂躙された、もはや神のいない凄惨な戦場と化した。

信者を、参拝者を、祈り人を迎える椅子は跡形もなく、

床は所々が窪み、抉れ、そして足の踏み場もない程に武器が散乱している。

 

そこで行われるのはただの戦い、ただ相手を傷つけるためだけの暴力が繰り広げられる。

金属音が響き、火花が飛び、床が爆ぜ、血が、汗が、そして意地が叩き付けられる。

 

人々の心を奪うステンドグラスは、光を受け変わらない輝きを放ち、

人々を迎える十字架はただ1つの傷もなく、その戦いを見つめていた。

 

兵藤一誠は、先ほどから目の前の修道女から繰り返される攻撃を、必死に受け止めていた。

彼が必死に守ろうとする大切な主であり、王であるリアス・グレモリーは、

大切な眷属である一誠を守ろうと、必死に修道女へと攻撃を放っていた。

だが、そんな二人の頑張りを否定するかのように、修道女は二人を追い詰めていく。

 

修道女の姿は、二人からすれば満身創痍であり、

彼女の身体は所々が焼け、血が滲み、そしてボロボロだ。

だというのに、灰色の髪の修道女は、まるで気にもせずに自分たちを追い詰める。

自分たちの頼れる仲間たちと戦い、彼らを床に沈めているというのにだ。

その姿は、人であるはずなのに、人の形をしたなにかのように見え始めている。

 

たとえ彼女の罠によって結界内に閉じ込められ、力を抑えられようとも、

彼女1人に対し、こちらは6人と数が多かったはずだ。

たとえ彼女が、嘗てゼノヴィアの背を守った悪魔殲滅者だとしても、

自分たちもライザーやコカビエルと言った強敵を退けてきたはずだ。

 

だというのに、いったいこれはどういうことなのか。

 

『停止の魔眼』で彼女の動きを止めるはずだった作戦も、

魔よけの香草を混ぜた粉塵や閃光弾によって、

肝心のギャスパーの目を潰され、直ぐに床へと沈められた。

その時の粉塵の影響か、まだリアスたちの視界は歪んでいる。

 

頼もしい『騎士』である祐斗も彼女に何かされたのか、

自身の炎に焼かれ、そして彼女によって両手と両脚を潰された。

 

自分を補佐する『女王』である朱乃は、

彼女の呟きに何かを感じ取り激昂、彼女自身の力を逆に利用され、

最後は聖水をその身に浴びた。

 

そして、一誠から倍加の力を譲渡された頼もしい仲間の1人である『戦車』の小猫は、

その頑丈さと力で、先ほどまで修道女を追い詰めていたはずなのに、

彼女を殴ろうとした瞬間、身体から血を噴き出して倒れた。

倒れる瞬間、小猫の片脚が無かったのは見間違いだ。

そうに違いない。

 

彼らは、既に教会の入り口へと運ばれ、その身を気休めとは言え休ませている。

ただ、小猫はアーリィによって反対側の壁に寄せられているが。

 

そんな戦闘を行っているというのに、

目の前の修道女、人間であるはずのアーリィは、自分たちを追い詰めている。

彼女は頻りに攻撃を繰り返しているが、その全てが一誠によって防がれている。

正確には、彼の神滅具である赤龍帝の籠手が受け止めている。

 

あれだけの戦闘を繰り返してきたせいか、アーリィの攻撃はその鋭さもキレもなくなっていた。

それこそ、一誠が必死に受け止められる程に。

ただ、教会という場であり、そして結界内に閉じ込められ、かつ粉塵の影響のせいか、

自分たちも同じように、その力が弱まっているのだが。

だが、リアスが受け継いだ『滅びの力』は、当たれば全てを消し去る一撃必殺の力。

リアスは、一誠が必死に受け止めている隙をついて攻撃を繰り返すが、

アーリィは一誠の傍を離れず、

自分の攻撃は、朱乃の時と同じように周囲の瓦礫を投げられて相殺される。

 

それがどれだけ繰り返されただろうか、

突如アーリィが自分らと距離を取るように後方へと飛んだ。

リアスは、すかさず攻撃するも、簡単に防がれたが。

その後、沈黙がその場を支配するが、アーリィが口を開いた。

 

「もう、止めにしませんか?」

 

目の前の修道女はそう言った。

 

「私の目的は、アーシアとゼノヴィアさんと一緒に故郷に帰り、

 そして世界を見て考えてほしいだけです。

 それこそがアーシアとの約束であり、私の望みです。

 あなた方の友人を傷つけたのは、不可抗力として謝りません。

 ですが、これはお互いの理解不足だったと思います。

 ですから、もう一度話し合いませんか?

 正直に言いますと、疲れちゃったんですよね」

 

アーリィは、傷を負った顔に苦笑いを浮かべ、リアスたちに問う。

だが、その返答は至極簡単なものだった。

 

「ふざけないで!私の可愛い眷属を、仲間をここまで傷付けられて、今更話し合い?

 私たちを馬鹿にするのもいい加減にして!」

 

「そうだ!大切な仲間を傷つけた奴の言葉なんて信用できるか!

 俺はお前をブッ飛ばして、仲間の仇を討って、そしてアーシアとゼノヴィアを守る!」

 

リアスは、怒りの感情を表すかのような禍々しいオーラを纏い、

一誠は自分の左腕にある『赤龍帝の籠手(相棒)』に力を込める。

 

その二人の姿を、返答を聞いたアーリィは、

その笑みを、その優しい口元の角を上げ、裂けた様な笑みへと変えた.

 

「やっぱりそうですよね」

 

その言葉は、全てを見通していたかのような諦めを宿し、

その目は同類を見つけた様な憐れみが籠っていた。

 

「ところで、赤龍帝の籠手というのは本当に硬いんですね。

 私、さっきから壊そうと必死ですのに、壊れかけているのは私のこれ()の方です」

 

そういって見せた彼女の剣は、刃先が欠け、ボロボロになっている。

 

「当たり前だ!俺とドライグの力を甘く見るんじゃねぇぞ!」

 

一誠はアーリィを前に啖呵を切る。

その姿に、アーリィは一瞬虚を突かれ呆けるも、なぜか一誠とリアスに頭を下げて謝罪する。

 

「そうですね。私は無意識に一誠さんやリアスさんを甘く見ていました。

 ごめんなさい。私、反省しないといけませんね」

 

突然の行動に、今度は一誠やリアスたちが虚を突かれる。

 

「ところで」

 

下げた頭を上げ、アーリィは二人に満面の笑みを見せ、

 

「籠手以外は頑丈ですか?」

 

変わらない声で二人に問うた。

 

「!?」

 

一瞬、一誠とリアスは、自分らの首が飛んだ姿を見た気がした。

首だけじゃない、まるで壊れた人形のように、バラバラにされた姿を見た気がした。

無意識に首に手を伸ばし、繋がっていることを確認する。

今のは一体なんだったのか、二人は自問するも答えは出ない。

 

「顔色がすぐれませんし、本当にもうやめにしませんか?」

 

前を向けば、満面の笑みで首を傾げる、ボロボロの修道女だけ。

アーリィの声に二人は今の映像を振り払おうと、アーリィを睨みつける。

 

その姿に、アーリィは再度溜息を吐き、大きく息を吸い、そして

 

『驚くべき恵み』

 

歌う

 

『なんと美しい響きであろうか』

 

一誠とリアスの身体に激痛が走る。

まるで体中を火が走るような、体中を炙られるような、もはや叫び声を上げるしかない感覚。

 

『私のような者まで救ってくださった』

 

一誠はなんとか踏みとどまるも、リアスはその痛みに何度も叫び、倒れる。

 

『かつては迷ったが今は見つけられ』

 

一誠は、痛みにのた打ち回るリアスに目をとられ、アーリィから目を逸らした。

 

「相手から目を逸らしてはいけませんよ」

 

振り向くと自分の目の前に、傷を負った灰色髪の女が、立っていた。

 

『かつては盲目であったが、今は見える』

 

一誠は咄嗟に籠手で殴ろうとするも、

歌の激痛で思うように動けず、アーリィにその手を掴まれる。

そして、

 

「よいしょ」

 

何かが折れた音がした。まるで枯れ枝を踏んづけたような、そんな音だ。

突如、左腕の感覚が消えた。おかしい、さっきまであったはずなのに。

そして襲ってくる別の痛み。

一誠は恐る恐る自分の左腕をみる。

そこには、肩から肘が別の方向へ向き、そして肘からは肩とは別の方向へ向いている

 

「お、俺の腕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「静かにしてください」

 

自分の腕を見て叫ぶ一誠を、アーリィは至極冷静に歩み寄り、彼の右腕を捉えて倒す。

 

「そこで待っていてくださいね」

 

そして右手と両脚に白木の杭を打ち込み、もがく一誠を諭す。

そして、くるりとリアスの方へ体を向け、彼女の方へ歩く。

リアスは、先ほどのダメージのせいか、もはやぐったりとしている。

 

「くそ!このままじゃ部長が!」

 

一誠は、なんとか杭を抜こうとするも、逆に痛みに呻く。

この杭が抜けたなら、あいつをブッ飛ばせるっていうのに!

悔しさと自分の無力さに涙をこぼす一誠だが、そこに影が差した。

 

アーリィは、息も絶え絶えのリアスを見下していた。

そこには何も感慨もなく、ただ、悲しい目をしていた。

 

「リアスさん、私は貴女を信じたかった。

 だってアーシアが笑っていたんですもの。

 だから私も、貴女を信じて私の過去を話しました」

 

その目は揺れていた

 

「でも、こんな結果になって、本当に残念です。

 私はアーシアとゼノヴィアさんを連れて、故郷に帰ります。

 また1年後になりますが、その時は本当の意味で手を繋ぎたいです」

 

そういって、リアスの傍を横切り、アーリィは教会の出口へと向かう。

 

「そんなことは絶対にさせねぇ!」

 

アーリィが振り返ると、杭を刺したはずの一誠が、立ち上がって自分を睨んでいた。

それに、二段階に折ったはずの左腕も、なぜか元に戻っている。

いや、彼の左腕は人間の物ではなかった。

赤い鱗で覆われ、それはまるで・・・

 

「龍の腕・・・?」

 

「ああそうだ!あの焼き鳥と同じように、腕を捧げたんだ!

 あとはドライグの治癒力で元に戻った!」

 

左腕をアーリィに見せつける一誠。

 

「ですが、そう簡単に杭を外すことは」

 

「それは私がやりました」

 

アーリィが声の方を向くと、負傷したはずの小猫が、一誠に刺した杭を手にしていた。

どうやら、あの怪我で身体を引きずって一誠を助けたらしい。

 

「でしたら、もう一度動けなくするまでです」

 

「そうはさせないよ」

 

咄嗟にその場から離れたアーリィだが、突如地面から剣が現れ、彼女の脚を貫く。

片膝をつくアーリィは、出口の傍で、血まみれの手を自分に向けている木場祐斗を見た。

 

「これも喰らいなさい!」

 

突如アーリィに向けて雷が走り、彼女は直撃を受けるも気絶はしない。

顔や腕が赤く焼け爛れた朱乃が、ボロボロの身体に鞭打って攻撃したのだ。

 

それでもなんとか動こうとするアーリィだが、急に体の動きが止まる。

いや、動かせないのだ。

 

「ぼ、ぼくだって、ぶ、部長の眷属な、なんです!」

 

目を潰したはずの少年が、片目をこちらに向けていた。

どうやら、アーシアの友人として手加減した結果、手加減をし過ぎてしまったようだ。

 

「どうやら手加減し過ぎちゃったみたいですね。自分も甘くなっちゃいました」

 

ボロボロの身体になったアーリィは、自分の甘さに溜息を吐く。

そして、目の前には拳を振り上げた一誠が、自分を殴りかかる姿が見えた。

当然、逃げることも出来ず、アーリィは教会の壁に叩き付けられる。

口から紅い液体が零れる。どうやら臓腑に傷を負ったようだ。

 

「これが俺たちの力だ!俺たちがアーシアとゼノヴィアを守るんだ!」

 

一誠は、倒れているリアスを起こし、力を譲渡する。

すると、気を失っていたリアスが目を覚ます。

 

「一誠・・・?」

「部長!良かった、本当に良かった・・・!」

 

一誠はリアスを抱きしめる。

その際にリアスのおっぱいの感触で、顔がしまらなくにやける一誠。

 

「部長のマシュマロみたいなおっぱいが当たって、グヘヘヘヘヘ」

「もう!一誠の馬鹿!」

 

「あらあら、一誠くんったら」

「一誠君は相変わらずだね」

「こんな時まで・・・一誠先輩は不潔です」

「えっと、あの、その」

 

リアスのおっぱいににやけ顔をする一誠に、それを恥ずかしがるリアス。

そして苦笑する木場や朱乃に、冷たい目をする小猫、そしておろおろするギャスパー。

そんなやり取りをした後、二人はアーリィへと顔を向ける。

 

「これで勝敗は決したはずよ、二人のことは諦めなさい」

 

「私、諦めるのが苦手なんですよね。ですから、無理な話です」

 

リアスの言葉に対し、ボロボロのアーリィは笑顔で応える。

その目はまだあきらめてはいない。

 

「そう、なら仕方ないわ」

 

そう言うと、リアスはアーリィに手を向ける。

すると、彼女の手からは身の毛もよだつ魔力が具現化する。

 

「部長、俺の力も使ってください!」

 

一誠がリアスの右手を上から覆うように握ると、その魔力は更に禍々しくなる。

一誠の譲渡によって、リアスの力が増したのだ。

 

「私の可愛い眷属に言い寄るな。消し飛べ」

 

リアスは一誠と自身の全力を込めた一撃をアーリィへと放った。

それは、下級・中級どころか、上級の悪魔さえも消し飛ばせるほどの力が宿っている。

普通ならば、その力から逃れようとするが、アーリィは予想外の行動に出た。

迫りくる力から逃げようとせず、その場から動かないのだ。

 

「主よ、私たちを導いてください」

 

迫りくる光を前にして、アーリィは祈りを捧げ、何かを呟いた。

突如、壁を覆い、今ままでリアスたちを苦しめていた結界の要となった紙が剥がれ、

まるでアーリィを守るかのように彼女の前を覆いだす。

そして・・・衝突。

 

閃光が教会の壁を突き破り、轟音と土煙が舞、空へと向かって大きな光の線が描かれた。

土煙や誇りが開いた穴から漏れ、辺りが見えるようになる。

一誠とリアスは、彼女のいた場所を見ると、

そこには焼け焦げた紙切れが舞い散り、彼女の後ろにあった壁には、

攻撃によって空いた大穴が見える。

そして、彼女のいただろう場所には、小さな十字架が落ちていた。

あれだけの威力だっただろうに、その形は一切崩れておらず、銀色の光を映している。

どうやら彼女は、自分たちの攻撃を受け止めようとしたものの、

耐えきれずに、攻撃によってふっとばされてしまったようだ。

たとえ死んでいないにしても、これだけの攻撃を受けたのだから、決して無事ではないだろう。

自分たちを苦しめていた結界もなくなり、

少しずつ体調を戻ってきたリアスと一誠は、安堵の溜息を吐いた。

 

「やったのね、一誠」

「ええ、部長!俺たちの勝利です!」

 

互いに言葉を掛けあい、自分たちの勝利を確信する。

すると、教会の扉が開き、二人の人影が入ってきた。

 

「み、みなさん、大丈夫ですか・・・!これはいったいなんですか!?」

「待つんだアーシア!何が起こっているかまだわか・・・これは!?」

 

アーシアとゼノヴィアである。

どうやら先ほどの攻撃を見て、慌てて走ってきたのだろう。

ゼノヴィアは普通だが、アーシアは息も絶え絶えで、顔を真っ赤にして胸を上下させている。

そして、教会内の凄惨な状況に大きく驚いている。

 

「これはどういうことで・・・って皆さん怪我しているじゃないですか!?

 は、早く治療しないと!」

 

木場たちや小猫らの姿を見て、直ぐに治療を行うアーシア。

そしてそれを手伝うゼノヴィア。

二人の姿にリアスと一誠等はお互いを見つめて苦笑しながら、二人を手伝った。

 

「ところで、いったい何があったんだ?

 それに、微かに残るこの気配は・・・」

 

治療を終えたアーシアを落ち着かせている中、ゼノヴィアはリアスたちに問う。

 

「そのことだけど・・・」

 

リアスが説明しようとした時、アーシアの声が響いた。

振り向くと、アーシアはアーリィがいた場所の床を見ていた。

 

「なんで・・・アーリィ姉さまの十字架が落ちているんですか?

 これ、姉さまが大切にしてて、家族の形見だから絶対に外さないって・・・」

 

どうやら落ちていた十字架を見つけたようで、アーシアの声は震えていた。

 

「イッセーさん、リアスお姉さま、どうしてこれが落ちているんですか?

 なんで姉さまの大切なものがここにあるんですか?

 それに姉さまは・・・どこに行ったのですか?」

 

震える声で、劇物であろう銀の十字架を手にしたアーシアの目は、

まるでこの場で起きたことを知ってしまったかのように、涙が流れていた。


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