ハイスクールD×D 和平ってなんですか?   作:SINSOU

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本音

「喰らいなさい!」

 

突如として雷がアーリィへと放たれる。

咄嗟の隙をついて、今まで溜めていた力を朱乃が放ったのだ。

その雷の一撃を、アーリィは咄嗟に後方へと下がって躱す。

彼女のいた場所は轟音と稲光を放ち、黒焦げの床が、その威力を如実に示す。

朱乃は間髪入れずに何度もアーリィへと放つも、

それら全てを間一髪で避けられるせいで、教会の床は黒い跡がいくつも出来る。

小猫が援護しようとするも、アーリィの避けた直後に雷が落ちるせいで、動こうにも動けない。

 

それが何回か続き、息が上がったせいで攻撃を止めた朱乃に対し、アーリィは息を乱していない。

 

「危ないじゃないですか。当たったら死んでたかもしれませんよ」

 

「正直、当たって欲しかったんですけどね」

 

首を傾けて自分を見つめるアーリィに、朱乃はらしくない程に冷や汗を掻く。

焦げたヴェールから覗く彼女の目は、まるで自分を見透かすかのように胸騒ぎがするのだ。

出来る事ならば、今の攻撃で直撃、または怪我を負わせるつもりだった。

だが、自分の思惑を嗤うように、彼女は避けてみせた。

祐斗さんによって、彼女の身体は火傷を負っているというのに、

彼女は間一髪で避けてみせたのだ。

それも、リアスや小猫ちゃん、イッセー君にも意識を置きながら。

目の前の修道女から感じる威圧は、人ならざる者に思えてくる。

 

「そう言えば」

 

じっと自分を見つめているアーリィの口が開く。

まるで、ふと何かを思い出した、言い忘れた程度のことのように。

 

「私、経験からなのでしょうか、ちょっと勘が良いんですよね。

 それにほら、ゼノヴィアさんと一緒にお仕事していたので、

 なんとなく判るんですよ」

 

アーリィの口元が歪む

 

「姫島さんは、どうして雷しか使わないのですか?」

 

口角が上がる

 

「どうして悪魔の力しか使わないのですか?」

 

無機質な目が嗤う

 

(修道女)からの助言ですが、自分を偽るのは感心しませんよ」

 

そして

 

「ねぇ、堕天使さん?」

 

三日月の笑みを映す

 

 

「私をその名で呼ぶなぁぁぁぁ!!」

 

アーリィの言葉は、朱乃のトラウマを、彼女の地雷を、一気に刺激した。

『堕天使』

その言葉は朱乃にとって最も忌み嫌う言葉だ。

朱乃の頭にあの時の記憶が蘇る。忌まわしき、忘れられない思い出(悪夢)

あの男と自分は違う。そうでなければいけない。母を見殺しにしたあの男と私は違う!

そうじゃないと私は・・・!

 

「落ち着きなさい朱乃!」

 

「ネズミのようにちょこまかと!いい加減に当たりなさい!」

 

リアスは冷静になるように呼びかけるも、激昂した朱乃の耳に入ることはない。

怒り狂った朱乃は、アーリィに向けて全力で雷を連射する。

だが、冷静だからこそ当たるだろう攻撃も、冷静さを欠いてしまえば当たるわけもない。

アーリィは、襲い掛かる攻撃を、置かれていた長椅子や教会を支える柱を遮蔽物にし、

時に転がりながら、時に投擲武器を避雷針にして避ける。

 

ところで、照準の定まらない銃を、錯乱した兵士が、しかも味方の陣地で撃ったらどうなるか?

混乱した戦場における死亡理由の一つ、流れ弾が起きる。

ようは、誤射だ。

怒り狂った朱乃の全力による余波が、リアスたちにも襲う。

 

「っ!」

 

「きゃぁぁぁぁぁ!?」

 

「部長!?落ち着いてください、朱乃さん!」

 

小猫、リアス、一誠は、暴走する朱乃の攻撃を必死に避けるも、

雷による爆発でリアスが床に倒れる。

錯乱した朱乃はそれに気付かず、アーリィを射殺そうと頻りに攻撃を続ける。

なぜか、倍加をしている一誠には当たらない。

 

「朱乃!お願いだから落ち着きなさい!お願いだから!」

 

「くそ!どうしてこうなっちまったんだ!」

 

もはや教会の内部は見る影もなく、壊れた長椅子や燭台などが散乱している。

そして扉付近では、負傷した木場とギャスパーが横たわり、

いつ朱乃の攻撃が襲うのかも判らない。

もはやここ(教会)は、混乱の坩堝と化した。

 

 

「あらあら、凄いことになってますね」

 

混乱するリアスたちの前に、アーリィが姿を現す。

いつの間に回収したのか、彼女の右手にはボストンバッグが握られ、

左手には、剣ではなく液体の入った瓶が4本、指の間に挟まっている。

そして爆発による影響か、彼女の身体には小さな木の破片が刺さっており、

その傷からは血が滲み出ているのか、彼女の服を赤く染めている。

 

一誠と小猫は、殴りかかろうにも倒れているリアスと朱乃による攻撃で、その場から動けない。

 

「教会が壊れそうなので、落ち着いてもらいましょうか」

 

そう言うと、アーリィは瓶を4本とも天井に向けて投げる。

同時に、朱乃に向かって走り出した。

 

「見つけました!喰らいなさい!」

 

アーリィを目で捉えた朱乃は、彼女に向けて雷を放つも、

先ほどのように、アーリィは当たりそうなものだけを、針を投擲して攻撃を逸らす。

その一方で、朱乃向けて針を投げる。

 

「くっ!」

 

その針を避けようと、近づくアーリィと距離を離そうと後方へと飛んだ朱乃だが、

突如アーリィがその動きを止めた。

 

「そこ、当たりますよ」

 

「!?」

 

言葉の意味が解らず、周囲を見回した朱乃は、上を向いて目を見張った。

彼女の目に入ったのは、先ほどアーリィが投げた瓶が1本、朱乃に向かって落ちてきたのだ。

雷で壊すにも、中身の液体が聖水だったならば、間違いなく自分にかかる。

咄嗟に受け取ろうとするも、彼女の手の届くあと少しの所で、突如として割れた。

 

「水も滴るいい女、でしたっけ?貴女にぴったりです」

 

投擲したナイフで瓶の中身をぶちまけたアーリィは、聖水を浴びて叫ぶ朱乃にそう告げた。

 

 

「次」

 

くるりと自分らに向き直ったアーリィに、リアスたちは心臓を鷲掴みされる恐怖を感じた。

だが、自分たちは強敵を倒してきた経験がある。

リアスたちは、恐怖に支配されかけた心を叱咤し、近づいてくるアーリィを見据えた。

 

「木場やギャスパーだけじゃんなく、朱乃さんまで!

 しかも朱乃さんの色っぽい柔肌に傷を負わせやがったな!もう絶対にゆるさねぇ!」

 

「数か月程度の傷じゃないですか。全身の皮を剥がされるよりはましですよ?」

 

まだ最大倍加が終わってないが、これでもアーリィを再起不能にすることは出来るはずだ。

一誠は、怒りで殴りかかろうとするも、それを小猫が手で制する。

 

「小猫ちゃん!?」

 

「一誠先輩は、部長を守ってください」

 

驚く一誠だが、小猫は至極冷静に言う。

真剣な顔の小猫を見て、一誠は小猫の手を掴んだ。

小猫は、自身の身体に生気が、力が満ちるのを感じた。

赤龍帝の力の一つである『譲渡』だ。一誠は、今まで溜めた力を小猫に渡したのだ。

 

「一誠先輩・・・」

 

「俺は部長を守るから、小猫ちゃんは気にせずに、あいつをブチのめしてやれ!」

 

「はい」

 

一誠の言葉を、力を託された小猫は、アーリィに向かって駆け出した。

 

 

轟音と恐ろしいほどの風圧を纏った拳がアーリィを襲う。

身体を後ろにずらして回避すると、

彼女のいた場所に、地響きと土煙そして爆音が響き、大きなクレーターが生まれた。

その中心地にいるのは小猫であり、彼女の拳が地面を抉ったのだろう。

当たれば、生身の人間(アーリィ)など、一瞬で物言わぬ肉の塊に出来る程に。

 

「あらあら、小さい身体に大きな力。見た目で判断してはいけませんね」

 

だが、それを目にしてもアーリィの態度は変わらない。

まるで、幼子のせい一杯の頑張りを優しく見守るように、彼女は笑顔を向ける。

その目は無機質だが。

 

そこから先は鬼ごっこだ。

アーリィが逃げ、小猫が追いかける。ただそれだけのことだ。

ただし、(小猫)捕まれ(殴られ)たら死ぬ、それだけの単純なルール。

 

アーリィは小猫と距離を取りつつ、何度か針やナイフや瓶を小猫に向かって投げる。

大半はその拳で叩き落されるか、上体ずらしで躱されるかの二つで、

教会の床にはアーリィが投げた針やナイフが所々に散乱し、

彼女の持ってきた鞄の中身は尽きかけていた。

また、針程度が刺さったところで、小猫はそれを気にせずに突っ込んでくる。

 

単純な腕力とその耐久力。

単純ゆえに、その牙城を崩すのは並大抵のことでは埒が明かない。

デュランダルを持つゼノヴィアさんならば、それを崩すのは容易いだろう。

だが彼女とは違い、決定的な物がなく、手数しかないアーリィには最も苦手とする存在だ。

 

「良いぞ小猫ちゃん!そのままやっちまえ!」

 

「ええ、小猫なら大丈夫よ」

 

逃げ惑うアーリィとそれを追う小猫の姿を見て、一誠は小猫に激励を飛ばす。

リアスは、それを見ながら先ほどの混乱からなんとか落ち着く。

 

下手に小猫を援護しようとすれば、必ずアーリィがそれを利用してくる。

先ほどの朱乃を利用した混乱のせいで、助けようにも動けないのだ。

 

一誠とリアスの声が、小猫の背を押したのか、

彼女の速さは更に上がり、ついにアーリィを捉えた。

 

「そこ」

 

アーリィの着地地点と小猫の拳が重なり、アーリィは直撃を避けたものの、

小猫の剛腕から繰り出された風圧に飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 

一瞬、口から空気の洩れる音を聞いたが、

アーリィは顔を伏せ、壁を背にして立ったままだ。

 

パサリと、何かが床に落ちた。

それは彼女の顔を辛うじて覆っていた、焼け焦げたヴェールだ。

だが彼女は顔を伏せ、その長い灰色の髪が顔を覆っているせいか、顔全体を見ることは出来ない。

 

「本当に頑丈なのですね。

 私、これでも必死なのですが、ちょっと自信を無くしちゃいます」

 

疲れたような、半ばあきらめたような声が、小猫の口から出る。

 

「もう止めにしませんか。

 これ以上、戦う意味はないと思います。

 降参してくれたら、私は何もしません。

 先輩やギャー君等を傷つけたことは許せませんが、私はあなたが憎い訳じゃないんです」

 

小猫はアーリィにそう語る。

それは彼女の本心だ。確かに仲間を傷つけたのは許さない。

でも、憎い訳じゃない。

食べたスコーンは美味しかったし、アーシアとゼノヴィアの笑顔を見ていたら、

決して悪い人じゃないと解るから。

 

「小猫ちゃん、でしたっけ。ありがとう、そしてごめんなさい。

 私、これでもあきらめが悪いんですよ」

 

顔を伏せたアーリィは、小猫の言葉に感謝を、謝罪を、そして拒絶した。

ボロボロの姿とは裏腹に、彼女の声はまだ死んでいない。

 

「残念です」

 

小猫は拳に力を溜め、振るう。狙うのは、伏せているアーリィの顔。

いくら彼女でも、気絶させれば、もう戦うことは出来ない。

そう思い、小猫は狙う。

 

 

 

だが、彼女の拳は当たらなかった。

 

「ごめんなさい」

 

小猫は聞いた

 

「出来れば、これを使いたくはありませんでした」

 

キィン・・・と金属がこすれたような音が聞こえた

空中に一筋、朱い線が走った

 

「頑丈なあなただからこそ、その力を利用させてもらいました」

 

何かが斬れた音がした

 

「頑丈だからこそ、使わざるを得なかった」

 

何かが千切れた音がした

 

「あの時も、あなたのような子だったら良かった」

 

お腹に強い衝撃が走り、次に鋭く熱い痛みが襲う

 

「だから、寝ていてください」

 

身体から力が抜ける

 

「小猫ちゃぁぁぁぁぁぁん!!?」

 

「いやぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

小猫は、腕から、身体から、血を噴き出し、そして倒れた。

 

 

倒れる小猫を抱きかかえ、アーリィは直ぐに止血をする。

アーリィの右手からは細長い何かが伸びており、

それは光を反射して銀色に光り、その途中は朱く染まっていた。

左手の指には銀色の指輪が填められており、小猫の腹部には指輪の後が焼き付いていた。

 

そして、直ぐに残りの二人へと向き直す。

二人は、今の光景に信じられないと言ったように大きく叫んでいる。

 

「何をそんなに驚くのですか。こうならないと思っていたのですか?

 でしたら、それはあなた方の無知です。

 私(人間)が、ただ狩られるだけの存在だと思っていたのが間違いです。

 こうなったのは全て、あなた方の責任でもありますよ」

 

「てめぇ、よくも小猫ちゃんまで!

 もうてめぇを許すつもりもない!絶対にここでぶっ倒す!

 覚悟しやがれ!」

 

「行くわよイッセー!皆の仇をここで取るわ!」

 

 

アーリィは、二人の敵意を受けるも、そこに何も感慨もない。

ゆっくりと二人へと足を進めるが、ふと、自分の視界が綺麗であることに気付く。

どうやらヴェールがとれてしまったようだ。

先ほど吹っ飛ばされた際に、飛んで行ったのだろう。

それすら気づかなかったとは、自分はかなり酷いらしい。

色々と無茶をしているということは自覚をしていたのだが、

思っていたよりも酷かったようだ。

 

「みんなと一緒に帰った後、少し休んで、

 ゼノヴィアさんと一緒に訓練をしないといけませんね」

 

それでも、アーシアとゼノヴィアさんと一緒に帰ることが、今の自分にとって大切なのだ。

だから、ここで止まらない、止まれない。

 

ゆっくりと顔を上げたアーリィを見て、二人はぎょっとした。

 

「ああ、やっぱり気になります、これ?」

 

アーリィは自嘲気味に語り、その傷を撫でた。

彼女の左顔には、深い傷が刻まれていた。

決して消えることのない自分の罪にして、

忌まわしき悪夢が、忘れたい過去が、決して夢でない、現実だったことを示す証。

 

だが、今はそんなことは気にしない。

後は二人を動けなくすれば、自分の夢が叶うのだ。

あの時、奪われてしまった夢が。

 

「行きます」

 

アーリィは、一誠とリアスへと駆けだした。


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