ハイスクールD×D 和平ってなんですか?   作:SINSOU

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多分、修正を入れると思います。


綻び

アーリィの言葉にリアスは面食らった。

和平とは何か?という質問の意味が解らなかったからだ。

悪魔を殺すことをどう思うか?の質問に関係するのだろうか。

 

「ごめんなさい、少し意味が解らないのですが。和平とは何か、ですか?」

 

リアスの言葉に、アーリィは再度問いを投げかける。

 

「ええ、そうです。和平とは何か?

 これに答えていただけるならば、貴女の質問に答えられると思います。

 すみません、私が先に質問する形になってしまいまして」

 

謝罪するアーリィだが、その表情はヴェールによって遮られて読めない。

だが、彼女の口は相変わらず微笑んでいる。

 

彼女の意図が読めないリアスだったが、

正直に三大勢力の掲げる和平の概要を説明することにした。

 

「三大勢力、つまり悪魔・天使・堕天使が各々の過去を水に流し、

 互いに手を取り合って、冥界・天界・そして人間界を共に世界を守っていこうとする考え、

 これで良いでしょうか?」

 

三大勢力の掲げる定義に、一誠たちは頷く。

 

「それだけなのですか?」

「?」

 

リアスはアーリィの言葉に首を傾げた。それだけ、とはどう意味なのか。

 

「それだけ、とはどういう意味なのですか?」

「言葉通りの意味ですよ?貴女の和平の考えとは、それだけなのですか?ということですが」

 

アーリィの言葉に、リアスは少しむっとした。

彼女の意図が読めないものの、こちらの答えに何かしらの想いを感じられたのだ。

 

「そうですね、私としては、三大勢力による協力体制と世界を危機に貶める存在に対する牽制、

 そして、三大勢力による平和の実現が、和平へと繋がると思っていますが」

 

「そうですか。ごめんなさい、こちらの質問に答えていただきありがとうございます」

 

アーリィの言葉は丁寧なものの、何かしら引っかかる印象を感じ、

リアスは逆に質問をしてみることにした。

 

「ではお聞き返しますが、貴女の和平の考えとは?」

 

リアスの問いに、アーリィは自分の紅茶を一口飲み、変わらない笑顔で答えた。

 

「人間が人間らしく生きられる世界・・・ですかね。

 悪魔、天使、堕天使から管理されることのない、という意味を付け足して」

 

アーリィの言葉に、リアスたちは目を見張った。

アーリィの言葉は、ようは三大勢力による和平などいらない、という意味に取れるからだ。

 

「それはつまり、三大勢力の和平会談は無意味、という意味で良いのですか?」

「ああ、それで構いません。私は和平会談は無駄ではないですが、無意味だと思っています」

 

リアスはアーリィの言葉に、一瞬我を忘れかけた。

自分のお兄様であるサーゼクス・ルシファーの想いを、

目の前の修道女は無意味だと言ったからだ。

だが、リアスが怒る前に、その言葉に怒りの声を上げる存在がいた。

そう、自分の頼れる眷属にして当代の赤龍帝、兵藤一誠である。

 

「てめぇ、もう一回言ってみろ。

 サーゼクス様やアザゼル先生、天使の偉い人が、未来を思っての決意を無意味だって!?

 平和を願った思いを、アンタは馬鹿にしてるのか!」

 

声を荒げる一誠に対し、アーリィは別段気にも留めずに微笑んだままだ。

まるで、精一杯いきがる子供を優しく見守るシスターのように。

その振る舞いが、一誠を更に苛立たせた。

 

「なに笑っているんだよ!」

 

「あ、ごめんなさい。兵藤一誠君・・・でしたっけ?

 貴方の想いがとても熱く、素晴らしいものだと思い、感心したのです。

 まるで、物語が全てハッピーエンドで終わると信じている少女のように純粋で、

 お姉さん、少し羨ましく思ってしまいました。

 今の私にはとても眩しく見えてしまいますから」

 

「ふざけるな!」

 

一誠の怒りにさえ、アーリィは笑顔で応える姿に、ますます異質な印象を醸しだす。

だが、言葉の節々には彼女の感情が見えるのは気のせいだろうか。

 

一誠の言葉を受けたからか、アーリィは「そうですわ!」と手をうった。

 

「一誠君の声にお応えして、私が出会ったことについてお話しますね!

 貴女方が信じている和平会談によって、どんなことになっているか」

 

アーリィは笑顔で言葉を紡ぎ出した。

 

「そうですね、和平会談によって第三勢力は同盟を結びました。これは素晴らしいと思いますよ?

 互いに争っていた方々が互いに手を取り合う、こんなに素晴らしいことはありません。

 ですが、同盟を結んだのはあくまで、悪魔・天使・堕天使の三勢力。

 これがどういう意味か解りますか?」

 

アーリィの突然の質問に言葉を窮するリアスたち。アーシアとゼノヴィアを除いてだが。

 

「あくまで同盟を結んだのは三勢力であり、それ以外は同盟を結んでいない、ということです。

 ところで、種族の危機に瀕している悪魔が生存するために行っている方法とは何か?

 もちろん、こ、子を成すことに励んでいると思っています。

 ですが、長命種である悪魔が子を成すことは非常に難しい上に時間もかかります。

 では即急の方法として何が行われているか。

 他の生物を悪魔に転生させ、種族の数を増やす。これですよね?

 そして、転生される数が最も多いのは何か・・・人間です」

 

アーリィの言葉に、リアスたちは黙ったままだ。

そんなことは一誠さえも知っているからだ。だが、アーリィの言いたいことが見えてこない。

 

「ところで、和平会談による人間の扱いとは何でしたかしら。

 ごめんなさい、私、物覚えが悪くて、忘れてしまいました・・・」

 

「あら、それなら人間の扱いは、三大勢力による管理のはずよ。

 三勢力が協力して、人間たちを守ることはみんな知っているわ」

 

リアスの言葉にアーリィの笑みが深くなったのは気のせいだろうか。

 

「ありがとうございます!そうですね、三大勢力による管理でしたね。

 ところで、人間は三大勢力と同盟を結ばれず、ただ管理される立場なのでしょうか?」

 

寒気が走った。一瞬だが、アーリィの印象が変わった。

目の前には笑顔の彼女がいるというのに。

 

「三大勢力における和平会談において、人間は同盟足る存在ではなく管理されるモノ。

 悪魔にとって人間は、自分たちが生きるために管理するモノ。

 あはは!まるで家畜みたいですね!」

 

アーリィの言動が少し崩れるも、彼女の言葉に気を置き、

幾人かを除いてそれに気付くことはない。

 

「違う!サーゼクス様はそんな風に思ってなんかいない!

 悪魔と人間が共存しようと必死に考えたことだ!」

 

アーリィの言葉に反論する一誠。

一誠にとって、あの優しいサーゼクス様が、そんなことを考えているなんてありえないのだ。

 

「そうですね、私もそう思いますよ?

 ですが、管理の時点で共存ではありませんよね。

 それに、和平会談の考えを全ての悪魔が『正しく』享受したと思いますか?」

 

「「え?」」

 

「さて、ここで問題です!

 今までは下等と思っていた存在が、

 生意気にも自分たちに対抗する力をもっていたために好き勝手出来なかった。

 それが正式に管理できる立場になり、そして相手には抵抗出来る手段がなくなった。

 ではどうなると思いますか?」

 

アーリィの言葉に一誠は言葉を失った。それはリアスも同じだ。

だって魔王様(お兄様)の言葉は絶対だろ?だったら全ての悪魔は従うはずだ。

そんな顔をしているのが丸判りだったのか、アーリィは微笑みながら答えた。

 

「『私は悪魔で貴女は教会の使徒じゃない!

  ほら、同盟した者同士、仲良くしましょうよ!だから助けろって言ってんだよ!』

 

 『おいおい、俺たちは仲間だろ?仲間に剣を突き付けるのか?なぁ、ご同輩?』

 

 『私に何かしたら戦争になるわよ?同盟を破棄されたくなかったら見逃しなさい』

 

 『おや、天使に尻尾を振る狗じゃないか。ほら、俺に手を出してみろよ?』

 

 『私たちは愛する隣人じゃない!隣人同士、手を取り合っていきましょう!?』

 

 これ、いったい何の言葉だと思います?」

 

「まさか・・・!?」

 

リアスたちは、先ほどのアーリィの言葉から察した。

 

「ええ、お察しの通り、人間たちを襲っていた悪魔を折檻した時に言われた言葉です。

 まったく、教会が手出しできないからと高をくくって好き勝手していたのに、

 いざ注意されると会談の言葉を持ち出して逃げようとする。

 本当に困った子たちでしたから、念入りにお仕置きしたあげましたね」 

 

ああ、なつかしいですね・・・と語るアーリィ、その姿は昔を思い馳せていた。

彼女は、冷めきった紅茶を一口飲み、変わらぬ笑みを浮かべて言った。

 

「組織において、トップが決めた決定は絶対です。

 ですが、多少なりとそれに納得できないものもいるのは当たり前ですよ。

 私のような存在ですね。

 そして悪魔にとって、人間は自分たちよりも下等で、脆弱で、

 自分たちに奉仕するために生きていると思っているのが大半だと思いますよ?

 私の故郷を焼き払った彼女と同じような、ね」

 

「それはそうかもしれません。

 ですが!これからは三大勢力の働きによって関係は変わっていきます!

 決して貴女のような悲劇が起こることはありません!」

 

アーリィに反論するリアスに対し、アーリィの口元が歪む。

 

「そうですね。私もそれを願っています。

 ですが、私にとっては不安で仕方がないのですよ。

 なにせ、『悪魔の駒』というものがありますからね」

 

「悪魔の駒、ですか・・・?」

 

「そうです。生物を悪魔に転生させられる悪魔の駒。

 悪魔たちが眷属を、そして自分たちを生きながらえさせる為のモノ。

 ですが、それは私からしたらあまりにも悍ましいのですから」

 

「悍ましい?」

 

「だって、眷属にしたい相手を脅して契約させるのも出来ますからね、私の妹のように。

 あと、直ぐ死んだ存在でも転生させることが可能だとか。

 だったら、契約したい相手を殺した後に転生させることも出来ますよね?

 それに、転生悪魔は身も心も悪魔に染まるのですから、

 転生させてしまえば、なにをしても構わないと思いますよ、悪魔にとっては。

 そして和平による内容を踏まえれば、人間狩りが行われるのも容易だと思います」

 

リアスたちは、アーリィの考えが逆に恐ろしく思えた。

目の前の人は一体どういう思考をしているのだろうか。

なぜそこまで残酷な思考をするのだろうか。

 

「それは一部の悪魔であり、決して全体の悪魔では決してありません!

 それに、そうした問題はこれから解決に向かって行きます!

 そうならないために、三勢力は調停を結んだのですから」

 

「そう願いたいものです。私は別に全ての悪魔を殺したいわけではありませんから。

 人と悪魔が『共存』出来るのであれば、それに越したことはないのですから。

 ですから、現状におけるリアスさんの質問の返事としては、

 人を家畜としか見ずに襲ってくる相手を殺すのに、何故悩むのですか?ですね。

 黙って餌にされろと仰るのならば、私は否を突き付けます」 

 

アーリィは話し終えるとまた紅茶を飲む。

だが、リアスたちは喉が渇くも紅茶に手を伸ばせない。

アーリィの話を嘘だと斬り捨てるのは容易い。

だが、目の前の彼女は嘘を吐くことはない、というのはアーシアの言葉である。

ゆえに、彼女の話は真実なのかもしれない。

しかし、それでも、リアスたちは納得できないのだ。

サーゼクス(お兄様)たちが未来を思ってのことが、人間たちに被害をもたらしていることが。

 

「ところで」

 

そうして悩んでいるリアスたちに、紅茶を飲み終えたアーリィが声を上げた。

 

「先ほどが気になっていたのですが、貴女方の悪魔に対する擁護を強く感じるんですよね。

 まるで必死に否定しようとしているような、そんな気がするのです。

 まさか皆さん、悪魔ではありませんよね?」

 

アーリィの顔はヴェールで覆われて表情は読めないのに、

その口元は、まるで人を刺し殺せるような尖った三日月に見えた。


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