ハイスクールD×D 和平ってなんですか?   作:SINSOU

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回想2

私の目に映ったのは、燃え盛る炎に包まれた家々と、多くの屍が散乱した道だった。

道は赤い液体に満たされ、歩く度に液体が足に絡みつき不快感を感じた。

ところどころで聞こえてくる、うめき声と断末魔。

どうしてこうなったんだろう。昨日まではこんな風景じゃなかったのに。

 

怒ると怖いけど、優しくて綺麗な、私の大好きなママがいて、

少しうっかりだけど、大きな体で私を包んでくれた、私の大好きなパパがいて、

悪戯好きだけど、太陽のような笑顔が素敵な、私の大好きな妹がいた。

お隣のおじいさんは、頑固で意地っ張りだけど、私の話をよく聴いてくれた。

おじいさんの奥さんは、家に行くとお手製のスコーンを焼いてくれた。

女友達のミーシャは、生まれた時から幼馴染で、花畑でかんむりをつくった。

男友達のクランは、学校帰りに、家までかけっこをした。

みんな、昨日まで一緒にいた。みんな、昨日まで笑っていた。

 

どうしてこうなっちゃったのかな

 

呆然と歩いていると、私の前に何かが降りてきた。

それは人の形をしているけれど、人ではなかった。

真っ黒な服を着て、真っ黒な髪をして、真っ黒なコウモリの翼をしていた。

 

「おや、こんなところに美味しそうな子供ですね。

 まったく、太陽のように輝かしい人間を攫うためとはいえ、

 主様から『村の人間どもを殺せ』との退屈な命令でしたが・・・これはいい。

 私にも役得というものです。では死んでください、お嬢さん」

 

真っ黒な存在が大きくなり、私を食べようとその口を大きく開いた。

ああ、私はここで死ぬんだ。訳の解らない状況で、訳の解らない存在に食われて死ぬんだ。

そう思って、私は目を閉じた。

 

「悪魔め!俺の娘に何してやがる!」

 

パパの声が聞こえた気がした。

目を開けると、農具を両手に持ち、黒い存在に立ち向かっているパパがいた。

 

「アーリィ、大丈夫!?怪我をしてない!?」

 

ママが私にかけより、怪我がないか確認する。

 

「パパ、ママ、いったい何が起きてるの!?リーシャはどこ!?」

「リーシャはクリスと一緒にいるから大丈夫よ。さ、ママと一緒に逃げましょう」

「でもパパが!」

 

黒い存在に向かって農具を振り回すパパを見る。

必死に抵抗するパパと、ウザったそうな顔をしている黒い存在。

どう見てもパパが危険だ。

パパは、必死に農具を振り回しつつ、私の方を見て笑った。

 

「パパのことは気にせずに行きなさい!早く!」

「でも!」

 

パパを見捨てていけない私に、ママが手を引く。

 

「愛しているわ、パパ」

「俺もだよ、ママ」

 

そうしてママは私を連れて走り出した。パパを置いて。

 

 

「はぁ、つまらない茶番劇はお終いですか?

 まったく、あなたのせいで娘さんを食べられなかったじゃないですか。

 まぁ、あなたをサクッと殺した後、追いかけるとしますか」

「させると思うか、悪魔め」

 

農具を携えた男に、オルスクートは辟易した。

自分のような素晴らしい存在に、下等な人間が勝てると思っているのが、

あまりにもくだらなすぎるからだ。

目の前の男を殺した後、娘と女を食べるとしよう。

オルスクートは手から魔力弾を放ち、男を消滅させた。

いらない時間を取らせてくれた、オルスクートにとって、ただそれだけのことだった。

 

 

ママに手を引かれて私は走る。

目に飛び込む光景は、未だ変わらず、耳に入る声に耳を塞ぎたくなるも、

片手では両耳を塞ぐことは出来ない。

そうして走っていると、大きな広場に出た。

周りの家々は破壊され、広場の噴水は瓦礫と化し、噴水に置かれた石像は、

上半身が砕け、剣を持った手だけが落ちていた。

 

ママは、広場で立ち止まり、

首にかけていたお守りの銀十字のネックレスを私にかけた。

 

「主よ、どうかこの子を守ってください」

「ママ?」

 

ママは私に微笑んだ。

 

「追いかけっこは終わりですか?お二方」

 

悪魔が私とママの前に現れた。パパはどうしたんだろうか。

 

「あの人はどうしたの」

「消しましたが、何か?」

 

ママに言葉に悪魔が言う。それはどういうことなのかな。

 

「さて、では諦めて食べられてください。まずはそちらの娘さんから」

 

悪魔が私の方を見てニンマリと顔を歪めた。気持ち悪い。

 

「させないわ!」

 

ママが、悪魔に向かって走って行った。どう見ても無謀でしかない。

 

「ママ!」

「早く逃げなさい!いいから!」

 

ママは悪魔に抱きつき、必死に抑え込もうとするも、悪魔は小ばかにした顔でママを見た。

 

「いやいや、美しい親子愛ですね。母娘を助けに父親が犠牲になり、

 娘を助けに母が犠牲になる。感動ですね。

 ですが、結局は無駄ですよ?あなたの娘は私に食べられる」

「それはどうかしらね」

 

嘲笑の悪魔に、ママはしたり顔で笑った。

ふと後ろを見ると、剣を持った石像の手があった。

剣は、天を目指すように伸びている。まさか・・・!?

 

「いや!嫌よママ!私を一人にしないで!お願い、言うこと聞くから!止めてよ!」

 

何をやるのか私は気が付いた。だから必死に叫んだ。でもママは笑うだけだ。

 

「アーリィなら大丈夫よ。だってお姉ちゃんだもの。リーシャのこと頼むわよ」

 

ママが悪魔を抑えながら倒れ込む。

 

「止めて、マ」

「愛しているわ、アーリィ」

 

そして私の目の前で、ママと悪魔は死んだ。

 

 


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