リアスとの話し合いを終えたアーリィは、そのままホテルへと足を運び、部屋に入った。
手荷物を床に下し、一息つくと頭を抱えた。
「どうしましょう!どうしましょう!どうしてこうなったのでしょうか!?」
アーリィは「どうしましょう」と言いながら部屋をぐるぐると歩き回る。
はっきり言って不審者である。
売り言葉に買い言葉というべきか、
リアスさん?からの提案に、自分はまんまと乗せられてしまったのだ。
いかんせん、アーシアに決めさせるという、自分が断れない手段を用い、
そして逃げられないという状況に陥れた上で。
私としては、アーシアを思う気持ちは誰にも負けるつもりはない。
だが、結局は決めるのはアーシアであるので、絶対はないのだ。
だが、先ほどの話し合いで自分は気付いてしまった。
私に対して怒った一誠?という少年に向ける、アーシアの熱い視線を。
あれは完全に一目ぼれをしている。
おそらく彼は、私と別れた後のアーシアを助けてくれたのでしょう。
確か、家族と言ってましたし、一緒に暮らしているかもしれません。
その間に、純粋なアーシアは彼に惚れてしまったのでしょうね。
お、お姉ちゃんは許さない・・・こともないんですよね、正直。
妹の恋を応援するのもお姉ちゃんの仕事ですから。
それに、リアス?さんの物言いからして、
他の人たちもアーシアを可愛がってくれているのでしょう。
堅物のように見えて、ゼノヴィアさんは面倒見がいいですし。
アーシアにとっては、彼女たちと一緒にいる方が幸せに見えてしまう。
それ故にアーシアはあちら選ぶ可能性が大きいでしょうね。
まぁ、こちらを選んでくれる可能性はゼロではないのですから!
そう気持ちを前向きに切り替えたアーリィだが、
妹的存在が、自分の手を離れていくことにショックを受けてはいるようで、
しばらくは床に手をついて蹲っていた。
「さて、今日は色々ありましたし、アーシアやゼノヴィアさんに会うことが出来ました。
今日はゆっくりと寝ることが出来ますね」
そういうとアーリィは疲れを癒すため、ホテルのシャワーを浴びようとする。
シャワー室で服を脱ぎ、顔を覆っていたヴェールも取る。
鏡には、首からぶら下がる十字架と自分の姿が映し出される。
アーリィは、銀十字架のネックレスを握りしめ、顔や体に走る傷痕を撫でた。
まだ傷痕が癒えることはない。
シャワーを浴びてスッキリしたアーリィは、鞄に収まっている寝間着に着替え、
ホテルのふかふかのベッドに飛び込んだ。
疲れが一気に襲ったのか、アーリィはそのまま深い眠りに落ちていった・・・。
カタカタとなる音を聞き、アーリィは「またか」という表情で目を開けた。
目を開ければ、そこは古びた映画館の一室であり、
彼女はいつもの修道服を纏い、椅子に腰かけている。
隣には映写機が動いており、眼前にはスクリーンがかけられてる。
周りは誰もおらず、彼女しかいない上映会。いつもの光景だった。
これは夢である。それも、必ず終わりが決まっている夢だ。
アーリィは気にすることもなく、スクリーンに映った光景を眺めていた。
「ママ!パパ!ただいま!」
「ただいま」
肩まで長い茶色の髪をした女の子が、母親であろう女性と、父親であろう男性に飛びついた。
もう一人の女の子は、それを羨ましそうに見ていた。
彼女の髪も、同じように肩までかかる茶色だった。
男女は、飛びついた女の子を受け止め、その頭を撫でた。
「おかえり、リーシャ。学校はどうだったかい?
アーリィもそんなところにいないで、こっちに来なさい」
「今日も楽しかったよ!」
「別に何ともなかったよ」
リーシャと呼ばれた少女は、輝かんばかりの笑顔で答え、
アーリィと呼ばれた少女は、つっけんどんに答えた。
「アーリィ、そんな顔をしないの。可愛い笑顔が台無しよ?」
「別に私は可愛くないよ。可愛いいのはリーシャだし」
「おねえちゃん、拗ねない拗ねない」
「拗ねてません!」
帰ってきては毎回起こるいつもの会話、家族団欒の風景。
私が拗ね、リーシャがからかい、パパとママを含めてみんなで笑う、そんな風景だった。
すると、また画面が変わる。
今度は食卓であり、女の子達と両親が一緒にご飯を食べている。
料理は焼きたてのパンに、サラダ、牛乳にベーコンエッグなど、いつもの朝食。
いつも通りに、家族で笑って朝食を食べ、私とリーシャが学校へ行く。
だが、この時は違っていた。リーシャに恋人が出来たのだ。
それを知った時、ママは笑顔になり、パパは牛乳を吹いたっけか。
恋人の名は確か、クリスだった気がする。
リーシャは私に、恋人を作らないの?とニタニタ顔で聞いてきから、私は怒ったかな。
ああ、楽しかった思い出。
そして、燃え散った過去の話。
そして映し出された光景は、
火に包まれた家、半壊した家屋、逃げ惑う人々と、それを追いかけるを黒い翼を生やした人たち。
赤い色に染まった道で、一人佇む私だった。