救える者になるために(仮題)   作:オールライト

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誰か、誰か私にネーミングセンスをください…
ってなわけで7話です、どーぞ


第七話 火災ゾーン改め血の池ゾーン(なんちゃって)

「衝也…なのか?」

「ん?」

 

血だらけのヴィランの胸倉をつかみ、光を感じさせない瞳でそのヴィランを見下ろしていた衝也に、尾白は恐る恐る目の前の衝也に問いかけた。

今自分の目の前にいるのは本当に自分の知る衝也なのか、確かめたかったのだ。

尾白が、1-Aのクラスメートが知る衝也とは、バカな行動でクラスを笑わせるムードーメーカのような存在で、いざというときは意外と頼りになる、頭の良いバカが愛称の男だった。

だが、今目の前にいる男は、彼らの知る衝也とは明らかに違っていた。

ヴィランに向けている眼は敵意と狂気に満ち溢れており、いつものような無邪気で優し気な眼をしてはいなかった。

尾白の恐々とした声が耳に入ったのか、ヴィランに視線を向けていた衝也の眼が尾白へと向けられる。

その瞬間、衝也の表情がパッと明るくなった。

 

「おお、もう一人くらい誰か飛ばされるんじゃねぇかと思ってたけど…尾白が来たかー。」

「……」

「?どした?ハトが豆電球食ったような顔して?」

「……」

「ツッコミも入ってこないとは…」

 

いつもと全く変わらない陽気っぷりを見せる衝也を目にして尾白は茫然と目の前の少年を見つめていた。

血だらけのヴィランの胸倉をつかみながら笑顔で、普段と変わらずにしゃべりかけてくる彼の姿が異質な物に思えたからである。

衝也は自分を見つめたまま微動だにしない尾白を見て、不思議そうに首を傾げた後、軽く肩をすくめ掴んでいたヴィランを手放した。

ヴィランはすでに意識を失っているのか、特に抵抗することなく、どさりと音を立てて地面に倒れこんだ。

地面に倒れこんだヴィランをチラリと一瞥した衝也は手に着いた血をぬぐいながら尾白の元へと歩いて行った。

 

「ま、とりあえずお互いの状況確認を」

「お前が…」

「んお?」

「お前が、これをやったのか?」

 

そう言って尾白はあちらこちらに倒れこんでいるヴィランを指さした。

それを見た衝也は「んー?まあそうだけど?」とさも当たり前かのように呟きながら頭を数回ほど搔いた後、自分の手の平を指さした。

 

「俺の個性は掌から衝撃を放出するんだけどさ、ちょっと応用すれば衝撃波も飛ばせるんだよ。だから、あの黒霧のヴィランにここに飛ばされた時に、俺が動けなくならない範囲での最大出力で衝撃波をぶっぱなしてヴィランと炎を吹っ飛ばしたんだ。んで、動けなくなっている奴ら一人一人に衝撃ぶち込んで行動不能にしていったって訳。あ、ちなみにさっきのヴィランは情報収集のために残しておいた奴な。ちーっと痛めつけちまったけど、おかげで奴らの目的とかもいろいろわかったぜ。」

「行動不能って…」

 

衝也の言葉を聞いた尾白は再度辺りを見回した。

黒ずんだ地面に倒れこんでいるヴィラン達の中に五体満足でいるような者はほとんどおらず、どう見ても行動不能の域を超えていた。

 

「どう見てもそんなレベルの傷じゃないだろ…。これ、放っておいても大丈夫なのか?その…下手したら死んじまうんじゃ。」

「おいおい、仮にも俺はヒーロー志望だぜ?ヒーローってのは命を奪うんじゃなくて命を救うのが仕事の職業だ。いくらヴィランが相手でも命を奪うようなことはしねぇって!」

「そ、そうだよな!よかった…じゃあ、少なくとも命に別状はないんだな?」

「もちのろんですがな。」

 

衝也の言葉にホッと胸をなでおろす尾白。

それを見た衝也は「心配性だなー、尾白はー。」と言いバシバシと尾白の背中を叩いた後、地面に倒れているヴィランに視線を向けた。

 

「せいぜい一生歩けなくなるとか、それくらいの後遺症が残るくらいでしょ。」

「……は?」

 

衝也の口から出た言葉を聞いた尾白は、一瞬目を見開き、彼の言っている意味を理解できなくなってしまった。

一生歩けなくなる

聞く人が聞けば絶望で目の前が真っ暗になってしまうような言葉を、衝也はまるで『かすり傷ができただけ』かのような軽い口調で口にしたのだ。

 

「さ、心配性の尾白もこれで安心しただろ?今は『そんなこと』ほっといて、お互いの状況の確認と情報の交換を…」

「何を…何を言ってるんだよ五十嵐!?」

「うおっ!?」

 

気を取り直すように手を叩いた後情報の交換をしようとする衝也を見て尾白は拳を握りしめながら声を荒げた。

尾白の剣幕に思わず衝也も肩をビクリと上げて驚いてしまう。

 

「お前自分が何言ってるのか本当にわかってるのか!?一生歩けないんだぞ!?後遺症が残るんだぞ!?その人の人生を!丸ごと変えちまうようなことしちまってんだぞ!?それを…それを『そんなこと』の一言で片づけちまってるんだぞ!?」

「その人の人生って言ったてなぁ…。どうせこの先刑務所暮らしなんだろーし、この先の人生も何もないだろ。つーか戦う相手の今後の人生まで頭の中に入れてないし。」

「なっ…!?」

 

耳の穴に小指を突っ込んでけだるそうにそう返事をした衝也の言葉を聞いて、尾白は目を見開いて絶句していた。

衝也は何ともけだるそうな表情で耳から小指を出すと、指についていた耳垢を息で吹き飛ばした。

そして、けだるそうな表情のままの地面に倒れてるヴィランに視線を向けた。

 

「こいつらは少なくとも俺やほかの奴らの命を奪うつもりでここに立ってるんだ。だったらこっちだって相手の命を奪うつもりで戦わないと対等とは言えないだろ?自分が相手の命を奪うつもりなら、自分も相手に命を奪われる覚悟を持つべきだからな。むしろ後遺症が残るくらいですむのはラッキーな方だろ?」

 

そう言いながら衝也はヴィランへと向けている眼からだんだんと光を失わせていった。

その眼はまるで道路に吐きかけられた唾を見ているかのような眼をしていた。

まるで一切の感情を排除しているかのようなその眼は、見る人が見たら背筋を凍らせてしまうような眼だった。

だが、その眼に再び光がともり始めた。

それは尾白が再び声を荒げた直後だった。

 

「それは違うだろ!!」

「?」

「確かに、相手が殺すつもりでいるのだったら、こっちもそれ相応の覚悟を持たなければならないのは理解できる!だけど!だけど俺たちはヒーローだぞ!?俺たちが持つべき覚悟は命を奪う覚悟じゃない!命を救う覚悟だろ!?その覚悟があるからこそ俺たちは敵と戦うことができるんだ!殺す覚悟を持つヴィランに!救う覚悟を持って戦うのがヒーローだろ!!」

「……」

「お前のその思考は、ヴィランのそれと全く同じ思考じゃないか!お前が目指してるのはヴィランじゃないだろ!?お前が目指してるのは!俺たちが目指してるのは!命を救うヒーローだろ!?だとしたら!今のお前のその思考も!今のお前の行動も!間違ってるものなんだよ!!」

「……」

 

息を切らし、拳を固く握りしめながらあらん限りの音量で衝也に向かって叫び声をぶつけてきた尾白。

尾白の渾身の叫びを聞いた衝也はしばらくの間光を戻したその瞳で彼の事を見つめていたが、不意に顔をうつむかせてガシガシと後頭部のあたりを搔き始めた。

 

「確かにお前の言うことは正論だよ、これ以上ないほどにな。お前の目指すヒーローってのがどんなものか、お前がどんな気持ちでヒーローを目指してるのかがよくわかる。」

「五十嵐…!なら」

「けどな」

「?」

「お前が俺の何を知っている?」

「!?」

 

ゆっくりと顔を上げながら、いつもと変わらない声色でそうつぶやく衝也。

その彼の眼を見て尾白は思わず後ろへと後ずさりしてしまう。

憤怒、憎悪、拒絶、

暗く、深く、どこまでも続いている底の見えない闇を視認させてしまうような今の衝也の眼に、いつもの彼の眼にはない強烈な『負』の光を感じてしまったからである。

尾白はその眼を見続けることに耐えられず、視線を下に向けてしまう。

しかし、衝也はそんな彼を見ても言葉を止める気配はなかった。

 

「俺がどうしてヒーローを目指しているのか、どんな気持ちでヒーローを目指しているのか、俺が…一体どんな人生を送って来たのか、お前は知らないだろ?お前のその正義感あふれる価値観はお前が送って来た人生が、俺の価値観は俺の送って来た人生が形成してきたものだ。その価値観に正しいか正しくないか、好きか嫌いかの区別をつけることはできるだろうが、その価値観を変えることは誰にもできやしねぇよ。どんなに相手に感化されようとも、言葉を投げかけられようとも、最後に価値観を変えるのはほかならねぇ自分自身だ。お前の言葉も価値観も確かに正論だとは思うが、だからって俺は俺の価値観を変えようとは思わねぇし、その行動を変えようとも思わねぇよ。」

「……」

 

身動き一つせずに尾白の事を見ながら淡々と言い放った衝也はしばらくの間尾白の事を見続けていたが、不意に顔を覆い隠すように手を置いた。

そのまま顔を手で覆い隠していた衝也だったが、数秒後にはもう手を顔から離していた。

 

「よっし!もうこんな辛気臭い話はやめにしようぜ!なんかシリアスな空気になりすぎて腹が痛くなってきちまった!今までのことはきれいさっぱり水に流して、とりあえずこれから目の前の事に集中しよう!!」

「!?あ、ああ…。そうだな、今は目の前の問題に集中しよう。」

 

顔から手を離した衝也は明るい笑顔でそう言うと、軽く腹のあたりを右手で「の」のじマッサージし始めた。

その雰囲気はいつもの陽気な頭の良いバカそのもので先ほどのような負の光はもうどこにも見られなかった。

表情もさきほどの険しい表情とは打って変わって、元気そうであっけらかんとしている表情を浮かべている。

それを見た尾白も、先ほどの息もできないような緊張感から解放されたかのように体が軽くなった。

 

「さってと、まずは軽く情報収集といこうか。尾白、お前がここに飛ばされた経緯等を詳しく教えてくれ。」

「わ、わかった。」

 

今までの事を本当になかったかのようにしゃべりだす衝也を見て、軽く戸惑いや違和感、気持ち悪さなどを感じてしまい軽く言葉を詰まらせてしまう尾白だったが、何度か深呼吸をして心を落ち着かせた後、自分がここまで来た経緯を説明した。

 

「なるほど…。尾白やほかの皆もあの黒霧野郎に飛ばされちまったのか。」

「ああ、さすがに誰がどこに飛ばされたかはわからないけど…俺が見る限りでは飯田とか13号先生とか、何人かは広がった黒いモヤからぎりぎり避けてたから、さすがに全員は飛ばされていないと思う。」

「そうか、やっぱ散り散りされちまったか…。くっそ、あの時俺があの黒霧野郎をぶっ倒せてれば敵の出入り口もふさげるし、皆も散り散りにならなくて済んで、まさに一石二鳥だったのに。」

 

尾白の話を聞いて悔しそうに指を鳴らす衝也。

しかし尾白は悔しそうにしている衝也に向かって励ますように声をかけた。

 

「そんなことはないさ。実際、あの場で誰よりも冷静かつ迅速に行動できたのは五十嵐だけだ。俺はもちろんほかの皆も突然の出来事で動くこともできなかったんだしさ…やっぱお前はすごいよ。いつもの言動からは想像もできないけど。」

 

感心したように衝也をほめる尾白だったが、褒められているはずの衝也は相変わらず苦い表情のまま小さく首を横に振った。

 

「いや、あの行動は褒められたようなもんじゃない。今回は運が良かっただけで、もしかしたらとんでもないことになってたかもしんねぇからな。」

「?どこに問題があるんだ?」

 

衝也の言葉に不思議そうに首を傾げる尾白。

それを見た衝也は自分自身に呆れているかのように深いため息を吐いた。

 

「問題だらけだよ。、もし、あいつの個性が『空間と空間をつなぐ』個性に近い個性じゃなく『空間と空間の出入口』を作る個性だとしたら?俺があの穴に入り込んだ瞬間に出入り口を閉じちまえば俺はもうそこでどこともわからねぇ空間と空間のはざまっつう中二病くせぇ所に閉じ込められて終いだぜ?」

「な、なるほど…。」

「それに、あいつの個性の限界や効果範囲等も調べずに突っ込んだのもまずかった。おかげで敵の中で一番重要そうな奴の情報を集め損ねることになっちまった。」

 

そう言うと衝也は乱暴に頭を搔きむしった後、悔しそうに唇をかみしめた。

 

「くっそー、このままじゃ本当にまずいことになる。飯田の野郎が飛ばされていなかったのが唯一の救いか…。あの黒霧野郎に飯田が飛ばされたら絶望的だぜおい。」

「飯田が…?どうして飯田が飛ばされるとまずいんだ?」

「今回の奴らの目的はオールマイトを殺すことなんだろ?だからこそ、人も教師も少なく、かつほかの場所から隔離されるこの授業を狙って乗り込んできたわけだ。つまり、奴らとしても大勢のプロヒーローを相手にしながらオールマイトを殺すのは避けたいってことだ。そのためにすることは何だと思う?」

「え、そりゃあまあ、せっかくほかのヒーローたちの目の届かない場所にいるんだから、ほかのヒーローたちにばれないように通信手段を奪う…とかかな?」

 

いきなりの衝也の問に驚きつつも、自分の見解を途切れ途切れにこたえていく尾白。

彼の答えを聞いた衝也はゆっくりと頷きながら尾白の答えに同調した。

 

「そのとおり。だから相手はジャミングで通信機器を使えなくして、センサーの反応しないワープゲートを使ってきたんだ。さらには生徒をUSJ内に散らして外への脱出と連絡をすることもできなくしたんだ。まぁ、散らしたのは戦力分散のためかもしんねぇけど、結果的にはそうなっちまってるから変わんねぇか。んで、ここでキーマンになってくるのが我らが眼鏡委員長こと飯田君よ。俺らの中で一番機動力があるのは飯田だ。その飯田が出入り口のすぐ近くにいるんだ。下手に電波をジャミングしてるやつ探すより、そのまま飯田が走ってヒーローたちに連絡した方が断然速いだろ。つまり、今現在俺たちに残されている通信手段は飯田一人なわけよ。その飯田がどっかに飛ばされたとしたらヒーローたちがここに来る時間はかなり遅くなる。そうなっちまったら、正直プロヒーロー2人と生徒だけでこの数の敵を退けるのは限りなく難しい。下手したら…GAMEOVERかもな」

「な、なるほど…。でもさすがに飯田まで飛ばされることなんてないんじゃないか?さっきも言ったように飛ばされなかった人たちの中には13号先生もいる。あの人の個性ならさすがの黒霧野郎も倒せるんじゃないか?」

 

希望が出てきた!という表情を浮かべて、笑顔でそういう尾白。

人命救助のスペシャリストにして個性の『ブラックホール』で吸い込んだものすべてを塵にするプロヒーロー、13号。

それはたとえ黒霧野郎であっても例外ではなく、現に彼は広がったモヤを吸い込むことで飛ばされることを免れている。

そんな彼の個性ならあの黒霧野郎も退けられるさ!と自信満々に言い放つ尾白だったが、対する衝也は浮かない顔をしながら顎に手をやった。

 

「本当にそうか?」

「え」

「確かに13号先生の個性ならあの黒霧野郎にも対抗できるかもしれない。だけどさ。13号先生の個性はあの黒霧野郎を『倒せる』んじゃない。あの黒霧野郎を『殺せる』個性なんだぜ?先生の能力は究極的に言っちまえば、吸い込まない(生かす)吸い込む(殺す)かの二択。そんな個性を、あそこまで命を救うために動いているヒーローが、たとえヴィランだとはいえ一人の人間に向けるか?」

「それは…」

「ありえない。絶対に迷いが生じるはずだ。絶対にどこかしらで加減してしまうはずだ。迷いが生じればそこに一瞬の判断の遅れができる。そして、それはそのまま隙となる。なまじ戦闘に慣れているヒーローじゃないだろーから余計にその隙は大きなものになるはずだ。そこをあの黒霧野郎が突いてこないとはどーにも考えにくい。」

「……」

 

衝也の考えを聞いているうちにだんだんと尾白の顔が険しくなっていく。

尾白も衝也と同じように考え込むように顎に手を当てて苦虫を噛み潰して出てきた液体を下の上で念入りに味わっているかのような表情を浮かべた。

そんな彼に畳みかけるように衝也が自分の見解を述べていく。

 

「加えてあの黒霧野郎には物理攻撃が効かない可能性がある。そうなるともう対処できるのは13号先生を除けば、個性を消せる寝袋先…じゃなかった。イレイザーヘッドしか対処できなくなっちまう。」

「!?ちょ、ちょっと待ってくれよ!物理攻撃が効かないってどういうことだよ!?お前、さっきあいつに二回も攻撃しかけてただろ!?」

 

衝也の述べた見解を聞いた尾白は目を見開いて、慌てたように衝也に詰め寄った。

尾白の慌てぶりも無理はない。

13号先生が負けるかもしれないという見解を聞いた後に、さらに物理攻撃まで効かないということまで聞いてしまったら、もうあのモヤは不死身の個性かなにかに思えてしまう。

そんな尾白に落ち着くよう諭した衝也は、軽く深呼吸をした後話を続けていく。

 

「確かに、俺はあいつに二度攻撃を仕掛けた。理由は簡単に言えば一回目の攻撃に違和感を感じたからだ。」

「違和感?」

「そ、簡単に言えばまるで当たってる感触がしなかった。確かにモヤには当たってるんだが、こう、なんていえばいいのかな。すり抜けちまったような感じがしたっていうか…とにかく攻撃が成功したような感触じゃなかったんだ。んで、今度は真正面からじゃ効かなかったから今度は背後から攻撃してみたんだ。そして、攻撃はまたもや失敗。俺はここに飛ばされちまったって訳。」

「じゃ、じゃあ本当に奴には物理攻撃が、効かない!?」

「まだあくまで可能性だ。俺自身のいくつかの予測の中でどれかあってるものがあるとするんなら、まだ攻撃が効く可能性もある。」

「いくつかの予測?」

「そ。まず一つ目の予測は、全身黒い霧の物理無効個性。全身が空間をつなげる黒い霧で物理攻撃をしたとしてもほかの空間にその攻撃を移すことができちまう。続いて二つ目は実体はあるがその実態を黒い霧に変化させることができるこれまた物理無効個性。こっちは実体はあるが一つ目と同じように全身を黒い霧にすることができちまうから物理攻撃なんて通らねぇわな。三つめは、これだと一番助かるんだが…実体を黒い霧に変化させていて、変化できる部分が限られている。これならその限られてる部分に攻撃が当てられるから、まだ勝機がある。」

 

三本指を立てながら自分の予測を述べていく衝也。

それをじっと聞いていた尾白は「なるほど…」と呟いた後、顎から手を離し、しばらく目をつむった。

そして、ゆっくりと目を開けて衝也の方を指さした。

 

「五十嵐自身はどれだと思ってるんだ。」

「…。個人的には三番目かと思ってる。」

「理由は?」

「いや、正直情報が足りなさすぎるからめっちゃ単純な理由だぜ?まぁ、それは自業自得だからいいんだけど…」

「大丈夫だよ。俺は五十嵐自身の予想が知りたい。」

「…服だよ」

「服?」

「そ、あの黒霧野郎さ、めちゃくちゃ不格好な感じだったけど、ちゃんと服も来てたし、ネクタイもしてた。胴体とか、首みたいな部分もいくつか見えたし、ひょっとしたら実体はあるんだと思う。」

「なら、攻撃だって効くんじゃ」

「それはまだ早いって。言ったろ?俺はあいつの個性を『空間と空間をつなげる』個性だと仮定してる。とするとだ、相手が攻撃を仕掛けてきた空間と相手の背後の空間をつなげればどうなると思う?」

「!自分の攻撃がそのまま自分の背中に返ってくるって訳か!?」

「正解。いわゆるカウンター技ってやつだよ。実際、ワープゲートの個性持ちの攻撃手段なんてそれくらいしか思いつかねぇだろ。んで、カウンターを決めるためにはまず相手に攻撃をさせることが必要だ。それなのに全身黒い霧のまんまじゃ攻撃が効かないのがわかるんだから攻撃しようとは思わないだろ?ところがそこに来ている服が見えていたとしたら?そこに攻撃が当たるかもしれないと思って攻撃してみようって思うだろ?そして攻撃をしたけど、実は全身を黒い霧にできて、カウンターが決まっちまう…何てことだって考えられるわけだ。」

「なるほどな…。わかってはいたけど、こういう個性の分からない戦いではいくつもの予測パターンが出てくるんだな。その中から正解を導き出すなんて、それこそ何万人の人ごみの中から探し人を見つけるような物じゃないか…」

「正解があるんならまだいいんだけどな…。」

「げっ…。そっか、あくまで予測だから、全部が間違ってるって可能性も」

「もちろんある。」

「…キッツいなぁ~」

 

がっくりとうなだれる尾白とコリをほぐすかのように肩を回す衝也。

衝也は一通り体のコリをほぐした後、実戦の厳しさを目の当たりにしてうなだれている尾白の肩に励ますように手を置いた。

 

「ま、今俺らがやれることは一つだ。幸い、俺たちに当てられてるやつらはくそ雑魚いチンピラどもだ。恐ろしいほど実力差のある敵ってのは恐らくそうはいないだろ。クラス連中もたぶん何人か戦闘してるだろうが、正直このレベルなら心配ねぇ。今、一番心配なのは物理攻撃が効かない可能性のあるあの黒霧野郎と対峙してるやつらと、ヴィランが集中して集まってるであろうイレイザーヘッドの所だ。とりあえずは、その二つに加勢に行くためにもセントラル広場に向かおう。セントラル広場に行けばさっきいた出入り口の前の状況も確認できるだろーしな。」

「ふぅ~…。よっし!正直まだちょっと動揺してる部分もあるけど、こうなったら腹くくるしかないか!今俺にできることは、自分がやれることを全力でやり遂げることだけだ!」

 

各々拳を掌に打ち付けたり、頬を叩いたりして気合いを入れなおす二人。

情報も少なく、手探り状態のままで戦闘をしなければならないかもしれないが、プロのヒーローからしてみればそんなことは当たり前。

敵との戦闘の際に個性がわからないなんてことはよくあることなのである。

だからこそ、ここが正念場。

何もわからないとことから情報を集めていき、その情報を冷静に組み立てて、常に迅速な判断と行動ができるか否か。

それがヴィランとの戦闘に置いて重要になってくることなのである。

 

「良し…行くぞ尾白!目指すはセントラル広場だ!敵さんの群れに突っ込んでひっちゃかめっちゃかに暴れてやろうぜぇ!汚物は消毒だぁ!!」

「お前それ冗談だよな!?お前それ冗談で言ってるんだよな五十嵐!?さっきまでのお前どこ行っちゃったんだよ!」

「消しゴム頭もろとも殺菌消毒してやるぜぇ、汚物どもがぁぁ!」

「相澤先生まで巻き込むなよ!?つーかそんな敵陣に突っ込むような真似したくないからな!?」

 

鬼の形相で叫ぶ衝也を見て、思わずビシバシとツッコミを入れてしまう尾白。

そんな低レベルな漫才じみたことをやっている彼らの背後から、今一番聞きたくない人物の声が聞こえてきた。

 

「む、そこにいるのは五十嵐君と尾白君か!?」

「「こ、この声は…」」

 

ゆっくり、恐る恐るといったようすで背後の方に顔を向けていく二人。

できれば見たくない。どうか聞き間違いであってくれ。いま聞こえてきた声はすべて幻聴だ。だから、振り向いた先に眼鏡をかけた青髪の少年など居るはずがない!

そう心で叫びながらロボットのようにカクカクとした動きで後ろを振り返っていく衝也と尾白。

そして彼らが振り返った視線の先に

 

「やはり、五十嵐君に尾白君か!よかった、俺一人だけかと思って少々心細かったんだ!」

 

ワレラが1-Aの委員長にして、今現在一番のキーマン(だった男)飯田天哉が息を切らしながら走ってくる姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 




攻略難易度がNORMALからHARDに変わりました。
てか、尾白君後半なるほどしか言ってませんね。
なるほど…

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