救える者になるために(仮題)   作:オールライト

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自分のネーミングセンスにそろそろ目を向けなければならないと感じる今日この頃。
せめてタイトルだけでも変えた方が良いでしょうかね…
てなわけで後編です、どうぞ













遊べ騒げぶち壊せ!?開催、1-A親睦会!後編

 クラスメート同士の絆を深めようと提案された1-A親睦会。

 その内容は、4人1組のチームに分かれてゲームセンターで遊びまくるというシンプルなものだった。

 そして、上鳴の掛け声と店員の注意により親睦会が開催された。

 各々が上鳴の用意したくじ引きを引いていく。

 衝也も、クラスメートたちと同じようにくじを引く。

 数分でくじを引き終えた1-Aの生徒たちは各自チームに集まっていく。

 

「よーし!チームは決まったな!それじゃあ各自ゲーセンに突撃だー!!また1時間後に会おうぜー!!」

「さっき静かにしろって言われたばっかだろ。あんまはしゃぐな。」

 

 テンションアゲアゲで大声を出す上鳴を軽く小突いて注意する同チームの轟。

 それを見てクラスメートたちは苦笑いをしつつゲームセンターの中へと入っていく。

 そして、衝也も自分のチームの者たちと一緒にゲームセンターの中へと歩いていく。

 そのチームメイトとは

 

「うわー、何かみんなでゲームセンターってテンション上がってくるねー!!」

「俺は、あまりこういった所には来たことがない。遊ぶものはお前たちが決めてくれ。」

「俺も障子と同様に、こういった娯楽施設には訪れたこともない。案内は葉隠と衝也の二人に任せるぞ。」

「んじゃ、とりあえずぐるっと何あんのか見て回ってみるか。気になったものとか、面白そうな物とか見つけたらどんどんやってこうぜ。そんで葉隠、はしゃぐのはいいけどあんまり離れすぎたりすんなよ。お前探すのマジで大変なんだから。」

「オッケー!!」

「了解。」

「御意。」

 

 葉隠・障子・常闇の三人である。

 常闇や障子はあまりこういった所には来たことがないらしく、落ち着かないように時折視線をあちらこちらに動かしていた。

 対する葉隠はしきりに服の裾が上下に動いていることから、腕を振り回してはしゃいでいるであろうことが想像できた。

 衝也もはしゃぐ彼女をなだめつつチームの指揮をとっていた。

 

(葉隠は姿は見えないけど明るくて元気ないい奴だし、常闇や障子もそんなに絡みにくい奴らってわけでもないし、最初のチームは当たりっぽいな。)

 

 衝也はチームでゲームセンター内を歩き回りながらほかの面子に視線を向けていた。

 そんな時、葉隠が「あ!!」と声を出したのが聞こえたかと思うと、彼女の服が急にその場にとどまった。

 つまりは立ち止まったのである。

 そんな彼女の方を見て、隣を共に歩いていた常闇が不思議そうな表情を浮かべた。

 

「む、どうした葉隠?何かめぼしい娯楽機器でも見つけたのか?」

(娯楽機器…)

「ねぇねぇ!せっかく4人でゲーセン回ってるんだしさ、4人でできるあのゲームやってみない?」

「……」

「……」

「……」

「え、もしかしていけなかった!?みんなあのゲーム嫌い?」

 

 自分の言葉に対して返事をせず、無言で自分を見続けている衝也達をを見て、彼女は慌てたように言葉をつづけた。

 そんな彼女の言葉に対して障子はゆっくりと首を横に振った。

 そして、言いにくそうに言葉を発した。

 

「いや、そういうわけではないんだが…その、だな。」

「葉隠…お前たぶん今そのゲームのこと指さしてるんだろうけどさ…こっちはお前の服だけしか見えてないからどのゲームの事指さしてんのかいまいちよくわかんねぇんだわ、すまん」

(!何のためらいもない…だと。)

 

 葉隠の事を気遣って、障子が言っていいのかどうか迷っていてなかなか言い出せなかったことをなんのためらいもなく言い放つ衝也。

 思わず障子は衝也の方に顔を向けて驚いたような表情を向けたが、当の本人は「あ!そっか!ゴメンゴメン!」と陽気に返事をしたため今度は葉隠の方に視線を向け、(言ってもよかったのか!?)と驚いたような表情を浮かべた。

 そんな障子には目もくれずに、葉隠はいそいそと自分のバックをあさり始めた。

 しばらくゴソゴソとカバンの中に手?(透明のため視認はできていない。)を突っ込んでいたが、「あ!あったあった!!」と嬉しそうに声を上げ、カバンの中に入れていた手?を外に出した。

 そこにあったのはシンプルな白色の手袋だった。

 葉隠はカバンから出したその手袋を身に着けた。

 すると、今まで形も見えなかった葉隠の手が、手袋によって形が視認できるようになった。

 

「よし!これで皆にもしっかり見えるよね!ほら、あれあれ!あれやろよー!!」

「む…あれは、ホッケーか?」

「そー!あれなら二人一組で対戦できるし、誰かが手持無沙汰になることもないからさ!!ちょうどよさそうじゃん?」

 

 彼女が手袋で指さしたのは最大2VS2で戦うことができるホッケーゲームだった。

 それを見た衝也はふむふむと何度か頷いた後、楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「なるほどな…。あれなら全員で遊べるし、ルールとかもシンプルだからゲーセン初心者でも安心して遊べるからな。障子と常闇とそれでいいか?」

「ホッケーなら俺も知っている。やるのは初めてだが…」

「選択権は既に五十嵐と葉隠に委ねてある。お前たちの決定に従おう。」

「よっし!決まりー!!じゃあじゃあ、チームはグッパーで決めるよ!もちろん、勝負に負けた方は罰ゲームね!!」

 

 楽しそうにはしゃいでいる葉隠を尻目に障子がホッケーボードをしげしげと眺めていると、彼の人一倍大きい背中をチョンチョンと触る者が居た。

 それに気づいた障子がくるりと背後を振り向くとそこにはチラチラと葉隠と常闇の方を横目で見ている衝也が居た。

 彼は障子にハンドサインで耳を複製するよう頼み、彼が複製した耳に小さな声で話しかけた。

 

「障子、相談なんだがここは俺と組まないか?俺とお前でパーを出してチームを組むんだ。」

「?なぜだ?ここはゲームセンターに行ったことがある葉隠とチームになった方が有利だろう?」

「それじゃあ面白くないだろ?ここは戦力を分散させるためにも俺と葉隠は別れた方がいいんだよ!つべこべ言わずにチーム組むぞ!!」

「…本音は?」

「罰ゲームってのは言い出した奴が受けるっていうフラグがある。俺は罰ゲームなんて受けたくないんだ。受けるのはメスのカメレオンと中二病患ってるカラス頭で十分よ、グヘへへ…」

「五十嵐、お前な…。」

「まさに人の道を外れた外道…。」

「わっるい顔してるねー五十嵐君。まるでヴィランみたいだよ…。」

 

 途中から声の大きさを元に戻して本音を暴露し、底意地の悪い笑みを浮かべて下品な笑い声を出す衝也を障子・常闇・葉隠の三人は半ばあきれたような表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

「裏切ったな、友よ…。」

「俺は別にチームを組むとは言っていないぞ五十嵐。」

 

 なんやかんやで始まった罰ゲームありのホッケー勝負。

 各々チームに分かれてホッケー台に立つ四人。

 そんな中、衝也は向かい側、つまりは敵チーム側に立っている障子に恨めしそうな視線を向けていた。

 がっくりと肩を落としている衝也を見て、彼と同じチームの仲間、葉隠透は明るい声で彼を励まそうと声をかけた。

 

「大丈夫だって五十嵐君!こう見えて私、ホッケー結構得意なんだよー!もう私にどーんと任せといて!」

「やめろぉぉぉぉ!!それ以上敗北フラグを立てるんじゃねぇぇぇ!!つーか『こう見えて』なんて言われてもお前の顔見たことねぇから得意そうなイメージも不得意そうなイメージも全然ねぇんだよぉぉ!!」

「五十嵐…荒れているな。」

 

 まるで世界の終わりかのような叫び声を上げている衝也を見て、常闇は若干引き気味にそうつぶやいた。

 彼がこんなにも絶望したような叫び声を上げているのは、葉隠が提案した罰ゲームが原因である。

 敗北したチームに課せられる罰ゲーム、それは『日本最速ティーカップ…爆誕!!』というキャッチコピーが掲げられているティーカップである。

 ゲームセンタの端の方にポツンと置かれているそのティーカップの目の前には看板が立てられており、その看板には『このティーカップに乗って吐き気・嘔吐・吐血・意識消失・呼吸困難・脳震盪・遠心力によって体が吹き飛び大けが負う・体中の穴という穴から体液という体液が噴き出てくる等の症状が出たとしても当ゲームセンターは責任を負いかねます。ですが、119番通報はしっかりとさせてもらいますので、安心してお乗りください』ということが書かれていた。

 それを見た衝也の一言は「安心できるわけねぇだろ」である。

 常闇や障子も若干青ざめた顔をしてそのティーカップを見つめていた。

 それを見た葉隠はあろうことか「面白そう!」と言ってこのティーカップ罰ゲームに採用。

 その瞬間、三人の顔が一斉に死地に赴く兵士のように真剣な表情になったとか。

 

「まさか成人式も迎えずに死ぬことになるなんて…。まだやり残したことがたくさんあるのに…あんまりだぁ!!」

「フ…大げさな奴だ。」

「だったらチーム変われや常闇ぃぃ!!」

「却下させてもらう。俺もまだ深き闇にとらわれたくはないのだ。」

「なんか、さっきから遠回しに私の事ディスられているように感じるんだけど、気のせいかな、障子君?」

「…すまないが答えることはできない。」

 

 衝也も常闇も自分とチームになること=負け確定という思考をしているのを見て障子にそう問いかけるが、障子は気まずそうに顔を逸らしていた。

 そして、衝也の絶望的な急けび声が響く中、ホッケー台からスタートのブザーが鳴り響き、先攻の葉隠・衝也チームの方に最初のパックがでできた。

 

「よぉし!絶対に勝つぞー!!」

「くっそ、こうなりゃやけくそじゃぁ!!フラグも何もかもプリッツ見てぇにへし折ってあのクソダコと中二カラスをあのティーカップの中にぶち込んでやらぁ!」

 

 やけくそ気味に叫んだ衝也は「どりゃぁぁぁ!!」と気合を入れて思いっきりパックをマレットで力いっぱい斜めに打った。

 斜めに打たれたパックは壁に当たって跳ね返り、変則的な動きをしながら結構な速さで常闇・障子チームのゴールに向かっていく。

 しかし、

 

「跳ね返せ!『黒影(ダークシャドウ)』!!」

『アイヨ!!』

 

 常闇の掛け声と共に飛び出してきた黒い鳥のような影、『黒影(ダークシャドウ)』がマレットを持ち、即座に打ち返してきた。

 この『黒影(ダークシャドウ)』は常闇の個性の一つであり、彼の命令に従う相棒が住んでいるという個性である。

 その速度はかなりの物で右側を守っていた葉隠が慌てたようにマレットを動かすが打ち返すことはかなわず、そのままゴールの穴へと向かって行く。

 

「ちょ!それは反則でしょ常闇君!?」

「命のかかった真剣勝負、手を抜いたりはしない。全力で行かせてもらう!」

「まずは一点、だな。」

 

 腕を組んで屁理屈を言い放つ常闇を見て、障子は心なしか嬉しそうに頷きながら呟いた。

 だが、このターンはまだ終わらない。

 

「そう答えを出すにはちと速すぎるんじゃねぇのか、障子君よぉ!」

「む…!」

 

 葉隠・衝也チームのゴールの穴のすぐ手前。

 その手前には、衝也の持つマレットがあり、そのマレットの下には先ほど常闇の『黒影(ダークシャドウ)』が打ち返してきたパックがあった。

 

「エアホッケーをやる中で一番大切になってくるのは変則的かつかなりの速さで動いてくるパックの動きを見極めることができる動体視力!そして動体視力ってのは戦闘においても大切になってくる要素、鍛えておいて損はねぇ。」

 

 そこまで言って衝也はマレットの下にあったパックを手に持ち、ポーンポーンとどや顔で打ち上げて遊び始めた。

 

「一応俺はヒーロー志望なんでな。ヴィランとの戦闘のためにも日々の鍛錬は毎日欠かさず行ってる。そのメニューの中にはもちろん、動体視力の強化も入ってる。つまり、この勝負は、俺にうってつけの勝負って訳だ!」

「うおー!なんかめっちゃかっこいいよ五十嵐君!」

「なるほど、最初のリアクションは俺たちの油断を誘うためのフェイクか…やられたな。」

「クッ…!姑息にして狡猾…なんて卑怯な男だ、五十嵐衝也!」

「ぎゃははは!!何とでも言え!敗者がいくら吠えようとも、それはただの負け犬の悲しき遠吠えにしかならんのだ!!敗者は!おとなしく!ティーカップという名の墓標で眠りやがれぇぇ!!」

 

 ヴィラン顔負けの黒い笑顔で叫んだ衝也はそのままパックを台に置き「おわりどぅわぁぁぁぁ!!」と声を上げて思いっきり打ち込んだ。

 それは先ほどの『黒影(ダークシャドウ)』以上のスピードで向かい側まで飛んでいき、常闇も障子も反応ができないほどだった。

 そしてそのパックはそのままの速さで壁を何度も反射していき、そのまま勢いよく

 葉隠・衝也チームのゴールの穴へと向かってきた。

 

『!!?』

 

 かなりの速さで飛んできたパックに二人もまた反応できず

 ガゴンッ!という音とともにパックは穴に入っていき、電子得点版には常闇・障子チームに1Pが入っていた。

 何のことはない。ただ衝也の打ったパックが壁を跳ね返りまくり、そのままオンゴールしてしまっただけである。

 

「何…だと…。」

「えぇ…。」

 

 あまりのことにがくりと床に片膝をついてしまう衝也と呆然と立ち尽くしてしまう葉隠。

 そんな彼らを見て、常闇はポツリと、悲しそうに呟いた。

 

「所詮は頭の良い阿呆、か。天は二物を与えずとはまさにこのこと。」

 

 それを聞いた障子は憐みの眼で衝也を見ていたとかいないとか

 

 

 

 

 

 それから1時間後

 

「よーし、次は俺と口田と衝也と八百万だな!お前ら全員遊びまくろーぜ!!」

「……」

「おい!そこの頭の良いバカ野郎!!下ばっかりうつむいて前を見ろ前を!!」

「……」

「上鳴さん…」

「ん?どしたん、ヤオモモ?」

「五十嵐さんの眼…光が宿っていませんわ…」

「え、マジで…。うわぁ、ホントだ。レ〇プされたJKみたいな眼ぇしてやがる…。」

『だ、大丈夫なの!?』

 

 若干引き気味に衝也を見ている八百万と上鳴、衝也を心配そうに見つめる口田、そして魂が抜けたように動かない衝也の4人がゲームセンターの前に居たとか居ないとか。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 その後も昼休憩をはさみつつも、親睦会は順調に進んでいった。

 途中爆豪が同じチームになった轟や衝也にガンを飛ばしてくることはあったものの、特に大きな問題も起こることはなく、皆楽しそうにゲームセンターで遊んでいた。

 そして4度目のチーム決めをするために、1-Aの生徒たちはゲームセンター前に集まっていた。

 

「んーッ!!それにしても結構遊んだなー。こんなにゲーセンで遊んだのは随分と久しぶりな気がするぞ…。流石に疲れてきた…。」

「僕はこんなに大勢で遊ぶなんてことはないから、結構楽しかったかな。」

 

 軽く伸びをして、けだるそうに衝也に先ほど同じチームだった緑谷は嬉しそうな表情を浮かべて返事をした。

 そんな彼を見て、衝也は時折見せる底意地の悪そうな笑みを浮かべた。

 

「ま、誰かと一緒に遊ぶなんてことなさそうな顔してるもんな、緑谷。」

「えぇ~…」

「なんてことを言うんだ五十嵐君!?いくら緑谷君が友達のいなさそうな雰囲気を漂わせていたとしても、さすがにそれを言葉に出すのは失礼だろう!君は少し本音と建て前というものを学ばないか!」

「やめたげてよ飯田君!デク君の顔があしたのジョーみたいに真っ白になってるから!!」

「お前の方が本音ダダ漏れじゃねぇか…」

 

 緑谷と同じように同じチームだった飯田の悪意のない言葉によって緑谷は真っ白な灰と化してしまい、慌てたように同じチームの麗日が飯田を止めようとする。

 衝也も飯田の悪気のない言葉を聞いて軽くドン引きしていた。

 

「それにしても…上鳴と峰田はどこ行ったんだ?」

「主催者の姿が見えないってどういうことよ…」

 

 そんな彼らを尻目に切島は手元のスマホで時間を確認しながらそうつぶやいた。

 隣の耳郎も呆れたように溜息を吐いている。

 現在新たなチーム決めをするために集まって来たのは20人中18人であり、残りの二人の上鳴と峰田は姿が見えていないのである。

 

「なあ、お前らおんなじチームだったんだろ?何かあいつらから聞いてねぇのか?」

「いや、ここに集合する前に『ちょっと確認したいものがある』って言ってどっかに行ったきりだ。どこに行ったかまでは流石にわからねぇ。」

 

 切島は困ったように頭を搔いたあと、彼らと同じチームだった轟に彼らの行方を聞くが、轟も小さく首を振った。

 それを見た衝也は軽くあくびをした後、実に呑気な表情で近くにあった椅子に腰かけた。

 

「どーせトイレで出すもん出してるだけだろ?そのうち来るって。」

「つってもよー…心配なもんは心配だし。」

「もしかしたら何か大変なことに巻き込まれているのかもしれないわ。」

 

 呑気な衝也とは対照的に不安げな表情を浮かべる切島と蛙吹。

 それをみたクラスメートたちも、最初は心配すらしていなかったが、もしかしたら…という可能性を考えて表情を曇らせていく。

 そんな彼らを見た衝也は「しゃーねーなー」とめんどくさそうにつぶやいた後、自分の携帯(ガラケーである)を取り出してカチカチとボタンを押し始めた。

 

「うわ、ガラケーだ…。」

「俺、ガラケー使ってるやつ初めて見た。」

「ウチも。」

「ダッセー…」

「おめぇらごちゃごちゃうるせーぞ、ちと黙ってろ。」

 

 衝也の持つ携帯を見て物珍しそうにしている切島や耳郎を軽く注意しつつ耳元にケータイを持っていく。

 

「そんなに気になるんだったら電話で連絡でもとれって。」

『……あ』

「お前らもう二度と俺のことバカにすんなよ…」

 

 その手があったか…見たいな表情をしてるクラスメートたちを見て呆れたように顔を顰めた衝也はしばらくして、つながった電話に話しかけ始めた。

 

「おう、上鳴か?峰田はいっしょか?お前ら一体どこで何やってるんだよ、こっちはもうおめぇら以外全員集まってんぞ…。ん?はー!?4Fに来てほしいだぁ~?おい、一体どういう…あ、おいコラ上鳴!お前事情をちゃんと説明しろって!」

 

 慌てたように携帯に向かって叫ぶが、声は届かずにツー、ツー、という電子音がむなしく流れ始めた。

 衝也はげんなりとした表情でため息を吐くと、携帯を閉じてクラスメートたちの方へと視線を向けた。

 そんな彼を見て切島が慌てた様子で声をかけた。

 

「どーだったんだ衝也!?なんか危ない目に…」

「あってないから安心しとけ。なんか二人とも4Fにいるんだと。今すぐ全員で4Fに来てほしいらしい。」

「4Fですか?それはまたどうしてですの?」

「さあ?とにかく主催者の命令なんだし、行くっきゃねーだろ。」

 

 そう言ってめんどくさそうに首のあたりをポリポリと搔く衝也。

 どうやら親睦会の開催地はゲームセンターから変更となるようだった。

 

 近くにあった上りエスカレーターに乗って4Fに移動した1-Aの面々。

 その移動した先の4Fで合流した上鳴・峰田に連れられて1-A面々が目にしたもの、それは

 

 遊園地などでよくみられるお化け屋敷だった。

 

「みろよこれ!!お化け屋敷だぜお化け屋敷!!こんなん見たらやるっきゃねぇだろ!?そうだろ!?」

 

 お化け屋敷を指さしながら興奮気味にそう叫ぶ上鳴。

 目の前のおどろおどろしいお化け屋敷は雰囲気抜群で、ホラー好きならば確かテンションが上がるのもうなずけるほど本格的そうなお化け屋敷だった。

 

「いや、まずなんでショッピングモールにお化け屋敷があるのかが疑問なんだが…」

「こまけぇことは気にすんじゃねぇよ衝也ぁぁ!!お化け屋敷だぞ!!合法的に女子にあんなことやこんなことができるぜっこーの機会じゃグフ!!?」

「黙れ歩く猥褻物。」

 

 衝也の疑問に答えるどころか自分の欲求を女子の目の前でひけらかし始めた峰田を物理的に黙らせる衝也。

 そして、軽くため息を吐いた後、視線をそのまま上鳴に向ける。

 

「ま、この際なんでお化け屋敷があるのかはどうでもいいとして、ここで何しようってんだ?」

「何言ってんだよ衝也!お化け屋敷が目の前にあるんだぞ!?入るっきゃないだろ!!」

「おおー!クラスのみんなでお化け屋敷かぁ!なんだかおもしろそうじゃねぇか!!」

「うんうん!なんかテンション上がってきちゃった!!」

「上鳴!お前中々男らしいサプライズしてんじゃねぇか!」

「切島、何でも男らしいってつければ硬派に見える訳じゃねぇんだぞ?」

「衝也…おめーな…。」

 

 テンション高めにそう叫ぶ上鳴につられたのか、砂糖や芦戸、切島などほかのクラスメートも楽しそうにワイワイ騒ぎ始めた。

 それを先ほど衝也によって黙らされた峰田が大きな声を出していさめた。

 

「落ち着けてめぇら!まだお化け屋敷に入ってすらいないのにそんな騒ぐバカがどこにいるってんだ!まずはワクワクドキドキのチーム決めだろーが!!」

「み、峰田君…頭から血が出てるけど、大丈夫なの?」

「バカか緑谷!お化け屋敷なんて絶好のエロフラグをこの程度のけがで逃しちまうようなオイラじゃねぇんだよ!!エロの申し子峰田実、今こそ合法的に女子の女体を堪能するとき!!」

「緑谷、もうお前のスマッシュで黙らせちまおうぜ。」

「お、落ち着こうよ五十嵐君…。峰田君は自分に正直なだけなんだよきっと…」

「正直すぎるってのもどうかと思うけどな…」

 

 緑谷のフォローに的確なツッコミを入れる瀬呂とそれを見て汚物でも見るような視線を峰田に向ける衝也&女子陣。

 そんなテンションアゲアゲ状態な1-Aのクラスメートの中で唯一浮かない顔をしている

 者が居た。

 その一人が浮かない表情をしているのに気付いた八百万がその一人に近づいて行った。

 

「耳郎さん?どうされたんですの、そんな暗い顔をして?」

「あ、ヤオモモ…。」

 

 八百万に声をかけられた耳郎は相変わらず暗い顔のまま八百万の方に視線を向けた。

 八百万の声を聴いたまわりの女子たちも、いつもの言いたい事をズバッという思い切りの良さと明るさがある耳郎とは明らかにちがう様子に心配して集まって来た。

 

「どしたの耳郎ちゃん?なんか浮かない顔してるけど…」

「調子が悪いのなら遠慮せずに行ってほしいわ、耳郎ちゃん。」

 

 心配そうに話しかけてくる葉隠と蛙吹。

 それを見た耳郎は軽く頭を搔いた後、困ったような表情を浮かべた。

 

「あ、いや…別に大したことじゃないんだけどさ…。あの、男子には言わないでよ?特に上鳴と峰田とかには絶対に。」

 

 そう念を押してくる耳郎の顔は真剣で、まわりの女子たちも彼女の真剣な表情を見て、同じように真剣に頷いた。

 それを見た耳郎は大きく深呼吸をした後、少しだけ頬を赤く染め、恥ずかしそうな表情を浮かべた。

 

「実は…さ、ウチ怖いのダメなんだよね…。お化けとか、そういう類のとかもうほんとに無理なの…。」

 

 自分のイヤホンのコードを指でいじくりながら恥ずかしそうにそうつぶやいた耳郎を見た女子たちは驚いたような表情を浮かべた。

 

「えー、耳郎ちゃん怖いの苦手なんだ!なんかすっごい意外!」

「確かに、耳郎さんは怖いもの知らずのようなイメージがありましたから…」

「うぅ…だってさ、怖いものは怖いんだもん…仕方ないじゃん。」

 

 芦戸や八百万に意外そうに言われた耳郎は、イヤホンのコードをいじくったままプイッと恥ずかしそうに顔を背けた。

 それをみた女子たち全員の思考が(可愛い…)で埋め尽くされた。

 そんな中蛙吹は彼女の肩に手を置いて、励ますように声をかけた。

 

「大丈夫よ、耳郎ちゃん。私は怖い物は平気だから、一緒に入りましょう。」

「蛙吹…ありが」

「よーし!それじゃあくじ引きで二人一組のチーム作るぞぉ!みんなぁ、願いを込めて引くんだぜぇ!!」

「……」

「いてぇ!?いきなり何すんだよ耳郎!?」

 

 蛙吹の言葉で希望の光を見出した耳郎だったが、主催者の上鳴によってその希望をあっさりと打ち砕かれてしまい、涙目で上鳴にコードを振り回して攻撃する。

 それを蛙吹が「落ち着いて耳郎ちゃん。」と冷静に止めに入る。

 

「止めないで蛙吹!あいつ、私の唯一の希望を粉々に…」

「まだ希望はありますわ耳郎さん!蛙吹さんでなくとも頼りになりそうな方はたくさんいらっしゃいます!」

「八百万ちゃんの言う通りよ、まだ希望は捨てないで、耳郎ちゃん。」

「うぅ…わかった。」

 

 涙目のままそう言った耳郎は、後ろで女子陣が応援している中、上鳴の言う通り願いを込めてくじを引いた。

 その結果

 

「お、俺のペアは耳郎か。よろしく頼むぜ!」

「終わりだ…。」

「何が終わったのかはわからねぇけど期待されてなかったのはなんとなくわかったわ…」

「ごめんなさい、五十嵐ちゃん。彼女、今ちょっと普通じゃないの」

 

 絶望的な表情で床に体育座りで座り込んでしまった耳郎を見て、若干傷ついた表情を浮かべる耳郎のペア、衝也は座ったままぶつぶつと何かを呟いている耳郎へと視線を向けた。

 

「最悪だ…せめて轟とか切島とかならまだよかったのに、よりにもよって五十嵐なんて…」

「おい、こいつ遠回しに俺の事不細工って言ってねぇか?さっきからイケメンの名前しか口にしてねぇぞ?」

「大丈夫よ、遠回しに頼りないって言っているだけ。不細工とは言ってないわ。それに五十嵐ちゃんは不細工じゃないわ、ごく普通の顔よ」

「……」

 

 蛙吹の返答を聞いて微妙な表情を浮かべる衝也。

 しばらく衝也はそのままの表情で蛙吹と話をしていたが、不意に今まで座り込んでいた耳郎が覚悟を決めた表情をして勢いよく立ち上がった。

 

「ペアは頼りないし、お化け屋敷はめちゃくちゃ怖そうだけど!決まったんなら仕方ない!女は度胸!やるっきゃない!たとえペアが五十嵐(バカ)だとしても!」

「なぁ蛙吹…どうして俺は耳郎にここまでディスられなきゃならんのだろうか…?」

「ごめんなさい、五十嵐ちゃん。彼女、今かなり普通じゃないの」

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 こうしてくじ引きによってチームと入る順番が決められ、耳郎・衝也チームは3番手となった。

 意外と早い順番に喜ぶ衝也と嘆く耳郎だったが、そんなことはお構いなしで列は進んでいく。

 最初に入った峰田・葉隠チームと二番目に入った上鳴・口田チームの悲鳴が中で聞こえてくるのを聴いて、耳郎は「ウッ…」と声を漏らした。

 それを目ざとく聞いていた衝也は不思議そうな表情を耳郎に向けた。

 

「ん、どしたん耳郎?なんか表情くらい見てぇだけど…」

「!べ、別に何でもないし!ほら、ウチの事はいいから前見ときなよ。次はアンタの番でしょ!?」

「いや、それはお前もおんなじだろ…」

 

 呆れたように小さく呟いた衝也から顔を逸らした耳郎。

 そして、頭の中で自分のペアが五十嵐だったことを再び嘆いた。

 もしペアが轟や切島だったら、いつもの言動や性格からしてたぶん頼りになりそうだし、仮に自分が怖がりだと気づいてもそれを馬鹿にすることはないだろう。

 だが、もしこれが上鳴・峰田・衝也のバカ三人だったらまず頼りにはならないし、怖がりだということを知ったら全力でからかってくるのは目に見えている。

 だからこそ彼女は衝也がペアになったことを嘆いていたのだった。

 

(とにかく、このバカにだけは絶対ばれないようにしないと)

「お客様?お客様!順番が回ってまいりました!早くなかにお入りください!お連れ様も向かいましたよ?」

「おーい耳郎!何やってんだぁ?早く中はいんぞー!!」

「あっ!?ちょ、おいてかないでよ五十嵐!!」

 

 つかつかとお化け屋敷の中へと入っていく衝也を見て、慌ててその後を追う耳郎。

 そして、何とも雰囲気のある暖簾をくぐって中へと入る。

 中はお化け屋敷らしく真っ暗で、かろうじて足元と目の前近くが見える程度だった。

 

「うわー、暗っ…。ちょっと暗すぎないこれ…」

「まあ、明るいお化け屋敷ってのもそれはそれで嫌だけどなー。」

 

 耳郎のつぶやきにさしていつもと変わらない様子で返事をしてくる衝也。

 それを聞いた耳郎はハッとしたような表情を浮かべた後、気を取り直すかのように声を出した。

 

「!と、とにかく、こんな子供だましみたいなお化け屋敷とっとと終わらせるよ!ほら、速く進んで進んで!」

「わかったわかった!わかったからあんま押すなよ耳郎!つーかまだ子供だましかどうかなんてわかんねぇだろ!?」

 

 速く終わらせたいがために衝也の背中を押して前に進んでいく耳郎。

 そのまま衝也の背中を押したまま先に進んでいくと、彼らの前に不気味な祠が見えてきた。

 その祠には看板と一枚のお札が飾ってあった。

 

「うわ、何あれ…」

「俺に聞かれてもわかんねぇって。とにかく看板あるんだし見に行こうぜ?」

「うっ…。ウ、ウチはいい!アンタ一人で行きなよ!」

「いや、それじゃあチームの意味ないだろーが…。なんだよ、もしかして怖いの苦手なのか?」

 

 自分の後ろから中々動かない耳郎を見て衝也が呆れ半分、からかい半分のような声色で耳郎にそういうと、耳郎はしばらく動きを止めた後、つかつかと前へと進んでいった。

 

「~ッ!!そんな訳ないじゃん!お化け屋敷なんて所詮作り物!そんなものにいちいち怖がってたらヒーローなんてなれるわけないじゃん!」

「は、そりゃ勇ましいこって。」

 

 軽く肩をすくめたあと、耳郎の後を追いかけている衝也。

 そして二人は祠の目の前にある看板に目をやった。

 

「なるほど、ようはここにあるお札を奥にある別の祠に置いて、暴れまわってるお化けを沈めろってことか」

「なんでここの祠においても効果ないのにお札置いてんの…。バカなのこのお札置いたやつ…。暴れまわってるお化けも迷惑だっての…。」

「お前、さっき自分で作りものだって言ってただろ…。」

 

 恨めしそうな目で看板をにらんでいる耳郎を見て、若干呆れたように呟いた。

 そして軽く首を回した後、看板とにらめっこしつづけている耳郎に声をかけた。

 

「さってと、とりあえずここにずっといる訳にもいかねぇし、さっさとあのお札とっちまおうぜ。」

「べ、別に二人で取りに行かなくても良くない?ほら、ウチか五十嵐のどっちか一人でも…」

「だから、それじゃあチームの意味ないだろって言ってんじゃん…。ほら、つべこべ言わずに行くぞー」

「ちょ!押さないで、押さないでってば!!」

 

 そう言って今度は衝也が耳郎の背中を押して祠まで移動する。

 そして祠に飾ってあるお札の目の前にまで歩いた後、衝也はしげしげとそのお札を見始めた。

 

「ほー、これがそのお札か。なんか…普通だな。」

「なんでもいいからさ!早くそのお札取って先に進もうって!」

「はいはいわかったわかった。まったく、せっかちな女はもてないぜ?」

「うるさい!大きなお世話!」

 

 はやくはやくと急かし続ける耳郎に、衝也はやれやれという風に首を振った後、お札へと手を伸ばした。

 その瞬間

 ばたんと勢いよく祠の扉が開かれ、中から貞子のような長い髪をした女性が飛び出してきた。

 

「うあぁぁあぁあああ!!」

「うお、思ってたより結構…」

「うわあぁぁあああああああああああー!!!!」

「うおおおおー!?」

「!!??」

 

 最初は少し肩を上げただけだった衝也だが、不意に自分のすぐ後ろから聞こえてきたとんでもない音量の叫び声に思わず大声を上げてしまう。

 祠から出てきたお化け役の女性も思わずびっくりしてしまっていた。

 衝也は耳をふさぎながら背後を振り返る。

 するとそこには腰を抜かしてしまったのか、尻餅を着いたままカタカタと涙目で震えて動かないでいる耳郎が居た。

 それをみた衝也はあんぐりと口を半開きにしている間抜け面をして耳郎を見つめていた。

 そんな彼の後ろ、つまりは扉の中から出てきたお化け役の女性は、そろそろと扉の中から出てきて、申し訳なさそうに耳郎に近寄っていった。

 

「あの、お客様?その…だいじょうぶですか?」

「いやあああぁぁぁぁああああ!!」

「……」

「……」

 

 女性が近づいた瞬間、この世の終わりかのような叫び声をあげて座ったまま器用に女性が近づいた分だけものすごい速さで下がっていく耳郎。

 それを見たお化け役の女性もどうすればいいのかわからずその場で固まってしまう。

 衝也は涙目で尻餅を着いている耳郎と、どうすればいいのかと顔を覆い隠した長い髪を振り回してアタフタしている女性を交互に見た後、大きくため息を吐いた。

 そしてお化け役の女性に小声で「とりあえず、持ち場に戻ってくれて大丈夫っす。なんか、いろいろとすいません…」と軽く頭を下げてそう言った。

 それを聞いた女性はとんでもない!とでもいうように何度も手を顔の前でブンブン横に振った後、申し訳なさそうに頭を下げながら持ち場の祠の裏へと戻っていった。

 それを確認した衝也はくるりと振り返り、今度は耳郎の方に視線を向けた。

 耳郎は恐ろしさで興奮状態にあるのか「はぁ…はぁ…!」と苦しそうに息を吸ったり吐いたりしていた。

 そして、

 

「!だから言ったじゃぁぁん!!怖いのは無理なんだってぇぇ!!」

「いぃっ!?」

 

 緊張がほどけたせいなのか、はたまた怖がりがバレたと決めつけてやけになったのか大声で叫んでボロボロと涙を出して泣き始めた。

 それをみた衝也はいきなりの事に驚いて半歩後ろに下がってしまう。

 

「うぅ…!怖いの無理だって…言ったのにぃ…グスッ…!だからお化け屋敷なんて…入りたく、無かったのにぃ…!」

「いや、俺そんなの聞いてねぇし…。ていうか、とりあえず落ち着けって。なんか見てて罪悪感が出てくるから。」

 

 目の前で女子が泣いてしまっているのを見て、別に自分が何も悪くないのはわかっていても罪悪感を感じてしまう衝也。

 とりあえず、泣くのをやめさせようと声を掛けようとするが

 

(同年代の女子の泣き止ませ方なんて知らねぇぞおい…。)

 

 自分がそこまで男前スキルが高くないことに気づき、冷や汗をにじませる。

 どうしたものか、どうしたものか!とパニックが伝染したのか衝也まで慌てたように顎に手を当てて緑谷のようにブツブツと何かを呟き始める。

 しかし、何もいい案が浮かばず「ちっくしょーめ…」と頭を両手で書きながら小さくつぶやき、何とはなしに耳郎の方に視線を向けた。

 耳郎は相変わらず床に座り込んだまま、時々鼻をすすりながら泣いていた。

 そこにいつもの強気で頼れる彼女の姿はなく、もはやただの怖がりな女の子にかわってしまっていた。

 その姿が衝也の頭の中で一瞬、ほんの一瞬だけ彼女(・・)と重なった。

 それを見た衝也はしばらくそのまま耳郎を見つめ続けた後、あきらめたかのように大きくため息を吐いた。

 

(しゃあねぇか…。あんま気は進まねぇけど…。)

 

 あきらめたように首をポリポリと搔いた衝也は、つかつかと腰を抜かしたままの耳郎に近寄って行った。

 そして衝也は彼女の目の前で立ち止まり、ゆっくりと目線を合わせるかのようにしゃがみこみ

 ポンッ。と彼女の頭の上に手を置いた。

 

「…!?」

 

 いきなり手を置かれたのに驚いたのか、耳郎は大きく目を見開いて衝也の方に目を向ける。

 身長さのせいか、屈んでいるはずの衝也の顔を見上げるような形になっている。

 そして衝也は、いまだ涙が頬を伝ってる彼女を見つめたまま

 

「大丈夫、大丈夫だから」

 

 と何度も言いながら、優し気な笑みを浮かべた。

 彼の武骨で大きな手は、まるで赤ん坊をあやすかのように耳郎の頭を撫でる。

 不快ではない、むしろとても暖かくて、心地よい感覚。

 父親や母親に撫でられるのとはまた違った心地よさを感じる衝也の撫で方に耳郎はそのままされるがままに撫でられ続けている。

 それから数分後

 いつの間にか、耳郎が感じていた恐怖はなくなっており、涙も止まっていた。

 

「はぁ、やっと泣き止んだか…ったく。こんなことやったのマジで久しぶりだぞ…」

「ッ…!?」

 

 衝也が疲れたようなつぶやきをして頭から手を離したその瞬間、我に返ったかのような表情を浮かべた後、恥ずかしそうに素早く顔を目の前の衝也から逸らした。

 

「い、五十嵐アンタ!いきなり何すんのよ人の頭に!!」

「しょーがねぇだろ。お前がいつまでも泣き止まなかったんだからよ…。」

「うぐっ…」

 

 衝也にそう言われて言葉を詰まらせてしまう耳郎。

 なまじその通りでもあるので強く言い返せない。

 だが、それでも頭を撫でられたのは彼女としても少し看過できない。

 

「だからって…別に頭撫でる必要はないでしょ…。その…声かけるとか、励ますとか、ほかにも色々方法があるじゃん…」

「すまねぇな、俺にはそういうイケメンスキルはないんでね。泣いてる女子を慰める方法なんてこれくらいしか知らないんだよ。つーかさ、怖いの苦手ならここに入んなきゃいいじゃねぇかよ、変な意地張っちまって、バカだなぁ。」

「は、はぁ!?別に怖くなんてないし!ただ、ちょっと驚いたってだけ…!こんな子供だまし、ウチが怖がるわけないじゃん!!」

「はいはい、そうですか…」

 

 頬を若干赤くしながらそっぽを向く耳郎。

 そんな彼女を見て、肩をすくませた衝也はどっこいしょと言いながら立ち上がり膝に着いたホコリを払い落とした。

 そしていまだ腰を抜かしたままの耳郎に手を伸ばした。

 

「立てるか?」

「……」

 

 耳郎はしばらくの間無言のまま差し出された手も見ずに顔を背けていたが、やがてしぶしぶというように逸らしていた顔を元に戻し(とはいっても下を向いてうつむいているので衝也から顔は見えない)、ギュッと差し出された衝也の手を握った。

 衝也はそのまま耳郎の手を引っ張り、腰を抜かしていた彼女を立ち上がらせる。

 彼女が無事立ち上がったのを確認した衝也は、握っていたその手をすぐに離し、お化け屋敷の案内矢印の指す方向へと視線を向けた。

 

「さて、とりあえず先に進むとするか。流石にこのままここにとどまっとくわけにも行かんだろ。」

「あ、あのさ!」

「ん?」

 

 軽く伸びをした後、先へと進もうとした衝也だったが、突然の耳郎の声に立ち止まり、彼女の方へと視線を向けた。

 彼の目に映る耳郎の顔は今は上にあげられており、その顔はほのかに赤く染まっていた。

 

「その…このことはさ、絶対に誰にも…言わないでほしいんだけど…ダメ、かな…?」

 

 視線をあちこちに泳がせ、自身のコードを指でいじくりながら恥ずかしそうにモジモジしながらそういう耳郎。

 いつもの彼女とは違うしおらしい耳郎を目にした衝也は驚いて目を丸くした。

 その違いのせいなのか、彼はわずかに自分の鼓動が早く波打っているのを感じる

 

 

 

 なんてことはなく、一瞬だけ目を丸くした後、すぐに呆れたように溜息を吐いた。

 

「あのなぁ、お前さっき怖くないとか言ってたじゃねぇかよ…」

「うっ!そ、それは…その」

 

 痛いところ疲れた耳郎は慌てたようにたじろき、視線をわずかに横に逸らした。

 それをみた衝也はまた大きくため息を吐いた。

 そして、軽く肩をすくめたあとくるりと体を反転させた。

 

「だから、俺はお前が何のことを言ってほしくないのかわからねぇな。」

「へ…」

「俺はお前が驚いた姿は見たけど怖がってる姿は見たことない。だから、俺にはお前が一体何のこと言ってるんだかさっぱりわからねぇよ…。あー、それとなんだ…」

 

 そこまで言って衝也はガシガシと後頭部を搔いた。

 そして、少しばかりいうかどうか迷ったような動作をした後、大きくため息を吐いた。

 

「俺はあんまり頭がよくねぇ上にどんくさいからなぁ~。どっかの怖がりが服の裾に触ってたとしても、気づくことはないと思うぜ?」

「…何それ。ここに怖がりなんていないし、アンタの服の裾つかむようなもの好きなんてこの世にはいないでしょ。」

「…そうかよ。」

 

 耳郎の言葉を聞いた衝也は大きなため息を吐いた後、ゆっくりとお化け屋敷の奥へ向かって歩き始めた。

 そして衝也はフッ…と笑みを浮かべて瞼を閉じた後

 

(ぐおおおおお!何言ってるんだ俺はぁぁ!!あんなスマートな言葉はスマートなイケメンが言うからこそ女子受けがいいんだろぉぉがぁぁ!!俺みたいな超絶平均顔の男が言ったって乙っちまうことくらいわかってたのにぃぃ!ちっくしょぉぉぉおお!想像するだけで蕁麻疹が止まらねぇ!!)

 

 猛烈に後悔しまくった。

 心の中で叫び声を上げながら頭をかきむしりまくる衝也。

 そんな彼の右手の服の裾に、肌色のコードがひっそりと絡まっていた。

 

 

 

 

 

 その次の日。

 

「うおおおお!八百万の神ぃ!俺におかずを恵んでくれぇぇ!!」

「うわー、またやってるね五十嵐君。ヤオモモ大変そー」

「最早見慣れた光景ね…。あら…?」

「アンタいつもヤオモモにたかりすぎ。ほら、これ昨日の夕飯の残りだけど上げるから、今日はヤオモモからたかんの良しな」

「おお、こんなにたくさん!いいのか耳郎!?」

「昨日の残りだって言ってるじゃん。捨てるのももったいないし、アンタに食べてもらった方がもったいなくはないしね。」

「…おれ今度からお前の事耳郎の神って呼ぶわ。」

「いやに決まってんでしょそんな呼び名…。ほら、エサはやったんだからさっさとどっか行きな。」

「サンクス!!サンクス耳郎!」

「ったく…」

「ありがとうございます、耳郎さん。」

「珍しいわね、耳郎ちゃんが五十嵐ちゃんにおかずを上げるなんて。」

「何かあったのー、耳郎ちゃん?」

「別に何も…。ただ」

『ただ?』

「アイツにはちょっとした借りがあるからね…」

 

 衝也は新たなたかり先をひっそりと獲得した。

 




おかしい、前より文字数増えてやがる(震え)
この話は一部私の実体験が含まれていたりいなかったりしています。
それにしても私はこういったシーンを書くのは本当にへたくそですね…。
涙がでそうです。


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