救える者になるために(仮題)   作:オールライト

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そういえばいつのまにかお気に入りが1600超えてました。
少しずつ少しずつ読んでくださってる方が増えるというのはやはりうれしいものですね。
この小説は最初から読者が多いわけじゃありませんから…
最初なんてお気に入り50いっただけでガッツポーズしてました。

てなわけで三十話です、どうぞ。


第三十話 走れ青春!燃えよ魂!燃え尽きろ命!←尽きたらあかん!マジで!

耳郎と八百万の試合が終わったそのあと

 

次戦となる瀬呂VS上鳴の試合は前試合とは打って変わってあっさりと決着がついてしまった。

というのも、開始早々瀬呂が上鳴を場外に出そうとテープを巻きつけたのだが、上鳴がテープで縛られたまま全力放電して彼のテープもろとも焼き尽くしてしまったのだ。

当然放電を受けた瀬呂が動けるはずもなく、あっけなく勝負は上鳴の勝ち。

もちろん上鳴は全国にそのアホ面をさらすことになった、勝利の代償は小さくないだろう。

 

そして、続いて行われた麗日VS爆豪の戦いは観る者を圧倒した試合といえるだろう。

素行が荒く、自分の気に入らないやつ、自分の邪魔をする奴は徹底的に潰す爆豪。

そして、自身が一番と自負するだけにたる実力を兼ね備えた少年。

そんな少年が、この夢を追う舞台で女子相手だから手加減などするわけもなく、

結果、麗日は爆豪に手も足も出なかった。

だが

 

体操服による視線の固定や浮かせた瓦礫による流星群

自身の持てる知恵を総動員し、最後の最後まで、意識が朦朧とするその瞬間まで爆豪を見続けていた麗日に、その場にいる全員が心の内で賛辞を送っていた。

(対する爆豪はアンチが増えてしまったが…)

 

そして、舞台は二回戦へと移っていく。

 

控室にある折りたたみ式の長机に肘をかけながらその二回戦の初戦に出場する緑谷は口元に手を当てながら必死に思考を巡らせていた。

 

「どうしようあの五十嵐君相手に距離をとって戦うのはほとんど難しいしあのスピードで間合いを詰められたらなすすべがないとなると中距離でのデラウェアスマッシュはやめて接近戦に持ち込むべき?いやでも正直五十嵐君と接近戦をして勝てる確率の方が低いか嫌でも五十嵐君にも中距離からの攻撃方法があるんじゃ指を負傷し続けるデラウェアスマッシュはやっぱり不安要素が多すぎるそれにそもそもの話ボクと五十嵐君とでは個性の熟練度が段違いなわけだからそれを補うためにはどうすればいいんだろうボクが制御できる今の限界はオールマイトの見立て道理ならたった5%なわけで、そんな状態で五十嵐君に接近戦で勝てるとは思えないし…」

 

瞬きすらせずにぶつぶつとある意味サイコパスのようにつぶやき続ける緑谷。

その額には少しだけ汗がにじんでいた。

 

五十嵐衝也

 

自分と同じ年齢にいながら、はるか先を歩いているように感じる彼のその背中を見て、緑谷は純粋に尊敬にも近い念を抱いていた。

普段の言動は確かに褒められたものではないかもしれない。

お調子者を絵にかいたような行動ばかりだし、いつだか自分に

『お前のその頭ってあれだな、わかめみたいだな』とだいぶ失礼なことを言ってきたこともあった。

だが、USJの時に見せた他を圧倒する戦闘技術と、USJの時や先の轟との試合でみせたその胸の内に秘めた信念と覚悟は

彼の強さを自分に認めさせるには十分すぎた。

恐らくは近接戦闘においてはクラスどころかプロヒーローの中でも十分に活躍できるほどの実力があるかもしれないと考えていいだろう。

 

何もかもが自分とは一歩も二歩も違う彼の姿を見て、緑谷はどうしようもなく胸が高鳴った。

それは、家のパソコンでいつも見ていたオールマイトの動画を見ている時の感覚に少しだけ似ているかもしれない。

 

緑谷にとって、オールマイトと勝っちゃん以外で初めて彼に追いつきたい、彼のように強くなりたいと、そう思った唯一の人。

そして、同時に彼のことをもっと知りたいと思った唯一の人でもある。

これは決してそういう系の意味ではなく、純粋な疑問。

なぜ、彼はあそこまで強いのだろうか、否

 

なぜ彼は、あそこまで強くなろうとしたのか。

なぜ彼の胸の内に、あれだけの信念が芽生えたのか

恐らくは、大きいにしろ小さいにしろ何かしらの切っ掛けがあるはずなのだ。

 

緑谷自身が誰かを救いたいと思った切っ掛けがあるように、衝也にも、彼だけにしかないきっかけが。

そのきっかけがなんなのか、少しでもわかることができたら、衝也のことを、彼の強さの根本をより深く知ることができるだろうから。

 

(今から、その人と戦うんだよな…)

 

知らず知らずのうちに拳を握りしめる緑谷。

その拳の中は汗でべとべとになっていて少々気持ちが悪い。

心臓もこれ以上ないほどにうるさくなっているし、心なしか脚が多少震えてる。

 

だが、それでもなお緑谷の表情は

 

すがすがしいほどに笑顔だった。

 

(勝てる可能性は低い、個性の熟練度も五十嵐君が圧倒的に上

 

でも、それでも…勝つ可能性は0じゃない!

超えるんだ…限界を!!

あの時の五十嵐君のように、限界を超えて…)

 

「五十嵐君に、勝つんだ!」

 

拳を手のひらに打ち付けて、大きく声を張り上げる。

そして、ゆっくりと控室のドアへと歩みを進めていく。

その脚にもう先ほどの震えは観られない。

 

そして、緑谷はその脚を進めてく。

ほかならぬ、憧れた人(五十嵐衝也)に勝つために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑谷出久

 

彼の最初のイメージは、正直言ってただのさえないヘタレ顔、といった認識しかしてなかった。

個性の扱いができていないという点である意味注目はしていたものの、それはあくまで『興味』の範疇を出なかった。

屋内訓練の時の動きには感心したが、逆に言えばそれ以外のところではあまり注視はしていなかったのが正直なところだろう。

だが、彼が頭角を現してきたのはこの体育祭が始まってからだ。

自分の予想を次々に裏切っていくクレーバーな発想力とそれを生み出す分析力。

そして、最後の最後まであきらめずに前へと進み、自分に一矢報いるその執念と信念。

そんな彼の姿を見て、衝也は彼の評価を改めざるを負えなかった。

油断大敵という言葉は彼のためにあるのではないかと思えるほどに、緑谷は強い。

慢心し、警戒を怠れば、喉元を食いちぎられると

そう感じるほどに緑谷は強い奴だと、そう素直に評価を改められるほど、緑谷のその姿は衝也にとって強烈だった。

個性の扱いもままならない、運動能力も平均的、戦闘技術も自分や爆豪、轟などと比べればまだまだ

 

だが、彼はそんな奴らを出し抜いてここまで上位をとり続けて来た。

そんな少年が、弱いはずがない。

 

おまけに障害物競争と騎馬戦で借りを二つも作ってしまっている。

借りの作りっぱなしというのは、衝也にとっても喜ばしくはない。

 

「借りはきっちり返しとかないとな…いつまでもため込んでたら鬱憤という利息が溜まってきやがる。」

 

そういって軽く伸びをして身体をほぐす衝也。

油断はできない、とはいえやることはいつもと変わらない。

冷静に相手を見て、相手の動作一つ一つを見極めていく。

詰将棋のごとく相手を追い詰め、小細工なしに真っ向から叩き潰す。

現状、緑谷に勝つうえで一番の方法はこれ以外思いつかない。

最初は中距離からちまちまと攻撃していって相手の指の負傷を狙おうかとも思ったが、緑谷がそのあたりの対策をしていないとは考えづらい。

ならばさっさと間合いを詰めて接近戦で戦えば、こちらに分がある。

もちろん、彼の個性の強さは承知の上だ。

その出力如何では速さもパワーも圧倒的なモノとなるあの個性。

騎馬戦で使ってきたときは腕が壊れていなかったため、そこまでの出力を使っていないようだが、それでもその速さと威力は十分な脅威となりえる。

だが、逆に言えば自身が気を付けるべきはその個性と彼が『何をしてくるか』の二つのみということになる。

 

「やだなぁ…これは勝負、勝つのが良いならそれに越したことはないんだが…」

 

どうにも期待してしまう。

緑谷が自分にどんな策を弄してくるのか。

自分に勝つために、一体どんなことをしてくるのか。

それを想像すると、どうしても笑みがこぼれてしまう。

きっと、それで自分がまけそうになったとしても、自分はそれでもうれしいと感じてしまうのだろう。

 

ともだち(緑谷出久)と全力でぶつかり合えるってのは…やっぱりいいもんだよなぁ。それが強い奴ならなおさら…。)

 

そして…わずかに、ほんのわずかに笑みを浮かべながら衝也は座っていた席からゆっくりと立ち上がる。

 

その笑顔はいわば、強者と戦う喜びにみt

 

「さぁてと…でかい借りは利息も込みで倍返ししてやらないとなぁ…それが借りた奴の礼儀ってもんだからよぉ!

 

覚悟しろよ緑谷、この前俺が言った通り

 

お前の顔を一周回ってイケメンに変えてやるよ!」

 

…訂正

 

その笑顔は、今まで受けた恥辱のすべてをこの試合でぶつけようとする復讐者のそれだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁてとさてと!!息つく暇もなく二回戦に突入だ!!この荒波についてこれるかリスナーども!波に乗れずにおぼれた奴を俺は拾ったりしねぇからな!』

 

『それはお前、ヒーローとしてどうなんだ?』

 

『隣のミイラマンは冗談が通じねぇ!!これだから合理主義者の真面目バカは嫌いなんだ!!『おいてめぇ今なんて』つ~わけでさっそく行くぜ二回戦の第一試合!』

 

会場の熱が、プレゼントマイクの実況によってさらに勢いを増していく。

湧き上がる歓声が空気を震わせ、会場中に響き渡る中

 

緑谷と衝也が、ゆっくりとステージへ向かって歩いていく。

 

『障害物競争1位!騎馬戦4位と好調な滑り出しのこの男から紹介だ!!

地味目な顔して個性はド派手!

えげつない作戦で相手の度肝を抜いていく!

ヘタレ顔だがその根性はまったくもってへたれねぇ!!

今回もクレーバーな作戦で目の前の強敵を出し抜けるかぁ!?

 

緑谷ぁぁぁ出久ぅぅぅぅ!!

 

VS

 

一回戦ではその圧倒的な強さで優勝候補の轟を寄せ付けず!

あほな行動と見た目に騙されちゃいけねぇ!

こいつの洗練された強さはマジで化け物級!!

だけどやっぱりどこか雑魚っぽい!!

今体育祭一番のダークホース!

 

五十嵐ぃぃぃ衝也ぁぁぁ!!』

 

プレゼントマイクの紹介が終わると同時に、二人はお互いに視線を向ける。

そして、互いに硬く拳を握りしめる。

 

「よう、緑谷…とうとう来たぜこの時が…」

 

「五十嵐君…」

 

「前試合二つで受けた借り、ここできっちり返させてもらう…初っ端から全力で行くぜ?」

 

「うん…それでいいよ

 

僕も、全力の君に勝たなきゃ先に進む意味なんてないから。

全力の君に勝って、僕は…憧れた人に近づいていく!!

 

だから、負けないよ、五十嵐君!!」

 

「…!いいじゃねぇか…やっぱお前

 

最ッ高だぜ緑谷!!」

 

両者共に、拳をゆっくりと構えていく。

視線は決して外さずに、目の前の相手を見据えて

 

純粋な喜びを表すかのような笑顔を浮かべながら

 

『レディぃぃぃ!!START!!』

 

両雄ともに、ほとんど同じタイミングで前へと飛び出した。

 

 

緑谷の間合いと五十嵐の間合い、その二つがまじりあったその瞬間、すぐさま攻撃が仕掛けられた。

 

先手を取ったのは、衝也。

緑谷の鳩尾に向けて勢いよく前蹴りを放つ。

個性の衝撃が合わされば、その威力は大の大人でも一撃で意識を手放すだろう。

リーチも腕より長い分早く緑谷にたどり着く

その衝也の前蹴りを、

 

緑谷は上から両手で叩き落とした。

個性を許容上限の5%まで出して限界ギリギリまで強化したその両手で。

その緑谷の行動に、衝也の目がわずかに見開かれる。

だが、すぐさま空いた左脚を引き寄せ、その勢いそのままに彼のこめかみめがけてハイキックを放つ。

しかし、

 

その回し蹴りも緑谷の左腕が下から押し上げるようにして軌道を逸らした。

恐らくは個性で強化しているのだろう、蹴りの感触が普段とはやや違い、少しだけ固い。

緑谷の頭上を、衝也の蹴りが勢いよく通り抜ける。

 

「ッ…!」

 

「…ッし!」

 

だが、それで止まる衝也ではない。

鳩尾、こめかみ、頬、脛、腎臓、眉間、人中、すい臓

ありとあらゆる体の急所を拳や脚、果ては肘に膝などあらゆる方法で狙い続けるが

 

そのすべてが、緑谷に防がれる。

否、それでは少し言葉に語弊がでる。

自分の拳が、脚が、肘が、膝が、すべて緑谷の手によってその軌道をずらされていったのだ。

防ぐ、のではなくずらす。

横、あるいは縦、あるいは下

 

正面からではなくほかの方向から力を加え、衝也の攻撃をわずかに逸らし、その軌道に自分の身体を外させていたのだ。

 

(こいつ、俺の攻撃を…)

 

その動きを見て、衝也は確信する。

目の前の相手、緑谷は確実に

 

自身の攻撃の軌道が見えている。

 

むしろ、攻撃が見えていなければこのような芸当はほぼ不可能だろう。

衝也の攻撃を見て、軌道を確認し、ほんの僅かだけその軌道をずらし、攻撃を空振りさせる。

まるで一種の精密機械のような動きを、目の前の相手は実際に体現させている。

しかも、それを演武でもなんでもない実戦で、である。

 

(…おいおい、マジか…

 

正気じゃねぇぞそりゃぁよ)

 

思わず、心の中でそう呟く衝也。

無理もない

 

軌道をずらす

そういうとなんとはなしに聞こえの良いことをしているように思えてくるが、実際はそのリスクは大きすぎる。

例えるなら失敗の許されない千日手のような戦い方をしているに等しい。

少しでも判断を誤れば、少しでも対応が遅れれば、待っているのは想像を絶する威力の打撃。

衝也はただがむしゃらにこぶしを振るっているのではない、一発一発を寸分たがわず人体の急所に向けて打っているのだ、当たればほぼ間違いなく意識を刈り取られるだろう。

それは、おそらく戦っている緑谷も自分のどの箇所が狙われているかくらいはわかっているはずだ。

ならなおのこと、そんな相手に対してこんな戦い方は、普通はするべきではない。

相澤の言葉を借りるなら、合理的とは言い難い。

 

(これじゃあ大昔の戦争にあった特攻隊と同じようなもんだぞおい…

こんな状態で、一体どうやって逆転する気だよ緑谷ぁ!?)

 

眉間にめがけて放った拳をずらされながらそう緑谷に心の中で問いかける衝也。

 

もちろん、緑谷自身これが一秒の気のゆるみも立った一つのミスも許されないハイリスクな戦い方だということは理解している。

だが

 

今の緑谷には、この特攻にすべてをかけるしかないのだ。

今までの彼の動き、そして個性から見つけたその特徴、その隙をついて勝機をつかむのには。

 

(五十嵐君の個性は衝撃…その威力はUSJの時に見た通りこのワン・フォー・オールと同等かもしれないほどのすさまじさ。

けど…

 

その衝撃が出せるのは『手のひら』と『足の裏』という限定的な部分だけ。

ゆえに、それ以外のところは安全なんだ。

付け加えているなら、衝撃が出せる部分が限定的だからこそ、その拳の速度は、僕の個性とは違って強化はできていないはず!!)

 

そう、緑谷の読み通り、彼の個性は手のひらと足の裏という限定的な部分でしか発動できない。

つまり、それ以外の部分に攻撃を当てて軌道をずらすことはできる。

さらに、発動部分が限定されてしまうが故に、打撃の威力を上げることはできても、その打撃の『速度』を劇的に上げることはできない。

だからこそ、こうして緑谷はかろうじてではあるが彼の攻撃に対応できているのだ。

 

だが、逆に言い換えれば衝也は個性による速度の向上のない状態でも、轟が反応を窮するほどの打撃速度を誇っているということになる。

今こうして緑谷が対応できているのは、対人訓練やUSJ事件、そしてこの体育祭で彼の動きをひたすらに観察し、シミュレーションを重ねて来たからだろう。

 

轟との対戦の際に恋が口にしていた『圧倒的技術の洗練さ』

それが、彼のこの打撃の速度と正確さを生み出しているのだろう。

一瞬の隙も油断も絶え間もないその連撃。

それを一つ一つ払いのけながら、緑谷は必死に衝也の動きを追う。

 

自身に振るわれる拳や蹴りを払いのけながら一瞬の隙も逃すまいと衝也を見続ける緑谷。

そう、言うならばこれは根競べのようなもの。

どちらが先に集中力を切らすか、そして、どちらがその隙を物にするかという闘い。

絶え間なく続いていく打撃の嵐と、それをさばく緑谷。

 

試合時間はすでに7分を超えようとしていた。

 

 

(気を抜くな神経を張り詰めろ限界超えて動きまくれ!!

 

一瞬、ほんの一瞬でもいい!

彼にわずかに隙ができるのを、絶対に見逃すな!!)

 

そう自分に言い聞かせながら、緑谷は見えない希望の糸を手繰り寄せようと必死にもがき続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(って…緑谷なら考えてるんだろうな…)

 

自身の個性の特徴の確認、そして、緑谷が狙っているであろうものを予測した衝也は心の中でそう呟く。

緑谷の考えてることがわかる、というのは少しだけ語弊がある。

正確には自分が緑谷の立場ならどう動くか、そして、

 

自分がここまで考えているのなら、緑谷も当然同じことを考えているだろうという、ある種の信頼のような物が、彼を奇しくも緑谷の作戦の看破へと導いた。

 

淡々と、それでいて正確に緑谷の急所へめがけてと拳を、蹴りを、肘を打ち続ける衝也。

その拳は試合開始からほとんど何も変わってないように見える。

 

ただ一点

 

衝也が個性を使っていないという点を除いては

 

恐らく、緑谷の狙いは個性を使い続けることによって生まれるわずかな隙を狙い、カウンターを決めてくること。

さすがに右腕のタイムラグとデメリットの増加は知られてはいないだろうが、今この連撃においても個性の出力は普段以上に慎重に行わなければ痛みによって無意識のうちに隙ができてしまうだろう。

ならばいっそのこと、個性を使わなければその隙が生まれる心配はない。

幸い、緑谷は自身の振るう拳がすべて個性を使った一撃必殺のものだとおもっているだろう。

なら、彼のその思い込みを利用しないという手はない。

自身がただ拳を振るうだけで、彼は勝手に自身を追い込み、いずれ根負けし自ら隙を作り出す。

後はその隙を確実に狙い打てるように彼の動きを注視していればいいだけだ。

 

(惜しいな、惜しいな緑谷。

お前、本気ですげぇよ。

ここまでの攻防を、恐怖にも負けずに、こんな長い時間やり続けるなんて、普通の人間ならできゃしねぇ。

俺の攻撃をここまでさばける奴が、この学年に一体何人いるか…)

 

客観的に見ても主観的に見ても、緑谷は衝也より劣っている部分の方が多いだろう。

そんな緑谷が自らいつやられるかもわからない死地に飛び込み、しかもその死地で何分も相手の猛攻に耐えて反撃をうかがう。

必死に、自分より格上の相手の攻撃をさばききっている。

並大抵の人間にできるようなことではない、それだけの覚悟を持って、緑谷は自身に向かってきてくれたのだ。

それだけ、自分のことを認めてくれている。

自分が認めた友達が、同じように自分を認めてくれている。

そんなうれしいことはおそらく今後もそうはないだろう。

だが、今回は衝也が一枚上手だった。

個性の熟練度と、ほんのわずかな経験の差。

それが、緑谷と衝也の勝敗を分けた。

 

(間違いねぇ、緑谷はもっともっと強くなる…

 

今の俺よりも強く、過去のお前よりも強く!

 

 

だが!!

 

今ここでは少なくとも、俺はお前より強い!!)

 

そして、長く続いた攻撃の嵐が続き、その攻防が10分に突入しようというその瞬間

 

緑谷の顔がわずかに苦痛で歪み、

 

その動きがほんの僅かに停止した。

 

(ッ…!!来た!!)

 

その瞬間、衝也はすぐさま左拳を握りしめ

 

その一撃必殺の拳を緑谷の顔面へと全力で振りぬいた。

 

(今回は…

 

 

俺の勝ちだ緑谷ぁ!!)

 

そして、衝也の振りぬかれた拳が緑谷の顔面に突き刺さる

 

 

 

 

 

 

その刹那

 

緑谷は、衝也の懐へと勢いよく入り込んだ。

 

 

「…なッ!?」

 

空を切る衝也の拳

 

思わず懐へと視線を向けてしまう衝也。

そして、衝也の視線が、緑谷の顔を捉えたその瞬間

 

 

 

「20%…DETROITSMAAAAAAAAASH!!!」

 

 

 

彼の決死の右拳が彼の鳩尾に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衝也なら、気づくと信じていた。

自身のわずかな動きの静止、その隙に。

リスクは確かに高すぎる。

もしタイミングを間違えれば負けるのは自分の方だろう。

だが、緑谷が衝也を出し抜くにはもはやリスクを気にしている余裕はなかったのだ。

だから、緑谷はあの攻防の最中

 

一瞬、ほんの一瞬だけ

わざと(・・・)顔を苦痛でゆがめその動きを静止させた。

それは、奇しくも衝也が緑谷を信頼したように

 

緑谷も、衝也ならこの隙を確実に突いてくるだろうと信頼したが故の行動だった。

 

そして、彼の信頼通り、衝也は緑谷が動きを止めたその瞬間その拳を振り抜いた。

 

(来た!!)

 

緑谷はその刹那すぐさま身体をかがませて前へといき、衝也の懐へと入りこむ。

確かに、不規則にかつ絶え間なく続く攻撃を捌くことはできても懐に入るのは難しい。

だが、もしその攻撃のタイミングがわかるとするなら、話は別だ。

自分が動きを止めたその瞬間に攻撃が入るのならば、そのタイミングを見極めて懐に入ることは、できるかもしれない。

 

それは、自分の今の技量ではうまく行くかわからない危険な賭け。

だが、

その賭けに、緑谷は打ち勝ったのだ。

 

 

そして、緑谷は力強くその拳を握りしめる。

 

(5%…はだめだ、この一撃で決めるんだ!!5%じゃ仕留めきれない!

でも、100%はだめだ、しぬ!五十嵐君!

5…その倍、いや、もっと

 

 

20%で!!!)

 

 

「20%…DETROITSMAAAAAAAAASH!!!」

 

そして、緑谷の渾身の雄たけびと共に繰り出されたその一撃は

 

衝也の鳩尾に寸分たがわずに撃ち込まれた。

 

「…ゲェ、ハッ!」

 

轟音と衝撃波と共に吹き飛んでいく衝也の身体。

それと同時に、衝也の口から粘着質なよだれが飛び散っていく。

 

『うおおおおおおおおお!!もろだァァァァ!!

今の今まで攻撃らしい攻撃を受けてこなかったクレイジーボーイのどてっぱらにもろに入ったァァァ!!』

 

プレゼントマイクのテンションアゲアゲな解説が響く中、ステージの上をバウンドしながら吹き飛んでいく衝也。

そして、あわや場外に行きそうになるその寸前

 

「…んがぁ!!」

 

雄たけびと共に後方へと衝撃波を飛ばし、身体を強引に前へと進ませて何とか場外を回避する。

 

そして、鳩尾を抑えて苦しそうにむせ込み、激しく肩を上下させる衝也。

無理もない、20%とはいえオールマイトの個性をまともに喰らったのだ。

その威力は尋常ではない。

 

(な、んだこの威力…!!ヤオモモの大砲が可愛く思えんぞおい!!?)

 

 

歯を食いしばって額に脂汗を浮かべる衝也。

だが、それでも何とか呼吸を整えてゆっくりと立ち上がり、目の前でたたずむ緑谷の方へと視線を向ける。

 

『おおっと!!苦しそうだが、それでも何とか立ち上がるクレイジーボーイ!その闘志の炎いまだ消えず!!さあ対する緑谷は千載一遇のチャンスだぁ!!こっから巻き返しなるかぁ!!』

 

プレゼントマイクの実況と、観客の声援がより一層激しくなっていく。

 

そんな中、緑谷は顔を下に俯かせたまま、ゆっくりと身体を揺らし

 

 

 

そのまま、糸の切れた人形のようにその場に倒れ込んだ。

 

『…WHY!!?な、なんだなんだどーなった!!?攻撃を仕掛けた緑谷がまさかのダウーン!!ちょっと、マジでどーした気張れ緑谷!?』

 

プレゼントマイクの声が響く中、衝也はゆっくりと視線を伏している緑谷へと向ける。

そして、ミッドナイトが緑谷の方へと近づいて、声をかける。

 

が、返答はない。

 

 

衝也の攻撃の嵐を潜り抜け、彼を騙し抜き、起死回生の一手を放った緑谷は今…完全に意識を失っていた。

 

『…緑谷くん、行動不能!!勝者、五十嵐くん!!』

 

ミッドナイトによって宣言される衝也の勝利

 

だが、大半のヒーローたちはなぜ緑谷が意識を失ったのかが分からずザワザワとざわついている。

そんななか、衝也はゆっくりと緑谷の方へと歩み寄り、その身体を、ハンソーロボよりも早く担ぎ上げ、背中へとおぶさらせた。

 

「負けたよ、緑谷…マジで負けた…。

 

借り…返すどころか増やされちまったぜ。

この、似非へたれ野郎がよ…

 

本当に最ッ高だぜ…緑谷。」

 

そういって緑谷の方へと顔は向けずに、少しだけ笑みを浮かべる。

その顔はどこか優し気で、それでいて

 

どこか嬉しそうな雰囲気をまとわせていた。

そして、ステージを降りていく二人の背中に、

少しだけ遅れるように

 

たくさんの歓声と拍手が浴びせられた。




せ、瀬呂ぉぉぉぉ!!
こんなところでも一撃なのかぁぁあぁ!!


とまあそんな冗談は置いといて。

今回は純粋な殴り合い…じゃないや
一方的な殴打VS鉄壁の捌き

みたいな感じの試合になりました!
なんか一種のホコタテ対決みたいな感じになりましたね…。

さて、最後に一体何が起きたのかはまた次回に持ち越しです!!



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