可愛い、ああいうマスコットがほしい!
てなわけで二十八話です、どうぞ!
耳郎響香がヒーローを志したのは、実はそれほどの大きな理由はない。
両親が二人とも好きなことを好きなようにやってきた人だから、彼女自身にも割とやりたいこと、好きなことを好きなようにやらせてくれた。
習い事だって色々やらせてくれたし、様々な事に触れる機会も与えてくれた。
そんな彼女が特に興味を惹かれたのは二つ。
一つは音楽
両親が音楽関係の仕事をやっている上に個性がそういった方向性に有効的なモノであるからかロックをはじめとした音楽に興味を持ち、練習をしたおかげで今ではギターや、ベース、ドラムなどの楽器も弾けるようになった。
そして、もう一つがヒーロー。
個性が発動し、様々な動機でヒーローを目指すものが増えて来たこの時代。
人を救うことで得られる名声を求めて、あるいは報酬を求めて、あるいは、人を救うというその姿にあこがれて。
重く、大きい動機をもってヒーローを目指すものから軽くて小さい動機でヒーローを目指すものまで…
個性やヒーローだけでなく、そのヒーローを目指す動機すら千差万別となっているのがこのヒーロー飽和社会の現状。
その例に、もちろん彼女自身も入っている。
周りのほとんどがヒーローを目指しているし、自分だってできるならヒーローになって皆から注目されるようなかっこよくて強い人間になりたい。
いつぞやのテレビで見た自身で作曲作詞したCDを売り出して爆発的に人気となったロックンローラーヒーローみたいに、副業に自分の歌を出してみたりできればなおのことよし。
そして、できれば貧困で歌もろくに聞けない人たちに自分で作った歌を披露して、歌手としても、ヒーローとしても誰かを救えるような人間になれればいい。
それが、彼女がヒーローを目指した理由だった。
だが、それはあくまでヒーローに『なれればいい』という範疇は出なかった。
仮にヒーローになれなくても、両親のように音楽関係の仕事につけば自分の好きな音楽は続けられる。
周りの友人も大半は自分と同じように「かっこいいから」とか「収入がよさそうだから」とかそのような理由ばかり。
皆、耳郎と同じように心のどこかで本気になれない部分が、覚悟が足りてない部分があった。
だが、そんな彼女の考えは、国内屈指の名門ヒーロー科を持つ雄英高校に入学してガラリと変わった。
より正確には、入学してすぐに訪れたUSJの敵襲撃事件の時に、
五十嵐衝也に救られたその日から。
最初は、ずいぶんと間抜けな奴がいるというのが正直な感想だった。
入学早々遅刻はするし、話をすれば適当な事ばかりいうし、動けば奇行を繰り返してばかり。
中学とは違い、ほとんどの者が真剣にヒーローを目指しているこの環境でよくもまぁこんなことができると逆の意味で感心していた。
きっと彼はここにいるほとんどの者とは違い『軽い』気持ちでここにいるんだろうなぁ…とかなり失礼なことを想っていたのは今でも覚えている。
だが、実際はまるで逆で
『軽い』気持ちでヒーローを目指していたのはほかならぬ自分自身だということを、あの事件で嫌というほど思い知らされた。
息も絶え絶えで、血だらけなその身体を引きずって
振るうことすらままならないその手のひらを握りしめて
吹けばそのまま消えてしまいそうな自分の命を犠牲にして
最後の最後まで、耳郎達を、自身の大切な友達を救おうと戦い続けた衝也。
その姿には、まぎれもなく『人を救う』ための覚悟が現れていた。
そして、そんな彼の姿を見て初めて耳郎は人を救うということがどういうことなのかを知ることができた。
あの時
衝也自身の流す血の海に倒れ伏し、まるで死んだかのように動かなくなる彼を見て
耳郎は初めて、人を救えない怖さを、『命』を失う恐怖を感じた。
まるで、心の中に突然できた黒い染みがじわじわと心の奥へと侵食していき、自身をむしばんでいくような感覚。
そして、その黒が、やがて一つの小さな穴に変化するような感覚。
どうあがいても、決して埋めることのできないその小さな穴に、耳郎はひどく恐怖を感じたのだ。
そう
人を救うということは『命』を救うことであり、
人を救えないということは『命』を失うということを、彼女はこの時知ることができたのだ。
ヒーローは、『命』を救うからこそ『命』を賭して敵と戦う。
たとえ血だらけになろうとも、たとえその拳が振るえなくなろうとも
たとえ自分の命が消えてしまいそうになったとしても
目の前の救うべき『命』を救うために、その命を燃やすからこそ、ヒーローはヒーローと呼ばれるのだろう。
そのことを『知ってから』彼女のヒーローになりたいという想いが、少しだけ変わっていった。
ヒーローになりたいではなく…『大切な人を守りたい』という想いへと変わっていったのだ。
それは、『本当』にヒーローを目指す者が持たなければならない根本的な想いの一つ。
大切な人を失いたくないから、大切な人を傷つけたくないから、大切な人を笑顔で守り切れるような強いヒーローになりたい。
あるいは
その失う苦しみを、誰にも味合わせないために、もっと強くなりたい。
その想いがいずれ他者にまで及んで初めて、ヒーローは生まれるのだろう。
自分の弱さを知って、彼女はほんの少し変わることができた。
命を失う怖さを知って、もう誰も失いたくないと想うことができた。
誰かを守れなかった自分を知って、初めて誰かを守れるような人になりたいと想うことができた。
五十嵐衝也という、彼女にとってのヒーローに出会って初めて耳郎響香は
本当の意味で『ヒーローになりたい』とおもうことができたのだ。
彼女が知ることができた多くのことは、彼女の中の『ナニカ』を大きく変えた。
そのナニカを変えられた少女の思いが、覚悟が、信念が
そして何より…その少女を変えるきっかけを作ったとある少年に対する少女の想いが
遠くない未来、その少年の『ナニカ』を変える切っ掛けへとつながっていく。
「うあー、緊張する…おなか痛い…」
体育祭トーナメント出場者用の控室。
その控室の椅子に座りながら体育祭が始まる前と同じような言葉を発死ながら、耳たぶのプラグを揺らし険しい表情を浮かべているのはもうすぐ試合が開始となる耳郎響香だ。
控室にあるテレビの画面には先ほどの試合の勝者にして彼女の友人であるケロリンガールの顔がアップで映し出されているが、残念な事にその画面は耳郎の視界に入ってはいない。
耳の中で何回も何回も、普段の何倍もの大きさと速さで繰り返されるその心音が、彼女がどれほど緊張しているのかをほかならぬ自分自身へと伝えてくる。
ほとんど反射的に触ってしまった耳たぶから、プラグへと流れ出ている心音が発する振動が伝わってくる。
当然だ、緊張なんて、しないわけがない。
何百、何千…いや、中継を通してテレビを視聴している人達を合わせればそれこそ何十万という人たちが自分の姿を見ているのだ。
それだけでも緊張するというのに、今から行うのは同級生との己の想いや夢をかけた真剣勝負。
クラスの中の女子の人数が少ないせいか、1-Aのクラスの女子たちはかなり仲が良い。
体育祭前の時に一緒に集まってトレーニングをして、その帰りに軽く飲み物を買って談笑するくらいには。
だからこそ、八百万のすごさというのは嫌というほど感じて来た。
このヒーロー科最難関高校、雄英の推薦を経て入学してきた八百万。
それだけでもすごいというのに個性も万能でそれに合わさって優秀な頭脳もある。
そんなに優秀でありながら下学上達の精神で常に前へと進もうとする姿勢まで見せるのだからもはや嫉妬を通り越して感心すらしてしまう。
上鳴の言うことをまねるつもりはないが、そんな才能の塊のような人物を相手にするのに、緊張するなというほうが無理な話である。
(こういうとき…衝也なら何すんのかな…)
思い出されるのは、緊張のきの字も知らなさそうなお調子者の顔。
いや、正確にはそういう風にふるまうのが得意な奴の顔といったほうが正しいのかもしれない。
緊張をしても、それを決して表に出さずにいつも通りにふるまう。
まぁ、彼の場合は本気半分演技半分といった感じだろうが、それでも緊張を人目に見せないというのは、今こうして最高潮に緊張している身からしてみれば凄いことだと感心できる。
衝也なら、こういう時どういうことをしてるのだろう?
衝也ならこんな時、何を想っているのだろう?
衝也ならこんな時、自分になんと言い聞かせているのだろう?
頭の中にめぐる『衝也なら』という言葉を反芻させていた耳郎は、少しだけ目をつむった後、小さく「ばっからしいなぁ…」とつぶやきを漏らして苦笑を浮かべる。
何が、『衝也なら』だ。
自分は、耳郎響香で、五十嵐衝也じゃない。
彼のように強くなりたいと思うことはできても
彼になることはできはしない。
彼に近づくことはできても、彼になることなどできはしないのだ。
でも、彼に憧れている身としてはどうしても衝也だったら、という考えを捨てきれない。
衝也自身に言えば絶対に調子に乗るだろうから言えない自分のひそかな憧れ、いわば目標に近いだろう。
あの日の衝也を見て、傷だらけの身体で自分たちを守ろうとする衝也を見て、
初めて人を守りたいと強く思うことができた時から
耳郎はいつかきっと彼に認められるほど強くなりたいと思うようになっていた。
そして、できることなら、彼に守られるのではなく、彼の隣で、彼を守れるような存在として強くなりたい。
そうすればきっと、彼の傷つく姿を見ることがなくなるかもしれないから。
自分の力で、大切な人を守れるようになるかもしれないから。
誰も失わずに、誰かを笑顔で救えるような、そんなヒーローに慣れるかもしれないから。
(…ってあれ?ちょっと待って?ウチの目標は衝也のように強くなることでしょ?あれ?ウチの目標は誰も失わないようなヒーローになることで…そのために衝也みたいに強くなろうって思って…だから衝也に憧れて…アレ?
それじゃあ別に衝也に認められる必要も衝也を守る必要もないじゃん…え、ちょっと待って何この感じ…なんか…凄いモヤモヤするんだけど…)
おもわず自分の中の想いに首をかしげてしまう。
なんだか、色々なところがいろいろな風にこんがらがって散らかってぐちゃぐちゃになってる気がしないでもない。
だが、不思議と嫌な気分はしない…が、逆に良い気分もしない。
なんだか、喉に刺さった小魚の骨が取れないような…小さな、本当に極些細な違和感というか、そんなものを見つけたような気分である。
だが、そんな些細な違和感も、ふと視界に入った時計によって吹き飛ばされる。
「あ、ヤバ…もうそろそろ…」
自分の試合の時間だ。
その言葉は発されることはなく彼女の奥底へと飲み込まれていく。
そして、先ほどの違和感によって消えかけていた緊張が、その違和感を心の隅へと押しやっていく。
(…今は、そんなことより目の前の試合に集中しないと…。うぅ…まだ心臓がバクバクしてる。落ち着け、落ち着けウチ…深呼吸深呼吸。)
スーハ―スーハ―と、深呼吸にしてはだいぶリズムも息も浅い呼吸を繰り返しながら閉じていた瞼をそっと開く。
そして、未だ高鳴っている心臓の音を耳に響かせ続ける耳郎は
(そうだ、一回トイレ、トイレ行っとこう…。)
苦し紛れにトイレに行こうと控室のドアを開けて、
「よぉそこのさえない顔したイヤホンガールもうすぐ試合だ準備はいいか俺は太鼓のばちもハチマキもして準備万端だぜアーユーレデ…」
恐らくは人類史上最高速のスピードで扉を閉めた。
それは、人間としての防衛本能だろう。
目の前にハチマキをして太鼓のばちをぶんぶん振り回す学ラン姿の青年がいたら誰だってかかわりたくはないだろう。
そういった一種の防衛本能は彼女を人類の頂点へと導いたのだ。
「……」
「お、また開いた。」
だが、一度見てしまった以上かかわらないわけにもいかないだろう。
それが知人であればなおさらだ。
ここで先ほどみた変人を相手にしないという選択はどうあがいても耳郎にはできなかったのだ。
だって、こうして扉の前でまだ待機してるし。
「一応聞くけど…衝也、アンタここで何してんの?」
「おいおい、ひどいじゃねぇか耳郎。いきなり扉を閉めちまうなんて…俺まだ最後まで言葉言ってなかったんだぜ?」
「いや、だからなんでアンタがここにいんの?」
「お前のためにわざわざハチマキと学ラン着て、しかも八百万にお願いしてグラサンまで用意したんだぜ?これでリーゼントのカツラでもあればもうそれでナウでヤングな応援団の歓声だったのに…さすがにそこまで時間がなくてさぁ。でも雰囲気は出てるだろ!?」
「ごめんウチと一回会話成立させよう?あとナウでもないしヤングでもないからその恰好。今どき学ランの応援団とか絶滅危惧種でしょ。」
まったく会話を成立させようとせずに自分の服装のことを話し出す衝也はげんなりとした様子で控室の扉から出てくる耳郎のその言葉に対して若干ショックを受けたような表情を浮かべた。
「え、嘘…かっこよくないコレ?」
「ダサい、古い、キモイ…およそかっこいいなんて感想少なくともウチは一ミリも持たないけど。」
「…ソウデスカ」
「それで?さっきも聞いたけどアンタはなんでここにいるの?」
がっくりと肩を落として落ち込む衝也のことなどまるで気にしない様子で問いかけを続ける耳郎。
最早彼の奇行にも慣れてきてしまっているということなのだろう。
何の役にも立てない耐性ができてしまい心の中で耳郎も情けないやらなんやらで複雑な気持ちになる。
「いや、せっかく学ラン着てるから誰かの応援をしてみたくなってだな…」
「…とりあえず、もはやツッコミどころが多すぎるからツッコまないけどさ、なんでよりにもよって今で、しかも対象がウチなわけ?」
「いや、耳郎だけじゃないぞ!八百万のところにはもう行ってきたところだ!一度受けた恩義もあるしな!」
まぁグラサンもらうついででもあるけど!と愉快そうに笑う衝也だが、耳郎としては恩をあだで返された八百万に同情しかできない。
「…はぁ」
「?どうした耳郎?試合前からため息なんてついたらツキが逃げるぞ?」
「誰のせいでため息ついてると思ってんの?」
「…?あ、もしかして俺だったり!?なーんてちょっとしたジョークを…」
「わかってるならどうにかしなよほんとに…。」
「…え、いや、今のはジョークなんだけど…え?」
耳郎の険しい表情に少しだけ戸惑ったような表情を浮かべる衝也。
そんな彼を見て、思わず耳郎は再度ため息をついてしまう。
どうしてこうも戦ってる時といないときの差がこんなにも激しいのだろうか。
これさえなけでば冷静で判断力もあっておまけに実力も折り紙付きな超優秀な人物になるというのに。
時々、彼を見て、USJの時のあの姿は幻覚じゃないかと思ってしまう時すらあるほどだ。
自分があこがれた人物であるということを思わず忘れそうになってしまう。
ましてやこんな試合前の緊張している時に来られたら邪険な扱いをしてしまうに決まっているというのに。
彼には試合前というピリピリとした時間のことが理解できないのだろうか?
(うぁー、衝也の変な奇行のせいでまた緊張がぶり返してきた…)
もともと緊張していたというのに、衝也の奇行というダブルパンチでさらに表情を険しくしてしまう。
小さく「集中、集中…」と何度もつぶやきを漏らす耳郎。
そんな彼女を数秒、見つめ続けていた衝也は、ふと何を想ったのかゆっくりと彼女の方へと近づいていった。
そして、
「ヘイイヤホンガール!」
「ああもううるさいなぁ!ちょっと今は話しかけないで集中してん、だ…か…ら…」
振り向いてきた耳郎の耳たぶをつかみ、伸ばしたり縮ませたりして遊び始めた。
「…何やってんの?」
「ふーむ、なかなか面白いな、伸び縮みすんのね…しかもこれだけ細いのにしっかりと耳たぶの感触がある…」
耳郎の言葉に返答はせずに不思議そうに耳郎の耳たぶをいじりまくる。
そのどことなく自分が触るのとは違うくすぐったい感触にむずむずしながらも、耳郎は何とか再度衝也へと問いかけをする。
「…ねぇ衝也、もう一回だけ聞くけどアンタウチのイヤホンで何を」
「心配すんなよ」
「…は?」
耳たぶをいじくりながら耳郎の言葉を遮った衝也に、思わず気の抜けた返し方をして目を見開いてしまう耳郎。
そんな彼女の反応に気づいているのかいないのか、衝也は耳たぶを軽く持ち上げて耳郎の方へと向き直った。
「今日のために、強くなろうと努力してきたんだろ?自分の想いのために、ここまで強くなってきたんだろ?だったら、あとは前だけ向いて、自分の道を突っ走ればいい。
大丈夫、前にも言ったろ?耳郎、お前は強いんだ。
お前のその想いは、覚悟は、信念は…今この場にいる誰よりも強い。お前の流した涙も、強くなるためにしてきた努力も、誰かのために動けるお前のやさしさも…
全部俺は『知っている』
だから、勝って来いよ耳郎。
んで、決勝戦でまた会おう。
そんときゃ俺も全力でお前をぶっ倒してやるよ。」
そういって、少しだけ唇を釣り上げて薄く笑う衝也。
そんな彼の姿に、一瞬だけ目を見開いた耳郎は、
少しだけ顔を俯かせた後、イヤホンを勢いよく衝也の手元から離して、身体を彼とは反対の方向へと回転させた。
「…アンタこそ、今からそんな偉そうなこと言って決勝行く前に負けたりしないでよ?
もし決勝戦でウチの前に立ってたのがアンタじゃなかったら、鼻で笑ってやるから。」
「はは、ならこれからさらに気を引き締めて戦わないとなぁ!」
まいったまいった!という風に後頭部に手を置く衝也。
だが、そんな彼には視線を送らずに耳郎は前へと進んでく。
その背中を、衝也は嬉しそうに見送っていく。
だが、そんな衝也には目もくれずに前へと歩いていく耳郎。
後ろは振り返らずに、前だけを見据えて歩いていく。
やがて、目の前に小さな光が見えてくる。
薄暗い廊下を歩いたその先にある光の向こうは、多くの観客と、己が戦う相手が待つステージ。
だが、彼女の表情には
先ほどのような不安も、緊張も、一切浮かんではいなかった。
(…ありがと、衝也。)
心の奥底で、面と向かって彼には言えなかったお礼を述べてから、耳郎はそのステージへと向かってく。
ステージへと出た瞬間にたたきつけられる歓声と視線。
幾千の視線が降り注ぎ、湧き上がる歓声が会場を揺らす。
だが、それでもなお、耳郎はステージへと向かって歩みを進めてく。
一歩一歩、踏みしめるように、ステージの中央へと向かって歩いていく。
そして、彼女がステージの階段へと足を踏みかけると、会場中に雑音混じりのプレゼントマイクの声が聞こえて来た。
『よっしゃよっしゃ!!第五試合の熱が冷めないうちに、ちゃっちゃか次の試合にいっちまうぜ!!まずは最初に!主に男性リスナーの目を引いてるこいつからの紹介だ!!
万能個性に頭脳明晰!おまけにスタイルは超抜群!神様から三つのギフトを与えられた超エリートお嬢様!
果たしてこのトーナメントでも女神に微笑まれ、優勝という名のギフトをもらうことができるのか!?つーかこいつがもう女神だろ!
1年A組ヒーロー科!八百万ぅぅぅ百ぉぉぉぉ!
バァァサァァス!!
持てる八百万とは反対に持たざる少女の登場だ!
そのプラプラ揺れてるイヤホンから放てるめちゃくちゃストロングな爆音で!
相手のハートはブレイキンッ!
私の音に酔いしれなってか!?
1年A組ヒーロー科!耳郎ぅぅぅ響香ぁぁぁ!!』
「…後でコロス。」
先生の紹介に鬼のような形相を浮かべる耳郎。
そんな彼女の目の前にいる八百万は女神と呼ばれて照れてしまっているのか顔を俯かせてしまっている。
だが、やがて落ち着いた二人は目の前の相手を視認する。
くしくも
二人とも同じように笑みを浮かべながら
「耳郎さん…この勝負、どちらが勝っても」
「言葉は必要ないでしょヤオモモ」
「!」
耳郎の言葉に、わずかに八百万の目が見開かれる。
「勝つよ
ヤオモモが相手だろうが、誰が相手だろうが、ウチはもう
二度と
他ならない自分自身に誓ったんだから!」
そういってまっすぐ八百万の方へと視線を向ける耳郎はゆっくりとイヤホンを少しだけのばしながら
ゆっくりとその拳を握りしめた。
そして、
彼女のその言葉がまるでスタートの合図になるかのように
『レディぃぃぃ!!!
START!!!!』
戦いの火ぶたが、切って落とされた
人を救う=命を救う。
ヒーローが飽和し、人を救うことも、人に救われることも当たり前となっているこの時代でそれがちゃんと理解できている人はきっとすくないんじゃないか
そんなことを、ヒロアカを読んでいてふと思ったりしてます。
それに気づくことができた耳郎ちゃんはきっと強くなるんじゃないかと、わたしはそう思いたい!
てなわけで、試合は次回に持ち越し!
ハガレンコラボを開始したナイクロをやらなければ!!