救える者になるために(仮題)   作:オールライト

26 / 39
さて、いよいよトーナメントですね。
いやぁ、わくわくが止まりません。
ですが!
その前にいくつかクッションを入れさせてもらいます。
ちょっと私のメンタルがやられてしまいそうなので。
今回もそんなクッションの一つですね。
あ、あとあとがきでそれなりに重要かもしれなくもなくなくない話をします。
よろしければ読んでいただけると嬉しいです。
それでは、二十話です。
どうぞ


第二十話 できれば会いたくない人ほど再開する確率は異常なほど高かったりする。

緑谷出久と五十嵐衝也

二人のたった数秒間の戦いは衝也の勝利で幕を閉じた。

プレゼントマイクの自慢の大声で試合の終了が告げられた後、緑谷は麗日や発目などが駆け付けるまで呆然と地面に仰向けで倒れ込んでいた。

麗日や常闇が必死に彼に声をかけて身体を起こしているその様子を興奮冷めやらぬ観客席の中で見つめている者たちがいた。

周りがいまだ騎馬戦の熱を帯び続けているのに対し、ひどく冷静で落ち着いている様子のその者たちの頭の上には『S』という文字が真ん中に記された学帽がかぶられている。

世間一般的な常識によほど疎いものでない限り、その学帽を目にすれば、彼らが何者かは容易に考え付くだろう。

 

『西』の士傑

 

星の数ほどあるであろうヒーロー科の学校の中でも最難関とされている雄英高校。

その雄英に匹敵するほどの難関名門高校、その名を士傑高校。

その二つの難関校はそれぞれ『西』の士傑、『東』の雄英としてヒーロー科最難関の双璧をなしている。

 

雄英が自由な校風を売りとしているのならば、士傑の売りは厳格な校風。

生徒の一挙一動が士傑高校のあり方を表しているという考えのもと、生徒は活動時学帽を身に着けるようになっているほどだ。

言い換えれば、それだけ生徒たちの意識が高く、それだけ誇りも持っていることになる。

その厳格さと意識の高さで士傑高校は雄英高校と並ぶ難関校になったのだ。

 

「…あの五十嵐という男、強いな。」

 

そんな名高い士傑高校の学帽をかぶった団体の中にいる一人の男が、忌々しそうに口からつぶやきを漏らした。

その男の目は限りなく細くなっており、それが素なのか会場が見にくいから目を細めているのか判断しにくいほど細くなっていた。

 

「言動、立ち振る舞い、闘い方。どれも雄英高校の品位を貶めるほどの下劣なものばかりだが、こと実力に関してはあの男はほかの生徒たちとも一線を凌駕している。」

 

「おお!先輩がそこまで言うなんて、あの五十嵐っていうやつまじでアツいじゃないっすか!!いやでも、俺もあの人の戦いは見ててマジ胸が熱くなりましたよ!!あの人まじアツいっすね!!」

 

細めの男のつぶやきが耳に入ったのか、今度は隣にいたいかにも熱血といった感じの丸坊主頭の男が勢いよく笑顔で細めの男の方を向いて大声で叫び始めた。

その大きすぎる声に細めの男は「うるさいぞ、もう少し小声で話せ、品位に欠ける」と言って片耳を指でふさいだ後、また視線を会場の方へと移した。

その目は、耳郎や蛙吹に笑顔でハイタッチを要求している衝也に向いている。

 

(先の緑色の髪の毛の少年との攻防のやり取り、もしあれと同じことをしろと言われても、私には不可能だ。あまりに卓越しすぎている。)

 

細めの男が注視したのは騎馬戦終了間際の緑谷と衝也のやり取りだった。

 

(あの緑の少年が右腕を振りぬいたその速度は通常よりも数段速くなっていた。あそこまでの至近距離で放たれればよほどの者でない限りよけるのは難しい。普通は防御姿勢をとるのが一般的だ。だが奴は違った。奴は、緑の少年が攻撃しようとしたその瞬間身体を前へと進ませた(・・・・・・・・・・)。そして、わずか皮一枚の差で緑の少年の腕をよけ、そのまま彼の懐へと入り込み、彼の前進する力を利用し、後方へと投げ飛ばした。)

 

言ってみるとたいしたことはしていないように思えるが、少しでも戦闘訓練を受けているものならばその難しさが理解できるだろう。

相手の攻撃をよけて反撃するというのはそれほどに難しいのだ。

そもそも相手の攻撃を受けて(・・・)反撃するのでもかなりの訓練が必要とするというのに、避けてから反撃することが簡単なわけなどないのだ。

 

(相手の攻撃の軌道、いや…奴が見ているのはもしかしたら『起こり』かもしれないが、どちらにしても相手の攻撃を即座に見切れるほどの動体視力が奴にはある。その上回避後すぐに反撃ができるほどの戦闘技術に身体能力も備えている。どれも普通の高校生が到達できる技量のレベルではない。あの五十嵐という男…今まで一体何をしてきた(・・・・・・)?)

 

衝也のその圧倒的なまでの戦闘能力に思わずそんな疑問を抱いてしまった細めの男だが、しばらくの間会場を見続けた後、わずかに視線を後方へと向けた。

 

「どうやら貴様の目的(・・)である奴は予想以上の者らしいな…」

 

「肉倉先輩、あの人(・・・)ならもう走ってどっかに行きましたよ!!」

 

「…ふん、まあいい。それより、お前の方はどうなんだ、イナサ?」

 

イナサと呼ばれた丸坊主の男に指摘された細めの男は誰もいなかった後方へと向けていた視線を再び前へと戻した後、イナサに話を振った。

対するイナサは相変わらず笑みを浮かべたまま大声で叫び始める。

 

「肉倉先輩、いいって言ってる割には少し顔がしょぼーんってなってますけど!!」

 

「貴様、触れなくていいことに触れてくるな。それと私の話を無視するな、お前も見たいやつがいるからここに来たんだろ?」

 

「!ああ、そのことですか…」

 

「…どうした?」

 

肉倉と呼ばれた細めの男が話を振ったとたん、今まで元気そうだった声も表情も一瞬で消え去り、その表情が一変した。

それは、今までの明るい雰囲気の彼とは真逆の、怒りと憎悪と、わずかな悲しみが見え隠れするような暗い雰囲気を漂わせていた。

 

「…イナサ?」

 

「変わってませんよ。

 

一つも変わっちゃいない、闘い方も、立ち振る舞いも、あの眼も…何一つあの時と変わってない。」

 

「…」

 

尋常ではないほどの怒りを声に潜ませるイナサのその姿にわずかに目を細める肉倉はしばらくの間彼を見続けた後、くるりと身体を回転させてかつかつと毅然とした態度で歩き始めた。

 

「まぁ、少なくとも今の(・・・)彼であればお前が負ける確率は限りなく低いだろう…。お前がその気ならもっと鍛錬にいそしめばよし。それよりも先輩方を待たせてしまっている。早く集合場所へと移動するぞ。」

 

「…了解っす!!」

 

肉倉がそう声をかけるとイナサはまるで今までのことがなかったかのように笑顔で大声を上げた後、走って肉倉の後を歩いていく。

 

「あ!ていうか肉倉先輩!あの人(・・・)は探さなくていいんすか!?やっぱ集合するなら全員じゃないと…!」

 

「放っておけ、ああ見えて意外ときっちり約束は遵守する奴だ。集合時間内には戻ってくる。」

 

「けど、所在がわからないと後で苦労しそうっすけど!」

 

「ふん、どうせ件の男のところにでも行ったのだろう?ここに来てからのアイツはそれしか口にしていなかったからな。」

 

そういって肉倉は再び視線だけを会場の方へと送る。

その視線の先には、クラスメートと退場口の方へと歩みを進めている一人の生徒へと注がれていた。

 

(雄英高校の一年が敵に襲われたと耳にしたからこちらへと足を運んだが、予想以上の収穫があった。早急に対策を思考する必要性があるようだ。)

 

そこまで考えて肉倉はその細めを会場から外し、歩みの速度を速めていく。

そして、二つの学帽は観客の波に飲まれ、いつの間にかなくなっていた。

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

「衝也!てめぇきたねぇぞ横からハチマキかすめ取るなんてよぉ!あのまま行けば絶対爆豪がハチマキ取れたってのに!」

 

「え~、そんなにキャンキャン吠えられても何を言ってるのかさっぱりですなぁ瀬呂範太くーん。あいにくと俺は犬としゃべれるような個性は持ち合わせておりませんのでねー。口田ぁ、ちょっとこの負け犬がなんて言ってるのか翻訳こんにゃくしてくれない?」

 

「てめぇセロテープ、口に巻いて窒息死させるぞこの野郎!!」

 

「やってみろこの健康オタク。豆乳ばかり飲んでる贅沢野郎が水道水をひたすらがぶ飲みしてるこの俺に勝てると思うなよ!」

 

騎馬戦も終わり、昼休憩のため会場から移動をしている生徒たちの集団の中で、衝也は悔しそうにこちらに文句を言いに来た瀬呂を小ばかにしておちょくっていた。

案の定それに腹を立てた瀬呂がちょっかいを出そうとするが、瞬く間に衝也にチョークスリーパーを決められてしまっていた。

そんな二人を、衝也に話しかけられた口田が止めようとするが、どうすればいいかわからずあたふたと左右に行ったり来たりしてしまっている。

それに見かねた上鳴が慌てて止めに入る。

 

「おーい、とりあえずその辺にしとけよ衝也。口田も困ってるし、何より瀬呂がもう死にそうだぞ?」

 

「じょ、じょうや…ぎぶ、まじぎぶ…!」

 

上鳴に指摘された衝也が自分の腕にいる瀬呂へと目を向けると苦しそうな表情で自分の腕をタップしている瀬呂が今にも死にそうな声でこちらへと訴えかけていた。

それを見た衝也は「やれやれ、軟弱な奴よ…」と呆れた素ぶりをした後、瀬呂を解放する。

 

「ぷっはぁ…!!ああ、まじ苦しかった、空気がうまい…。いやほんと、マジ死ぬかと思ったわ。つーか、何サラッとチョークスリーパー決めてくれちゃってんのお前。」

 

「ふっ、豆乳などというタンパク質や食物繊維等が豊富でかつ味もまろやかでコクがあり、癖になるような味わいが魅力な飲み物など飲んでるような奴が俺に勝てるはずがなかったんだよ…。」

 

『い、五十嵐君…よだれ出てるけど…』

 

「ダニィ!?」

 

口田に指摘された衝也は慌てて自分の口元に出ていたよだれをふき取る。

そんな様子を見ていた上鳴はわずかに苦笑した後衝也に話しかけた。

 

「いやでも実際あんなタイミングで攻撃しかけてくるとは思わなかったわ。まさか梅雨ちゃんの舌を使ってハチマキ奪いに来るとは…えっと、ああいうのなんていうんだっけ…主婦の利だっけ?」

 

「…上鳴さん、それを言うなら漁夫の利ではないでしょうか?」

 

「おおそれだ!ヤオモモナァイス!」

 

上鳴の隣を歩いていた八百万は苦笑いを浮かべながら上鳴の間違いを訂正した後、視線を衝也に向けなおし、感心したような表情を浮かべた。

 

「しかし、上鳴さんの言う通り、文字通りの漁夫の利を狙った作戦でしたわ。ハチマキをとるタイミングも相手がそれぞれ攻撃と防御に意識を向けてしまっていた絶好のタイミングでしたし…。最初の戦闘訓練の時から感じてはいましたが、五十嵐さんはこういった作戦を考えるのが本当にお上手ですのね。わたくしも作戦立案等に関しては自信があったのですが、五十嵐さんには勝てそうにもありません…」

 

「いやぁ、そんなことないって。人の背後にいきなり大砲ぶち込むなんて言う卑劣極まりない行動をする八百万の神にはかなわねぇよ。」

 

「…すいません、あの時は本当に…。後ほど必ず謝礼を用意しますので…!」

 

「え、あ、いや嘘だからね!?軽いジョークだから!笑い話だからここ!そんな真剣にとらえんでも…ハウッ!?」

 

「何ヤオモモを責めてんのこのバカ。あれはあんたの自業自得でしょうが。」

 

 

自身の作戦をほめたたえた八百万に笑顔でジョークを返した衝也だったが予想以上に真に受けてしまった彼女に慌ててフォローを入れるが、その最中に横にいた耳郎に横っ腹を小突かれてしまう。

衝也を小突いた耳郎は呆れたように息を吐いた後、八百万の方へと笑顔で向き直った。

 

「大丈夫だってヤオモモ。このバカさっき見たように何事もなかったかのように元気だから。謝礼なんて上げないほうが良いよばかばかしいし。」

 

「いや、まあ大丈夫なのはそうだから否定はしないけどよ…バカバカしいっていうのはさすがに言い過ぎだと思うんだ俺…」

 

「それに、こいつは考え方が汚いからああいう作戦を思いつくだけであって、別に頭がいいとかそういうわけじゃないし。ヤオモモとは全然違うからそんな褒めないほうが良いよ。あんま褒めるとこいつ調子乗るし。」

 

「汚いなんて人聞きの悪い、効率の良い手段と言ってくれよ耳郎ちゃん。」

 

「ちゃん付けでよぶな気色悪い。」

 

「…耳郎、ウサ」

 

「このやり取りもウザいからもうやめて腹立つから。」

 

「…切島ぁ。ウチの子がとうとう反抗期に突入したんだけど…お父さん悲しい。」

 

「ぶれねぇなぁ、お前らも…。」

 

ばっさばっさと衝也の発言をぶった切っていく耳郎と、それに懲りずふざけ続ける衝也の根性に思わず彼の後ろにいた切島も苦笑してしまう。

しかし、耳郎の言葉を聞いた八百万は小さくかぶりを振った。

 

「いえ、そんなことはありませんわ耳郎さん。蛙吹さんと耳郎さんの個性それぞれの特性や活かし方を見つけ、それに合った作戦を立案し実行に移す。口で言えば簡単ではありますが、それを実際の戦闘で行うのはとても難しいことですから。それをこの短時間で実践できた五十嵐さんは本当に素晴らしいと思います。」

 

「うお!ヤオモモべた褒めじゃねぇか!?くっそ、やっぱ才能マンは違うなちくしょー!うらやましい!」

 

八百万の衝也への賛辞を聞いた上鳴は羨ましそうに両こぶしを胸の前で震わせる。

しかし、当の衝也はというと軽く後頭部を掻いた後、少しばかり思案顔で口を開いた。

 

「んー…確かに作戦を立てたのは俺だけどさ、本当に頑張ったのは蛙吹と耳郎の二人だからなぁ。俺はただ指示をしただけであって、結果を残せたのは作戦の要たる二人が成果を残してくれたからなんだよ。いくら作戦を立てたとしても、動く人間が優秀じゃなきゃ机上の空論でしかないし。」

 

「…五十嵐さん」

 

「いや、だからさっきも言ったけどウチは別に…。頑張ったって言ってもアンタの指示通りに動いただけだし…。」

 

衝也の言葉を聞いて両手を胸の前で合わせて感動したような様子の八百万。

褒められた本人である耳郎も否定の言葉を口にするものの、その様子はどことなく照れくさそうだ。

そんな耳郎に向けて衝也はビシィ!と人差し指を向けた。

 

「その『指示通り』に動くのが案外難しいんだぜ耳郎ちゃん。謙遜は日本人の美徳でもあるけどさ、時には自分の活躍を認めるってのも大事だと俺は思うぜ?」

 

「…ん、じゃあとりあえずそう思っとく、サンキュー衝也。」

 

衝也に笑顔でそういわれて、そっけなく返事をするものの少しばかりこそばゆそうに頬を掻く耳郎。

そんな様子を見ていた衝也は少しばかり笑みを浮かべた後、今度は親指を自分の方向に立てて少しばかり偉そうに胸を張った。

 

「まぁ、耳郎の言うように?作戦を立案し、最終局面で轟や爆豪、さらには緑谷という三人の強者達の攻撃を見事さばき切りハチマキを守り通した俺がマジ超最高かっこいい!ていう言い分もわからなくはないけどな!」

 

「ごめん、そんなこと一言も言ってない。それにアンタ別にかっこよくないでしょ。」

 

「…いや、知ってるよ?知ってるけどそんなはっきり言わなくていいでしょ。傷つくんだけど…。」

 

相変わらずのドライな返し方に思わず少し肩を下げてしまう衝也。

その二人の掛け合いが面白く、思わずクスクスと笑ってしまう面々。

 

「ちょ、みんなこのタイミングで笑わないでくれる?なんかこのタイミングで笑われるとかっこよくないことを肯定されてるみたいに感じるんだけど…」

 

「いや、実際そんなかっこよくねぇじゃん。やってることも姑息だし。」

 

「ごめん、熱血バカの単細胞は黙っててくれない。暑苦しい男ってモテないんだぜ?負け犬の遠吠えは瀬呂だけでおなか一杯なんで。」 

 

「…お前も大概はっきり言うよな、さすがの俺でも傷つくぞ?」

 

「体は傷つかないのにな。」

 

「うまくねぇよ!」

 

衝也のつぶやきに返答した切島だったが、衝也のまさかの返しに思わず突っ込みを入れてしまう。

そんな二人のやり取りが続く中、ふいに一人の少年から待ったコールがかかった。

 

「いやいや、ちょっと待てよ!五十嵐や蛙吹やちっぱいもすごかったけどよ。肝心のもう一人を忘れてねぇか?」

 

「もう一人?あれ、誰かほかにいたっけか?」

 

瀬呂が『あれー?』といった様子で首をかしげていると、その少年は今度は若干切れたように話を続け始めた。

 

「いただろうが!!三人と一緒に大活躍したおいらの雄姿を忘れたとは言わせねぞこの野郎!!そう、おいらの個性『モギモギ』の猛威をいかんなく振るいあまたの騎馬の動きを封じた

 

この峰田実様の活躍!おめぇらも見てただろうが!!」

 

「…え、ごめん。お前なんかしたっけ?」

 

「したから!序盤でかなりの活躍をしましたから!おめぇらは見てねぇかもしんないけど!」

 

どや顔で自身の活躍を誇示する峰田だったが、八百万や切島たちはみなポカーンとした表情しかしておらず、上鳴からは何をしたのか聞かれてしまう始末。

そんな様子に憤慨した峰田は視線を衝也と耳郎と蛙吹の同じチーム三人組に向けた。

 

「おめぇら!こいつらに教えてやってくれよ!オイラが一体どれほどの活躍をしたのかを!」

 

「え…お前何かしたの?ていうか騎馬戦出てた?記憶にないんだけど」

 

「出てたからね!?始まりから終わりまで終始ずっとお前の背中に必死にしがみついてたから!途中投げ飛ばされたけども!」

 

「ごめん、俺思い出したくもない嫌悪感と吐き気を催すような記憶は全部消去するようにしてるから。」

 

「あのさぁ!いくら何でもそこまで嫌わなくてもいいだろ!!オイラ男には何もしてないだろぉ!?」

 

「女に何かしてることに問題を見いだせていない時点でお前は人として終わってんだよ。」

 

衝也の情け容赦ない言葉に血涙を流す峰田は、彼から称賛されることはないと判断し、標的を耳郎の方へと移す。

 

「耳郎!お前ならオイラの」

 

だが、峰田が話しかけた瞬間、彼の目の前に現れたのこちらには突きつけられている二本のプラグだった。

 

「なぁ峰田。アンタ右目と左目、どっちから潰されたい?」

 

「え、ちょ、耳郎?おま、いきなりなにして…」

 

「で、峰田、さっき言ってたけど…『誰の』『どこが』ちっぱいなんだっけ?返答しだいじゃアンタ…殺すよ?」

 

「ヒーローが一番しちゃいけない宣言だろそれぇ!!」

 

「あんたがヒーローを語るほうがよっぽどしちゃいけないことでしょ。世の女のために今ここで死んどこうか峰田?」

 

怒りを通り越して殺意を表情に浮かばせる耳郎の様子に思わず身震いしてしまう峰田。

彼女のその顔は一切の感情が排除されており、目の前の怨敵をどうするかしか考えていない様が垣間見えている。

実際にその殺意を浴びせられていないほかの面々ですら恐怖を覚えるほどのその光景をまじかで見ている峰田はじりじりと耳郎と距離をとりながら顔を最後の一人にして希望の蛙吹へと向ける。

 

「あ、蛙吹!頼む、もうオイラの活躍とかどうでもいいから耳郎を何とかしてくれ!このままじゃオイラ少年漫画では見せられないような惨劇に合っちまう!」

 

「自業自得よ峰田ちゃん。そのまま耳郎ちゃんに一度お灸をすえてもらうといいわ。」

 

「ちょ、蛙吹!そういう冗談マジでいらないから!蛙吹?蛙吹さん!?あす、あすぅぅぅぅぅぅい!!」

 

峰田のヘルプコールも虚しく耳郎からの制裁が執行される。

そのわずか数秒後、彼の凄まじい絶叫が辺りに響き渡った。

そんな様子を見て若干引き気味になる口田だったが、ふと視線を衝也の方へと向けると、彼はその様子には目もくれずきょろきょろとあたりを見回していた。

その様子を見た口田は不思議そうに首を傾げた後、トテトテと衝也のほうへと歩み寄っていき、その肩をたたいた。

 

「ん?おお、口田じゃん。どうした、俺に何か用事か?」

 

『いや、そういうわけじゃないんだけど、さっきから何か探してるようだったから、探し物でもあるのかなって思って。』

 

こちらを見て不思議そうにしている衝也へとハンドサインで会話を始める口田。

衝也と口田、この二人は接点がないように見えて意外と仲が良く、こうして口田のハンドサインを理解できるほどには良好な関係を築けている。

というものも、これは衝也が基本的に分け隔てなく(峰田を除いた)クラスメートと接することができる人間だからという理由がある。

衝也は基本的に上鳴や切島、瀬呂とつるむことが多く、四人まとめてクラスのガヤ担当と呼ばれており、周りからはクラス一の三枚目という認識をされている。(本人は納得していない。)

底抜けに明るく、普段はバカな発言や行動ばかりしていることもあり、少なくとも話しかけづらいというイメージを持たれることは少ないうえに、本人も社交的でコミュニケーション能力が高いことも相まって、彼はクラス全員とそこそこ仲の良い関係を築けているのだ。

 

「あー、いや…探し物つうか探し人かな?轟とか緑谷とかの姿が見えないから、どっか行ってんのかなぁって思って。」

 

「轟さんと緑谷さんなら先ほど二人でどこかへ行っていましたけど?」

 

衝也が辺りを見渡しながらそう返事をすると、二人の会話を聞いていたのか近くにいる八百万が彼の疑問に返答した。

それを聞いた上鳴が意外そうに話へと乱入してくる。

 

「え、それってマジ?あの二人ってそんな仲良くないんじゃないのか?始まる前だって宣戦布告してたくらいだし。」

 

「そういえば姿が見えないで気づいたけど、爆豪の姿も見えねぇな…どこ行ったんだあの野郎。」

 

上鳴の発言に続くかのように今度は切島が衝也と同じようにあたりを見渡し始める。

その様子を見ていた耳郎はシュルシュルと耳たぶのプラグの長さを戻しながら口を開いた。

 

「緑谷も轟も二人の事情か何かがあるんじゃないの?爆豪は、あれでしょ。衝也に勝てなかったからイラついてどっかでストレスを文字通り爆発させてるんじゃない。」

 

「おお、耳郎中々うめぇこというな。」

 

耳郎の言葉に感心したような反応をする峰田。

その顔は原型がとどめていないほどぼこぼこになっており、次の最終種目に出場できるのか心配なレベルに負傷している。

ここまで顔がぼこぼこなのに普段と変わりなくしゃべれるのが不思議でしょうがない状態だ。

 

「んー、そうか…ならしょうがねぇか。」

 

「どしたの五十嵐君?そんなに三人のことが気になるの?」

 

「ま、気になるって程じゃないけど、そんなとこかなぁー。…ってちょっと待て、葉隠お前いつから俺の後ろにいたの?」

 

「えー、最初からいたよ!ひっどいなぁ五十嵐君。」

 

つい背後からの声に返事をしてしまった衝也だったが、そういえば後ろにはだれもいなかったような気がしたため、声の主であろう葉隠に声をかける。

対する葉隠は怒ったような声で衝也に返事を返す。

その返事に対して、衝也は後ろを振り返って葉隠に話しかけた。

 

「嘘つけ、さっきまで気配も何も…っておい、お前服はどうした?」

 

「あれ?五十嵐君見てなかったっけ?私騎馬戦の時上半身裸だったでしょ?」

 

「…お前、もしかして」

 

「うん、服はそのまま更衣室に置いてきたよ。」

 

「バカかぁぁおんどりゃぁぁぁ!!」

 

「うわッ!?」

 

衝也は葉隠の返答に叫び声をあげながら素早く自身のジャージを脱いで自身の大声に驚いた様子の葉隠の上半身を隠すようにそのジャージを羽織らせた。

 

「何公衆の面前で堂々と裸です宣言しとんのじゃこの痴女!いやまぁほんとなら騎馬戦でも服を着ていてほしかったけど!勝負だから見逃してやるかとか思ってたのにてめぇナチュラルで歩くわいせつ物か!?」

 

「痴女ってひどくない!?別にみられてるわけじゃないからそこまで気にしなくてもいいじゃん。」

 

「女としてどうなんだよ!?もっと恥じらいってものをもて!」

 

「もー、いちいち細かいなぁ。お父さんみたいだよ五十嵐君。」

 

ぎゃーぎゃーとわめきながら葉隠に羞恥と世間一般的な常識について説いていく衝也。

対する葉隠は表情はうかがえないため何とも言い難いが、声色からして少々うんざりしているようだ。

そんな二人の様子を見ていた蛙吹は少しばかり意外そうな表情を浮かべていた。

 

「五十嵐ちゃんってああ見えて意外に紳士的なのよね。普段の言動からは中々想像できないわ。」

 

「確かに、峰田さんが女性に何かする前にたいてい止めてくださいますものね。」

 

「ヤオモモも梅雨ちゃんも言い過ぎだって。大体、紳士が女子にただ飯要求したりしないでしょ。」

 

「耳郎ちゃん、厳しいわね。」

 

蛙吹の言葉に感心した様子で同調する八百万だったが、耳郎の容赦ない一言に思わず苦笑いしてしまう。

そんな三人を尻目にいまだ葉隠を注意し続けている衝也。

その長さに葉隠も疲れてきているようだった。

 

「うぅ~、五十嵐君、もう十分に反省したからさー、そろそろお説教やめにしない?私ちょっと疲れて来たんだけど…」

 

「いーや、葉隠みたいなタイプのやつには一度徹底的に締め上げないとまた同じようなことを…」

 

「あ、このジャージなんか五十嵐君のにおいする。不思議な感じ―。」

 

「葉隠、お前ちゃんと話聞いてる?」

 

峰田当たりが聞いたら興奮しそうな言葉を口にする葉隠に怒りを通り越して呆れた様子を見せる衝也。

 

「はぁ、ま、これ以上注意するとまたお父さんみたいとか言われそうだし、今日のところはこの辺で…」

 

「いったぁぁぁ!見つけましたよ被検体一号さん!」

 

「!この声…まさか」

 

そして、『なんかもう怒り疲れたし、そろそろいいか』と考えた衝也がOHANASHIを中断しようとしたとき、彼の背後からなかなかの大声が響き、思わず彼はその動きを止めてしまう。

そして、ゆっくりと後ろを振り返ると、額に変なゴーグルを装着している少女がずんずんと衝也の方へと近づいてきていた。

 

「やっぱりお前か発目。そんな大声出して、なんか用事か?あとその被検体一号っていう呼び方やめろ。」

 

「なんか用事かじゃないですよ!あなたのせいで私のかわいいベイビーたちの活躍をサポート会社の方々に見せるという目的がパァになってしまったじゃありませんか!」

 

「んなもん知らんがな。お前の発明品が役立たんかったから悪いんじゃねぇのか?」

 

「可愛いベイビーたちを作るために尽力してくださった被検体一号さんのいうようなセリフではありませんね!私とあなたが協力して作り上げたドッ可愛いベイビーのすごさは被検体一号さんも理解しているでしょう!?ともに汗を流し、共同して作り上げた私たちのかわいいベイビーたちを世に出したいとは思わないのですか被検体一号さん!いわば私たちの努力と愛の結晶みたいなものですよ!」

 

「ごめん、とりあえずその口閉じてくんない?周りがキャーキャーうるさいから。というかお前わざと誤解生むような言い回ししてない!?」

 

衝也と発目の二人が一緒に作ったかわいいベイビー

という意味深極まりないものをサポート会社に売りつけようと考えていた発目が衝也に文句を言い続けているが、その言葉の意味深さに葉隠や芦戸や上鳴らがキャーキャーと騒ぎ立てていた。

中でも上鳴は衝也の肩に手をかけて

 

「おいおいおいおいおい!お前一体何やったんだよ衝也ぁ!この子と一体ナニしてかわいいベイビーを作ったんだおい!」

 

「うるせぇぞ上鳴少し黙ってろ。」

 

「お、あなたは確か…電気の人!あなたのおかげで私のかわいいベイビーの改善点を見いだせました!ありがとうございます!」

 

「うぇい!?あ、ど、どういたしまして?あれ、俺なんかしたっけ?」

 

「ほら!先ほどの騎馬戦で私のバックパックベイビーを壊してくれたでしょう!?それのおかげで新たな改善の余地を見つけることができたんです!失敗は成功の母!これでまたかわいいベイビーを作ることができます!」

 

「え、どうしようまったく記憶にない。」

 

「つきましては電気の耐久力テストの協力をお願いしたいのですがよろしいでしょうか!?最初は弱い電力でもいいから長時間の電気にも耐えられるようにしたいのです。そのあと徐々に電圧を上げていこうと思っているので、できれば丸一日ほどあなたの個性を借りたいのですが!大丈夫です、ちゃんと一時間につき15分の休憩は与えますから!…たぶん」

 

「衝也、どうしよう。この子めっちゃやばい感じがするんだけど」

 

「あー、まぁ…常人とは程遠いわな発目は。」

 

言葉のマシンガンと共に醸し出される発目の熱量に思わずドン引きしてしまう上鳴の言葉に半ばあきれたように返事をする衝也。

すると発目が思い出したように上鳴から衝也の方へと視線を移した。

 

「あ、そうだ被検体一号さん!」

 

「うわ、こっちに来た!」

 

「今回の私に対するお詫びについてなんですがね」

 

「ちょっと待って俺まだお詫びするなんて言ってないんだけど?」

 

「実は私第49子になるベイビーを作ろうと思ってるんですけどね」

 

「いつも思うんだけどさ、たまにはよ…俺の意見も聞いてくれていいと思うんだが。」

 

「それにいつものごとく協力してくれれば今回のことは水に流して差し上げましょう!」

 

「…うん、もう、いいわ。俺が折れるよ、折れればいいんだろ!」

 

「おお!さすが話が分かる!それじゃあ、さっそく失礼します!」

 

がっくりと肩を落として協力を宣言した衝也を見て嬉しそうな笑顔を浮かべた発目は嬉々とした表情で

 

いきなり真正面から衝也の胸へと抱き着いてきた。

 

「んなぁぁ!!」

 

それを見て思わずといった風に声を上げる耳郎。

八百万なども口元に両手を合わせてキャーキャー言いまくっている。

 

「ふむふむ、なるほどなるほど。あれ、被検体一号さん、あなたまた筋肉量増えました?この前より一回り胸筋大きくなってますよ。」

 

「…発目、一応聞いとくぞ…てめぇ何してやがる?」

 

「いえね、実は今度作るベイビーは全身の筋力向上のためのパワードスーツを作ろうと思ってまして、とりあえずそのサイズを被検体一号さんに合わせようと考えているんです。そのための採寸を図ろうとしてます!」

 

「ならせめて人前でやらずに工房でやってくんねぇ!?人前でいきなり人に抱き着くとかマジでやめてくれよ!あらぬ誤解を生むだろうが!」

 

「おお?もしかして五十嵐衝也さん照れちゃってます?女子の身体が密着して照れちゃってます?」

 

「いやそれだけはないから安心しろ。お前が女子とか悪夢でしかねぇ。」

 

「うーむ、それはそれでなんだか心外ですね。さて、上半身は終わりましたし、次は下半身の採寸を」

 

「やらせねぇよ!?」

 

ようやく身体を離し、今度は下半身を採寸しようとする発目から即座に距離をとる衝也。

それをみた発目があきれたようにため息を吐いた。

 

「ちょっと被検体一号さん、そんなに離れないないでくださいよ。採寸できないじゃないですか」

 

「採寸なら後日メジャーをもってやりやがれこの痴女野郎!この学校の女子は変態ばっかりか!!」

 

「え、私に採寸されるために体操服一枚の姿になってたんじゃないんですか?」

 

「んなわけねぇだろどんだけ都合の良い解釈だ!」

 

ぎゃーぎゃー文句を言いまくる衝也とそれをかいくぐり何とか採寸をしようとする発目。

そんな二人を見ていた八百万は少しばかり意外そうに口を開いた。

 

「なんというか、意外とおモテになりますのね五十嵐さん。女性の方からあんなに言い寄られるなんて。」

 

「んー、あれって言い寄られてるっていうんかなぁー?どちらかというと実験台にされているような…」

 

「細かいことはいいじゃん!とりあえずこういう桃色的な展開私好きだよ!」

 

八百万、芦戸といった女性陣からそれぞれキャーキャー言われまくる衝也と発目の二人だが、発目とチームを組んだ麗日からするとあの二人はそんな桃色な関係ではなく実験動物と科学者のような関係性のようであるように見えた。

 

(…あれ?そういえば五十嵐君と発目さんってどうやって知り合ったんだろ?流石に知り合いじゃなければあんなにフレンドリーにはならんやろし…)

 

「なぁ耳朗ちゃん、あの二人って…ヒッ!?」

 

とりあえず隣にいた耳朗に二人がどうやって知り合ったのかを聞こうとしてそちらを向いた麗日だったが、突如その言葉を中断して短い悲鳴をあげた。

 

そこにいたのは、いつもの気さくで、大胆で、冷めていそうで実は乙女チックで、時おり見せる笑顔が可愛らしい彼女とは程遠い表情を浮かべていた。

眉間にはシワがよりまくり、心なしか彼女の周りから『イライラ』という擬音が聞こえてきそうなほど苛ついているのが手に取るように把握できる。

 

「…なんだかなー…釈然としない。なんでか知んないけどすごい腹立ってきたんだけど…。」

 

(ひぃぃ!?なんかブツブツ言い始めた!?耳朗ちゃんがデク君みたくなっとる!?)

 

更には小声でなにかをブツブツ呟き始めた耳朗を見て麗日は耳朗に話しかけるのは諦めてそっと視線を彼女から逸らし、再び衝也の発目へと向けた。

どうやら二人の攻防(?)はいつの間にか終わっていたらしく、発目がやたらと満足げな表情を浮かべていた。

 

「それでは被験体一号さん、約束通り後日改めてベイビーの作成に協力してもらいますからね!」

 

「それって結局この場でやらないってだけで後日また協力させられるってことだよな?」

 

「もちろん!」

 

「…どのみち俺がモルモットとして扱われるのは確定なんですね、わかります。」

 

ガックリと肩を落としながらとぼとぼと歩みを再開する衝也。

そんな衝也に涙を流しながら峰田が話しかけてきた。

 

「てめぇ五十嵐ぃぃ!おめぇいつからあんな可愛らしい女の子とベイビーを共同作業で作るような仲になったんだよ!?ていうかなんだあの羨ましすぎる状況!?オイラ女子から体の採寸なんてしてもらったことねぇぞ!オイラも下半身にあるリトル峰田を採寸してもらいてぇのに!!」

 

「おーおー、是非採寸してもらえ。たぶん10分もしねぇうちにお前のそのリトル峰田がメカニックな峰田に改造されちまうぞ。」

 

「おお、それはそれで面白そうですね…。流石の私も人の⚪器に手を加えようとは考えたこともありませんでしたので…。」

 

「やめろバカ。お前も一応性別は女と識別されてんだからむやみにそんな言葉をつかうんじゃねぇ。ったく、葉隠といい発目といい、この高校の女子に羞恥ってもんはないのか…。」

 

「『一応』とはまた失礼な言い分ですね。私の性別はれっきとした女なのですが?なんなら確認します?」

 

「まじでお前いい加減にしとけよ?」

 

峰田の発言に便乗するかのように自身へと話しかけていく発目に思わず疲れたようにうなだれてしまう衝也。

そんな彼に更にちょっかいをかけようとした上鳴が話しかけようとしたその時、ふと目の前に視線を送ると目の前の通りの真ん中に一人の人間がまるで通せん坊でもするかのように佇んでいた。

 

「?なんだあの人?あんな処に立たれると通行のじゃまなんだけどなぁ。」

 

上鳴の言葉を聞いた面々もまたその人に視線を送り始める。

そして、その人の姿を見た瞬間切島が軽く首をかしかげた。

 

「体操服じゃなくて制服を着てるってことは少なくともうちの生徒じゃないよな?誰だあの人?」

 

切島の言う通り、その人物は白のYシャツを羽織っており、頭には『 S』という刺繍のある学帽を被っていた。

顔は残念ながらその学帽を深く被っているため視認できない。

そんな中、八百万が突然なにかに気づいたのか驚いたように目を見開いた。

 

「!あの学帽…まさかあの人、士傑高校の?」

 

「士傑ぅ!?そんな有名どころの生徒がなんでこんなとこに?つーかここ関係者以外立ち入り禁止じゃ…」

 

八百万の言葉に驚いた様子の峰田がそう口にした瞬間

 

突然その人物はものすごい勢いでこちらへ向けて走ってきた。

 

「うお!?なんだなんだ?いきなりこっちに向かって来たぞ。」

 

切島が慌てた様子でそう言っている最中にもその人は勢いを上げてこちらへと近づいてくる。

そして、ある程度の距離まで近づいてきた瞬間、

 

その人は勢いをそのままに空中へとジャンプした。

 

『と、とんだぁ!?』

 

あまりの出来事に皆が半ば呆然 としている中、その人物は勢いそのままに空中を飛んでいき、

 

「……あれ?」

 

衝也のいる位置に向かって踵下ろしの要領で思い切り脚を降り下ろしてきた。

 

「おわっとぉぉ!?」

 

突然の攻撃に完全に油断していた衝也はすっとんきょうな声を挙げつつもなんとか後方へと下がり、降り下ろされた脚を回避する。

 

「…ッ!」

 

「うおぁ!?」

 

すぐさま後方に下がった衝也に向かって突っ込んでいき、握りしめた拳や脚を振り抜いて連撃を繰り出していく。

顔面、鳩尾、脛、こめかみ、気道、etc…

不規則に、そして正確に左右の拳や脚を使っておよそ人体の急所と呼ぶにふさわしい場所へ攻撃してくるものの、衝也はその連撃を一つ一つ確実に防いでいく。

その様子を半ば呆然と見続けている面々。

その中の一人である瀬呂が、ポツリと皆の気持ちを代弁した呟きをもらす。

 

「…え、なにこの状況?なんかいきなり謎の人物と衝也とのバトルが始まったんだけど?」

 

「…五十嵐ちゃん、あなた士傑の人に何かしたの?」

 

「人聞きの悪いこというなよ蛙吹!悪いが俺にはなんも身に覚えがない…うおっとぉ!?」

 

蛙吹の言葉にバックステップで距離を離した後律儀に返答する衝也。

だが、その一瞬の隙をついて士傑(?)の生徒が衝也の懐めがけて突っ込んできた。

 

(しまっ…懐に!?)

 

懐に入り込まれた衝也は、

 

(ここまで至近距離なら、手より脚の方が速い!ってちょいまち!いくら攻撃されたからって誰かもわからないやつを攻撃してもいいもんなのか?…ええぃ!とりあえずは寸止めで…!?)

 

一瞬逡巡してしまったもののすぐに右脚で士傑(?)の生徒のこめかみに向けて蹴りを放とうとするが、

 

それよりも速く士傑(?)の生徒が衝也の胸倉をつかみ、左脚で彼の右脚の膝裏を押さえつけた。

 

(!こいつ俺の身体に引っ付いて脚を封じやがった!?いや、それよりこの体勢はまずい!)

 

衝也がそう考えた瞬間、士傑(?)の生徒は空いていた右脚で、彼のこめかみ向けて勢いよく蹴りを放った。

 

「!衝也あぶない!」

 

耳朗が思わずといった様子で叫んだとほぼ同時に衝也のこめかみに士傑(?)の生徒の蹴りが突き刺さる

 

ことはなく

 

すんでのところで衝也の左腕が蹴りを防いでいた。

 

「なんの躊躇いもなくこめかみ狙いとは…あんた相当にクレイジーだぞ。」

 

「……。」

 

「すっげ…あれに反応できたよ衝也の野郎。」

 

切島が 驚いたような呟きが辺りに響き渡る。

そんな中、衝也はいつになく真剣な表情で士傑(?)の生徒を睨み付ける。

 

「せめて、その学帽とってくんねぇかな?俺に恨みかなんかがあるんだろうが、あいにく顔を見せてくれなきゃ俺にはおもいだせそうにないんでな。」

 

「…よっと!」

 

「なッ…!」

 

衝也にそう言われた士傑(?)の生徒はしばらく動かずゆそのままでいたが、不意に衝也の左腕に止められていた右脚を折り曲げ、彼の顔を自身の顔へと近づけた。

 

「!あんたなぁ、いい加減にしねぇとこっちも…!」

 

「アッハハ、相変わらず強いねぇ衝君は!」

 

「…は?」

 

流石の衝也も堪忍袋がキレたのか表情を険しくさせたが、次の瞬間発せられた明るい笑い声に思わず呆けた顔をしてしまう。

もちろん、緊迫した面持ちで様子を見ていた耳朗ら他の面々も同様だ。

 

「突然の不意な攻撃にここまで対処できるなんて、前よりも益々強くなってるみたいだね衝君。ボクも以前よりは強くなってると自負していたけれど、やはり君にはまだ追い付けそうもないね。」

 

「え、ちょ、待て。まてまてまてまて。その声にその呼び方。お前、まさか、まさかぁぁぁ!?」

 

呆けた表情から一転、額から汗をだらだらと流しまくる衝也。

そして、まるでそれを合図にしたかのように士傑(?)の生徒が被っていた学帽がパサリと床へと落ちる。

その瞬間、全員の目が限界まで見開かれた。

そんな中、峰田がふるふると体を小刻みに震わせ始めた。

 

「おいおいおいおい。なんの冗談だぁこりゃ。なんで

、なんであんなに五十嵐と肌を密着させてる士傑の高校生が

 

 

 

あんな超絶可愛い女なんだよおおおおおおお!!?」

 

激しい嫉妬と憎しみを声に乗せながら血涙を流しそう叫び声を上げる峰田。

 

短く整えられた金色のショートヘアーに褐色の肌。

少しばかりつり目気味の可愛らしい青色の瞳。

まるでモデルでもやってるかのように思えてしまうほど端正な顔立。

 

そう、今彼にこれでもかというほど密着している士傑の生徒は、峰田も驚愕の超絶可愛い女子だったのだ。

だが、当の衝也はというとまるでこの世の終わりをみているかのような表情でその女子を見続けていた。

 

「通りで強い訳じゃねぇかよ…。つーか、なんで、なんでお前がこんなとこに要るんだよ

 

 

(れん)!!」

 

悲痛にも聞こえるその声を聞いた恋と呼ばれた士傑の生徒は、一瞬、目をぱちくりさせた。

そして、

 

「そんなの決まってるじゃないか。」

 

そう言ってただでさえ近い顔の距離をさらに近づけ、口を衝也の耳元へと持っていく。

 

「君に会うためにだよ、衝君。」

 

そう小声で話した後、軽くウィンクを衝也に向けて放った。

そして、その様子から言葉まで全てを見届けた耳朗は終始真顔のままだったが、そんな彼女の頭の中で、

 

プツンと

 

何かが切れたような音が響きわたった。




えー、右翼曲折ありましたがようやっとトーナメントにこぎつけることができました。
これが終われば晴れて体育祭が終了します。
するとそのあとがあれですよ。
みんな大好きヒーロー殺し編ですね。
少なくとも私は大好きです。
ですが!
実は自分的にどちらのストーリーを選ぶか迷ってるんですよ。
一つはヒーロー殺しと衝也君が『会わない』ストーリーで
もう一つはヒーロー殺しと衝也君が『会う』ストーリーで
その二つのどちらを書こうか非常に迷っております。
というわけで、皆様にアンケートを取りたいと思います。
この小説の投稿とほぼ同時に活動報告を書いておくので、気が向いたら回答してほしい所存です。
来る可能性のほうが圧倒的に少ないので来なかった場合の対処法も抜かりはありません!
来なかった場合はヒーロー殺し編なんてなかったことにします!(おい!)

というわけで皆様、こんな駄文ではございますがこれからもよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。