救える者になるために(仮題)   作:オールライト

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ヒロアカの体育祭を見て私は思いました。
レクリエーションの部分もしっかり描いてほしかったと
まあレクリエーション描いてなくてもめちゃくちゃ面白いですけど。
というわけでレクリーエーションを私は書きたい!
まだ騎馬戦終わってないけどね!!(泣)


第十七話 知らない人にいきなり因縁をつけられた場合、名誉棄損で訴えて勝訴できるのか否か

チーム決めが終了するその五分ほど前。

轟は自身が集めたチームと作戦会議をしながら、先ほど話していたとある少年との会話を思い出していた。

自身の人生、家族の人生、伴侶であるはず母の人生すら狂わせたあのクソを下水で煮込んでとどめに犬とサルと馬の糞を隠し味として入れて、最後のアクセントに大量の嘔吐物を入れてボットン便所の中で煮詰めたように人間として最低な性格のあの忌々しい髭ダルマを完膚なきまでに否定するため、この体育祭を自身の経験と知恵、そして母の力のみで勝ち進み、多くの強豪を打倒して優勝する。

そして、いつかプロヒーローとなり…父を母の力のみで超えたとき、自身の『復讐』は終わりを告げるのだ。

そのための大きな足掛かりであるこの体育祭は、なんとしても負けられない。

それはこの騎馬戦においても同じことである。

そのために、轟は自身が考える中から最も強い布陣を完成させるために、そのメンバーへと声をかけた。

飯田、八百万、そして…五十嵐。

もちろん、断られたときのための保険は考えてはいるが、彼にとってこの三人がチームの一員となってほしい三人だった。

そのうち、飯田と八百万は一言でこれを承諾。

ただし、飯田は『どのタイミングでもいいので、必ず緑谷のいるチームからPを奪取すること』を条件に出してきた。

とはいえ、轟としてもNo1ヒーローのオールマイトから目をかけられているらしい緑谷を倒すことは、あの糞を見返す上で重要となってくるためむしろ好都合であった。

問題は、あの天才と変人は紙一重(正しい使い方にあらず)の体現者、五十嵐衝也であった。

気のせいでなければ、障害物競争の時、ちょっと挑発じみた言葉を自身に投げかけていたし、彼が色々と妨害をしたり、一位になったりしたせいで少しばかりイラつき、彼に対して口が悪くなってしまっていた。

USJの事件ではおざなりにもコミュニケーションが取れていたとはいえ、基本的に二人にはあまり接点がない。

そんな奴にいろいろと言われれば双方腹も立つというものだ。

そんな事情により、体育祭が始まって以降いっそう微妙になりつつ彼との距離感から、少しばかり話しかけづらくなっていたのだ。

それでも背に腹はかられないと覚悟を決めた轟は意を決して衝也の方へと話をかけた。

対する彼の態度はいつもと変わらず、どこか抜けているようなのほほんとしたもので、思わず少しだけではあるが安堵したものである。

そして、彼と話をしていたであろう耳郎に断りを入れつつ轟は場所を移し、彼に話を持ち掛けた。

彼の衝撃による広範囲のカバーで敵を近寄らせず、さらには機動力もあるので八百万とともに飯田の補助もできる。

出力調整いかんでは爆発的な加速も期待できる。

衝撃というガード方法がほぼ皆無なのも利点である。

そういった衝也をメンバーに入れる理由を一通り話してから、チームに入ってほしいと告げた轟。

それに対して衝也が問いかけたのは

 

『それで、お前は何をするんだ?』

 

という質問である。

答えではなく質問がかえって来たことにわずかに戸惑ったものの轟は騎手で上から氷で攻撃と足止め、牽制をすることが主な役目だということを伝える。

もちろん、戦闘において左の力は使わないことも加えて、である。

それを聞いた衝也は『うーん』と後頭部を掻きながらうなった後

 

『それじゃ無理だわ、誘ってくれたのはうれしいけど他当たってくれ。』

 

と一言、軽ーく、実にあっさりと拒否の意を示した。

それを聞いた轟も、周りにいた八百万も飯田も、ポカーンとした風に彼を見た後、慌てて彼に理由を問いただした。

自身の布陣に何か欠点でもあったのか?

そう考え、問い詰める轟や飯田たちに若干引き気味になった衝也は『いや…まあいろいろと?』と相変わらずの笑みを浮かべて答えをはぐらかし、『そんじゃま、そういうことで、お互い頑張ってヤりあおうや。』と言ってから軽く手を振りその場を後にしようとする。

三人がただただあっけにとられている中、衝也は『…轟』と自身の名を呼んだあと、少しだけ間をあけながら

 

『まぁ、なんだ…俺が言えるようなことじゃないから別にいいんだけどさ、『今の』お前…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめた方が良いと思うぞ、ヒーロー目指すの。』

 

はっきりと、轟に向けてそういった。

一瞬、驚きにより思考が停止してしまった。

いきなりの衝也の言葉に思考が追い付かず、ただただ茫然としてしまう轟に対して、周りにいた飯田や八百万は彼のらしくないその言葉に異議や遺憾の声を口にする。

だが、彼らのその言葉に意を返さずに衝也はケロッとした笑顔でこちらを振り向き

 

『まあ俺の個人的意見だから別に参考にしなくてもいいんだけどなー。そんじゃ、お互い頑張りましょうや旦那ぁ。』

 

と言ってゆっくりとその場を後にした。

その背中はどうしてか、とても遠くに感じられ

どこか悲し気な背中をしていたのが印象に残っていた。

 

(俺は…あいつに何かしただろうか?)

 

何か嫌われるようなことでもしてしまったのかと考えを巡らせるが、同じメンバーの八百万が大砲で背中を撃っても許すほどの寛大さがある男だ。

特に人を嫌うということも、峰田以外にはしていないようにも見える。

もしくは自身が八百万の大砲での撃ち落としよりもひどいことをしたのかもしれないが、あいにくと心当たりは浮かばない。

 

(あいつは…俺に、何を思ってああいったんだ?…。

アイツは、俺の何をみてヒーローにふさわしくないと感じたんだ…?)

 

腕を組み、真剣な表情をしながら考えを巡らせる。

いつもの自分なら、人の言うことなど関係ないとバッサリ切り捨てていくはずなのだが今回はどういうわけかそれができないでいる。

それは果たして、彼の放った言葉が『初めて』言われた言葉だったからか

言葉を放った人間が『あいつ』だったからなのかはわからないが、

どちらにせよ、わかることは

 

アイツは俺を『ヒーローを目指すもの』として認めてはないということである。

 

(…とりあえず、今は騎馬戦に集中するしかない、か。考えてても、言った本人にしかきっとわからねぇだろうし…)

 

そう考えを改めながら轟はゆっくりと顔を上げて、飯田と八百万、そして衝也の次に候補としていた上鳴と作戦会議を始めていく。

アイツが自身を認めなかろうが、親父が自身を認めなかろうがそんなことは関係ない。

そういったやつらもまとめて、ねじ伏せていけばいいだけの話なのだから。

この体育祭は、少しばかり難儀なものになるかもしれない。

そんな漠然とした予想を立てながら、轟は作戦を立てていく。

自身の勝利と『復讐』のために。

 

 

 

 

 

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『さてさて!15分のチーム決めが終了!とりあえず実況のミイラマンみてぇなコミュ障な奴がチームも組めずにあたふたしちまうなんて状況がなくてひそかに俺はほっとしてるぜぇ!やっぱ持つべきものは友ってな!』

 

『おい…てめぇ人が寝てる間に何言ってやがんだこら。』

 

『さぁ起きろミイラマン!チーム決めはもうとっくに終わってんぞ!実況者の役目を果たせ!』

 

『起きてんだろうが、見てわかんねぇのか。』

 

『こいつはソーリィ!包帯だらけで気づかんかった!』

 

『てめぇ…』

 

隣の同期のケタケタとした笑いにこめかみを動かしながらもステージにまばらに並んだチームを見て、わずかにではあるが面白そうに目を細めた。

 

『こいつは、なかなか面白い組み合わせのチームがちらほらいるな。』

 

そう言って何人かの生徒たちに興味深そうに視線を移す。

その中の1チームにも目を向ける。

そのチームとは

 

「いいか、全員気を引き締めろ。ここで負けたら俺は轟に鼻で笑われる。お前ら、俺の体裁のために全力で戦ってくれ。お前らの目的や評価なんて二の次でいい!ほかならぬ俺のために死力を尽くせ!」

 

「あぁ?」

 

「ごめんなさいマジですいません土下座しますからそのイヤホンプラグを耳にお納めください。」

 

「五十嵐ちゃん、変わらないわね。」

 

「変わらなすぎだっての。たく、こっちが緊張してるってのに…このあほ見てると緊張してるウチがバカみたいに見えてくる…。」

 

「うひょー!まさかの女二人がチームの一員!若干一名胸が物足りねぇけど!これは事故と見せかけてあんなとこやこんなとこをおさわりするしかねぇ!興奮で俺のリトル峰田がビック峰田になっちまうぜ!あ、やべ、よだれ出てきた…。」

 

「峰田ちゃん…変わらないわね。」

 

「ねぇ衝也、ウチこの騎馬戦が終わったらあいつのこと消していい?」

 

「任せろ、これが終わったらミッドナイトに棄権の報告をしておいてやる。」

 

 

なんか、色々とカオスとかしている五十嵐チームである。(チーム代表者、つまりは騎手の生徒の名字がチーム名となっている)

先頭は衝也に伸ばしていたコードを元の長さに戻してギラギラと殺意を宿した目をしている耳郎響香

その後ろに彼女と手を組む形であきれたような顔をしているのが蛙吹。

その上に先ほどまで耳郎に謝り倒していたのに、いつの間にか耳郎とともに汚物を見ているような目をし始めた衝也が乗り、その背中にはよだれを手でぬぐう峰田がおぶさっている。

(よく女子二人で男子二人を支えられている者だと思うかもしれないが、実は衝也は個性を使って浮いているのだ)

これは果たして衝也が騎手なのか峰田が騎手なのか判断に迷うところではあるが、『565P』と書かれた鉢巻きが額に巻かれているのは衝也のため、彼が騎手なのだろう。

 

(個性の人選はまあまあ良しとしても…性欲の権化みてぇな奴と頭のねじが緩いやつがいちゃあな…大丈夫かあのチーム…)

 

相沢があきれた様にため息を吐くと同時に、隣のプレゼント・マイクがカウントダウンを始める。

 

「さぁて、おしゃべりはこのくらいにいといて、だ。耳郎、蛙吹!」

 

気合十分、拳を打ち付けて衝也は前と後ろの二人に声をかける。

 

『3!』

 

「はいはい…!」

 

「けろ!」

 

そんな彼に耳郎はけだるげに、されどやる気と覚悟は瞳に宿して返事をし

蛙吹はいつも通りのカエルフェイスで力強くうなずいて見せる。

 

『2!』

 

「峰田になんかされたら俺に言え!ビッグ峰田を去勢してウーメン峰田に代えてやる。」

 

「お、おま…!俺のナニになんてことを…!!」

 

希望とよだれで満ち溢れていた峰田の顔は、衝也の言葉を聞いた瞬間絶望へと移り変わる。

対する耳郎達は予想外の言葉に軽い肩透かしを食らってしまう。

 

『1!』

 

「アンタねぇ…こんな時までアホなことばっか言って…。少しは緊張しろこのバカ!」

 

「やっぱり変わらないわ、五十嵐ちゃんは。」

 

あきれた様に衝也へとジト目を向ける耳郎と、嬉しそうに鳴きながら笑顔を浮かべる蛙吹。

そんな二人の言葉を聞いた衝也はタハハ…!と小さく笑い声をあげる

 

「さって、それじゃあ…」

 

そうして浮かべた笑みはさながら獲物を前にした肉食獣のようであり、それにつられるかのように三人の表情も真剣なものへと変化していく。

 

『START!!』

 

「目指すは勝利ただ一つ!全員、気張っていくぞ!騎馬だけに!」

 

「ごめんギャグのセンス磨いてもう一度出直してきて。」

 

「……」

 

拳を突き上げながら騎馬戦が始まってから温めていた渾身のギャグを繰り出し、その低レベルさから耳郎は遠慮なしにバッサリ切り落とした。

これはつらい。

あまりの一刀両断っぷりとそのつらさに思わず衝也は拳を突き上げたまま固まってしまう。

 

「五十嵐ちゃん…その、私は…嫌いじゃないわよ…?…好きでもないけど。」

 

「五十嵐…ギャグ言うにしてももうちょっとハイセンスなのを頼むぜ。そんなんじゃ失笑ももらえねぇぞ?」

 

「うわぁぁぁぁ!!!お前ら全員大っ嫌いだぁあぁァァァァ!!!」

 

そう叫んだ衝也は両目から大粒の涙を流しながら

騎馬を離れ、個性を使って一気に斜め上へと飛び、空中を移動し始めた。

その際に背中にしがみついていた峰田も一緒である。

 

「うおおおお!おま、五十嵐ぃぃぃ!話がちげぇぞ!?おいらは騎馬に残ったままじゃねぇのぉぉぉぉ!?つうかはえええええ!!?」

 

背中にしがみついている峰田はその速さに慣れていないのか必死に落とされないよう彼の服をつかみながら叫び声をあげていた。

そんな峰田の顔はすでに死にそうな表情である。

それを見た耳郎は慌てた様に彼らに声をかける。

 

「ちょ、衝也!?アンタいきなり飛び出すなって!まだこっちは準備が…ああもう!好き勝手に飛び出した上に峰田まで連れてくなんて…アンタが提案した作戦なんだから、せめてアンタくらい作戦通りに動けっての!いくよ蛙吹!」

 

「ケロ…でも、峰田ちゃんを連れて行ってくれたのは正直ありがたかったかも…。」

 

「…否定できない、むしろ肯定したい。」

 

蛙吹の言葉に複雑な表情を浮かべた耳郎だったが気を取り直して騎馬を進ませる。

とはいっても、この二人の騎馬は騎手がいない騎馬。

Pを持っている衝也はステージの上空で個性を使って移動しているため、Pに気を配ることなく移動できる。

そのうえ、相手のチームのほとんどはスタートの合図とともに一千万Pを持つ緑谷のチームに向かっているためこちらにはごく少数のチームしか気づいていない。

これならば、こちらの準備が終わる時間程度ならありそうだ。

 

「でも、峰田ちゃんがいないと作戦が成り立たないわ…どうすればいいのかしら。」

 

「そこんとこは衝也も何か考えてあるでしょ。あいつはアホで適当でどうしようもないほどバカだけど、無意味なことをするようなやつじゃないし。とりあえずは作戦通りに動こうよ。」

 

少々不安げに空中を飛び回っている衝也を見ている蛙吹をみて励ますように声をかける耳郎。

その顔は自信と信頼に満ち溢れており、そんな彼女を見て、蛙吹は「そうね、わかったわ」と笑顔で返答する。

 

「ふぅ…さってと、それじゃあウチ等もP奪いに行くとしよっか。蛙吹、準備はOK?」

 

「いつでも大丈夫、一緒に頑張りましょう!」

 

「うん、もちろん!んじゃあ、まずはウチだね…。」

 

二カッと笑みを浮かべた耳郎は少しだけ息を吐いた後、意識を自身のコードの方へと送り始める。

観客の声援や会場に響く轟音や爆音などの戦闘音など様々な音がプラグを通して彼女の耳に入ってくる中、耳郎は数秒ほどイヤホンをあちらこちらに向けた後、

 

「…よし!」

 

ゆっくりと大きくうなずいた後、自身の真上をしきりに動き回ってる衝也へと顔を向けた。

そして、片手で何かのハンドサインをし始める。

それを見た衝也はニヤリとほくそ笑んだようにすると、動くのをやめて、背中の峰田へと声をかけた。

 

「おい、峰田出番だぞ!耳郎からの合図だ。こっから2時と5時、それと11時の方向に投げてくれ!」

 

「き、気持ち悪い…吐きそう…」

 

「てめぇ俺の背中で吐いたら箱詰めにして8円で出荷してやるからな。」

 

「ひ、ひでぇ…横暴だ。」

 

「いいから早くしろって!相手のルートが変わったらどうすんだ!?」

 

「だああああ!もうわかったよ!くそ、本当なら今頃蛙吹の尻か胸でももめてたってのに…ど何が悲しくてこんなむっさい男同士で空中散歩しなきゃなんねぇんだちくしょぉぉぉ!」

 

顔色の悪い峰田に対しても一切の容赦がない衝也に軽く絶望しつつも、峰田は自身の頭からボールをもぎり、衝也に指示された方向へと次々と投げていく。

するとそのわずか数秒後、ステージ内でPを奪取しようとしていた三チームにある異変が起きた。

 

「うわ…ちょ、何だよこれ!?なんか踏んじまった!くっついて離れないよこれ!気持ち悪い!」

 

「ん…あせっちゃだめ吹出君。いったん落ち着いて。」

 

「おい宍戸!何とかしろ、こんなところで棒立ちとかシャレにならないぞ!」

 

「わかってる!クソなんだこれ全然とれんぞ!?」

 

葉隠のような透明人間と大きなゴーレムのようなものに抱えられている美少女のチームや、中国人っぽいやつのいるチームなどが、突然その動きを止めたのである。

その理由は至極単純で

いつの間にか足元に黒いボールのようなものがあり、それにくっついて身動きが取れないでいるのだ。

それを見たもうひとりの被害者チーム

葉隠・口田・砂藤チームはその見覚えのある球体に思わず声を張り上げる。

 

「こ、これってもしかして、峰田君の…!」

 

「正解っと!」

 

「ぬがぁ!?」

 

その瞬間、聞き覚えのある声が聞こえてきたかと思うと突然葉隠の頭すれすれを何者かがものすごい速さで通り抜ける。

その勢いによって起こった風と衝撃に軽くバランスを崩してしまう騎馬の口田と砂藤だったが、どうにかそれを持ち直す。

 

「くっそ…なんだ今の風…!お、おい葉隠!?」

 

「わかってるよ!くっそー、そういうことか!あいっかわらず姑息だなぁ五十嵐君はー!!」

 

悔しそうな声を出す葉隠、そんな彼女の頭には先ほど巻かれていた鉢巻きが見られない。

しきりに悔しそうにしていた葉隠チームは視線を自身の後ろの方へとむける。

するとそこには、葉隠の鉢巻きを手に持った衝也が実に良い笑顔でこちらにピースを送っていた。

 

「ふはははは!鉢巻きはいただいたぜ葉隠ぇ!姑息だろうが何だろうが勝てば官軍よぉ!あとおめぇ服着ろこの歩く公然わいせつ物その2!」

 

「な!?誰が峰田君と同類の犯罪者だー!どうせ見れないんだから服なんて着なくていいんだもーん!どうせ私のナイスバディが見れなくて悔しいだけなんでしょ!?」

 

「いや、おいらには見えてるぜ…おめぇの生まれたままの姿が…。おいらのエロQにかかればおめぇの裸体を想像するのなんてお茶の子さいさいだぜぇ…。ハァハァ…」

 

「どうしよう、峰田君が本気で気持ち悪い…。」

 

「俺もこいつを背中から突き落としたくなってきた…」

 

血走った眼で鼻息荒くこちらをガン見してくる峰田にかなりドン引きしている葉隠とその御一行を後にした衝也は鉢巻きを首元へと巻き付けると標的を葉隠からほかのチームへと移す。

 

「な!しまった、鉢巻き!ほらみろ宍戸!取られっちまったじゃねぇか!」

 

「クソ、このトラップは足止めと囮ってことか!」

 

そう忌々しげにつぶやく中国人チーム?の言葉を聞いて内心で正解!と拍手を送る衝也。

耳郎のイヤホン=ジャックで相手の進む方向と現在地をその足音で把握、即座に位置と大まかな距離を真上の上空で待機している衝也にハンドサインで伝達。

そして、その位置に峰田がボールを投げつけることでトラップ設置完了である。

そのトラップに引っかかった者をこれまた耳郎のイヤホン=ジャックにより把握し、今度はそのボールを処理しようとして視線が下に向いているすきに衝也が個性を使って一気に近寄り鉢巻きをかっさらって逃げていく、というのが今回の作戦である。

しかし、この作戦には弱点がある。

それは

 

「ん、来たよ凡戸君。」

 

「了解だ!」

 

一度見られると何かしらの対策をされてしまう確率が高いこと。

それに、最終的に取るのは衝也自身である。

衝也がバカ正直突っ込んでくるのを見たら普通に迎撃されるに決まっている。

実際、もう一つのチームは自分たちの鉢巻きを奪おうとしてくる衝也にめがけて白い液体のようなものを放ってきた。

 

「うおっとぉ!?」

 

それをとっさに衝撃でわずかに斜め上にそれを難なく躱す、がさすがに鉢巻きは取れずにそのまま衝也は再び安全圏の上空へと移動する。

 

「ふう。危ねぇ危ねぇ。危うく迎撃されちまうところだった、反応がいいなぁあのチーム。」

 

「見たか今の!あれ絶対●●だぜ!白くて粘っこいっていったらもう●●しかねぇって!なんだよあいつの頭は●●なのか!?あの野郎、全身が●●だなんて…とんだ変態やろうじゃねぇか。」

 

「峰田、お前…ほんとに女になってみるか?いい加減その口閉じねぇと戸籍の性別の欄を書き換えなきゃならなくなるぞ…」

 

「こ、股間が、今股間に謎の寒気が…!」

 

衝也のドスの聞いた声に峰田の息子がビビッて縮こまっている中、凡戸と呼ばれた青年は安堵したようにため息を吐いた。

 

「ふぅ…とりあえず鉢巻きは奪われずに…っ!?」

 

「ん?どうしたの、凡戸君。」

 

「小大!お前、鉢巻きは!?」

 

「ん!?」

 

凡戸の驚愕の表情と言葉に思わず小大と呼ばれた少女は慌てて頭に巻いてあったはずの鉢巻きを手で確認する。

そして、その頭に鉢巻きは…巻かれていなかった。

 

「な…どうして!?」

 

目を見開いた小大はとっさに先ほどの少年、衝也へと視線を送る。

するとそこには、

 

「お、来た来た。ナァイス、蛙吹に耳郎!まさに作戦通りだな!」

 

「ケロ…作戦通り、うまくいったわ!」

 

「まぁアンタはしょっぱなから作戦無視してたけどね…!」

 

「ヒーローを目指すものならそれくらいのイレギュラーな行動にもきちんと対応しなきゃだめだぜ耳郎。」

 

「ヒーロー目指してるやつがイレギュラーな行動すんなっての!」

 

騎馬を組んでいる耳郎と蛙吹の隣で小大チームの鉢巻きを手渡され、自身の首元に巻き付けている衝也がいた。

 

「な…どうしてあそこに僕たちの鉢巻きガァ!」

 

先ほど吹出と呼ばれていた透明人間のような少年(?)が驚いたように声を上げる。

 

この作戦が迎撃されやすい類のものだということは衝也も理解している。

第一種目の死人が出そうなほどやばい(衝也談)障害物競争を勝ち残ってきた者たちだ。

恐らくは一度か二度その作戦を見たら迎撃されたりなんなりで対応をされていくことだろう。

ならばどうするのか。

その答えは簡単で

 

その迎撃の行動すら囮にしてしまえばいいだけの話である。

 

あの時、衝也に向けて小大チームが迎撃を仕掛けたその瞬間、イヤホン=ジャックで状況を把握していた耳郎達がこっそり近づき、背後から蛙吹の舌で彼女たちの鉢巻きをかすめ取ったのだ。

蛙吹の舌はおよそ20mほど伸びるのでその範囲は広く、相手の攻撃範囲外から鉢巻きをかすめ取ることも可能。

イヤホン=ジャックで逐一相手の動きを把握し、その都度相手の進行方向に沿うような形でトラップを設置。これが第一回目の攻撃である。

そのトラップに掛かるか、あるいは踏まないようにと気を付けて、意識を足元に集中してしまっている間に衝也が上空から第二回目の攻撃。

そして、迎撃等で鉢巻きが取れなかったとしても、抗戦の音を拾った耳郎達が迎撃の隙に鉢巻きをかすめ取るという、三段構えの作戦。

これが、衝也の考えた作戦という物だった。

 

(トラップに意識を向けたら衝也から攻撃が来て、衝也に意識を向けたら今度は蛙吹から攻撃が来る。意識をそこかしこに向けなきゃならない状況を意図的に作り出して相手の隙を強引に作り出す。なんというか…性格の悪さがにじみ出てるなぁ…この作戦。)

 

感心とあきれが混じったような視線を隣の衝也に向ける耳郎。

そんな彼女の視線を感じた衝也はグッと親指を立てて嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 

「ナイスアシストだ耳郎に蛙吹!こっから先もよろしく頼むぜ。特に耳郎!」

 

「え、う、ウチ?」

 

「お前のイヤホン=ジャックでの状況把握が作戦の一番の肝になってくるからよ。ターゲットの位置把握はもちろん、こっちに攻撃しようとしてくるチームの把握も必要になってくる。一番神経使うから大変かもしんねぇけど、頑張ってくれよ耳郎!頼りにしてるからな!」

 

「…アンタに頼りにされても別にうれしくないっての。まぁ、チームのためだし、一応やれるだけやっては見るけど。」

 

「中々に辛辣だな…まぁ頑張ってくれんならいいけどさ…時には優しさも必要だと思うんだ俺は。なぁ耳郎、ウサギは」

 

「うっさい黙れ聞き飽きた。いいから試合に集中しろってのこのアホ。」

 

「…うっす。」

 

衝也に笑顔で頼りにされてしまった耳郎は一瞬目を見開いた後、顔をプイとそむけて早口でまくしたてる。

その辛辣な言葉に衝也は若干悲しそうに肩を落としたもののすぐにいつもの顔を浮かべて他のチームの方へと視線を向ける。

それを見ていた蛙吹は、前でそっぽを向いている耳郎に声をかける。

 

「耳郎ちゃん」

 

「ん、何蛙吹?」

 

「照れ隠しもほどほどにしないと、嫌われちゃうわよ?」

 

「…ハァ!?別に照れてなんかないって!なんでアイツに頼りにされてるってだけでウチが照れないといけない訳!?わけわかんないこと言ってないで蛙吹も集中しなッてば!」

 

「ケロ…了解よ…フフフ。」

 

クワッ!と目を見開き、早口でそうまくしたてる耳郎を見て少しばかり嬉しそう笑顔を浮かべる蛙吹。

そんな彼女を見て耳郎は「うぅ~…なんか調子狂うなぁ、もぅ…」とコードを揺らしながらつぶやく。

そんな彼女たちを見て、衝也と峰田が

 

「あいつら何話してんだ?」

 

「さぁ?生理の話でもしてんじゃねぇか?」

 

「お前ほんといい加減にしろよ?」

 

とバカなことをしている中、不意に彼らの前に何者かが立ちはだかった。

 

「へぇ…ずいぶんと余裕そうに話し込んでいるじゃないか。もしかしてもう勝った気分でいるのかい?だとしたらずいぶんと平和ボケした頭してるよね、思わず笑っちゃうよ?」

 

その何者かはまるでこちらを挑発するかのようにそう言ってにやにやと笑みを浮かべた後、まっすぐ衝也の方へと視線を向けた。

対する衝也達も目の前のチームへと視線を向ける。

 

「まぁそれはそれとして、だ。やっと見つけたよ、それじゃあ早速だけどこの間の借りをまとめて代えさせてもらおうかな?」

 

その少年はゆっくりと笑みを浮かべて衝也達を見据える。

その瞳には尋常じゃないレベルの敵意が混じっており、どう考えても目の前の騎手の少年が恨んでいる人物が衝也達のチームにいることが予想できる。

その視線を浴びせられた衝也は、ゆっくりと

 

 

背中の峰田に目を向けた。

 

「お前…まさか男にもセクハラするようになったのか?」

 

「ちげぇよ!?どこをどう解釈したらそうなるんだよおかしいだろ!?」

 

「じゃああの男の彼女の胸でも触ったのか?なあ、峰田、お前いい加減吐いて楽になれよ。罪は自白した方が軽くなるんだぜ?」

 

「だからほんとにおいらじゃねぇって!」

 

確かに、この中で人の恨みを買いそうな者はだれかと言ったらA組の全員は峰田一択であろう。

だが、目の前の少年はこめかみをピクリと動かした後、忌々しそうに衝也の方を指さした。

 

「おいおい、まさか忘れたとは言わせないぜ?五十嵐衝也、お前は僕らをコケにしたんだ。その借りをいまここで返させてもらうと、そう言っているつもりなんだが…もしかして理解できなかったかな?」

 

「え…オレェ!?」

 

少年のその言葉を聞いた衝也は一瞬目を見開いた後、驚いたように自分の方を指さした。

そして

 

「いやいや、悪いけど俺はアンタなんか知らねぇぞ?人違いじゃねぇか。」

 

普通に彼の意見を否定した。

首を横にぶんぶん振って否定する衝也を見た少年はさらにこめかみをぴくつかせるが何とか平静を装って言葉を続ける。

 

「はッ…さすがだな五十嵐衝也。自分がコケにした相手なんていちいち覚えてないってことか?これはまたたいそうなヒーロー志望もいたものだね。」

 

「いや、だから本気で知らねぇって。第一俺は慈愛が脊髄にまとわりついて生きているような人間なんだぜ?人に恨まれるような生き方はしちゃいないよ。」

 

「…慈愛、ねぇ」

 

「おかしいな、隣にいる友達の耳郎さんから視線を感じるのだが…」

 

どや顔の衝也に対して、ジト目でそんな彼を見つめている耳郎に思わず顔をしかめてしまう衝也。

それを見た少年はこめかみと唇をピクピクさせながらも、何とか余裕(そうに見える)笑みを浮かべて大げさに肩をすくめた。

 

「まぁ…こちらとしてもアンタが僕たちのことを覚えているとは思ってないからね。何せ僕らB組の」

 

「あ、もしかして中学のころケンカしてコテンパンにしたヒロシか?」

 

「違う、だれだよそのどこにでもいそうな名前の奴は」

 

「じゃあ中学で給食のパンの争奪戦で負けて泣いてたあのヒロシか?」

 

「どのヒロシだよ、君の中学時代の周りはヒロシって名前の奴が多いのかい?」

 

「まあ俺中学通ってなかったから中学時代なんてなかったけどな!」

 

「こいつ…」

 

アハハ!と後頭部を掻きながら笑う衝也を見て、思わず眉間にしわが寄り始めた少年。

どうやら余裕を保てなくなっているらしく、いつの間にか人を見下しているようなあの笑みが消えていた。

 

「んで、ヒロシ君はどうして俺のことを知ってるんだ?もしかしてストーカーとか?さすがに男のストーカーは俺もごめんこうむるんだが…」

 

「ッ!?僕の名前はヒロシじゃない!お前が散々コケにしたB組所属のヒーロー志望、物間寧人だ!」

 

「…ものまね?芸人か?てかB組って…ヒーロー科じゃなくて普通科だろ?もしかして入試に落ちて普通科に編入されたのか?あーそれでA組、というか俺を恨んでんのか。でもよ、ヒロシ。お前、それはただの八つ当たりだぜ?そうやって人に当たるのは良くないと思うぞ俺は、うん。」

 

「はぁ…このバカ…」

 

衝也がそう言ってうなずくのを見て、思わずあきれた様にため息を吐いたのは隣にいる耳郎である。

その後ろの蛙吹も目の前の物間という少年と衝也とを困ったように見続けている。

峰田はもうすでにあきらめて何かを悟っているような顔である。

そんな中、衝也の目の前に立つ物間はゆっくりと決意を新たにする。

目の前にいるこの男、五十嵐衝也だけは、なんとしてでもぶちのめすということを。

 




アンチコメントっていうわけじゃないですけど、体育祭の時の轟君を見たときに『絶対にヒーローになっちゃいけない人間だろこいつ』と思いましたね。
今はそんなことないですけどね。
轟君超かっこいいっす。
理由はトーナメントの時に話します。

それにしてもあれだな…騎馬戦書くのど下手だな私は。

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