救える者になるために(仮題)   作:オールライト

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速くトーナメントを書きたいというよこしまな欲求のせいか
ほかの二種目がおざなりに…
頑張らねば!
というわけで十六話です
どうぞ


第十六話 フラグを立てまくると自身が追い込まれていくことがあるためフラグ建築には注意が必要である。

終盤にて、緑谷・轟・爆豪…あとついでに衝也も含めた四人による白熱のトップ争いが繰り広げられた第一種目。

互いに死力を尽くし、策を練り、自分自身の力やその場にあった物を使い、勝利を手にしたのは

なんとまさかの緑谷だった。

しかも、個性を使わずに、鉄板と地雷を巧みに駆使してのトップである。

それに続く形で、轟が二位、爆豪が三位、そして衝也が四位となったわけだが…その衝也はというと

 

「…アンタ、第一種目で一体何があったんだい?」

 

「恩人に大砲で撃たれて友達に鉄板で地面にたたきつけられて、最後に地面に埋めてあった大量の地雷の爆破をまともに食らいました。」

 

「その二人は本当に恩人と友達なのかい?」

 

絶賛リカバリーガールの出張保健室にて治癒の真っ最中だった。

競技のとき、緑谷が轟と爆豪を妨害するために地雷原たっぷりの地面へとたたきつけようとした鉄板。

しかし、その鉄板がたたきつけたのは地面ではなくなんといきなり飛び出してきた衝也の顔面だった。

そのせいで衝也は緑谷によって地面に顔面からたたきつけられ、その衝撃で地雷が作動。

衝也はもろに爆撃をくらい、その近くにいた轟と爆豪もその爆発に巻き込まれてしまい、失速。

唯一上空にいたことにより、爆風を利用して前に進むことができた緑谷がトップに立ったのである。

対する衝也は、いきなり背後から大砲で撃たれるわ、分厚い鉄板で顔面を殴られるわ、大量の地雷原による爆撃をもろに食らうわと、さんざんな目にあっていた。

よくここまでされて四位になれたものである。

実際、ゴールする直前まで意識は朦朧としており、ゴールした瞬間、衝也は前のめりに倒れこんでしまった。

ちなみに、最後のつぶやきは『俺が…何を…したんだ…』であり、それを聞いたハンソーロボは機械のくせに涙を流していたとかいないとか。

 

「しかし、よくもまぁ無事だったもんだよ。普通なら大砲に撃たれた時点で動けなくなってただろうに。」

 

「無事なわけないでしょうが。死にかけましたよこちとら。人生の走馬燈なんて見たの久しぶりですよほんと。」

 

「その年でもう『久しぶり』なのかい…一体どんな人生を送ってるんだか…ほら、治癒は終わったよ!」

 

呆れた様にため息を吐きながら衝也の身体をパシン!と軽くはたくリカバリーガール。

それにたいし、衝也は「いてッ!」と軽く声を上げた後、リカバリーガールの方へと顔を向けた。

 

「ちょ…怪我人に何てことするんですか…ひでぇなもう。」

 

「退院早々無茶するようなバカにはそれくらいがいい薬さね。」

 

「いやいや!今回はさすがに俺が無茶したせいじゃないですってば!完全に事故ですから!事・故!」

 

オーバーな身振り手振りで大げさに事故であることをアピールする衝也だが、対するリカバリーガールはあきれたまま「わかったわかった」と軽く受け流す。

そんな彼女を見て衝也は軽くため息を吐いた後、お礼を言って保健室から出ていこうとドアに手をかけた直後、不意にリカバリーガールに呼び止められた。

 

「ああ、言い忘れてた。ちょっといいかい?」

 

「?なんですか?」

 

「アンタが一体何に気を取られてるのかは知らないけどね…あまり他人の事情に深く首を突っ込むのはやめた方が身のためさね。それで注意が散漫になって怪我したって、それは結局のところ自分の責任になるんだから。」

 

そういうリカバリーガールの声色はいつもよりも真剣で、衝也は思わず目を見開いて固まってしまう。

 

「……」

 

「今は、とりあえずは目の前の体育祭に集中することさね。他人におせっかいを焼くのはそのあとさ。特に、アンタや緑谷みたいなやつは、ね。」

 

「…了解でーす…っと」

 

「伸ばさない」

 

「いッでッ!つ、杖は卑怯でしょうよ…」

 

おどけた調子で返事をした衝也だったが直後にすねのあたりを杖でリカバリーガールに叩かれてしまい、軽く悶絶しつつ、叩かれた場所をさすったり息を吹きかけたりする。

そんな衝也を見てリカバリーガールは呆れた様にため息を吐くと仕方がないという風に首を左右に振り、くるりと座っていた椅子を反転させた。

 

「まったく…どうしてこうも優秀な子に限ってこう バカな奴が多いんだろうね…」

 

「やだ、そんな褒めないでくださいよ、照れる。」

 

「褒めてないから照れなくても大丈夫さね、ほら怪我が治ったらさっさと出た出た。まだ体育祭は終わってないよ。」

 

くるりと顔だけ後ろに向けて、あきれたような、それでいて優し気な笑みを浮かべながらそういうリカバリーガールをみた衝也は軽く頬を掻いた後、「うぃっす、それじゃあ、ありがとうございました、また来ます、リカバリーガール。」と笑顔で言ってからドアを開けて保健室から出ていった。

どうやらまたここに来る予定があるようだ。

そんな迷惑すぎる生徒の衝也はゆっくりと保健室のドアを閉めた後、深い溜息を吐きながらドアの方へと寄りかかった。

 

(なーんでばれてんだかなぁ…俺ってもしかして顔に出やすかったりするタイプ?)

 

自身の顔の頬をムニムニしながら怪訝そうな顔をした衝也はしばらくムニムニを続けた後、ゆっくりとムニムニしていた両手をダラン、と下におろした。

 

「…自分が怪我しようが何しようが、あんなこと聞かされて、そのうえ頭まで下げられちゃ…ほっとけねぇよな、やっぱ…。」

 

「何がほっとけないって?」

 

「んあ?」

 

ポツリと小さくつぶやいた独り言にいきなり返事が来たことに若干驚き、素っ頓狂な言葉を上げてしまう衝也。

顔をそちらの方へ向けると、そこには耳郎と緑谷、そして八百万の三人がこちらの方を向いていた。

耳郎は怪訝そうな顔をしているものの、緑谷や八百万は神妙そうな顔つきをしている。

 

「あれ、耳郎に八百万に緑谷か。どうした?まさか!お前らも怪我してリカバリーガールんとこに…」

 

「ウチらが怪我してるように見えるのアンタは?」

 

「ううん、全然。」

 

「こいつ…」

 

真顔で首を横に振る衝也を見て拳をわずかに震わせる耳郎。

その後ろにいた緑谷は神妙そうな面持ちのままゆっくりと前に出て、おずおずと話を切り出した。

 

「あ、あの、五十嵐君…その、怪我は、大丈夫?その、ごめんね、僕のせいで…」

 

「あ、緑谷!ったくてめぇ!やりやがったなこんちくしょうが!こんにゃろめ!!」

 

「うわわ…!」

 

申し訳なさそうに頭を下げてきた緑谷を見た衝也はその緑谷の頭に一瞬でヘッドロックをかまし、そのままわしゃわしゃと彼の頭を撫で繰り回した。

 

「まさかあそこであんな妨害されるだなんて思わなかったわ!完全にお前の作戦勝ちだ!悔しいけどやっぱお前根性あるよな…ヘタレ顔のくせによ!やるときはやる男だとは思ってたけど、想像をはるかに超えてきたぜ全くよぉ!」

 

「え、あ、ありがとう…ってそうじゃなくて!」

 

「ん?」

 

「ぼ、僕、さっきのこと謝ろうと思って…ほら、思いっきり顔を装甲で殴っちゃったし、地雷の爆破をもろに浴びせちゃったし…」

 

ヘッドロックをされたままもごもごと申し訳なさそうにしゃべる緑谷を見て、衝也は一瞬きょとんとした表情を浮かべた後、いつものように明るい笑顔を浮かべ始めた。

 

「そんなこと気にすんなって!これは体育祭で生徒同士の戦争なんだ。いちいち相手を傷つけただけで謝ったりなんかしなくていいんだよ!あいっかわらず心配性だな緑谷は!」

 

「五十嵐君…」

 

「だから、俺がもしうっかり加減を間違えてお前の顔面にインパクトをぶち込んじまったとしても、俺はお前には謝らない。覚悟しとけよ?お前の顔面を一周回ってイケメンに変えてやるから。」

 

「五十嵐君!?」

 

「はは、冗談冗談!マジに受け取んなって。」

 

「目が笑ってなかったんだけど!?」

 

 

一瞬、わずかではあるが目に本気の殺意を宿らせていた衝也に緑谷はがくがく震えながら衝也に詰め寄っていく。

そんな緑谷の問い詰めにいつもの笑みでのらりくらりとかわしながら今度は視線を八百万の方へとむける。

 

「つーわけで、八百万の神も気にしなくていいからな。」

 

「え、あ…いえ、しかし」

 

「全員が全員、あの場でベストを尽くした結果があのレースの内容だったってだけだろ。つーか、大砲食らっても結局俺の方が順位上だったし、そんな気にしなくていいって!」

 

「あ…そ、そうです、わね…そうです…よね」

 

衝也の満面の笑みで放たれた悪意なき一言に八百万は一瞬で表情を暗くして顔を俯かせる。

それを見た耳郎は肘で衝也の横っ腹を勢いよく小突いた。

 

「痛い!ちょ、いきなり何すんだよ耳郎!?」

 

「アンタは一度『やさしさ』と『気遣い』って言葉を学んで来いこの馬鹿。」

 

「おいおい、自慢じゃねぇが俺のやさしさと気遣いの良さはかのマザーテレサだってびっくりするほど評判がいいんだぜ?これ以上俺に何を求めようっていうんだい?」

 

「アンタ、マザーテレサってどんな人か知ってんの?」

 

「知ってるに決まってんだろ。照れ屋なお化けのお母さんだろ?」

 

「『人』じゃないじゃんそれ…アンタほど『バカ』と『適当』が似合う男はいないよほんと…」

 

そういって呆れた様にため息を吐く耳郎を見て衝也は、後頭部を掻きながら笑みを浮かべていたが、ふと何かに気づいたかのように首を傾げた。

 

「ん…ちょっと待てよ?耳郎は別に俺に何もしちゃいないよな?なんでここにいんだ?やっぱ怪我でもしたのか?」

 

「ウチはヤオモモの付き添い。別にどこも怪我はしてないって、最初っから言ってんじゃん。」

 

またもや心配そうに耳郎の方へと視線を向けるが、対する耳郎はあきれ顔である。

そんな耳郎の反応に衝也は安心したようにため息を吐くが、その隣で首あたりをさすっていた緑谷が不思議そうな表情を浮かべた。

 

「あれ?でも

 

耳郎さん僕や八百万さんよりも先に保健室の前に」

 

「ごめん緑谷耳が滑った」

 

「うわああああああ!!?」

 

「み、みどりやぁあああ!?おま、耳郎、なんてことしやがるんだぁ!?」

 

突如として緑谷の耳に突き刺さった耳郎のプラグによって放たれた音によって大声をあげながらばたりとその場に倒れこんでしまう。

それを見た衝也は素早く緑谷を抱え込むと耳郎に向けて抗議の叫びをあげる。

 

「いや、だから、耳が滑っちゃったんだって。ごめん緑谷、後でなんかおごるから…ほんとごめん。」

 

そう言って申し訳なさそうに両手を合わせる耳郎だったが、衝也はそんなことはお構いなしに叫び続ける。

 

「いやいや!耳が滑るなんてありえねぇから!絶対わざとだろ!?お前今絶対故意に緑谷に攻撃を仕掛けただろ!?」

 

「うるさいなぁ…いい加減黙らないとまた耳滑るかもよ?」

 

「怖い!女って怖いぃ!!」

 

耳郎がプラグをズズイ、と衝也に近づけた分だけ衝也も緑谷を抱えたままズリズリと後ずさりしていく。

後退している衝也の顔は恐怖でゆがんでおり、対する耳郎の顔は真剣そのものだったが、なぜかほんのりとだが頬が赤くなっている気がした。

そんな三人の様子を見ていた(蚊帳の外になったともいう)八百万は

 

(…照れ隠しにも限度はあるんですのよ、耳郎さん…)

 

耳郎の行き過ぎた行動に若干戦慄していたとかいないとか。

 

「…なんだか、また一仕事いけないような気がするね、まったく…一度本気でお灸をすえないとダメかねぇ。」

 

そんな外の騒ぎが壁越に聞こえてしまったリカバリーガールは呆れた様にため息を吐いた後、目の前にある二人の生徒の資料に目を通し始めた。

一人はとある苦悩を抱えたイケメン少年の

そしてもう一人は、深い、深い闇と光を隠し持つ一人のフツメン少年のものである

 

「あの子が、この子を『今』気にかけているのは、誰かに頼まれたからか、それとも

 

 

 

自分自身が『知っている』からなのか…どちらにしても…今年は難儀な生徒が多い年だよほんとに。」

 

そう言いながらリカバリーガールは机に置いてあった受話器を手に取った。

とりあえず、今ある二床のベッドのほかにもう一床ベッドを追加しておいた方が損はない、そう彼女の長年の直感が告げていた。

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

若干の休憩タイム(またの名を治癒タイム)が終わり、続いて始まったのは第二種目。

その種目とは、第一種目の個々の力が試されるものではなく、チームワークが試されるもの

『騎馬戦』だった。

第一種目の1位から42位までの選手が会場へと集まり、2~4人の騎馬を作り、その組んだチームのPを合計したものを持ち点とし、それを鉢巻きに記して、互いに奪い合うといった形のものである。

得点は下から五点ずつであり、4位の衝也は195点が自分の得点ということになる。

そして、1位の得点は驚愕の1000万Pである。

え、下から五点ずつなんじゃ…というツッコミはしてはいけない。

というよりも、これにはきちんとした意味があるのだろう。

 

(まあ、あれだよな…ヒーローという人目に付き、他人を助けるべき職業、そのヒーローが担うべき重荷や、背負う命の重さは半端じゃないはずだ。もちろん、それに対するプレッシャーも。そのプレッシャーに耐えうるためのトップは1000万Pというとんでもない点数…と考えるのが妥当か?他人の命がかかってる時の『重さ』は半端じゃねぇし、それに慣れるにはうってつけか。)

 

自分が1位でもないくせにそう分析している衝也がしげしげと一緒に会場に入ってきた緑谷の表情を観察する。

冷や汗だらだらで目が大きく見開かれており、拳もわずかに震えてる。

だが、それでも彼は、そのプレッシャーに押しつぶされることなくそこに立っていた。

背負いきれているかどうかは別としてではあるが。

それを見た衝也は一瞬目を見開いた後、感心したように唇をわずかに吊り上げた。

 

(…覚悟はあり、か…案外肝が据わってるじゃないの。こりゃ、俺も負けらんねぇかな。

 

軽く背中を逸らして、ストレッチをする中、実に楽しそうに笑みを浮かべている衝也。

そして、そのあとはミッドナイトからのルール説明やらなんやらがあり、チーム決めおよび作戦会議のための15分が設けられた。

そんな中衝也は

 

「五十嵐!俺と組もうぜ!」

 

「いや、五十嵐君、私と組もうよ!私透明だから役に立つかもよ!」

 

「対人戦で一緒に戦った仲じゃん!?私と組もうよ五十嵐!」

 

「待て待て、いっぺんに話しかけてくんなよ、俺は聖徳太子か。」

 

まさかの大人気であった。

砂藤や芦戸や葉隠など、多くのクラスメートたちが衝也の周りへと集まり、自分と組もうと話を持ち掛けてきていた。

1位の緑谷と組むには得点の高さによる攻撃の集中、得点を保持し続けなくてはいけないという難易度の高さなどを考慮するとチームを組むのはリスクが高い。

そのうえ、緑谷の個性は一度使えば再起不能のような段階のため、チームを組むにはやはり個性がリスキーすぎる。

となると、狙うは緑谷を除いた上位三名である。

そのうちの一人である衝也の個性は移動にも使えるし、攻撃力もある。

広範囲の攻撃も可能で、カバーできる範囲も広く、おまけに中距離、遠距離の攻撃もできる万能的かつ攻撃力のある個性。

本人の特訓の成果なのか汎用性も高い。

それになにより、何を考えてるのかよくわからない轟や、数年間回収車が来ていないボットン便所のように汚れている性格をしている爆豪と比べると、多少アホだが人も良く、絡みやすい衝也が一番性格的にはまともなのである。

という様々な事情が重なったことにより、今、衝也は人生は初のモテ期が到来していた。

 

(俺の人生初のモテ期…。なんだろう、全然うれしくねぇ…)

 

ガシガシと頭を掻きながら自身のモテ期の到来を心の中で嘆きつつ、衝也はさて、だれと組むべきかとあごに手を当てて考えをし始める。

 

(騎手が騎馬を離れてもいいんだったら、組んでほしいのはあの二人…後は、だれにしましょうかねぇ…迷いどころよのう…索的能力をとるか、防御力を取るか…)

 

そう思考している衝也を見て話を無視されたと思ったのか、砂藤が先ほどより少し大きな声で衝也へと再び話しかける。

 

「おい!五十嵐!俺たちの話ちゃんと聞いてんのかおい!?」

 

「ああもう!うるせぇなこの甘党のたらこ唇野郎!大体てめぇら体育祭始まる前まで俺のことバカだアホだぬかしてこけにしてたろうが!そんな奴らとだれがチーム組むかボケェ!」

 

「よっ!五十嵐君超天才!イケメン!かっこいい!」

 

「五十嵐ってよく見ると味のあるいい顔してるよ!」

 

「俺はお前のこと前々から賢そうな良いやつだと思ってたぜ!」

 

「俺は今ほどお前らとの縁を切りたいと思ったことはねぇよほんとに…」

 

最初のころとは打って変わって媚を売り始めたクラスメートたちを見て、怒りを通り越してあきれてしまう衝也。

そんな彼だったが、不意に横から視線を感じそちらの方へと振り返る。

するとそこにいたのは

 

「耳郎よ、お前もか!」

 

「なにその『ブルータス、お前もか』みたいな言い方。腹立つんだけど…」

 

「一度言ってみたいセリフベスト100には入ってそうだよなこれ。」

 

あきれた様に衝也の方を見ている耳郎響香であった。

そんな彼女を衝也は某政治家の腹心に放たれた一言をまねたセリフを言いながらケタケタと笑っており、それを見た耳郎はまさしくうんざりといった様子である。

そんな耳郎は衝也の方へと数秒視線を送った後、ゆっくりとため息を吐いた。

 

「それにしてもアンタ、すごい人気だね。アンタの周りに人がわんさか集まってたじゃん。」

 

「ああ、なんだか人生初のモテ期が来たような感じだ。人気者ってのもつらいもんだぜ。」

 

そう言ってだっはっはっはと愉快そうに笑う衝也に対して、耳郎はどことなく面白くなさそうな表情を浮かべた後、衝也の方へぱちぱちとやる気なく拍手を送った。

 

「はいはいよかったよかった。それならそのまま適当にチーム組んじゃえば?」

 

「いやいや、一応はきちんと考えてチームは組まないとな。適当に組んじまったら勝てるもんも勝てなくなっちまうし。」

 

「いいじゃん別に。皆からの人気のアンタなら適当にチーム組んでも勝てるでしょ?ほら、あそこにいる変なゴーグルつけてる人のところにでも行って来れば?人気者なんだからすぐチーム組めるでしょ?」

 

「なんか、いやに人気者ってのを推してくるなお前…なんかあったのか?」

 

「別に普段と変わんないけど?アンタの思い過ごしでしょ。」

 

「そうか?ならいいんだが…」

 

軽く首を傾げつつも衝也は耳郎が指さした選手の方へと顔を向ける。

恐らくは耳郎が適当に指さした選手なのだろうが、幸か不幸か、その生徒は衝也の顔見知りの生徒だったのか、衝也はその生徒を見て一瞬目を見開いた。

 

 

「ん?あれ、発目か?あいつも予選突破してきたのか。スゲーなあの発明オタク…。まあ、アイツの発明品の中にゃ結構役に立つもの揃ってたし…いけなくもないのか。」

 

「…ちょっとまって。アンタ、あの変な奴と知り合いなの?」

 

 

衝也のつぶやきを聞いた耳郎はピクリと眉を動かすと、視線を衝也とゴーグル少女の方へと交互に向けながら彼に問いかけた。

 

「おう、確か…あー退院した次の日あたりかな?ちょっと野暮用があってパワーローダー先生に会いに行ったんだ。俺は別に工房とかには興味なかったんだが、先生が基本的に工房にいるもんだからその工房にお邪魔させてもらったんだけどよ、その時にあいつがいてさ、まあ…なんやかんやあって知り合いになった。いやぁ、知り合ったばっかだけど、アイツはすごいぞマジで。耳郎も一回来てみたらどうだ、工房。なかなかインパクトがあって面白いぜ。」

 

そう言い笑顔を浮かべながら耳郎の方へと視線を向けなおす衝也だったが、対する耳郎はというと

 

「……」

 

「?耳郎…?どしたん、なんか不機嫌そうだけど…」

 

「…別に。何でもない。」

 

表情はムスッとしていて、どことなくではあるが不機嫌そうな顔をしていた。

それを見た衝也が軽く首を傾げた後、耳郎に問いかけるが、耳郎は表情をムスッとさせたままプイと顔を横に逸らす。

 

「人気者は大会前から人気者なんだなって思っただけだから。もうそのままあの子のところに行ってそのすごい子の力を借りればいいんじゃない?どうせアンタが声かければチーム組んでくれるんでしょ?何せ人気者なんだから。」

 

「…怒ってるのか?」

 

「怒ってない。」

 

「いや、怒ってるだろ。」

 

「怒ってないって。」

 

「いや絶対怒ってるでしょーよ。何、なんか俺が悪いことしたのか?」

 

「別に何もしてない。つーか怒ってないって言ってんじゃん。」

 

「なぁ、なんかしたなら謝るからさ、機嫌治せって…」

 

「怒ってないから謝んなくてもいいっての。それ以上言うと…刺すよ。」

 

「え、えぇー…理不尽すぎる…」

 

顔を少しだけ衝也の方へと向けながらプラグを衝也へとむけてくる耳郎を見て、衝也は困惑した表情を浮かべる。

その直後、彼の背後から一つの声が聞こえてくる。

 

「五十嵐、少しいいか?」

 

「ん…?」

 

その声に反応して彼は反射的に後ろを振り返る。

そして、そこにいた少年の顔を見た衝也の表情が、一瞬だけではあるが真剣なものに変わる。

そこにいたのは、

 

「おお、轟か。どうした、いきなり?いきなりすぎてちょっとビクッてなっちゃったぜ。」

 

クラス一の実力者にしてイケメンの、轟だった。

衝也は一瞬だけではあるが目を細めて真剣な表情を作るが、すぐにいつものお調子者の表情を見せて軽く肩をすくめた。

 

「わりぃな、驚かせちまって。」

 

「…お前はマジで返すタイプなのね。」

 

「?」

 

衝也のつぶやきに軽く首を傾げる轟だったが、すぐに首を元に戻し、いつも通りのイケメンフェイスのまま話を続けていく。

 

「すまないが、ちょっとお前に用があるんだ。時間がない、できるならすぐに来てほしい。」

 

「え、あ…えーっと、だな」

 

轟にそう言われた衝也は軽く頬を掻きながら視線をそーっと斜め後ろにいる耳郎の方へとむける。

それに気づいた耳郎はひらひらと手を振って衝也に声をかけた。

 

「あー、ウチのことはほっといていいからとりあえず話聞きに行ってきなよ。」

 

「え、いや、けど」

 

「いいから、早く行きなって!」

 

「んー、まあお前が言うならいいけどよ…またさらに機嫌悪くなったりしねぇよな」

 

「アンタがいなくなって機嫌が悪くなるわけないでしょうが。むしろ清々するから大丈夫だって。」

 

「…耳郎、ウサギは」

 

「ああもう!いいから早く行きなって!ほらほら!」

 

シッシ!と犬でも追い払うかのように衝也の方へと手を振る耳郎を見て衝也は若干肩を落としながら轟の方へと向かっていく。

それを見た轟は一度耳郎の方を向き、軽くお辞儀をしてから衝也を連れていく。

細かな気配りも忘れていない。

さすがイケメンである。

それを見た耳郎は、気にしなくてもいいから、というように笑顔で手を横に振り、二人が離れたのを確認した後

 

「はぁ…最悪だ、ウチ。」

 

自身のコードに指を絡めながらそう愚痴をこぼした。

 

(勝手に機嫌悪くして、変に衝也に当たったりなんかして…マジ最低でしょウチ。)

 

大きくため息を吐きながら自身のコードをいじり続ける耳郎。

ほんとうは、あんな嫌味みたいなことを言うつもりではなかったのだ。

『自分と一緒にチームを組んでほしい。』

間近で見たからこそわかる衝也の純粋な戦闘能力の高さと意志の強さ。

それを知ってるからこそ、耳郎はなんとしてもこの予選では衝也と組みたかったのだ。

この体育祭は例年最後の第三種目は個性を使ってトーナメントによるサシの勝負をすることがほとんどだった。

つまり、クラスメートやほかの組のクラスと戦う機会ができるということ。

それは、それだけ自身の経験を積むことができるということに他ならない。

それになにより、うまくいけば衝也自身と戦うことも…もしかしたらできるかもしれない。

自身の強さの目下の目標は、衝也の強さに少しでも近づくこと。

そして、もう二度とあんな恐怖を味合わない、味合わせないことである。

そのために必要なのは、経験と戦闘能力の向上。

その経験と戦闘能力の向上のために一番効率の良い方法は、強者の戦闘方法を見て、強者と直接戦うこと。

いつか見たどこぞのバトル漫画に描いてあったのを鵜呑みにするわけではないが、実際、強者との戦闘によって自分にどこが足りてないのかを知ることはできるだろうし、彼女は強者の戦闘を間近で見たからこそ、『変わる』ことができたのだと思っている。

だからこそ、この騎馬戦で衝也(強者)の戦闘を間近で見て、次の本選で衝也(強者)との戦闘を体験したかった。

そのためにも、衝也と組みたいと思ったのだが

衝也の周りに人がたくさん集まっているのを見て、胸のあたりが少しだけチクリと痛くなった。

衝也が皆に囲まれているのは当然だ。

今回の持ってる得点も高いし、実力もあるし、個性も強い。

だから、この騎馬戦で人気が出るのもわかるのだが、

皆に囲まれて、どこか楽しそうにしている衝也を見ると、どうしても胸のあたりが少しおかしくなり、そのあと猛烈に苛々してしまった。

 

何をあんなへらへらしているのか…

 

皆に囲まれて少し調子に乗ってるんじゃなかろうか。

 

浮かれすぎだあのアホが…

 

などと心の中で好き勝手に言いまくり、少しばかり嫌味もかねて目に移ったいかにも変人オーラがするゴーグル少女を話に出してみると

今度はその少女と知り合いだと言い出した。

 

どういうことだ?

 

いつどこで?

 

どういうきっかけで知り合ったんだ?

 

そんな言葉が頭の中を反芻していたその時、先ほどよりほんの少し痛みをまして、またも胸のあたりがチクリと痛み、もう先ほどの五倍くらいイライラが募り、つい不機嫌になったりしてしまった。

 

(いつもはこんなんじゃなかったんだけど…どうしたんだろ、ウチ?体育祭の熱気にあてられたのかな…)

 

別に、衝也が誰かに囲まれるのはいつものことだ。

切島や瀬呂、上鳴、最近は緑谷や尾白など、クラスの男子とはしょっちゅう絡んでいるし、先ほどみたいに男子たちに囲まれて談笑しているなんていうのはよくあることだ。

クラスの三大ガヤ担当の一角であるためか注目を集めることも多いし、バカなことをして皆から笑われるところだって何回も見てる。

別に、その風景をみてこんなふうになることはない。

今日に限って、なぜかさっきの光景を見ると、胸がチクリと痛んでしまうのだ。

これは一体どうしてなんだろうか?

そう思って首をわずかにひねるが、考えても答えが出るようには思えない。

とりあえず、一度頭を冷やした彼女が出した結論は

 

(とにかく、一度謝っとかないと…)

 

謝罪の言葉を衝也に述べることだった。

そして、改めて言わなければならない

 

(それで、『ウチと一緒にチーム組んでくんない?』そう聞けばいい!本来はそのために来たんだし!)

 

自身の嫌味でずいぶんと遠回りになってしまったが、やっと自身の本来の目的を再認識できた耳郎は自身の頬を二回両手で挟むように叩くと

 

「よし!」

 

と小さくつぶやいた。

そして、あたりをキョロキョロと見まわして衝也の姿を探し始める。

すると

 

(あ、いた!)

 

わずか数秒で衝也の姿が視認できた。

ゆっくりと、顔を俯かせながら耳郎の方へと歩いてくるのを見た彼女は、自身も少しばかり速足で衝也の元へと近寄っていく。

 

「あ…え、えと、衝也!轟との話は終わった?」

 

「……」

 

「あ、あのさ衝也…さっきはその、ごめん。ちょっと緊張かなんかのせいかウチちょっと苛々しちゃってて…」

 

「……」

 

「そ、それでさ、ちょっと衝也にお願いっていうか頼みたいことがあるんだけどさ…えっと、その…別に、アンタが良かったらでいいんだけど、さ。もし良いんなら、その…ウチと」

 

「耳郎…」

 

「?」

 

しきりに自身のコードを指でいじくり、チラチラと衝也の方を見たりみなかったりしている耳郎だったが、衝也が突然顔を俯かせたまま自身の名前を口にしたため不思議そうな視線を衝也の方へとむけた。

すると衝也は、今まで俯かせていた顔を勢いよく挙げて、

ガシィ!と両手で耳郎の両手をこれまた勢いよく握りしめた。

 

「ッ!?え、っちょ…」

 

「この騎馬戦…何が何でも勝ちに行くぞ!何か俺ちょっともうこの体育祭で『轟には絶対勝たなきゃいけないフラグ』立てちまってる!これで騎馬戦で本選出場ならずなんてなったら恥ずかしすぎて学校にいられなくなっちまう!」

 

「いや、あのさ…その、手を」

 

「こうしちゃいられねぇ…そうと決まれば善は急げだ!さっさとケロインと歩く公然猥褻物を誰かに取られる前にスカウトしに行かなきゃならん!行くぞ耳郎!」

 

「はぁ!?え、ちょ、全然状況が呑み込めてないんだけど!?何がどういうことで何がどういう風に決まったわけ!?きちんとウチに説明を…ていうか!いい加減手ぇ放してってば!」

 

ずるずると衝也に手を引っ張られる耳郎。

その様子が物珍しいのか、周りからのいぶかし気な視線が衝也と耳郎に降り注ぐが、衝也はそれを気にも留めないであたりをキョロキョロと見まわしながら誰かを探している。

最早耳郎の訴えは耳に入っておらず、その様子は必死すぎて目が限界まで見開かれており、一体轟になんと言ったのかものすごく気になるところである。

そんな中、周囲からの視線に対する恥ずかしさか、はたまた男子と手を握っているという状況のせいなのか、少しばかり頬を赤くしながら衝也に手を引っ張られ続けていた耳郎はふと

 

『あれ、なんだかよくわからないけどもうチームを組むのは確定?』

 

と心の中でそっとつぶやいた。

どうやら、想像とはだいぶ違ったものの、無事、自分は目的を果たすことができたようだ。

だがなぜだろう、どうにも釈然としない。

困惑しているようなうれしいような戸惑っているような、とにかくいろんな心情が混じった複雑な表情をしながら、耳郎はぶつぶつと何かをつぶやき続ける衝也に引きずられ続ける。

 

 

そして、チーム決めと作戦会議のための15分が終わり

ついに

血で血を洗う残虐極まりないバトルロワイヤルの開始のゴングが

鳴り響こうとしていた。

 




トーナメントにいきた過ぎて駄文になっている…!!
どうしよう、一応レクリエーションのところも用意してあるのに…!
それにしてもあれですね…騎馬戦憂鬱です。
さて、一体だれがチームになるのやら(棒読み)

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