救える者になるために(仮題)   作:オールライト

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あれ…おかしいな
評価の色が赤い…よし、眼科へ行こう。
ということで、眼科に行ったら眼鏡とコンタクトを買うことになりました。
てか、どうせこの評価の色もすぐに緑とか青に変わってしまうんでしょうね。
がっでむ。
てなわけで十三話です、どうぞ。





あ、真面目なタイトルは別に見間違いじゃないですから、安心してくださいね。

追記

一瞬ですが日刊ランキングに乗ってしまいました。
眼鏡とコンタクト買ってよかったです。
まぐれでも嬉しいです!
これもひとえに皆様のおかげです、ありがとうございます!
もう作品終わらせてもいいくらい嬉しい!(おい)


第十三話 終わりと始まり

 衝也の魂の叫びと共に放たれた、最後の一撃。

 その渾身の衝撃はUSJの施設全体を揺らし、辺り一面に凄まじい余波の衝撃波と強風を生み出した。

 

「な、なんじゃこりゃああああああ!?」

「峰田ちゃん暴れないで…舌が痛いわ!」

 

 その余波のあまりの強さに小さな峰田は簡単に吹っ飛んでしまい、何とか飛ばされないように蛙吹の伸ばしてくれた舌につかまっていた。

 周りの皆も何とか衝撃波に飛ばされないように踏ん張っている状態だ。

 

「クッ…余波だけでこの衝撃と風圧…なんつー一撃だよ…緑谷、お前吹っ飛ばされねぇよにちゃんとつかまっとけよ…」

「ぬぐおお…!!」

 

 両手を体の前でクロスさせて、体にたたきつけられてくる風圧を防いでいる轟は、背中に背負っている緑谷に声をかけた。

 その緑谷は、体を浮かせながらも何とか彼の背中につかまっていた。

 その隣にいる切島は、自身の身体を個性で硬化させて、必死に足を前に動かそうとしていた。

 

「ま、待っでろよ皆ぁぁ…!今すぐに…俺が、だでになっでやるがらなぁぁ!!」

「う、るせぇクソ髪!てめぇ一人で、この人数…守りきれっか、ボケ!いいから…黙って、踏ん張っとけ!」

「…!?げ、げどよ爆豪…」

「いいから、自分の事に、集中しとけ…!てめぇが、へまして吹っ飛んでも…俺は助けたりしねぇぞボケ!」

 

 前からたたきつけられる衝撃と風圧のせいで言葉がとぎれとぎれになってしまっているものの爆豪は皆の盾になろうと奮起している切島に苛ただしげに言葉を投げかけた。

 それを聞いた切島は「!…わがっだよ!みんなぁ、踏ん張れよぉぉ!頑張れぇぇぇ!!」と熱い叫び声を上げた。

 ここまでの風圧と衝撃を、いくらクラスでも屈指の防御力を持つ切島でも負傷している状態で耐えるのは難しい。

 実際、爆豪も少しでも気を抜いたら脚が宙に浮いてしまいそうになる。

 そんな状態で仲間を守るためとはいえ、むやみに足を動かしたら吹っ飛ばされてしまうだろう。

 それを危惧した爆豪は、だからこそ切島を注意したのだ。

 というより、切島一人ではここまで広範囲に広がる衝撃波からこの人数を守り切るのは不可能なので、正直無駄以外の何物でもない上に、鬱陶しいことこの上ないので邪魔なことはしないでほしい、というのが爆豪の本音である。

 そんな、皆が何とか余波の衝撃と風圧に耐えている中、耳郎は両腕で自身を守りながらも、視線をずっと前へと送り続けていた。

 

(衝也…)

 

 心の中でその名を呟いた彼女のその顔は不安と心配が入り混じったような表情を浮かべていた。

 皆は恐らく衝也の最後の叫び声しか聞こえていない。

 自身の個性だからこそ聞こえたであろう彼の呟きは、彼女を不安にさせるには十分すぎる物だった。

 

『身体くらい…くれてやるよ!それで、何も失わずに済むのなら!!』

「…!」

 

 彼の呟きを頭の中で反芻した耳郎は思わず、最悪の展開が頭をよぎってしまう。

 彼は、恐らくわかっていたのだ。

 あの重傷の身体でこれだけ規模の大きい衝撃を出せば、自分がどうなってしまうのか。

 それでもなお、脳無の攻撃から自分たちを守るために、その身体を無理やり動かし

 命をとして、渾身の一撃を放ったのだ。

 そこにどれだけの覚悟があったのか、彼女にはわからない。

 だが少なくとも、衝也はあの時

 文字通り命を懸けて、耳郎達を、大切な友達を守ったのだ。

 では、命がけの一撃を放った衝也はどうなるのか?

 

(…!ダメだって!縁起でもないこと考えんな!!)

 

 ブンブンと首を激しく横に振り、慌てて頭に浮かんできた光景をかき消す耳郎。

 しかし、いくら大丈夫だと自分に言い聞かせても、不安をぬぐい去ることはできない。

 そして、耳郎は恐る恐るというようにゆっくりと、顔を上にあげて、目の前の光景に視線を向けた。

 いつの間にか余波の衝撃波と強風は止んでおり、後に残っているのはまるで脳無と衝也、二人の姿を隠すかのように立ち込めている砂埃だけ。

 そして、ゆっくりと風に揺られていた砂埃が晴れていく。

 それを耳郎達は冷や汗を流しながら見つめている。

 あの衝撃の威力はどれほどだったのか、脳無はどうなったのか、そして何より

 

「衝也…。」

 

 拳を握りしめながらその名を呟いた切島は悔しそうに歯ぎしりしながら目を限界まで見開いて衝也の安否を確認しようと躍起になっている。

 他の者たちも、ある者は不安げな表情で、ある者は少しばかり緊張したような面持ちで、各々違う表情を浮かべながらも、全員が衝也の無事を祈っていた。

 そして、砂埃が完全に晴れたその時

 全員の表情が、驚愕に包まれた。

 驚愕している彼らの目の前に映ったのはセントラル広場、ではない。

 セントラル広場だった場所、といった方がふさわしい。

 なぜなら

 セントラル広場は影も形も無くなっており、そこにあったのはまるで小さな隕石でも落ちたかのような巨大なクレーターのみだったから。

 広場にあった美しい噴水も、きれいな木々も、跡形もなく消え去っており、広場全体が大きなクレーターに変わってしまっている。

 

「な、何だよこれ…。オイラ達、夢でも見てんのか?ここ、広場だったよな…?」

「ケロ…」

 

 峰田や蛙吹が、半ば茫然とした様子で呟いている中、爆豪は驚愕した表情でその広場跡を見つめていた。

 

「なんだ…これ…これを、あのバカがやったってぇのか…!?嘘だろ…こんな…こんなの…」

 

 ブツブツと、何度も何かを呟き続ける爆豪。

 そんな中、轟は背中の緑谷を軽く背負いなおした後、いつもと変わらぬクールな顔のまま広場を見渡した。

 だが、その顔には驚きと感嘆の気持ちが見て取れた。

 

「すげぇな…広場が跡形もなく消えてやがる…。」

「こ、これが、五十嵐君の全力…!すごい、この威力、もしかしたらオールマイトの100%以上の…!」

 

 轟の背中で少し興奮したように呟く緑谷だったが、すぐにハッとした表情を浮かべ、キョロキョロと辺りを見渡した。

 

「!?そうだ、五十嵐君!轟君、今すぐ五十嵐君を探さないと…!」

「待て、緑谷。五十嵐が無事かまだ確認できてないようにあの脳無とかいう化け物の無事も確認できてねぇ、今ここでむやみに動くのは危険だ。」

 

 その轟の言葉を隣で聞いていた切島は、一瞬目を見開いた後、慌てて轟の方へと顔を向けて、怒鳴りつけるように大声を上げた。

 

「な、バカ言ってんじゃねぇよ轟!もしあの化け物が生きていやがるんだったらなおの事衝也の奴を探さねぇと!そうしなきゃ、衝也の野郎があの化け物に!」

「落ち着けよ切島。脳無だけじゃねぇ、あの死柄木と黒霧とかいうやつらもいるかもしれないんだ。五十嵐が心配な気持ちは俺だってわかるが、今ここで何も考えずに行動して、俺たちの命を危険にさらすことになるのは、あいつだって望んじゃいねぇはずだ。」

「…!じゃあどうすればいいってんだよ!?」

 

 轟に友を探すことを止められてしまった切島は悔しそうに拳を震わせた後、半ば焼けくそ気味に轟に問いかける。

 自分だけが衝也を心配してるわけじゃない。

 それをわかってる切島だからこそ、轟の言葉に歯向かうことが彼にはできなかった。

 それに何より、『俺たちの命を危険にさらすことは、衝也も望んではいない』というその言葉が切島の、いや、切島だけではない。

 緑谷や峰田、蛙吹、この場にいる全員の胸に突き刺さった。

 この短い戦闘の中で、彼がどんな人間か、少しだけだがわかることができた彼らだからこそ、轟のその言葉の重みがわかっていた。

 彼は、自分たちに逃げるよう言っていることはあったが自分が先に逃げるようなことは一切しなかった。

 この戦闘中、常に重傷の自分より自分の友の事を考えながら行動していた彼の姿を見ているからこそ、その言葉がまさに真実ではないかと考えてしまう。

 一同が神妙な表情や悔しそうな表情を浮かべてるのを視認した轟は、ゆっくりと息を吐きながら口を開いた。

 

「…とにかく、今は今ここがどういう状況かを確認して」

 

 そこまで言って轟は突然目を見開いて言葉を止めた。

 轟だけではない、切島も峰田も緑谷も蛙吹も、なんと爆豪すらも目を見開いた。

 なぜなら、

 今までじっと拳を震わせていた耳郎が、突然広場跡に向けて走っていったからである。

 

「な、響香ちゃん!?」

「お、おいちっぱい!!おめぇ話聞いてたのか!?今動いたらアブねぇって言ってんだろうが!?」

 

 蛙吹と峰田が慌てたように耳郎の事を止めようと声を上げるが、耳郎は脚を止めることなく走りつづける。

 そして彼女は必死に走りながらも、何度も何度も辺りに顔を向けて衝也の姿を探し続けた。

 

(轟の言ったようにアンタはきっと自分を探してもらうより、ウチらが外に逃げて教師たちに保護してもらった方がうれしいんだろうけど…けど!)

「ウチだって、アンタの傷だらけの姿みるより!いつもみたいに馬鹿みたいに笑ってる姿を見てる方がいいんだよ!」

 

 彼女のその叫びを聞いた切島は、一瞬ハッとした表情を浮かべた後、何かを思案したように顔をうつむかせた。

 そして、覚悟を決めたように顔を上げた後、

 

「…!クッソ!!こうなりゃやけだ!!衝也ぁ!どこだぁぁ!!」

 

 耳郎に続くかのように衝也の名前を叫びながら広場跡に向かって走り出した。

 それをみた轟は、驚いたような表情を浮かべて手を切島の方へと伸ばした。

 

「な、おい切島!!」

 

 しかし、伸ばした手は空を切り切島を止めることはできなかった。

 それを見た轟は呆れたような表情を浮かべた後、背中に背負っている緑谷を軽く背負いなおした

 

「仕方ねぇ…全員一塊になって動くぞ…絶対に離れたり、気を抜いたりしないように。このままあいつらをほっとくのも危険だからな…行くぞ!」

 

 轟のその言葉に緑谷たちは真剣な表情でうなずき、全員で一斉に広場跡に向けて走り始めた。

 

 そして、轟達が広場跡に向けて走り始めたその頃、必死に辺りを見回しながら走っていた。

 

「はぁ、はぁ…衝也、無事でいてくれよ…!」

 

 まるで願うかのようにそうつぶやく切島は、その間にも広場跡を駆け回る。

 いや、正確には駆け落ちるといった方が正しい。

 クレーターの中心、つまりは衝撃の発生地点に向けて走っている切島だが、そのクレーターを中心に広がる急斜面を滑り落ちるかのように走っていたのだ。

 そして、中心に向けて走っていた切島は目の前に、一人の人間が立ち止まっているのが視線に入ってきた。

 

「!あれは…!」

 

 切島はそうつぶやいて、走るスピードを上げていく。

 そして、彼女の背中に向かって大きな声をぶつけた。

 

「耳郎!わりぃ、ちと来るのが遅れちまった!衝也の奴、見つかったのか…ッて、こいつッ!?」

 

 耳郎の元にまでたどり着いた切島はそこまで言った瞬間、彼女の背中の斜め前で倒れている大男を見て思わず拳を構えてしまう。

 そこに倒れていたのは、先ほど衝也の全力の一撃を喰らっていた化け物、脳無だった。

 攻撃が来るかと思わず身構えてしまっていた切島だったが、自分たちが近くにいるにも関わらず一切動く気配がないのを見ると、動けないと考えるのが妥当だろう。

 おっかなびっくりではあるがゆっくりと切島は拳を下ろした。

 

「こいつ、動かない…いや、動けねぇのか?もしかして、衝也の奴、今度こそ…!?」

 

 興奮したようにそうつぶやいた切島はすぐにハッとした表情を浮かべ、慌てて目の前の耳郎へと話しかける。

 

「って、今はそんなことはいいんだ!耳郎、ここは危ねぇ!一緒に衝也を速く見つけてここを離れよう!この大男もいつ動くかわから…ッ!」

 

 そこまで言って切島は呆けた表情を浮かべて突然言葉を止める。

 なぜなら、いきなり耳郎がへたりとその場に座り込んだからだ。

 それを見た切島は慌てて彼女へと駆け寄っていく。

 

「お、おい!いきなりどうしたんだよ!?どっか怪我でも…ッ!?」

 

 背後から耳郎の肩に手を置いてそう声をかける切島だったが、耳郎が茫然と見つめていた物に目を向けた彼は、一瞬目を見開いた後、言葉を失った。

 

 切島と耳郎、彼らが視界にとらえたもの…それは

 

 血だまりの海に仰向けに倒れ込んでいる五十嵐衝也だった。

 

「しょ…うや?」

 

 一瞬、何を見たのかわからなかった切島は、停止していた思考を何とか動かし、やっとのことでその名を口にする。

 彼の倒れ伏している地面に流れている血の海。

 その血がすべて、彼の物だとしたら…

 ありえない、何かの間違いだ、どうせからかってるんだ、この名を呼べば…

 

「…衝也」

 

 またいつものように笑顔で、バカみたいなこと言って皆を笑わせてくれる。

 頭の中で必死にそう考えてた切島が大声でその名を呼ぶが

 衝也は、指先一つ動かすことはない。

 

「…ッ!!は、ハハ…何だよ、からかってんのか衝也?おまえ、こんな非常事態でもバカなことし続けるなんて、さすがに笑えねぇぞ?」

 

 震えた笑顔を浮かべながら、切島は、その声さえも震わせながら言葉を続けていく。

 

「おい…いつまで寝てんだよ衝也、いい加減起きろって…あ、もしかしてあれか?ものでつらねぇと起きないとか、そういうパターンのボケか?ハハ、それじゃあしょうがねぇなぁ、お前、ラーメン好きか?ここの近くに、俺が見つけたうまいラーメン屋があるんだ、ここから出られたらそこのラーメンおごってやるよ。卵もメンマも、何ならチャーシューもトッピングでつけてやろうか?」

 

 そう言って衝也に笑いかける切島だが、やはり衝也は動く気配がない。

 それを見た切島の顔が、段々と…段々と歪んでいく。

 

「おい、起きろよ衝也、これ以上トッピング増やしたら俺の財布がパンクしちまうって…。頼む、目を開けてくれ…。ッ!!頼むから!目を開けてくれよ衝也ぁ!!!!」

 

 ボロボロと、両目から涙を流しながら衝也の名を叫ぶ切島。

 しかし、その叫び声でも、衝也が起きることはない。

 自身の血の上で倒れたまま、動くことすらしない。

 

「…ッ!嘘、だろ…!誰でもいい…誰か嘘だって言ってくれぇ!!!!」

 

 そう叫んだ切島は、顔を両手で覆い隠し、その場で両膝を地に着けてしまう。

 そして、切島の声にならない叫びと嗚咽が、静かにその場の空気を震わせる。

 そんな彼の前でずっとへたり込んでいた耳郎は、目を見開いた表情のまま、ゆっくりと、ゆっくりと衝也の方へと近づいていく。

 

 ピチャリ、ピチャリと、耳郎が地面に手を置くたびにはねるその血は、果たしてヴィランのものなのか、衝也の物なのか?

 いや、そんなこと、初めから分かり切っていた。

 この惨状を見たその瞬間から

 衝也のその痛々しいほどの傷を負っているその右腕から、ダラダラと血が流れているのだから。

 腕は見るのも拒みたくなるほど折れ曲がり、その折れている部分から骨が痛々しく突き出ていた。

 五指全ても完全に折れ曲がっている。

 もちろん、右腕だけではない。

 身体中も裂傷やら打撲やら骨折やらで傷だらけ。

 顔が、頭が、腕が、脚が、もはや傷のないところがないのではないかと思えるほどの状態の衝也に対して、脳無は

 意識こそ失っているものの、外傷らしい外傷は見当たらず、血を流しているようにも見えない。

 つまり、この地面に溜まっている血すべてが、

 ここに倒れ伏している…五十嵐衝也のものである

 

「…衝也」

 

 ゆっくりと、倒れ伏している衝也の元までたどり着いた耳郎は、いまだに目を開けない、傷だらけの衝也の顔を見つめながら、その名を呟いた。

 

「ねぇ、衝也…起きてよ、起きてよ、ねぇ!」

 

『俺は…『知ってる』んだったら、後悔のない行動をしたいんだ…。』

 どこか覚悟を決めたような衝也の顔が

 

『…おれ今度からお前の事耳郎の神って呼ぶわ。』

 いつものお調子者のような笑みを浮かべている衝也の顔が

 

『ありがとな、耳郎。俺が言うのも変だけど、お前きっと良いヒーローになるよ。』

 優し気な笑顔で頭を撫でてきた衝也の優し気な声が

 

 彼女の頭の中を駆け巡る。

 彼の事は何も知らない。

 彼の好きな物も、嫌いな物も、出身地も、家族構成も、

 彼がどうしてヒーローを目指したのかも、彼が過去に一体何を失ったのかも

 そう、耳郎は彼の事は何も知らないのだ。

 何十年も付き添ってきた親友ではないのだ。

 切島みたいに、入学してすぐに仲良くなったわけでもない。

 

『大丈夫、大丈夫だから』

 

 つい最近、借りができたからという理由でやっと興味を持ち、話をし始めたまだまだ関係を築き始めたばかりの友人だ。

 それなのに

 それなのにどうしてか、

 彼の今の姿を見ていると、涙がこみあげてきてしまう。

 

 

「ウチ、ウチ、まだお礼言えてない…!お化け屋敷(あの時も)……山岳ゾーン(ついさっきも)、今だって、一回も…お礼言えてないよ…?だからさ、起きてよ衝也…借りの作りっぱなしなんて…ウチのしょうに合わないんだ…!だから…!」

 

 何とか、何とか起きてほしい。

 その閉じている眼を開けてほしい。

 ただそれだけを思いながらひたすらに衝也に話しかけていた耳郎は

 

「お願いだよ…目を開けて…お願いだからさぁ…!」

 

 ついに嗚咽を混じらせながら涙をこぼす。

 必死に、流れ出る涙をぬぐおうと目元を手の平や甲でこするが

 それでも涙は止まらない。

 彼女の瞳から流れ出た雫は、耳郎の頬を伝って行き

 ポタポタと衝也の顔へと降りていく。

 

 静かな、実に静かな広場跡で切島の言葉にならない叫びが響き、衝也のそばで、耳郎の嗚咽が鳴り響く。

 

 そして、いまだに嗚咽を漏らしながら涙をぬぐっている彼女の左頬に

 傷だらけで、意外とごつごつしている手が触れた。

 その瞬間、耳郎の目が大きく見開かれる。

 そして、涙をぬぐっていた手を顔から離し涙で赤くなってるその瞳をゆっくりと

 地面に倒れている衝也に向けた。

 そこにいた衝也は相変わらず血だらけの海に倒れ伏している。

 ただ

 彼の閉じていたその瞳は

 わずかに、わずかにではあるが

 光を灯していた。

 

「…何、泣いてんだよ…耳郎。そんな、泣いてちゃ…せっかくの、かっけぇ…ペイントが、台無しだぜ?」

 

 そう言ってゆっくりと、涙によって滲んでしまった耳郎のペイントを撫でる。

 それを見た耳郎はしばらくの間、茫然と衝也の事を見続けていたが、不意に表情を歪ませたかと思うと、ゆっくりと顔をうつむかせ

 再び大粒の涙を流しながら、

 両手で、自身の頬に触れている彼の左手を、しっかりと握りしめた。

 彼が生きていることを確認するかのように、強く、強く握りしめた。

 

「…ッ!…ッく!よかっ…良かった…!…良かっ、た!」

 

 嗚咽と共に混じる彼女の安堵の声を聴いた衝也は、ゆっくりと、唇を吊り上げ

 お調子者(いつも)の笑顔を耳郎へ向けた。

 

「はは、お前が…泣くなんて、らしくねぇって…。笑ってた方が、お前…可愛いぜ?」

「うる…さいッ!泣いてなんか、ない…ての!!」

「…そうかい。」

 

 そう言って笑い続けている衝也を見て、

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!じょうやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!いぎでで、いぎででよがっばぁあああああああああああ!!」

「う、うるさいぞ切島…音が、傷に…響くんだけど。」

 

 歓喜の声を上げながら滝のように涙を流していた。

 その光景を笑いながら見つつも、衝也は若干苦しそうにする。

 それでも気にせず、切島は大声で泣き続ける。

 その声につられるかのように、轟、緑谷、峰田や蛙吹、爆豪たちも衝也の元へと集まっていく。

 緑谷と峰田は既に切島のように滝のように涙を流す。

 蛙吹も、ポロポロと粒のような涙を流しながら、嬉しそうにケロケロと泣き始める。

 轟も、安堵したような表情をうかべ、爆豪も悔しそうに舌打ちをしつつもどことなく安心したような表情を浮かべていた。

 

「なんだよ、何だよこのくそみたいなハッピーエンドは!!?こんな、こんなことが…脳無が、脳無が負けるなんて!!」

「まさか、あの少年がここまで強いとは…!」

 

 そんな彼らを、忌々しそうに見つめているのは衝撃波から逃げるためワープしていた死柄木と黒霧である。

 衝也の放った衝撃の余波が止んだのをほかの場所から見て、ようやく黒霧の個性を使って戻って来たかと思えば、目の前に出てきたのは

 倒れ込んで動かない脳無と歓喜の声を上げている子供たち。

 本来ならそのガキたちの死体が見れると思っていたというのに、結果はまるでその逆。

 そのことに、死柄木は苛つき、ガリガリと、いつもよりも乱暴に首元を搔きむしる。

 

「くそ、クソ!!あの脳無は、全盛期のオールマイトの100%にも耐えられるように作ったんだろ!?なのになんで…」

 

 そこまで言って、死柄木は目を見開く。

 アイツは、いや、あの人は嘘は言わない。

 あの人が、嘘を言うはずがない。

 事実、あの脳無のスペックは凄まじい物だった。

 アイツさえいれば本当にオールマイトを殺せると思ってしまうほどに。

 その脳無を、衝也は行動不能にした。

 そのことから考えられるのは

 

(あのガキの100%が…オールマイトの100%を超えたっていうのか…!?)

 

 首をかきむしるのをやめ、ゆっくりと顔を衝也の方へと向ける。

 そして、そのぎらついている狂気の眼を、限界まで見開いて、衝也の事を見続ける。

 

「…危険だ。」

「?…死柄木?」

「黒霧、あのガキは危険だ…今だ、今すぐだ!あのガキを、今ここで殺すぞ!」

「…!ええ、わかりました死柄木。私も、貴方の意見に賛成だ。あの少年をこのまま放置しておくのは、あまりに危険すぎる。」

 

 衝也をこのまま放置しすぎておくのは危険すぎる。

 このまま放置して、もし、彼が雄英のカリキュラムをこなし成長し続けたとしたら、

 いずれ必ず脅威となる。

 それは、あの人に言われるがままに動いていた死柄木が、初めて自分で判断し、決断した行動だった。

 

「黒霧!俺とあのガキの空間をつなげ!!」

「了解です!」

 

 そう言って黒霧は自身の身体を大きく広げる。

 その瞬間、倒れ込んでいる衝也の目のまえに黒いモヤが現れた。

 それを見た切島たちは、そこで初めて死柄木たちが居ることを知ることになった。

 

「ッ!このモヤは、あのクソモブ…!」

「しまった!あいつら、俺らの視界から外れた場所から…!」

 

 爆豪と轟が慌てたように辺りを見渡し、轟の方が死柄木たちを視認する。

 そして急いで地面を踏みつけて氷を発生させ、死柄木たちを止めようとするが

 

「遅いんだよ!終わりだぁ!五十嵐衝也!!」

 

 その氷よりも早く、死柄木はその手を黒霧へと突っ込もうとする。

 もし、このまま黒霧によって死柄木の手が衝也の所まで行ってしまったら、

 衝也は今度こそ死んでしまう。

 そして、

 死柄木のてが 黒霧の広げた黒いモヤの中に入り込もうとしたその瞬間

 

「カロライナァァァ!!スマァァァァッシュ!!!!」

 

 突然、死柄木の目の前にムキムキの金髪ウサギが現れ、クロスチョップをかましてきた。

 

「!?ッガ…!」

 

 ほぼ反射的にそのクロスチョップを躱すが、その強烈なクロスチョップの衝撃で後方へと吹き飛ばされてしまう。

 吹っ飛ばされた勢いを殺せず地面を数回バウンドした死柄木は何とか受け身を取り、先ほどクロスチョップをかましてきたウザい前髪をした似非アメリカンなマッチョにぎらついたその眼を向けた。

 

「クッソ…なんでだ、何でアンタがここにいる…っ!!?」

 

 そう言って思わず苛ついて首元に手を伸ばした死柄木だったが、

 その手の平を、今度は数発銃弾が貫いた。

 伸ばしていた手をとっさに引っ込め、反対の手で抑えつけた。

 その手から、痛々しそうに血が流れ出る。

 そして、さらに

 

「YEAHHHHHHHHHHH!!!!!」

「!?グッ…ガアァ!!」

 

 先ほどの耳郎の音の攻撃とはくらべものにならないほどの爆音が彼の耳を貫いた。

 慌てて耳を抑えようとするが、傷ついている手の平を動かそうとすると激痛が走り、耳をふさぐことができない。

 彼の耳は、流れ出る爆音により、血を垂れ流れていた。

 死柄木は、耳や手から血を流しながら、目の前のヒーローへと殺意を向ける。

 しかし、その殺意を意に返さず、そのヒーロは一歩、また一歩と彼に近づいていく。

 

「シット…!!まったくもってホーリーシットだ!!守るべき、少年少女たちが、ここまで傷ついていたというのに、一人の少年が、その命すら危うくなっていたというのに、私は、いや…我々は!そのことを少年たち自身に知らされるまで気づくことすらできなかった!怒りで自分自身を殴り飛ばしたくなってくる!!だが、だからこそ言わせてもらうぞ、ヴィランども!!」

 

 そう言って、そのヒーローは、高らかに宣言する。

 生徒達を安心させるように、目の前にいるヴィラン達を威嚇するかのように、そして何より

 ふがいなさすぎる自分たちに向けて。

 

「私たちが来た!!!!」

 

 そのヒーローとは、

 平和の象徴と謳われるNo,1ヒーロー『オールマイト』。

 更に、その背後にはスナイプやプレゼント・マイクなどの雄英高校の教師たちだった。

 その教師たちのさらに後ろには

 

「五十嵐くん!!君の約束、しっかりと果させてもらったぞ!」

「五十嵐!!遅れてすまない!けど、何とか先生たちを呼んできたぞ!」

「皆さま…ご無事ですか!!」

「おめぇら!!俺が外で個性使って先生たち呼んでやったぞぉ!もう安心だからなぁ!」

 

 飯田、尾白、八百万、上鳴達が口々に衝也達に向けて安心させるように声をかけていた。

 それを見た轟は、安堵したように溜息を吐いた。

 

「飯田達がプロヒーローを呼んだか…助かった。これだけプロヒーローたちが来たってことは外には敵はいなかったみてぇだな…。」

「アイツら…無事だったのか!?いや、それどころか助けを呼んでくれるたぁ…漢らしいぜあいつらはよぉ!!」

 

 切島も轟に続いて、安心したように声を上げる。

 そんな彼らを横目に見たオールマイトは悔しそうに歯ぎしりした後、

 ゆっくりと目の前の死柄木へと視線を向けた。

 

「さあ…観念しろよ、ヴィランども!」

 

 そう言ってじりじりと距離を詰めていくオールマイト達。

 そんなオールマイトたちを見ていた死柄木は、ガリガリと首を激しく搔きながら

 

「……黒霧!!」

「わかっています!」

 

 後方へと勢いよく飛んで行った。

 その瞬間、彼の向かって行った後方に黒いモヤが突然現れた。

 

「WHAT!?なんだなんだ…あの黒いモヤは!?」

 

 突然出てきた黒いモヤに驚いた雄英高校のプロヒーローたちだったが、ただ一人オールマイトは素早く前へと飛んで行った。

 

「ッ!テキサス・スマッシュ!!」

 

 そして、大きく振りかぶったその逞しい腕を死柄木とその黒いモヤへと叩きつける。

 しかし、その拳は死柄木たちに直撃することはなくその前にモヤへと吸い込まれてしまう。

 その姿を見た死柄木は、忌々しそうな視線をオールマイトへと向ける

 

「今は…アンタの相手をしている暇も駒もないんだ。残念だが、アンタを殺すのは後にしてやるよ。次こそは、アンタを必ず殺すぜ…平和の象徴。」

 

 そう言って死柄木は視線をオールマイトから耳郎に起き上がらせてもらっている衝也の方へと向けた。

 

「五十嵐、衝也…!」

 

 ボソリと、その名を呟いた死柄木はそのまま黒いモヤの中に吸い込まれていき、彼らの姿は

 

 USJから、影も形も無くなっていった。

 

「なんてこった…逃げられちまった」

 

 帽子を深くかぶりなおしてそうつぶやくスナイプ。

 その面持ちはとても重々しく、ほかのヒーローたちも傷だらけの生徒達の事を考えるとむいねが 苦しくなってしまう。

 後少しでも早く来れば、もっと厳重な警備体制を敷いていれば

 そんな、『できていれば』が頭の中をめぐっていく中…

 オールマイトは、ゆっくりと衝也達の方へと視線を向けた。

 

「皆、我々の反省は後にしよう!とりあえず今は」

 

 

「幼き有精卵たちを…一刻も早くねぎらわねば!」

 

 そう笑顔で言ったオールマイトはものすごい勢いで衝也達の方へと飛んで行ったかと思うと

 

「みんなぁぁぁぁぁ!!だいじょうぶかぁぁぁぁぁ!!?本当に…本当にすまなかったぁあぁぁ!!」

「ちょ、オールマイト!涙と鼻水だらけで汚いス!てか、泣く暇あるんなら速くリカバリーガール呼んでください!」

「なっ!ひどいじゃないか耳郎君!!私は君たちの事が心配で」

「いいから早く呼んで来いよこの筋肉ウサギ」

「え」

「はは…耳郎…それは、言い過ぎだって。…いって。」

 

 いつの間にか耳郎の一言で深く傷ついてこちらに戻って来た。

 しかし、その姿をみたヒーローたちは仕方がない、という風に呆れた溜息を吐いた。

 彼らの恐怖や緊張をときほぐそうと、必死に馬鹿なことをし続けるオールマイトの姿は

 どこかのお調子者を彷彿させるような姿だった。

 そしてそんなお調子者は、安堵したのか、はたまた全員が無事でいられた喜びをかみしめているのか…いつもとは違う、優し気な笑みを浮かべていた

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 とある場所のとあるところにある薄暗いとあるその研究室

 薄気味悪い研究機器や様々な研究資料が乱雑に置かれているその場所で一人の男が

 パソコンの画面に出ているデータをじーっと見つめ続けていた。

 その男は体にいくつもの管が通されており、そこから謎の液体を注入されている。

 その管は何と首にまで刺されており、その男が明らかに普通ではないことを、その管が物語っていた。

 だが、その重傷人のような身体には、死柄木弔と同等か、それ以上の深い、深い闇が漂っていた。

 その人物がパソコンをじっと見つめているのに気付いた一人の老人が、何か作業をしていた手を止めて、その人物に声をかけた。

 

「…?どうした先生。パソコンの画面をじっと見つめおって…何か気になるもんでも見つけたのかい?」

「ん、ああ…ドクターか。いや、先ほど帰って来た死柄木の報告の中で、少々気になる名前を聞いてね。もしやと思ってデータをあさっていたら、面白い物を見ることができたよ。」

「ああ…USJ襲撃失敗の報告のあれか。」

 

 先生と呼ばれた男の返事を聞いた老人はそうつぶやいた後、苛ついたように小さく手元の資料を机へと投げ飛ばした。

 

「あの子供め…わしと先生が作り出した脳無を…しかもよりによって上位(ハイエンド)の脳無を無駄にしてしまうとは…!」

「ハハハ、まあいいじゃないか。脳無はまだまだたくさんいる。それに上位(ハイエンド)の脳無もまだいないわけじゃないだろう?そんなに怒るとまた血圧が上がってしまうよドクター。」

 

 イライラしている老人を笑ってたしなめつつ、先生と呼ばれた男は視線を再び目の前のパソコンへと向けた。

 そして、頭の中で先ほど死柄木が言っていた言葉を再び思い浮かべる。

 

『五十嵐…衝也!あのガキが、あのガキがすべての誤算のつながりだった!あいつのおかげで、オールマイトと戦うことすらできなかったんだ!!なんだよあのパワー…チートなんて、オールマイトだけで十分だってのに!!あいつさえ、アイツさえいなければ…!あのクソガキがぁあ!』

 

 首元をしきりに掻き毟りながら苛ただしげにそう怒鳴っていた死柄木を思い出しながら、男は「ふむ…」と小さくつぶやき

 

「あの時、死柄木をなだめる黒霧は大変そうだったな…」

 

 まるで自分の子供を見ているかのような…笑みを浮かべた。

 そして、

 

「それにしても、五十嵐衝也…か。」

 

 そうつぶやき、目の前のパソコンの画面を食い入るように見つめ続ける。

 

「偶然か、それとも必然か、ここまで点と点がつながってしまうとどうしても必然の方を疑いたくなってしまうな…どちらにしても、彼とは一度ゆっくり話をしてみたいものだ。上手く事が運んでいけば」

 

 

「彼も死柄木の率いるべき精鋭の一人となれるかもしれない。」

 

 そうつぶやいてゆっくりと笑みを浮かべながら、パソコンの画面へと指を持っていく。

 そして

 その男は、自身の顔を狂気の入り混じった不気味な笑みへと変えていった。

 

 そんなパソコンの画面には

 

上位(ハイエンド)脳無DATA、No,2 検体名 ■■■ ■■』

 

 と書かれており、

 そのすぐ下にその検体であろう少女の画像があった。

 明るく、快活そうな水色のショートヘアーをしたその少女が浮かべている笑顔は

 どこかのお調子者が浮かべる笑顔と似ているような

 そんな笑顔を浮かべていた。

 

 




くそ、こういった感動系や恋愛系は苦手なんだよ!
皆さん、もうほんとに、こんな駄文ですいません!!(土下座)
しかもオールマイトが登場してきたあたりからかなり雑になっています。
皆さん、もうほんとに、こんな駄文ですいません!!(土下座)

ちなみに、衝也がオールマイトの100%を超えるほどの衝撃を放てたのは
命を捨てる覚悟が本当にあったことを示唆しています。
人間とは、死ぬほどの反動が襲ってくるとわかっていたら、無意識に手加減をしてしまう者です。
実際、とくに苛ついてもない普通の状態でコンクリートを思いっきり殴れって言われたら、私は殴れません。だって痛いもの
苛ついてるときだったらストレス発散のためにやりそうですけど…
なまじ彼は80%で死にかけていますから、70%辺りから無意識的にブレーキをかけてしまうのです。
しかし、衝也はあの時命捨てる覚悟を持ってその衝撃を放った。
だからこそ、彼が無意識的にかけていたブレーキがはずれ、アクセル全開となり
結果、あの衝撃につながったのです。






何だこの下手な言い訳は!!
納得なんてできないですよねすいません。
もう開き直って一言で言います。
トラップカード発動!タグ:ご都合主義発動!!

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