救える者になるために(仮題)   作:オールライト

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うーむ、どうにも脳無が倒せない。
まるでウッドマンやエアーマンみてぇだ…。
てなわけで十一話です、どうぞ

追記
7月13日に後半部分を修正しました


第十一話 悪いことをしたやつには拳骨で殴り飛ばすのが正解

 セントラル広場前

 

 爆豪の放出した大火力の爆破により、広場には大きな黒煙が広がっている。

 その黒煙の外では、篭手の中身を確認しながら獰猛な笑みを浮かべる爆豪と、冷静な表情で右手の平を確認している轟の姿が見えた。

 

「ッハァ!まずはザコモブ二人は吹っ飛ばしたぜ!あのスカしたモヤモブ野郎はどこに行った!?あの野郎、この俺様を飛ばすなんて舐めた真似しやがって、地平線のかなたまでぶっとばしたらぁ!」

「お前、少し落ち着けよ爆豪。今の爆撃だけで倒せるような輩じゃないだろ、オールマイトを殺せる連中だとしたら、な。」

「うるせぇよ半分野郎!倒せてねぇんだったらそれは俺の爆撃が悪いんじゃねぇ!てめぇの氷の足止めが失敗したからに決まってんだろ爆殺すんぞ!」

「……」

 

 少したしなめただけでガンを飛ばしてくる爆豪を見て思わず顔を顰めてしまう轟だったが、すぐに視線を黒煙の中に戻し、少しばかりまわりを気にし始めた。

 

「切島の奴、遅いな…。何かあったか。」

 

 そう言って少し眉を顰める轟。

 その横で爆豪が「てめぇ無視してんじゃねぇぞ舐めてんのかコラァ!!」とわめいているが、轟は一切無視して黒煙の中に視線を向け続けている。

 すると、轟の右斜め前、黒煙が不自然に揺らめいたかと思うと

 

「やっっと抜けれたァ!」

 

 そこから緑谷と相澤をわきに抱え、腰に蛙吹の下を巻いている切島が飛び出てきた。

 それを見た轟は安心したように溜息を吐いた後、切島の方に近寄って来た。

 

「切島、無事だったか、緑谷たちは?」

「おう、きっちり回収できた!おめぇの男らしい作戦のおかげだぜ。俺と爆豪だけだったらこんなうまくはいってなかった!」

「あぁ!?こんな半分野郎いなくったって何とかなったわ!!舐めたこと言ってっとてめぇも爆破させんぞクソ髪野郎!」

「クソ髪野郎じゃねぇ、切島だって言ってんだろ爆発さん太郎が!」

 

 わきに抱えていた緑谷と相澤を地面に下ろしながら爆豪に向かって声を上げた切島は、二人を地面に下ろしたあと、腰についていた蛙吹の舌を思いっきり引っ張った。

 すると黒煙から蛙吹と峰田が飛び出してきて、そのまま蛙吹は切島にがっしりとキャッチされた。

 蛙吹にくっついていた峰田は途中で蛙吹の胸に触ろうとして切島に叩かれたため少し顔が腫れあがっていた。

 

「ありがとう、切島ちゃん。」

「気にすんな梅雨ちゃん!ダチがピンチの時に助けるのは漢として当たり前の事よ!」

「お、おいらの顔面を殴ることは漢としてどうなんだよ…」

「俺に文句言う前に自分の行動を反省しろこの大馬鹿野郎。」

 

 蛙吹を下ろした切島は真顔で峰田にそう告げると、今度は緑谷の方に駆け寄って来た。

 地面に座り込んで脚を抑えている緑谷を見て、切島は心配そうな表情を浮かべる。

 

「緑谷、お前脚の方大丈夫か?すまねぇ、ちと焦ってたから乱暴な運び方になっちまって…」

「う、ううん!大丈夫だよ、そんなに心配しないで。むしろお礼を言わないと。切島君達のおかげで危ういところを助けてもらったわけなんだし。」

 

 申し訳なさそうな表情を浮かべている切島に対して、慌てたように首をブンブンと横に振ってお礼を言う緑谷。

 それを見た切島は「緑谷…お前、漢らしいな!」と感動したように呟いていたが、緑谷の後ろから轟が話しかけてきたことによりそのつぶやきはかき消される。

 

「緑谷、それに蛙吹、傷だらけで怪我もしてる所悪いが、状況を簡単にでいいから説明してくれ。状況の把握をしたい。」

「あ、う、うん!」

「けがをしているのは緑谷ちゃんだけだけれど…」

「はっ!クソナードのくせに粋がるからだ。おとなしく死んどけ。」

「爆豪、お前こんなにボロボロになるまでダチをかばった奴にその言い方は男らしくねぇぞ?」

 

 爆豪が忌々し気に舌打ちしたのを見てそれをたしなめる切島。

 その隣で緑谷と蛙吹があらかたの事情を簡潔に轟達に説明する。

 彼らから大体の事情を聴いた切島は悔しそうに拳を握りしめた。

 

「そんな、じゃあ…衝也の奴は!クッソ…!!」

「ごめん、五十嵐君が戦ってたのに…僕たち、何も…」

「…あいつだって、自分がやられるかもしれないとはなんとなくでも思ってたはずだろ?それでも、お前たちを逃がすために五十嵐は体張って敵と戦ったんだ。だったら俺たちがすることは、あいつが命かけてまで守ってくれたもんを、しっかり守り通すことじゃねぇのか?」

「…!うん、そう…だね!わかったよ…。」

 

 轟の『救われた命を大事にしろよ』と遠回しに伝えてくるその言葉を聞いて、緑谷たち三人は一瞬ハッとした表情を浮かべた後、悲しそうに、それでも覚悟を決めたかのように頷いた。

 三人の中から決して、彼に対する罪悪感や助けられなかった悔しさや悲しみがなくなるわけではなかったが、それでも少しだけ前に進む勇気は得られたようだった。

 しかし、そんな三人の表情を見て、爆豪はフンと鼻を鳴らした後

 

「くっだらねぇ…なーに辛気臭い顔して語ってんだよ馬鹿かてめぇらは。」

 

 と本当にくだらないという表情を浮かべて口にした。

 それを聞いた切島は一瞬、何を言ってるのかわからないような表情をした後、その表情を怒りに歪ませながら爆豪に向かって大声で怒鳴り始めた。

 

「…!てめぇ、爆豪!くだらねぇってそりゃ一体どーいう意味だよコラァ!?自分が何言ってんのかわかってんのか!?」

「ぎゃーぎゃーうるせぇんだよ赤鬼野郎。くだらねぇってのの意味なんざそのまましかねぇだろ。あのバカモブが命かけて守っただとか、そんな下らねぇことでいちいち落ち込みやがって。辛気臭すぎてうぜぇんだよクズが。」

「爆豪ちゃん…貴方ッ!」

 

 爆豪の言葉を聞いて普段は表情を崩さない蛙吹が珍しく怒りの表情を浮かべて爆豪に詰め寄ろうとするが

 

「!あ、蛙吹さん、落ち着いて!!」

「ッ!?緑谷ちゃん、離して!今の言葉は、お友達だとしても許せないわ!!」

 

 背後から緑谷に制止されてしまう。

 それを見た爆豪は小さく舌打ちを打つと、視線を衝也が飛ばされてしまった天井の穴へと向けた。

 

「あのバカモブが…こんな簡単に死ぬわけねぇだろ。」

「!」

「あいつをぶっ飛ばして一番になんのはヴィランじゃねぇ、この俺だ。ヴィランなんかにぶっ飛ばされるようなクソカス野郎が俺より上だなんて絶対に認めねぇ…。だから」

 

 そこまで言って爆豪は視線を再び蛙吹達の方へと向ける。

 その表情はいつも通りいかついままで、普段と何も変わってはいない。

 ただ

 

「アイツがこんなところで死ぬなんてことはあり得ねぇ。あいつをぶっ殺すのはこの俺なんだからな!ここで死ぬことなんざゆるさねぇってんだよ!」

 

 その言葉には、非常に、ひっっっじょおおおおにわかりにくいが、衝也に対するある種の信頼のようなものが感じられた。

 絶対に彼は生きているのだという、そんな信頼が。

 彼の言葉を聞いた蛙吹達は目を丸くし、しばらくの間茫然と爆豪の事を見つめ続ける。

 ただし、

 

「ホント、かっちゃんらしいや…」

 

 緑谷だけは、安心したような嬉しいような、そんな笑みを浮かべていた。

 緑谷のそのつぶやきの後、切島は軽く涙を浮かべながら「爆豪!悪かったぁ!おめぇやっぱ漢らしいぜぇ!」と肩を叩き、蛙吹も「ごめんなさい、爆豪ちゃん。私、勘違いしてたわ」と素直に謝っていた。

 当の本人は「何だてめぇら!?鬱陶しいな殺すぞ!」と叫んでいたのだが。

 その様子を見ていた轟は軽くため息を吐いた後、視線を黒煙の方へと向けた。

 

「おい、おしゃべりはそろそろ終わりにしとけ。目の前の事に集中しろよ。」

「そ、そうだぜそうだぜ!?五十嵐のことが心配なのはわかっけど!今は俺たちの命の心配をしねぇと」

「あぁん!?何言ってんだこのザコブドウ!舐めたこと言ってとその頭のブドウむしり取るぞコラァ!」

「え、なんでオイラ、こんなにキレられてんだ…」

 

 解せぬといった表情を浮かべて落ち込む峰田を隣の緑谷と蛙吹が励ます中、爆豪は自分の篭手を触った後、視線を黒煙へと向けた。

 

「俺の今出せる最大火力でザコモブどもを吹っ飛ばしたんだ!その爆破をもろに受けてんだぞ!?クソモブ共が生きてる訳ねぇだろぉが!」

「か、かっちゃん…僕ら一応ヒーロー志望なんだから、殺すのは流石に」

「うるせぇんだよクソナード!!使い物にならなくなったクズは死んどけ!」

 

 今度は注意してきた緑谷に罵声を浴びせる爆豪。

 そんな爆豪をなだめようと躍起になる切島と蛙吹の二人を見て、轟が再び溜息を吐いた。

 その様子を見て緑谷は軽く苦笑いを浮かべたのだが、

 次の瞬間、凍り付いたように動きを止めた。

 

「おいおい、随分と楽しそうにおしゃべりしてるなぁ、アンタら。どうやら相当俺たちをなめきってるらしい。」

 

 黒煙の中から、耳に残っているあの気持ちの悪い声が聞こえてきたからである。

 轟も、爆豪も、そして切島たちも、一斉に顔を黒煙の中へと向ける。

 しかし、黒煙はいまだ広場に立ち込めており、晴れる様子は見られない。

 

「とりあえず、こんなことをしたガキどもの顔を拝んでおくか。脳無、黒煙を吹き飛ばせ。」

 

 再び同じ声が聞こえたその瞬間、

 ブオンッ!!という大きな風を切る音がしたかと思うと、凄まじい強風が吹き荒れ、辺りに立ち込めていた黒煙を一気に吹き飛ばした。

 その強風から顔を両手で守りつつも、指の隙間から広場にいるであろうヴィラン達を確認しようとする轟達。

 するとそこには、

 先ほどの大爆発を受けたであろうにも関わらず、一切傷を負っていない死柄木と黒霧、そして、そんなヴィラン二人のの目の前に、やはり無傷のまま拳を前に突き出している脳無が悠然と立っていた。

 

「な…!?」

「嘘だろ…あのかっちゃんの最大火力を喰らって、無傷ッ!?」

「…クソモブ共がぁ」

 

 驚いたような表情を浮かべる緑谷や切島達。

 爆豪も、いまだ無傷でたたずんでいるヴィラン達を見て、忌々し気に歯ぎしりをしながら小さく呟いた。

 轟も、驚きでわずかに表情を曇らせていた。

 

(俺の氷でヴィランを固定し、動けなくしたところを爆豪が爆発でぶっ飛ばして、その爆発に耐えられる切島がその隙に緑谷たちを救出する。確かに、相手を倒すために立てた作戦じゃあねぇが…)

「それでも無傷ってのは、正直予想外だな…」

 

 思わず口に思考を出してしまった轟は心を落ち着かせるように一度息を吐いた後、目の前にいるヴィランを観察し始める。

 そして、ある一点に視線を向けた後、怪訝そうに眉をピクリとわずかにひそめた。

 

(…?あの黒い大男の脚…)

 

 脳無の脚に視線を移した轟は思わず心の中で首を傾げてしまう。

 

(少なくともあいつとあの手の平男の脚は確かに凍らせたはずだ。なのに、あの黒い大男の脚は…凍らずに動けている。)

 

 先ほどの大爆発の前、爆豪の爆発を確実に当てるためヴィランの脚を凍らせることでその動きを封じたのだ。

 しかし、黒い大男の脚は凍らせる前と変わっておらず、今も支障なく動けている。

 

(爆豪の爆発を受けて氷が解けたにしても、まずは爆発がなければ氷は解けないし、動けない。なのに、こいつは凍らせた位置とは違い、あの二人のヴィランの目の前にいる…。それはつまり、爆発が起きる前に動いた可能性があるということ…。それに、あの規模の爆発なら、凍らせてる脚は溶けて元に戻るより先に粉々に砕け散る方が確率としては高いはず…。奴自身が炎熱系の個性でも持ってるのか?いや、それじゃあ爆豪の爆発に無傷でいられるはずがない…)

「どうやら、どいつもこいつも普通じゃねぇ奴の集まりみたいだな…。」

 

 幾重にも思考を重ねた結果導き出された答えは、今まで戦ってきたヴィランとは明らかに普通じゃないということ。

 そのことに、轟は軽く冷や汗を流した後、隣にいる爆豪と後ろにいる切島達に視線を向けた。

 

「おい、切島」

「お、おう、どーした轟。なんかいい案でも思いついたか?」

「いや、正直あそこまでの火力を喰らって無傷なのは想定外だ。特にあの黒い大男。緑谷の話じゃ一番やばいのはあの脳みそ丸出しのヴィランだ。そいつの方は個性がまだ把握できてないし、逃げようにもワープゲートのヴィランが抑えられない限り逃げ切るのも難しい。あの爆発で少しでもダメージがあったんならまだ話は違ったんだろーが…見たところほぼ無傷だからな。」

「じゃ、じゃあこれってかなりやべぇ状況なんじゃ…」

 

 峰田の今にも泣き出しそうな震え声には返事をせずに、轟はしばらく視線を目の前の

 ヴィランに向ける。

 死柄木はいまだ茫然としている緑谷や切島たちに視線を向け続けた後、ゆっくりとしゃがみこみ、自分の脚を拘束している氷に一瞬、五指を触れさせた。

 その瞬間、彼を拘束していた氷はボロボロと崩れ去った。

 死柄木は軽く脚の調子を確認した後、再び目の前に視線を戻す。

 そんな彼に、背後にいた黒霧が話しかけた。

 

「大丈夫ですか、死柄木?」

「ああ、多少の凍傷はあるが動けないほどでもない。それよりも…」

 

 黒霧にそう返事をして、死柄木は目の前にいる少年たち、とくに爆豪と轟、そして緑谷の三人に視線を移した。

 

「氷を出したガキに爆発を出したガキ、おまけに、オールマイト並のスピードで脳無の拳を交わしたガキ…どいつもこいつも一筋縄じゃ行かないガキどもばかりだなぁ…。全く、ガキとのゲームなんてEASYモードだと思ってたのに、とんだ誤算だぜこれは。」

「子供とはいえ油断は禁物だと、先ほど言ったでしょう死柄木。あの少年の例もある。最後まで油断せずに、確実に、一人ずつ殺していかなければ、私たちでも危ういですよ。」

「クッハハハ!何言ってるんだよ黒霧!いくらガキどもが予想以上に厄介だとしても、こっちには対オールマイト用の怪人、脳無が居るんだぜ?たとえどんなことが起きようとも、こいつがこんな青臭いガキどもにやられるなんてありえないね!なにせ、あの人の最高傑作なんだからさぁ!」

 

 そう言って両手を脳無へと向けながら楽しそうに、無邪気に笑う死柄木の言葉を聞いて、緑谷は驚いたような表情を浮かべた後、視線を脳無へと向けた。

 

「対オールマイト用の…怪人!?じゃあ、やっぱりあの大男が…!」

 

 緑谷は悔しそうに表情を歪ませた後、視線を切島や蛙吹、爆豪に峰田、そして轟へと順々に視線を向けていった。

 そして、目の前にいる轟へと声をかけた。

 

「轟君!今の話…」

「ああ、ばっちり聞いてたよ、お前の言った通り、どうやらあの脳無とかいうやつが一番やばい奴らしい。」

「轟君、ここは広場から脱出して外にいる先生たちに助けを呼んだ方が」

「俺もそうした方がいいんじゃねぇかと思いはしたが、あっちにワープゲート野郎がいる限り逃げ切れる可能性は低いだろ?見たところ、俺の氷もちゃっかり避けてるみたいだしなあのモヤ男。」

「う…」

 

 轟にそう返された緑谷は「確かに…」と呟いた後、再び視線をみんなに回した後、ブツブツと何かを呟き始めた。

 

(峰田君の個性で足止めを…いや、あのワープゲートのヴィランに当たる保証がないし、あの大男のパンチの風圧じゃ、いくら峰田君のもぎもぎでもふっとんじゃう。蛙吹さんにかっちゃんを投げてもらって爆速ターボで出口まで行けば…ダメだ!轟君の氷が通用しないモヤ男がいるんじゃいくらかっちゃんが速く動けてもまたさっきみたいに施設内に飛ばされる!くそ、一体どうしたら…)

 

 いくら考えてもいい案が見つからない緑谷は思わずガシガシと両手で頭を搔きむしる。

 そんな様子を見ていた轟は、緑谷もいい案が出ていないことを悟り、ゆっくりと息を吐いた。

 そして、視線を目の前のヴィランから外さずに、切島へと声をかけた。

 

「切島」

「ん、お、おう?」

「さっきの続きだが…お前は個性を使って緑谷たちの守護を頼む。」

「え、あ、おう!」

「相手の個性も把握できてないうえに相手は三人でしかも格上。ここは倒すよりも動きを止めて逃げることに専念すべきだ。だから…」

 

 そこまで言って轟は視線を隣にいる爆豪に向けた。

 

「爆豪、お前の爆撃で隙を作ってくれ。その間に俺があいつらを凍らせて動きを封じる。お前が言うようにモヤ男にも実体が存在するんだったら、俺の右側も効くはずだ。頼んだぞ!」

 

 爆豪にそう言って轟は右半身に氷をまとわせ、いつでも氷結できるように準備をする。

 対して爆豪は両拳をきつく握りしめた後、その手の平から小さく発生させた。

 そして、ヴィラン顔負けの獰猛な笑みを浮かべて、唇の端を釣り上げた。

 

「いちいち上から命令してくんじゃねぇよハーフ野郎!言われなくったってなぁ!!」

 

 そう叫んだ爆豪は背後で両手から爆発を起こし、前に向かって突っ込んでいく。

 それを見た轟は一瞬目を見開いた後、「バカ、むやみに突っ込むな!」と叫ぶが、闘争心のせいか、目をギラギラさせて敵に向かって行く彼の耳にはすでに入ってこない。

 

「俺の事を舐め腐ってるクソモブ共はぁ!!全員まとめてぶっとばぁぁす!!」

「!脳無…!」

 

 

 いきなり突っ込んできた爆豪に一瞬目を見開いた死柄木は、小さく脳無の名前を呟いた。

 その瞬間、脳無はバッ!と爆豪の方へと顔を向ける。

 が

 

「おせぇんだよぉ!こんのデクのぼうがぁ!!」

 

 突然の事で若干反応に遅れてしまった死柄木は脳無に命令を出すのがわずかに遅れてしまい、そのまま脳無の行動もわずかに遅れてしまう。

 その遅れは、既に飛び出してきている爆豪にとっては格好の隙となる。

 

「おらぁ!!」

 

 ボォォン!という爆音とともに、目の前の大男の鳩尾に拳を打ち付ける爆豪。

 拳から発せられた爆発は決して小さいものではないのだが、それでも大男は微動だにしない。

 それを見て、死柄木はニヤリと唇を吊り上げる。

 

「はっ、そんな威力じゃ脳無には傷一つつけられないさ。さっきの衝也とかいうガキのバカでかい衝撃にも耐えた脳無に今更そんな弱攻撃、効くわけないだろ?」

 

 死柄木のバカにしたような言葉を聞いた爆豪のこめかみ辺りから、ビキッ!という音が聞こえてくる。

 そして、先ほどまで獰猛な笑みを浮かべていた爆豪の顔が、もう少年誌にのせられないようなとんでもない顔をしていた。

 そんな事には気づかない死柄木は再び脳無に命令を下す。

 が

 

「脳無、そのガキを」

「…!!上ッ等だクソやろぉがぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「!?」

 

 とんでもない声量の叫びが広場に響き渡った瞬間、

 先ほどと同じような爆音が、何度も何度も、連続で聞こえてきた。

 爆豪の文字通り爆発する拳が連続で脳無に打ち付けられる音である。

 

「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 爆豪の拳を脳無に打ち付けるたびに爆発と爆煙が立ち込める。

 視界がだんだんと爆発と爆煙で見にくくなってくるが、それでも爆豪は爆発ラッシュを止めることはない。

 そして何発も打ち出された爆発により敵の姿すら見えなくなってきた時、

 

「ぶっとべぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 爆豪は地面に向けて規模のでかい爆発を放った。

 その衝撃を利用した爆豪は、そのまま上に吹っ飛び、空中へと飛びあがった。

 それにより、爆煙が一瞬晴れ、脳無の姿がわずかに視界に入る。

 それを見た爆豪は即座に手の平から爆撃を放ち、右手の拳を大きく振りかぶる。

 

「吹き飛びやがれぇぇぇえぇぇ!」

 

 爆豪の身体は爆撃により、かなりの速さで脳無のいた方向に落ちていく。

 そして、落ちていくその勢いを利用して

 右拳を思いっきり脳無へと振り抜いた。

 

「チェインブラストォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」

 

 その瞬間、ドバゴォォォン!!という音共に、最初に放った爆撃以上の爆発と風圧が辺りに広がる。

 爆風が音を立てて周囲に吹き抜けていった後、広場は再び爆煙に包まれた。

 爆風で飛んでくる砂や小石に当たらないよう顔をかばいながら、緑谷は目の前を確認する。

 しかし、そこにはいまだに爆煙が立ち込めており、爆豪や敵がどうなったのかいまだに把握できない。

 

「くそ、爆豪の奴、爆煙上げ過ぎだ。これじゃあ相手の動きを止めようにもその相手がどこにいるのかわからねぇ…」

「てかすっげぇ爆撃の嵐…こりゃ動きを止める云々の前に、ヴィランの奴ら倒れちまったんじゃねぇか…?」

(かっちゃん…)

 

 呆れたように溜息をはく轟とは対照的に若干笑みを浮かべながら呟く切島。

 しかし、緑谷だけは心配そうな表情で目の前の黒煙を見つめ続けていた。

 

(なんだろう、このもやもやした感じ…すごい嫌な予感が)

 

 そんな一抹の不安を抱えている緑谷の思いに反応するかのように徐々に徐々に黒煙が晴れていく。

 そして、そこにいたのは

 無傷の脳無と、その脳無に右手をつかまれている爆豪だった。

 

「!?」

「んなっ!ウソ、だろ!?あれだけの爆撃喰らってんのに…無傷って!?チート過ぎんぞそれ!!」

 

 切島が驚いたように大声でそう叫ぶ。

 隣の轟も無傷なのは想定外だったのか、驚きで目を丸くしている。

 それに対して、死柄木は相変わらず気持ちの悪い笑みを浮かべたまま、脳無につかまれている爆豪を見つめる。

 

「ははっ…。だから言ってるだろ?そんな弱攻撃じゃ脳無は倒せないって。せめてあの衝也とかいうガキみたいに中攻撃で攻めてこないと。…まぁ、たとえどんな攻撃をしたとしても、脳無の前では意味をなさないだろうけどな?」

「ッ…!クッソがぁ!!」

 

 爆豪は悔しそうに声を上げた後、脳無の顔面に左手で爆撃を叩きこむ。

 が、バゴォン!という大きな音はするものの、やはりダメージを与えられず、脳無は平然と立ったままだった。

 そして

 

「さて、まずは敵キャラ一人、撃退完了だ。殺れ、脳無。」

 

 死柄木からの無慈悲な命令が脳無に下された。

 それを聞いた脳無が、その大きな拳を振りかぶる。

 

「!かっちゃん!!」

「ちっ…しまった!!」

 

 緑谷が思わず叫んだ瞬間、轟も慌てたように地面を踏みつけ、氷を発生させる。

 一瞬の動揺により、わずかに反応が遅れてしまったのだ。

 そのせいで

 

「おっと」

「!」

 

 死柄木が動けるだけの隙を与えてしまう。

 死柄木は両手を脳無に向かってきた氷へと伸ばす。

 そして、死柄木の五指が氷に触れた瞬間、脳無に向かっていた氷は、脳無に届くことなく崩れ去ってしまった。

 

「せっかくのショーだぜ?無粋な邪魔はやめてくれよヒーロー。」

「くそッ!!」

「爆豪!何とか逃げろ!!」

 

 切島がそう叫ぶが、爆豪がいくら爆撃を叩きつけようとも脳無が止まる気配はない。

 そして

 

「!」

 

 爆豪に向かって脳無の人ひとりを余裕で殺せる強烈な拳が放たれたとしたその瞬間、

 

「させるかぁぁぁ!!70%!インパクトキィィィック」

 

 脳無の拳に、強烈な蹴りが叩きこまれた。

 拳の威力と蹴りの威力、双方の衝撃が空間を震わせ、激しい轟音と衝撃波を生む。

 そして、脳無の身体が思わずといったように後ろに下がり、今まで掴んでいた爆豪の右手を離した。

 蹴りを放った少年の身体も大きく後ろに吹き飛ぶが

 

「ぬぉぉぉぉりゃあああ!!」

 

 素早く後方に衝撃を放出し、地面に落ちそうになっていた爆豪を右手でつかむ。

 少年は爆豪をつかんだまま足から衝撃を放出し、そのまま空中を飛ぶように移動して

 

「いっでッ!!」

「ぬが!」

 

 緑谷たちの所に倒れ込むような形で着地した。

 爆豪も着地の瞬間に放り投げられ、顔面を地面に強打する。

 それを見た緑谷や蛙吹、峰田は驚いたような、それでいて嬉しそうな表情を浮かべる。

 緑谷と峰田に至っては目に涙を浮かべていた。

 

「お、おお、おめぇ…!」

「良かった、本当に!本当に良かった!」

「やっぱり、やっぱり生きてたんだね…!」

 

「「「五十嵐君(ちゃん)(ぃぃ!!)」」」

 

 三人の叫び声を全身に浴びる少年、五十嵐衝也は地面に倒れ込んだまま

 

「おいおい、人を勝手に殺さないでくれよ三人とも。かなしくなっちまうぜ…」

「五十嵐、生きてたのか、よかった。」

 

 ニヤリといつものお調子者の笑みを浮かべた。

 それを見た轟も安堵したような表情を浮かべる。

 切島も、目に涙を浮かべながら地面に倒れてる五十嵐を思い切り抱きかかえた。

 

「しょ、衝也ぁぁぁ!おめぇ、おめぇ…!生きでだんだなぁぁぁ!よがったぁぁ!!」

「ぐおがああああぁぁぁ!やめろ!やめろ切島!傷に!傷に響くぅぅ!?てか男が抱きしめてくんな気持ち悪りぃぃぃぃぃ!!」

 

 感極まった切島に抱きかかえられた衝也は悶絶しながら叫び声をあげる。

 ※切島君も衝也もノンケです。ホ〇ではありません。

 それを聞いた切島はハッとしたような表情を浮かべると慌てて衝也を放した。

 

「あ、わ、わりぃ衝也…て!おま、その傷どうしたんだよ!」

「五十嵐ちゃん、それ、さっきの…?」

「おう、あの脳みそ丸出しゴリラにぶん殴られた時の傷よ。たった一発、しかも衝撃で身体を後方に飛ばして威力を軽減したうえで受けた傷だ。」

「な、それだけして、その傷…!?い、五十嵐君、動いても大丈夫なの!?」

 

 心配そうに衝也を見つめる緑谷。

 そんな彼を見た衝也は軽く笑みを浮かべた後、グッと親指を立ててgoodポーズをして見せた。

 それを見た緑谷も、一瞬驚いた後、安心したように笑みを浮かべた…

 

「何言ってんだよ、緑谷」

「!五十嵐君…」

「あばらも脚も腕もボッキボキ。頭も血を失い過ぎたせいかクラクラ。どう考えたって動ける状態なわけないじゃん!」

「五十嵐君!?」

 

 のだが、衝也の口から出てきた言葉に目が飛び出そうなくらい驚いて、慌てだす緑谷。

 それを見た衝也は「タハハ、冗談だよ冗談」と軽く笑いながらゆっくりと体を起こす。

 しかし、その後ろから大声が聞こえてきた。

 

「てめぇ五十嵐ぃ!!何舐めたことしてんだよコラァ!」

「んあ?」

 

 それは先ほど助けられた爆豪である。

 爆豪は顔面を地面から引きはがすと、ゴシゴシと顔の汚れを落とし、衝也の方へとガンを飛ばした。

 

「ちょ、かっちゃん!?」

「てめぇが助けたりしなくたってなぁ!!俺は自分一人で何とかできたんだ!余計なことなんざしてんじゃねぇ!」

 

 緑谷の制止を振り切ってそう衝也に詰め寄っていく爆豪。

 だが、そんな彼の迫力にも気おされることはなくいたって笑顔で言葉を返す。

 

「そんなことはわかってるさ。さっきの行動は俺がやりたくてやったことだ。別にお前の事を心配したわけでもないし、お前の実力を過少してるわけでもない。それに、もしもってことだってあるだろ?」

「うるせぇ!この俺様にもしもなんてことがあるかこらぁ!あんま調子乗ってっと爆殺すんぞ!」

「はは、わかったわかった。以後気を付けるって。」

 

 グルル…と唸り声をあげる爆豪を軽くいなした衝也。

 そんな何ともおかしい光景を見た緑谷や切島達は思わずクスリを笑ってしまう。

 そんな彼らを見ながら、死柄木は首元をガリガリと搔き始めた。

 

「あの衝也とか言うガキ、生きてたのか…!?どうしてだ、脳無の一撃は確実に当たってたはず!あの距離まで吹っ飛ばされたのに、生きてたばかりか、もう戻って来たっていうのか…。クソ、クソ!何回も何回も俺たちの事を邪魔しやがって!!」

「落ち着きましょう死柄木。確かにあの少年が生きていたのは予想外だったかもしれませんが、どのみちこちらに脳無が居る時点で彼の負けは確定している。彼の個性では脳無に勝つことはまずできないのですから。」

「その雑魚キャラに二回も邪魔されてるんだろうが!クソォ、雑魚敵が調子に乗りやがって…」

(死柄木が冷静な判断ができていない。仕方が無い、私が冷静にしていなければ…)

 

 苛ついてるかのようにガリガリと首元を搔き続ける死柄木を見て、黒霧はわずかに目を細める。

 一つでも思い通りにならないと途端に冷静さを失ってしまう死柄木に一抹の不安を覚えながら、黒霧は目の前の少年達に視線を移す。

 そんな黒霧や死柄木たちに視線を向けていた衝也は、次に視線を脳無へと向ける。

 脳無は衝也に先ほど蹴られた後、さして動くような気配はなく、その様子はコマンドを待つゲームキャラクターのようだった。

 それを見た衝也は、しばらく脳無を見つめ続けた後、轟へと声をかけた。

 

「轟、一つだけ提案があるんだが、聞いてくれるか?」

「ん?」

「あの脳無の個性がなんとなくだが理解できた。まだ仮定の域をではしないが、恐らくこれであってるとは思う」

「…!本当か!?」

「ああ、最初にお見舞いした一撃と今の蹴りの感触で、大方の個性の全容が見えてきた。だが、」

 

 そこで衝也は言葉を切り、一呼吸を置いた後、全員の顔に視線を向けて話し出した。

 

「俺の仮定があっていたとしたら、爆豪も、俺も、恐らくここにいる全員の個性は通用しないことになる。」

「え!?」

「あぁ!?俺の個性が通用しねぇってどういうことだこら!!」

「ただ、轟、お前ひとりを除いてだ。お前が協力すれば、あの脳無を倒せるかもしれねぇ。」

「おい、無視すんじゃねぇぞこの…!」

「待て待て、今はとりあえず待てって爆豪」

 

 自分を無視する衝也に思わず食って掛かろうとする爆豪をなんとか止める切島。

その間に衝也は話をつづける。

 

「ただ、俺の考えた脳無の個性は候補が二通りほどある…この作戦はその内の一つをもとにして考えたもんだ。もし、その個性がその内の一つではなかった場合…この作戦は確実に失敗する。それでなくても成功するかわからねぇ穴だらけの策だ。失敗したら、ここにいる全員を危険にさらすことになる…。この状況でこんな博打みてぇな作戦、バカみてぇだとは思うが、でも現状あの脳無を倒せる策はこれしか思い浮かばねぇ。乗るか乗らないか…自分たちで決めてくれ。」

 

 衝也の言葉を聞いて、皆は一様に緊張したようにゴクリ、と唾をを飲み込んだ

 轟は、しばらく考え込むように顎に手を添えていたが、意を決したように衝也に声をかけた。

 

「現状、何も手立てがないこの状況じゃ、お前に頼るしかない。話してくれ。」

「逃げるのも無理なら漢らしく戦うしかねぇだろ!おめぇの作戦に乗っかるぜ俺は!」

「お、おいらもだ!どうせ動いても動かなくても死ぬんならやるだけのことやってやる!」

「私もみんなと同じよ。」

「逃げられないなら、戦って勝つしかないよ!使いものにならない僕が言うセリフじゃないけど…」

「はっ!!てめぇに言われなくったって俺は最初からあいつら全員ぶっ飛ばすつもりなんだよ!偉そうに命令してくんな!!」

「…!ほんっとお前らそろいもそろってこんな博打に打って出るなんて、馬鹿ばっかだな。」

 

 衝也は全員の賛同する声を聴いて一瞬目を見開いた後、顔を下にうつむかせ、呆れたように笑みを浮かべる。

 そして、軽く拳を掌に打ち付けた後、視線を脳無へと向けた。

 

「よっし、それじゃあ…こっから奇跡の大逆転と行こうじゃねぇか!行くぜ、お前ら!腹ぁ括っとけよ!!」

 

 

「どうやら、何か小細工を仕掛けようとしてるみたいですね。」

「関係ないね!どんな小細工を仕掛けようとも、脳無で正面から叩き潰してやる!」

 

 いまだに動かずにいる衝也たちの動きを警戒する黒霧だったが、対する死柄木はガリガリと首を搔きながら苛ついてるかのように声を張り上げた。

 そんな死柄木をたしなめるように黒霧は声をかける。

 

「死柄木、油断は禁物だと何度も」

「うるさい!あんな雑魚キャラ、一瞬で叩き潰してやる…脳無!」

 

 黒霧の言葉に乱暴に返事をすると、死柄木は脳無へと声をかける。

 その瞬間、脳無の頭がピクリとわずかに動いた。

 

「あの衝也とかいうガキを殺せ!必ずだ。」

 

 死柄木の言葉を聞いた脳無は軽く腰を落としたかと思うと、勢いよく前へと飛んで行った。

 そのスピードは先ほどの爆豪とはくらべものにならないほど早く、目で追うことすら困難なほどの速さだった。

 そして、ブオンと拳が空気を裂く音が聞こえたその瞬間

 先ほどの衝也と脳無のぶつかり合いと同等か、あるいはそれ以上の衝撃波が辺りに広がった。

 その光景を見て、先ほどまで笑みを浮かべていた死柄木の顔から

 完全に笑みが消えた。

 

「ガッ、ハァ!?」

「な…」

 

 脳無が突き出した拳

 その拳は確かに目の前の少年の腹に突き刺さっているが

 目の前にいる少年は脳無の本来の目的である衝也ではなく

 赤くつんつんした頭をしている、切島鋭児郎だった。

 だが、死柄木が驚いているのは脳無の拳を喰らったのが切島だったからではない。

 

 「な、なんで!攻撃は当たってるのになんで…!」

 

 一撃で人を殺せてしまう脳無の拳、それを受けてなお

 切島は苦しそうに血を吐きだしたりはしているものの、しっかりと立っていたのだ。

 死柄木は怒っているかのように声を張り上げていたが、対する切島は苦しそうにしながらもニヤリと笑みを浮かべている。

 脳無の拳が突き刺さっている彼の腹、そこにあったのは

 峰田の頭にあるもぎもぎだった。

 

(へっ!どーやら想定外の事でかなり焦ってるみてぇだな…。しかし峰田のボールで衝撃を緩和した上に腹をガッチガチに固めてもこの衝撃…!こんなの喰らっても動いてんのかよ衝也は…普通じゃねぇぞあいつ!?)

 

 心の中でこの拳をまともに受けてなお動いている衝也に驚く切島。

 そんな中峰田は

 

「血が、血が止まらねぇよぉぉ…」

 

 特徴的なブドウ頭はただの丸坊主になっており、その頭からダラダラと血を流していた。

 峰田の尊い犠牲と衝也の犠牲により、何とか脳無の動きを止めることができた。

 しかし、脳無の動きを止めて終了、ではない。

 むしろここからが本番である。

 

「今だぜ爆豪!!」

「うっるせぇ俺に命令すんなクソ髪野郎!!」

「!?」

 

 切島がそう叫んだ瞬間、彼の身体が突然宙に浮き、その背後から爆豪が飛び出してきた。

よく見ると、切島の腰には蛙吹の舌が巻かれており、彼女が切島を舌で持ち上げているのがわかる。

切島の背後から飛び出してきた爆豪は右手の篭手を死柄木達の方へ向け

 

「ふっとべクソモブ共がぁぁぁぁ!!」

 

篭手に刺さっていたピンを勢いよく抜いた。

その瞬間、大きな爆撃が死柄木の方へと放たれた。

 

「!黒霧!!」

「わかっています!」

 

死柄木は広がった黒霧のモヤの中に入るのとほぼ同時に、

爆豪の放った爆発が彼のいたところにまで届いた。

 

(!あの野郎、爆撃の瞬間にモヤモブ野郎の個性で安全な場所に飛んでたのか!?)

 

驚いたような表情を浮かべる爆豪、そんな爆豪の背後で

脳無が、先ほど切島に向けていた拳を今度は大きく爆豪に向けて放とうと振りかぶっていた。

しかし

 

「いまだ轟ぃ!!」

「わかってる!!」

 

 どこからか轟の名前が叫ばれたその瞬間、ダンッ!!という地面を踏みつけたかのような音が辺りに響く。

 そして

 脳無の顔から下が一瞬にして氷漬けにされた。

 脳無を凍らせた張本人である轟は、脳無のその姿を見て小さく舌打ちし、大きな声でとある少年に叫びかける。

 

「すまん五十嵐!距離がありすぎて顔から下しか凍らせれなかった!!」

「十分!!」

 

 その言葉が聞こえた瞬間、凍っている脳無の目の前に

 五十嵐衝也が、突然空から降り立って来た。

 衝也は着地した瞬間、右手を脳無の方へと向け、大きく振りかぶる。

 

『いいか、脳無が攻撃しようと動いたら、切島が峰田のボールを付けた腹でその攻撃を受け止めるんだ。蛙吹は切島の腰に舌を巻いていつでも切島を誘導できるようにしといてくれ。

『わかったわ、任せてちょうだい』

『お、おいらのもぎもぎ…役立ててくれよ…。』

『切島、これはこの中で一番防御力があるお前にしかできない役割だ。正直俺はもう一度あいつの攻撃を受けたら死ぬ自身がある。根性入れて攻撃受けないと死ぬから気をつけろよ?』

『作戦の前にビビらすようなこと言うんじゃねぇよ!心配しなくても根性だったら誰にも負けねぇ自信がある!』

『さっすが切島、たのもしいぜ。んで、その後は爆豪、お前の番だ。お前は脳無以外の二人の足止めの爆撃を頼む。あいつらに動かれたら脳無がどうこうじゃねぇからな。』

『…チッ!俺に命令すんじゃねぇよクソバカが…言われなくたってあのクソ野郎どもが俺がきっちり爆殺してやんよ!!』

『殺すつもりで行くのはいいことだ、むしろそのまま殺しちまってもいいね。』

『ちょ、五十嵐君!』

『冗談だよ緑谷、マジにとらえるなって。』

『マジにしか聞こえなかったんだけど…』

『ハハハ』

『笑ってないで否定してよ…』

『おい、話がそれてるぞ。俺は何をすればいいんだ?』

『おっと、悪い悪い。轟は切島と爆豪が脳無の動きを止めたその瞬間に、脳無を凍らせてくれ。』

『了解だ。』

『頼むぜ轟、もしお前がタイミングを間違えたら俺たちはこの若い身空で三途の川をバタフライで泳がなきゃいけなくなっちまうからな!まぁ、俺バタフライできないんだけど。』

 

「ったく、こんなバカみたいな作戦、思いついたってやりゃしねえよ。穴だらけで、中身すっかすかで、自分を危険にさらすようなこんな作戦はよぉ…」

 

 そう言って、轟は作戦を言い終わった衝也のおちゃらけたような笑みを思い出し、フッ、とさわやかイケメンスマイルを浮かべる。

 そして

 

「五十嵐君!!」

 

 興奮したような、泣き出しそうな緑谷の声が

 

「い、五十嵐ぃ…」

 

 血だらけの峰田が弱弱しく放つうめき声が

 

「五十嵐ちゃん!」

 

 珍しく荒々しくなっている蛙吹の声が

 

「衝也ぁ!!」

 

 熱き漢の思いが込められた切島の声が

 

「勝てよ、五十嵐」

 

 小さくつぶやかれた轟の声が

 

「…チッ!!」

 

 忌々しそうにされた爆豪の舌打ちが

 

「「「「いっけぇぇぇぇぇ!!」」」」

 

 衝也の背中に、一斉にたたきつけられる。

 

「砕けろォォォォォ!!!」

 

 衝也の渾身の叫び声と共に振り抜かれたその固い拳は

 氷漬けの脳無の胸へと突き刺さった。

 衝也の拳から放たれる衝撃は、凍っている脳無の身体にヒビを入れていき

 最後にその体は、粉々に砕け散った。

 

『いやったぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 緑谷たちの歓喜の叫び声と同時にキラキラと光を反射しながら地面に落ちていく氷の欠片。

 そして、そんな氷の欠片に交じり

 脳無の首が、ゴトリと地面に落ちていく。

 そんな様子を見ていた黒霧の中から出てきている途中の死柄木は

 

 

 ガリッ…と人差し指で首元を搔いた。

 

 




書いていてわかる後半のグダグダ感。
てか最後の奴べつに衝也じゃなくて爆豪でもよかったんじゃねぇ?
とかいうツッコミは作者のご都合主義で消させてもらいます!!(え)
でもいいもんね!これで脳無は倒せたんだから!
…倒せたよね?

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