救える者になるために(仮題)   作:オールライト

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脳無が強すぎて困っています。
アイツどうやったら倒せるねん…
くそー、オールマイトー、かもーん…(泣)
てなわけで十話です、どーぞ



第十話 何を知っているのかでその時取る行動は大きく変わる

「五十嵐!?あ、アンタなんでこんなところに…」

「おう、皆が愛する天才系主人公の五十嵐衝也くんだぜ。」

 

 いきなり血だらけで目の前に出現した衝也の姿を呆けた顔をして呟く耳郎。

 口を半開きにして半ば茫然としている彼女のつぶやきに衝也は相変わらずのお調子発言を、傷だらけの顔の表情をピクリとも動かさないで返事をした。

 衝也は先ほど自分が男の象徴を粉砕して泡を吹いて倒れているヴィランを一瞥した後、視線を目の前の耳郎に移した。

 

「無事か、耳郎?」

「え、あ…う、うん。ウチは大丈夫だけど…」

「そーかそーか、それは何より。」

 

 耳郎は、いきなりの衝也の問いかけに多少言葉を詰まらせたものの返事をする。

 その返事を聞いた衝也は良かった良かった、という風に何度か頷いた後、視線を耳郎から八百万へと移した。

 

「八百万もけがはないか?」

「へ!?え、ええ…特にけがはしていませんけど…」

「上鳴は…無事か?無事なのか?」

「ウェ、ウェイウェ~イ…(な、なんとかな~…)」

「駄目だ、会話ができてない。」

「ウェ~イ…(え~…)」

 

 地面に伏している上鳴のハイウェイモードを見て、若干顔を引きつらせた衝也は気を取り直すかのように頭から垂れて、目に入りそうになった血を軽くぬぐった後まわりをぐるりと見渡した。

 

「んで、ここは一体どこなんだ?見たところかなりの数の敵が居たみたいだけど…」

「ここは山岳ゾーンですわ…ちょうど火災ゾーンの隣にある」

「火災ゾーンの隣か、こりゃ結構飛ばされたな…」

 

「クソッ…」と後ろの天井を見つめて、悔しそうな表情をして小さく舌打ちをする衝也。

 衝也はしばらく忌々しげに穴の開いた天井を見つめていたが、ふと視線を地面に倒れ伏してるヴィラン達に向けた。

 

「倒した敵はこれで全員なのか?残ってる敵は?」

「え、あ、た、倒した敵はこれで全員ですわ…残ってる敵も五十嵐さんが倒したその敵で最後でしたし、もう残っているヴィランはいないと思います。ですが…その…」

 

 八百万はいきなりの衝也の質問に少しだけ動揺するものの、すぐに淡々と彼の質問に答えていく。

 しかし、質問を答えた八百万は再び何かを言おうとして言葉を詰まらせる。

 普段ズバズバと人の気にしていることを言いまくる彼女の様子(衝也の偏見あり)とはまるで違うその姿に衝也は軽く首を傾げる。

 

「ん、どーした八百万?逃げられた敵でもいるのか?逃げられたくらいなら心配すんな。とりあえず敵がここに残ってないならそれでいい。んで、早速で悪いんだがお前らに」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「うお!?」

「!?」

「ウェイ!?」

 

 耳郎達三人に何かを頼もうとした衝也だったが、いきなり耳郎に大声で言葉を遮られ、軽く肩を浮かせて驚く。

 上鳴と八百万同様に、びくりと肩を震わせて耳郎の方へと視線を向けた。

 

「びっくりしたぁ、いきなりどーしたよ耳郎?」

「どーしたはこっちのセリフだって!!アンタ、その傷何!?一体何したらそんな怪我すんの!?てか飛ばされたって、じゃあさっき飛んできたものはアンタってこと!?一体何がどうなってるの!?しっかり説明しなよ!」

 

 ズンズンと衝也の方に駆け寄っていき、地面に倒れ伏している先ほどの電気ヴィランの脇へと蹴とばし、彼の間近にまで近寄って指を突き出して問い詰める。

 思わず体を後ろにそらしてしまう衝也と、彼女の怒涛の勢いに目を丸くしてしまう八百万。

 上鳴は相変わらずウェイしか言っていない。

 

「わ、わかったわかった。とりあえず一から説明するから、その突き出した指で胸を叩くのはやめてくれ。」

「なにそのウチがわがまま言ってるみたいな口調。むかつくんだけど…。プラグ刺して良い?」

「重傷の人間にとどめさそうとするなよ…。」

 

 叩かれた胸のあたりを撫で、少しばかり顔を顰めた後シュルシュルと自分の元まで伸びてきた耳のイヤホンコードをげんなりとした表情で見た後、どっかりと地面に座り込み自分がここまで来た…というよりは飛ばされてきた経緯を話し始めた。

 火災ゾーンに飛ばされ、そこにいた敵を一掃したこと。

 セントラル広場にいた連合の主力と脳無と呼ばれる謎の大男のこと。

 そして、その謎の大男によって天井を超えて外まで吹き飛んでしまったことも。

 

「んで、吹き飛ばされてる途中で何とか衝撃を使ってここまで戻ってきたら、耳郎がやられそうになってたってわけ。」

「なるほどね…」

「五十嵐さんを吹き飛ばした脳無と呼ばれる大男…そのヴィランがオールマイトを殺すための最大の切り札なのでしょうか?」

「恐らくだけどな。個性を使ってないのにあのスピードとパワー、正直そこらのプロヒーローなんかよりよっぽど強ぇ。あの速さと力なら、確かにオールマイトともやりあえるかもしれねぇ。それに…」

「ウ、ウェイ?(そ、それに?)」

 

 個性を使ってないのにも関わらずにオールマイト並のスピードとパワーを持っている、というチート極まりない発言にただでさえビビっている(?)上鳴は言葉をとぎらせ、血だらけの拳を見つめ始めた衝也の言葉の続きを、恐る恐るウェイ語で聞いてみた。

 

「……」

「……」

「上鳴その顔受けるからちょっとこっち見ないでくれねぇ、笑いがこみ上げてくるから。」

「ウェーイ!(ちっくしょぉ!)」

 

 必死に笑いをこらえようとする衝也は、こらえ過ぎたのか脇腹を抑え「いって…笑いこらえ過ぎた」と少し辛そうに呟いていた。

 対する上鳴は自分の言葉が伝わらないのを実に悔しそうに嘆いていた。

 相変わらずのアホ顔で

 

「それに?何か気になることでもあんの?」

「いや、何でもない。」

 

 呆れた様子でため息を吐いた後、耳郎はじっと拳を見つめ続けている衝也に問いかける。

 が、衝也はすぐに首を横に振り、拳をパッと開いてパタパタと顔の前で軽く左右に振った。

 その後衝也は大きく息を吐いて「さってと!」と呟き、ゆっくりとした動作で立ち上がった。

 

「とりあえず、今の状況を簡単に言うとだ。生徒全員が散り散りになったせいで救援を呼ぶためにかかる時間も、助けが来る時間も大幅に増えちまった。その上セントラル広場には、空間と空間をつなげるワープゲート個性の持ち主に、触れたものを粉々に崩す個性をもつ連合のリーダー…そして、オールマイト並のパワーとスピードを持つ脳みそ丸見えの大男がいる。あいつらがその広場を陣取ってる限り、正面からの脱出は限りなく不可能に近い。」

「つまり、救援も来なければ、脱出も困難な、まさに最悪な状況…というわけですわね。」

「……」

 

 衝也の言葉から冷静に現在の状況の深刻さを苦い表情で口にする八百万。

 耳郎も額から冷や汗を流し、ごくりと緊張したように唾を飲み込んだ。

 上鳴は

 

「やウェイなそウェ…。」

 

 ちょっと元に戻ったせいかかなりアホっぽいしゃべり方をしていた。

 それでもなんとなくやばいとおもっている雰囲気は感じ取れる。

 それぞれの反応を見た衝也は軽く拳を握ったり開いたりした後、耳郎達の方へ視線を移した。

 

「まぁ、速い話が絶体絶命って訳だ。そこで、お前らに頼みたいことがあるんだ。」

「頼みたい事?」

「そ」

 

 不思議そうに衝也の言葉を反芻した八百万に視線を向けた衝也は、いまだ頭から垂れてくる血をぬぐい言葉をつづけた。

 

「お前らは今から下山してセントラル広場に近づかないよう動きつつ、この施設の非常口を探してくれ。」

「非常口?」

「そ、こんだけ広い施設で、しかも設計したのは人命救助のプロフェッショナル。恐らくは非常口みたいな緊急用の出入り口があるはずだ。お前らにはそれを探してもらいたい。すでに合流してた飯田と尾白にはもう探してもらうよう頼んでる。もしかしたらもう見つけてるかもしれないが、万が一の時のためにお前らも探してほしい。うまくいけばお前らも外に出れるしよ。」

「ですが、先ほど電波を妨害していたであろうヴィランはもう五十嵐さんが倒しましたわ。上鳴さんの個性を使えば…」

 

 そう言って上鳴の方に視線を向ける八百万だったが、その上鳴の顔を見た瞬間身体が固まってしまう。

 そして、ゆっくりと視線を衝也へと戻して、大きく一つ咳払いをした。

 

「コホン!先生が持ってる通信機器を試せば、恐らく学校につながるはずだと思うのですが」

「ウェイ!どウェしておウェのコウェイを外ウィたんだ!?」

「使い物になんないからでしょ。てかウェイウェイうるさいからちょっと黙って。」

「……」

 

 耳郎の慈悲も容赦もない一言がグサリと心に突き刺さった上鳴はその場で体操座りをして、地面にのの字を書き始めた。

 しかし、それに目もくれずに衝也はゆっくりと首を横に振った。

 

「いや、寝袋先生も宇宙服先生も敵にやられっちまって通信できるような状態じゃない。それに、俺もこれで試してみたが、つながる気配がない。恐らくはもう何人か同じような電波妨害系の個性の奴がいるんだろう。」

 

 自分の持っているガラケーをトントンと指さしながらそう答える衝也に、「そうですか…」と小さくつぶやく八百万。

 しばらく下にうつむいて何かを考えていた八百万だったが、小さくため息を吐いた後、観念したかのように顔を上にあげた。

 

「ならばしょうがないですね。確かに現状五十嵐さんの言った通りに行動するのが一番よさそうです。交戦はなるべく避ける方向でよろしいですか?」

「いや、なるべくじゃなくて絶対に避けるようにしてくれ。俺たちが散り散りになってから結構な時間が経ってる。実際に緑谷たちは水難ゾーンにいたヴィラン達を倒してセントラル広場にまで来てるからな。恐らく、ほかのエリアにいるヴィランもあらかた片付いてるはずだ。つまり」

「もう残っている敵はそう多くはないと?」

「そ。さらに言えば、今まだ残ってるやつは相当強い可能性がある。ほかの生徒達を倒して配置されたエリアから移動しているかもしれないやつらだからな。加えて、脳無とかいう大男並に強い奴がほかにもいないとも限らない。俺は、最初相手の実力はそこらの不良レベルだと考えてた。が、脳無をはじめとする不良レベルとは到底思えないやつらが居たのを鑑みるに、うかつな戦闘はするべきではないと思う。勝てるかもしれない、なんて博打を打てるほど余裕のある状況じゃねぇからな。それにお荷物も一人いるし。」

「わかりました。それでは仮にヴィランに会敵したとしても戦わずに逃げるという方向で。」

「おう、頼むぜ『副』委員長!」

「…嫌味ですか?」

 

 今後の方針を話し合う衝也と八百万。

 あーするんだこーするべきでは?と何度か意見の交換をする二人だったが、無事今後の方針が決まり、衝也は親指を立てて副委員長に呼びかける。

 それを見た副委員長は一瞬表情を顰めるが、すぐに表情を引き締めた。

 

「ふぅ、それでは、私たちは非常口を探してUSJ内から脱出し、先生たちに救援を要請してきます。」

「ああ、くれぐれも戦わないようにな。」

「わかっていますわ。さ、上鳴さん、耳郎さん、行きますわよ!」

 

 そう言って、チョイウェイモードの上鳴の手を取った八百万は山岳ゾーンから離れるために下山コースと書かれている看板のある通り道へと歩いていく。

 上鳴も彼女に引っ張られるような形で看板の方へと向かって行く。

 しかし、

 

「…?耳郎さん?」

 

 耳郎だけはその場でとどまったまま、じーっと衝也の方に視線を向けていた。

 その表情は威圧感たっぷりで、どことなく怒っているような雰囲気が感じられた。

 それを見た衝也は一瞬、彼女の表情に気おされたような表情を浮かべるも、すぐに表情を元に戻した。

 

「うおっと…どうしたんだ耳郎、そんな怖い顔して…速く行かないと八百万たちに置いてかれちまうぜ?」

「…あのさ」

 

 衝也のどことなくおちゃらけたような口調を耳にしても一切表情を崩さずにいた耳郎は、しばらく彼をにらみ続けた後、ゆっくりと口を開いた。

 衝也も「ん?」と軽く目を開いて耳郎の言葉の続きを待つ。

 

「アンタは、これからどうする訳?」

「俺?俺は、まぁあれだ…お前らとは別方向で」

「嘘」

「…まだ別方向としか言ってないんだが」

「どうせ、『お前らとは別方向で非常口を探すつもりだ』とかいうつもりなんでしょ」

「……」

 

 耳郎の言葉に衝也は一瞬目を見開き、しばらくの間そのまま耳郎のことを見続ける。

 耳郎もまた険しい目のまま衝也の事を睨み続けていた。

 そして、衝也は見開いていた目を元の大きさへと戻し、大きくため息を吐いた。

 

「はぁ…耳郎。お前いつから見た目は子供で頭脳は大人な名探偵になっちまったんだ?」

「バレバレだっての。だってアンタ、さっきから視線がチラチラ広場の方に動いてる。そんなに動いてたら広場の状況が気になって気になってしょうがないって言ってるようなもんじゃん。」

「げ、マジか…うまく隠してるつもりだったんだが」

「まぁ嘘だけど」

「……」

 

 感心したような表情から一転してジトーっとした視線を耳郎へと向ける衝也。

 言外に『だましやがったなこのやろー…』と目で語っているのだが、耳郎はまるで意に返さず衝也を睨み続ける。

 彼女の表情は、いまだに変わる様子はない。

 

「アンタ、広場に行くつもりでしょ?」

「…」

 

 耳郎のその問に衝也は答えることはなく、大きく肩をすくませた後

 答えの代わりにゆっくりと顔に笑顔を浮かべた。

 それをみた耳郎は一瞬微動だにせずにいた表情をわずかに歪ませた。

 

「…ッ!アンタ、自分が今どういう状況かわかってんの!!?」

「うわッ!?」

 

 いきなり大声を出した耳郎に思わず肩をびくりと震わせて驚いてしまう衝也。

 八百万と上も彼と同様にわずかに肩を動かした。

 そんな衝也達には目もくれず、耳郎はズカズカと大股で衝也の方へと近づいていく。

 そして、ズズッ!と身を前に出して衝也の顔に自分の顔を近づける。

 それに合わせて、衝也もわずかに体を逸らし、耳郎から顔を遠ざける。

 

「アンタさっき自分で言ってたじゃん!広場には、ここにいるチンピラとは格が違う化け物たちがいるって!その化け物に、アンタ施設の外まで吹っ飛ばされたって!さっきアンタが言ってたじゃん!?」

「……」

「わかってる!?アンタ一回その化け物に負けてるんだよ!?施設の外まで吹っ飛ばされて!成すすべなく一撃で!」

「いや、それはそうだけど…けどあれだぞ?こんな派手に血ぃ流しちゃいるが、その脳無とかいう化け物の拳が当たる直前に衝撃で自分の身体を後方に吹っ飛ばしてるからそこまでダメージは」

 

 そこまで衝也が言った瞬間、耳郎は威圧感たっぷりの表情のまま

 パチン!と衝也の右腕を軽くはたいた。

 その直後

 

「ッつ!!?!」

 

 衝也は右腕をかばうように支え、声にならない悲鳴を上げて顔をうつむかせた。

 ギリギリと、痛みに耐える衝也の口元から歯ぎしりの音が聞こえてくる。

 そんな衝也を耳郎は相変わらず険しい表情のまま見つめる。

 

「どこがダメージがないだよ…アンタが何回も腕の調子確かめてるのに、ウチが気づかないとでも思った?」

「…へ、もうだまされないぜ、耳郎さんよ。」

「その腕、もう動かすのもやっとなんでしょ。それにアンタ、ここに来てヴィランを倒してから、その場から一歩も動いてないじゃん。アンタ、今まともに歩けるの?」

「…」

 

 耳郎の問いかけに衝也は何も答えず、ゆっくりと先ほどのように笑顔で肩をすくめる。

 そして、ぽつりと、観念したかのように口を開いた。

 

「ホント、よく見てるんだな耳郎は。名探偵もびっくりだぜホント。」

「…やっぱり」

 

 顔をうつむかせて痛みに耐えていた衝也はゆっくりと顔を上にあげる。

 衝也の目の前にいる耳郎はギュッと拳を握りしめ、唇をきつく結んでいた。

 耳郎はしばらくの間、衝也と視線を交わし続けた後、きつく結んでいた口をゆっくりと開いた。

 

「アンタさ…今の自分が敵と戦えるような状態だと思ってんの?」

「気合いとか…根性とか、そう言った心の力とか使えば何とか?」

「……」

「待って?ちゃんと答えるからそのプラグを俺に向けるのはやめて?」

 

 無表情でシュルシュルとイヤホンを伸ばして自身にプラグを向けてくる耳郎に、思わずおちゃらけていた笑顔を引っ込め、ガチ目な表情で彼女を止める衝也。

 そんな彼の様子を見て耳郎は、「フン」と小さく呟いた後、伸ばしていたイヤホンを元の場所まで戻す。

 それを見た衝也は軽くため息を吐いたあと、顔をうつむかせ、視線を自分の手の平に向けた。

 

「そりゃ俺だって、自分の状態が普通じゃねぇことくらいわかってるよ。正直歩くのだってやっとだし、あばらとかも何本か逝っちまってる。頭だってフラフラだ。こんな状態で規模のでかい衝撃打ったらどうなるかだって想像もついてるさ。」

「だったら!」

 

 いつになく真剣な表情で言葉を続けていた衝也だったが、突然の耳郎の大声に驚き、顔を上げた。

 

「だったら、そんなやばい奴と戦うのなんてよしなよ。オールマイト並に強い奴が広場にいるんだよ?今の状態で戦ったって…勝てっこないじゃん。下手したら…死んじゃうよ?」

 

 そう口にする耳郎の表情は、怒っているような、悲しんでいるような、悔しがっているような、色々な感情が混ざり合ったような表情をしていた。

 衝也は、今の今まで表情を崩すことがなかった彼女が初めて表情を変えたのを目の当たりにして一瞬驚いたような表情を浮かべるが、すぐにいつものおちゃらけた表情で、にへら、と陽気に笑みを浮かべる。

 が

 

「なんだよ、随分と心配してくれるんだな耳郎。そんなに心配されたら俺ってば思わず勘違いしちまいそうだぜ?」

「……」

「あ、ごめんなさい。すいません、マジですいません。」

 

 無言で再び伸びてくるコードを視界にとらえすぐさま謝り倒す衝也。

 それを見た耳郎は、半ばあきれたように溜息を吐いた。

 そして、少しばかり顔をうつむかせて、ゆっくりと口を開く。

 

「そりゃ、心配もするでしょ…友達なんだから。目の前で友達が傷だらけでいたら、心配するに決まってるじゃん。」

「…そっか。」

 

 本気で心配そうにしている耳郎を見て、衝也は一瞬間をあけた後、どことなく優し気な声色で小さくつぶやいた。

 耳郎はやはり顔をうつむかせたまま言葉を続けていく。

 

「緑谷の事も蛙吹の事も…峰田の事だって、心配じゃないわけじゃないけどさ。オールマイト並にやばい奴が敵にいるんじゃ、私たちじゃどうしようもできないじゃん。だったら、さっきアンタが言ったようにウチらで助けを呼びに行った方が絶対に安全で確実でしょ?だから」

「耳郎」

 

 不意に耳郎の言葉を遮って彼女の名前を呼ぶ衝也。

 自分の名前を呼ばれた耳郎は少しだけ顔を上にあげ、不思議そうな表情を浮かべる。

 衝也の顔は真剣な表情でいつもとは違った雰囲気を漂わせていた。

 

「確かに、お前の言う通り満身創痍のこの状態で広場にいる敵と戦うよりもお前らと一緒に助けを呼びに行く方が何倍も安全だし、敵に勝てる確率も上がるとも思う。」

「だったら…」

「けどさ」

 

 耳郎の言葉を再び遮る衝也。

 その顔は真剣そのものだが、どこか悲しそうで、それでいて何か覚悟を感じさせるような、そんな表情を浮かべていた。

 

「俺は知ってるんだ。」

「知ってる?」

「誰かを失う悲しみを、大切な人を失う苦しみを俺は知っているんだ。」

「……」

 

 傷だらけの手の平に視線を向けた衝也は小さくそういうと、ゆっくりとその掌を拳へと変えていき、固く、強く握りしめた。

 

「結局のところ、俺がここで動こうとするのはそれが理由だと思うんだ。どんだけ傷だらけでも、動いちゃいけねぇってわかっていても、身体が勝手に動いちまう。それはきっと、俺自身が『知ってる』からなんだよ。」

「五十嵐、さん…」

「うぃがらし…」

「何かを『知ってる』か『知らない』か…たったそれだけで、きっと人間の行動ってのは大きく変わるもんなんだと、俺は思ってる。」

 

 普段の彼とは全く違う、どこか愁いを帯びているその声色と表情に、思わず八百万と雷も彼の名前を口に出してしまう。

 衝也は、しばらく拳を握りしめ続けた後、ゆっくりと握りしめていた拳を開き、立ち上がった。

 

「ま、よーするにだ!俺は、お前らクラスメートの事が命がけで助けたくなっちまうくらい大好きだってぇことよ!」

 

 表情を見せないように顔をうつむかせたまま、いつものように軽い調子で言葉を口にする衝也。

 そして、視線を目の前にいる耳郎へと向ける。

 上げられたその顔の表情はどこか覚悟を決めたような、真剣な表情だった。

 

「悪いな、耳郎。お前が心配してくれる気持ちはわかるし、実際俺も目の前で誰かが同じ行動をしてたら止めに入ると思う。それがクラスメートや友達ならなおさらだ…。けど」

 

 そこまで言って衝也は一旦しゃべるのをやめる。

 そして

 傷だらけのその手の平を、ゆっくりと耳郎の頭の上へと乗せた。

 

「俺は…『知ってる』んだったら、後悔のない行動をしたいんだ…。」

 

 ゆっくりと、視線を耳郎に合わせながら、優しく彼女の頭を撫でる衝也。

 傷だらけで、意外とごついその手の平は耳郎の艶やかな髪をグシャグシャにすることなく、丁寧に、まるで幼子をあやすかのように彼女の頭を撫で続ける。

 

「ありがとな、耳郎。俺が言うのも変だけど、お前きっと良いヒーローになるよ。」

 

 耳郎がその言葉を耳にした瞬間

 頭の上にあった暖かな感触が消え去り、一陣の風が彼女の髪とイヤホンコードを揺らした。

 一瞬、その風に目をつぶる耳郎達三人。

 すぐさま目を開けて辺りを見回すが

 いつの間にか衝也の姿はなくなっており、遠くの方から何かを蹴るような音が連続して鳴り響いていた。

 

「五十嵐さん…まさか広場に?」

「な、なんてウィうスピードだよ…」

 

 キョロキョロと辺りを見渡しながらそうつぶやく八百万と上鳴だったが、耳郎だけはその場に立ち止まったまま、ずっと視線をうつむかせている。

 しばらくあたりに視線を配っていた二人は、いまだに動かない耳郎に気づき、心配そうに声をかけた。

 

「じ、耳郎、おまうぇ…大丈夫か?」

「耳郎さん、五十嵐さんが心配なのはわかりますが、今はとりあえずこの施設から一刻も早く脱出することに集中しましょう。それが結果として五十嵐さんや緑谷さんたちを救うことにつながるはずですわ。」

 

「さぁ、耳郎さん。」と耳郎に向かって励ますように手を伸ばす八百万。

 しかし、それにも反応を示さずにいた耳郎はしばらく顔をうつむかせていた後、不意に顔を上にあげた。

 そして

 突然下山コースの方に向かって走り出した。

 

「!?じ、耳郎さん!?」

「お、おうぃ!どーしたんだよ耳郎!?便所か!?」

 

 突然の耳郎の行動に一瞬反応が遅れた二人は、慌てたように耳郎の後を追いかけ始める。

 後ろから二人の制止の声が響いているが、それでも耳郎は止まることなく走り続ける。

 

(なんで…)

 

『俺は…『知ってる』んだったら、後悔のない行動をしたいんだ…。』

 

(なんで、覚悟を決めた顔(あんな顔)でそんなこと言うのかなぁアンタは!?そんな顔されたら、止められるわけないじゃん!)

 

 先ほどの衝也の言葉と表情を頭に思い浮かべながら悔しそうに、本当に悔しそうに口をかみしめながら走り続ける耳郎

 

『大丈夫、大丈夫だから』

『立てるか?』

『俺はあんまり頭がよくねぇ上にどんくさいからなぁ~。どっかの怖がりが服の裾に触ってたとしても、気づくことはないと思うぜ?』

 

(アンタには、アンタには借りがあるんだから!こんなところで勝手に死なれたら困るんだよ!それに…)

 

 息を切らしながら長い下山コースを全速力で駆け抜ける耳郎。

 その速度は相当なもので、途中一回でもつまずいたら、ただでは済まないようなスピードである。

 それでも、彼女は止まらずに走り続ける。

 

「友達一人助けられないで、ヒーローなんて胸張って言えるかっての!!」

 

 彼女は止まらず駆け抜ける。

 傷だらけでもなお、友のために動こうとしている、自身の友を追いかけて。

 

 




……ひどい!!(文章が)
そろそろタグに駄文とつけた方がいいかもしれない…
でもあれですよね
耳郎ちゃんわワイプシの四人の次の次の次の次くらいに可愛いですよね。
女キャラの中じゃ4番目に好きです。
元女のキャラを含めれば5番目ですけど。

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