救える者になるために(仮題)   作:オールライト

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なんか番外編作ったせいで投稿がうまくいかない…
軽く後悔してます。
前の話読めてない人は読んでから読んでくださいorz(何言ってんだろ私…)
てなわけで八話です、どうぞ。





第八話 ヒーローに重要なのは登場するタイミングだと思う

 1-Aの生徒たちがUSJ内に飛ばされた後…

 

 生徒達を散り散りにした黒霧野郎と対峙していた13号先生や生徒たちは、今まさに絶体絶命の危機に陥っていた。

 衝也がある程度予想したように、警報も通信もつながらない今の段階で応援を呼べる方法は飯田の機動力を頼りにするのが一番の最善策、そう判断した13号は飯田に学校へ行くよう指示をし、その要たる彼を守るために目の前の黒霧野郎に向けて自身の個性『ブラックホール』を発動した。

 

(生徒を守る覚悟もできていた!敵と戦う覚悟もできていた!それなのに…)

「戦闘経験の差か…貴方自身の覚悟の問題か…。一般のヒーローと違い、個性の発動の際に一瞬の迷いが生じている。それでは戦いの際に重大な隙を与えてしまいます。その隙一つで、戦況は大きく動くのですよ。」

(人に個性を向ける覚悟だけが…できていなかった!)

 

 戦闘に用いれば簡単に相手を殺せるような個性を持ちながら、その個性を命を救うために使い続けてきた13号。

 それは、自分の個性を人を助けるために使おうとする彼の信念による行動であり、事実彼はその『行きすぎた』個性で多くの人々を救ってきた。

 しかし、彼は人に個性を使うことだけがどうしてもできなかったのだ。

 それはもちろん、ヒーローである自分が命を奪ってはいけないという覚悟があるせいなのもある。

 だが、一番の理由は恐怖である。

 自分の個性で人が死んでいく光景に、自分の指先一つで人を塵に変えてしまえるその個性に恐怖したからこそ彼は人に個性を向けることができなかった。

 それがたとえ、自分に仇名すヴィランだったとしても、である。

 そんな彼がなぜ今、ヴィランに向けて個性を発動したのか。

 それは彼の後ろに守るべき生徒が居たからである。

 生徒を必ず守り通して見せる

 そのたった一つの覚悟を持った13号は、心の内に沸く恐怖を無理やり抑え込んで、自身の個性を、初めてヴィランに向けた。

 その結果は

 

「こんな風に、自分を塵にしてしまうような最悪な状況へとね。」

「先生ー!!!!」

 

 自分の個性をワープゲートで自分へと飛ばしてしまい、自身の背中を塵にしてしまうという、無残な物であった。

 

「確かに、貴方の個性は素晴らしい。こと戦闘に置いて、これほど強力な個性はそうはありませんよ。ですが、そのような個性を持っていながら、貴方が今まで敵と大規模な戦闘をしたという情報は一つもないご様子。ヴィランと対峙したという情報すら、数えられるほどしかない。ここまで戦闘の情報が少ないと思わずこう勘ぐってしまいますよ。貴方は敵との戦闘を恐れているのではないか?とね。どうやらこの仮説、そう外れてもいなかったようだ。」

(く…そ…!)

 

 気分がよさそうに目を少し細めるモヤ男の目の前でガクリ!と膝をついた13号は、そのままなすすべなく地面へと倒れ込む。

 もし、このモヤ男が一切の物理攻撃が効かない全身黒霧野郎だとしたら、13号先生が倒れてしまった今では、このモヤ男を倒すことができる人材はイレイザーヘッドだけということになる。

 その上、飯田までどこかに飛ばされてしまえばその時点で、状況は衝也の想定した最も最悪な状況へと陥ってしまう。

 まさしく、絶体絶命だった。

 自分を守ろうと動いてくれた13号先生(プロヒーロー)がこうも倒れ込む姿を見て、皆の命を託された飯田は、思わず足を止めてしまう。

 

「さて、13号も無事行動不能にできたことですし…。次は貴方達の相手をしなければなりませんね。全く、やることが多すぎて目が回ってしまいそうです。」

 

 そう言いながら視線を飯田達生徒へと向けるモヤ男。

 その口調は先ほどと変わらず、丁寧ではあったがその眼には明確な敵意が存在していた。

 自分たちに向けられるその敵意と圧に、思わずたじろいてしまう生徒達。

 そのあまりにも戦闘に慣れていない雰囲気を見ても、モヤ男は決してその敵意を緩めようとはしない。

 

「先ほどの少年…確か、五十嵐と言いましたか?彼のおかげで私も一つ学ぶことができました。たとえ、戦闘経験が浅かろうとも、幼き子供であろうとも、貴方達はヒーローの卵であり、十分我々の敵となりうる者たちであるということを。決して油断したりはしませんよ?」

「くっ!?」

(まずい、五十嵐君や切島君たちの行動のせいで、先ほどまでたかが生徒と侮っていたヴィランが、僕たち生徒を『敵』として再認識してしまっている!これでは、隙をついて外に出ようにも、その隙を見つけることが…!)

 

 目の前のモヤ男の気迫に押されて、思わず後ずさりしてしまう飯田やほかの生徒達。

 モヤ男の放つ敵意に完全に飲まれてしまっている生徒達。

 そんな生徒達の中から、一つの大きな声が聞こえてきた。

 

「止まるな飯田!!」

「!?」

 

 急に発せられたその大きな声に思わず顔をそちらに向けてしまう。

 そこにいたのは、複製した口を飯田に向けている障子だった。

 

「お前だけなんだ!今ここで!クラスを!友を!助けられのはお前だけなんだ!だからこそお前に託された!ならば!お前は立ち止まっているべきではない!立ち止まることなど、俺が許さない!」

「障子君…」

「走れ!振り返らずに!後ろは、俺たちが守る!」

「…!」

(そうだ、僕が託された!みんなを!クラスを!なら、ここで立ち止まるべきではない!僕らを守るために行動してくれた、先生方のためにも!!みんなを救えるのは、僕しかいないのだから!)

 

 障子にそう叫ばれた飯田はハッとした表情を浮かべた後、弾けたように出口へと向かって走り出した。

 それを見た障子は軽く唇の端を釣り上げた後、視線をモヤ男に向けなおした。

 その瞬間、障子は驚いたように顔をこわばらせた。

 その間も、飯田は振り返ることなく走り続けている。

 その速度はやはりすさまじく、ぐんぐんと出入り口の扉に近づいていく。

 が

 

「行かせると思いますか?あなたが要だとわかっていながら。」

「!?」

 

 いつの間にか消えていたモヤ男が飯田の目の前に姿を現す。

 障子やほかの生徒達は、いきなり先ほどとは違う方向から聞こえてきたことに驚き、慌てて顔をそちらに向けた。

 突然の事で飯田も対応することができず、勢いを止めることができない。

 

(まずいッ…!)

 

 茫然と目の前から黒いモヤが迫ってくるのを見続けている飯田。

 それを見たモヤ男はひっそりと笑みを浮かべ、飯田を飛ばそうとする。

 しかし、

 

「!」

「こちらからも言わせてもらおう、俺たちが何もしないとでも思ったか?」

 

 突然モヤ男の真横から障子が覆いかぶさるように飛んできたことにより、飯田に迫って来たモヤが一瞬で霧散していく。

 

「やった!成功した!」

「今だ!走れ飯田ぁ!!」

 

 モヤが霧散していくのを見た麗日は嬉しそうな笑顔を浮かべており、隣にいる瀬呂は一瞬何が起きたのかわからず立ち止まってしまった飯田に声をかける。

 何の事はない、障子が飛んできた理由はこの二人にあったのだ。

 麗日の個性により無重力状態となった障子を瀬呂が個性のテープを使ってモヤ男の方へ投げ飛ばす。

 その後、障子が複製した腕で軌道を修正してモヤ男に覆いかぶさり、その瞬間に麗日が個性を解除したのだ

 

「後ろだけではなく、前も俺たちが守る。とにかくお前は走るんだ!」

「…!すまないみんな、頼む!」

 

 飯田は振り返らずにそう叫ぶと、再び個性を発動して出入り口へと走っていく。

 それを見たモヤ男は悔しそうに舌打ちした後、霧散した自分の姿を戻していく。

 

「クッ…中々やりますね。ですが…」

「!やはり効かないか…!?」

 

 そして、そのまま自分に覆いかぶさっている障子を飛ばそうとワープゲートを作り出す。

 障子もすぐにモヤ男から離れようとするが、それよりも早くワープゲートが広がっていく。

 

「邪魔者一人、排除完了です。」

「しま…」

 

 完全に開かれたワープゲートに、障子の身体が飲み込まれていく。

 そして障子の身体は完全にワープゲートに

 

「どりゃぁぁぁぁ!!」

「!?」

 

 飲み込まれる寸前、彼の身体がワープゲートからすっこぬかれるカブのようにそのまま真上へと引っ張られた。

 よく見ると、障子のちょうど首当たりに、白いテープのようなものが巻き付いていた。

 ワープゲートから抜け出した障子はそのままある程度引っ張られた後、ドサリ!と大きな音を立てて無造作に地面に落とされた。

 

「ゲホッ…すまない瀬呂…助かった。だが、もう少し優しく助けてはくれないか?首も締まっていたし、背中も痛い。」

「わりぃな障子、俺あんま筋力ないんだよ…。つーかお前重すぎなんですけど…。」

 

 苦しそうに膝に手を置きながら息を整えている瀬呂は、少しばかり笑っている障子に親指を立ててgoodサインを決める。

 

(また飛ばし損ねたか…クソッ!まぁいい、今優先すべきは…)

「あの眼鏡の少年ですからね!!」

 

 飛ばし損ねた障子を悔しそうに一瞥したモヤ男は、すぐさまそのことを頭から払いのけ、ターゲットを再び飯田へと戻した。

 そして、自分の身体を霧散させ、再び飯田を捕まえようとモヤを移動させた。

 モヤが霧散したせいなのか、そのスピードは凄まじく、あの飯田とほとんど同じかそれ以上の速さで飯田を追いかける。

 それをみた砂糖が慌てたように叫び声をあげる

 

「まずい!このままだと非常口が…!」

「砂糖君!」

「!何だ麗日!?」

「砂糖君、めっちゃパワーある系の個性だよね!?」

「あぁ!?そりゃ俺の個性はパワー増強系の個性だけど、それがどーしたってんだ!?」

「投げて!私を!」

「!?」

 

 モヤ男は徐々に徐々に飯田との距離を詰めていく。

 飯田もその気配は肌で感じてはいるが、ここで振り返って隙を与えてしまえば、それこそ一巻の終わりである。

 決して後ろは振り返らず、仲間たちが何とかしてくれることを信じて一心不乱に走り続ける。

 そして

 

「チェックメイトですよ、眼鏡君!」

「!」

 

 黒い、大きなモヤが出入り口の方へと向かって居いた飯田の眼前へと広がった。

 その瞬間

 

「行くぞぉぉ麗日ぁ!」

「うん!思いっきり頼むね!」

「どおおおおおりゃぁああああああ!!」

 

 ブオオン!!という空気の揺れる大きな音と共に、麗日がモヤ男に向かって飛んで行った。

 砂糖の個性『シュガードープ』により、身体能力が大幅に増強された砂糖の筋力、さらに自身の個性により無重力状態にしているのも相まって、麗日の身体はロケットさながらの速さでモヤ男へと突っ込んでいく

 

(五十嵐君はあの時二回攻撃を仕掛けてた!攻撃が効かないってわかった後も!障子君はあいつが意味の無い攻撃をするのは考えづらいって言ってた!なら、五十嵐君のあの二回目の攻撃には何か意味があったんや!)

 

 そこまで考えてから麗日は先ほどの障子の言葉を思い出す。

 

『瀬呂!麗日!お前たちの個性で俺を飛ばせ!!砂糖の個性では早すぎて俺もコントロールできるかわからない!』

『で、でもあいつに攻撃は効かんかったよ!?実体もない相手からどうやって飯田君を…』

『あいつは!』

『!?』

『五十嵐は無謀な行動はとるかもしれないが意味の無い行動はとらないはずだ!なら、あいつの二撃目の攻撃には何か意味があるはずなんだ!』

『意味って言ったって…二回目の攻撃だって背後を狙ってたけど結局飛ばされてたやん!!結局分かったのはあいつには前後も左右も関係なかったていうことだけで…』

『もしも、二回目の攻撃が背後を狙っていたものではなかったとしたら!?』

『!?』

『あいつが狙っていたのが何なのかまでは流石にわからない!だが、必ず何かあるはずなんだ!あいつが攻撃を仕掛けた理由が!必ず!それを見つけられれば、もしかしたらあいつを倒せるかもしれない!』

 

(私だって、五十嵐君が狙ったものはわからへん!けど、五十嵐君は何か気になるもんがあったから攻撃を仕掛けたんや!!だったら、私が(・・)このモヤ男を見て気になった部分に目を向けていけば、もしかしたらこいつを倒せるかも知れへん!)

 

 麗日は飛ばされることによる身体への負荷に耐えながら、必死に両手を『あれ』に伸ばしていく。

 自分がずっとこのモヤ男の事を見て気になっていたあれに。

 届け!届け!!と念じながら、ただひたすらに手を伸ばしていく。

 そして

 

「走れぇぇぇぇ、飯田くーーーん!!!!」

 

 あらん限りの声を振り絞り飯田へと激を飛ばした。

 彼女が手を伸ばしているもの、それは

 モヤ男のまとう黒い霧の中で不自然に揺れている服のようなものだった。

 

(理屈なんかわからない!けど、こんなん着てるんなら実体はあるはず!それさえ触れば、私の個性も…!)

 

 あと数センチ

 もう何秒もしないうちに彼女の手が、その揺れる服に届こうとしていた。

 そして、彼女の手がついに、モヤ男の服をとらえ

 

「させませんよ」

「え…?」

「なッ…!」

 

 ようとしていたその瞬間、彼女の身体は、ワープゲートの中へと飛び込んでいった。

 そのすぐ後に飯田も目の前のワープゲートに飲み込まれていった。

 

「言ったはずですよ?『油断したりはしない』と。それに、触った後ならともかく触る前にそう叫んでいては、何かをすると言っているのも同然ですよ。警戒しない方がおかしい。」

 

 そうつぶやいたモヤ男は前後に大きく広がっていた黒い霧を収縮させていき、本来の大きさまで戻していった。

 そして、嬉しそうに目を細めた後、視線を残っている砂糖・瀬呂・芦戸・障子へと向けた。

 

「さて、残り四名。一人一人、確実に消していくことにしましょうか。」

「くっ!!」

 

 後ろにいる仲間たちと倒れている先生をかばうように背中を広げる障子。

 生徒達(ヒーローの卵達)先生(プロヒーロー)が各々覚悟を決めて戦いを続けていく中で

 考えうる限りで一番最悪なシナリオが、一歩ずつ一歩ずつ彼らに近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

(な、なんだこれ…何なんだよこれ…)

 

 緑谷は目の前にある光景をただただ茫然と見つめ続けていた。

 彼の隣にいる蛙吹・峰田も同様である。

 彼ら三人はあのモヤ男に水難ゾーンへと飛ばされ、大量にして大漁のヴィランに襲われていた。

 それを何とか三人の力を合わせて退けた彼らは、このまま助けを呼ぼうとしたのだが、いまだ広場で戦っているであろうイレイザーヘッドを心配して彼に加勢することを決意。

 水辺を歩きながらイレイザーヘッドの元へと向かって行った。

 そして、彼らは無事広場にいるイレイザーヘッドの元へとたどり着いたのだが

 

(敵じゃなかったんだ…僕たちが戦ってきた相手は、敵ですらなかった…。これが、これが(ヴィラン)。プロが相手にしてる…本当の敵!)

 

 目の前に居たのは、脳みそが丸見えの黒い大男に押さえつけられている、ボロボロのイレイザーヘッドだった。

 

「どうしたイレイザーヘッド?個性を消せるんだろ、そいつの個性も消したらどうだ?」

 

 にやにやと底意地の悪い笑みを浮かべながら楽しそうにそうつぶやいたのは、顔や肩や手首など、体のいたるところに掌をつけている不気味な男だった。

 男の言葉を聞いたイレイザーヘッドは顔をわずかに上にあげ、瞳を限界まで見開き、自分を押さえつけている大男へとその眼を向けた。

 しかし、

 

「ぐぁ…!!」

 

 グシャ!という嫌な音と共に、イレイザーヘッドの左腕がまるでポッキーのように握りつぶされた。

 これは別に彼の腕がトッポのように最後まで中身たっぷりのたくましい腕ではなかった、というわけではない。

 彼の個性を個性は見つめたものの個性を『消す』個性である。

 その個性が発動しているのにも関わらず、この大男はイレイザーヘッドの腕をへし折るほどのパワーを見せた。

 つまり、

 

(素の力がこれかよ…!オールマイト並じゃねぇか…)

 

 大男はイレイザーヘッドの頭を大きな手の平でつかむと、地面へとたたきつけた。

 ゴッ!という音が響いた瞬間、彼の顔面の下にあるコンクリートの地面は、たたきつけられた衝撃でクレーターのようにへこんでいた。

 

「いいね、脳無。そのままそいつの眼を使いものにならなくさせろ。そうすればこいつのヒーロー人生も終わる…社会のごみ一名排除完了って訳だ。」

 

 男の言葉に反応したのか、脳無と呼ばれた大男はその後も執拗に、何度も何度もイレイザーヘッドの顔面を地面へと叩きつける。

 その音が、一定間隔でずっとなり続けている。

 その異様な光景を、緑谷たちは青ざめた表情で見つめている。

 先ほどの勝利から来た希望は、一転にして絶望と恐怖に代わっていた。

 手の平男とイレイザーヘッドの頭を打ち続ける大男、その背後に黒いモヤのようなものが現れた。

 

「死柄木弔」

「黒霧か。」

 

 先ほどまで出入り口にいた黒いモヤ男、黒霧は手の平男、弔に声をかけた。

 弔はカリカリと首元を搔いた後、黒霧に声をかけた。

 

「黒霧、13号はやれたのか?」

「ええ、ほかの生徒達もこの施設内に飛ばしました。しばらくの間は応援も呼ばれないでしょう。」

「いいねいいね、順調にことが進んでる。順調すぎて逆に怖くなってくる・」

「あとは、この緊急事態に今ここにいるはずがいなかったオールマイトが気づいてこちらに来るのを待つのみですが、この調子だと時間が掛かりそうですね。」

「何言ってるんだ黒霧。子供たちの絶体絶命の大ピンチだ。この状況で駆けつけてこないなんてNO1ヒーロー、平和の象徴の名が泣くぜ?」

 

 両手を大げさに上げながら、今この生徒たちの危機に参上してこないオールマイトに皮肉を言う弔。

 それを見ていた黒霧は、しばらくまわりを見た後不思議そうにモヤを揺らめかせた。

 

「ところで死柄木弔…」

「ん、何だよ黒霧?」

「この耳障りな音は何ですか?何かを打ち付けているような…」

「お前後ろ見てみろよ。」

「後ろ?」

 

 そう言って黒霧は後ろへと振り返る。

 そこには、まるで命令を受けた機械のように淡々とイレイザーヘッドの頭を打ち付けている大男、脳無が居た。

 

「なるほど、イレイザーヘッドでしたか。それにしても、なかなかに惨たらしいですね。人の背中を塵にしてしまった私が言えることでもありませんが。」

「黒霧、男の天然なんて需要ないぜ。」

「うるさいですよ…」

 

 げんなりとしたように返事をした黒霧はしばらく脳無を見ていたが、ふと気がづいたように死柄木へと視線を向けた。

 

「それで?これからどうしますか?今の私たちはオールマイトが来るまで待たなければならない状況にある。それまで何もしない、というのはあまりに不格好でしょう。」

「大丈夫さ黒霧。ちゃんと考えてある。」

 

 そう言って死柄木はまるでゲームでもしてるかのように楽しそうな笑みを浮かべた。

 その笑顔は歳幼き子供が見せるかのような無邪気な笑顔。

 しかし、その笑顔のまま口に出された言葉は、決して無邪気で済まされるようなものではない。

 

「ここは天下の雄英だ。おまけにオールマイトまでいる。その雄英の生徒たちが全員死体で見つかったら?幼い子供すらヴィランの魔の手から守れない教育機関が、ヒーローが、平和の象徴が!そんな不祥事が世間に知れたらどうなるか…思い知るのさ!平和の象徴が、いかに脆く、脆弱なのかを!たのしみだなぁ、楽しみだなぁ!!」

 

 興奮したように早口でそう捲し立てる死柄木。

 ものすごくよい笑顔で生徒全員の殺害宣言をする死柄木を見て、緑谷は背筋が凍るかのような感覚を覚えた。

 しばらくの間、笑顔で両手の指を組んだり話したり、動かしたりしていた死柄木は突然その動きを止めた。

 そして

 

「だから、手始めにまず…」

「!?」

 

 一瞬にして緑谷たちの所に飛んできた。

 その速さと目の前の光景に動揺したせいで、緑谷・蛙吹・峰田の三人は死柄木の動きに反応することができなかった。

 そして、ただただ棒立ちだった蛙吹に、死柄木の手が迫る。

 

「この三人から殺してこう!」

「…!?」

 

 触れたものを粉々に崩してしまう死柄木の手の平はそのまま蛙吹に迫っていき、

 ついに蛙吹の顔面に手の平が触れた。

 思わず緑谷は最悪の想像をしてしまい、我に返ったかのように蛙吹の方へ顔を向ける。

 しかし、

 

「……」

「…!」

「ほんっと、かっこいいぜ」

 

 蛙吹の顔は死柄木の手が触れているにもかかわらず、そのままだった。

 その理由は

 死柄木の背後でひたすら顔面を打ち付けられていたヒーローが、もはや痛みすら感じなくなってしまうほど神経がマヒしてしまったその『眼』を見開いていたからだ。

 

「イレイザーヘッド!」

 

 ヒーローとして、教師として絶対に生徒を助け出すというその信念のみで自身を奮い立たせ、目の前の生徒たちの命を救う彼のその姿は、まさしくプロのヒーローだった。

 だが、

 

「ぁ…!」

 

 その彼の信念をあざけ笑うかのように脳無は再び顔面を地面へとたたきつけた。

 その衝撃に、思わず相澤は目を閉じてしまう。

 

(クソッ、個性が…戻る!)

 

 彼の個性は視界に入った者の個性を消すことができる物だが、再び目を閉じればその個性は消えてしまう。だからこそ、彼は限界まで目を開き続けて効果時間を増加させているのだ。

 だが、ここまでダメージが眼に集中してしまえば、その個性の効果もほぼ一瞬である。

 個性が復活すれば、蛙吹の顔はテレビに放送できないほど悲惨な結末を迎えてしまう。

 だが

 

「手っ…放せぇ!!」

(さっきの敵とは明らかに違う!蛙吹さん、助けて、逃げなきゃ!!)

 

 その蛙吹を助けるために、緑谷はその拳を死柄木へと振りかぶった。

 彼の拳は、巨大ロボすら粉々にしてしまうほどの威力。

 その拳が届きさえすれば、この状況を打開することさえできるかもしれない。

 そして、

 

SMASSH(スマッシュ)!!!!!!」

 

 ズドォン!!という豪音と共に、大量の砂埃と大きな衝撃波が発生した。

 その威力は、並の人間では立つことすら難しくなるほどの高威力だった。

 そのうえ、いつもは放った瞬間ボロボロになってしまう腕はいまだ健在で、奇しくもこの危機的状況で緑谷は力の調節に成功した。

 思わず心の中で「やった!」と声を上げる。

 が

 

「え…」

 

 砂埃が腫れると、そこにいたのは

 吹き飛ばされ傷だらけの死柄木

 ではなく

 緑谷の拳が脇腹に深々と打ち込まれているのにも関わらず、堂々と立っている脳無だった。

 その姿から見るに、彼の拳がまともにぶち当たってもまるでダメージがないようだった。

 

(な、いつの間に!?早すぎる!ていうか、効いて、ない!?)

 

 目の前に現れた見た目も実力も普通ではなさそうな化け物を見て、思わず行動を止めてしまう。

 その隙をついて、目の前の脳無は自身に打ち込まれた緑谷の腕をつかむ。

 そして、そのまま自分の方へと引き寄せる。

 

(!力…すごッ!?)

 

 緑谷も何とか離れようと体を動かすが、脳無のあまりの力になすすべなく引っ張られていく。

 

「いい動きするなぁ。スマッシュってオールマイトのフォロワーさんかい?まぁいいや、君もう死ぬし。」

「緑谷ちゃん!」

「おっと」

 

 死柄木の手を払いのけて舌を伸ばし、緑谷を逃がそうとする蛙吹。

 だが、それでも脳無の腕は離れることはなく、空いているもう一つの手の平が固く握りしめられた。

 死柄木も、払いのけられていないもう一つの手を蛙吹へと向ける。

 蚊帳の外の峰田は、恐怖からか使っている水辺周辺を黄色に染めていた。

 

(まずっ…!死…!?)

「やれ、脳無。俺もすぐに片付ける。」

 

 そして、死柄木の手が蛙吹に、脳無の拳が緑谷に、

 まさに死の手と拳が彼らに向かって行ったその直後、

 

「おいおい、そんなごみを片付けるみたいなノリで俺の友達に手ぇださねぇでくん無いかね?」

「あ?」

 

 その言葉と共に一人の少年が空から突然死柄木と脳無の間に降り立った。

 いきなり空から降って来た少年に、思わず死柄木と脳無は動きを止めた。

 その瞬間

 

「そんなことしてっと、殺されても文句言えねぇぜ?死柄木弔さんよ…」

「ッ!?なんッ…!?」

 

 死柄木と脳無の身体が轟音と共に吹っ飛んだ。

 更に、時間差で衝撃による強風と砂埃が辺りに広がった。

 周りに植えてある大きな木も、ミシミシと音を立ててそれていた。

 

「クッ…死柄木!?」

 

 その強風でモヤを激しく揺らしながらも、必死に死柄木の名を呼ぶ。

 しかし、大量の砂埃のせいで中々姿を確認することができない。

 そんな中、砂埃をまき散らした張本人は

 

「ゲッホゲッホ!!やっべ、加減間違えた。砂が眼に入る。後は、は、ハックチョ!は、鼻にックチョ!」

 

 思いっきり砂埃のせいでせき込んでいた。

 それを見ていた緑谷と蛙吹は唖然とした表情でその少年を見つめていた。

 そして砂埃がどんどん晴れていくと同時に、二人の顔は徐々に明るくなっていく。

 

「良かった…生きてたんだ!」

「心配してたけど、無事だったのね。」

「「五十嵐君(ちゃん)」」

「よ、無事か二人とも!なんか知んねぇけどめっちゃいいタイミングで来たみたいだな。ゲッホゲッホ!うう、のどが痛ぇ…」

 

 そこにいたのは

 涙目で喉をさすりながら、苦しそうに口から舌を出している五十嵐衝也だった。




ただただ原作通りに進んでいるのみ。
なんか自分の文才の無さに絶望しますね…。
てか、芦戸と峰田が空気…

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