天災?いいえ、間に合ってます。   作:104度

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ひと月ぶりです。
最近この作品の妄想に割ける時間が減ってきております。
でも続けるのでお楽しみ頂ければ幸いです。
あと戦闘描写が難しい。なにそれ。皆どうやって書いてるの?


受験期にまた新作出すとか…カプ〇ンさんのいぢわる。
携帯可能な可愛い怪物たちとか……くそっ金がねぇ!


クラス対抗戦という名の試運転会場

「一夏あんた………馬鹿でしょ?」

 

「なっ、馬鹿ってなんだよ!?」

 

 白式を纏ったままアリーナの壁際にへたりこんでいる一夏を見下ろしながら鈴は言う。

 

「だから、相手の機体に近付くときは相手に照準を絞らせないように動きなさいって……あたし、言ったわよね?」

 

「ああ、それは聞いたけど…」

 

 鈴はその言葉に溜め息をつくと、呆れたとでも言わんばかりの眼差しを一夏に向ける。

 

「ならなんで一直線に突っ込んでくるのよ。あれじゃ相手に撃ってくださいって言ってるようなものなのよ?」

 

「んー……一応、頭では理解してるつもりなんだけど………」

 

「全て弾けば良い話ではないか。」

 

 一時休憩に入った箒が、片手で刀を振りつつ横から会話に加わる。危ない。

 

「いやいやいや、あんな芸当ができるのはあんたか千冬さんぐらいでしょうが。」

 

「出来ると思ったんだけどなぁ……」

 

「というか、それができるできない以前にまずは機体の操縦に慣れなさいよ。あんた、束さんから白式をもらってまだ一月も経ってないじゃないの。」

 

 一夏はセシリアとの勝負に善戦したものの、未だに飛行時の機体は不安定で墜落しないとは言えない状態である。直進していると思ったら急降下し、停止しようと思ったら加速したりと、まだ空を飛ぶという感覚に慣れていないようだ。実際、放課後にこの三人で行われている自主鍛錬中に一夏が地面に穿った穴の数は、両手に余るほど多い。

 

「そういう鈴や箒だってまだ二ヶ月しか経ってないじゃないか。」

 

「あたしたちは別なのよ。」

 

「空兄さんが私たち用に色々と調整してくれたからな。」

 

 確かに二人のISは、本人たちの癖や身体能力に合わせて造られている。しかしそうであっても、たったの二月で国家代表候補生みたく動けるようになったのは、理屈よりも直感と本能を優先する二人の性質に因るところが大きい。

 それ故に二人は教えることが下手だ。だから放課後の練習も、言葉を使って教えるのではなく、実践の中で見本を提示する方法を採っている。

 

「なんだよそれ…ズルくないか?」

 

「お前の機体だってあの姉さんが造ったものだろう。」

 

「いやまあ、そうなんだけど……」

 

「それよりもほら、もうすぐクラス対抗戦なんだから時間の許す限り動きなさい。あたしたちが教えてあげてるんだから、負けたら許さないわよ。」

 

「そうだな…負けたら私たちの言うことを一つずつ聞いてもらおうか。」

 

「な……お前ら、何をするつもりだ………?」

 

「ふふふ………なんでしょうね。」

 

「ははは………なんだろうな。」

 

「………嫌な予感しかしねぇ。」

 

 ご愁傷様。

 

 

***

 

 

 クラス対抗戦はトーナメントではなく総当たり戦で、一日の授業を潰して行われる。一試合当たり二十分程度、勝敗は相手を落とすか時間切れの時点でエネルギー残量が相手よりも多く残っていれば勝ち。実にシンプルなルールだ。

 ちなみに、試合では相手のエネルギーを零にしても急にISが待機状態に戻ることはないよう、この値を下回ったら負けという数値を零としている。そうでもしないと救助隊が必要だったり地面に激突したりで危ないしね。

 

 今は千冬、真耶と共にアリーナの管理室から、決勝戦の行われている会場を観ている。

 空中では、一夏くんと四組の更織ちゃんが激しくぶつかり合い、飛行機雲のように光を残しながら縦横無尽に動き回っている。

 見たところ、一夏くんが優勢のようだ。

 

「織斑くん、凄いですねぇ……相手は代表候補生だというのに…」

 

「剣道につぎ込んできた今までの努力のおかげ、だろうね。」

 

「成る程、だからあんなに動けるんですね。もしかしたらこのまま勝っちゃうかも…」

 

「それはないな。」

 

「へ?どうしてですか?」

 

 真耶は驚いた、という表情で不思議そうに僕と千冬に向き直った。確かに、ISの模擬戦は兵装に圧倒的な差がない限り、搭乗者の技量と経験が勝敗を分ける基準となるし、戦いという面を見れば一夏くんの方に軍配が挙がる。けど、それはISについて深く知り、慣れていることが前提なのであって。

 

「空の言う通り、あいつのあの機動性は殆ど身体能力で補っている。動くたびに機体から相応の抵抗を受けるだけでなく、生身とは程遠い感覚の手足でのあの戦闘だ。加えて、ここまで休憩はあれど連戦なんだ。いくら鍛えていようと、そろそろ体が動かなくなっていてもおかしくはないだろうし、精神的にも疲れているだろう。」

 

「それに、一夏くんは無計画にあのワンオフアビリティーを使ってるからエネルギーの消耗が激しいわけだし…それだと勝てる試合も勝てないよ。………というかなんであんな装備しか載ってないのさ。」

 

「さあな。それはアイツに訊かないことには何も分かりはしないだろ。」

 

 会話を一旦切り、二人の戦闘に再び目を向ける。

 真耶の座っている前に表示されている画面には、一夏くんのエネルギー残量が勢いよく減っていく様子が見て取れる。そろそろ決着が着きそうだ。

 

 

———ビービービービー

 

 

 突如耳障りな高音が管理室内に鳴り響いた。

 

「な、なんですか!?これは……何者かにハッキングされています!」

 

 非常事態に真耶が焦った様子で液晶に向き合う。

 けどまぁ、アリーナでは生徒たちに目立った動きがないし、アリーナを覆うバリアの頂点だけが解除されているからそういうことかな。もうすぐで試合が終わるっていうのに…間が悪い。

 

「ああもう!!次から次へと……」

 

「あー……真耶、それ放っておいていいと思うよ。」

 

「はぁ!?何を言ってるんですか!?」

 

「いやだって、相手は多分た」

 

 

———ドスン

 

 

 言い終わらないうちに地響きで足元が揺れる。

 巻き上がる土煙から姿を現したのは、全身がピンク一色で統一されたウサギ型のIS……なんてことはなく、隅まで真っ黒なIS、もとい試作の無人機。

 

 ………改めて見ると違和感がとてつもない。ロボットと違って関節部分の機構は剥き出しでなく、動きもロボット特有のそれよりも人間独特のそれで、あたかも誰か人が中で操縦しているのではないかと錯覚すらしてしまうほど精巧に作られている。

 流石は束、期待をいい意味で裏切ってくれる………けどさ、無機物が人間よろしくヌルヌル動くのはやっぱり不気味だと思うんだ。

 

 

 皆が注目するISがアリーナを見回すように動いてからぶんぶんと手を振って、

 

『やぁやぁやぁIS学園の諸君元気にしてるかい?この世界に並ぶ者のいな……一人を除いて並ぶ者のいない大・天・才、束さんだよーよっろしくぅ☆さてさて、いきなり出てきてなんだよこの野郎とか思ってるかもしれないけど束さんの実験に付き合ってもらうぜぃ!!今回の実験はなんと!IS無人機の試運転だぁ!!…………あれ?白けてる?白けちゃってる?むー……、無人機だよ無人機!普通は驚くところじゃないの!?』

 

 会場内に言葉を発する生徒はいない。無人機という存在に対する驚きで一杯一杯なのか、かの有名な『篠ノ之 束』という存在に驚いているのか。

 

『………まぁいいや。てとでぇっ!!今日ここで数多の激戦を潜り抜けてきた猛者よ、勇者よ、この束さんと勝負だぁ!!!うん?どしたのいっくん………え?まだ決勝戦終わってないの?うそぉ……来るタイミング間違えちゃった?まじ?……………空ぁーー!!助けてー!!!』

 

 いや待てそれはおかしい。

 

「ほら、あいつから熱烈なラブコールが飛んできているぞ。行ってやったらどうだ。」

 

 いや待てそれもおかしい。

 

 

***

 

 

 結局僕がISを纏って対応することになった。なんでだよ。困った状況になったからってすぐにヘルプしないでよ。

 束に頼られてると考えれば……まぁ…悪い気はしない。…ちょっと待つんだそこちょろいとか言わない。

 

『ふっふっふ……今日こそ空に勝つ!!』

 

「別に僕は負けず嫌いなわけじゃないけど……受けて立つよ。でもさ…」

 

『待って、言わなくても分かってるから。うん。今ホント虚しい気分になってるから。』

 

 そう言って顔を器用にも覆う黒いISさん。

 

「でも、そんなんじゃ僕に勝てないよ?」

 

『ふふ……先制いっただきぃ!!』

 

 めそめそしていたISが急に距離をとると、馬鹿でかい砲、それも軍艦の主砲並にでかいものをぶっ放してきた。速度はレーザー未満、けれどもその威力は絶大でバックラー程度の小さい盾じゃ受け止めることはおろか逸らすこともできない。

 咄嗟に出したのは足元から頭まですっぽりと覆ってしまうほど大きいカイトシールド。おかげで束の攻撃を凌げたけど…

 

「不意打ちは良くないんじゃないのかなぁ?」

 

『そうでもしないと私じゃ勝てないからねっ!』

 

 言いながら両手にマシンガンを出して乱射。それらを難なく盾で防ぐと同時にビットを五つ出して反撃し、相手のシールドエネルギーをゴリゴリと削っていく。

 

『あちゃー。やっぱり遠距離戦を挑んだのは間違いだったかなぁ。』

 

「いや、あの巨砲はかなり焦ったんだけど……」

 

『当たんなきゃ意味ないもーん。じゃあ今度は近接戦行くよー。』

 

「はいはい…!!」

 

 相手のISが瞬間加速(イグニッションブースト)で突如として目の前に現れる。

 慌てて盾を前面に構えるも、直前で相手が僕の上に飛び、一太刀浴びせられた。

 

『やったぜ。』

 

 く……束のドヤ顔が容易に想像できる。あそこまでドヤ顔が似合う人は他にいるのだろうか、ってぐらいにイラッと来る。可愛いけど。

 

 高速で繰り出される短剣二本での連撃をバックラーでいなし続けながらまたビームを撃ち込む。

 上段、弾く、反撃、下段、弾く、反撃、上段、避ける、突き、反撃、逸らす、横薙ぎ、叩き上げる………精神を研ぎ澄まして攻撃の方向、威力に集中する。人間が相手でない分、予備動作というものが存在しないため先読みは非常に難しい。けれど、それでも、守る。こうして守っている間にも、相手のシールドエネルギーを減らしているから持久力のあるこちらが勝つことになる。

 

 

 

『はぁー………まぁた空に勝てなかったよ。その盾ズルくない?なんでそんなに正確に攻撃を防げるのさ……ズルい。ホントズルい。』

 

 帰還用のエネルギーを残すために束が勝負を切り上げた。勝負は僕の勝ち。観客席にいる生徒たちからは称賛ともとれる拍手が送られている。

 

「ズルいって言ったって、これ結構頭使うんだよ?」

 

『わかってるよ。わかてるけど……納得いかない。』

 

 黒のISさんが頭を垂れて落ち込んだようなポーズを作る。

 

「でも、データは良かったんじゃないかな。」

 

『まあね。後で色々と調整しなきゃだけど、概ねは良好。無理な動きにも耐えたし、耐久力自体も思ったより高かったからそっちを伸ばそうかなって思うの。』

 

「それで回収が捗るならそれでいいよ。目標は一夏くんたちの卒業までだからね。」

 

『わかってるって。』

 

「ならよし。それじゃ、僕はもう行くから。またね。」

 

『またねー。』

 

 

 

 学園からは特に懲罰はなく、「だって篠ノ之博士だし。」みたいな理由で許された。といっても学園側に不利益がなかったことの方が理由としては大きいと思うけど。

 先生たちには「あの篠ノ之博士と知り合いだったんだ……大変そうだね、今度何か差し入れるようか。」などと同情され、生徒からは「私たちにもISの操縦を教えてください!!」「あの耐えに耐える姿勢がとてもかっこよかったです!!結婚してください!!」「あ、あの、サインください!!」「確かに凄かったけど……地味。」と言われ放題で対処に困り、千冬と真耶には「どうして黙っていたのか」と詰め寄られ………疲れた。

 

 

 自室に戻ってベランダから暗い空を見上げ、未知の世界に思いを馳せる。

 あれが北斗七星、あれがアルクトゥルス、あれがスピカで、あれがデネボラ。春の大曲線と春の大三角………

 

 

 これでまた夢へと一歩近づいた……のかな?

 

 





「さぁーていちかぁ」
「な、なんだよ」
「私たちの言うことを聞いて貰おうではないか」
「待て、待ってくれって。まだ勝ち負けは決まってないだろ」
「いーや?それがねぇ…山田先生に訊いてみたんだけどねぇ」
「姉さんの乱入直後にお前のエネルギー残量が尽きたらしくてな」
「げっ………」
「あ、今、バレたとか思ったでしょ」
「そそそそんなことないぞ」
「嘘をつこうとも無駄だ。さて、何にしようか」
「そうね…」
「なら一夏、今度のゴールデンウィークに私の買い物に付き合ってもらおう。勿論お前が荷物持ちでな」
「マジかよ…弾の家に行こうと思ったのに」
「あー……別に毎日という訳でもないから安心するといい。まあその分頑張ってもらうことになるがな」
「……了解しましたよ、お嬢様」
「なっ…お、おじょ……」
「うん?どうかしたか、箒?」
「な、なんでもない!」
「顔赤いぞ?熱はないか?」
「ない!!無いと言っているだろう!!」
「ならどうしたんだよ」
「どうもしておらん!!」

「(えー、何この感じ。なんでいきなりこうなるのよ。というか一夏はいい加減に気付きなさいよ!!…どうして分からないのかしら。あれ?………空も同じでは?……………うがぁー!!!ただでさえ敵が強大だってのにこれじゃ勝てっこないじゃないのー!!!)」

「なあ、鈴は何にするん……どうしたんだ?」
「………放っておけ。お前じゃどうにもならん」
「?」
「(後で励ましてやるか…)」


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