お久しぶりです。
夏休み明けが終わりました。疲れました。遅れてごめんなさい。
なんか最近迷走しています。どうしましょう…
クラス代表とは、ISの操作技術が他の生徒よりも突出しており、戦闘という側面の定規で測られて選出される……と思われるかもしれないが、実際はその限りでない。
だって、教師からすれば雑用が主だから。
クラスの代表として催し物の中心となったり、クラス対抗の試合に出たりもする。するのだが、一年の大半を占めるのはイベントなどない日常なのだ。
例えば、プリントの印刷をしたり。
例えば、業者から届いた教材を運んだり。
結局は、どの学校にもいるであろうクラス委員長などと大差ないのだ。
千冬の話によれば、自分のクラスの代表にテストの丸つけを丸投げした猛者がいたらしい。しかも驚いたことに、特に処罰は課されなかったという。
ホントになんでもアリなんだね。中学校で鈴ちゃんに丸つけを手伝ってもらったときは厳しく叱られたというのに。
まあそんなことはいいとして、今は……あ、一夏くんが落とされた。そしてオルコットちゃんが…言いづらいからセシリアちゃんにしよう。セシリアちゃんが、重力に引っ張られて落ちていく一夏くんを華麗に助けた。
それに対して観客の生徒たちから拍手が起こる。そして満面の笑みを浮かべるセシリアちゃん。
………やっぱり貴族だから、目立ちたがり屋なのかな。
ISを動かしてからまだひと月も経っていないはずなのに一夏くんは善戦した。というのも、今まで部活一筋な生活をしていたからだろう。伊達に毎日体を鍛えているわけではないのだ。これにもう少しISや銃の知識があれば……
まあ、僕はそう簡単に負けてあげないからね。大人の意地っていうものを見せてあげるよ。
***
ISスーツに着替えて、というのがISに乗る第一手順だと教えられているけど、実は必要なことではない。
ISスーツは、脳から全身に発せられる電気信号を細やかに読み取り、ISの動きを補助するものだ。だから、ISスーツの有無は生徒たちにとってかなり重要となる。
だが、ISの熟練者、例えば僕や束だったり千冬だったり真耶だったり、それと各国の代表となる人たちにとってはそこまで大切なものではない。
長い期間ISに触れ続けることで、脳波と体の動きとの間にある若干のラグに慣れてしまうためだ。事実、不測の事態に陥ってそのままISを展開……なんてことは、世界規模で見ればよくあることなのだ。いちいちISスーツに着替える暇などないし、そうしている間に巻き込まれて事故死、なんてことになりかねない。
結局何が言いたいのかというと、僕はISスーツを着ない。ただそれだけ。
というかISスーツを造り出した民間の技術者たちに問いたい。なんでISスーツってあんなに体のラインが浮き出る仕様なの?なんであんな水着みたいなデザインなの?というか腕や足が露出してるのに電気信号も何もなくない?え?開発者の趣味?うわー……
「星野先生、御機嫌よう。先週はお世話になりました。」
「え。大したことしてないんだけど……」
「ですが、あれからISのパフォーマンスが向上致しましたの。胸の中の蟠りもとけて今までになく気分が良いのです。先生には感謝していますわ。有難う御座いました。」
「僕よりも千冬に言った方がいいんじゃ…」
「もう既に伝えました。」
「あ、そう。」
「では時間も時間ですので、私めとの試合にお付き合い下さい。」
「わかった。手加減はしないよ。」
『それでは両者、試合を開始してください。』
千冬のアナウンスが入り、同時にブザーが鳴る。
そして流石国家代表候補生というべきか、装備の展開時間が短い。
「初撃、頂きますわ!」
彼女の持つ特殊レーザーライフル、スターライトMk.Ⅲから青い光が放たれるが、僕は盾を斜めに展開して受け流す。
展開したのはラウンドシールドの一種であるバックラーで、大きさは人間の頭を覆い隠せる程度のもの。歴史上ヨーロッパの方で実際に使われていたようだ。デザインは至ってシンプルで、中央に銃弾を弾きやすくするための膨らみがあり、色は僕の名前にちなんで空色となっている。
「やはりそう簡単に事は運びませんね。」
「むしろ簡単に落とされたら堪ったものじゃないよ。それじゃ、反撃行くよ?」
バックラーをさらに二つ、レーザーを撃ち出すビットを三つ展開する。
「あら?まさか星野先生は…」
「君と同じ遠距離特化型だよ。生憎と運動神経は悪いから仕方ないんだけど…ほら、避けてごらん!」
セシリアちゃんに向けて撃ったレーザーが直進していく。ISには人間の五感を引き上げる機能が付いていて光速で移動する攻撃にも対処可能だし、彼女の練度も高い方だから難なく回避できる。
「よっと……先生、手加減していませんか?」
「してないよ。」
「本当ですか?私には…きゃあ!!」
セシリアちゃんの後ろから空色の光が襲いかかった。
ISの武器はおおかた僕が作ったものだから熟知している。もちろんこのレーザーについてもだ。
直進するレーザーを意のままに曲げることが可能で偏光制御射撃、またはフレキシブルと呼ばれる。
本来は、より少ないエネルギーで星の表面の掘削や障害物の破壊できるようにという目的で作った技術だが、人間に対して使用する場合、それは大きな脅威となりうる。ISが兵器として使われると束から聞いて慌てて使用条件を厳しくした記憶もはっきりと残っている。
それに、千冬から資料として事前に与えられたセシリアちゃんの情報には、ISの稼働率が低いと記されてあった。体が機体にまだ振り回されているのか、あるいは機体のことを知り尽くせていないのか。つまりはISを乗りこなせていない。
この間の出来事から推測すれば、その原因はやはり女尊男卑の思想のせいか。自身の中で矛盾が生じれば他のパフォーマンス、例えば運動能力だったり集中力だったり、そういったものにまで影響が及ぶのだからそう考えるのが普通だ。
そして、先週の件があった。本人も言っている通り、胸の中の蟠りが解消されたようだ。これで彼女の動きを妨げるものはなくなった。
ということは。
熟練者が扱えるこのフレキシブルをものにすることができるのではないか。
後は本人の技量次第だが、可能性は十分にあるし、もしかしたらこの試合の中で習得するかもしれない。
実力を見せつけろと言っていた千冬には悪いが、今回は制限時間一杯までセシリアちゃんに頑張ってもらうことにしよう。
「…ということでいいかな?」
「いやいやいや、何がどういうことかさっぱりなのですが!?」
「だよねー。勿論分かるわけないよねー。」
うん。あれは束と千冬が異常なだけだ。
***
………強い。
試合時間は残り少なく、エネルギー残量もあちらが圧倒的に多い。射撃回数はこちらが多いが、その悉くを先生のシールドが弾いてしまうため、命中することもない。やはりフレキシブルであるかないかの差、それと純粋に練度の差が原因だろう。
今までに体験したことがないほどの不利。
状勢を覆せる可能性など皆無。
だが、悔しさや惨めさなどは不思議なことに一切感じない。むしろ、何とも言い知れない高揚感に満たされていく。
この懐かしい感覚は何だろうか。
幼児がやっとの思いで積み木を積み上げた時のような、標高の高い険しい山の登頂に成功した時のような、自身の地位が自身の努力によって向上した時のような。
あぁ……これは、達成感か。
自身の成長に喜びを感じているのだ。
「ふふっ。」
自ずと笑みが零れる。先程先生が言っていたのはこのことについてか。
私の成長を期待している。ならば、それに応えるまで。
今の私にならできる。
「行きますわよ、ブルーティアーズ」
『承りました、お嬢様。』
空耳でない声を聞いた途端に頭の中がクリアになる。
ビームを撃ち出し、それは先生に向かって直進していく。そしてまたもやシールドが構えられた。今度もまた弾かれるだろう。
けれども。
「今ですわ!」
『畏まりました。』
「のわっ!」
レーザーは見事シールドを迂回し、先生に直撃した。
「やった……やりましたわ!」
全身を駆け巡る達成感。今のいままで忘れていたこの快感が、非常に嬉しい。
……が、フレキシブルを撃てたことに感動しすぎて先生の攻撃に対処できず落とされてしまった。
それでも、得られたものは大きかったため悪い気はしない。
『あぁ……私めがご主人様に攻撃を…これは許されない行為、後々ご主人様にお仕置きを頂かなければ…』
………あれ?もしかしてこのメイド、変態?
***
予想した通りセシリアちゃんは見事にフレキシブルを習得した。
別にすぐ落としても良かったのだが、今の自分は教師であり、生徒を導く立場にある。小学校からそういう職にいたため、生徒を一方的に打ち負かす教師はどうだろうかと思ってしまっていたのだ。
それに、将来有望な彼女には成長を期待したい。宇宙開発の一員として迎え入れたいという気持ちもあるが、大部分はそれだ。
レーザーを曲げる直前に彼女の口が動いていたが、オープンチャンネルではなかったためなんと言っていたかはわからない。
「ふぅ…」
そんなことは置いといて。
ようやく落ち着いた時間が取れそうだ。
この学園に教師として来てから一週間は経ったためそろそろここでの生活に慣れてきたし、新学期の頭に集中する仕事もあらかた片付いた。生徒たちの顔も大体の人となりも覚えた。
今度の日曜は寝よう。思う存分寝よう。千冬が来なければいける。………望み薄だけど。
「はぁ……」
気落ちしながら自室の扉を開けると。
「ふんふーん……ん?」
なんかうさ耳に兎のエプロン付けた束が台所に立ってる。
「………はぁ」
「なんで今ため息をついたのか話してもらおうか。」
たった今までしていた作業を放棄してこちらへと詰め寄ってくる。
「…ほら。」
「ん?」
コンロの上の鍋を指差す。なんか、今にも噴き出しそうなんだもん。
「あっ!こ、これはわざとじゃないんだよ?何も変なものなんて入れてないしちゃんと上手く出来てたんだよ?」
「うん、わかってる、わかってるよ。それより、早くアレをどうにかしようか。」
「へっ?…ああああぁぁぁぁ!!」
どうしてここにいるのか、とは訊かない。束のことだから、誰かに唆されてが半分、実際に心配して気を遣っているのが半分というところだろう。
それでも、束に想われているのだ。嬉しくない訳がない。
「あっつ!!ちょ、これどうすればいいの!?」
「僕が手伝うから一回下がってて。」
「わ、私だってできるんだから!」
「変なところで見栄を張らない。ほら、一緒にやろう。」
「むー………お母さんだけずるいですっ」
「うん、おいしくできた!!」
「それは良かった………で、今日はどういう風の吹き回しだい?」
「あ、やっぱりわかっちゃう?」
「うん。」
「えぇとね………」
『そういえばお姉ちゃん、生活できてる?』
「開口一番になんてことを……どういうことだよっ!」
『いやいや、その、前みたいに自炊も洗濯も壊滅的なのに独り暮らしはできるのかなーって思ってさ。』
「ふっふーん。シャルにそんな心配されなくても大丈夫だよーん。もう一人暮らしじゃないからね。」
『ふーん………でも、料理とかできないままでしょ。』
「うっ。」
『ほら図星。今度ボクが教えてあげようか?』
「うぅ……お、お願いします。」
「って電話があってね?」
「練習の成果を僕に見せてきたと。」
「うん。」
「大丈夫、美味しかったよ。」
「でも、それは空が手伝ってくれたからであって、私じゃ…」
「その気持ちだけで十分だよ。ありがとう。」
「空……」
「なぁ箒、もうしばらくそっちの部屋にいていいか?」
「えっ、どどどどうしたのだ突然!?」
「ほら、覗いてみろ。」
「ん?………なるほどな。」
「千冬姉…頑張れ。」
「姉さん、頑張っているな。」