もうできました。
文章を書き進めていくたびに自分の語彙の無さが身に染みて理解できます。
束さんメインです。というかそれがこの小説です。
感想でも言われましたが、ヒロインたちのハッピーエンドを目指しすぎて迷走していたみたいです。これからは修正していきます。
入学式があった日から一週間後にクラス代表を決める試合が行われる。ということは、間に必ず日曜日が存在する。空がこのIS学園教師として来る前は、眠れるだけ眠って起きることを繰り返していたが、学園に来てからは千冬によって起こされることが増えた。このとき一夏は既に部屋を出ている。
「そーっと……」
周りに誰もいないことを確認し、目の前の扉を開けて中に入る。
この先で眠っているだろう人物を起こさないよう、忍び足で移動する。勿論、開けた扉の鍵は忘れずに閉める。
「すー……すー……」
目標はまだ規則的な寝息をたてている。とりあえず、侵入成功。
次は、目標のいる布団の中に入る工程だが、難なく成功。
「ふふふ……」
可愛い寝顔だなぁ…と嘗め回すように空の顔を見つめる束。
と、ここで彼女は閃く。
寝起きが悪い空ならば、何をしても起きないのでは?
「ふっふっふ…では早速……はむっ」
空の首筋へ甘噛みする。…………うん、起きない。
続けて歯形をくっきりと付けるためにやや強く噛む。
「んっ……」
じっくり数分間噛み続け、口を離すと、数日は消えないであろう痕が残った。そしてそれを満足げに指でなぞる。
しばしの間愉悦に浸ったあと、空を起こそうと試みる。まだ朝食を食べていないため、空腹なのだ。
しかし、体をゆすってみても、頬をペチペチ叩いてみても一向に起きる気配はない。どうしたものか……
「……あ。」
鼻と口を塞げば酸欠で起きるのではないか。となればやることは一つ。
「いただきま~す♪」
空の鼻を右手で軽く摘み、左手を空の頭の下に回す。
そして。
「んむっ……」
口で口に蓋をする。
これで二回目のキスだ。
前回のキスで箍が外れたようで、今回はたっぷり、じっくり、濃厚に口付けする。
「……ん…んん!?」
数分後、束もそろそろ辛くなってきたところでようやく空の目が覚める。
「ぷはっ…………はぁ、はぁ、はぁ…」
「た、束!?な、なんでここに……ていうか何してたの!?」
「いや、そのぉ……空がなかなか起きないから………ごちそうさまでした。美味しかったです。」
「なっ…!」
恥ずかしさというものを知らないはずの空が顔を赤くして束を見返す。初めて見る空の表情を一人だけ見られた束は嬉しい気持ちで一杯になる。
「これをするのは、空だけ……だからね?」
狙ってかどうかはわからないが、若干潤んだ瞳のまま可愛らしく首をかしげる。破壊力は絶大だ。
「え…その……あ、ありがとう。」
またしても赤面する空。どうやら恥ずかしさを覚えたようだ。
ーーーーくぅ~
「「…………。」」
「空、朝ごはん作って。」
「あ、うん。」
先程までの雰囲気が台無しである。束らしいと言えば束らしいが。
「はい、できたよ~。」
「おぉ~!!」
どこでもドアで手軽に行き来ができてしまうが、せっかく来てくれたのだといつもより少し豪華な和食を作った。
「うーん……やっぱりこの味は忘れられないよ……」
空の料理に舌鼓を打つ。束は空の作る出汁巻き卵と唐揚げが大好物なのだ。そのためか、フードファイター顔負けの早さで食べている。
「束、その、美味しそうに食べてくれるのは嬉しいんだけど……もう少しゆっくり食べたら?」
「大丈夫大丈夫。空の料理ならいくらでもっ……んー!…んー!!」
「言わんこっちゃない。口開けて。」
予想通り喉に詰まらせた束に呆れつつも、その口に水を注ぎ込む。やめてほしい、とは言っているが、実は空もこのやりとりを楽しんでいる。
「んっ……んくっ………ふぁー…助かった…」
「ほら、口の周りにも色々付いてるし……」
「わぷ…」
「これでよし。もっと落ち着いて食べよう?」
「だってこれ美味しいんだもん……ほら、空も食べてみなよ。あーん。」
「あーん。…うん、いつも通りの味。」
「そうなんだけど!」
自分の言いたいことが伝わらなかったため空をジト目で見つめるが、その空はどこ吹く風である。そして、卵の最後の一切れを取る。
「……………」
さっきと違い、束が割りと本気で睨んできている。何故だ。
試しに箸を左右に動かしてみると、束の目線もそれにつられて左右に移動する。やっぱりか。
「これあげるよ。」
「いいの?」
「食べたいんでしょ?ならあげるよ。」
「ありがとう!あーん…美味しい……幸せだよぉ。」
結局、多めに作ったはずの料理は束によって完食された。
食事の後は配布プリントの作成に取り組む。ISに関わる部分を集中的に盛り込み、他は薄く広く満遍なく組み込むのだ。作成はもちろん、PCに打ち込んだデータから直接印刷する形となっている。
空が自分用のPCに向かっている傍ら、束は自前のPCを取り出してまた別の作業を始めた。
空からは何をしているか見えないがーーー
「空~この小さい部品なんだけど」
「それは腕に付けると自動的に射撃時のブレを補正してくれるよ。」
「なるほどなるほど。じゃあ、この細長いのは?」
「それは部品じゃなくて武器だよ。手甲部分に取り付けて剣みたいにしようと思ったんだけど扱いづらくてね。」
「へー…なら改良しとくよ。私にまっかせなさい!」
「おー、それは助かる。」
お互いに言いたいことは、長年の付き合い、しかもほぼ一日ずっと一緒だったことからわかるようになっていた。文字通りの以心伝心だ。
まあ、この領域にいるのはこの二人と千冬のみだろうが。
学園の食堂が生徒でいっぱいとなっているだろう時刻。空と束は示し合わせたかのように同時に作業を止めた。
「空~」
「わかってるよ。パスタでしょ?」
「そうそう。」
「じゃあ束は」
「やっとくから大丈夫だよ。」
「あら、珍しい。」
「むぅ…私だってやるときはやるよ。」
「いつもやってくれればなぁ……」
これもまたはっきりと言葉を交わさずに意思疎通をする。
そのまま空はパスタを作りに台所へと歩き、束は洗濯物と布団を干すためにベランダに出る。
束はぎこちなく服をハンガーに掛けていくが、特に問題なく終了。
「すんすん……ふわぁ~♪」
空が昼食を作り終えるまでの間、布団に残った空の匂いを遠慮なく嗅ぐ。空と別に生活している分、これは束にとって至福のひとときとなっている。
「あっ、そうだ。匂いを保存しないと……」
「束~、できたよ~。」
「へっ…い、今行く~!……早くない?」
残念。匂いの収集はまたの機会に。
昼食後、二人はしばらく作業を続けていたが、日頃の徹夜が祟って束に睡魔が襲いかかってきた。
目蓋が重くなり、虚ろな眼差しで目に悪そうな(実際は害が少ない)画面を見続ける。舟を漕ぎ始めるとともに小さかった頭の揺れは段々と大きくなり、終いには机へと盛大にぶつけてしまう。
「ふぎゃっ」
これで三回目だ。
「束……」
「だ、だいりょーぶ、だいりょーぶれすよぉ……」
「呂律が回ってないし…だから寝ろと……」
「そあもいっしょにねうー」
「え。まだ終わってな」
「やだー」
「………幼児退行してないか、これ?」
始めは固くなに作業を続けていた空だったが、しつこく何度も袖を引っ張ってくる束に負け、ベッドへと引き摺られていく。
いくら細胞単位でスペックがチートだからって寝落ち寸前の状態でこんなに力って出るものなのか?それとも演技……?いや、でも———
「……今年で24歳じゃなかったっけ?」
途端に空の体が宙を舞い、ベッドの上に投げ出される。
何が起きたのか分からず束の方を見ると、眠そうな表情とは対照的な、人を射殺せそうな程に鋭い眼光が向けられていた。
長年の付き合いや勘から、束の言わんとしていることが理解できてしまう。
———年の話は……ダ・メ・だ・よ?
空が最後に見たものは、背後に阿修羅を幻視してしまうほどの雰囲気を纏った笑顔の束だった。
ふと目が覚める。珍しく寝惚けずに起きた空が時計を確認すると、既に18時を過ぎていた。
やばい、寝すぎた!……けどいっか。と、隣で穏やかな寝息を立てている束を見て、空は作業の完遂を諦めた。
あの潜水艦には束とクロエちゃんの二人しかいない訳だし、人肌恋しくなるのもわかる、というか寧ろ分かりすぎている。束の幸せそうな寝顔を堪能しながら頭を撫でていると、部屋の中にドアが突如現れた。
どこでもドア…ってことは。
「束様……あ、お父様。こんばんは。」
「こんばんは、クロエちゃん。束を迎えに来たの?」
「ええ、そうです。昼過ぎには戻ってくると仰っていたのですが…」
「ああ、見ての通りぐっすりだよ。……そうだ、クロエちゃん、束を見ててもらってもいいかな?」
「はい、構いませんが…」
「夕食を作るよ。こうして三人揃って食卓を囲むのも久しくやってないしね。クロエちゃんも寂しかったでしょ。」
「い、いえ、そ、そんなことは…」
「いいんだよ、我慢しなくても。僕らは君を暖かく迎え入れたんから、最早家族も同然なんだよ。それに、子供は親に甘えるものなんだよ。」
「う…うぅ……お父さん!」
今まで、試験管の中にいたときから相当辛い思いをしていたのだろう。溜まりに溜まった感情が、涙という形で堰を切って零れ出た。空の腹に顔を押し付けながら、言葉が次々に紡がれていく。
しばらくして泣き止んだクロエの顔には眩しい笑顔が浮かんでいた。
「お父さん、ありがとうございます。それと、服が……」
「どういたしまして。あ、服は着替えてくるから大丈夫だよ。」
洗面所に向かう空を名残惜しそうに目で追いかけると、後ろから何かに抱きつかれる、包み込まれる感触がした。
「ようやく、素直になってくれたね。」
「ひゃっ……た、束様、い、いいいつから…」
「最初からだよ。空が隣からいなくなれば気付くし。それよりも!くーちゃん、素直になってくれてありがとう。」
「い、いえ…そんな…」
「今までね、どうくーちゃんと接すればいいのか分からなかったんだ。くーちゃんの暗い顔を見ると、私のせいかなって考えちゃうこともあったし、私も悲しくなるんだ。くーちゃんは楽しくないのかな…って。」
「そんなことはないです!」
「ふふっ、嬉しいことを言ってくれるね。私も空に似たようなことを言ったっけ。」
「私は、お二人に救っていただいて、我が子のように愛されて嬉しかったです。楽しかったです。今までないほどに幸せです!」
「珍しい、くーちゃんが感情的になるなんて……」
「それだけ本気だということです!」
「そう……空と同じことを言うけど、ありがとう。こんな私を慕ってくれて。」
「はい!」
「…………ところでさ。」
「…?なんでしょうか?」
「空のことは『お父さん』って呼んでるのになんで私はまだ『束様』なのさ!私も『お母さん』って呼ばれたい!!」
「え、その、ちょっと………です」
「えぇ?なんだって?」
「は、恥ずかしい……です。」
「ふ、ふふふ、ふふふふふ。なら、お母さんって呼ぶまでこうだぁ!」
「えっ、な、何をして、ひゃははははっ!!」
「ほらほら、早く言うんだ!お母さんって呼ぶんだよ!!」
「あはははははっ、た、たば」
「くっ、まだ言うか。ならもっと!」
「ははははははっ、く、くるしいですぅ!」
「………二人とも何やってるの。」
「「あ。」」
この後、三人で一緒に夕食を作り、三人で仲良く食事を済ませ、束とクロエは潜水艦へと帰っていった。
「やっぱりこの日常が楽しいなぁ」
「毎週日曜は空のところに行こう。どう?」
「大賛成です、お母さん。」
「はい、じゃあテキストの36ページを開いて。今回はこの法則を説明するよ。これは……」
「ねぇ。」
「うん。」
「星野先生の首にさ。」
「歯形…ついてるよね。」
「だよね。」
「先生自身も気付いてないみたいだよ?」
「え、じゃあだれのかな?」
「知らない間につけられた……ってことは寝ている間に?」
「えっ。でも、昨日は先生、部屋を出てないって…」
「あの部屋に入れる人っていったら織斑先生とか?」
「それはあり得ないよ。昨日ずっと職員室で仕事してたみたいだし。」
「でももう心当たりが……」
「………いや、もう一人いるじゃない。ほら、この前人参に乗って来た…」
「あー!篠ノ之博士か!なるほど、確かにあの人ならできそうだね。」
「でしょでしょ?」
「えーと、そこの二人、どうかした?」
「い、いえっ!」
「な、なんでもないです!」
「ふむ、あいつに先を越されたか。ならば私も……」
女子の(そっち方面の)推理力って怖い。