笑顔仮面のサディストがダンジョンに潜るのは間違ってるっすか?   作:ジェイソン@何某

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お待たせしました、第2章はこれにて終了です。
サイブタイが思いつかなかった…てか、今まで基本的にサブタイは『〇〇と△△』っていう感じにしてましたけど…ぶっちゃけコレ、そんな拘ってないんだよなぁ←




第22話『新たなる仲間…!』

……

………

…………

 

 

「――ってなわけなんで、この子の登録をお願いしたいんっすけど」

「……説明の大部分を省略しないでほしいなぁ……」

 

 

 ――場所は変わって、『ギルド』本部

 

 

 昨日の騒動の事後処理に追われていつも以上にバタバタしている職員たちの様子を尻目に、個室にて向かい合う形で座っているハーフエルフの女性職員、自身とベルの担当アドバイザーでもあるエイナに対しルプスレギナは相変わらずの笑顔で話す。

 

 ペンと最低限の書類を手に困ったように頬をかくエイナは、ちらりとルプスレギナとヘスティアの後ろで大人しく待機しているハムスケを見て、ほんの少しだけ頬を赤くしてから慌ててかぶりを振り、小さく咳払い。

 

「なんでっすかー! 私とエイちゃんなら、ツーとカーで大体のことは」

「分かりませんっ! もうっ、ちゃんと順を追って説明してね」

「ちぇー」

 

 なおもゴリ押そうとするルプスレギナにピシャリと言い放ち、唇を尖らす彼女に改めて説明を乞う。

 その間静観に徹していたヘスティアも交えて3人でおおよその経緯を告げると、エイナは先ほど以上の頭痛を覚え、思わず額に手を置いてしまった。

 

「うぅ……【ガネーシャ・ファミリア】から逃げたモンスターが1体足りないって報告を受けて、数時間前に捜索隊が出発したばかりなのに……いや、もうルプスレギナさんが()()()を連れてここに来た時点で、なんとなくそんな気はしてたけど……いや、落ち着いて、落ち着くのよエイナ。これは良いことよ、うん。被害は全くなかったみたいだし、そうそう……ポジティブに、ポジティブに考えなきゃね……」

 

 ぶつぶつと零れ出る呟きを耳に苦笑するヘスティアとルプスレギナには気付かぬまま、少しの時間を掛けて気を取り直したエイナは、無駄に爽やかな笑顔と共に顔を上げた。

 

「うん、大丈夫大丈夫、理解しました」

「…いや、ホント大丈夫っすか? なんか、頭から煙出てんすけど…」

「ダイジョーブダイジョーブ」

 

 

 ダメそうなので小休止。

 

 

「……はぁ……ごめん、やっと現実に戻ってこれたよ」

「いや、こっちこそ、昨日のうちに報告すべきだったっすね…」

「ううん、気にしないで。事情が事情なんだし、そうなったのも『ギルド』(私たち)の責任なんだもの」

「うーん、このままだと謝罪合戦が始まりそうな予感。ルプー君、ここはお言葉に甘えて、話を進めさせてもらおうよ」

「んー、ヘスちゃんがそういうなら……じゃあ、話を進めてもらっていいっすか?」

 

「うん……と言っても、ねぇ……」

 

 どう見てもジャンガリアン・ハムスターな見た目のモンスター――『ハムスケ』と名付けたそうな――をちらりと見て、エイナは再び困ったようにペンで額を搔く。

 

「純粋にその子を見つけたから引き渡す…とかならまだしも、まさか調教(テイム)しちゃうなんて…」

「なっはっは、なーんか出来ちゃったっす」

 

 事前にガネーシャに聞かされていた情報では、あのハムスター……じゃない、ハムスケは、少なくともレベル3の冒険者相当の強さだとか。しかも、ダンジョンで生み出された其れを、まさか調教などしたこともないような……ない、よね……? ……兎に角、ルプスレギナが手懐けるだなど、誰が想像でき……あれ、なんだか簡単に想像できる。

 

 ごちゃごちゃと雑念の割り込んでくる思考を、かぶりを振ってなんとかクリアにする。

 

 

「……それで、“コレ”かぁ…」

 

 さらに頭の痛いことに、ルプスレギナはエイナにとある封筒を差し出してきた。その内容は、神ガネーシャによるルプスレギナの調教師としての腕前を認める推薦状。

 

 だが、いくらガネーシャの推薦があったとしても、なら大丈夫ですねとすんなり調教師の資格を与えるわけにはいかない。そこに至るまでの経緯も、調教に成功してしまったモンスターも、なにもかもが前例のない事態なのだ。

 

 この推薦状を含めた諸々の書類は一旦預かり、上司も交えて慎重に協議すべきだろうと判断したその時、1人の獣人がノックの後に入室し、彼女たちのもとへとやって来る。

 

「チュール」

「あっ……班長? どうしたんですか?」

 

 3人の視線はその獣人……眼鏡を掛けた犬人(シアンスロープ)の男性に移る。服装とエイナの発言からギルドの職員だと容易に理解できるその男性は、チラチラとハムスケのことを気にしつつもなんとも申し訳なさそうにエイナに視線を戻して。

 

「ギルド長が、至急執務室に来るようにと仰せだ」

「えっ……」

 

 “ギルド長”という発言に驚き固まるエイナであったが、このタイミングでの呼び出しの原因など考えるまでもあるまい。ルプスレギナとヘスティアもすぐにハムスケ関連だろうと悟ると気まずげにエイナを見つめる。

 

「……ん、大丈夫ですよ、ヘスティア様、ルプスレギナさん。では、少し席を外しますね…」

 

 そんな1人と1柱の視線に気付き、眉尻を下げながらも笑うエイナ。彼女たちと違って“ギルド長”がどんな人物なのかを知っているエイナとしては今すぐにでも深い溜息を零したいところなのだが、そこは我慢である。

 

 ヘスティア達に頭を下げ、ギルド長のいる執務室へと向かうエイナと仕事に戻った上司を見送り、ルプスレギナとヘスティアは顔を合わせる。

 

 

「……大丈夫っすかね……」

「うーん…こんなこと言いたかないけど…最悪の場合は想定すべきかも…」

 

 その言葉を耳に、不安げにヘスティアを見上げるハムスケ。僅かに潤んだ瞳で見つめられ、ヘスティアはうっ……と呻いた。

 

 

 

……

 

 

 

「……あ」

「ん? どうしたんだい?」

「いや、ちょっと……」

「……?」

 

 エイナがギルド長に呼び出しを食らっている間、ルプスレギナとヘスティアは迂闊にギルド内を動き回るわけにもいかず暫しは待ちの時間を過ごす。そんな最中のこと、ルプスレギナは何か興味深い物でも見つけたのか徐に立ち上がると、壁際にある本棚のもとへと向かった。

 その様子をヘスティアは小首を傾げながらも見据え、やがてルプスレギナは2冊の図鑑のような大き目の本を抱えて戻ってくる。

 

 

「……『動物図鑑』に……『モンスター生体図』? 勉強でもするのかい?」

「んやぁ、ちょっと気になってたんすけども…」

 

 ルプスレギナが持ってきたのは一般にも売られている動物図鑑と、各【ファミリア】協力のもとギルドが纏めているモンスター図鑑。どうやらどちらも動物やモンスターの種類や生態、イラストも描かれているようで、ルプスレギナがふと思い浮かんだ疑問を晴らすのにはおあつらえ向きだった。

 

 

「えーと……あぁ、あった。ほい、ヘスちゃん。見てくれ……こいつをどう思う? ……っす」

「誰だよそれ……ん、えぇと……オオカミだね」

「うんうん……じゃあ、これは?」

「うげっ、コボルトか……やっぱりおっかない見た目だねぇ……」

 

 最初に『動物図鑑』で見せたのは、灰色の毛並みで描かれた狼の絵。それに対する反応を見た後、ルプスレギナは『モンスター生体図』で此方を威嚇するように牙を剥き出しているコボルトの絵を見せ、反応を窺う。

 大体予想通りの反応だったか、うんうんと頷いたルプスレギナは再び『動物図鑑』を開いて

 

 

「……お、これがいいっすね。 はいヘスちゃん、これは?」

「っ!! これは……ベル君!!」

「ウサギっす」

 

 カラーで描かれた其れは雪のような白い毛並みと赤い円らな瞳の愛玩動物のウサギの絵。オオカミの時よりも食いつきが良いのは予想通りだが、ちょっと鼻息が荒い。

 

「ウサギ、可愛いっすね」

「うん、可愛いね。……おっと、でもボクはベル君一筋で…」

「はいはい。……んじゃこっちは?」

「ざ、雑すぎる……えぇ、と……うわっ!?」

 

 関係のない話は適当に流し、ルプスレギナは『モンスター生体図』に描かれている一体のモンスターを指さす。すると、それを見たヘスティアはコボルトの時以上に驚いた声を上げた。

 

「……そんなビックリしちゃうっすか?」

「い、いやそりゃあ驚くって……コボルトはまだ低層のモンスターだけど……『アルミラージ』は……」

 

 ヘスティアの驚きように逆に驚かされたルプスレギナ。彼女が持つ『モンスター生体図』の開いたページには、長い耳に雪のような白の毛並み丸くふさふさの尻尾……そして()()()()()()()()ウサギのモンスター、『アルミラージ』の絵が描かれていた。

 

 四足歩行のウサギと違って二足で立ち、前足……じゃなくて両手にそれぞれ斧を持つその姿は確かに怖いっちゃ怖いが…

 

「でも、なんかこう……ベルっち的な感じは……?」

「………いや、ないない、怖い怖い」

 

 ルプスレギナの言葉にイラストのアルミラージをこれでもかと見つめていたヘスティアだったが、ふるふるとかぶりを振って否定する。

 

 なんでだよ、なんてツッコみたくなるけど……まぁ、メインは次だ。

 ゆっくりと『動物図鑑』のページをめくり、やがて開くはネズミの項。探すのはもちろん…

 

「お、みっけ」

「ジャンガリアンハムスターだね、うんうん、可愛い可愛い」

 

 メインがネズミの説明であって愛玩動物のハムスターに関する説明は短いが、それでもちゃんとイラストがあって良かった。「可愛い」と頷くヘスティアにルプスレギナは「本当っすか?」なんてハムスターのイラストを目の前まで近づけて

 

「じゃあ……()()()は!?」

 

 ヘスティアの視界を覆っていたハムスターのイラストを突然どかし、指さしたのは…床で丸まっているハムスケ。

 

「えっ…普通に可愛いけど」

「……」

 

 解せぬ

 

「解せぬ」

「えっ」

「あっ」

 

 思わず声に出てしまうほどに、彼女は解せなかった。

 

 

……

 

 

 神を含めたこの世界の住人の価値観を多少理解し本棚に図鑑を戻したところで、漸くルプスレギナ達のもとにエイナが戻ってくる。

 

「あっ、エイちゃん」

「やぁアドバイザー君……なんか腑に落ちないって顔だけど、なんかあったのかい?」

 

「……あー……その……色々とありまして……」

 

「「……?」」

 

 その表情からやはり何事かあったのだろうと察したヘスティアの言葉に、エイナはどう説明したものか、と視線を逸らし頬を掻く。

 

「……まぁ、口で説明するよりも、直接見てもらった方が早いと思います」

 

 ギルド長の執務室での出来事の前半はギルド長のエイナに対する嫌味でしかなかったので当然割愛。本題に関しても口頭での説明では分かりにくかろうと、エイナはギルド長より渡されていた書類の束をテーブルへと置いた。

 

「うへ、文字の羅列っす……」

 

 この世界で最もポピュラーな共通語(コイネー)に関しては、暇を見て行っている勉強のお陰である程度読む分には困らなくなったルプスレギナであるが、こうも書類にびっしりと書かれたのでは読み解くのも一苦労だ。

 ゆっくり文字を読み進めるルプスレギナに対し隣で黙々と書類を眺めていたヘスティアは、ある程度読み進んだところでガタリと席を立つ

 

「な、なんだって!?」

「うおぅっ!? なんっすか!? どしたんっすか!?」

「いや、ルプーく……これ……い、いいから読んでごらんって!」

「ん、え~と……ぉ……」

 

 

 驚愕するヘスティアにびくりと肩を跳ね上げたルプスレギナであったがその驚愕の理由は語られることはなく、続きを読むように促されては一度目頭を抑え、再び書類へと視線を落とす。

 

 ルプスレギナの目が驚愕に見開かれたのは、その数十秒後の事

 

「『上記の者…の規定に基づき、下記の……』……! ……エイちゃん、これ…」

「う、うん……」

「……」

 

 小難しい文章の羅列にうんざりしつつもなんとか読み進めていき、分かったこと。

 

 それは、ルプスレギナに対する調教師(テイマー)の資格や、ハムスケを調教済みのモンスターとして登録することなどの許可であった。

 ご丁寧にも調教師になりたての人物向けのガイダンスのような書類まで付いており、今後エイナがルプスレギナの為に作成する必要があったであろう書類の半数近くが纏められていた。

 

 困惑するエイナとルプスレギナの横で、ヘスティアは顎に手を置き考える。

 

「(ウラノス……ボクたちがここに来ることを知っていたのか? いや、此処に()()()()()()()来たのか、それ自体を知っていたみたいだ)」

 

 しっかりと書類と調教師の証明書を最後まで読んでいたヘスティアは、その中にこの『ギルド』の真の主である神・ウラノスの名前も見つけていた。

 しかも……

 

「(しかも……アドバイザー君の()()()()()()を見るに…ボク()にしか見えないように細工まで施されている、か……?)」

 

 滅多に動くことのないウラノスの名前を見つけていたとすれば、エイナの狼狽は今の状態の比ではなかっただろう。『ウラノス』の文字に微かに感じる“神威”が、よりヘスティアの憶測が当たっていることを告げている。

 

 わざわざ神以外に見えぬようにと細工を施された『ウラノス』の名前……無論、『ギルド』が認可している全ての調教師の証明書にも同じような細工が施されている可能性だってないわけじゃない。だが、その確率は限りなく低いだろう。

 

 と、なると

 

「(『資格をやるから、ハムスケについて余計な詮索はするな』ってこと? ……ボクよりもルプー君に念を押すべきなんじゃないのか、コレ……)」

 

  もとより異端児(ゼノス)の存在を知らぬヘスティアには、どれだけ考えたところでウラノスの真意に気付くことはないのだろう。しかし、それでもウラノスは万が一、億が一、兆が一を考え念を押したのである。

 

 

 

 

 ……そう遠くない未来、結局ヘスティアには全てが知られることになるのだが。

 

 因みにヘスティアはルプスレギナが余計な詮索をしないかと不安を抱くが、その心配は無用だろう。『ハムスケが何なのか』に関しては、ある意味ウラノス以上に詳しいのだから。

 

 

「……うん、私もなにがなんだかよくは分からないけど……取り敢えず、問題ないみたい」

「おっ、それじゃあ……」

「うん、これからその子の登録をして、飼育場所になる『ギルド』経営のモンスター牧場の案内をして、発信器(プレート)の用意もするからまた少し時間が掛かるけど……大丈夫ですか?」

 

 指折りながらもこの後にすべき内容を簡潔に説明する。最後の最後に敬語が混じったのは、ルプスレギナだけでなくヘスティアにも向けた確認だからなのだろう。話に出てきた発信器とはその名の通りで、調教済みのモンスターに装着義務のある魔道具(マジックアイテム)なのだそうだ。その発信器のおかげでモンスターの現在位置が別の機械で分かるようになっていて、また破壊などをされた時の対策なども練られている。

 

 まぁ、当然モンスターは各々で体格などが異なるのだから、そのモンスターに合わせた規格の発信器を用意する必要がある。ヘスティアとルプスレギナは互いに視線を向け、ヘスティアは暫し考え込んで口を開く。

 

「……この先ボクは必要そうかい?」

「えぇと……そう、ですね……後は調教師となる方……ルプスレギナさん1人でも問題はありません」

「そっか……なら、申し訳ないけどボクは一足お先に本拠(ホーム)に戻ることにするよ」

「了解っす……なんか、用事でもあるんっすか?」

「あー……いや、今朝言ったように()()()何もないんだけど……明日から、忙しくなりそうでね……」

「……ヘスちゃーん? なんか、遠い目っす」

 

 今日は休みだと言っていたのに、と小首を傾げれば、視線を逸らし乾いた笑みを零すヘスティア。まさか明日からヘファイストスのところでもバイトしないといけない、なんて言えるはずもなく、追及される前にとヘスティアはそそくさとその場を去っていくのであった。

 

 ……彼女が背負う“2億”の文字に、未だルプスレギナは気付かない。

 

 

「……行っちゃったっす……」

「……ま、まぁ、神ヘスティアにも色々あるんだよ、うん。さ、こっちもこっちで、その子の登録とかをしちゃいましょ」

「ん、そっすね。行くっすよ、ハムスケ」

 

 席を立ち、2人+1匹もまた個室へと向かう。

 今までになかったモンスターということで、職員達が姿を写生したり、爪を削ったり頑丈な毛をサンプルとして数本抜いたりなどと登録までには聊か時間が掛かってしまったのは余談である。

 

 

……

………

…………

 

 

「…ふぅ…お疲れさまでした。これで一通りの手続きは終了かな」

「ういうい、お疲れ様っすよ。存外時間掛かっちゃったっすね」

「ううん、そんなことないよ。あの子、本当にルプスレギナさんに懐いてるんだね、ずっと大人しく言うこと聞いてたし……さ す が に! ……喋れるってわかった時は心臓止まるかと思ったけど……」

「な、なはははー………」

 

 『ギルド』内ですべき登録手続きはひとまず終わりだと、エイナは深く息を吐いて肩の力を抜く。

 基本的にはエイナ達の説明を聞いて頷くだけだったルプスレギナと違い、あれやこれやと書類を確認しながらも此方に説明したり同意を求めたりと動いたエイナは、流石に疲れたようだ。

 

 因みに、エイナがギルド長に呼び出しを食らっていた際に、ヘスティアとも相談したうえでこの『ギルド』の中では最も信頼できるエイナにはハムスケの秘密についてを教えている。知れば絶叫すること間違いなしなために、2人きりでよそに話を聞かれる心配のない個室で打ち明けたものの…いやはや、自分は今後、何回エイナのことを気絶させるのだろうかと不安になった。

 それでも、大いに取り乱しながらも最終的にはハムスケのことを受け入れ、当分の間は秘密にすることにも賛同してくれた彼女には感謝しなければ。…だから、お願いだからそのジト目は止めてほしい。罪悪感で冷や汗が止まらない。

 

 

「…はぁ~~…ルプスレギナさん、私は貴女に何回気絶させられるのかしら…」

「あっ、それ私も思ってたんすよ。あっはっは、やっぱし私たちはツーとカーの」

「……」

「すんませんっした」

 

 一生懸命明るく振舞おうとしたのだが、どうやら逆効果だったようだ。

 何度目かになる溜息をエイナが零したところで、2人のいる個室の扉がノックされる。

 

「エイナ~。ハムちゃんの移送準備、出来たってさ~」

「ん、ありがとミィシャ。あと、ノックしたならこっちの返事を待ってから開けてよね」

 

 此方の返事を待つことなく扉を開けて顔を覗かせたミィシャの言葉に返事をしつつもしっかり釘を刺すエイナ。ミィシャは「は~い」なんて気のない返事をし、ルプスレギナと目を合わせては笑いあった。

 

「もう、笑い事じゃないんだからね? ……それにしても、随分と時間掛かったけど……」

「……あ~……あはは、あの子が大人しいの分かったからね、『ギルド』(ウチ)の女性職員が群がっちゃって……」

「……あぁ、成程ね……」

 

 エイナとルプスレギナは、この個室で少し遅めの昼食を取っていた。エイナが気を利かせてサンドイッチを分けてくれたのである。ハムスケはというと、調教(テイム)したモンスターを飼育するモンスター用の牧場に移送するため、用意したケージの中に入ってもらうなどの準備をしている為ここにはいない。

 本来は調教師立会いの下で行う必要があり、最初はルプスレギナもついていったのだが、あまりにもハムスケが賢くて従順であることはあの短時間で知られており、昼を食べていないことを知っていたミィシャが気を遣ってくれたのだ。

 

 そんなミィシャであったが、どことなくホクホクした顔なのを見るに彼女自身もまたハムスケの可愛さを十分に堪能していたようだ。念のためにとまた猿轡をし、手…というか前足は特殊な繊維の袋を被せて爪を出せないようにしていたとはいえ、よくもまぁあの巨体のハムスターに抵抗なく近づけるものだ。

 

「あっはっは、つくづく解せないっす」

「……? どうしたの? ルプスさん?」

 

 コテンと首を傾げるミィシャの仕草を見て、ハムスケには悪いがこっちの方が100万倍可愛いと思ってしまったのは決して悪いことではないはずだ。

 因みにだが、ミィシャは既に『ルプス』と呼ばせることには成功している。友人関係を築いている同性の中で自分を愛称で呼ばないのは、これでエイナとリューだけだ。

 

 

「……さて、それじゃあ行こっか?」

「了解っす」

「行ってらっしゃ~い」

 

 これまでも事あるごとに『ルプスと呼んで』とは言っているものの、良くも悪くも仕事人間のエイナは『最低限の礼儀』だなんて言ってなかなか縮めて呼んでくれない。これは、プライベート時に攻めるのがベストか。

 まぁそんな考えはさておき、エイナに頷き立ち上がった2人はミィシャの見送りを受けながらも『ギルド』の出入り口へと向かう。

 

「……おろ?」

「本当はストレスになっちゃうからあまりやらない方が良いんだけど。あの子は良くも悪くも目立っちゃうから……」

 

 『ギルド』正面の階段を下りてすぐ横に待機しているケージは、最低限ののぞき穴など以外は黒い布ですっぽりと覆われていた。事後説明になってしまったことを申し訳なさそうに眉尻を下げるエイナになるほどと頷いて納得したルプスレギナは、早足にそのケージへと近づいて。

 

「ハムスケ~」

「フゴ! フゴ()~!」

 

 のぞき穴から中を見て、どことなく不安げに丸まっていたハムスケに声を掛ける。素早く顔を上げたハムスケであるが、猿轡のせいで何を言ってるのか分からない…というか、ハムスケは気を抜くとすぐに喋るものだから、下手をすると常時猿轡が必要になってしまうかもしれない。

 

「これからお前の住む場所に移動するっす。狭いとは思うけど、少しの我慢っすよ」

フゴゴゴ~(了解したでござるよ)

 

 あまりゴネたりせず、素直に言うことを聞いてくれるのは非常にありがたい。『後で撫でてあげるっす』と告げれば嬉しそうに目を輝かせるその姿は、やはり体の大きさなど関係なしに愛嬌を感じる。

 

 

「すごい…ホントに賢いんだね、この子」

「んなっはっは、私の自慢のペットっすよ」

「ペ、ペットって……コホン、それじゃあ……案内しますね」

「うい、よろしくっす」

 

 ケージの移動は、これから向かう『モンスター牧場』とやらの職員と思わしき作業着の男性が2人係で運んでくれるようだ。

 

 移動中にエイナから聞いたところによると、『モンスター牧場』は未だにオラリオ内で数の少ない調教師(テイマー)の数を増やすために、【ガネーシャ・ファミリア】と共同で経営しているらしく、基本的なハムスケの飼育は事情をよく知る【ガネーシャ・ファミリア】の団員をローテでしてくれるそうだ。すごいなガネーシャ様。ありがとうガネーシャ様。

 

 ……っていうか、まぁモンスターに関連する行事や施設に関して他の【ファミリア】よりもずっと頼りになるのは分かるのだが、『ギルド』と【ガネーシャ・ファミリア】はそんなんで癒着を疑われたりしないのだろうか……しないんだろうなぁ、ガネーシャ様だし。

 

 しかし、考えてみればなるほど確かに、現在このオラリオにおいて、【ファミリア】の本拠で調教したモンスターの飼育が許可されているのは【ガネーシャ・ファミリア】のみ。そうなると調教師志望の冒険者はほとんど全員が【ガネーシャ・ファミリア】に流れてしまうだろうし、他の【ファミリア】で冒険者をしている途中で調教師の才能に目覚めた者なんかは調教に成功したモンスターの飼育場所に困ってしまうだろう。

 だから、この『モンスター牧場』の存在は非常にありがたい。

 

 どうやら牧場の完成自体は比較的最近らしく、年々着実に登録される調教師やモンスターは増えているもののまだまだ数は少ないらしいので、ハムスケの存在は良い目玉になりそうだとのこと。

 目玉……そう、この『モンスター牧場』、なんと一般開放もしているそうだ。ゆくゆくは怪物祭(モンスター・フィリア)に並ぶオラリオの観光スポットの1つにしたいらしい。

 それに、牧場に多様な種のモンスターが揃えば、新米冒険者への講習なんかも出来そうだとはエイナ談。

 

 

……

 

 

「それで私、どうしても気になったんで聞いてみたんっすよ。『ちょっとすいませんが、あなたどうして、そんな赤い洗面器なんか頭に乗せて歩いているんっすか?』って」

「う、うん……」

「そしたらその男、なんて言ったと思うっすか?」

「……ゴクリ……な、なんて言ったの?」

 

 ハムスケに与えるストレスを最小限にするために、ケージを運ぶ動きはあまり早くはない。

 本来は10分ほどで着くところを20分近くかけて漸く中央広場(セントラルパーク)へと辿り着いた。そこから円形闘技場(アンフィテアトルム)等のある東地区を抜け、ほとんどオラリオの外に近い場所にある『モンスター牧場』へと向かうらしい。

 

 あまりに長いので、ルプスレギナは現実世界で小耳に挟んだことのある小話を実体験のような形でエイナに話していた。その口調から何か怖い話だと思ったのか、どこか緊張した面持ちのエイナ。エイナ達のすぐ前にいる、ケージを押している牧場の職員2人も興味があるのかちらちらと此方を見ていた。

 

 

「……男はこう答えたっす。『それはアンタの……』「おーい! ルプスー!!」 ……んあ?」

 

 間を作り、にやりと笑みを浮かべたルプスレギナの話の続きを遮るように、活発そうな少女の声が木霊する。間抜けな声を発したルプスレギナに、目を丸くしたエイナ達が視線を向けた先に居たのは、1人のアマゾネスの少女だ。

 

「あれ……ナーちゃグボッ!!?」

「ルプスー!! 良かったー!! 無事だったんだねー!!」

 

 瞳をキラキラと輝かせ手をブンブンと振りながらも駆け寄ってくるその少女の肌の色、顔、胸を見てその人物が【ロキ・ファミリア】のティオナ・ヒリュテであると分かったルプスレギナはやや驚きつつも右手を軽く上げようとしたのだが…彼女の駆け足は常人の其れよりも遥かに早く、そして重かった。

 以前よりも勢いと威力の増したティオナの抱擁(タックル)をモロに鳩尾に受け、おおよそ女性が出すべきでない声をあげたルプスレギナであったが、メイド服だけは汚すまいと倒れなかったのは流石の執念である。

 

「わーん! 勘違いだったら、勘違いだったらいいんだけど、昨日は本当にゴメンねー! アレ、ルプスだったんでしょー!?」

「ごふ、ゴフッ……あ、アレってのが私の想像通りなら、確かにアレは私っすけど。全然、全然気にしてないんで…だからナー……ナーちゃんッ! 骨、骨がミシミシって……!!」

「(すごい……あのルプスレギナさんが押されてる…)」

 

 愛ある抱擁に対しては、メイド服は硬化してくれない模様。素のステータスでも高めの物理防御力を誇るルプスレギナではあるが、それでもティオナの剛腕には勝てず、悲鳴を上げながらティオナを宥めるしかなかった。

 それを間近で見ているエイナは、突然の事態に頭が混乱しているのかなんとも呑気な感想を浮かべていたりする。

 

 

「おーい、ティオナ。何を急に走り出して……あら、ルプス!」

「……あ」

「……あっ! 本当だ、ルプスさ……きゃあぁぁっ!!? ティ、ティオナさんっ! 放してあげてください! ルプスさんがなんかパクパク言ってますっ!!?」

「えっ……うわわ、ごめんっ!」

「……し、死ぬかと思った……割と、マジで……」

 

 そうこうしている間に、さらにティオナが走って来た方角…ダンジョンの出入り口の方から3人の少女たちがやって来る。

 現れたのはティオネ・ヒリュテ、レフィーヤ・ウィリディス、そしてアイズ・ヴァレンシュタイン。

 いずれも【ロキ・ファミリア】所属であり、将来有望と名高いレフィーヤも含めて全員オラリオでは知らぬ者などいないほどの上級冒険者たちだ。

 

 レフィーヤのお陰でようやく解放されたルプスレギナは、危うく膝から崩れ落ちそうになるところをなんとか膝に手を置き腰を曲げて深呼吸することで持ちこたえる。

 

 

「無事でよかったわ、ルプス。……ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今いいかしら?」

 

 呼吸を整えるルプスレギナの無事を、1人の友人としてまずは安心する。その後、僅かに目を細めて冒険者としての表情を作ったティオネに、ルプスレギナはゆっくりと曲げていた背中を伸ばすとやや困ったようにエイナに目配せした。

 

「……いいよ、私たちは一足先に牧場に行ってる」

「え。で、でも……」

「いいからいいから。でも、何かあった時は飛んで来てね?」

「……分かったっす! 文字通り、飛んでくっすよ!」

 

 調教したモンスターの移送中に調教師が離れるだなんて流石に拙いだろうと思ったが、エイナは小さくほほ笑みそれを許可してくれた。

 それでも一度は逡巡するも、続けざまの言葉にその行為を素直に受け取ることにして、ルプスレギナは一旦その場に留まることにする。

 

 

 

 

「……まったく、ホント……私の知らないところでどんどん凄いことやってるんだから……」

 

 ケージを運ぶ従業員に声を掛け、再び歩き出したエイナは小さな溜息を零しながらも口元を綻ばせ呟いた。

 

 『豊饒の女主人』での出来事や怪物祭での一件から、ルプスレギナと【ロキ・ファミリア】の間……少なくともアイズ・ヴァレンシュタインとの間に友好的な関係が結ばれていることは予測できていたエイナであったが、ティオネたちとも友人関係だとは少し予想外だった。

 本人は解決したと言っていたとはいえ、一度は【凶狼(ヴァナルガンド)】と喧嘩したこともあるというのに、果たしてどうやって仲良くなったのやら。

 それでも、『ルプスレギナさんだから』と考えたら納得できてしまうのだから、本当に大した人だと尊敬すればいいのか呆れればいいのか悩むところである。

 

「ふふっ、後で色々と問い詰めなきゃ」

 

 どことなく軽くなった足取りで、エイナは楽しそうに呟いた。

 

 

 

 

「……で、話っていうのは……やっぱ怪物祭での出来事っすよね?」

「えぇ、話が早くて助かるわね」

 

 エイナを見送った後、それを黙って見ていたティオネたちに振り返る。

 彼女たちがどうにも自分を探していたらしい理由も、聞きたいことというのも何となくは予想がつくので、今のうちにどう答えたものかと考えていた。

 

「取り敢えずだけど……昨日の怪物祭での騒ぎは知ってるのよね? アイズとも会ったらしいし」

「ういうい、勿論知ってるっすよ。 ……モンスターが逃げた事とか、アイちゃんたちが変なモンスターと戦ってたことも」

「……ホント、話が早くて助かるわ」

 

 ルプスレギナが口にした変なモンスターというのが、彼女たちが戦った植物型のモンスターを指していることを理解したティオネは軽く息を吐き肩を竦める。(ティオナ)もこれぐらい察しが良ければ……なんて呟きはギリギリで飲み込んだ。

 

「単刀直入に聞くわね。 ……アナタ、空まで飛べるの?」

「「「……」」」

「……んー……」

 

 急いでいたとはいえ、やはり不用心すぎたかと少し反省する。しかし、あの時は仕方がない状況だったと思っているので後悔することもない。

 しかし、説明には困る。ただでさえティオネたちは《完全不可視化》の事を知っているのに、《飛行(フライ)》の魔法まで知られるといよいよ自身の特異性が際立ってしまう。

 

 ……とはいえ……

 

「……ここまで沈黙しちゃうと、もう肯定したも同然っすね。皆の想像通り、あそこに居たのは私デフォッ!!?」

「うわーんやっぱりー!! 魔石灯なんか投げちゃってごめんねー!」

「ティオナさーん!?」

 

 降参とばかりに肩を竦めてかぶりを振り、ティオネの問いかけを肯定するに等しい発言をしようとして、それは再び鳩尾に走った衝撃によって中断される。

 よりにもよって全く同じ場所への攻撃。ってうか、このタックルに関してはメイド服がしっかりと機能してるはずなのになぜこんなに痛いのだ。アレか、ギャグ補正ってやつか。マイナスの効果になってるが、だとしたら仕方ない。

 

「……だ、ダイジョブ……大丈夫っすよ、レフィーちゃん……」

「……あー……話を戻すけど、やっぱりアレは貴方だったのね。なら改めてお礼を言わせて頂戴。傷を癒してくれたばかりか、囮にまでなってくれて」

「あ、ありがとうございますっ! ルプスさんのお陰で、私……」

「っとと、こっぱずかしいんでいいっすよ、そんな。友達として当然のことをしたまでっすから」

 

 それに、彼女たちであれば自分の補助なしでもあれぐらいの危機は乗り越えることも出来ただろう。自分はほんの少しだけ背中を支えてあげただけだ。本当に助けたければ、それこそ攻撃魔法一発でなんとか出来ていたのだから。

 

「……え、ですが……」

「まぁまぁレフィーヤ。ここはルプスの言葉をありがたく聞いておくべきよ。友達として、ね」

「うんうん♪」

 

 あの状況下で傷を治してもらって最も助かったであろうレフィーヤとしては礼を言っても言い足りないぐらいなのだろう。しかし、肩に手を置くティオネの言葉によって、まだ少しだけ残念そうではあるが大人しく口を噤む。

 そんなティオネに乗じるように頷くティオナではあるものの、『お前は反省しろ』と言わんばかりの姉の視線に珍しくも項垂れた。

 

 

「……あの。それよりも……さっきのケージは…?」

 

 おずおずと手を上げたアイズに全員の視線が向き、アイズはエイナ達が向かっていった東地区の方を指さす。流石に黒い布ですっぽり覆われていても、中がモンスターを入れるケージである事には気付いたようだ。

 

「あぁ……んまぁその…撃墜された後色々あって。ちょっと、モンスターの調教(テイム)に成功しちゃったというかなんというか……」

「……ルプス。あんたはどれだけ私らを驚かせる気なのよ……」

 

 “撃墜”との単語にティオナがなんとも気まずげに肩を揺らすも、ルプスレギナには別に悪意はない。むしろティオナの魔石灯うんぬんが確実に吹き飛ぶような後半の説明に、全員が目を剥いて固まった。アイズでさえ、驚いたように僅かに瞠目している程だ。

 そんな中でいち早く復活したティオネは返って呆れたように溜息を零し、額に手を置く。ルプスレギナとしても狙ってやった事ではないものだから苦笑するしかない。

 

「……あっははー……流石にあたしも驚いちゃったけど……じゃあ、あまり引き留めるわけにもいかないね」

「そ、そうですね。さっきの『ギルド』の職員さんも、あまりお待たせするのは申し訳ないですし」

 

「……あ、でも……1つだけ、いいかな……?」

「ん? なんっすか?」

 

 聞きたいことは聞けたし、無事を確認することも出来た。それでもこうして会ったからにはお喋りに興じたいのが年頃の乙女というものだ。それはティオナであっても変わらないのだが、ルプスレギナに別件の用事があるならばそんな我が儘に突き合わせるわけにもいくまい。

 しかし、最後の最後で再びアイズが手を上げて、ルプスレギナは小首を傾げる。

 

「その……ダイダロス通りで聞いたの。あの子が《1人で》シルバーバックを倒したって……」

「……あぁー……」

 

 アイズの質問は、同様の話を聞いていたレフィーヤも興味を示す。とはいえ、レフィーヤはそのシルバーバックを倒したという少年というのが、まさかルプスレギナと同じ【ファミリア】所属で、酒場での一件に取り上げられていた少年の事だとは思っていないようだが。

 そしてアイズは、ルプスレギナの反応からその話が事実であることを確信し、その瞳に僅かな輝きが灯る。

 

「……そっか」

「……あれ、終わりっすか?」

 

 ゆっくりと瞼を閉じて自己完結した様子のアイズに、より深く追及されると思っていたのかどことなく肩透かしした様子のルプスレギナ。そんな彼女に、アイズは彼女らしい静かな微笑みを浮かべて。

 

「……うん。聞きたいことはあるけれど……それは別の機会に……あの子に、聞きたいから」

 

 欲を言えばルプスレギナ自身にも聞きたいことはある。しかしそれも今ではない。彼女の“強さ”をまだ、アイズは直接その目で見たわけではないから。

 

 

「……えっと、よく分かんないけど……もういいのかな? それじゃあルプス、また今度ね!」

「今度はまた、ゆっくりお茶でもしましょ?」

「あ、えっと……本当に、ありがとうございましたっ!」

「……またね」

 

「ういうい、また今度~」

 

 彼女たちのやり取りを傍で聞いていたティオナが切り出して、ティオナ一行は本拠のある北地区の方へと向かっていく。ルプスレギナはひとまずはその場に留まったまま彼女たちを見送って、その姿が人ごみの中に消えると小さく溜息を一つ。

 

「……ふぅ……深く追及しなかったのは気を利かせて、なんっすかね。ホント、私ってば色んな人の好意に甘えてばっかっすねぇ…」

 

 他の【ファミリア】の団員に魔法などの情報を聞いたりするのは確かにタブーではあるが、彼女たちは純粋に自分があまり話したくないのだと悟ったから《飛行》などの魔法について追及しなかったのだろう。

 本来の年齢を考えれば多分誰よりも年上だというのにこの体たらく……なんだか前にも似たようなことを考えた気もするが、本当に情けない。

 

 

「……あ~やめやめ! それより、早くエイちゃんに追いつかないと」

 

 かぶりを振って後ろ向きな考えを消し、東地区の方に視線を向ける。

 

 小走りに移動を始めたルプスレギナは少々慌てていた為か、視界の端に突然映り込んだ小さな人影に気付くのが遅れてしまった。

 

「っとと!」

「きゃっ……!」

 

 あまり勢いがついたわけではなかったのだが、ぶつかった拍子に相手の方は尻餠を突いてしまった。

 

「あらら……申し訳ねっす。大丈夫っすか?」

「は、はい……、……っ! ……大丈夫です。それでは」

「あっ、ちょ……行っちまったっす」

 

 どうやらサポーターらしく、その背中には身の丈に合わない大きさのバックパックを背負っている。

 ……子供のような体格の人物が相手とはいえ、それなりに重さもありそうなバックを背負った人間とぶつかってもびくともしない自分って……なんて少し思いつつも、フードを深く被った……声からして恐らく少女と思わしき相手に手を差し出す。

 相手の顔が僅かに上がり、フードの奥の瞳と一瞬だけ目が合うと、相手は何かに気付いたかのように再び顔を伏せ、此方が差し出した手を使わずに立ち上がって小さく頭を下げるとさっさと行ってしまった。

 その後姿に差し出していた右手を伸ばすも既にサポーターの推定少女は人ごみの中。何故か気まずい気持ちになり、伸ばしていた右手をゆっくり下す。

 

 

「……ダンジョンの方から帰ってきたんっすかね。……まぁ、いいか……」

 

 何故か妙に気になった相手ではあったが、もう居なくなってしまったものは仕方ない。肩を竦めたルプスレギナは、再び東地区を目指して移動を始める。

 

 

 

 

 人ごみに紛れたサポーターの少女が、感情のこもらぬ冷たい瞳で未だに自分のことを見ていることには、気付かぬままに

 

 




 
 というわけで、ハムスケは教会とは別の場所で飼育します。だってどのみちハムスケはダンジョンには連れていけないもんね。
 …そうすると出番は激減しますけど、後にちゃんと活躍はさせますから。…それまで続けられれば←


【ツーっつたらカー】
僕はこれを聞くとバカ殿さまを思い出します。

【ギルド長】
最初はエイナとの会話も書く予定だったんですが、わざわざ本文長くしてまで出番なんぞ作らんでもええやろってことでカット。今後も多分出番はないか割愛される。

【モンスター牧場】
オリジナル設定です。だってだって、【ガネーシャ・ファミリア】以外のファミリアに所属してる調教師の皆さんが不憫なんだもの。ちょっと物騒な動物園みたいなもんですよ、えぇ。

【飼育員】
取り敢えずハムスケの飼育員は今のところ【ガネーシャ・ファミリア】の手が回ってます。後にちゃんとした飼育員を登場させる予定です。オリキャラではないよ。

【赤い洗面器の男】
元ネタは『古畑任三郎』。
オチが気になるって? ならば今すぐ最寄りのレンタルビデオショップで古畑任三郎を借りるんだ!←

【サポーターの少女?】
一体何者なんだ…


 次話は既にハムスケを牧場に入れた数日後の話になります。

※三の丸様、ジャックオーランタン様、誤字報告ありがとうございます。


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