笑顔仮面のサディストがダンジョンに潜るのは間違ってるっすか? 作:ジェイソン@何某
最近はオバロの人気投票関連でpixivやニコニコ静画をチェックするのが楽しみになってます。特にルプー関連のイラストを毎日投稿されてる方がいらっしゃって…投票不可避。
あ、アインズ様1位獲得おめでとうございます(白目
皆さんも勿論毎日投票してますよね?
ね?
――『神の宴』から3日が経った。いつものように正確な腹時計によって5時ぴったりに目を覚ましたベルは、普段ヘスティアが眠っているベッドを見る。そこにはこんもりと人1人分の膨らみがあるが、大きさからしてヘスティアでないのはすぐにわかる。
「うーん…むにゃむにゃ…もう食えないっす…」
…この通り、あまりにも典型的な寝言を零しながらもルプスレギナが使用していた。初日にさも当然の如く床にタオルケットを敷いて寝ようとしたのを必死に止め、取り敢えずヘスティアが帰って来るまではということでベッドを使ってもらっているのである。
…せっかく上の部屋とかも綺麗になったのだし、ヘスティアとルプスレギナ用の部屋…最悪ベッドだけでも用意すべきかと考えながら、ルプスレギナを起こすよりも先に朝食の準備をしようと行動を開始するのだった。
……決して彼女に朝食を作ってほしくないわけではない、断じてない。
…
……
………
…………
「…それじゃあ、行きましょうか」
「ういうい。ハンカチ、ちぇーっく。聖杖、ちぇーっく。おやつのジャガ丸くん、ちぇーっく。問題ないっす!」
「あ、あはは…」
あの後、ベルによって起こされたルプスレギナは、『朝シャワー』という名の《
それから2人で食事をとり、やはりヘスティアが居ないことをベルが寂しがる度にルプスレギナがからかいながらも励まして、共に教会を後にする。
「それにしても…」
教会を出たところで、ベルは振り返った。初めてヘスティアに出会い、『ボクらの愛の巣だっ!』なんて案内された
因みに、天井の大穴は今後お金に余裕が出来たら大工を雇い、ガラスか何かをはめ込んで貰うつもりらしい。天井から差し込む陽の光がお気に入りなんだそうだ。
「ぬふふ、我ながら今日も完璧っすね」
「あはは…
ルプスレギナは日ごとに掃除する場所を変えている。家事ばかりに気がいって、冒険者としての本懐が厳かにならぬようにしているそうだ。
兎に角、2人はそんな教会を後に西のメインストリートを出る。
「それじゃあ、今日はどうしましょうか?」
「うん? どうって?」
早速今日のダンジョン攻略についてをルプスレギナと相談しようと考えて話を切り出したベルであったが、対するルプスレギナは頭上に疑問符を浮かべていた。
あれ? と若干の肩透かしを食らいながらも、分かりにくかったかなとベルは先に自分の意見を述べることに決めて。
「いや、その…僕としては、今日こそ5階層より更に下りてもいいんじゃないかなぁ、なんて思ってて…」
昨日はルプスレギナの実力とベルのコンディションを確認し、問題ないだろうと確認して5階層まで下りていた。きっとそれを聞いたらまたエイナやヘスティアは怒るだろうが、2人共に――主にベルの――向上心は高く、決して無理のない範囲であればどこまでも突き進むつもりであった。
しかし、それを聞いたルプスレギナはぽかん、とした表情を浮かべる。『何言ってんのコイツ』と言わんばかりの顔に、ベルは『あれ…僕、何か失敗したかな?』なんて首を傾げた。
2人にとって思い入れのある建物の前を通り過ぎ、2人にとって覚えがある声が届いた
「…あ。おーいっ、待つニャそこの2人ー!」
「…今日は『
「え? …あっ、そういえばそうでした」
「…ニャ? おぉーいっ! 聞いてるニャー?」
「やれやれっすねぇ…昨日あんなに話したじゃないっすか。結局誰も誘ってないし…」
「うぐっ…い、いやほら、でも…神様は帰ってこないし、エイナさんはその祭りの準備で忙しそうだったし、ア、アイズさんは…その…」
「……ムムム…おぉい!! おミャーら聞いてんのかニャー!? そこの2人ニャそこの2人!!」
「シルちゃんがいるじゃねっすか。…なんなら、私でもいいっすよ? ホレホレ、デートに誘うっすよ」
「え、えぇっ!? そそ、そんな…シ、シルさんだって忙しいでしょうし…ル、ルプーさんだって…!!」
「……」
タッタッタッタッ…ダダッ!!
「…ムシすんニャー!!」
「あだぁッッ!!?」
「うわぁっ!?」
華麗な飛び蹴りが、聖杖越しにルプスレギナの後頭部にヒットした。
「いたたた…ヒデェっすよアーちゃん!」
後頭部への飛び蹴りを食らって倒れることはなかったが、崩れた態勢を整え蹴りの衝撃が走った個所を擦りながらも振り返り、自身に蹴りを入れた
「何言ってるニャー! おミャーらがニャーの事を無視すんのが悪いニャ!」
腕組みし、ふんすと鼻を鳴らすアーニャ。対して2人は『?』を浮かべ、互いに顔を見て首を傾げる。『一体いつ話しかけられてた?』『さぁ?』と無言でやり取りするベルとルプスレギナに、さしものアーニャも気付いたようで。
「ミャーはさっきからおミャーらの事呼んでたニャ。『そこの2人』って」
「えー、それじゃわかんねっすよ。もっと色々と呼び方あったじゃないっすか。『天然スケコマシな白髪の美少年』とか、『三つ編みとメイド服の似合う可憐で天真爛漫な美少女』とか!」
「て、“天然スケコマシ”…?」
「…おミャー自分で言ってて悲しくないのニャ?」
さり気無くベルにも“美”を付けているが、そこは華麗にスルーされてしまい少し悲しい気分になった。というか、そもそもルプスレギナに関しては普通に『ルプス』と呼べばいいものを…半眼でアーニャを見るも、多分此方の抗議の視線には気付かないんだろうなぁと諦めて。
「…で、どうかしたんっすか?」
「…おぉっ! そうニャそうニャ、実はニャー…」
「お2人に、少しばかり頼みたいことがあるのです」
「お、リューちゃん」
「あ、お、おはようございます」
通り過ぎたばかりの『豊饒の女主人』から出てきたエルフの女性、リューがアーニャの言葉を引き継ぎながらやってきた。
ベルの挨拶を皮切りに全員が遅れて挨拶を交わしたところで、リューは早速と要件を語り出す。
「…ははぁー。シルちゃんも意外とおっちょこちょいっすね」
「あはは…」
ベルとルプスレギナに頼みたい要件とやらを聞いてみればなんとも単純なことで、休みを取りフィリア祭を見に行ったシルが財布を持っていくのを忘れたので、仕事でこの場を離れられない自分たちに代わって彼女に届けてほしいというものだった。
それを耳にしたルプスレギナは常にしたたかなイメージのあったシルの意外な一面に僅かに目を丸くし、ベルはその隣で苦笑していた。
「まったくニャ、ミャー達だって母ちゃんの許しさえあれば本当は見に行きたいっていうのに、お土産だけを救いに送り出したらこの体たらくニャ。うっかり娘にもほどがあるニャ」
「アーニャ、貴方が言えたことではないでしょう」
「はは…」
もう一度乾いた笑みを零したベルであったが、とにかく事情は飲み込めましたと頷くとルプスレギナに視線を向ける。それに気付き、ルプスレギナはにっと笑った。
「いいんじゃないっすかね。シルちゃん始め皆には色々とお世話になってるっすし、これくらいの恩返しは私もしたいっすから。それに何より…」
――誰かが困っていたら、助けるのは当たり前だから
それがまるで知らない人で、どんな些事であろうとなんだろうと、きっと“あの御方”は手を差し伸べるはず。
「ルプーさん…ありがとうございます! それじゃあ、僕達に任せてください!」
「よろしくお願いしますニャ!」
「荷物は此方でお預かりしましょう」
ベルの背負っていたバックパックを預かったリューは、ルプスレギナの聖杖やポーチにも視線を向ける。しかしルプスレギナがやんわりと首を振った為に『わかりました』と小さく頷いた。
「んじゃ、ちゃちゃっと行くっすかね」
「闘技場がある東のメインストリートはすでに混雑しているでしょう。シルも先ほど出掛けたばかりでしょうから、その人波に付いて行けば追いつけるはずです」
ベルと並んで歩み始めたルプスレギナは、背後から掛かるリューの言葉にひらひらと手を振って応えるのであった。
…
……
東のメインストリート、その大通り沿いに建てられた喫茶店の2階。その人物は通りを一望できる窓際の席に座り、眼下の闘技場目指して進む多くの人々を眺めていた。
その姿を隠すようにフードを深く被っているにも拘らず、店内に居るほぼ全ての者がその人物に視線を向け固まっているのは、顔を隠そうとも溢れ出る彼女の『美』に『魅了』されているからに他ならない。
美の女神・フレイヤは、そんな店内の人々に目をくれることもなく、ただ通りを見下ろし続けていた。
やがて、木張りの床が軋む音と共に複数の――恐らくは2人組の人物が此方に近づいてくるのを感じ取ると、彼女は視線を窓の外からその音の方へと向けて。
「よぉー、待たせたか?」
「いえ、少し前に来たばかりよ」
視界に入った緋色の髪と細めた目、そして
男装の女神――ロキの隣には、鞘に収めた剣を携えた、美の女神であるフレイヤからしてもとても美しいとお世辞抜きに称賛できる整った容姿の金髪金眼の少女――【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。
アイズは、フードの下から覗いたフレイヤの美しい
彼女との挨拶は後ですませるとして…己と向かい合う形で椅子に座り、飯を頼んでもいいかというロキに微笑みと共に頷く。
そして、昨日の『神の宴』やアイズの事、何故2人で居るのかなどの雑談を暫しは交わし――フレイヤの一言をきっかけに、両者の間で流れる雰囲気は一変する。
「ほな、素直に聞くわ。…自分、何やらかす気や」
何の事かしら、と一先ずはとぼけようとするも、ロキはすでにそう出ることはお見通しだったのだろう。まぁ確かに『神の宴』への参加から始まり、動き過ぎていたのは自覚しているので大人しく口を噤んでおく。
気が付けば――いや全然気にもしていなかったが、両者の間に流れ出る剣呑な雰囲気に、先ほどまでフレイヤに見惚れていた客やウエイターに至るまでがこの2階から姿を消している。正直ロキの付き添いをしているアイズとしても、無表情ながらにこの雰囲気には眉を顰めたくなっていた。
そんな張り詰めた空気も、ロキが脱力することで霧散する。やがて彼女の口から出たのは、確信めいた言葉。
「男か」
「…
半分肯定、半分否定の言葉にロキは眉を顰める。そして彼女の言葉の意味を理解し、呆れたように溜息を零して。
「…ついに女にまで手ぇ出すんかこの色ボケ女神が」
「あらあら、私はもともと美しいものは性差なく愛するわよ?」
「ついでに
「彼らの場合、繋がりを作った方が色々と融通が利いて便利なんだもの」
そんな理由で誑かされる男神達に同情なんて一切湧かないロキであったが、まぁ取り敢えず『憐れな奴らやな』と口だけで言っておく。
取り敢えず、聞きたいことは聞けたと背もたれに体重を預けて頭の後ろで両手を組んだロキ。それにしても、今度は“どの【ファミリア】に属する”“誰”が標的になったのかと考え…ピタリと、動きが止まる。
“男”の方は知らないが、“女”の方に関してはフレイヤの興味をそそるには十分すぎる人物が脳裏に浮かんだからである。
「…お前、まさか…
「…さぁ、誰の事を言っているのかしら?」
ここにきてロキは、アイズを隣に立たせていることを失敗したと僅かに歯噛みする。あの酒場での一件の翌日、アイズたちが“彼女”と友好関係を築いたことを知っているからである。
迂闊に“彼女”の名前を出し、アイズがそれに反応してフレイヤといざこざになるのは流石にマズい。
結局名前は出せず、フレイヤもそれが分かっていたかのようにわざとらしく首を傾げた。
内心舌打ちしつつも、ロキはフレイヤに対する警戒心を引き上げる――もともとかなり警戒していたけど。
「…まぁ、ええわ…んで? 男の方は? どんなヤツや、いつ見つけた? ダンマリはアカンで、そっちのせいでうちは余計な気を使わされたんやからな」
フレイヤに見初められた内の片割れは分かった。ならばもう片割れは誰だ? そちらに関しては全く予測が出来ず、ならばと神特有の野次馬根性を全開にニィと笑っていた。
フレイヤとしても此方は誤魔化せまいと諦めたのか、顔をロキから窓側へと逸らし、眼下を行き交う下界の子供たちを眺める。先ほどしていたように、1人1人の顔をしっかりと見ながら。
「強くはないわ…とてもじゃないけど、頼りない。少しの事で傷ついてしまい、簡単に泣いてしまうような子よ」
それだけならば、フレイヤが見惚れることはないだろう。続きがあると分かっていたからこそロキは口を挟まない。
「でも…綺麗だった。透き通っていた。あの子は私が見たことのない色をしていたわ」
それこそ、“彼女”以上に特別な色だった、とは心の中にだけ留めておいて。
僅かに熱を帯びた声にロキが軽く肩を竦めるのが視界の隅に入り、クスリと笑みを零したフレイヤはなおも眼下の通りを眺め続けて。
「見つけたのは偶然、これは本当よ? あの時も、こんな風に…――」
「……? おい、どした?」
見つけた時間帯までもが今と似通ったこの状況が少しばかり可笑しかった。フレイヤは当時を再現するつもりであったようだが、ふとその動きが止まる――否、角度的にロキには見えていないが、視線だけはとある2人組を追いかけていた。
華奢な体に防具を纏った『白い髪の少年』と、すれ違う人々を必ず振り返らせる程の美貌を湛える『赤髪のメイド』。
“彼女”に気付いているのはすれ違う人々だけ――どうやら、離れた位置からだと気付きにくくなるよう、
その2人の人物は、眼下の流れに沿ってフィリア祭が行われている闘技場へと向かっていた。徐々にその姿が遠ざかっていく中、フレイヤはゆっくりと、蠱惑的な笑みを浮かべたのであった。
「ごめんなさい、少し急用が出来たわ」
「はっ?」
「それじゃあ、また今度会いましょ」
問いかけに対する返答にロキがぽかんと顔を上げた。言うな否やフレイヤが立ち上がったのである。
ローブでしっかりとその姿を隠し、去っていくフレイヤ。ロキが次に口を開いたのは、その後姿を見送った後だった。
「なんやねんアイツ、いきなり立ち上がって…」
怪訝そうに眉を顰め、そして不機嫌そうに鼻を鳴らす。何があったかは知らないが、また何かしでかすのではと確信に近いものを感じた。
「(ドチビ…いや、ルプスたんに直接警告するか…? しかし、フレイヤの奴がルプスたんを狙ってるっちゅう確信はまだない…いや、もうほとんど決まりやろうけども)」
ロキのところと違い、ヘスティアの【ファミリア】はまだまだ極小な筈だ。もしもフレイヤが【ファミリア】の力と『魅了』を用いた強硬手段に出れば、ヘスティアには何もできまい。
しかし、とロキは付け足し、顎に手を置く。
今回フレイヤが目を付けた2人の冒険者…それらに対するフレイヤのアプローチが、妙に遠まわしなのだ。今まで、フレイヤは誰かを見初めると『魅了』を利用してさっさと自分のものにしてしまっていたのをロキは知っている。
だが、今回はどうだ? …そんな様子、微塵もない。ゆっくり、じわじわと手に入れるまでの過程を…
「(楽しんでんのか…)」
はぁ、と思わずため息が零れた。ルプスレギナと、
「アイズ、どしたん? なんかあったんか?」
一緒に連れてきていたアイズが窓の外を眺めてじっとしていたことに気付いたのだ。首を傾げ、それからアイズの視線の先を見てみるが、雑多な人々の後姿しかない。
「……いえ」
「…さよか。んじゃまぁ、うちらも行こか。デートやで、デート!」
「…デートをする気はないんですが…」
短い返答とは裏腹にその後もずっと外を見続けていたアイズ。その視線が先ほどまで白髪の少年を捉えていたことなど露知らず、立ち上がったロキはアイズの手を取り歩き出す。
僅かに眉尻を下げながら、アイズもようやく窓から視線を外すのであった。
…
……
【ヘファイストス・ファミリア】北西メインストリート支店。そこで二柱の女神が向かい合い、視線を落としている。彼女たちの視線の先には漆黒の鞘と、そして同じく漆黒の短刀。
漆黒ツインテールの女神、ヘスティアは、その短刀の刃の側面を指先でそっとなぞる。淡い光と共に『
「――……うん、完成よ」
「…あ、…や、やったぁぁぁっ!」
鋭い眼差しで短刀を見つめていた紅髪の女神、ヘファイストスは、やがてその目を緩ませると眼前に立つ神友に顔を上げた。同じく視線を合わせていたヘスティアは、その一言で口に咥えていた手袋を落とし歓喜のあまりその場をピョンピョンと跳ねる。
……つい十数時間前と違い、今回は跳ねても奇声を上げることなかった。
「…はい、これでいいわね」
鞘に納めたナイフを小型のケースにしまい、さらにそれを布で包んでヘスティアに斜め掛けに結びつけた。
「ありがとうへファイストス! この恩は一生忘れないよ!」
「恩だけじゃなく、
慣れない徹夜での作業に疲れているはずにも拘らずキラキラとした眼差しを向けてくるヘスティアに苦笑しつつ、今にもこの場から飛び出しそうな彼女に『それにしても…』と言葉を紡ぐ
「…もう1人の、ルプスレギナ・ベータ…だったかしら? 彼女の武器は、本当に作らなくてもよかったのね?」
作業中ふとした時にルプスレギナの話題となり――フルネームもその時に知った――ヘファイストスは彼女の武器についても尋ねてみたら、ヘスティアはなんとも気まずそうにかぶりを振ったのだ。
その理由が今更ながらに気になって、ヘスティアが出ていく前にと改めて聞いてみた。
すると、ヘスティアはその時のようにまたも気まずそうな、バツの悪い顔を浮かべて。
「…うん、大丈夫…なんていうか、その…あの子にはほかの形で力になれないかなって思ってて…」
「…? どうしてよ、その子も新米なら、武器は必要でしょ? なんなら、その子の武器は多少サービスしてあげても…」
いくらヘスティアとて、後払いで武器を作ってもらえるという折角のチャンスを棒に振るうのがどれだけ愚かなことなのかは分かっているはず。
だからこそ、せっかく乗り掛かった船だしとヘファイストスはルプスレギナの武器も作ろうと考えていたのだが…
「いやぁ、その……多分、彼女には必要ないんじゃないかなー…なんて…」
それを聞いた瞬間、ヘファイストスの目がスッと鋭さを増し、冷たいものとなる。ヘスティアとしては言葉を選んだつもりなのだろうが、結果的にヘファイストスの機嫌は一気に下降した。
ヘスティアの口ぶりに、何故ルプスレギナの武器を作らないのか、その理由と思わしきものが2つ浮上したのだ。
…そのどちらも、あり得ないと確信に近い思いはあるが。
「あんたまさか…自分のとこの
言いながら、此方の可能性は低いだろうと考えている。ヘスティアの性格はよく分かっているし、彼女がルプスレギナの事を語るときの様子から、その子を嫌っている気配は微塵も感じなかったからだ。
それとも…と付け足し、これから述べることの方が、
「…私の作る武器では物足りないと…?」
ヘファイストスの瞳に剣呑な光が宿った時点でずっとガタガタ震えていたヘスティアだったが、この2つの言葉を耳にした途端すぐさま口を開いた。
「ま、まさかっ!!? そんなわけないだろ!! ボクはベル君もルプー君もどっちも好きだし、ヘファイストスの作る武器だってサイコーさ!」
必死だが、嘘ではない。正直この反応は予想通りだ。
ヘファイストスの雰囲気が僅かに冷静を取り戻したのを見てほっと一息吐いたヘスティアだったが、未だに腕組みするヘファイストスが表情だけで『なら、理由は?』と告げてくれば、何とも困ったように頬を掻く。
「…まず、ルプー君自体が今の装備から別の装備に変えることを望まないと思う。これが理由の1つ目。2つ目は…実際に見てみないと信じられないだろうけどさ…ルプー君の装備、もう十分すぎるくらい凄い…っていうか、
「……」
成程、とヘファイストスは納得する。冒険者が長年使ってきた武器防具に愛着を持つというのはよく分かる。問題はそのルプスレギナが、一応は新人であるということなのだが…続く理由に、そもそも本当に新人なのかという疑問が浮かんだ。
考えてみれば、例のドレス――今はもうヘスティアは普段着に戻っている――だって、ルプスレギナが買ったらしいから、もともと冒険者だったのかもしれない。
しかし、素人のヘスティアから見ても一級品だと分かる装備…無論、見せかけだけという場合もあるが、興味を持つには十分だ。
「……ねぇ、ヘスティア」
「な、なんだい?」
未だに緊張した面持ちのヘスティアに、ヘファイストスはその緊張を霧散させるように僅かに微笑み、同時に頼んでみることに。
「今度、余裕があった時でいいわ。 その子と会わせてもらえるかしら?」
「へっ?」
呆けた声と顔に噴き出してしまいそうになるのをなんとか我慢し、軽く肩を竦めてから理由を告げる。
「鍛冶の女神として――いえ、1人の鍛冶師として、そこまで言われた武器・防具に興味を持たないほうが無理ってものよ」
「なるほど…う、うん分かったよ。確約は出来ないけど、ルプー君に頼んでみる」
「えぇ、お願いね」
互いに小さく頷きあい、先ほどから縮こまったままだったヘスティアはようやく立ち上がった。
「…それじゃあ、もう行くね!」
「えぇ。ちゃんと渡したら休みなさいよね」
「分かってるさ! 本当にありがとうヘファイストス! 大好きー!」
「っ……はぁ…ホント調子がいいんだから…」
奇しくもいつかの自分の眷属のような声と共に工房を後にしたヘスティア。その言葉に流石に驚いた顔をするも、やがては深いため息とともに、満更でもなさそうに肩を竦めるへファイストスなのであった。
「…あら、そういえば今日は『怪物祭』ね……まぁいいか。私も少し仮眠しましょ」
【食後10分】
ジェバンニもビックリのクオリティ。本音を語るともっと時間をかけて掃除したい。
【アーニャの飛び蹴り】
少なくともルプーにダメージを与えられる模様。
【しれっと認識阻害の魔法を無視するフレイヤ様】
フレイヤ様なら何しても不思議じゃないんだから怖いですね。
【ヘファイストス様、ルプーの装備に興味を持つ】
神ペロなあの人にはならないようにします(笑