笑顔仮面のサディストがダンジョンに潜るのは間違ってるっすか? 作:ジェイソン@何某
第16話を終えて、たくさんの感想をいただきました。
…が、何故かみなさん同じような事をおっしゃるのですよ。はてさて何故なんでしょうかね。
まぁ、ボクに言えることは1つだけです。
……君たちのような勘のいいガキは嫌いだよ。
…褒め言葉です←
「いやはや、今日も疲れたっすね~」
「あはは、お疲れさまでした」
地上を目指してダンジョンの1階層を歩く最中、大きく伸びをしながらもルプスレギナはしみじみと呟いた。
ベルと共にパーティを組んでダンジョンに潜るようになってから2日が経過した。
『神の宴』に向かったヘスティアは未だに帰ってこず、ベルは頻繁にそれを心配するも、ルプスレギナの言によって気を取り直すというのが何度かあった。
今は素直に今日のダンジョン探索を終えたことを労わってくれており、ルプスレギナはにししと笑う。
その後、ルプスレギナはふと思いついたと顔を上げた。
「…あ、そうだ…今日の晩御飯…」
「!! ぼ、僕が作りますから! 大丈夫です! 任せてください!!」
「あ、そすか…」
“晩御飯”という単語1つで、ベルは大きな反応を見せた。その剣幕に若干引いてしまったルプスレギナであったが、ベルがここまで必死になるのにはワケがある。
まぁ、ルプスレギナが『料理』スキルを所持していないことを知る者達ならば、細かく説明する必要はあるまい。
パーティ初日→無事帰還→記念にルプスレギナが手料理を振る舞う→アーニャの二の舞
…これで十分だろう。
「(ぐぬぬ…自炊していた頃の癖が抜けない…)」
悲しきかな、独り身の習性よ。
「…うん? ベルっちベルっち。アレなんすか?」
「え…? あぁ、あれはカーゴですね」
ダンジョンを抜けて『バベル』のホールまで出てくると、ルプスレギナは今一度大きな伸びをする。
因みに、周囲からの視線は初日に比べると大分減っている。というのも、ルプスレギナが自分自身に低位の認識阻害魔法を掛けているからだ。まぁそれでも、やはり近くですれ違う冒険者たちはみんなルプスレギナを見ているが、本人は気付かない。
ふと歩きながらもルプスレギナは隅に置かれている複数の車輪がついた大きなコンテナのような物に気付く。ベルに声を掛け質問してみると、ベルもうろ覚えながらも教えてくれた。
曰く、物資運搬用の収納ボックスであり、大抵の場合は大手の【ファミリア】なんかが深層までの『遠征』時に使うそうだ。予備の武器や食料、ドロップアイテムなんかの保管にも使えるので、あれだけの数のカーゴがあるからにはそれなりに長期の遠征に行くのか、もしくはその帰りなのではとベルは予測していたが。
「でもあれ、モンスターの臭いがするっすよ」
「え? …うわっホントだ、動いてる!?」
優れた嗅覚が、カーゴの中から漂う臭いを嗅ぎ取って僅かに眉を顰める。此方の言葉にベルもまじまじとカーゴを見つめ、ガタガタと動いた其れに驚いたように声を上げた。
おかしいな、モンスターをダンジョンから出すなんてあってはならないのに、一体どうして…ぶつぶつと考えるベルに対し、ルプスレギナは一足お先に答えに行き付いた。
「あぁー…そういや明日は『
「え?」
聞き覚えが無いのか、丸い瞳を此方に向けたベルに、ルプスレギナは今度は此方が教える番だと笑みを浮かべる。
…
……
「――…てな感じの、それなりに盛り上がるお祭りみたいっすよ」
「へぇー…初めて知りました…」
流石にモンスターの返り血(メイド服は無事)や汗(ルプスレギナは全然掻いてない)で汚れ(メイド服はry)たままでは不味いと先にシャワーを済ませ、魔石やドロップアイテムの換金の為に『ギルド』の本部へと向かう道すがら『
ちなみにダンジョン初日を終えた時点でエイナには五体満足で帰って来れていることを報告済みであり、さらについ先ほどもカーゴの隣で別のギルド職員や【ガネーシャ・ファミリア】の構成員と話し合いをしていたところを目が合っているので、エイナへの報告は今日は無しである。
自身よりも先にオラリオに来ているにも拘らず後輩に『怪物祭』のことを説明されるというの事を若干情けなく感じながらも、ベルは素直に『そんな祭りがあったのか』と興味を抱いていた。それに気付いたルプスレギナは腰を曲げてベルの顔を斜め下から覗き込むと、にやにやと笑みを浮かべる。
「…なんだったら、誰か誘って行ってみたらどうっすか? ヘスちゃんかー、シルちゃんかー、エイちゃんかー…アイズちゃんとか~?」
まぁ、アイズの名前に関しては未だにまともな会話も出来ていない以上最後はまず無理だろうなと分かり切ったうえで出したが。
「え…えぇっ!!? そ、そそそ、そんな…そんな、の…」
妙に親しげに、そして自然にアイズの名前を出すルプスレギナに疑問を抱く余裕もなく、分かりやすく顔を真っ赤にして狼狽するベル。
『無理です』と否定しようとする理性とは裏腹に、頭の中ではご丁寧にルプスレギナが候補に挙げた1人1人と『怪物祭』を楽しむという妄想が繰り広げられている模様。案の定、アイズとの妄想デートがトリだ。憐れなりヘスティア。
…
…
――某所。
「へっくち!」
「……」
…
…
「…それにしても…神様、今日は帰ってきますかね?」
「ん? どうっすかね」
ヘスティアの名前を出したことで、ベルはどこか寂しげに呟いた。まぁダンジョンに潜って――『神の宴』に向かってからもう2日が経過しているのだ、ベルがそう心配するのも分かる。
「まぁ、ヘスちゃんも何日か留守にするって言ってたし、気にすることはないんじゃねっすかね」
「そう、ですよね…」
ベル自身ヘスティアの言葉を思い出して頷くも、やはりどこかで心細く感じているようだ。頑張れヘスティア、まだ希望はあるぞ。
…
…
――某所。
「へくち! へっくち!!」
「……はぁ…」
…
……
………
…………
『ギルド』本部で換金を終えたベル達は、今度こそ自分たちの『
一般に『冒険者通り』と呼ばれる北西のメインストリートは、やはり『ギルド』本部があるだけあって行き交う人々の殆どが冒険者であり、自然とその通り沿いに並ぶ店も大半が武器屋や防具屋、道具屋などの冒険に関する物が売られている店ばかりである。
で、今2人はというと、まっすぐ帰るのもなんだからとその通り沿いにある店の前で歩みを止めてはショーケースに並ぶ武器防具を眺め、また隣の店に移動という形を繰り返していた。
「…80万ヴァリス、かぁ…」
ベルは、並んでいる店の1つである武器屋のショーケースに飾られたナイフを見つめ、横に置かれている値段を見ては深いため息を零した。額がぴたりとガラスにくっ付いていることに気付かぬくらい、精巧な作りのナイフを見つめるその姿に、すぐ真横に立つルプスレギナは苦笑する。
「…大丈夫っすよベルっち。ベルっちの才能なら、今にこんなナイフ幾らでも買えるようになるっすよ」
「あはは…ルプーさんにそう言ってもらえると、嬉しいです…」
さり気に“こんな”と付けてしまうも、別にナイフの出来を貶める意図はない。ベル自身もそこを咎めたりはせず、眉を下げながらもちらりとガラスに映るルプスレギナを見る。
「…今更ですけど、ルプーさんの装備って、もの凄く良い物ですよね」
鍛冶師ではない、冒険者になりたてのベルにだって、巧緻な作りのメイド服や、背中に背負っている聖杖がそこらの武器防具とは比べ物にならぬほど良質――いや、最高品質であることは一目でわかる。
そして、ルプスレギナ自身もまた、そんな武器防具を身に纏うに相応しき実力者であることも分かっている。
一体あれらの装備を整えるのにどれだけのお金が掛かるんだろう、そんな考えもあって零した呟き。
瞬間、ルプスレギナの目がカッと見開いたかと思うと、ベルの肩を掴んで互いに向き合う形になり、キラキラと輝く瞳を向ける。
「分かるっすか!? 分かるっすか!? いやぁ、ベルっちなら絶対に分かってもらえると思ってたっすよー! どうっすかこの隙の無いデザイン! やっぱりメイド服は至高っす! メイド服こそ決戦兵器! メイド服こそ
「「「「「分かる」」」」」
「ちょっ!? ル、ルプーさんおお、落ち着いてぇっ!?」
デザイン面だけでなく、純粋な装備として褒めたつもりだったのだが、どうもそうは捉えられなかった模様。がくがくと肩を揺らしながらも熱く語るルプスレギナに圧されるベル、そして興奮するルプスレギナは、だからこそ此方に近づく人影に気付けなかった。
「うむうむ、ベルよ、随分と楽しそうだな」
「へっ…? あっ、か、神様っ!」
「…うん?」
ベルに対して掛けられた親しげな声にまずはベルが。そして、驚いたようなベルの声で漸くルプスレギナが反応する。
そこに居たのは、短く表すならば眉目秀麗で、高い気品を身に纏う長髪、長身の1人の――否、
その気品と共に纏っている神威によって眼前の青年風貌が男神であると気付いたルプスレギナは、その整った容姿にも納得した。
まぁ、元々この世界にはベルやらアイズを始めとした整った容姿の人間は多いが、神というものはほぼ例外なく顔立ちが整っているのだ。
「こ、こんにちは、ミアハ様」
「うむ。…して、ベルよ、そちらの
慌てて頭を下げたベルに、男神――ミアハは柔らかな笑みと共に鷹揚に頷いた。その後視線はベルから外れ、隣に立つルプスレギナへと向く。再び慌てたように紹介をしようとしたベルを右手で制し、一歩前に出たルプスレギナは背筋を伸ばし、綺麗な姿勢で頭を垂れた。
「お初にお目に掛かります。私はルプスレギナ・ベータと申します。慈愛深き炉の女神、ヘスティア様に忠誠を誓い、【ヘスティア・ファミリア】の末席に加えさせていただいた者です」
ベルと知り合いならば、同じ神であるヘスティアとも知り合いで、友好的な関係の可能性が高い。ならばと迷うことなくメイドの顔で、慇懃に挨拶をする。
末席も何もお前以外はベルしかいないじゃないか、とは言ってはいけない。
「うむ。私は回復薬を主に取り扱う商業系の【ミアハ・ファミリア】主神のミアハという。極貧の零細ファミリアではあるが、よしなにな」
若干爺クサい口調ながらも穏やかな声で自己紹介するミアハに、ルプスレギナは再び頭を下げる。それを見たミアハは困ったように眉尻を下げて苦笑すると。
「これこれ、そう頭を下げる必要はない。私は君たちとは良き隣人となりたいのだから、畏まった態度もしなくてよいぞ。なにより、頭を下げてしまってはその美しい
「……そうおっしゃるのなら、お言葉に甘えさせてもらうっすよ」
ごく当たり前のように述べた一言が気になったが、ひとまずそれは無視して肩の力を抜く。ミアハ自身先ほどのルプスレギナとベルのやり取りを短い時間とはいえ見ていたので、ルプスレギナの語尾なども違和感なく受け入れた。
「うむ。…おぉ、そうだ。お近づきの印にこれを渡しておこう。出来立てのポーションだ」
「「えっ?」」
抱えていた紙袋を片手で持ち直し、取り出した試験管をさも当然のように此方に
「ミ、ミアハ様っ!? これって…!?」
「…とんでもない大盤振る舞いなんじゃないっすか…?」
「ふははっ、先ほども言ったが私は君たちと良き隣人になりたいのだ。これくらいの胡麻すりくらい構わないであろう?」
面食らった様子のベルと、ベル程ではないにしても少し動揺しているルプスレギナを尻目に笑ったミアハは、やがてルプスレギナが持っている2本のポーションを指差した。
両方のポーションの色が濃い青色をしているベルに対し、ルプスレギナに渡されたポーションの片方は
「ルプスレギナよ。見たところお前は魔導師のようなので、片方をマジックポーションにさせてもらったぞ」
「……えっ」
いや、薄々そんな気はしていたが、ミアハの言葉に思わず固まってしまった。幾つかの道具屋を見てきたが、そこで売られているマジックポーションの殆どが通常のポーションよりもずっと高値なのだ。
…それを、目の前に居る見目麗しき男神はタダで渡してきたわけだ。『胡麻すり』にしたって割が合わないにもほどがある。
「ちなみにもう片方は普通の回復薬だ。その美しい顔に傷が残ってしまってはかなわんだろう」
「…はいっす」
そしてこれである。なんというかこの御方、さっきから事あるごとに『美しい』と言ってくれる。これもまた下心を一切感じないことから正直な感想をそのままに伝えているのだろう。
ぶっちゃけ“鈴木 実”としては気が気じゃないんですよ。物凄いドキドキしてるんですよ。もしも私の身体がルプスレギナじゃなかったらもう即! 即“おち”ちゃうよ!! 難しい漢字の方ね!!
「またミアハが無自覚に女の子を誑し込……失敗してるぞーー!!??」
「「「「ミアハならしょうが……何ィーーーっっ!!!??」」」」
認識阻害魔法のおかげでその“女の子”がルプスレギナであると気付かれなかったのは不幸中の幸いか。
「ふむ、なにやら周囲が騒がしいな…まぁよいか。ではなベル、ルプスレギナ、今後も我が【ファミリア】を御贔屓に頼むぞ」
誰のせいですか、とは言わないでおく。ベルの肩に手を置き横を通り抜けていくその後姿を黙って見送り、ハッと我に返った2人はその後姿に頭を下げたのであった。
ミアハの姿を見送り、素直に帰路につくべく2人は歩き出す。暫し無言で進み、ルプスレギナはぽつりと零した。
「……神様ってホント変わった方ばっかなんっすかね」
「…ど、どうなんでしょう」
あはは、と乾いた声を出すベル。ルプスレギナとしてはすでにヘスティアにロキとミアハ、あとは自分を勧誘してきた有象無象と割かし多くの神を見ているので、ほとんど確信に近い呟きだった。
そして、ふとルプスレギナは思った
……もしかして、ヘスティアが
…
……
………
…………
―――某所…もとい、【ヘファイストス・ファミリア】北西メインストリート支店にて。
「へっくち!」
「へくしっ! ……あら…」
ヘスティアの眷属である2人が
その片割れは先ほども何度かくしゃみをしていたので『風邪かなぁ…』などと頭の中で呟き、もう片割れはそれにつられてしまったかと自分でも意外そうに目を丸くしていた。
しかし、目を丸くしていた女神はすぐにその目を半眼に変え、くしゃみをしながらもずっと同じ体勢をキープしている神友へと視線を落とす。
「……で、いつまでそうやってるつもりなの?」
紅眼紅髪の女神、ヘファイストスは呆れと疲れの入り混じった声でその神友――とある眷属曰く『慈愛深き炉の女神』――ヘスティアへと問いかける。
ただ、どうせ意味はないのだろうと分かっていた。なんせ、あのパーティー…『神の宴』で、自分にとある『頼み事』を言ってから、ずっと床に跪いたまま一言も喋らないのだ。無視して帰ろうとすると、すかさず立ち上がり回り込んでまた同じ体勢になる。それをひたすらに繰り返し、こうしてヘファイストスの執務室にまで来てしまった。
今の時点で唯一聞けたことと言えば、いまヘスティアがとっているポーズの名前が『ドゲザ』と呼ばれる極東に伝わるもので、互いに親交のあるとある男神――とある眷属の予想通り少しクセのあるタケミカヅチ――が教えたらしい。余計なことを。
「……」
「……はぁ…」
そして案の定、ヘファイストスの質問に答えは来ない。もう数時間もすれば、ヘスティアは丸2日間も土下座を続けることになる。その間飲まず食わず、そして恐らく眠りもせずに。
はっきり言って異常なレベルだ。
最初こそ酷く冷めた瞳でヘスティアを見下ろし、無視を決め込んだ。
ヘスティアの『頼み事』は、オラリオ…いや、世界に通じるブランドを誇る【ヘファイストス・ファミリア】の主神として受け入れるわけにはいかないものだったからだ。
しかし、ついにヘファイストスはかぶりを振って、最早仕事にならぬと持っていた羽ペンを置いた。その音にぴくりとヘスティアが反応を示すも、やはりまだ顔は上げない。
「『ベル・クラネルに武器を』、ね……ヘスティア、教えて頂戴。どうしてそこまでするのかしら」
ヘスティアの『頼み事』を小さく呟き、ヘファイストスは己の右半面を覆う眼帯を指先で撫ぞる。そうしてまっすぐ飛ばした声に、ヘスティアはやはり姿勢は変えぬまま、吐き出すように答えた。
「……あの子の力になりたいんだ…! 今、あの子は変わろうとしてる。しかしその道のりは高くて険しい。だからこそ、あの子を手助けしてやれる力が欲しいんだっ! あの子の道を切り開ける武器が欲しいんだっ!」
神は神の嘘を見抜けない。だからこそ神が神に対して何かを願うのであれば、そこに嘘や建前は絶対に付けてはならない。濁流の如く口から流れ出るヘスティアの想いを、ヘファイストスは黙って聞いている。感情を感じさせぬ鉄仮面を努めて維持しながら。
「ボクは、新しく入った
ぐっと身体を強張らせ、しかし最後の言葉は絞り出すかのように言葉を紡ぐ。
「……何もしてやれないのは、嫌なんだよ…」
消え入りそうな弱々しい言葉は、しっかりとヘファイストスの耳と心に届いた。下界に降臨してからはずっと自分のもとで自堕落に過ごし、そして追い出したら追い出したで事あるごとに自分に頼ってきたなんとも情けない神友のあの姿はもう影も形もない――いや、自分に頼ってきてはいるが、それを情けないとは思わない。
「…いいわよ、分かった。作ってあげるわよ、あんたの子にね」
「…えっ!?」
それまで努めてキープしていた体勢からがばっと顔を上げたヘスティアは、ずっと床に額を擦りつけていたせいで額は赤くなり、前髪は逆立っている。
そんなヘスティアが少し可笑しくて、思わず噴き出しそうになったのをなんとか我慢する。
「ほ、本当にいいのかいっ!?」
ヘスティア自身、ここまでやっておいて自分がどれだけ無茶苦茶なことを言っているのかを理解していたからこそ、確認するように声を上げる。
まぁ、気持ちは分かるけどとあまり不快になることもなく、ヘファイストスは軽く肩を竦めて告げる。
「本当よ。…てか、私が頷かなきゃ、あんた梃子でも動かないでしょうに」
「…うんっ!」
「……そんな勢いよく肯定されてもね…」
本当に作ってもらえるのだと確信し、きらきらと眩しい笑顔を浮かべるヘスティア。その勢いのまま此方の言葉を肯定するその様には、流石に少し呆れたが。
見れば、ヘスティアは胸の前で拳を作り、嬉しさを噛み締めるようにぷるぷると震えている。作ると決めたからには時間を無駄にすることなく早速作業に取り掛かりたかったが、今はただそんなヘスティアを腕を組み眺めているとしよう。
「…うぅぅ……やったぁぁぁぁぁぁ!!!」
そして、ついに嬉しさを爆発させたヘスティアは立ち上がるどころか、そのままピョーンとジャンプした。
殆ど丸2日掛けて只管『ドゲザ』した結果、急に立ち上がったことで一瞬にして両足が痺れた事にも気付かぬまま、ヘスティアの身体はやがて重力に従い着地して―――
…
…
「――……およ?」
「…? どうしました、ルプーさん?」
「…いや、なんか今腹が捩れるほど面白いシーンを見逃したような気が…」
“何処か”から聞こえてくる悲痛な悲鳴に、赤髪のメイドを始めとする優れた聴覚を持つ一部の獣人達がピクリと反応を示したのは、また別の話―――
―――武器はヘファイストス自身が作ると知って未だ回復していないにも拘らず再びジャンプし、全く同じ悲鳴が轟いたのもまた、別の話である――…
…
……
………
…………
―――『
心もとない光源しかない薄暗い倉庫のような空間に、複数の男たちがいる。全員の視線は、とある一つの檻に向けられていた。
「……ガネーシャ様…」
【ガネーシャ・ファミリア】に所属する冒険者の1人が、自分たちの先頭に立って檻を眺めている人物へと声を掛ける。
「うむ、俺がガネーシャだ。…成程、確かに知らんモンスターだな」
像頭の被り物をした、逞しく浅黒い肉体を誇る青年の男神であるガネーシャは、いつもの自己主張をしつつも檻の中で眠り続ける獣型のモンスターを深刻な面持ち――被り物のせいで上半分は見えないが――で見つめていた。
神である彼は自らの足でダンジョンに入る事は出来ぬ為、この【ファミリア】に所属している団長を始めとした幹部陣が声を揃えて『見たことないモンスターだ』と言った時点で、間違いなく自分も知らないだろうと分かっていたとはいえ、予想以上に迫力のあるモンスターに内心少しだけ驚いていた。
「如何いたしましょうか…やはり、仕留めておくべきでは…」
「ふむ…まだ断言は出来んとはいえ、高確率でこのモンスターは新種…仕留める前に、このモンスターの特徴を調べるべきだろうな」
「では、解剖の準備をいたします」
「待て」
言うが早いか部下に指示を出そうとした眷属を右手で制し、未だに眠り続けるモンスターを見つめるガネーシャは、暫し思考に耽った後振り返るとかぶりを振った
「明日は大事な『
流石にこのモンスターをフィリア祭に使おうとは思わない。この場で話し合った結果、檻の中に居る新種のモンスターの処遇は一先ず保留となる。無論、大事に備えて檻の前には常にLv.2以上の冒険者数名が張り付くことになるが。
「…それに…かわ…」
「…“皮”…? なんです…?」
何か付け足そうとして黙り込むガネーシャに、団員はどこか不安げに首を傾げる。被り物のせいでその表情は分かりにくいが…もしもこの空間がもう少し明るければ、その表情がほんの僅かに緩んでいることに、気付けたかもしれない。
「…いや、なんでもない。…とにかく、当日のローテーションを少し変更するぞ。見張り係に運搬を任せるわけにもいかんしな」
迷宮都市オラリオでも最多に近い数の構成員を備えているだけあって、【ガネーシャ・ファミリア】には多くの上位冒険者が所属している。とはいえ、ローテーションの変更を前日になって構成員全員に伝えるのはかなり時間がかかる。
こりゃあ下手したら徹夜だな、と誰かが乾いた笑みを零した。
【料理】
作るよりも食べる専門←ルプスレギナ
食べるも作るもする←鈴木実
仮に料理好きなのに、『スキル』が無いってだけで料理下手になったら地獄ですよね。
【認識阻害魔法】
ベルにはこっそり対策させてる模様。
しかも低位なので割とレベルの高い冒険者にも見抜かれてる模様。
【80万ヴァリス】
ものの数時間で5万ヴァリス稼いだルプスレギナは、まぁ妥当な値段だと思ってる。
【マジックポーション】
薄い柑橘色なのは純粋に試作品だから。決して水で薄めてるわけではない。
【変わり者ばかりの神様】
ヘファイストス様は常識神です。今はまだ、な!
【新種のモンスター】
さぁ、果たして何人が『勘のいいガキ』認定を得るのでしょうか。少し楽しみになってきました←
…正直なところ、そんなに分かりやすかったですか? いやまぁ、分かりやすかったんでしょうねぇ、えぇ。