笑顔仮面のサディストがダンジョンに潜るのは間違ってるっすか?   作:ジェイソン@何某

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初期のころと比べて大分更新速度が落ち着いた感じ。

まぁ、忙しいくせに気紛れに作品増やしたらそうなるわな←




第14話『お買い物と趣味発覚っす』

 

 

「――はい、とうちゃーく!!」

 

「こ、此処は…」

「うっはぁ…凄いっすねぇ」

「…う、うん…」

 

 女5人で向かった最初の服飾店は、この買い物の発案者であるティオナの案内から始まった。大通り沿いかと思えばティオナはアイズの手を握り路地裏――ルプスレギナが居たところとは別の――に入り、何故か不安げなレフィーヤと並んで辿り着いたのは紫色を基調とした店だった。こうして店の外から中を覗くだけで、並ぶ商品がいずれも非常に露出度の高い、アマゾネス向けの服飾店であることが分かる。

 

 懸念が的中し、ひくひくと口角を引きつらせるレフィーヤ。感嘆の声を漏らすルプスレギナと、それに同意するように頷くアイズ。3人とも共通して抱いた感想は、『この服飾店に自分の求める服は無い』、である。

 

「久しぶりねー、やっぱ私も来て良かったかも」

「アイズ、ほら行こう!」

「えっ、あの――」

 

 もはや中に入るのにも妙に気恥ずかしさを感じていたアイズとレフィーヤだったが、生憎とヒリュテ姉妹がそれを許さない。左右から腕を絡めとられて連行されるアイズ。レフィーヤは慌ててその後を追いかけ、ルプスレギナはからからと笑いながら最後に入店する。

 

 

「アイズ、これなんてどうかしら? 体の線が細い貴方には多分似合うから、試着してみない?」

「えっ…と…」

「な、なななっ…ま、待って下さい! そ、それはハレンチすぎです! なんでアイズさんがそれを着ることになってるんですか!?」

 

 まるでブラジル水着のようなデザインの服を手にさも当然のように語り掛けるティオネに、頬を僅かに染めながらも反応に困っているアイズ。そして、アイズ以上に顔を真っ赤にしたレフィーヤが必死にティオネの持つ服を却下した。

 

「え~いいじゃないのよ減るもんでもなしに…なんなら、レフィーヤもどう?」

「きき、着ませんよっ!?」

 

「じゃあアイズ~、こういうのはどうかなぁ。あたしとお揃い的な~」

「ダメ! 駄目ですっ! こ、こんなハレンチな服は、絶対にアイズさんには着させませんっ!」

 

「えぇ~…」

 

 ノリノリで服を選ぶアマゾネスの姉妹であったが、いずれもレフィーヤが却下してしまう。その際、ティオネが却下された服を戻しながらもさり気なく『でもでも、アイズがこういう服着てるとこ想像してみなよ~』と言った結果、レフィーヤは暫しの間2度目の妄想世界へと旅立ってしまった。

 

 

「そういえば、さっきからずっと黙ってるけど、ルプスはどうなの? 貴方なら肌色も体格も結構アマゾネスに似てるし、こういうの似合うんじゃない?」

「う~ん…そうっすねぇ…」

 

 ティオネは、先ほどから頑張るレフィーヤの姿をケラケラ笑いながら観察していたルプスレギナに歩み寄り適当に選んだ服をルプスレギナの体に重ねつつ片目を閉じる。対するルプスレギナは珍しくも困ったように眉を下げ、この店にあるような服を着た自分の姿を想像した。

 

 赤と太い黒枠の肩紐が無いタイプの三角ビキニに、下はスリットの深いネイティブ柄のパレオのような腰巻をしている。左右の上腕にはフリンジの付いたバングルを付け、髪形はそのままに羽の髪飾りを付けている…うん、これは似合っているとは思う。思うんだが…

 

 

「(完全にインディアンだわこれ…)」

 

 

 恐らく顔に戦化粧とかさせたらさらに似合うのではなかろうか。

 

 

「…まぁ、気が向いたら買ってみるっすよ」

「そう? なら買った時は教えなさいよ、見てみたいわ」

 

 似合うにしろ似合わないにしろ金がない今どれだけ想像してみたところで意味はない。無理やり試着室に押し込まれる前に断っておくと、どうやらレフィーヤが妄想の世界から戻ってきたか、先ほどのような奇声を上げている。

 

 

「おや、ナーちゃんその格好は…」

「へっへーん、どう似合うかなー? この店の変わり種だよ」

 

 その時になってようやく気が付いた。ティオナがいつの間にか店の服を試着しているようだが、その格好がまた他の服とベクトルが異なり、スリットの深いチャイナ服だった。柄はない、普通の赤いチャイナ服であると判断し、ルプスレギナは安堵の息を吐く。もしあれが龍の絵が金糸で描かれた白銀のチャイナ服だったら、ダッシュで逃げてるところだ。

 

 ふと、自慢げにチャイナ服姿でくるくる回るティオナの事をじぃっと見据えるレフィーヤに気付き、ルプスレギナもレフィーヤの視線の先に目を向ける。

 

「ティオナさん…その、()()()()()?」

 

「………いやぁ、見えるのはまずいかなって」

「いやだからって…もっとマズいですよ!!」

 

 てへっ、と笑うティオナにツッコみ、いい加減疲れた様子のレフィーヤはやがてルプスレギナに縋りついて来て。

 

「ル、ルプスレギナさぁん…お2人になんとか言ってくださいよぅ…」

 

 まさか出会って1時間ちょいで自分が頼られるとは思わなんだ。まぁレフィーヤとしては、メイド服という少なくともアマゾネス衣装よりは遥かに露出のない服を着ているルプスレギナならば、こういう事態になっても助け船を出してくれると思っていたのだろう。

 驚いたルプスレギナであったが、()()()()()は大得意だ。()()()()()()()()()()()()は大好きだ。()()()()()()した瞬間だ。

 

「私に任せるっすよレフィーちゃん」

 

 ぐっとサムズアップするルプスレギナ。本来ならそれを見て安堵するべきなのに何故だろう、レフィーヤは大きな過ちを犯したような気分になった。

 

「さささ、アイちゃんこっちっすこっちっすよー」

「え? う、うん…」

 

「あれ、そっちは…」

 

 レフィーヤが何か言う前にさっさとアイズの後ろに移動したルプスレギナは、その背に手を添え店の隅に移動する。不安げについてきたレフィーヤは、そこで目を丸くした。

 

「こ、これは…」

 

 そこにあるのは、ドレス、ナース、メイド、バニー、セーラー、レオタードスクール水着体操服にブレザーetc…

 ティオナが着ていたチャイナ服も、もとはそこに掛かっていたものである。

 

「さぁアイちゃん! ここから好きな物を選ぶっすよ!!」

「え、…えっと…」

「あら、ルプスも意外といい趣味してるじゃない」

「アイズには何が似合うかなー? ルプスとお揃いでメイド服ってのもありかもー!」

 

「(っ…!? メ、メイド服…!?)」

 

 結果として露出度自体は一般的なアマゾネス用衣装よりも下がっているとはいえ、こんなどこぞのバードマン得な変わり種の中から好きな物を選べと言われたらアイズでなくとも普通は困惑するだろう。まさかの裏切りに固まってしまったレフィーヤだったが、ティオナの言葉に衝撃が走った。

 

 

……☆……

 

 

「どう、かな…変、じゃない?」

「素敵です! ルプスレギナさんに負けないくらい、よくお似合いですよ!」

 

「そっか…ありがとうレフィーヤ……ううん、お嬢様」

「お…お嬢様っ!!? なな、何を言ってるんですか!? わ、私がおお、お嬢様なんて…恐れ多いですっ!」

 

「そんなことないよ? レフィーヤならぴったり…それとも、私がお嬢様(レフィーヤ)のメイドじゃ、駄目、かな…?」

「……っっっ~~~!!!?」

 

 

「お嬢様、なんでも命令して、ね?」

「…ア、アイちゃ…!!」

 

……★……

 

 

「レフィーヤ?」

「んひゃああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!??」

 

 

 いつの間にか再び妄想の世界に飛び立っていたレフィーヤに、きょとんとした顔でティオナが話しかける。その悲鳴に何か考えていたのだと悟ったのかニヤニヤとした表情で茶化しに来るも、変わり種の衣装を手にアイズににじり寄るルプスレギナとティオネの姿が目に入ると、アイズを助けねばと我に返り3人の事を押しのけて。

 

「アイズさんエルフの店に行きましょう! 不肖ながら私がアイズさんにぴったりの…そう、清く美しく慎み深い服を見繕いますから! 頑張りますから!」

「レ、レフィーヤ…」

 

 アイズの腕に自身の腕を絡ませ、ぐいぐいと店の外へと連れ出すレフィーヤをぽかんと見送った後、残された3人は顔を見合わせて笑った。

 

 

そうして着いたのはアマゾネスの服飾店と比べやや規模の大きい、外観も内装も見るからに『お上品』なエルフ御用達の服飾店だった。先ほどレフィーヤが言った通り、中に並ぶ衣服の殆どは露出が控えめで、そこいらの社交界にでも出るのかというフリルの付いたドレスやゴシックな燕尾服が多い印象だった。

 

「どうですか! これこそエルフ御用達でアイズさんにもピッタリの服が必ず見つかるだろうお店です! 無駄な露出を避けたシックでエレガントなデザイン! 様々な天然素材を取りそろえた生地によって仕立て上げられた服は新人冒険者が買える物から第一級冒険者が買う物までどれも一級品! 主張しすぎることのないレースやフリルが、そこはかとない愛らしさを演出してくれるのです! 文句の付けどころなんて、どこにもありませんよね!?」

 

「動きづらいわ」

「暑苦しくない?」

「すぐ破れそうっすよね」

 

「お、お三方には聞いてません!」

 

 ぺらぺらとこの店に並ぶ服の魅力を語った末の3連撃に思わず声を荒げ、しばし喉を休ませてからレフィーヤは早速アイズに似合うのではないかと個人的に思った衣服の数々を見繕う。その大半がやはりドレスのような機動性に欠けるもので、まぁ探しているのが普段着であるならば気にすることはないだろうとは思うのだが…

 

「…それで、ルプスはこういう服には興味ないの?」

 

 そのタイミングで先ほどのようにティオネに声を掛けられる。ルプスレギナはぐるりと店内の衣服を見渡し、頬を掻いた。

 

「う~ん…デザイン自体はこのメイド服に似通った部分があるとは思うっすけど…だからこそあんま惹かれないっすね。今着てるメイド服よりも良い服なんて無いだろうと断言できるっすから」

「あら、凄い自信。まぁその服、かなり良い物だっていうのは素人目線でも分かるし、そう言いたくなるのも理解できるけどね」

 

 男装姿が似合うかは分からないし、ドレスに関しても自分(ルプスレギナ)と同じプレアデスのソリュシャン・イプシロンの方が似合っているだろうと考えてしまう。ある意味此処に並ぶ服には、アマゾネスの店にあった服よりも興味を抱けなかった。

 ふとそう考えていると、ティオネが店の出口へと向かっていることに気が付いて、なんとなくそちらに向かい。

 

「どうしたんっすか?」

「ん? まぁこのお店にはあまり興味が無いし、通り沿いにはまだ沢山店があるから、少しぶらっと見てこようと思ってね」

「なるほど…それじゃあ、私もそうするっすかね…」

 

 見れば、ティオナがまた何か言ったのかレフィーヤが4回目の妄想の世界に入っているようだ。まぁそっとしておこうと考え、ルプスレギナはティオネと共に店を出た後、ばらばらに行動し始めるのだった。

 

 

……

 

 

「う~ん…これは…どうなんっすかねぇ…」

 

 アマゾネスの店、エルフの店と見た後、ルプスレギナが次に入ったのは獣人が好んで着る衣服を取りそろえた服飾店だった。とはいえ、獣人というものは非常に種類が多く、特に狐人(ルナール)などの極東寄りの獣人向けの衣服はまた別の店にあるようだ。で、此処は狼人(ウェアウルフ)猫人(キャットピープル)なんかが好んで買う衣服があるようなのだが…アマゾネスに比べると大分ましだが、此処にあるのも若干露出が目立つ。特に引き締まっていたり線の細い身体のものが多いからか、腹や胸元が開いている種類のものが多く、スカートなどは短い物がほとんどだった。

 

 …ないな。いやルプスレギナなら似合うかもしれないが、“鈴木実”としては抵抗を示してる。まだコスプレ衣装的な側面で見れるアマゾネスの服装のがマシに思えてしまう。

 

 

「う~ん…お?」

「…あ…」

 

 両手を頭の後ろで組みつつ次はヒューマン用の店でも探そうかと考えていたその時、丁度店の前を素通りしようとしていたアイズと鉢合わせになる。自分は適当にぶらついていただけなわけだが、何故アイズが此処に? と小首を傾げて。

 

「レフィーちゃんたちと一緒に居なくて大丈夫なんっすか?」

「はい…ちょっと気分転換がしたくて…」

 

 そう告げたアイズの顔は、あまり明るいものには見えない。ティオナやレフィーヤに振り回されて疲れたというわけにも見えないから、なにか別の理由か。まぁ、思い当たるものはあるのだが。

 

「…あの」

「ん? どうしたっすか?」

 

「…その、昨日はごめんなさい…」

 

 やはり、2人になったこのタイミングで切り出してきたか。ティオナ達は先ほどの謝罪と此方の言葉で一旦は区切りをつけたようだが、アイズだけはまだ浮かない顔だったのを覚えている。さてどうしたものかと後ろ髪を掻き、ふぅと肩を竦めた。

 

「…さっきも言ったっすけど、私は全然気にしてないっすよ。まぁ、そう言っても納得するのが難しいのなら、ベルっちに直接言ってあげてほしいっす」

 

 そもそも昨日の一件で自分に謝罪をするのはお門違いというものだ。無論彼女の性格を考えれば、ベルに対していの一番に謝りに行きたいだろう。だが、此方の言葉を耳にしたアイズの表情は依然として暗いままだ…寧ろ先ほどよりも沈んだ様子が分かりやすくなったかもしれない。

 

 

「でも、その…あの子は…私の事、怖がってない…?」

「…はあ?」

 

 思わず間抜けな声が出てしまった。『アイズ・ヴァレンシュタイン』という名前を口に出すだけで分かりやすいくらい顔を赤くするあの少年の態度をどう見たらそんな懸念を抱いてしまうのだろうか。…尤も、アイズとベルの初邂逅の詳細を知らない以上あまり大きなことは言えないが。

 

「ん~…なんでそういう考えに至ったのかはわかんねっすけど…少なくともアイちゃんが考えているような悪い感情は無いっすよ。実際のところどうなのかは…ベルっちと直接話をして確認してほしいっすよ」

「…そっか、わかりました…」

 

 少なくとも、ベルがアイズの事を1人の女性としての好意を抱いていることは言わないでおく。少なくとも怖がられてはいないということが分かり、少し頬の緩んだその様子を見て、ルプスレギナは片眉を上げる。

 

 これは…もしかして、もしかするんじゃないか?

 

 一方、心の中にあった憂いが完全にとまではいかずとも多少晴れたアイズは、ルプスレギナの顔をじぃと見つめる。正直、アイズには都市外の冒険者に関する知識はあまりない。だが、彼女ほど特徴的な容姿と強さ、戦い方の冒険者を全く知らないということは滅多に無かった。

 

 …知りたい。彼女の強さの秘密が。だがしかし、それは駄目だ。こうして共に買い物をする前に、互いの詮索はしないと約束をしている。それに、あの白髪の少年――ベルと呼ばれていた少年の事も完全に解決したわけではないのだ。自制するように拳を作り、代わりに何か話題を作ろうと口を開く。

 

 

「あの…」

「…あら、やっと見つけたわよ」

「アイズさん! ルプスレギナさん!」

 

「おっと…3人とも申し訳ないっすね。探させちゃったすか?」

「……ごめん、みんな…」

 

 アイズの言葉は、2人を呼ぶ声によって遮られる。2人同時に反応を示すと、ティオネ達3人が向かってくるのが見えた。どうも3人で自分たちの事を探してくれたらしく、アイズとルプスレギナは申し訳なさそうにしながら――アイズだけは若干残念そうにもしつつ――3人と合流する。

 

「まっ。一番最初にあの店抜け出したの私なんだし、私は気にしてないけどね」

「あっはっは、そう言ってもらえると助かるっす……ティオナちゃん、なんかやけに落ち込んでないっすか?」

 

 3人を代表して肩を竦めるティオネにけらけらと笑って、ふと気付く。この3人の中じゃ一番おしゃべりなティオナが、妙に静かなのだ。見れば呆然と目を丸くしたまま、今自分が歩いてきた方角を見つめていた。

 自身の質問にティオネ達もようやく気付いたのか全員の視線がティオナに集まると、ティオナは震えた指先をやってきた方角に向けて。

 

「…10分くらい前にすれ違いざまにぶつかった子がいたんだけどさ…」

「あぁ、とても可愛い女の子でしたけど…女神様でしたよね?」

 

 どうやらぶつかった時にはレフィーヤと2人だったらしい。ティオネを含めた3人がそれがどうかしたのかと頭に疑問符を浮かべると、ティオネは開いた右手を自身の肩よりやや低い位置で固定し、地面と水平にする。

 

 

 「うん、そうなんだけど、あの子……こんな、こんな小さかったのに……胸がすごく大きかった…!!」

 

 

「それで、このあとはどこに行こうか?」

「ルプスレギナさんはもう獣人用のお店は見たんですか?」

「そっすね、もう十分っす。そうすると次は、順番的にはヒューマン用の店っすかね?」

「う、うん。それがいいと思う」

 

 わなわなと震え、悲鳴を上げるティオナを尻目に4人は会話を続ける。アイズだけがちらちらとティオナの事を見ているが、なんだかんだで此方の会話に参加している。当然ながらそんな4人の態度がティオナは気に入らなかったようで、ぷんすかと擬音を出しながらも此方に指を突き付ける。

 

「ムシすんなー! このボインボイン四天王めー!!」

 

「なによ四天王って…」

「あ、あはは…」

 

 これまでティオナは努めて気にしないようにしていたが、ルプスレギナは自身の姉であるティオネにも負けない豊満な胸の持ち主だった。故にその嫉妬心が爆発し、彼女もしれっと四天王の仲間入りをしていたわけである。

 一方そんなルプスレギナはというと、先ほどのティオナの言葉に少し引っかかるものがあったか顎に手を置き考えている。小さくて可愛い、胸の大きな女神…脳裏に浮かんだ一柱の女神の姿に、ルプスレギナは僅かに目を細め、未だにぷりぷりと怒っているティオナ…ではなく、レフィーヤに歩み寄る。

 

「レフィーちゃん、そのぶつかった女神様って、黒髪のツインテールじゃなかったっすか?」

「え…? あぁ、はい…確かにそうでしたけど…」

「…裸足?」

「…裸足、でした」

 

 これは、間違いない。だがしかし、こんな場所に何の用があるのだろうか。今朝がたのヘスティアの台詞を思い出す限り、『ジャガ丸くん』の屋台のバイトとは思えない。新しい服を買いに来たとか…? でも、何故にこのタイミングで…思考に耽っていたルプスレギナであったが、その答えはティオネの口から齎された。

 

「そういえば、此処に来るまでに何人も女神たちを見たけど…近々『神の宴』があるんだったわね」

「『神の宴』っすか…?」

 

 『ギルド』でもまだ習っていない単語が出てきて、ルプスレギナは首を傾げると、ティオナが思い出すように教えてくれた。不定期にどこかの神が主催で開くパーティ…なるほど、つまりはそのヘスティアと思わしき女神は、『神の宴』で着る為のドレスを仕立ててもらいに来たというわけだ。

 あんな崩れかけた――今はルプスレギナの魔法で修復済みだが――教会に住むことを余儀なくされている零細ファミリアとはいえ、そういった格式高い場所で着るドレスの1着や2着は持っていて当たり前か…

 

 どうやら神様しか参加できないらしく、従者としてついていけないのは残念だが…まぁ取り敢えずのところ、帰ったらヘスティアに詳しいことを聞いてみよう。

 

 

「…まっ、それはさておいて…買い物再開っすよ」

「それもそうね。それじゃあさっきの予定通り…」

「はい、ヒューマン用のお店でしたらこの先に、良い場所がありますよ!」

 

 ぱん、と一度手を叩き気持ちを切り替えて、5人は再び歩き出す。先ほどよりは表情の晴れたアイズが自分の意志で入りたい店を選んだり、それがたまたまレフィーヤが案内しようとしていた店と同じでレフィーヤが舞い上がったり、アイズが自分の意思で選んだ服を試着して4人で褒めたりと、楽しい時間を過ごして…

 

 

……

………

…………

 

 

「いや~、楽しかったね!」

「そっすねー、アイちゃんも服を買えて…ついでにナーちゃんもチャイナ服、良かったっすね」

 

 なによ『ついで』ってー! と抗議の声を上げたティオナに全員で笑みを零す。しかし、やがてレフィーヤが眉尻を下げながらもルプスレギナに近づくと、おずおずと口を開いた。

 

「で、でも…本当に何も買われなくて良かったんですか? ルプスレギナさん」

「そうよ、いくつか貴方に似合いそうなのも見繕ってあげたのに、全部断っちゃって」

 

「あっはは、申し訳ねっす。でも、衣服にはあんまし興味ないんっすよ。私には、この(メイド)服があるっすからね。これ以外の服なんて、着る気になれないっす」

 

 事前に何か買うつもりはないと言ってはいたが、まさか本当に何も買わないとは思っていなかったのだろうか。まぁ実際問題なにも買ってないのは自分だけだ。レフィーヤは小物店でアクセサリーを、ティオネは明らかに団長を意識してのセクシーなランジェリーを購入している。

 そして、それらの店でもルプスレギナの興味は全く惹かれなかった。やはり無意識のうちにこのメイド服以外の衣服に対する興味が希薄になっているのだろう。そう考えると、『豊饒の女主人』のウエイトレス服は大したものだと思う。

 

 まぁ兎に角、このメイド服さえあれば自分は満足なのだとそう告げると、今度はアイズが不思議そうに首を傾げて。

 

「…それってつまり、そのメイド服以外の服は持ってないってこと…?」

 

「「「え?」」」

 

「……ぇ?」

 

 それに大きな反応をしたのがティオナ達3人。小さな反応をしたのがルプスレギナ1人。

 そういえばそうだ。自分は平時も就寝時――今のところないが――もダンジョンに潜るときでさえこの服装だ。なんせ他の服といえば収納(インベントリ)にある予備のメイド服だけなのだから。ルプスレギナ自身それを完全に失念していた。

 

「いや、いやいや。まさか、ねぇ…? あたしですらこれとは違う服だって持ってるよ?」

「そ、そうよね。まさか毎日同じ服を着てるなんて…」

「ぼ、冒険者であれば同じデザインの服を複数持ってるのも普通ですもんね…?」

 

「…あぁ、いや~…その…」

 

 先ほどの自分の発言にアイズが指摘をしたことで『まさか』という思いを抱きながらも、しかしそうだと決まったわけでもないので3人は必死にフォローを入れてくる。だが悲しいかな、それはこちらの傷口を抉る行為だ。確かに同じデザインのメイド服はあるが、一度も着ていないし。

 

 どう返事をしたものか視線を泳がせたルプスレギナだったが、その態度がすべてを物語っていた。申し訳なさそうに眉尻を下げるアイズを除いた3人が、信じられないものを見るような目で此方を見ている。まさかティオナにまでそのような目で見られるとは思わなんだ。

 

 そして、3人はそれぞれ顔を見合わせて頷きあうと、問答無用でルプスレギナの両腕を掴んで。

 

「さっ、行こうかルプス」

「言っとくけど拒否権は無しよ? お金ならこっちが用意してあげるから、心配せずに連行されなさい」

「す、すみませんルプスレギナさん…でも、流石にこればかりは…!」

 

「ま、またこんな感じっすか!? うぉぉ駄目だ全然勝てる気がしないっす!!」

 

「…ご、ごめんね…?」

 

 Lv.3のレフィーヤはともかくとして、Lv.5のヒリュテ姉妹にがっちりとホールドされた腕はびくともしない。聖杖ごとずるずると引き摺られるルプスレギナを、やはりアイズは申し訳なさそうに見つめて後をついていくのであった。

 

 

……

 

 

「この店なんてどうですか?」

「駄目よ、エルフの店だと新鮮味が無いわ」

「じゃあやっぱアマゾネスの店でしょ」

「…それも、どうなんだろう…」

 

 数分が経ち、あの店は駄目だそこの店でもないと相談しながらもティオナ達は歩いている。いつの間にかその会話にはアイズまで加わって、自身の服を選んでいるときよりも気持ち楽しんでいるようだ。

 そんな4人の声を聞きながらも半ば諦めたように引きずられているルプスレギナは、適当に通り過ぎる店を眺めていた。

 

 やはり大半は服飾店だが、ちらほらと宝石店、小物売り場、化粧品店なども混じっている。一瞬ティオナ達が『裸族っ』なる下着専門店の前で歩みを遅くした時には心臓が飛び出るかと思ったが、レフィーヤとアイズが説得してくれてほっとする。

 

 

「(あぁー…せめてパジャマくらいは買った方がいいかな…でも、既に普段着買う流れになってるし……ん?)」

 

 この際開き直って自分から欲しい服でも催促しようかと思考を巡らせたふとその時、とある()()()のショーウィンドウに並ぶ一つの商品に、ルプスレギナは目を丸くした。

 

 そして、次の瞬間にはそのショーウィンドウ目掛けて走り出していたのだった。

 

「うわわっ!?」

「ちょっ、ルプス!?」

「きゃっ!?」

「…?」

 

 それまで抵抗したとしても真後ろに逃げようとしていただけだったルプスレギナがほぼ真横に向かって走り出したものだから、流石にティオナ達も反応できず絡めていた腕を解いてしまう。驚く3人に対し、アイズだけがルプスレギナが逃げたのではなく雑貨店に駆け寄ったのだとすぐに気付いて、小首を傾げたのちルプスレギナへと歩み寄るのだった。

 

「……色筆?」

 

 そう、ルプスレギナがしゃがみ込んで食い入るように見ていたのは色鉛筆だった。慌てて追いかけてきた3人もそれに気が付くと疑問符を浮かべ、ルプスレギナに視線を落とす。

 

「…ルプス、これが欲しいの?」

「…欲しいっす」

「わっ…綺麗な色ですね…」

「でも、なんで色筆なのよ?」

 

 ショーウィンドウにスケッチブックなどと並ぶ形でなるべく目立つように置かれている色鉛筆は、36色とそこそこ数の多いタイプであり、奇麗な小箱に収められている。ショーウィンドウに目立つように置かれている割に売れ行きが悪いからなのだろうか、何度か値下げがされているようだ。

 

 ティオナ達はルプスレギナが唯一反応を示したのが色鉛筆であることを訝しみ、ティオネは雑貨店よりも服飾店に行こうと言う。しかし、ルプスレギナは色鉛筆から目を離さない……ここまでくれば分かると思うが、ルプスレギナこと“鈴木実”は、絵を描くのが大好きだった。

 

 別にプロじゃないし、ペンタブのえお使ったようなデジタルな絵は描けない。あくまでもスケッチブックに落書きする程度のものでしかないが、それでも好きなものは好きなのだ。

ちら、とルプスレギナは視線を値段の掛かれているプレートに向ける。初めは2000ヴァリスと書かれていた箇所に×(ペケ)が上書きされて安くなり、また×を書かれ、となって最終的な金額は…

 

「800ヴァリス…」

 

 買える、と思った。

しかし、ここでルプスレギナは激しく葛藤する。なんせ、今手持ちにある1000ヴァリスはヘスティアが持たせてくれたものだ。しかも本来の用途は昼食と、万が一の夕食用であって、色鉛筆を買うためのものじゃない。そもそも、貧乏な【ヘスティア・ファミリア】にとって1000ヴァリスは大金の筈であって……ここまで考え、ルプスレギナは天啓がきたと言わんばかりに顔を上げた。

 

「あれっ、ルプスレギナさん…!?」

 

 突然立ち上がったルプスレギナに全員がたじろぐ中、振り返りもせずに雑貨屋へと入っていく。呆然とそれを見送った4人は、やがてショーウィンドウに飾られていた色鉛筆を嬉しそうに取りに来た店主をガラス越しに見て、更に数分後。

 カラン、と扉に付いているベルの音と、上機嫌な店主の見送りの声と共に()()()()()()()()ルプスレギナが出てきた。

 

「…ル、ルプス…?」

「あの、大丈夫…?」

 

 俯き、目元が陰になっていて表情の窺えないルプスレギナに、恐る恐るといった風にまずはティオナとアイズが話しかける。普段は笑顔の為に上がっている口角も今は下がったまま、やがてポツリと呟きが零れる。

 

「……ごめんっす」

「…な、なにがよ?」

 

「私ちょっと用事思い出したっす! みんな、今日はどうもありがとうっす! これからも良いお付き合いをお願いするっすよー!!」

 

「え、えぇぇっ!!? ……行っちゃいました…」

「行っちゃったね…」

「行っちゃったわね…」

「うん…」

 

 ヒールを履き、さらに巨大な聖杖を背負っているとは到底思えない速さで中央広場(ダンジョン)の方角へと走り去っていくルプスレギナの後姿を、4人は呆然と見送るのであった。

 

 

……

………

…………

 

 

「(遅い…いや待て、まだ慌てるような時間じゃない…いや、でも…!)」

 

 激しい貧乏ゆすりが時計の針の音さえも塗りつぶすほどに部屋の中に響き渡る。その音を響かせている主…ヘスティアは、昨日の今日で早速音信不通になっている眷属の1人に対し、探しに行くべきか待つべきかで激しく葛藤していた。

 時計は夜の10時を指している。普通に考えればまだ慌てるほどじゃないが、彼女――ルプスレギナは、今朝出発前に『夕食までには戻ってくる』という旨の発言をしたことを覚えている。故に、こんな時間まで戻ってこないのはおかしい。

 

 焦る気持ちを落ち着かせるべく視線を向けたのは、未だにベッドで安静にしているベルだ。規則正しい小さな寝息に僅かに心が余裕を取り戻し、それと同時にヘスティアはソファーから立ち上がる。

 

「(よし! 探しに行こう!)」

 

 少なくとも、今日であればすれ違いになったとしてもベルが居る――ずっと寝てるけど――から、問題はないはず。そうと決まったならば善は急げと言わんばかりに、隠し部屋から出る為の扉に駆け寄り手を伸ばすが…

 

「―――ぶぎゅ!?」

 

 ドアノブに手が触れるか否かというタイミングで、まるで見計らったかのように勢いよく扉が開かれ、ヘスティアは額をごつんとぶつけてしまう。胸も潰れてぶるんと震えた。おまけに両足の親指もがつんとぶつけてしまう。

 

「お…お…おぉぅ…ふ…」

 

 ぷしゅうぅ...と額から煙を上げて地面に蹲るヘスティア。額と足の親指を交互に摩っている。しかし、その直後頭上から降ってきた声に、すぐさまヘスティアは顔を上げた。

 

「……いやぁ、ごめんっすよヘスちゃん。大丈夫っすか? 《ライト・ヒーリング/軽傷治癒》」

 

「ル、ル、ルプスレギナ君っ!!?」

 

 ルプスレギナの治癒魔法により自身の体が淡い光に包まれたとか、それによって痛みがひいたとかはこの際どうでもよかった。見る限り衣服にも素肌にも怪我が無いのを確認したヘスティアは、後ろ髪を掻きながらも笑うルプスレギナが何か言う前にガバッと抱き着く。

 

「馬鹿ッ! この馬鹿馬鹿ッッ!! こんな時間まで戻らないで心配させてっ…! ボクが、どれだけ心配したか…っ!!」

 

「…ヘスちゃん…」

 

 背丈の違いから胸が邪魔してヘスティアの頭頂部から後頭部にかけてまでしか見えないが、耳に届く声が震えているのを考えるに、どんな感情を抱いているのか、どんな表情をしているのかは想像に難くない。

 昨日の今日であまりにも軽率な行動であったと今更ながらに反省し、ルプスレギナは右手に持っている袋を一旦床に落とすと、両腕をヘスティアの背中と後頭部に添えて。

 

「…ごめんっすよ、せめて一言でも何か伝えるべきだったっすね」

「本当…ホントだよ…っ! もう、このぉ…馬鹿ぁ…っ!」

 

 自分が確かに存在していることを確認するかのように抱き締めてくるヘスティアを緩く抱き締め返し、胸より下の位置から聞こえる嗚咽が止むまでの間、ルプスレギナは柔らかな黒髪を撫ぜ続けていた。

 

 

……

………

…………

 

 

「…それじゃあ、ベル君とダンジョンに潜れるようになったんだね!?」

「はいっす。やっとお2人の役に立てるっすよ」

 

 あれから数十分後、ルプスレギナはヘスティアに『ギルド』での出来事を報告していた。やはりダンジョンに潜る許可を得たということはヘスティアにとって非常に嬉しいことだったらしく、身を乗り出して瞳を輝かせている。

 まぁその気持ちは分かる。怪我こそ自分が治したものの、衣服などがボロボロだったのを見れば、ベルがダンジョンでどれだけ無茶をしたのか想像するのは簡単だ。自分というお目付け役…もしくは新入りが一緒になれば彼も無茶し辛くなる。それはつまり怪我をする可能性が減るということに繋がる。

 ベルの決意に対し背中を押そうと決めたとはいえ、あまりにも度を過ぎた無茶はしてほしくないヘスティアとしては、自分がベルと一緒に組んでダンジョンに行くというのは願ったり叶ったりなのだろう。

 無論、純粋に自分がダンジョンに潜れるようになったということに対しての嬉しさもあるだろうが。

 

「そっかそっか! それじゃあ、明日に備えて寝ないと…いや、先にご飯かな? もしかしてもうご飯食べちゃったかい?」

 

 ベルの事だ、目を覚まして【ステイタス】の更新をし次第ダンジョンに向かおうとすることだろう。それが分かっているからこそヘスティアはルプスレギナに今日はもう休んでもらおうと自分たちが腰掛けてるソファーから立ち上がろうとするが、ルプスレギナは両肩に手を置き下に向けて力を入れてまた座らせる。

 

「いやいや、私にはご飯も睡眠も必要ないっすよ」

「え? …あ、そっか…」

 

 今朝がた話した維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)の事を思い出し、ヘスティアはなんとも複雑そうな表情を浮かべ、それから恐る恐る尋ねてきた。

 

「…ねぇ、ルプスレギナ君…それは、その…肉体的な疲れだけじゃなく、精神的な疲れとかも大丈夫なのかい?」

「おっ」

 

 なかなかに鋭い指摘に感嘆の声が漏れる。ヘスティアの言うとおり、この指輪が原作の『オーバーロード』と同じであるならば、精神的な疲れには効果が無い。だからこそ、物語の主人公であるアインズは眠ることの出来ないアンデッドであるにも拘らず寝室のベッド――守護者統括殿の匂い付き――を憩いの場にしているわけなのだし。

 ただ、これもルプスレギナとなった影響なのかは知らないが、自分はこの指輪の効果を当然のように受け入れており、眠れないことなどに対する違和感や不快感はまるで感じない。こうやって人に指摘され、自分でも意識して初めてごく自然とこの指輪を受け入れている自分に驚いたくらいだ。

 

 まぁ兎に角、今のところ精神的な疲れは感じていないが、ヘスティアが聞きたいのはそういうことではない。ルプスレギナは小さく咳ばらいをすると、ゆっくりと首を横に振る。

 

「いんや、精神的な疲れにまでは効果が無いっすね。だから、私も余程のことが無い限りは眠るし、ご飯も食べるつもりっすよ」

「やっぱりそうか…でも、それならなんで今日は…?」

 

 睡眠も食事も断ったか。それは今から少しだけ時間を使い、ヘスティアに説明したいことがあるからだ。

 

「ヘスちゃんにはまだまだ私について伝えてないことがおおくあるっすからね。特に、今の私が保有してる特殊技能(スキル)や魔法についてなんかは、把握しといたほうがいいじゃないっすか?」

「…なるほど、確かにその通りだ。正直今更かよってツッコミたいレベルなんだけどね…」

 

 そう、これまでヘスティアは自分が普通の冒険者とはあまりにも異質な存在であることは知っているが、詳細までは小出し小出しで全体の半分も把握していない。【ファミリア】に入った以上それでは駄目だ。少なくともヘスティアには、最低限の部分――主にルプスレギナ・ベータの本来の性格とか――以外は把握してもらわねば。

 

「うひひひ、後だし、後言いは基本っす! …んじゃ、羊皮紙と羽ペンあるっすか?」

「それは味方にはやらないでおくれよっ!? …? まぁ、あるけど…なんでだい?」

 

 じとー、と半眼でこちらを見つめるヘスティアの抗議の視線をへらへらと笑って受け流す。後半の言葉にヘスティアが疑問を抱きつつもしっかりと羊皮紙と羽ペンを用意したところで、ルプスレギナはにっと笑んだ。

 

 

「言っとくっすけど、紙に書かずに一度で全部頭の中に入れるのは大変だと思うっすよ」

 

 

……

 

 

 今、ボクは体を揺すぶられている。

 

 肩を掴む誰かの両手は、何も見えない真っ暗闇からボクの意識を覚醒させようとしている。

 

 何故だろうか、僕は無性にその手を振り払いたかった…

 

 振り払いたかったの、だが…

 

 

「ヘスちゃーん! 起きるっすよー!」

「…んはっ!!?」

 

 すぐ目の前から飛び込んできた聞き馴染みのある声にすぐさま意識を覚醒させ、脱力した状態から復活する。嗚呼しまった、起きてしまった…ほぼ無意識のうちに心の中で零した呟きに、ヘスティアはゆっくりと自身の膝の上に置かれている()()()羊皮紙へと視線を落とした。

 

「やれやれ、大丈夫っすか? これで3回目っすよ?」

 

 そう、3回目…ルプスレギナが所有している特殊技能(スキル)と魔法の名前と効果を聞いて羊皮紙に纏めていくという作業の間に、ヘスティアは3回も眠って…いや、気絶していた。

原因は言うまでもなく、この羊皮紙に掛かれている内容と量だ。 

 

 まず、1枚目…この時は、その特殊技能(スキル)と魔法とやらも足して精々6つか7つほどだろうと思っていた。一つ一つの魔法の名前と効果を見易さ重視で大きめの文字で書いているのがいい証拠だ。だからこそ、10個(ナイン・ヘル)を超えた時点で1度気絶する。

 

 次に、40個を超えた時にルプスレギナが溢した『これで全体の3分の1くらいっすね』という言葉で2度目の気絶。

 

 そして、総数150を超えて漸く全部の特殊技能(スキル)と魔法の説明が終わり、隙間なくびっしりと文字の書かれた羊皮紙を見て3回目の気絶をした。

 

 

「は、はは…ぼかぁね、寧ろ3回の気絶だけで済んだ自分を褒めてやりたいよ…」

 

 力なく笑うヘスティアに、ルプスレギナは不思議そうに小首を傾げた。本来、この世界の冒険者が覚えることの出来る魔法は最大でも3つまで。中には3種類の魔法を3つの階位に分けることで事実上9つの魔法を操ったり、特定の条件下における魔法であればいくつでも使用することの出来る魔法使いという者はいる。だが、そういった人物はほぼエルフであり、しかも相当レアだ。

 

 それに対してルプスレギナはウェアウルフ…じゃない、ワーウルフであり、詠唱無し――本人にこれを言うと『めっちゃしてるじゃないっすか』と否定されるが――で、150以上の魔法を扱える。ずば抜けたイレギュラーだ。

 

 

 すでに分かってはいたことだけど…分かっては、いたこと、だけど…!! 絶対!! 他の神々には彼女の秘密を知られてはいけない…!! だって、こんなに数多くの、しかも利便性の高い魔法………んん??

 

 

「……ねぇ、ルプスレギナ君?」

「ん? どしたっすか?」

 

 まじまじと羊皮紙の1枚を見つめながら、ヘスティアはふと尋ねた

 

 

「……この《メッセージ/伝言》っていう魔法使えば、今日の帰りが遅くなることぐらい、伝えられたんじゃないかい?」

 

 

「………あ」

 

 

 

 

 直後、部屋に響いた子供っぽい怒声に、ベルは眉を顰め寝返りを打つのであった。

 

 

 





【アマゾネス衣装のルプー】
モデルはサモンナイト4のアロエリみたいな感じ。結構似合うと思うの。頭のアレはいらないけど(笑


【レフィーヤみたいなタイプ】
(エンリ + ンフィーレア)÷2 ≒ レフィーヤというのが鈴木実の印象。


【獲物が大決定】
元ネタは某道化魔導師(CV.セバス・チャ(ry
本当はレフィーヤが標的なのに完全に煽りを食らうアイズ。


【変わり種の衣装】
訓練されてる皆様ならなんて叫ぶか分かってるはずだと信じてます←


【ボインボイン四天王】
色々な意味で一番強いのはティオネ。


【冒険者は同じデザインの服を持っている】
某鬼畜王とか某大怪盗的な。


【鈴木実の趣味】
お絵かきたのしす。
なんでアナログしか書けないのかっていうと、私がそうだからです(ぇ
今後少しだけこの趣味が活躍しますが、当分の間はあまり気にしなくていいです。多分。


【ヘスティアとの勉強会】
今後も少しずつルプーの事を教えていくつもり。ベル君には最低限知っておいた方がいいであろうことを教えていく予定らしい。
別にこの辺は次話でもよかったかなとは思ったのですが、第2章に入ってもベル君寝てるのはどうなのかと思い、無理やりねじ込みました。


次回から第2章。ちょっとテンポが悪すぎるので、もう少し駆け足でストーリーを進めていきたいです。


※ドン吉様、zzzz様、誤字報告ありがとうございますosz



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