笑顔仮面のサディストがダンジョンに潜るのは間違ってるっすか? 作:ジェイソン@何某
どうでもいい近況報告:ジェイソン、ついに叔父さんになる。姉貴、よくまぁおめでとう(真顔
それと実家が梨農家なので、夏から秋にかけては更新頻度がぐっと落ちるかと思われますが、ご容赦くださいませosz
重要な報告:お気に入り2000件超え有難う御座います!!これからもよろしくお願いいたしますosz
あと、今回からあとがきの書き方を変えてみます。読みやすい書き方って難しい。
第13話『勧誘と華達っす』
「――ったく…強引に連れ出したかと思えば、買い物なんて…」
「いーじゃんかたまにはさ! 気晴らしにぱーっとお買い物!」
北のメインストリートへと続く長く広い階段を横一列に歩く美女たちの姿は、一般人も冒険者も関係なくすれ違う男たちの視線を釘付けにする。首元に右手を置いて気乗りしないという態度を見せたのは、ティオネ・ヒリュテ。そんな彼女とは対照的に乗り気――買い物の発案者なのだから当然だが――なのが、ティオネの妹のティオナ・ヒリュテ。褐色の肌に露出度の高い服、その2つの特徴だけで、彼女たちが普通のヒューマンではなくアマゾネスであるということが分かるだろう。
「えぇと…それでティオナさん、何を買いに行くんですか?」
2人のやり取りを聞いたのち、おずおずと声を掛けたのは4人の中で唯一の
「服! 服買いに行きたい! アイズもそれでいいよね!?」
「う、うん…」
活発さの溢れ出るティオナの言葉に金の長髪を揺らし頷いた最後の一人は、髪と同じ金の瞳。エルフや女神にも劣らぬ美貌。どこか神秘的な雰囲気を纏う蒼色の軽装姿のヒューマン。名をアイズ・ヴァレンシュタイン。恐らくこの4人の中では最も有名な第一級冒険者である。
「ほらほら、アイズってばもっとテンション上げてこー! おー!」
「お、おー…」
元々、今回の買い物は昨晩から妙に元気のないアイズの様子が気になった事が発端だ。ティオネとレフィーヤも今日は特に用事がなかった――ティオネは団長がどうのと言ってた気もするが――様なので、こうして4人で行動している。あまり頭は良くないと自負しているティオナなりの気遣いである。
「…うん? なんだか妙に騒がしいわね…」
「本当ですね…なにかあったんでしょうか?」
メインストリートからいざ服飾店の並ぶ方へ向かおうとしたその時、いつも以上に騒がしい周囲の様子をティオネが訝しむ。買い物を楽しむ者たち特有の騒がしさではなく、『冒険者通り』の方などで見られるような慌ただしい騒がしさだ。現に4人の目の前をばたばたと走り去っていく男たちを見て、ティオネ達は首を傾げた。
「……」
「ん? どったのアイズ?」
そんな中、とある場所――建物と建物の隙間にある路地裏の入り口をじっと見つめ続けるアイズに気が付いたティオナは、ひょいとその顔を覗き込む。『うん、ちょっと…』と気のない返事と共に路地裏へと向かい歩き出すと、ティオナたちは慌ててその後を追う。
「アイズさん、どうしたんですか? …こ、こんな何もない場所…」
「しっ。 レフィーヤ、少し黙って…」
「…ティオネも、感じた?」
「……」
心配そうに見つめるレフィーヤの口元に人差し指を軽く押し当てたティオネは、真剣な表情でアイズが見つめている路地裏を睨んでいた。その隣に立つティオナもまた何かに気付いたようだ。そして相変わらず口を噤んでいるアイズも入れた3人は、とある1か所――隅に置かれた木箱の後ろを注視して。
「…そこに誰かいるんでしょ? 出てきた方が身の為よ?」
やがて…
「いやーいやいや…流石に第一級冒険者の目は誤魔化せないっすかね?」
「あっ!」 「アナタは…!!」 「……」 「…やっぱり…」
音もなくその場に
いや、ルプスレギナ以外の3人には分かるのかもしれない。ティオネがルプスレギナに対してどのような感情を抱いているのかを。
「そっちのエルフの子は気付けなかったみたいっすけど…なんで3人は気付いたんっすか?」
「…集中すれば気配とか匂いでわかる、よ?」
「ア、アイズさん凄い! 流石です!」
「…あたしたちは無視なわけー?」
ティオネの射殺すような視線を努めて無視し、まずは気になっていた自分が見つかった理由を尋ねてみる。そしてそれを聞いた時、先日のアイズの視線にも納得がいった。そして同時に、アイズが気付けた以上他のレベル5以上の冒険者にも姿を消していた自分の存在が分かっていたのではと思ったが、アイズにきらきらと輝く目を向けるレフィーヤに拗ねるように唇を尖らせらたティオナの『まぁ、確かに昨日は驚いてて気付けなかったけど…』という言葉に内心で胸を撫でおろした。
「……」
「え、えぇーと…なんで、メイドさんはそこに隠れてたの?」
依然としてティオネの瞳に宿る剣呑な光から目を逸らし、ティオナはルプスレギナに話題を振った。そもそも、彼女が
「あー…いやぁ、その…なんて言えばいいんすかねぇ…」
ルプスレギナは困ったように頬を掻き、視線を泳がせる。説明する気はあるらしいから、後ろめたい理由というわけではなさそうだ。そんなに説明するのが難しいのだろうか、だとすると、自分じゃ説明されても理解できないかもしれない、なんて眉尻を下げ余計な不安を抱いたティオナだったが、不意に後方からばたばたと駆け寄ってくる足音が聞こえてきて、全員が振り返った。ルプスレギナだけが『げっ』と小さく零す。
「おぉーい!! 君たち、ロキのところの眷属だろう!?」
やってきたのは1人の成人男性――4人はその人物を見て、すぐに男神だと気付く。男用チュニックという風変わりな服装もそうだが、纏う神威が何よりの証拠だ。肩で息をしながら自分たちの前までやってきた男神を訝しむ4人であったが、ひとまずは大人しく首肯する。アイズの軽装などのエンブレムから既に自分たちが【ロキ・ファミリア】の眷属であると当たりを付けていた男神は、『あぁやっぱり』と言葉を紡ぐ
「実はヒトを探しているんだ。昨日『豊饒の女主人』で働いてたメイド服の娘だ。君たちも知ってるだろう?」
「あ~…」
どこか上から目線な口調は、しかし彼が神なんだから仕方ないとティオナたちは気にしない。それに、その顔とチュニックの胸元にあるエンブレムで、目の前の男神が中規模のファミリアの主神であるとわかった。そして、探しているという人物の特徴に、流石のティオナも大体理解する。
ちら、と背後に視線を向けるとそこには――誰もいない。 あれ? と一瞬思ったが、よく見れば居なくなったわけではない。
「……」
男神と向き合う形になった結果一番後ろの立ち位置になったアイズが、僅かに困ったように眉尻を下げしきりに背後を気にしている。ティオネ達の御察しの通り、ルプスレギナはその後ろに居る。《完全不可視化》で姿を消したうえ、アイズの背後に隠れているわけだ。
「…? どうしたんだい? あの娘がどこにいるか、知ってるかな?」
「あ、あ~…えぇっともが…!?」
「…」
此方が何か知っていると踏んだか再び質問を投げかけてきた男神に、ティオナは一瞬だけ逡巡するも馬鹿正直に答えそうになる。それを横から口を塞いだティオネは、何も言わずに中央広場の方角を指差した。
「おぉっ! あちらの方にいるのだな!?」
先ほど自分がやってきたばかりの中央広場を振り返る男神に、ティオネはやはり何も言わず微笑んだ。普段ならば訝しんで当然の行動も、しかしこの男神は気付かない。うだうだしてる間にルプスレギナに逃げられては叶わんと服飾店の方を探していた
「おぉい!! あっちだ! 中央広場に戻ったようだぞ!!」
「なにぃ!? チクショーすれ違ってたか!!」
「よっしゃ今度こそ俺が口説き落とす!!」
「バカヤローお前なんかにさせてたまるか!! 待ってろルプスちゃん!!」
出し抜こうとせず、全員引き連れていくあたりは流石
「……もう大丈夫よ」
不機嫌さを隠そうともしない低い声でティオネが告げると、程なくしてアイズの体を盾に隠れていたルプスレギナが姿を現した。
「いや~助かったっすよ。お礼を「礼なんていらないわ」…そうっすか?」
からからと笑いながらもアイズから離れたルプスレギナは礼の言葉を述べようとするが、それもまたティオネによって遮られる。妙に刺々しいその態度に眉を顰めるものの、昨晩の一件と何か関係があるのだろうと考え、取り敢えずは気にしないように努め
「それでそれで!? どんな経緯で
神々が去ったところでまた興味津々に瞳を輝かせたのはティオナだった。なぜ彼女が隠れていたのかは分かった。ならば今度は、どんな経緯があって隠れることになったのかが聞きたい。神々に追われる理由そのものは分かる気もするが。
「あぁ~…まぁ、正直に話すっすかね…」
諦めるように肩を竦め、ルプスレギナは窮地(?)を救ってくれた4人に事のあらましを説明するのだった
…………
………
……
…
「「「――――見っけぇぇえええええええ!!!」」」
「………え?」
突如として耳に届いた大声に、ルプスレギナは漸く此方へと疾走してくる男たちの姿に気付いた。
慌てて顔を声の聞こえてきた方へと向けると、古風な装いの男――男神たちが、自分の事を取り囲むべく行動を開始していた。ほんの一瞬、敵対行動とみなして背中の聖杖を抜きそうになったものの、なんとかそれを堪えて自身を囲んだ男神たちを見渡す。
「やっぱり『ギルド』に居たのは君だったかぁ…!!」
「お前の情報通りだったな! お陰で近隣を見張る必要もなくなったぞぉ…!!」
「報・連・相は基本」
「君を探してたんだぜ、愛しの
最後の神ぐらいは殴ってもいいかな? いいよね? ね?
最後のウインクに全身鳥肌が立つのを感じつつ、なんとか状況を考える…で、気付いた。目の前に居る男神の中に、さっき自分が起こした『ギルド』での騒動に交じってたのがいる。ついでに言うなら、この男神たちは昨日も見た気がする…どこでかって? そりゃあ『豊饒の女主人』でに決まってるじゃないか。
だとすると、彼らがこうして自分を取り囲む理由は1つだ。
「ねぇねぇルプスちゃん!! 俺の【ファミリア】に入らない!? ルプスちゃんみたいな綺麗で強い子、【ファミリア】総出で大歓迎なんだけどなー!?」
「てめぇズルいぞ! こんな弱小【ファミリア】の主神なんて放っといて、俺んとこおいでよ!! 同年代の女の子も沢山いるぞ!! もちろん逞しいウェアウルフの男も!!」
「えぇい
「俺っちのとこに来れば毎日楽できるし可愛がってあげるぜ
次パピーっつったら殴る。問答無用で殴る。
やはり彼らの狙いは自分の勧誘だったらしい。まぁ、喧嘩の結果は知らずとも、第一級冒険者を殴り飛ばす実力があることは知られたのだから、勧誘事態は想定していたが…
流石にただならぬ形相と勢いに笑顔を維持するのも難しく、ルプスレギナは眉を顰める。だが、そんな表情すらも神々は『綺麗』だの『ギャップ萌え』だの叫んで、さらに一歩距離を詰めてきた。
「いやいや、モテる女は辛いっすねぇ。 ただ、私はもう【ファミリア】は決まってるんで。この都市でその御方以外に忠誠を誓うつもりもないっすから、ここはどうぞお帰りを…」
「愛の前にそんなものは些末な事だぜ☆」
「そうそう!! 俺の胸に飛び込んでおいでー!!」
野郎ここにきてパピーは抜きか。神の危機回避能力ちょっと舐めてた。
握った拳が無駄になった僅かな悔しさをへらへら笑って誤魔化し、さっさと帰らせようとするが流石は神。一向に帰ろうとしない。
「…真面目な話、ルプスちゃんって何者なわけ? ルプスちゃんの事、俺今まで全然知らなかったんだけど」
「第一級冒険者を殴り飛ばすからにはただモンじゃないよねー? お兄さん気になっちゃうなァ」
「レベルか? スキルか? その背中にはどんな秘密が隠されているのやら~?」
「気になる気になる。 女の子にこんなこと言うとか、ちょっぴり犯罪臭いけど…脱がせていい?」
「ちょっぴりどころか完全に犯罪だなそれ。でもそこが良い!!」
「さぁ、観念してその“ちょこれぇと”のように甘美な柔肌を見せておくれ
良かった、握った拳は無駄にならずに済んだようだ。一応加減はしてあげたから
…余談だが、後に殴られた神はこう語った
「報復? まさか!
幸運にも最悪の事態を免れたルプスレギナが目指すはホーム…の、筈だったんだが…
…
……
………
…………
「あのあと中央広場でも違う神様方に見つかって、こっちに逃げて、隠れてたとこを皆に見つかって今に至るって感じっすね…」
「な、なるほど…」
「うはぁ~、それは大変だったね」
一通りの説明を終えたルプスレギナに、同情の言葉を向けてくれるのはレフィーヤとティオナ…いや、アイズも視線でこちらに同情してくれている。娯楽に飢えた神々が自分のようなぽっと湧いて出てきた強者に興味を示さない筈がない。そして、【ロキ・ファミリア】の主力である3人と、将来が有望視されている1人もまた、いくら都市最大派閥所属という庇護を受けているとはいえ、こういった神の強引な勧誘を受けた経験はあるのだろう…勧誘をした神々がその後どうなったかは分からないが。
「話は分かったわ…でも、私は
皆が自分に同情してくれる流れをぶった切ってそう告げたのは、案の定ティオネだった。
大きな借り…即ち自分を追いかけていた神々から庇ってくれたことだろうが…もともと彼女たちが自分に気付かずスルーしてくれれば良かったのに、何が借りか、とは言わないでおく。
「……何が言いたいんっすかね?」
互いの間に流れる剣呑な空気におどおどするレフィーヤと、困ったようなティオナとアイズ。だがしかし、頭の中では少しナイスだとティオネを褒めたくもあった。
『豊饒の女主人』でロキにルプスレギナ・ベータと名乗っていたこの女性は、顔も名前も知らないことからまだこの都市に来たばかりだということは分かる。だが、ベートと張り合えるほどの実力者だと判明したあの瞬間、彼女の素上に全員が興味を抱いた。
今回の“貸し”を利用して彼女にそのあたりを問い詰めれば、大なり小なり彼女の事が分かるかもしれない。少なくとも彼女の姿を消す技の秘密くらいはと、ティオネを見つめる3人はそう考えたが…
「私が言いたいことはただ1つ…
「「「「………は?」」」」
ルプスレギナは知らなかったし、ティオナ達は忘れていた。そもそもティオネがルプスレギナを敵対視し始めた理由がどこにあったのかを。
ティオネを除く4人は全く同じ反応を示し、やがて3人が呆れたように納得するのを見て、ルプスレギナはティオナに耳打ちする。
「…“だんちょー”って、誰っすか?」
「んあー…“団長”ね、覚えてるかな、『豊饒の女主人』で私たちと同じテーブルに座ってた、金髪の
いくつか特徴を告げられて脳裏に浮かんだ人物は、ティオナの言った通り金髪で童顔の
成程、と納得したしたところであらためてティオネを見る。ティオナたちと耳打ちしていた自分に露骨に眉を顰めるその様を見て、そしてなんだか少し前にも似たようなことをどこかの
「……その心配は無用っすよ」
「なっ…あんたまさか、団長が魅力的じゃないと言いたいわけっ!?」
いやいや何故そうなる。そしてそれはそれで怒られるのか。
内心で狼狽えながらも笑みを作ったルプスレギナは、しれっとティオネにこう告げた。
「…だって、入り込む余地なんてないと思ったんすもん」
「…どういう意味?」
「いやぁほら…あのイケメン団長さんの隣に寄り添うあなたの姿が、あまりにも
「「「……」」」
「(かか、懐柔しようとしてるーーっっ!!?)」
へらへらと笑いながらも言葉を並べるルプスレギナにぽかんとした表情を浮かべたティオネ達3人。唯一レフィーヤだけが彼女の思惑に気付いて――っていうか、気付かない方がおかしいとは思うが――心の中でツッコミを入れる。
だが、流石にこんな見え見えのおべっかに引っかかるほどティオネも甘くはないだろう…そんな考えからちらりと視線を向けてみると
「…そ、そう? なら、いいのだけれど……お妃、さま…くふふ…」
「(懐柔されたーーーっっっ!!!!??)」
「(チョロイ…てか、この既視感は一体…)」
小声で“お妃さま”という部分を反芻してはくふふと笑うその姿を見て、ルプスレギナ…もとい、鈴木実は幻視した。黒髪、白い肌に白いドレス、頭の角と黒い翼…ああ、成程と納得し、やがてにやりと不敵に笑う。
「そんなわけで、借りを返すっていうのなら私からいくつか団長さんの心を射貫くアドバイスをしてあげるっすよ」
「えっ!? なになに、なにかあるの!?」
案の定、
…
……
「な…なるほど…べべ、ベッドに残り香を…」
「そうっす。言うまでもなく香水は普段使ってるもので。普段よりも強く香水掛けるのは駄目っす。あくまでも団長さんには『どこかで嗅いだ気がする香り』程度の認識しか持たせちゃ駄目っす。残り香があまりにもはっきり残ってると、速攻で誰の仕業かバレちゃうっすからね。まずは少しずつ自分に対する好意を無意識のうちに上げさせるんっすよ」
「でも、やっぱ回りくどくない? 団長の不在時を狙うなんて…夜這い掛けた方が手っ取り早いんじゃ…」
「そんな容易く篭絡できるんすか? 私には見えるっすけどねぇ、数人がかりで取り抑えられて、『謹慎3日』って団長さんに言われる姿が」
「うぐ…」
「「……うわぁ…」」
「…?」
数分後、そこには頬を赤らめながらも真剣に話を聞くティオネと、にこやかに彼女にアドバイスをするルプスレギナの姿があった。なぜだろうか、ティオナたちの目には、ルプスレギナの浮かべる笑みが三日月を描くように吊り上がっているように映っている。
まぁ、今のところはドン引きながらも静観する2人…アイズはアイズで、ルプスレギナとティオネのやりとりに小首を傾げていた。
…
……
「…あ、そういえば自己紹介がまだだったね!」
「ん? そういやそうだったっすね」
2人の怪しい談合が終了したところで、ティオナが思い出したかのように薄い胸をドンと叩いた。ルプスレギナもまた、目の前の4人の中で名前を知っているのはアイズくらいだと思い出す。
「あたしはティオナ・ヒリュテ! よろしくねメイドさん!!」
「私はティオネ・ヒリュテよ。よろしく」
「あ、私はレフィーヤ・ウィリディスです! よ、よろしくおねがいします…」
「…アイズ・ヴァレンシュタインです…よろしくお願いします」
横に並び、順番に自己紹介していく者たちを見据える。顔を見て名前と共に記憶し、ついでに視線はやや下に…
ルプスレギナ目線だと、4人の評価はこんな感じだ
ポイン ポヨン ボイン ストーン
「…アイちゃんに、レフィーちゃんに、ネーちゃんに、男胸2号さんっすね、よろ「ちょっと待てー!!」…痛いっす」
冗談半分で告げた愛称に、やはりツッコミを入れたのは4人の中で唯一
「な、な、何さ男胸2号ってー!!」
「何って、愛称じゃないっすか!」
「どこがよー!? 愛称って、親しみを込めて呼ぶ時のものでしょー!!?」
「うひひ、冗談っすジョーダンっすよー。乙女のちょっとしたおふざけっす。許してほしいっすよ」
両手を上げてぷりぷりと怒るその様に心底可笑しそうに笑って、しかししっかりと謝罪はしておく。まさかほんの冗談のつもりがここまで抗議されるとは思わなかった。本人なりに気にしていたということか。
するとこの後、頬を膨らませそっぽを向いたティオナが聞き捨てならないことを口にした。
「ふんだっ! いーもんいーもん、うちにはロキがいるんだからー!」
「……なんでここでロキ様が出てくるっすか?」
純粋な疑問を口にしたルプスレギナに、呆れた様子のティオネが妹に代わって答える
「いやほら、ロキの方がティオナよりも胸無いでしょ? それを言いたいのよ…」
「…は? あの方って男じゃないんすか?」
「いや、れっきとした女神よ、アレでも」
「……それマジ?」
「…うん」
「………」
思わず素の口調になりながらもアイズに確認を取り、気まずい沈黙が流れる。 やがてティオナへと向き直ったルプスレギナは、両肩に手を置いて
「よろしくっすよ、
しれっと訂正。
「(ロキごめん!! でもありがとう…!!)」
この日、ティオナは久々に心から主神へと礼を告げることになる。
「はぁ…ティオナは相変わらずね…」
「…でも、ティオナらしいかな」
「……」
「…うん? どしたのよ、レフィーヤ。 …おーい?」
「…?」
「(アイちゃん…アイちゃん…!? アイズさんの事を、愛称呼び…!?)」
ルプスレギナとティオナのやり取りの一方でもう1人、ルプスレギナに抗議の視線を向けるものが。エルフのレフィーヤは、自身が慕っているアイズの事をいきなり愛称で呼んだ彼女に失礼ではないかと思った一方羨ましかった。
自分たちの事も含めて愛称で呼んでいるのだから、それがルプスレギナの性格なのだとは理解できる。ただやはり妬ましい。そしてレフィーヤは妄想する。自分もアイズの事を愛称で呼んでみたいと…
……☆……
「レフィーちゃん…うん、とっても似合ってて可愛いね」
「かか、可愛いだなんてそんなっ!? わ、私なんか全然っ!?」
「…私は、とても可愛いと思うよ? レフィーちゃん…私も、そう呼んでいいかな?」
「はうあっ!? もも、勿論です!! それがアイズさんのお望みとあらばっ!!」
「ありがとう…なら、レフィーちゃんも私の事アイちゃんって呼んでいいんだよ?」
「えぇっ!!? そ、そんな恐れ多いです恐れ多いです!! わ、私がアイズさんの事…ア…ちゃん…なんて…」
「…私は、呼んでほしいな。ダメ?」
「……っ…アイ…ゃん…」
「…聞こえないよ? もっと大きな声で、親しみを込めて呼んでほしいな、レフィーちゃん」
「っ…はい! アイ…」
……★……
「…レフィーヤ?」
「ちゃあぁぁぁぁぁんっっっ!!!??」
妄想の世界から急激に呼び戻された為に上がった悲鳴を、全員がぽかんと眺めるのであった。
…
……
「…っと、そういや私の番っすね。まぁ分かってるとは思うっすけど念のため…私はルプスレギナ・ベータっす。ルプスレギナでも、ルプスでも、自由に呼んでいいっすよ」
なんやかんやで自分も自己紹介を終える。因みにルプスと呼ぶことは構わないが、ルプーとは呼ばせない。なんとなくだが、ルプーと呼べるのは同じ【ファミリア】の仲間だけなのだと決めてるのだ…やっぱりなんか忘れてる気がするが。
「おっけールプス! それで、今日はこの後どうするの!?」
「なんでそんなこと…あんた、まさか…」
「…? 今日は別にこの後の用事なんかはないっすけど…?」
“メイドさん”から愛称と呼び方を変えたティオナの質問にいち早く反応を示したティオネ。ルプスレギナは質問と意図が分からず首を傾げつつも、この後の用事は特に未定であると告げる。
「じゃあさ、あたしたちと一緒に買い物行こうよー!」
「はっ…? いやいや、お誘いはありがたいっすけど、大丈夫なんすか? 昨日の一件とか…」
ルプスレギナ個人としては、既に昨日の一件は
「あれはベートが悪いんじゃん! もちろん、私たちにも責任があるのは分かってるけどさ…」
「そうね。順番は間違えちゃったけど、先に昨日の事謝らせて頂戴」
「「「「すみませんでした」」」」
ぽかん、と呆けてしまった。昨晩も違う女性4人に謝られてしまったが、自分は何故にこんな謝罪されやすいのだろうか。ハッと我に返り、ルプスレギナは4人に頭を上げさせて。
「私は気にしてないっす。ベルっち…私の仲間も、あれぐらいでへこたれるような弱い子じゃないっす。むしろ結果的に、あの子にはいい刺激になったみたいっすしね」
「…そうなの? よかったー! それならあたしたちも安心だよ! でもでも、機会があったらあの子にも直接謝りたいな」
「うひひ、皆みたいな美人さんたちに謝られたら、あの子は緊張で顔真っ赤にして『いえ、こちらこそ!』なんて叫びそうっすね」
「そう、それはそれでちょっと見てみたいわね」
「……」
取り敢えずけじめをつけていつもの調子に戻った3人に対し、アイズだけがまだ浮かない顔をしている。ルプスレギナはそれに気付いたが、今は敢えてスルーしておこう。
「…あー…でも、問題はそれだけじゃないっすよね。私たち、そもそも【ファミリア】が…」
言うまでもなく、自分と彼女たちの【ファミリア】は違う。そして、特に同盟を組んでいるわけでもない違う【ファミリア】の冒険者同士が交流することは滅多に無いということも知っている。素性を隠している自分は勿論のこと、有名な彼女達だって、本来他の【ファミリア】とは極力関わらないべきなのではないかと、そう尋ねるが…
「…まぁ、私たちは別に気にしないわよ。勿論、無闇な詮索はお互い禁止ってことにすればね」
「…うん、私も別に、気にしないよ…?」
「わ、私もっ…アイズさんがいいのであれば…」
どのみち、ティオナは言い出したらなかなか止まらないと知っているのだろう、本来一番に止めるべき立場だろうティオネもあっさりと首を縦に振れば、アイズとレフィーヤも同調する。ルプスレギナはそれでも僅かに逡巡するが、やがて小さく頷くと。
「…そういうことなら、是非ともついてって良いっすかね? こっちの方は初めてなんで、道に詳しい人が居たら助かるっすし」
昨日の一件含めて向こうが気にしないというのであれば、ルプスレギナとしては都市最大派閥の【ファミリア】との良い繋がりになる。そこから勧誘なんて流れも、この4人ならなさそうだ。それに、いい加減この都市のどこに何があるのかも少しは理解しておくべきだろうし、細かい問題さえ気にしなくて済むのなら彼女たちの誘いは渡りに船だ。
「やったー! それじゃ、早速行こっかー!!」
「おーっす。…で、具体的には何買うんすか?」
「服よ。ついでにあんたも何着か買っていったらどう?」
ティオネの言葉にふむ、と考える。ぶっちゃけ買い物に関してはついていくだけで何か買うつもりはない。だって、今は手持ちがないんだもの。元々持ってた
「…ま、今回は見るだけにするっすよ」
「そっかー、残念だけど、でもせめて試着とかには付き合ってよー!」
「そ、そうですね。それがいいです、えぇ!」
金の事は伏せ、買うつもりはないと告げると残念がるティオネ。試着云々の言葉にやけに食いついたレフィーヤだったが、何かを期待するような眼差しに首をかしげてしまう。
そして、彼女が自分に何を期待していたのか…それは、この後向かう服飾店でよく理解することになるのであった――
前書きにも書いてあるように、今回からあとがきの書き方を変えてみました。
【完全不可視化しても居場所がバレる】
まぁ、Lv.5なら気配とか匂いで分かると思います。大体Lv.4くらいになればルプスレギナが静かにしてても気付けるんじゃないかなぁと。
【懐柔されるティオネ】
パロディ的な意味で“あの守護者統括”ポジになってもらうため、原作よりもチョロくなってもらいました。お嫁さんじゃなくてお妃さま。くふふ。
【ご褒美】
一発殴られただけならご褒美。殴ると回復を繰り返されたら拷問。
【ロキ】
めでたく女神と認識されました。
【ルプスとルプー】
完全に私の独自設定です。ソリュシャンとか普通に“ルプス”って呼んでるし。