東方今昔鬼物語   作:PureMellow

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職場異動で引っ越しして、ウマ娘に浮気してました。
すみません。

そんで新連載始めました。


そして俺ハ、

 

 

 彼の村に追いつき、そして見つけた彼の気配が

 

 

 細い糸がギリギリと音を立てて

 

 

 真っ直ぐに張り詰めていたそれは

 

 

 やがて耐え切れず、勢いよく弾け

 

 

 そして、彼は──

 

 

 

 

 

 道中で旅路の供を見つけたことで、いつもの帰路よりも退屈がなく済んだ。

 お陰で、冬の早い日沈の前には村へと着けそうだ。

 

「もう一刻もなく到着するぞ」

 

「あら、思ったより早かったわね……ふぅ」

 

 冬とはいえ、荷車を引きながら一日中歩いていると体がじんわりと汗ばんでくる。

 あと一息と、俺は水を飲んだ。

 

 隣で息を吐く紫に水筒を差し出すと、彼女は礼を言って受け取った。

 

 ふと、空を見上げる。

 西陽が山を燃やし、黄昏に染め。

 その反対の空からは、月が昇り始めていた。

 気温も下がり、白い息が目立ってきている。

 

「もう少しだし、歩を早めるか」

 

「そうね。寒くなってきたし早く暖を──ん?」

 

 隣を歩く紫が、疲労を見せていた表情から一転、表情を消した。

 

「どうした?」

 

 彼女の雰囲気が緊張を纏うのが見て取れ、俺は訊いた。

 

「ねぇ、急いだ方がいいわ」

 

「なんだ」

 

「…の……が、するの」

 

「………何?」

 

 小さく紫は呟いた。

 俺が訊き返すと、紫は冷たい声音はっきりと告げた。

 

「ーー血よ。酷く悍ましい、濃密な血の臭い。この道のずっと先から」

 

 俺は言葉を失った。

 

血?

 この先の道には、俺の住む村しかないのに?

 

 無情にも、意識した途端に俺の鼻にも血の臭いを感じ取った。

 体から熱が消えていき、緊張の糸が細く張り詰めていく感覚を帯びた。

 

「柊、先に行って。荷車は私が引いて追いかけるわ」

 

「ーーッ、すまない!」

 

 俺は応えるや否や、すぐさま台車を捨てて全力で駆け出した。

 

 無事で……無事でいてくれ……!!

 

 緊張により、呼吸と脈が加速する。

 

 ーーざわりと、俺の頭の左側がまた疼き出した。

 

 

 

 

 

 そこは地獄だった。

 

 村は、既に滅んでいた。

 

 篝火が落とされ、斜陽に照らされる村。

 

 家屋は倒壊し、畑は荒らされ、家畜は死に絶え。

 

 村中の空気は、吐き気を催す血肉の腐乱した臭気が支配し。

 

 あちこちにある、赤い水溜りの中心には、顔を見なくても分かる家族に等しい村民の姿。

 

 村民は臓物を晒す者、四肢を欠損する者ーー何かに喰われた跡の者。

 

 そこはまさに、地獄以外に何と言うのか。

 

「ーーなぜ、」

 

 なぜ、どうしてーー、

 

 村の入り口で立ちすくみ、変わり果てた村に呆然とする。

 

 ふらりと一歩踏み出した足に、何かがぶつかった。

 

 ーーそれは、愛しい家族の、横たわる姿。

 

「姉、さん……」

 

 新婚になって、旦那の小次郎さんと仲睦まじく暮らしていた下の姉。

 この上ない絶望と苦しみを受けたであろう悲痛な表情を残して死んでいた。

 姉さんが想像を絶する苦痛を受け死に絶えたのは明白。

 

 俺は力なく膝を着き、動かない姉さんに触れ、抱きしめた。

 姉の身体に熱はなく。その冷たく硬い肌の感触が、より死と絶望の現実を己に容赦なく実感させる。

 

 声にならない悲鳴が喉を貫いた。

 

「ーーッ、ぁぁーーッ!」

 

 その亡骸を抱いた時、またあの頭の疼きが訪れる。

 今までにない、心臓が脈打つような激しさを伴って。

 

 

 ーーああ……どうシて、ナゼ。

 

 

 この慟哭に呼応するように、胸の内から湧き上がるこの現実への憎悪が。

 絶望に打ちのめされた、伽藍堂の己の自我を侵食する。

 

 

 ーー自身の未来を考えなくてはと。

 

 家族と、家族のように育ってきたかけがえのない村民たちを支えていく村長としての未来と。

 

 花のように可憐で儚く、小さな体躯に重い使命を背負い、受け入れ全うしようとする少女との恋慕に焦がれた己の幸せとを。

 

 簡単に答えが出せないから。

 これから時間をかけて、考えていこうと。

 

 そう思った矢先に、歩き出した途端に。

 

 目の前の道は奈落の底だった。

 

 

 ーーナゼ。だレが……殺シた………?

 

 

「ーーー生存者か? いや、貴様は……ああ、藤原殿のお気に入りの庶民か」

 

不意に、そんな声が目の前から聞こえてきて。

 最早思考も儘ならない意識の中、虚な視界がそれを視た。

 

 村の中心から歩み寄る、人影。

 都から離れたこの地に似つかわしくない上質で、闇に紛れそうな漆黒の唐衣を見に纏い。

 顔は黒い烏帽子から垂れる謎の紋様の記された布で隠し、鼻から下は黒い布で覆っている。

 

 明らかに、異質な装い。

 

 だが、朧げな意識の中で。

 それでも気になる一言を、目の前の奴は発した。

 

「藤、原……?」

 

「藤原殿からこの辺りに邪な物怪の気配があると調査を依頼された陰陽師の者だ。私も、数刻前にこの村に訪れたのだが………既に、この有様だった」

 

「………」

 

目の前の陰陽師の低くしゃがれた声が、嫌に耳に響いた。

 

「其方は藤原殿が認めた笛の奏者だそうだな? 藤原殿が、生存者が居たならば其の者を保護し、都へと受け入れよと仰られた」

 

「故に其方を保護し、都へ連れ帰る命を私は果たそう。ここは血の匂いが濃い。また物怪が襲いに来るやもしれぬし、獣も寄ってきてしまうだろう。この村の処理は後日、手厚く弔ってやる。なれば立つが良い」

 

 

ーーー最初から。

 

 最初の発言から、この男の言葉は、俺の心に響かなかった。

 

 それどころかーーー。

 

 酷く醜悪で、粘るような欲と俗に塗れた思考が、その声に纏わりつくように塗り固められていて。

 

 

 だから、俺は一つだけ、

 

こう言ったのだ。

 

 

 

 テメェが、死ねば良かったのに 

 

 

 

「………辞めだ」

 

それは見事なまでに、男から体裁と仮初を取り払った。

 

「やはり此奴は当初の予定通り、殺してしまおう。()しかけた妖どもに運悪く見つかり巻き込まれ、私の到着間に合わず喰われたと報告すれば、藤原殿も諦めよう。そも、此度の計画は藤原殿の依頼なのだしな。もし私に責任が及んだとしても、此奴が受け取ったとされる褒美を横取りすれば、別の国に逃げても暫くは暮らしに困るまい。嗚呼、そもそもこんな見窄らしく下賤な庶民が貴族に取り入ろうなどと考えたのが間違いだったのだ。あの稗田家と娘に見染められているのも聞いただけで虫酸が走る。

 

 ーーー全く、身の程を知れ。(ごみ)が」

 

面白い程に、笑える程に簡単に男は本音と真実を喋った。

 

 

 そうか。

 

 ソウカ……。

 

 己の私欲のために、俺の村を、未来を潰した藤原氏。

 嫉妬と傲慢と、醜い身分格差の尊厳思想に俺を殺さんとする陰陽師。

 

 

 なあ、阿礼。

 なあ、緋芽。

 

 やっぱり、人は醜いな。

 

 けれど、やっぱり。

 回り回って、こんな事になったのは俺のせいなのかもなしれない。

 

 だカラ、

 

 オレは、

 

 

 ーーーオレハ人間(オレ)ヲ、憎シミタイ。

 

 





世俗のコンテンツと活字離れが著しくて、リハビリにウマ娘やってみたらどハマりしたんです。

そんで調子に乗って、ウマ娘で小説書いたんです。
そしたらちょっとずつ筆の感じが戻ってきました。

『トレセン学園のシェフ・ソーマ』

【ウマ娘】×【食戟のソーマ】のクロスオーバー作品です。
良かったらこちらもご覧下さい。

東方小説は、にわか知識を振り絞って書いてる作品なので、少しずつ書いていきます。

よろしくお願いします。

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