禁魂。   作:カイバーマン。

9 / 68
第九訓 侍教師、一仕事終えて生徒を労う

さて数十名の兵力を持ち合わせていながら、攘夷浪士がなぜものの見事に打ち負かせされたのがその原因を突き止めよう。

 

第一に、彼等は能力者の対策をなにも行っていなかった

第二に、彼等は侍というものの本質を侍でありながら理解していなかった

第三に彼等はこの学園都市に住む子供達の真の恐ろしさを経験していなかった。

 

 

ゆえに

 

 

 

「はいはいは~い、刀一本で私のおもちゃを止められるって思ってる~?」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

年端のいかない少女一人にここまで滑稽に逃げ回り、彼女の振る舞う”おもちゃ”が起こす破壊から必死に隠れるしかなかった。

少女、フレンダは上機嫌の様子で軽やかなステップを踏みながら戦場の中を歩いて行く。

自慢の美脚を見せつつスカートの下から取り出したるは彼女のおもちゃ、ジャスタウェイ。

見た目はマヌケな顔をした人形だが、投げて地面に落とせば数秒で強烈な爆発を起こす小型爆弾だ。

それを彼女は鼻歌交じりに何個も取り出して周りに適当にほおり投げる。

そしていくつもの爆発、無事なのは彼女の周りだけで鳴り止まない爆音と攘夷浪士の阿鼻叫喚だけがこの戦場で響き渡る。

 

「助けてくれ~!!」

「に、逃げろ!」

「こんな化け物相手にしてられるか!」

「俺もう攘夷浪士止める!」

「拙者も明日からハロワに行くでござる!」

 

数名の攘夷浪士が爆風の隙間を掻い潜って敵前逃亡を決する。

しかし背中を見せて情けない醜態を晒す彼等を目の前にしてフレンダはギラリと目を怪しく光らせてスカートの下からまた何かを取り出す。

 

「超高性能追尾式爆弾 ”ジャスタウェイミサイル”」

 

フレンダが取り出したのはさっきまでばら撒いていた通常のジャスタウェイとは違っていた。

通常版と違い、こちらは何故か軍人が使ってるようなゴーグルを掛けているジャスタウェイ。

まるで「フレンダ様の為に喜んで命を捨てる覚悟です!」と言った特攻精神がイメージされてるかのように

 

「発射!!」

「え? ぎゃぁぁぁぁぁl! なんか変な人形飛んできたァァァァァ!!」

 

フレンダがそれを攘夷浪士目掛けて複数放り投げると、その瞬間彼等に命が芽生えたかのように次々とターゲットを定めてバシュッという発射音を鳴らして飛んで行く。

 

「早すぎて避けれ……ねぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

逃げる攘夷浪士に向かって容赦なく降り注ぐ特攻兵達。フレンダはそこから起こる爆音と爆風に対して笑顔で敬礼。

 

「結局私のジャスタウェイシリーズから逃げれる訳がないのよ」

「ち、ちくしょう!!」

 

そんな彼女に刀を抜いた攘夷浪士達が負けじと背後から襲い掛かっていく。

こんな小さな子供にここまでコケにされてしまっては逆上するのも納得がいく。

しかしフレンダはというと、背後に迫って凶刃を振るおうとする彼等を無視して長いブロンドヘアーを掻き流している。

 

気付かれてないと思った攘夷浪士達はそのまま刀を振り上げたまま彼女との距離をほんの数メートルまで縮めるが……

 

何かを踏んだ拍子で鳴ったピッという音が彼らの行進を止める。

 

「ん?」

 

攘夷浪士の一人が反射的に足元に目をやる。なにか踏んだか?と

足をずらしてそこに目をやると

 

地面に頭だけを出して埋まっている、「ボールギャグ(SMプレイでMが口にハメるアレ)を付けたジャスタウェイ」がピッピッピッと音と共に赤く点滅していた。「踏んでくれてありがとうございます!」というドMなイメージを醸し出している。

それを前にして一気に攘夷浪士達が青ざめるがもう既に……

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

踏んだ本人と周りの攘夷浪士も巻き込んで地面に埋まっていたジャスタウェイは爆発。

立ち起こる砂塵と爆風を背中で受けながらフレンダは愉快そうに笑う。

 

「超高性能地雷式爆弾”ジャスタウェイマイン”」

 

自分からかなり距離を取って警戒している浪士達に対し、彼女は静かに語り出す。

 

「コイツはね、いくつも”ここ”に埋まっているの。数と配置場所は私だけが把握している」

 

それを聞いて攘夷浪士達は顔から汗を流しながらざわつき始める。

投用型と追尾型と地雷型。これらの爆弾を見事に使いまわす彼女を相手にするのは”この程度の数”では無謀だったのだ。

 

しかも相手にするどころかその相手に対して逃げる事さえ出来ないではないか……。

 

「そう、結局アンタ達はもう私から逃げれない。これでおしまいって訳よ」

 

ざわつき怯える彼等に対してフレンダはドヤ顔でそう言って両手をスカートに突っ込むと

 

「ふんごぉぉぉぉぉ!! あ、どっかにつっかえてる! やっぱお菓子は入れるんじゃなかった! ふんぬぅぅぅぅ!! あ、あともうちょっと……!」

 

スカートの下からお菓子やらただの人形がポロポロ出て来る中、フレンダは顔を真っ赤にしながら両手で何かを取り出そうと必死だ。

一体どれくらいあのスカートの中に入っているのかと攘夷浪士達が疑問に思う中……。

 

「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

「「「「「!!」」」」」」

 

多くの攘夷浪士達を前にして遂に彼女がスカートの下からある物を取り出した。

その大きさはとてもスカートの中では収まらない筈であろう土管ぐらいのサイズをした大筒。

それを華奢な体であるフレンダは軽々と両手で持って右肩に乗せると

 

「超高性能大筒式爆弾、”ジャスタウェイバズーカ”!!」

 

大筒の発射部分にはさっきまでのジャスタウェイとは非にならないサイズのジャスタウェイが収められていた。

そのジャスタウェイの顔にはグラサンを掛け、口にはタバコが咥えられているイラストが描かれている。

まるで「抵抗しようがしまいがもう全部ぶっ飛ばすからそこんとこ宜しく」っと言った感じに

 

そんな大筒を両手で持ったままフレンダは攘夷浪士に向かって、大筒に取り付いているスコープを右目で覗きながら標準を合わせる。

 

「侍として言い残す言葉はない? あっても結局聞かない訳だけど」

「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」

「アハハハハ!! それじゃあ……」

 

大型兵器まで出されてしまっては彼等はもうなす術がない。

我先にと逃げ惑う攘夷浪士達に対してフレンダは愉快そうに笑った後。

 

一転して冷めた表情を浮かべ

 

 

 

 

 

「死ね」

 

 

 

 

 

 

左手を掛けた大筒のトリガーを躊躇なく引いた。

 

 

 

その瞬間、大型ジャスタウェイは攘夷浪士の残党に向かってトドメと言わんばかりに発射される。

フレンダの目に映ったのはこの地一帯をぶっ飛ばす強烈な爆発。もはや攘夷浪士達は悲鳴さえ上げることは許されない。

辺り一帯をピリピリさせる強烈な爆音と爆風を肌で体感しながら大筒をスカートの中に戻すと、フレンダは恍惚な表情を浮かべて

 

「快・感! んごッ!」

 

悦のこもった声を漏らしていた所に突然頭部に痛みが走る。思わずその場に膝から崩れ落ちるフレンダ。

後ろから思いっきり拳で殴られた感触、頭を手でさすりながらフレンダは涙目で後ろに振り返ると……

 

「テメェ何してくれてんだコラ……!」

「私達まで巻き添えになりかけましたわよ……!」

「あ、そういえばアンタ達もいたんだった……」

 

木刀を肩にかけ一仕事終えてきた坂田銀時と責務を果たし見事目的を達成した白井黒子が。

攘夷浪士達を相手にしてた以上に怖い表情でフレンダを見下ろしていた。

 

「ご、ごめんねぇ~私って一旦火が付くと止まらなくなっちゃう性格で……てへ♪ ぐえッ!」

 

可愛らしく下を出してコツンと自分の頭を叩く彼女に黒子はすかさず彼女に触れて空間転移で地面に倒し。それと同時に銀時がフレンダの腹を問答無用で踏みつける。

 

「このガキがここまで飛ばさなかったら俺まで攘夷浪士と一緒にぶっ飛ぶ所だったじゃねぇか」

「だ、だ、大丈夫……さっきのジャスタウェイバズーカの一発は私が上手い所調整して死ぬ程の威力じゃないから……うげ!」

「いやそういう問題じゃねぇし大丈夫でもねぇから、てか調整ってなに? どう見ても死ぬ威力だよアレ?」

 

腹這いになってる彼女のお腹をブーツでグリグリしながら銀時は無表情である。

それもその筈、彼もまた黒子と共にこの戦場を木刀一本で大暴れしていたのだ。

しかしそこにいらぬ助っ人であるフレンダのおかげで彼等は思わぬアクシンデントに見まわれる。

辺りで突然爆発したり、

フレンダが投げた数体のミサイルの内の一機がなぜか自分だけを狙って飛んできたり、

攘夷浪士相手に立ち回ってる中でうっかり彼女の仕掛けた地雷を踏んでしまったり、(その時は黒子のおかげで難を逃れた)

挙句の果てにはこの場を一掃する兵器まで用いてきた彼女には銀時の怒りも当然といえば当然だった。

 

「おいチビ、攘夷浪士と一緒にコイツも捕まえてくれや、先日の大使館襲撃テロで爆弾ばら撒いた奴コイツだ」

「あなたに言われなくても捕まえますわよ、悪しき者に正義の鉄槌を食らわすのがジャッジメントですの」

「いやいやいや! ちょっと待って!」

 

黒子に向かって逮捕を促すい銀時にフレンダは自分を抑えつけている彼の足を手で必死にどかそうとしながら口を開く。

 

「結局私達同じ相手に戦ってたじゃない! だからもう仲間みたいなもんでしょ! 仲間を捕まえるなんてしないでしょ普通!?」

「仲間に向かってバズーカぶっ放した奴が何言ってんだコラ」

「……てへ♪ うごッ!」

「てへじゃねぇっつってんだろゴラァァァァ!!」

 

全く反省の素振りを見せないフレンダに銀時が思いっきり踏みつけながら苛立ちを募らせていると

 

「えーと……終わったのか?」

「あらリーダーさん、今更出てきたんですか。事は既に済んでますわよ?」

 

辺り一帯で倒れている攘夷浪士達をオドオドした様子で見下ろしながら。

スキルアウトのリーダーである浜面仕上は事態の把握をしようと恐る恐るこちらにやってきたのだ。

 

「一体どこにいましたのあなた?」

「巻き添え食らわないよう物陰にビクビクしながら隠れてたぜ!」

「それは得意げに言う事じゃありませんの……真正の小物ですわねホント」

 

親指を立ててドヤっとした感じの表情でこちらに振り向く浜面に黒子は澄ました顔でボソッと呟いていると、浜面の方は今度はフレンダを踏みつけている銀時に話しかける。

 

「あー……一応聞いておくがこれはどういう状況?」

「コイツの爆弾のせいで黒こげになりそうだったから制裁を加えている状況」

「やっぱりなぁ……なんかそんな予感がすると思ったんだよ俺、フレンダって一度火がついたら止まんねぇしよ……」

「浜面助けてー! コイツってばこんなか弱くて可愛い乙女にこんな酷い仕打ちを……へぐッ!」

「なあ、そいつの事勘弁してやってくれよ、一応コイツはコイツなりに俺達を思って戦ってくれたんだしさ……リーダーの権限がまだ俺に残ってるなら頼む」

「……仕方ねえな、今夜の祝勝会はリーダー持ちだからな」

「え? 祝勝会? 俺持ち?」

「ふぅ……浜面ありがとう、私JOJO苑がいい」

「いやJOJO苑って高くね……ってなんでリーダー抜きで話進められてんの?」

 

グリグリと踵でフレンダの腹を踏みつけだす銀時に、浜面が遠慮がちに口を開いてようやく彼女を解放させたその時……

 

 

 

彼等4人が立っている場所がバッと大きなサーチライトで照らされる。

唐突に光に照らされ、意表を突かれた銀時は腕で顔を覆いながら光の飛んできた方向に振り向くと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我等、アンチスキル所属の部隊の一つである「百華」」

「ってお前!」

「そしてその頭、月詠でありんす」

「ア、アンチスキル!?」

 

照らされた光の中で一人の女性がキセルを片手に優雅にこちらに歩いてくる。

銀時の同僚にして職員で構成された警察組織、「アンチスキル」に属する月詠。

背後には彼女の部下であろう女性達が口元をマスクで覆い、着物姿で薙刀を持って立っている。

そんな光景を前にして銀時はまず同僚を見て驚き、浜面はスキルアウトという言葉と彼女の背後にいる兵力を前にしてビビッてしまっていた。

 

「おいおい、遅すぎやしねぇか。テメェ等来る前にとっくに終わってるぞこっちは」

「先程、ジャッジメントの一人から連絡があってな」

 

状況をいち早く理解した銀時がしかめっ面で話しかけると月詠は歩み寄りながら答えた。

 

「なんでも攘夷浪士が例の大使館爆破テロを行った学生達が隠れ住んでる場所を襲撃したとか、そして銀時、お前がそこにいる事も聞かされた」

「ジャッジメントの一人?」

「初春かもしれませんわ……」

 

首を傾げる銀時に黒子が隣に歩み寄る。

 

「おおかたわたくし達にもしもの事があった時の為に呼んでくれていたのでしょう、いらぬ節介ですけど」

「全くだ、こんな攘夷浪士相手に負ける訳ねぇよ、むしろ仲間の爆弾魔の方が恐ろしかったわ」

 

浜面の手を取って立ち上がるフレンダに目をやりながら銀時が呟いていると、月詠は辺りを見回しながら事の状況を探り始める。

 

「コイツ等はつい最近で何件もの犯罪を起こしていた浪士じゃな。見覚えのある顔がチラホラといる」

「それが集まって攘夷浪士になったっていうのか?」

「まあ、名前だけはそういう事になるが。実際は小悪党共で構成された貧弱な組織。あそこで笑いながら倒れるチョビ髭を見ろ」

 

倒れてる攘夷浪士達の顔を見ながら月詠はその中の一人でアホ面かまして気絶しているチョビ髭の男を指さす

 

「アイツはつい数週間前に下着泥棒として指名手配されていた男だ」

「はぁ!? 下着泥棒!? 散々偉そうな事言ってたクセに下着泥棒だったのかアイツ!?」

 

衝撃の事実に驚く浜面、月詠は更に補足する。

 

「大下着泥棒時代には「チョビひげ」と呼ばれ名をはせていたらしい」

「いや大下着泥棒時代ってなに!? そんな時代あったの!? そんな全く少年たちの心に響かないお話があったの!?」

「かぶき町のとある住人の自宅に忍び込み、いつものように下着を拝借しようと家探しを始めた所に家主と遭遇。しかもその家主がレベル5と思われるぐらいとんでもない高能力者だったらしくチョビ髭はなす術もなく4分の3殺しに。その事件を機ににチョビ髭の名は廃れてしまい、以後チョビ髭は能力者に対し強い憎しみを持つ事になり、なんだかんだでこの国を一から立て直すために攘夷浪士として立ち上がったらしい」

「いやいいからもうその話は! そんな長々とチョビ髭のヒステリー語らなくていいから! 気持ちはありがたいけどもういいからこんな奴!」

 

聞いてもないのにチョビ髭が攘夷浪士になるまでの経緯まで話してくれる月詠に浜面はビシッとツッコミを入れた。もはや彼の中でこの男の過去など素性を聞いた時点でどうでもいい存在になったようだ。

 

「なんつー奴が立ち上げた組織だよ、俺達はこんな奴に好き勝手利用されていたのか……」

「結局私達だけでもいっちょ本気になれば簡単に壊滅出来たかもしれないって訳ね」

 

その場にしゃがみ込んでうなだれる浜面の隣でフレンダが深いため息を突いて嘆いていると。

月詠は部下達に向かって何か指示している。

短い指示を終えた後、彼女は銀時と黒子の方に振り向いた。

 

「銀時、ここで倒れている攘夷浪士達の身柄はわっち等百華が引き受ける。それでいいな」

「いやちょっと待てって、コイツ等捕まえたのは元々……」

「ジャッジメントであるこのわたくし白井黒子ですの!」

 

攘夷浪士達の身柄をアンチスキルに取られてはせっかくの苦労も水泡に帰してしまう。

月詠の言い分に黒子がすかさず身を乗り上げる。

 

「捕まえたのはわたくしとその愉快な仲間達。ゆえにこの功績はジャッジメントが貰うのが道理ですの!」

「確かにそうじゃが、どう見てもこれはジャッジメントの活動範囲外だぞ。仮にぬしを攘夷浪士を捕まえたと上部に報告しても、組織範囲外での軽率な判断、越権行為をしたとみなされ罰則を食らう。下手すればジャッジメントをクビになるかもしれん」

「な、なんでですか!」 

 

月詠の判断に黒子は納得しない様子で食い下がる。

 

「ジャッジメントだって立派な警察組織ですの! 月詠先生のアンチスキルのように大人で構成された組織ではありませんが! わたくし達だって大きな事件を相手でもやればできるとこれで証明出来るはずですわ! わたくし達が真撰組などという警察組織よりも優れていると!」

「うーむ」

 

真っ向から抗議してくる黒子に月詠は表情を崩さないがどうしたもんかと困った様に首を傾げた。

 

「いくら大きな功績を立てたと言ってもまだ年端もいかない子供。今回はたまたま相手が能力者対策の武装を行ってないほど脆弱な勢力だったから良かったが。これがもしあの桂小太郎の一味とかじゃったら。白井、本当にヤバかったかもしれんのだぞ?」

 

黒子に無言で睨まれながら月詠はキセルを口に咥えてフゥーと煙を吐く。

 

「桂一派は対能力者への武装は勿論、浪士だけでなく能力者まで仲間に加えてるという、それと”妙な力”を持った中々の手練れがいるとか。少なくともぬしらジャッジメントには絶対に相手にできない連中じゃ」

「けど今回はそうじゃなかった、だろ?」

「ん?」

 

淡々と喋る月詠にいきなり銀時が口を挟む。

彼はめんどくさそうに死んだ目をしながら

 

「もういいだろ、こちら側にはなんの負傷も無く無事に済んだんだしよ。それにコイツがこの事件に首突っ込んでなかったら街がエライ事になってたかもしれないんだぜ?」

「まあ事の経緯は大体ジャッジメントの者から聞いておるが」

「説教はもういいだろ、手柄立てたのは事実だしちっとは素直に生徒の事も褒めてやれよ月詠”先生”」

「……ぬしの口からそんな言葉が出るとはな」

「こう見えて教師なんでね、ガキの手懐け方は心得ているんだわ」

 

自虐気味にそう言って口元に小さな笑みを見せる銀時。月詠はキセルの灰をトントンと落としながら銀時をジト目で見上げている黒子の方へ視線を戻す。

 

「しかしわっちは立場的にしたらそんな言葉を吐く事は許されん。今回の事件は明らかにジャッジメントが首を突っ込んではいけない事。わっちが今白井に吐く言葉としたら「子供のクセに無理に背筋伸ばして大人の真似事するな」じゃ。今後はこのような事ないようにぬしの支部にきっちり報告しておく」

「別に大人の真似事するつもりなんてありませんのに……わたくしは警察組織の一員としてなすべきことをなそうとしたまでですのに……理不尽ですわ……」

 

銀時に言われても月詠は断固としてアンチスキルという自分の立場を考えた上で黒子に容赦ない言葉を上から浴びせる。

黒子は納得してない不満顔でブツブツと小さく何やら呟いている。

そんな様子の彼女を一瞥した後、月詠は銀時の方へ顔を上げた。

 

 

「もし白井にそういう言葉を吐くとするなら銀時、お前が適任じゃ。アンチスキルでもジャッジメントでもない”ただの教師”であるお前がな」

「あん?」

「じゃ、わっちはそろそろ部下の者と共にここで寝ている攘夷浪士共の回収作業に入る。主らは事が済むまでこの辺で待機しておくでありんす。せいぜい自分の生徒を励ましてやりなし、”銀時先生”」

 

そう言葉を残して月詠はさっさと部下達の方へと行ってしまった。

残された銀時はどうしたもんかと頬をポリポリ描きながらチラリと脇に立っている黒子を見ると。

 

早く褒めろと言わんばかりの表情で胸を張り、手を腰に当てて待っている彼女がそこにいた。

 

「お褒めの言葉はまだですか、”銀八先生”?」

「あーだりぃ……」

 

それはどう見ても褒めてもらう立場の顔じゃないだろっとツッコみたい所だが

銀時は顔を手で押さえて深いため息を突いて

 

「ま、立派にやったよお前は。お疲れさん」

 

彼なりの健闘を祝う言葉を黒子に送ってあげた。

だが黒子はフンと鼻を鳴らして挑発気味に笑ってみせると

 

「そんな言葉を貰っても全然嬉しくありませんわねぇ」

「……ホントかわいくねーガキ」

 

相も変わらず自分に対しては真っ向から嫌な態度を取る黒子に銀時がしかめっ面を浮かべると。彼女は不機嫌になる彼に笑みを浮かべたまま

 

「”わたくしとあなた”ならこんな事当然に決まってますでしょ?」

「……」

 

そう答えられると銀時はしばらく黙りこくった後そっぽを向いて「そりゃそうだな」とポツリと呟き、これ以上黒子に言葉などいらんだろと判断した彼は。

少し離れに立って攘夷浪士が回収されていく様を眺めていた浜面とフレンダの方へと歩いて行った。

 

「おいリーダー、この辺にもう住めなくなっちまったけどどうすんだ?」

「ん? ああ、まあこうなっちまったもんはもうしょうがねぇさ」

 

後ろから銀時に話しかけられ、振り返った浜面はやれやれと言った様子で首を横に振った。

 

「スキルアウトはもう解散だ。どうせもう潰れてるも同然だったしな、これで俺もようやくリーダーとかいう柄じゃない立場から降りれるってモンだ。フレンダ、お前も俺なんかと一緒にいるよりフレメアと」

「そんなのダメ! 私の居場所はもう決まってるの! ここしかないの!」

 

肩の荷が下りたかのように安堵する浜面だが、フレンダは対称的に必死な様子で彼に身を寄せて問い詰める。

 

「私はこれからもずっと……」

「居場所なんてまた探せばいいじゃねぇか」

「え?」

 

フレンダの問いかけに答えたのは歩み寄ってきた銀時だった。

 

「所詮テメーの居場所っつうもんはその場の流れで変わっちまうことがあるもんなのさ。それが今やって来ただけの事だ。人生はなげーんだよ。こんな経験、ガキのオメー等にはたくさんやってくるぜ」

 

神妙な面持ちでこちらに顔を上げるフレンダに彼は話を続ける。

 

「今度はオメー等で探してみな、こんな薄暗い場所よりずっといい居場所をな」

「でもそんな所私達に……私はもう学校行けないし……」

「かぶき町とかどうよ、あそこはオメー等みたいな日陰モンばっかだしよ。”なんでもやる”って根性がありゃあ、そう悪くない暮らしが出来るかもしれねえぞ」

「かぶき町ってまさかあのかぶき町?」

 

その名前を聞いてフレンダは目を見開く。

かぶき町、学園都市で唯一取り残された江戸の名残を強く残す町。

どうしてここだけ残されたのは未だに誰も知らない謎の多い地区。

かぶき町は学生絶対立入禁止区域とされており、学園都市に住む者のほとんどが入る事さえ許されていない

子供である学生達がとても目にかかってはいけないモンがこぞってある場所だからだ。

 

「そんな所にどうやって住むって訳よ?」

「ガキのお前等でも。特別な許可が入れば住む事も出来るし出入りも許されんだよあの町は」

「いやでもよぉ、そんな許可、一体誰がこんな俺達に出してくれんだよ」

「俺の所(常盤台)の理事長のババァはかぶき町でもそれなりに名が知れてんだよ。俺がババァに話し通せばオメー等の事も匿ってくれるんじゃねぇの?」

「マジかよ! アンタすげぇ人脈持ってんだな! さすが常盤台の先公!」

「別にかぶき町出入りの許可なんて難しいモンじゃねえよ、あそこはたまに”ウチの女王”がいるらしいし」

「……」

 

銀時の話を聞いて浜面はすっかりテンション上がって喜んでいる。

しかしフレンダの方は銀時を見つめながら怪しむ様に表情を曇らせる。

 

「結局どうしてそこまで私達にしてくれる訳? 目的はなに?」

「ねぇよんなもん、強いて言えばそうだな……」

 

疑惑の目つきでこちらを見上げる彼女にしばらく考え込んだ後彼はそっと呟く。

 

「……俺も”自分の居場所”っつうもんを探してる身だからよ。同じ道に迷ってる奴にやれる事あんならなんとかしてやるか、ときまぐれで思っただけだ」

「アンタが?」

 

意味ありげなその理由にフレンダは疑うのを一旦止めて神妙な様子で彼に何か事情を聞こうとしたその時。

 

「あなた達、そんなところで何やってますの」

 

フレンダが銀時に問いかける前に黒子が彼の後方から仏頂面でやって来た。

 

「あなた達にはこれからたっぷりとお話を聞かなければなりませんのよ、そりゃもうじっくりと……」

 

キビキビとした口調で歩み寄ってくる彼女に反射的にそちらに目を向かせたフレンダは、そこでカッと目を見開いて彼女の足元に目をやる。

 

こちらに歩いてくる黒子が踏むと予測される場所に

 

 

自分の自慢の地雷型爆弾。ボールギャグを口に咥えたジャスタウェイマインが埋められて……

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!! ストップぅぅぅぅぅぅぅ!!! こっちに来ないでぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「は? なんですの急にテンション上がって、言っておきますが特に爆弾魔であるあなたには話す事がたくさ……」

 

いきなり必死に来るなと叫ぶフレンダに黒子は怪訝な様子を浮かべながらも歩みを止めなかった。

その結果

 

彼女の足元からピッという可愛らしくも非情な出来事がこの先に起こると告げる音が

 

「ん? はッ!」

「あん? ぬわッ!」

「え? なぁぁぁぁぁぁ!!」

「わ、私悪くないって訳よぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

黒子が踏んだ物に本人、銀時、浜面が順に気付いて表情が一瞬で凍り付く。

そして頭を両手で抱えてフレンダが涙目で叫んだと共に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月詠達が攘夷浪士の回収作業をしている中で大きな爆発音がその場に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀時達のいる地区からかなり遠くに離れた学生地区にて。

フレメアという少女が住む学生寮の近くには、数名の浪士が待機していた。

本隊の攘夷浪士達が全滅しているのも知らずにすっかり気を抜いた状態で話をしている。

 

「しっかし、人質なんてただの立て前だって言えばいいだけなのに、まさか本気でここに待機させられるとはなぁ」

「しょうがないであろう、隊長の命令は絶対だ。しかしこうも暇だとやはりな……」

「もうガキなんてほっておいてメシでも食いに行くか?」

「お前達、先程使いの者に食料を貰って来ただろ、それで我慢しろ」

「しかしあの程度ではちっとも腹の虫が……」

 

数は僅か数名程、人質の監視にすっかり飽きてしまった様子で各々本音を交えたトークをしながらヒマつぶしをしている様子。

 

しかし悲劇は唐突に始まった。

 

「……」

「ん? おいお前、顔色悪いぞ。なんか悪いモンでも食ったか?」

 

突然一人の浪士がピクリと表情が固まった後、みるみる顔を青ざめていく。

その様子に仲間の一人が怪訝な様子で話しかけて彼の肩に手を伸ばすが

 

「む、無念……」

「!」

 

その手が届く前に顔色の悪かった浪士は最後の言葉を残すと前からドサッと地面に倒れてしまったのだ。

それを見て攘夷浪士一同は固まる。しかし彼等が驚いているのは浪士が突然倒れた事だけではない。

彼等が今一転集中して見ている所、それは

 

 

倒れた攘夷浪士の手にあるあんぱん。

 

「ま、まさかあの使い……!」

「おいどうした、ぬッ!」

「まさかあんぱんに毒を……! ぐッ!」

 

声を出した瞬間にその浪士一人一人がタイミングよく倒れていく。

ここにいる者は皆、ある物を食べていた。ここで待機しているとふと、自分達の仲間の一人が食料を持ってきてくれていたのだ。

最近入ったばかりの新人でいい使いっ走りとして働かせていたのだが……

 

「な、なんなんだコレは……! よもやあの新入り……!」

「悪いね先輩」

「!」

 

背後から聞こえた聞き慣れない声に浪士の震えはビクッと止まってしまう。

自分の背後にぴったりとくっついている誰か、それが誰なのか浪士が振り向いたその時

 

「うぐッ!」

「これも仕事なんで」

 

ベチャッ!っと生々しい音が得聞こえたと同時に最後の攘夷浪士が力尽き倒れた。

彼の顔面には潰れたあんぱんが

 

「はー、いくら俺が密偵でも、2重スパイは疲れるよ」

 

既に白目を剥いて気絶している浪士達に手を掛けた張本人がため息を突く。

その張本人こそ山崎退、浜面のスキルアウト仲間だった男である。

 

「それで”伊東さん”、そちらは問題なく終わりましたか?」

 

後ろに向かって山崎が振り返るとそこの暗闇から一人のメガネを掛けた男が腕を組んで仏頂面で現れた。

男の服装は黒を強調とした制服で、腰には一本の刀が差してある。

 

「君より先に終わらせておいたよ、”真撰組密偵役・山崎くん”。近くで同じように待機していた浪士達は我々の隊が拘束しておいた」

「さすが”真撰組参謀役・伊東さん”の隊だ。動きの正確さと速さは隊一番だと局長に絶賛されてるだけありますね」

「いやはや、これも全て君がスキルアウト側と攘夷浪士側の情報をくまなく報告してくれていたおかげさ」

 

掛けたメガネをクイッと上げながら、伊東と呼ばれた男ははっきりと答える。

 

「攘夷浪士達の主力部隊はアンチスキルが捕まえ、我々は連中がおめおめと取り逃がし、か弱い少女を暗殺せしめんとしていた残党を処理した。今回の件はこれで終了だ」

「……なんか嫌なやり方ですね」

 

やり方にイマイチ納得できてない様子の山崎が呟くと、伊東はフゥっとため息を突く。

 

「我々が早急に警察組織の頂点に立つ為ならこれぐらいやらければ、山崎くん、君もご苦労だった。後の処理は我々で何とかするので君は屯所に戻って局長と副長に報告を」

「はい……ん?」

 

任務完了と思いようやく一息突けた所で突然懐にしまっていた携帯が鳴り出す。

着信先は……

 

「スキルアウトの浜面……?」

 

自分が密偵として潜入していたグループのリーダーからの突然の電話。

本来なら電話に出ずにそのまま切るべきなのだろうが……何か思う所あるのか山崎は携帯のボタンをピッと押して耳に当てる。

 

「もしもし」

 

携帯に耳を当てながら彼は通話先の人物からの話を聞く。

 

「あれ? リーダーじゃない……アンチスキル百華の頭領?」

 

山崎の表情に徐々にしかめっ面に変わっていく。

どうやら電話先からよほど面倒な事が起こってしまったらしいのだ。

 

「……わかりました、いや俺は大丈夫です、すぐ逃げちゃってたので現場にはいませんでしたので……はい……はい……では後程」

 

山崎は通話を切って携帯を懐にしまい戻す。

そして項垂れながらハァ~~~~とこれ以上ないぐらい深いため息を突いた後、彼は伊東の方に顔を上げて

 

「俺の”仲間四人”が自分達で仕掛けた爆弾で吹っ飛んで病院に搬送されたらしいです」

「例のスキルアウトか、ほおっておけばいいだろう。君は真撰組だ、連中とは違う」

「そうですね……」

 

そう言い残して山崎と伊東を残してその場を後にした。

 

かくしてスキルアウトと攘夷浪士、ジャッジメントと侍も参戦したこの戦いは一夜にして終幕となった。

 

後に起こるであろう波乱の匂いをかもしだしながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。