禁魂。   作:カイバーマン。

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第八訓 侍教師 見参

今より数十年前

江戸に突如宇宙から飛来してきた異人、天人達は幕府にあまりにも対等でない条約を持ち掛けた。

それを快く思わなかった者達は刀を取り、志を掲げて未確認の科学文明を持つ奴等に歯向かう。

それが「攘夷志士」。

民衆はこう思っていただろう。

彼等はこの国を護る為に立ち上がったヒーローだ

 

しかし度重なる武力行使の下で弱気になった幕府は彼らの意思を黙殺。

結果、天人と不平等な条約を締結するに至る。

天人はおろか護るべき存在だった幕府にまで裏切られ、廃刀令までしかれて侍の魂である刀まで奪われる始末。

そして己の立場さえ見失いかけた者達は表に出ることを諦め、裏の世界で今も幕府と天人を抹殺しようと日々計画を練りつつ企んでいる。

それが「攘夷浪士」。

民衆はこう思っているだろう。

彼等はこの国の反逆者だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第八訓 侍教師 見参

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月の差す光の下、ちょっと前までは大量のスキルアウトがこぞってたむろしていた廃団地。

しかし今そこに数を成して集まっているのはスキルアウト等というチンピラ風情ではなかった。

 

数十人の人だかり、数は50は軽く超えている。時間が経てばもっと増えるかもしれない。

皆袴を着て頭にマゲを結い、腰には鞘に収まった刀が置かれていた。

しかし恐ろしいのは連中の”古風”な格好でも廃刀令のご時世で堂々と帯刀している事だけではない。

 

彼等の眼は野獣の様にギラつき、持っている刀を抜く事さえ躊躇しないと感じる殺気を放っていた。

中には腰の刀に手を置いたまま立って、いつでも抜けるように準備している者さえいる。

 

攘夷浪士、一般人ならだれもが彼らをこう指すであろう。

かつて江戸の風を肩で切って歩いていた侍はもういない。

今いるのは月の光だけを頼りにして闇を歩き、「天誅」と称して国家転覆を謀り暗躍する犯罪者でしかないのだから。

 

誰も騒がず静寂が支配している中、パッと見20代前半ぐらいの若い攘夷浪士の一人が、リーダーの様な風格を漂わせている中年のチョビ髭の男に後ろからそっと重い口を開いた。

 

「隊長、どうしてこんな所に来たんですか。もう”あのガキ共”はなんの役にも立ちやせんよ……」

「いや、アイツ等にはまだ利用価値は残っているさ。まだまだ働いてもらわないと困る」

 

チョビ髭は若者の方に振り返らず、ただじっと目の前の団地を見据えたまま静かに返答した。

 

「俺達は幕府の重役に睨まれて日の下では迂闊に動くが出来ん。だが奴等は違う、奴等はこの江戸が如何に腐ってしまったのかを象徴とする”この街”の住人という立場を持っている、そこが俺達が狙った理由だ」

「は、はぁ……」

「本来部外者である俺達が近付けない場所も奴等は日々の日常生活の中でも容易に入り込む事が出来る、攘夷活動に大事なのは我々の様な誇り高い信念と志を持った侍だけではない、どんな所にも潜り込んで餌を調達する”卑しいドブネズミ共”も時に必要になるのだ」

「なるほど……」

 

感心したように若者が頷くとチョビ髭は話を続ける。

 

「ゆえに先日の大使館爆破テロも実行できたであろう、あそこは我々がノコノコと出ていける場所ではないしな」

「でも……」

「ああわかってる」

 

若者の言い分を彼は首を横に振って遮った。

 

「連中が手際よく出来なかった為失敗してしまった、やはりネズミはネズミ、我々の様にこの国の憂いを嘆き立ち上がった者達の様な熱き精神は持っていなかったのだ」

「そんな役立たず共をどうしてまた使おうと思ったんです?」

「それはな」

 

心配そうに尋ねてきた若者だが、チョビ髭は至って平然と、そして決して彼の方へは振り返らずに淡々と返事する。

 

「今回はまず前回の失敗の埋め合わせと称して、ある任務を遂行させてもらう」

「連中は大人しく聞いてくれますかね」

「なぁに、こっちはこの数で相手はたかがガキ数人。そして我々にはあの”桂”が。おまけに連中の一人の身内を人質に預かっている。逆らうなんて馬鹿な真似をする訳……」

 

若干笑みがこぼれた様子を浮かべながらチョビ髭が若者に答えようとしたその瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チーッス!!! リーダーお届けに参りやしたァァァァァ!!!」

「ご機嫌よう”きったねぇツラした”攘夷浪士の皆様方、今宵はこんなきたねぇ場所にきたねぇ恰好で来てくれてリーダーも大変お喜びのご様子ですの」

「へ? えぇぇぇぇぇぇぇ!? 俺なんでこんな所に!? さっきまで部屋にいた筈……! ってギャァァァァァァ!!!」

 

唖然、大勢の攘夷浪士は今起こった出来事にその反応しか出来なかった。

現状で連中のスキルアウトのリーダーとされている浜面仕上が正座した状態で突然目の前に現れ。

しかもその少年の両側には見慣れない小さなツインテールの少女と、腰に木刀を差している銀髪天然パーマの男がこちらに敬礼のポーズをして立っている。

 

「ほう……どういうつもりだコレは」

「い、いやあのですね! 俺自身もなにがなんだかわからなくて! だ、だから殺さないで下さいホント! 俺は悪くないんです! 悪いのは急にこんな所に現れる現象が! そう! 現象が悪い! 俺は悪くない!」

 

いきなり現れた奇妙な三人組にチョビ髭は一瞬驚きはするもすぐに平静さを取り戻し、浜面の方に話しかけるが、浜面自身も混乱しているのか顔中に汗をダラダラと流して意味不明な事を叫んでいる。

すると浜面と一緒に現れた天然パーマの方が死んだ目をしながらだるそうに口を開いた。

 

「え~リーダーの言い分はこうです。ただいまをもって我々『はまづら団』は、テメェ等攘夷浪士の諸君達とは手を切る事にしました。これに異を唱える者は速やかに即ぶっ殺します。だよねリーダー?」

「はいぃぃぃぃぃぃ!? 俺そんな事一言も言ってないんだけど!? 何それ!? それ完全にアンタが考えた事だろ! 俺関係ねーし!」

 

身の覚えもない代弁に浜面は正座した状態のまま天然パーマ、坂田銀時の方へ振り向くが今度は小さなツインテール少女、白井黒子が

 

「それとここにいる者共は即刻その古臭い刀を質屋にでも売って大人しく優秀な警察組織であるジャッジメントに自首しやがれこのクソったれ共っとも言っていましたわねリーダー?」

「言ってません! 言ってませんよリーダーは!? リーダーはクソったれなんてお下品な言葉使いませんの事よ! …はッ!?」

 

パニクって黒子の口調がうつっているのも気付かず叫ぶ浜面だが、その話を聞いていた攘夷浪士達はたいへん穏やかな様子ではなかった。

 

殺気だっていた空気が更に悪化しているのがピリピリと浜面も肌で感じてビクッと反応する。

中には腰に差す刀をチラつかせながらこちらを睨み付け、今にでも斬りかからん態勢に入ってる者さえいる。

 

そんな殺伐とした空気の中で先頭に立っているチョビ髭の男は以前平然としたままで静かに口を開いた。

 

「……今の話は本当か浜面? 我々と手を切ると?」

「め、め、滅相もない!! 全部コイツ等のデタラメですってば! こいつ等新入りだからちょっと生意気な上に頭のネジが2、3本飛んでるんですよ! 俺がちゃんと後でヤキ入れますから!!」

「それならいい」

 

必死に否定する浜面を見ても表情を一切変えずにチョビ髭は僅かに縦に頷く。

 

「いいか、お前が馬鹿のクセになんの役にも立たないゴミだというのは我々もとっくのとうに知っている」

「は、ははは……そうっすか……」

「前のリーダーもお前と同じだったよ、名前はなんだったか? もう忘れてしまったな」

「こ、駒場の事ッスか……?」

 

顔を上げて恐る恐る呟いた浜面に「そうだそうだ」とチョビ髭はぽんと手を叩くと初めて僅かに口元に笑みを見せた。

 

「少しは出来る奴かと思ってたが結局むざむざと失敗して、あの真撰組などという幕府の犬に捕まってしまった」

「そうっすね……」

「憎き天人の一人でも道連れにして死ねば少しはこの国の為に貢献出来ただろうに、所詮お前と同じ負け犬だったな」

「……!」

 

かつての仲間を高慢に侮辱するその態度に浜面は若干怒りで顔を歪ませるも、それを悟られまいとすぐに正座した状態で首を垂れる。

 

ここで自分が食ってかかってもどうにもならないとわかっている。

 

頭を下げながらも悔しそうに堪えている様子を、横にいる銀時がチラリと窺っている事に彼は気づいていない。

 

「まあそれはそれ、コレはコレだ。今回はその失敗を踏まえてお前達にやってもらう事がある」

「へ?」

 

散々自分達を侮辱したチョビ髭が不意に仕事を提供すると話を切り出した。

思わず顔を上げてポカンと口を開ける浜面に、彼はまるで無垢な子供に優しく丁寧に教えてあげるかのように

 

「この腐り切った街中で辺り一面が真っ赤な血に染まるぐらいのデカい騒ぎを起こせ、全警察組織の目が向くぐらいのな」

「な……何を言ってるんだ?」

「わからんのか」

 

仏の様に優しく微笑むチョビ髭の言ってる事が浜面の頭では即座に理解できなかった。

街中を?

血に染める?

真撰組だけでなく全ての警察組織が一斉に取り組む様な騒ぎ?

 

「先日やった爆破テロ、今度は大使館じゃなく街中でやれと言っているのだ」

「!!」

「お前の仲間には爆弾の構造についてやたら熟知しているのがいただろ? その者に頼めば街の一角や二角吹っ飛ばす事も夢物語ではない筈だ」

「しょ、正気かアンタ……!」

 

このチョビ髭が言ってる事が理解したと同時に浜面は顔中から汗を拭きだしながらユラリと立ち上がった。

先日自分達で起こした大使館爆破テロは、前リーダーである駒場の指揮の下で一般市民に被害が及ばぬよう入念な計画の中で実行された事だった。

しかしこの男が今自分達に命令した事は……

 

「天人や幕府の高官じゃなくて一般市民を殺せって言ってるのかよアンタは……!」

「……お前は誰を相手にしてその狂犬のような目つきを向けているんだ?」

「ふざけんな!」

 

もはやこの男が言ってる事を理解しようとも思わない。浜面は今までずっと溜まっていた怒りが噴火したかのように彼に向かって食ってかかる。

 

「攘夷浪士ってのは天人をこの国から追い出そうとするのが目的なんだろ! それがなんでなんの関係もねえ人達まで殺さなきゃいけねぇんだよ!」

「……いやはや、ここまで頭の回転が悪い者だとは思わなんだ」

「はぁ!?」

「お前達が街中で爆破テロをやればこの街の全ての目がお前達に集まる」

 

デカい人物の後ろに回って威張っているのが性に合うと自認している浜面でも、色々と危ない橋を渡り広げたスキルアウトの一人である。

こんな状況下でも怒りに身を任せさえれば数十人の攘夷浪士相手にでも啖呵を切る事だって出来る。

しかしそんな彼をチョビ髭の男はキャンキャン喚く子犬を見るかのような視線を向けながら諭すように説明した。

 

「つまりその間、我々はこの街を人目を気にせずに動くことができるのだ。お前達が時間稼ぎさえしてくれれば、我々はそれを有効に活用してやる」

「それじゃあ俺達はテメェ等がこの街で好き勝手暴れる為にこの街全部を敵に回す事になるのか!? 何の関係もなく! ただここで暮らしてる人達も巻き込んで!!」

「おいおい、市民を巻き込むのはお前達だろ? 我々は”関係ない”。我々が狙うのはあくまでこの国に仇なす者のみだ、やるのはお前達、我々は国家転覆を志とする大義名分を持つ”侍”だ」

 

侍という言葉にさっきからずっと黙っていた銀時がピクリと反応した。

 

「お前達は我々の為に、「愚かな殺戮者達」という汚名を持ったまま死んでくれればいいだけだ」

「そんな事誰がやるか! そんな事すんならいっそこ、ここでテメェ等に殺された方が……!」

「そうか、しかし我々にはお前達を操る”手綱”があることをよもや忘れてはないであろう?」

「!」

 

チョビ髭に言われた事に浜面は苦悶の表情を浮かべた。怒りに身を任せてすっかり忘れていた。彼等は自分達に命令する為の「実行権」を所有している事を

 

「我々もこんな手は使いたくなかったのだがな、だがこれはすべてこの国を想ってやっただけなんだ」

「なにが国を想ってだ! ふざけんな!」

「お前達ゴミ共の中の”身内を人質”にすることで、お前達は役立たずなりにもそれなりに働いてくれるしな」

「…… ”フレメア”に何もしてねぇだろうな……!」

「あのガキなら今頃、学生寮という所でお前達がなにをやらかすかも知らずに呑気に寝てるだろ。自分のせいでお前達が死ぬのも知らずにな」

 

未だ微笑みを崩さないチョビ髭を相手に浜面は「刺し違えてもコイツだけは殺したい」という欲望にかられていた。絶対に許せなかった

しかし彼にとってだけでなく前のリーダーであった駒場にとっても、そして仲間である少女の為にも”彼女”が彼等という組織に狙われているのは大変危うい状態であるのだ。

 

「今私が伝令を出せば、すぐにでもあのガキの周りに潜んでいる私の部下達が動き出すだろう。あのガキが寝ている寝床に火を付け、その騒ぎにガキ一人を殺すことなど容易いぞ?」

「このクソったれが……!」

「なんならやってみるか? 今から何分であのガキが死ぬか賭けてもいいぞ、ハハハ」

 

始めて声を上げて笑うチョビ髭に浜面は黙って睨み付けるだけだった、

悔しくてたまらなかった、仲間の身内を人質にして正義だなんだと言いのけるその口を思いっきり裂いてやりたかった。

そうは思っても浜面はそんな事実行できるはずがない。

彼はなんも能力もないレベル0の凡人。

刀を持った数十人の攘夷浪士相手に、ましてや人質まで用意されているこの状況。

自分は本当に何もできない無力で役立たずな人間なのだと改めて現実を突き付けられたのだから。

 

「おお、そうだ作戦を行う前に一つ助言してやろう」

 

こちらを睨み付けてくる浜面に対して、やはりチョビ髭は笑みを崩さずに友好的な関係を装った様子でまた口を開く。

 

「お前達素人が殺す時は相手を「人」として見たら情が出てしまうかもしれない、だからその辺に転がるちっぽけな「ゴミ」として見ればいい。我々がお前達を見るかのようにな」

「……」

「そうお前達がやるのはただのゴミ掃除だ、ゴミがゴミ掃除とは笑えるだろ?」

「……」

 

浜面は何も答えない。ただゆっくりと俯いて首を垂れるだけ。

そんな彼にチョビ髭の男は更に口元に笑みを広げて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「返事はどうした、この薄汚いドブネズミが。さっさと我々の為に街を掃除しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男がそう言い終えた同時に

 

 

 

 

 

その笑顔に

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木刀が水平に飛んできた。

 

柄に”洞爺湖”と彫られた木刀が

 

「ぐべらぁぁぁ!!!」

「隊長ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

まずチョビ髭の男が鼻の骨が折れる鈍い音と共に声を上げて派手に後ろにぶっ飛んだ。

後ろにいた若者の攘夷浪士含む数人の仲間を巻き込んで大の字に倒れる。

 

そして激痛が襲ってくる鼻を手で押さえながらヨロヨロと半身を起こしたチョビ髭が見た光景は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分達を前にして左手の小指で鼻をほじりながら、右手に持った木刀で自分の肩をトントン叩いている銀髪天然パーマの男が立っていた。

 

「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 一体自分が何をしたかわかっておるのかぁぁぁぁぁ!!」

 

さっきまでの余裕気な様子はどこへ行ったのやら

一転して烈火の如く顔を真っ赤にして怒り狂うチョビ髭に

銀髪の男は、坂田銀時は小指に付いたハナクソをピンと飛ばすと死んだ魚のような目で彼を見下ろしながら

 

「ゴミ掃除」

 

彼の言葉にチョビ髭は思わず口をあんぐりと開けて唖然としてしまった。

しかし彼がマヌケな顔で呆気に取られているのもつかの間

 

「はぁ。ここまで多いと骨が折れますわね、一体ゴミ袋がいくつ必要になるのでしょう」

 

知り合いから借りた柵川中学の制服を浜面の隣に無造作に地面に置き。

中に着込んでいた正真正銘自分の学校の制服である常盤台の制服を着たツインテールの少女、白井黒子がいつの間にか銀時の隣に立ち

 

右腕に付けた腕章を攘夷浪士に見せつけながら彼らに向かって高々と叫んだ。

 

「ジャッジメントですの!」

「な……!」

「大使館爆破テロの真犯人! 未成年の方達に対し殺人の強要! 更に子供を人質にした脅迫! そして私情ですがその性根の腐った性格が何よりムカつくんで拘束しますわ!」

 

勇ましく堂々とそう叫ぶ黒子にチョビ髭はギョッとした表情を浮かべて部下達に支えられながら立ち上がる。

 

「ジャッジメントだと……確かガキ共だけで構成された警察組織……! そんな組織に属する小娘がどうしてここに!」

「そんなの決まってますわ、下らない事を企んでいるマヌケに正義の鉄槌食らわすのがジャッジメントのお仕事ですの」

 

見下すような目つきをしながら黒子はチョビ髭に返答した。

 

「元々はここにいるスキルアウトの団体を捕まえるのが目的だったのですが。日頃の行いがいいせいですわね、もっといい獲物が釣れましたわ」

「ジャッジメントだったのかお前!」

「ん?」

 

背後から聞こえた声に黒子はジト目で後ろに振り返ると、今まで彼女の正体に気づいていなかった浜面が青ざめた表情でこっちを見ていた。

 

「俺達を捕まえに来たのか……? 仲間のフリをして俺達に近づいて……」

「だから言ったでしょう、元々だと。今現在、わたくしの獲物はあなた達みたいな小悪党よりあっちのテロリストですの」

「小悪党って……いや確かにそうだけどさ」

 

ちょっぴりショックを受けている浜面をよそに

 

「き、貴様……!」

「ああ? なんか用か? もしかしてまた助言してくれんの?」

 

ここに来ている攘夷浪士の中ではリーダー格に立っていると思われるチョビ髭が黒子の方でなく銀時の方を睨み付ける。

先程自分の鼻を木刀でへし折ったのはこの男だと気付いているからだ

 

「貴様よくもこんなバカげた真似を……! 自分がどんな愚かな事をしでかしたのかわからんのか……!?」

「いやおたくらが言ったんだろう? ゴミ掃除しろって?」

 

ドラマや映画でよく聞くお決まりのセリフを吐いたチョビ髭を銀時は仏頂面で「一体何が悪いのか?」と言った感じで返事する。

 

「だ~か~ら~。まず一番きったねぇモンから掃除するのが掃除の基本だろ。掃除の仕方かーちゃんに教わらなかったのか?」

「だまれ! 我々はあの桂一派だぞ! 我々に武器を向けることはつまりあの狂乱の貴公子である桂小太郎を敵に回す事……!」

「桂一派ねぇ……」

 

桂一派の部分を特に強調した言い分をするチョビ髭に銀時はしかめっ面を浮かべるとボリボリと髪を掻き毟る。

 

「じゃあ聞くけどよ、本当にお前等その桂一派な訳?」

「な……!」

「ガキを人質にしたりガキに爆破テロの罪を代わりに背負わせたり。さっきからテメェ等のやってる事はいかにも”三流”が考えそうなアイディアじゃねぇか」

「な、なんだと……」

「おおかたその桂一派って名前を使って威張ってるだけの過激派攘夷浪士だろ」

「ふざけるな……我々はあの桂小太郎の下で動いている正当なる攘夷浪士であって……」

 

核心を突かれたかのように急に青ざめてしどろもどろに喋り始めるチョビ髭。口では否定しているもののその態度で一目瞭然だった。

 

「……”アイツ”ならこんなちんけな真似なんざ考えもしねぇだろうしな」

「なにか言いましたの?」

「いんや別に、アイツのチョビ髭抜いてやろうかなと言っただけだ。」

 

ぽつりと独り言を呟く銀時に黒子が不審そうに顔を上げるが彼は適当にそれを流す。

 

「それよりこいつ等どうするよ?」

「決まってますでしょ、全員とっ捕まえて幕府に引き渡しますわ、これで真撰組の面目は丸潰れ……フフフ」

「お、おいアンタ等……」

「あん?」

 

背後から唐突に話しかけられ銀時が首だけ振り向くと浜面が恐る恐るこちらに歩み寄って来た。

 

「アンタ等一体なんなんだ……こっちのガキはジャッジメントだってわかったけどアンタは……」

「俺はコイツの担任の教師だけど?」

「教師!? え、教師!? 教師ってあの教師? このガキの制服ってあの常盤台だよな!? てことはあの名門お嬢様学校の教師!?」

「何度も言うなよ、ま、おかしいのは自分でもわかってるけど」

「いやアンタが教師だという事も驚いてるけど、それよりなんでジャッジメントとその担任の教師がこんな事やってんだって話だ!」

 

黒子の正体に続き銀時の正体にもかなり驚く浜面だがとりあえずそれは一旦置いといて話を続ける。

 

「これじゃあまるで俺達を助けに……」

「勘違いするなリーダー、俺はただいちごおでんの報酬目当てに来てるだけだ、いちごおでん欲しさに攘夷浪士討伐するだけだ」

「そうですのリーダー、わたくし達はただあそこの攘夷浪士をふん捕まえればそれで満足ですわ。あなた達の事などもはやどうでもいいですの」

「あ、そうなんだ……って!」

 

助ける気など毛頭ありませんと言った感じの二人に浜面は何とも言えない微妙な表情を浮かべるがすぐにハッとして

 

「つーか俺達には人質がいるんだよ! 勝手にこんな事しちまってもしフレメアに何かあっちまったらどうすんだよ! アンタ等は攘夷浪士捕まえればそれで満足だろうが俺達は……!」

「おいおい、さっきのチョビ髭の話聞いておけよリーダー。連中が人質殺すのにまず連中がなにやらなきゃいけないでしょうか?」

「こ、こっから伝令飛ばせばすぐフレメアの学生寮周囲に潜んでいるアイツ等の仲間が……」

「だったらその伝令飛ばす前にシメればいいだけですの」

「……は?」

 

あまりにも単純すぎるその発想に浜面は絶句した。こいつ等そんな手が自分達だけで実現できると本気で思っているのか……?

 

浜面がそんなこと考えていたその矢先……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀時と黒子は既に動いていた。

 

「!」

「消えた!」

「おのれ、やはりあの小娘”能力者”であったか!」

 

突然浜面の視界に銀時と黒子が消えた。

困惑する浜面だがそれ以上に焦っているのは前方の攘夷浪士達。

チョビ髭を始めその周りに立つ攘夷浪士が慌ててキョロキョロと辺りを見渡す。

そして次の瞬間

 

「おらぁぁ!!」

「ぐわッ!」

「なに!?」

 

浜面達のいる地点の後方から木刀で人をぶっ叩いた音と攘夷浪士のうめき声が聞こえた。

辺りを見渡していたチョビ髭は額に汗を垂らしながらバッとそちらに振り返ると

 

「はい次ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「ぐへぇッ!」

「はいもう一人はいりまぁぁぁぁぁす!!」

「おごぉッ!」

「!!」

 

チョビ髭は目の前の光景に驚くしかできなかった。それは彼らの前でポツンと立っている浜面も同様だった。

 

右手に持った木刀で銀時が遠慮なく攘夷浪士達を次々とぶっ飛ばしている。

先程まで死んだ魚のような目をしてやる気のなさそうな姿はもうそこにはない。

雄叫びをあげ木刀を振りかざし、予想外の急襲されて刀を抜く暇もない攘夷浪士達をあっという間に蹴散らしていく。

 

「どうしたどうしたぁぁぁぁぁ! やる気あんのかコラァァァァ!!」

「ぎへぇッ!」

「な、なんなんだコイツ!」

「バ、バカか貴様等! 囲んで一斉に斬りかかれ! 相手はたったの一人だ!!」

 

口元に余裕の笑みを見せつけつつ木刀や蹴りで一人、また一人と潰していく銀時の姿に攘夷浪士の一部が恐怖を覚え始めている。

チョビ髭はパニックになりつつも喉からやっと声を出して必死に指示を叫ぶ。

その指示に銀時の周りにいた攘夷浪士は彼に向かってコクリと頷くと、すぐに銀時を取り囲む陣形を作った。

 

「あり? これヤバくね?」

 

逃げ場のない円型に囲まれてる事に銀時が気付いたと同時に攘夷浪士達は一斉に腰の刀を抜いた。侍の魂と象徴されるその刀を

 

「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

攘夷浪士の一人が叫ぶと同時に銀時を囲む集団は一斉に刀を振り下ろした。

しかし

 

「あれ?」

「え?」

 

振り下ろしたその先にはいた筈の銀時が消えていた。

本来ならこの人数で斬り伏せれば既に目の前の光景は奴の真っ赤な血に染まっている筈なのに……

まるで狐につままれたかのようにキョトンとした表情を浮かべる攘夷浪士一同。

しかしそんな反応しているのも束の間。

 

「あらよっと」

「ん? ぐべぇ!」

「な! 上から!?」

「一体どうやって!?」

 

刀を振り下ろしている攘夷浪士達の頭上から澄ました表情で銀時が降って来た。

囲んでいた一人の頭を思い切り踏みつけてその後地面に着地。

あまりにも理解できない現状にもはや攘夷浪士は混乱するしかなかった。

 

「なぁに驚いてんだ、こんな事ぐらいでびびっちゃ攘夷浪士なんてやってけねぇぞ」

「能力者相手にどう対処するかも考えてなかったんですの? 全くここまで愚かだと逆に笑えますわね」

「あ、あのガキは……!」

「いつの間に……!」

 

混乱が更に混乱を生む。

今度はこちらを呆れたような視線を送りながら立っている銀時の隣に。

彼の着物の裾を掴んだ白井黒子がニヤニヤしながら立っていたのだ。

彼女が能力者だというのは理解していたが、もしや……

 

「それでは行きますわよ、ヘマをしたら承知しませんからね」

「そいつは俺のセリフだクソチビ、久々だから訛ってんじゃねぇか?」

「誰に向かって言ってますの、わたくしが幾度あなたとこういう状況になってると思ってるんですか」

 

銀時の裾を掴んだまま黒子は平然と答える。

 

「さっさと終わらせますわよ、帰ってお姉様との熱い抱擁をしなければならないので」

「いんや、門限過ぎてるしお前に待ってるのはあの”化け物寮監”からの熱い抱擁だ」

「それは言わないで下さいまし……」

「!!」

「また消えたぞ!」

 

会話を済ませると同時に銀時と黒子がまたもや目の前から忽然と消える。

そして

 

「はいこっちぃぃぃぃぃぃ!!」

「ひぎゃぁ!!」

「な! いつの間にこちらの背後を! ってまた消え……」

 

また少しばかり離れた場所にパッと現れて木刀を振りぬいて一人ぶっ飛ばす銀時だが、彼の背中に手だけを置いていた黒子と共にまたシュンと音を立てて消え。

 

「はい今度はこっちぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「んごぉ!」

 

先程驚いていた攘夷浪士の目の前に現れたと同時に銀時は木刀を振り下ろす。

急に現れた敵に周りはどうしていいのか戸惑いつつもヤケクソ気味に斬りかかるが銀時はまたもや黒子と共に消える。

 

「うぐッ!」

 

現れて目の前の攘夷浪士はぶっ飛ばされる、そしてまた消える。

 

「かッ……!」

 

別の攘夷浪士の後ろから現れる、振り下す、消える

 

「ひ! へぐ!」

 

今度は横から現れる、腹にキツイ一撃を食らわす、消える

 

現れる、消える、現れる、消える。

銀時の信じられないその動きに攘夷浪士達はみるみる怯えはじめる。

まるで灯りも点いてない密室の部屋で何十人もの忍びに命を狙われている気分だ。

 

「い、一体どうなってるんだ……」

「あのガキがいれば奴は自由自在に場所を移動できるというのか……」

「ご名答、わたくしの能力は空間転移」

「「!!」」

 

おどおどしながら会話していた攘夷浪士の前に黒子がパッと現れる。

 

「触れたものなら質量限界を超えなければ大抵は飛ばすことが可能ですわ。例えばこうやって」

「「……え?」」

 

いきなり現れ驚く彼等の隙をついて黒子は両手で二人にそっと触れる。そして次の瞬間に二人の姿はパッと消えて

 

「もう一丁こぉぉぉぉい!」

「は! ここは……ってぶれぇぇぇぇ!!」

「ほらもう一丁ぉぉぉぉぉ!!」

「一体どこ……こ、これはがはぁッ!」

「お、新記録だ。あそこまで飛ばせたの初めてだわ」

 

二人が現れた先にいたのは野球のバットを振るフォームで立っている銀時だった。

驚く間もなく彼にフルスイングされる哀れな二人。

おまけに彼等の後も次々と宙を舞っていく。

さながらこれは人間バッティングセンター。

 

「おいマジかよこれ……」

「こんな連中がいたなんて聞いてねぇぞ……」

 

仲間が次々と星となっていく光景にもはや攘夷浪士達の士気はすっかり下がってしまった様子。

 

「ここは一度コイツ等のリーダーの所へ行って人質を殺すと脅そう」

「そうだな、それ以外にコイツ等を止めるには……」

 

その会話も言い終えるウチの終わる。二人の攘夷浪士は視界は突如星の煌めく夜空に代わり。

 

「「あれ?」」

 

空を見上げて自分達が地面に倒れていると理解したと同時に

 

ビスビス!と軽快なリズムと共に二人の衣服に小さな鉄棒が突き刺さっていく。

 

「「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」」

「相談してる暇があると思いましたの?」

 

二人を見下ろして黒子が優雅な笑みを浮かべて立っていた。指の間に鉄棒を挟んだ状態で

 

「今度はコイツを心臓に入れてあげましょうかね?」

「ひ!」

「冗談ですわよ、わたくしもそこまで鬼ではありませんの」

 

拘束され身動きできない状態の二人はブルブル震えて完全に怯えきっていた。

そんな恐怖の対象である黒子の隣に。

先程まで人間バッティングしていた銀時がフラッと現れ

 

「けどこの男はどうなんでしょうね」

「俺……ちょっと”ゴルフ”やった事ないんだけどさぁ……!」

「「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!」」

 

虚ろな目でこちらを見下ろしていた。

人が何人死のうがお構いなしといった感じのオーラを放つ銀時に悲鳴を上げる攘夷浪士。

しかもこちらに向かって今度は木刀を両手に持って上に掲げ

 

「見様見真似でやってみっか、確かこう”タマ”をよく狙って……」

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「すんませんでした! 俺達が悪かったです! だからゴルフ止めて! ゴルフだけは止め……」

 

 

 

 

男の謝罪を受け入れる気なく銀時のゴルフスイングはブンと音を立てて彼等に振るわれた。

 

”タマ”に

 

 

 

 

 

 

 

 

「己が男性だった事に後悔する事ですわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たかが教師とその生徒に今まで築きあげてきた組織が壊滅の危機にさらされている。

二人から少し離れた場所でその現況を目の当たりにしていたチョビ髭はギリギリと音を立てて歯を食いしばっていた。

 

「よもやたった二人にここまで追い込まれることになるとは……!」

「た、隊長……マズいんじゃないんですかコレ……」

 

若い攘夷浪士が縮こまった様子でチョビ髭に話しかけるが彼の耳には届かない。

完全に頭に血が上り先程からもう指示の一つさえ出来ていないのだ。

この状況を打破する策さえ妥協する策は無いか……チョビ髭はその一点だけを考えていると。

 

「もういいだろ、アンタ等の負けで」

「浜面、貴様……」

 

何かないかと必死に考えているチョビ髭に話しかけたのは仲間でなく、使い捨ての道具としか思っていなかった男、浜面。

 

「あんなデタラメな強さ、俺も初めて見た。あんなの相手じゃさすがのアンタ等でも敵わねぇ」

「ぐぅぅぅ……!」

「フレメアを解放してくれ。どうせアンタ等はここでアイツ等に捕まる、今アンタがやるべき事はこれ以上罪を深くする事じゃなく、せめて最後だけでも侍らしく潔よい行動見せてくれ」

「こ汚い野良犬が我々に武士道を説いてるつもりか……!」

 

不思議と冷静に攘夷浪士相手に語りかける事が出来る事に浜面自身内心驚いていた。

圧倒的兵力の差があるにも関わらずバッタバッタと敵をなぎ倒していくあの二人を見て彼の心にも勇気が湧いてきたのかもしれない。

しかし彼の説得に応じずチョビ髭は折れた鼻の痛みも忘れ恐ろしい形相で彼を睨みつける。

 

「人質は我らの手中にある! 奴等に手を引かせろと命令しろ!」

「いやいや無理だって……俺みたいなダメリーダーの命令なんかあの二人が素直に聞くわけねぇだろ」

「やれ! さもないとここからすぐに同志達に連絡を取って……!」

 

遂に腰に差す得物を抜いてジリジリと浜面に近づきながらチョビ髭が一心不乱に叫んだその時。

 

「ん?」

 

彼の前にポトリとペットボトルぐらいの小さな物体が転がって来た。

水筒の様な形アバウトな細い腕が付いて、そしてどことなくやる気の出ない顔が描かれてる謎の人形。

 

なんだコレは?とチョビ髭がしゃがみ込んで手で掴み取ろうとしたその時

 

それは突如カッと赤く光り輝いたと同時

 

 

爆発したのだ。

 

「ぶへぇぇぇぇぇぇ!!!」

「うお! ビックリした!」

 

耳をつんざくようなやかましく派手な爆音

浜面の目の前でモロにその爆発を直撃したチョビ髭は、銀時に木刀で殴られた時と同様木の葉のように宙を舞い再び後ろに吹っ飛ばされた。

その光景には浜面も目を見開いて驚く。

 

「なんだ一体……ていうかさっきのシマりの無い人形どっかで見たような……」

「まぁ、あの人形の顔って浜面をイメージして描いたものだからね」

「あ!」

 

聞き慣れた声と共にコツコツと足音を鳴らして近づいてくる気配を察して浜面は後ろにバッと振り返る。

ウェーブのかかったブロンドヘアーを流しながら彼の仲間であるフレンダが平然とした表情で登場した。

 

「殺さない程度に調整してるから大丈夫って訳よ、楽に殺したらつまんないしー」

「フレンダ! お、お前までアイツ等に喧嘩売るのか!?」

「私だけじゃないよ、半蔵ももう動いてる。あのメガネの巨乳と一緒にフレメアの所へ」

「!!」

 

フレンダどころか半蔵までもとっくに行動を始めている浜面は目をまんまると開ける。

あのやる気のない男が自分に話もせずに自ら動いただと……

 

「結局、私も半蔵もとっくの昔から我慢の限界だった訳よ。だからきっかけが欲しかったの、奴等に反旗を翻すきっかけが」

 

そう言いながらフレンダは浜面の隣に立ち、目の前の戦場に目をやる。

 

「それであの二人の暴れっぷりを上から観察してたら遂に火が付いちゃった訳。特にあの銀髪の方を見るとね」

「ああ、俺もマジですげぇと思うよあの人は……」

 

ヤケクソ気味に襲い掛かってくる攘夷浪士達に対し、銀時は木刀で殴り、蹴りで一撃昏倒、黒子と協力してテレポートからのゲリラ襲撃。そしてあの攘夷浪士どころか高能力者でさえ腰を抜かしてしまうのではないかというような凄まじい形相。

 

「テメェ等それでも侍かぁぁぁぁぁぁぁ!!! 逃げずにかかってこいオラァァァァァァ!!!」

 

攘夷浪士の一人の胸倉を掴んで雄叫びと共に頭突きをかます銀時を見ていた時、隣に立っているフレンダが静かに呟く。

 

「さて、結局も私もそろそろ出番って訳ね。あの銀髪と常盤台の子も中々だけど、私だってこの日の為に蓄えてきた”おもちゃ”があるし」

「え!? お前が行っちまったら誰が俺を護るの!? 正直今も足が震えてまともに立ってる事も精一杯なんだけど!? お願いここにいて! 俺を護って!」

「……結局浜面は情けないままって訳ね……」

 

この燃え上がる状況の中で情けない声を出す浜面にフレンダは呆れたようにジト目を向けた後、ハァ~とため息突いた後。

 

「じゃあアンタはどっかに隠れてて、攘夷浪士に狙われる事じゃなくて、私のおもちゃで巻き添え食らわないように隠れてね」

「巻き添えって!? お前一体どこまでやる気……」

 

フレンダの物騒な忠告に恐る恐る浜面が尋ねようとした時には彼女の戦闘準備は始まっていた。

 

「貴様はあの浜面とかいう男に常についている小娘……」

「あの化け物共は無理でもこんなガキなら俺達で……」

「は~いみなさん」

 

目の前に立ち塞がる攘夷浪士を前にして彼女は突如自分のスカートに両手を突っ込むと。

 

「ちょっと私のおもちゃ遊びに付き合ってくれる?」

 

一体小さなスカートのどこに収納されていたのか

 

彼女の両手だけでは収まり切れないほどのあのマヌケな顔をした人形型爆弾が出てきた。

 

「これはね~、私のお友達の”ジャスタウェイ”」

 

爆弾の名を周りに聞こえるように言った後、フレンダは呆気に取られている攘夷浪士達にニッコリと笑って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その威力、テメーの体で味わってみやがれって訳よ♪」

 

 

 

 

 

 

その瞬間大きな爆音が重なって鳴り響いた。

 

攘夷浪士達の悲鳴と共に

 

 

 


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