禁魂。   作:カイバーマン。

67 / 68
第六十七訓 お前は誰だ

 

黒夜海鳥の能力は窒素爆槍。

手から放つ窒素を鋭き槍と化し、分厚いコンクリートでさえも風穴を開ける事の出来る戦闘特化型能力。

 

しかしそれには弱点がある、放つ箇所が手だけだという事だ。

 

つまり黒夜の能力は同時に二つしか放つ事が出来ない、それならばギリギリのタイミングで避けて距離を詰め、カウンターをお見舞いすれば勝機はあるのかもしれない。

 

だがそれは彼女の腕が二本だけの話である。

 

今彼女の周りには無数の「腕」が空中にばら撒かれたまま、こちらに手の平を向けていた。

 

「オイオイマジかよ! 洒落にならないだろさすがに!」

「あなたはあの子を連れてさっさと逃げて」

「え?」

 

黒夜はまるで自分の腕を扱うかのように自分を取り囲む腕を操っている。どういう原理かはわからないがアレもまた彼女の体の一部の様なモノらしい。

 

身構える上条ではあるが、隣に立っていた信女は彼の肩に手を置くと

 

「私がしばらくアレを惹きつけるから」

「おい待てよ! あんなの一人で食らったらさすがに刀一本で防ぎきれるレベルじゃ……!」

「勘違いしない欲しい、あなたの事を気遣ってるんじゃない、あなたがここにいたら私の邪魔になるから」

「!!」

 

相も変わらず無表情でそう言うと信女は少々強く上条の肩に力を入れて横に飛ばす。

そしてその時、黒夜が使役している大量の腕が一斉に光り出す。

 

「鬼ごっこはお終い、お次はシューティングゲームだァ!」

 

無邪気に笑みを浮かべながら黒夜はピッと本来の自分の腕を信女に向けた途端、周りの腕と共に勢いよく窒素の槍が放たれる。

 

 

異様な光景であった、飛行船からそれを見ていた坂本も吐き気を忘れて呆然とした表情でそれを見下ろす。

 

何十、いや何百本もの槍が同時に前方に向かって発射されていくのだ。

 

「アレが能力者、ほんにわし等と同じ人間なんか……?」

 

能力者の戦いを間近で見る機会はなかった坂本にとってはそれは映画でも見る様な感覚にも思えてしまう、しかしコレは映画でもなくアニメでもない、正真正銘現実の光景だ。

 

「いつ……!」

 

間一髪で信女に横に飛ばされて、直撃は免れた上条。転びつつも幸い槍はギリギリ避けられたが

 

「チィ!!」

 

避けれたといってもこちらに逸れて飛ぶ槍は難十本もあった。上条は目を動かしながら一本一本右手で打ち消そうと奮闘するのだが

 

「ぐぅ!!」

 

突然膝に激痛が、恐らく躱しきれなかった槍が膝を貫いたのであろう、しかし今の上条には患部を見る暇もない。

一本一本が、天から落ちる雨の様に一気に押し寄せてくるのだから

 

「これがレベル4……!? レベル5の間違いだろ!」

 

膝から来る灼熱の痛みに身悶えしたい衝動を無理矢理抑え込む為に上条は必死に奥歯を噛みしめる。

なんとか急所だけは当たらぬ様、最悪急所以外であれば刺さっても構わないという気構えで上条はなんとか右手で打ち消していく。

 

(何時になったら終わる……)

 

数秒程度の事が数時間にも思えるぐらい槍の攻撃は収まらなかった、もはや痛みは膝だけではない。顔を掠めた箇所、右肩、左腕、様々な場所から痛みが連鎖反応するかのように発生しだす。

 

そしてようやく槍の攻撃は終わった頃には

 

「フゥー……! フゥ……!」

「あらら、どうしたのボク? 大層な台詞ほざいてた割にはその程度なんでしゅか~?」

 

倒れそうになりながらもなんとか意識だけは保つ上条、猫撫で声で黒夜が挑発しているみたいだがその言葉を聞く余裕もない。

息を荒げながらなんとか呼吸を整えようとしながら、上条はふと横の方へ目をやると

 

「!」

「しかし意外だな、二人揃ってまだ立っていやがったとは」

 

黒夜が少々面白くなさそうな表情をしているが上条は驚いて目を見開いていた。

上条になるべく標準を向けられないよう吹っ飛ばした張本人である信女もまた傷だらけでありながら立っていた。

右手に長刀、左手には脇差を携えて

 

彼の様に異能の力を打ち消す右手もあるわけではない、更に攻撃の余並程度しか食らってない上条と違って彼女は正面からモロに直撃したはずだ。まさかその手に持つ長刀と脇差だけで攻撃をなんとか防いだというのだろうか

 

しかしそのダメージは見た目以上に深刻だったようだ。

 

「く……」

「っておい! 大丈夫かアンタ!」

「あ~あ、やっぱ普通の人間じゃ無理だったか~」

 

体に風穴は開いてないモノの、体中のあちらこちらに切り傷を作り頭からもかなりの血を流している信女。

表情に変化は無いものの、遂に彼女は立っていられるのも限界だった様子で、その場に片膝を突いてしまう。

 

自分の痛みも忘れて上条はすぐ様彼女の下へ駆け寄る。

 

「オイしっかりしろよ! ていうかさっきなんで俺を突き飛ばして自分を囮にする様な真似を……!」

「……いいから逃げて」

「バカ野郎! こんな状態のアンタを置いて逃げれるか!」

「あなたはもう……いや」

 

自分もまたボロボロの状態にも関わらず信女を気遣い、この場から立ち去れという再々の彼女の命令も頑なに拒否する上条。

そんな彼に信女は何か言おうとするがすぐに躊躇し、続きの言葉を口の中に飲み込む。

 

そしてそんな状況下でも黒夜の攻撃は止まらない

 

「第二ステ~ジ」

「!」

「両端をご覧くださァ~い、あなた方の最期を彩る豪華絢爛のプレゼントが今すぐお出迎えしァま~す」

 

バスのガイドでもしてるかのように流暢に語りながら黒夜の持つ大量の腕はいつの間に自分達を囲む様に両端に設置されているではないか。

 

「それでは発射オ~ライ♪」

「デタラメ過ぎるだろ!」

 

今度は両端から自分達を挟み撃ちにする為に分散させて来たではないか、上条は信女に肩を貸しながらなんとか立ち上がらせる。

 

「お互い健在なら背中合わせてなんとか防ぎ切るって手もあったんだけどな……俺一人じゃ前は打ち消せても後ろは……」

「とんまァァァァァァァァァ!!!」

「坂本さん!」

 

信女はまだ回復しきっていない、今すぐにこんなものを発射されてはもう打つ手は……

しかし困り果てた上条の下へ空から坂本が雄叫びを上げながら飛行船を巧みに操作して近づいていく。

 

「船の代金はいずれおまんに払ってもらうからの!」

「な!」

「男・坂本辰馬! ヤマトとと共に行っきまーす!!」

 

そう叫びながら坂本は飛行船を操作して黒夜が両端に配置した大量の腕がある片方目掛けて一気に突っ込む。

 

「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「チッ、あのゲロ吐き野郎が……!」

 

能力を放つ事は出来るが腕そのモノの力はあまりない様子。飛行船が直撃すると、そのまま船と共に腕も一緒に下に落ちて行ってしまう。

 

「わしが出来る事はこれぐらいじゃ、後は頼んだぜよ”当麻”」

「アンタって奴は……チクショウどいつもこいつも無茶振りしやがってぇ!!」

 

ゆっくりと墜ちていく際に運転席からこちらに敬礼して腕と共に消えていく坂本。

そんな彼に感謝しつつ上条は信女に肩を預けたまま撃墜されていない残った腕の方へ右手を突き出しつつ。

 

「それもこれもテメェのせいだクソガキィィィィィィ!!!」

「テメーから首突っ込ンだクセに被害者ヅラすンじゃねェボケ!!」

 

こちらに向かって特攻に近い形で一気に突っ込もうとする上条だが、信女に肩を預けているので思った以上に早く進めない。

黒夜は反論しつつ、指をパチンと鳴らす。

すると側面からまたもや大量の槍が

 

「せめてこの人だけでも……! ふぐぅ!!」

「いい加減死ねよテメェ、目障りなんだよ」

 

冷たい言葉を上条に浴びせながら黒夜はフンと鼻を鳴らす。

坂本のおかげで片方から発射されなかったが、やはり自分目掛けて飛んでくる槍を右手一本で防ぐには限界がある。

 

身を挺して信女に当たらぬよう庇いながら、上条は回避と右手を使いながら懸命に耐え切ろうとする。

 

既に片膝だけでなく両膝がモゲたかのような痛みも走っている、立つ事でさえ苦痛だ。

 

そして長い攻撃が終わった時にはもう

 

「いっつぅ……じゃ済まねぇなコレ……」

 

自分が生きてる事さえ不思議に思うぐらい体はもう限界に達していた。

未だかつてここまで手痛い目にあった経験は無かった、あの朧との修行の時でさえ死ぬ様な目には遭ったものの、自ら死を覚悟するぐらいまでの重傷を負わす事は彼はしなかった。

 

正真正銘の殺し合い、義理人情など無い純粋に多大の血を奪い合う。

コレが学園都市の真の闇なのだと意識が遠のく中静かに悟る。

 

そして遂に上条は力尽き、信女を抱いたままバタリと地面に倒れてしまうのであった。

 

「く……」

「なーンだ、その右手がなンなのか知りたがったが、これしきの事で死んじまうならいらねェや」

 

こちらは立つ事さえ出来ない重症、一方黒夜は全くの無傷。

勝利を確信した黒夜はやれやれと首を横に振りつつ、ふと自分の真横で倒れている吹寄が視界に入った。

 

それを見て黒夜はまたもや面白い事考えたと言った感じでニヤリと笑みを広げる。

 

「そういやこの女を人質にしたせいで余計なモンまで出て来やがったンだよなァ、じゃあ私はコイツのせいで無駄な力を使っちまった訳だ」

「……」

「ならコイツには私に無駄な時間を費やせた責任を取ってもらわンといけないねェ……」

「!」

 

未だ目を覚まさない吹寄に目をやりながら黒夜が何か言っている事に気付くと、上条は薄れる意識を無理矢理起こさして顔を上げる。

 

その時彼が見た光景は

 

無数の腕が横になっている吹寄目掛けて手の平を向けていた。

 

「や、止めろ! そいつは何も関係ねぇだろ! 俺が気に食わないなら俺を!」

「あァ気に食わないよ~、だからオマエの前でテメーの女を殺したらどンな顔するか見ておきたいンだよ、この女が真っ赤な肉片だけになったらオマエはどうなる? 怒るか? 悲しむか? それともいっそ狂ってしまうか? さてさて一体どうなるのやら楽しみで仕方ないよぉ~」

「チックショウ! 動け! 頼むから動いてくれ!」

 

もはや声さえ出す事も辛い、目の前で吹寄が彼女にとって串刺しになりかけているというのに、上条は動けない己自身に腹が立って仕方なかった。

 

全身がズタボロ、立つ事も出来ない自分にどうすれば彼女を救えるのか。

 

(これで本当におしまいなのかよ……目の前の女の子一人助けれずにこのまま……ん?)

 

そんな事を考えながら上条は自分の横で起き上がろうとしている信女に気付く。

彼女もまた上条と同様重傷を負っているのだがまだ諦めていない様子、しかし起き上がろうとする途中でまたもや力尽きてガチャンと手に持っていた刀を落として倒れてしまう。

 

「……私はまだ負けていない……」

「アンタ……」

 

まるで自分に言い聞かせてるように呟く信女に対し上条が何か言おうとしたその時、彼は目の前にあるモノが落ちている事に気付いた。

 

それは先程彼女が落とした刀の内の一本、脇差し。

 

「……刀」

 

その刀を見て上条は何か奇妙な気持ちになった。

 

(なんだこの感じ……刀なんざ扱う事さえ出来ないのに……)

 

朧は色々な戦闘技術を教えられたが唯一刃物を扱う修業はしてくれなかった。

ゆえに上条は刀など使えるどころか握った事さえない。

 

(なのになんでこんなに懐かしく思えるんだ……この感情は本当に「俺」のモンなのか……?)

 

しかし何故だろうか、上条の右手は自然とその刀の方に吸い寄せられるように伸びていた。

 

もはや指一つまともに動かす事さえ出来ない状態であったのに、まるで「別のナニか」が勝手に自分の体を動かしているような感覚が……

 

(これを手に取ったら「俺」はどうなる……)

「!」

 

自分の刀に手を伸ばそうとしている上条を見て倒れたままの状態で初めて信女の表情が変わった。

目を見開き、ヤバいといった感じで彼を止めようとするが

 

「駄目……! く!」

 

しかし体が動かない、その事に本気で焦っている様子でいる信女をよそに

 

上条の右手はみるみる彼女の刀に手が届いて……

 

(どうなったっていい……)

 

ガシッと力強くその鞘を握り締めた。

 

(吹寄さんやこの人、それと坂本さんも護れることが出来るなら……)

 

 

 

 

 

(「俺」を捨てて「私」になろうが構わねぇ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれと同時に、黒夜は倒れている吹寄をニヤニヤと眺めながらこの状況をいかに楽しめるか考えていた。

 

「ンーいっそこの女を起こしてこの絶望的な状況を見せてやるってのもありかな? なァどう思うそこの……」

 

ニコニコしながら今頃くたばっているだろう上条の方へ振り返ってみる黒夜、だが

 

「……どういう事だ」

 

彼女の笑みが一瞬で消えた、何故なら今そこで血まみれになって倒れていた筈の上条がそこにいなかったからだ。

そこにいたのは何故か絶句した表情で固まっている信女ただ一人。

 

あの状態の体で満足に動けるはずがない、黒夜は一体何処へ行ったのかと周りを見ようと思ったその時

 

「!」

 

突如吹寄に向けて放とうと準備していた大量の腕がズバズバッと目の前で斬り刻まれていく。

咄嗟に腕を使おうとする黒夜だが、彼女が気付くころにはそこにあった数十本は残っていた腕があっという間にざ残骸となり地面に落ちていく。

 

「ふざけンな、コレは一体……!」

 

何が起こっているのか理解出来ないでいると、スクラップと化した残骸の奥からキラリと何か輝く物が見えた。

 

黒夜が反射的にそちらに視点を向けた瞬間

 

「!?」

 

光っていた物の正体、それは信女が持っていた筈の脇差しの刃であった。夕日に照らされ輝くその刃はまっすぐとこちらに向かって来る。

 

「どういう事だ!」

 

自分が扱っていた他の腕達はまだ残っている、すかさずまたもや数十本の腕を背後の方で浮かせてそちらに目掛けて構えるのだが

 

黒夜が瞬きした間に、彼女の背後にあった腕達がまたもや一度に細切れにされてしまった。

 

「どういう事なンだよ! あァ!?」

 

何かとてつもなく嫌な感じがする、黒夜は義腕ではなく二本の腕を突き付ける。

 

こちらに刀を光らせたまま突っ込んで来る一人の少年に向かって

 

「死にかけだったオマエにどうしてこンな事が出来るンだよ!!」

 

額から焦りによって流れる汗を感じつつ黒夜が叫んだ相手は

 

先程まで瀕死の状態だった上条当麻だった。

彼は目を髪で隠しながら、右手に脇差しを持ったまま黒夜目掛けて駆け寄っていき、そして

 

「バカが! この近距離じゃもう避けれ……!」

 

窒素爆槍を避け切れない位置にまで突っ込んで来た彼をあざ笑いながら黒夜は両手から能力を発動しようとするが、何故か窒素の槍は上条に放たれなかった。

 

何故なら彼女が攻撃しようとしていたその時点で、既に彼女の両腕は他の義腕の様に宙を舞っていたのだから。

 

「がァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

自分の両腕が切断された、あまりの痛みに悲鳴のような叫び声を上げる黒夜の元に

 

脇差しに彼女の血を滴らせた上条がすぐ目の前に現れる。

 

「……」

 

刀を振った動作さえ見えなかった、この動き、完全に人間の域を超えている。

 

そして黒夜は積み重ねた戦闘経験をもとに本能的に悟る。

 

既にもう自分は狩る側ではなく

 

狩られる側なのだと

 

「なンなンだテメェはァァァァァァァ!!!」

「……」

 

黒夜の雄叫びに上条は何も答えない、その代わりに右手に持った脇差しを

 

「ぐわぁぁぁぁぁ!!!」

 

彼女の右肩に深々と突き刺し、そのまま自分が馬乗りになった状態で地面に押し倒す。

 

「コイツは一体なンなンだ……! どうしてそンな体で……!」

 

上条に馬乗りにされたまま黒夜は彼の身体を観察する。

どう見てもまともに動ける状態の体ではない、C級映画のゾンビじゃあるまいし一体どうやって……

 

その時、黒夜はハッとした表情で思い出す。

学園都市の闇の奥深くには本物の怪物がいる。

どんな異能の力も通用せず

重傷を負おうがはたまた首を刎ねられようが

何事も無かったかのように蘇る「真の怪物」がいる事を

 

(もしかしてコイツがその……!)

 

黒夜が彼の正体がなんなのかわかろうとしたその時……

 

「ぶふぅ!!」

 

彼の振り下ろした右手による拳が彼女の顔面に振り下ろされた。

鼻の折れる音と前歯が数本欠ける感覚と共に

 

彼女はガクッと意識を失い、動かなくなった。

 

「……」

 

鼻と口から血を流しながら倒れている彼女を前にして、上条は彼女に突き刺してた刀を引き抜く。

 

そして右手に持ったその刀をゆっくりと彼女の首に……

 

 

 

 

 

 

「何やってんの上条……」

「……」

 

黒夜の首をそのまま刎ねようとした時、彼の背後から問いかける声が飛んできた。

どうやらこの騒動の中でようやく吹寄の意識が戻ったらしい。

変貌している彼の姿に戸惑いを隠せない吹寄、上条はその声を聞くとピタリと動きを止める。

 

「どうしてそんなボロボロに……それに貴様が押し倒してるその子……私がトイレに行こうとした時に突然店内で騒ぎだした子でしょ……一体何があったのよ……」

「……」

「と、とにかく早く病院行かないと貴様の体が! って上条何をするつもりなの!」

「……」

 

ずっと気絶していたので何が自分達の身に起こったのか混乱しているものの、上条が重症なのに気づきそちらを優先しようとする吹寄。

だがそんな彼女をほおっておいて、上条は再び倒れている黒夜に向けていた刀を動かそうとする。

 

「上条止めて!」

 

彼が倒れている少女にトドメを刺そうとしている事に気付いた吹寄は起き上がって止めようとする。

だがその前に彼女の前にバッとある人影が遮り、上条の背中に覆いかぶさる様に彼を抱きしめた。

 

 

 

 

 

「もういいのよ……」

 

上条を力強く抱きしめたのは、彼と同様かなりの手傷を負っている信女であった。

どうやら彼を止める為に渾身の力を振り絞って這いずりながらここまで近づいて来ていたらしい。

 

「”あなた”はもう、血の付いた刃を持たなくていいの……」

 

額から流れる血も吹かずにただ彼の耳元に語りかけるように言葉を繋げていく信女。

その光景に吹寄が目を奪われて固まっているのをよそに、信女は上条を一層強く抱きしめながら

 

「もう誰の命を奪う必要もない……それがあなたの望んだ道だったんでしょ、だから私は止める……」

「……」

「もう誰も……あなたに殺させやしない」

 

その言葉が彼の奥底にある何かに届いたのか、上条の右手に握られていた脇差しが静かに地面にチ音を立てて落ちた。それと同時に上条も糸が切れた人形の様にガクッと首を垂れる。

 

薄れる意識の中でそれを確認した信女は彼の背中に頭を乗せたまま

 

「それが”吉田松陽最後の弟子”である私の役目……」

 

最後に呟くと彼女もまた完全に意識を失い共に倒れる。

 

 

かくして黒夜海鳥との戦いは波乱に満ちた結果で幕を閉じる事となった。

 

 

勝者が一体誰なのか、それは誰もわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教えて銀八先生

 

「はいじゃあまず最初に言っておきますが今回でこのコーナー最終回です、理由は最後にわかりまーす」

 

 

「ではまず一通目「八条」さんからの質問」

 

『飛行船でなくても銀魂の世界のように空飛ぶ車(原作銀魂第1話で銀時と新八がお妙を追いかける為に警察の方のパトカーを拝借?して追いかけたあの空飛ぶパトカーのこと。いつの間にか消えてしまった設定ですが)で追いかけても良かったのでは?』

 

「えー確かに銀魂の世界では空飛ぶ車もあります、後半から全く見かけなくなったけどね」

 

「ではお答えしましょう、この禁魂における学園都市には空飛ぶ車は存在しません」

 

「基本的に外と隔離された街なので、おいそれと簡単に囲いを飛べる乗り物使われては困るからです」

「ゆえに飛行船みたいなモンをポンと買える金持ちであり、なおかつ特殊な技術や資格を持ってる者でないと学園都市の空を飛ぶことは許されていないんです」

 

「第二通目「たまじ」さんからの質問」

 

『この小説での地球の歴史はどうなっているのでしょうか?幕末と言えば、イギリス清教のある英国はバリバリの帝国時代だったりしますが』

 

「お答えします、イギリスも色々と変わっているので本来……あーモノホンの歴史とは随分と違う状況になってます」

 

「だってそもそも幕末に宇宙人が来てんだよ? そりゃ他の国もおかしくなるからね絶対?」

 

 

 

「という事で銀八先生のコーナー終わり、ああそうそう最後に一つ」

 

 

 

 

「銀八先生のコーナーだけじゃなくてこの作品も次回で最終回だから」

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。